箱根強羅ホテル

6/4・5 『箱根強羅ホテル』 新国立劇場

作=井上ひさし

演出=栗山民也

出演

加藤清治(外務参事官)=辻 萬長

山田智恵子(ロシア人学校教師)=麻美れい

三浦彰(アイロン・ミシン係)=酒匂芳

国枝茂(植木係)=内野聖陽

岡進太郎(靴磨き・修理係)=段田安則

稲葉定一(アイロン・ミシン係)=大鷹明良

坪井広三(靴磨き・修理係)=藤木孝

前川玲子(ランドリー係)=中村美貴

中野朱美(同上)=吉田舞

広沢節子(同上)=平沢由美

秋山テル(ホテル管理人)=梅沢昌代

内野さんのフアン倶楽部が出来て最初のチケット扱いがこの『箱根強羅ホテル』だった。この作品へ出演されると聞いたときまずチケットが取れるだろうか・・・?と心配したのだがお陰さまで楽にチケットを入手できてとても有難かった!

新国立劇場は『欲望という名の電車』で訪れて以来・・・、もう何年になるだろうか? 建物はまだ新しく敷地内には色んなホールが有るらしくかなり広い。その敷地の中央にある浅い池のほとりを廻ると見覚えのある中劇場にの入り口が見えてきた。

舞台の造りは菱形のように真ん中が尖った型、それを中心に上手側にオケボックスがあり下手側は客席に向かってエプロンのように突き出している所がある。

下手の壁の高いところに丁度学校の体育館に有るような窓が見えそこから明りが差し込んでいる。舞台奥にはその窓の辺りから部屋へ降りてくる直角に曲がったコンクリートの階段があり、両サイドの壁にそれぞれ3個づつ部屋のドアが見えていて、これから登場してくる怪しき従業員達の部屋に割り当てられる(笑) 舞台上にはやや下手よりにテーブルが置かれ部屋の隅やあちらこちらに白いシーツがかけられた椅子や荷物らしきものが見え、上手前方にはスノコ状の長椅子が置かれている。ここは休館中の箱根強羅ホテルの地下室らしい。音楽と共に舞台が始まるとドンドンという音が聞こえここの管理人秋山テル(梅沢昌代)が階段のすぐ上手側のドアを開けて登場し、ドアをノックして外務省の加藤(辻萬長)が訪れこのホテルへロシア大使館員とその家族を疎開させるから従業員を集めて欲しいと要請、食事係や掃除係はスパイが紛れ込む恐れが有るので大使館の職員がするから今回必要な職種は洗濯係・靴磨き・そして植木係・・・。やがてその従業員達が勢揃いし仕事の内容やら部屋割りの説明が始まるが靴磨き係りの岡(段田安則)は極端な近眼で物に躓いたり・・・、段田さん牛乳瓶の底のようなメガネをかけてヨロヨロと歩く演技が素晴らしい(笑)他にアイロン係の三浦(酒匂芳)は黒メガネをかけているがメガネを取るとやぶ睨みで(笑)・・・ズボンは短くて足首がかなり見えているし、もう一人アイロン係の稲葉は片方の目が見えないと、なんだか目が悪い人ばっかりだ?!(^^) 靴磨きの坪井(藤木孝)は長く図書館務めで字を読むのは好きなのですが、と女形の如く膝をくっつけてシナをつくりくねくねとしながら女性的にものを言う。植木係の国枝だけがまだ姿を見せない・・・。

そこへ従業員のロシア教育の為に雇われた山田智恵子(麻美れい)が登場、「ウオッカソング」を歌い始める。麻美さんは薄い紫色のロングドレススーツにベレー帽を被っている。すらっとしたスタイルのいい身体にとてもよく似合って入るが、戦時下という時節柄、他の女性達が皆もんぺ姿なのにこのモダンな格好は如何に先生でもハーフだとしても少々違和感が有った。そして最後までロングスカートだったが階段に座って歌う場面が有るのだから、もんぺではなくてもせめてパンツにすれば良いのになぁ、と思いながら見ていた。この舞台で使われた多くの挿入歌はクラシックの楽曲等に井上さんが歌詞をつけられたとかで良く知られた曲が多いしいが、クラシックに疎い私には残念ながら知らない曲ばかり・・・、(歌の題名はパンフより)  知っていたのは高峰三枝子の「湖畔の宿」位かな・・・(笑)  加藤が千恵子は日本人の男性とロシア人の母との間に生まれた混血児だと紹介し、従業員もそれぞれに自己紹介をし、皆で「みんな人間よ」の合唱が始まるが、歌の途中で植木係の国枝(内野聖陽)が遅くなりました?と登場?!髪は短くて職人らしく半纏を着て籠を背負い地下足袋を履いている・・・似合うぅ―(笑) 内野さん、最近は長髪ばかり見て来たのでGI刈りのような頭がとても新鮮に見える(^^) 合唱に国枝も加わるが内野さんの声はとりわけよく響く! チョッと気になったのだがもしかしてマイクを付けていた・・・?

