ゴキブリ

ゴキブリのぼやき

 僕らはもう何億年もここに生き続けている。それは恐竜の時代からか、遥か昔から。ただ一つの昆虫と言う生き物で。こんなにも姿形を変えることなく、こんなにも長く繁栄している生き物がほかにいるのだろうか。樹々はそうである。
 僕らはひっそりと地面の片隅や隙間に隠れるように生きてきた。生き物として当然に、より住みやすいところを探しながら移りながら。
 そうやって、ある日、ある異星人がここに降り立ち、住まいをズカズカと作っていった。そのもの達は、今までなかった概念を作っていった。これは善だ、これは害になる、これは、気味が悪い・・・。そういった風に。
 僕らはそのもの達にわりと近い場所に住むようになった。なんでかって? 住みやすいからだ。食料もたんまりとあるからだ。その者達にとっては”ゴミ”になるものは、僕らにとっては、良いもので、そういうことでこの自然は回っていた。はずなんだ。
 けれど、彼らはなぜか、本当に僕には一向理解できないのだが、彼らは僕らにとっては、全員が殺戮兵士になる。無差別殺害の牙を鋭く素早く、ぼくらに向けてくる。悲しい。ほんとに悲しい。僕が一体何をしたのだろう? 僕は分からないまま居なくなる。
 それでも、そのもの達が現れたと同時にあった格闘は今も続いて、より熱を帯びて攻撃してくる。何億年も命をつないできた僕らには、急な出来事だ。けれど、その怒濤の攻撃・罵声に、僕らは負けずに生き続ける。
 彼らはそれが気に食わない。だからどんどん新たな化学兵器を編み出してくる。僕らは見つからなくても、それを無防備に浴びるほかない。友は、両親は死んでいった。僕らは泣き叫ぶ。けれども、それは聞こえない、響かない。僕らに、種という命の尊厳は彼らにとっては一切ないらしい。悲しい。
 無条件に悪なんだ。そんなものはありもしないのに。時折見るんだ。「これがあれば、あいつらは(つまり僕らのことだ)逃げる暇なくイチコロだ」と。これは僕には恐怖でしかない。彼らにとっては、僕らを抹消することは至って、それこそ表情一つも変えずに当たり前で、僕らを殺戮することに一切の感情はうごかないようだ。それが一番恐れていることなんだ。
 けれど、彼らを観察していると、僕らよりもずっと窮地に立たされているように思える。現れてたった数秒で、もう絶望が渦巻いているのだから。僕は昆虫という生き物で、他の友や微生物の仲間と話し合ったりする。皆、同じ扱いを受けている。そこからそのもの達の姿が見えてくる。だから僕らは彼らそのもの達のことをよく知っている。けれど、彼らは、僕らの一体何を知っているのだろうか・・・。
 それに想いを巡らすと、彼らの生き物たちの向き合いのゆがみが、僕らだけでなく、彼らが可愛いという身近な動物にも及んでいるように感じてしまう。それは本当に悲しく、そして彼らの狭さを可哀想に思えてくるときがある。そう思う今日もどこかで・・・。
 そして僕らは思いもせずに、力が備わってしまっている。彼らとは反対に。

ゴキブリ

ゴキブリ

ゴキブリは自分たちの歴史を振り返る。 そして、新たな住処で起こっている、異様さについて、語る。 それは自分たちは常に訳も分からぬまま悪で、迫害を受けていると。 しかし、迫害を受けている自分たちよりも、加えている人のようが、窮地に立たされているように感じている。 ゴキブリの想いをつらつらと語る噺。

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • ミステリー
  • 時代・歴史
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-08-24

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