あの夏のことを

 夏の終わりに感じたこと。私たちが消し去ってはいけないこと。


 また、いつの間にか、夏が過ぎていく

 陽が短くなって
 君の笑い声はどんどん遠くなっていった


 目を閉じて
 記憶の中の降りしきる蝉時雨に耳を澄ませた


 かつてその鳴き声にかき消された

 声にならない声があった
 誰にも知られることのない思いがあった


 また同じように、これまでの多くの夏と同じように
 今年も夏が過ぎていく

 きっとあの夏は少しずつ忘れられていくのだろう


 だけどただ、目を閉じて
 夏がまたやって来る度、想いを馳せる

 蝉が死んだ夏のことを
 70年前の夏のことを

あの夏のことを

あの夏のことを

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-08-23

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