夜皆寝静まったホールに洗濯係の少女3人が現れ箱からパジャマを取り出すがテルに見咎められる。少女達は死ぬ前にパジャマというものを着て見たかったと懇願し、テルは従業員全員にパジャマをプレゼントするが、一人坪井だけが古新聞が欲しいと言う。ここで「まかふしぎなパジャマ」の合唱・・・、だがここで国枝が間違っていると文句を言い始める。沖縄で戦っている少女達の事・・・そして「勝利の日まで」を合唱・・・、これは聞き覚えが有るな(^^♪ 夜中に国枝がウロウロしている所へ坪井が現れ沖縄の少女の事を何処で聞いたかと詰問するが誤魔化す国枝・・・、二人ともなんかおかしいよ。

加藤が智恵子にこのホテルがロシアとの和平交渉の舞台となると打ち明け話をしている途中に入れ替わり立ち代わり従業員が現れる。なかでも坪井はどうやら夢遊病らしい!本土決戦を唱える陸軍の介入は阻止しして和平を実現したいと言う加藤、だから従業員の経歴は厳重に調べたが坪井の夢遊病だけは判らなかったと言うと智恵子は鼻の下に2本の指を当ててピッと弾く国枝の癖が気になると国枝の経歴を聞く。この間に下手の天井から岡が、上手の天井からは国枝がロープにつかまり降りてくるが途中で又二人が現れたので降りる事も出来ずにロープにつかまったまま止まっている(笑)この時内野さんは腰に消防隊員が使うようなワッカを取り付けそれにロープを絡めて足でバランスを取りながらぶら下がっている。内野さんの方ばかり見ていたので段田さんがどのように降りてきたのか判らなかったが恐らく天井まで達する鉄の棒が立っていたからそれを伝ってまるでトートのようにスルスルと降りてきたのだろうか?(笑)

加藤は国枝の経歴を話し大丈夫だと二人がそれぞれの部屋に引っ込むと下へ降りてきた岡と国枝の探りあいが始まる!お互いに質問するが「教えないっ!」・・・、では暗合歌が歌えればと・・・

♪お酒はぬるめが・・・タララッ ♪肴はするめが・・・タララッ?(爆笑)  まるで八代亜紀さんの「舟歌」のような歌詞で始まった内野さんと段田さんの掛け合いがとても可笑しい?!段田さん、吹いてたよ―(^^ゞ  ところが終り頃になると稲葉が出てきて合いの手を入れながら歌詞が違うと文句を言う!なんとこの稲葉が暗号歌の作者だと、しかも階級は二人よりも上だった。3人が力をあわせてこのホテルを爆破することを確認しているところへ海軍だと言う三浦までが加わる。草むしりの間に自転車ポンプを使って爆破するが計画を確実にする為に暗号歌を「湖畔の宿」に変更すると稲葉が言い、4人が整列して歌いだす・・・♪山の淋しい湖に・・・チャチャッチャ・・・もう??ここでも大爆笑! ところが子供の作文を読み出した国枝の様子がおかしくなり智恵子が母違いの弟の事を語り始め、小さい頃に弟に歌ったという子守唄を歌い始めると国枝が共に歌いだす・・・、どうやら智恵子と国枝は姉弟らしい。 この時の内野さんの歌がとても柔らかくて優しくて今まで聴いてきた歌声とは全然違う!麻美さんとのハーモニーもとても良くて聴き入ってしまった。そして歌いながら後ろ向きに座ったまま階段を上がって行き最後に姉のびざにガバッと顔を伏せた所で1幕が終わった。

幼い頃からずっと一人ぼっち、他人の家や施設を渡り歩き、孤独で寂しい人生を送ってきたに違いない国枝にとってパッと光が差し込んで来た様な瞬間だっただろう。顔をうずめた膝は肉親の暖かさを初めて感じたのかと思うと胸がキュ―ンとなった。でも表情がスゴク可愛らしい弟振りだった!(^^)

2幕は岡が管理人の部屋から一升瓶に入ったマムシ酒をせしめてくる所から始まったが三浦はマムシは見るのも厭だと言う。その訳は海軍がマムシを50万匹集め湘南海岸へばら撒いて米軍が上陸してくるのを阻止するのだそうだ(@_@;) 稲葉は海軍は軍艦がなくなると其処まで考えるのかと・・・、この三人は経歴詐称でスパイだとばれてしまった国枝を見張る役目らしい。

姉弟が25年振り出逢い仲良く積もる話が出来ていると思いきや、国枝が智恵子の部屋から「石頭?っ!」と怒鳴りながら出てくる。聞けば和平派の智恵子と本土決戦派の国枝の意見の対立が原因だと言う。内野さん、腰に幅広のベルトを締めたカーキー色の上下に赤いラインが入っている同じ色の帽子の軍服姿がとても良く似合っていたよ。動くたびにベルトから上がずり上がるのか、その度に上着の裾をシャッと手で引っ張る仕草・・・。

だが国枝が「石頭は撤回します、ゴメンなさい」と謝り、智恵子が子供の頃お風呂へ入れてあげるのが私の役目だったと言った途端、上手のスノコの椅子にバンと足を開いて威張って座っていた国枝がそろ?っと膝を内股に揃え子供の顔つきになった? (^^ゞ そして智恵子は鼻の下に2本の指を当ててピッと弾くのは自分の癖だったと明かす。国枝がその癖は物心付く前の自分に繋がっていると思い止めなかったのだと言いながら何度も繰り返すその手つきが可笑しくて、会場からは度々笑いが起きるが、考えてみると自分の出生がなにも判らなかったというホントは笑えない話なんだよねぇ?。

智恵子がこれから結婚もするのだからその癖は止めなくてはね、と言うと国木田(ここからは国木田にしょう(笑)は、「これから」、はないという。当時の軍事には生きると言う選択肢は無かったのだろうな。

残された3人で愈々爆破計画が実行される事になる・・・、シーツの下から自転車ポンプを持ち出してイチニノ・・・(この間にも面白い会話があったが・・・)サン!と押すと、ポン・・ポン・・・、と可愛い音がした(笑) なんと秋山テルが爆薬を花火に変えておいたのだと言うが、このテルの様子もどうも変だ! これで3人ともスパイだったとばれてしまうが、なんと今度はテルが自分も財界のスパイだったと白状、しかも智恵子達の父親・シベリア毛皮商会の社長の子供を生んだのだと告白し、それが国枝だと・・・、だが智恵子が銀座のシベリア商会は本店で自分の父は支店の方だったし弟の母は間もなく故郷で死んだので自分の母が引き取ったのだとあっさり話は覆えってしまう。ところが今度は坪井までが自分は検察のスパイだったと告白する。女形のなよなよした姿は全く消えてビシッとした憲兵さんになっていた?!(笑)、加藤は何処もかしこもスパイだらけだぁ?!と嘆き、頭を冷やす為に30分間の休憩をすると宣言。やがて現れた3人の軍人達はそれぞれの軍服に着替えて登場!  なんと海軍の軍服を来た三浦の格好の良いこと!(^o^)/ 酒匂さん、スラリと背が高くて紺色の制服が良く似合ってやぶ睨みの面影は全くない―(爆)

加藤はこれは和平派と本土決戦派の戦いだったけどどちらも負けだ、と言うが稲葉は本土決戦では決して負けないとその作戦を披露する。内野さんが砲台に点火する仕草をすると段田さんが弾になって酒匂さんにドッカーンと体当たり・・・(笑)だが坪井は本土決戦は有りませんとアメリカの母から智恵子へ来た手紙を読み出す。手紙の中には母エレーナが大山郁夫と親しい様子が書かれてあった。つまり坪井はアメリカにいる母エレーナと智恵子の身辺を探っていたのだ。坪井の言い分はその大山が江ノ島に亡命政府を作るかもしれない、その亡命政府が世界の支持を得るなら江ノ島政府が日本の政府になると、そして加藤にソ連との和平もどうなるか判らない、ご健闘を祈ると去っていった。やがて他の者も出て行く・・・、智恵子は国木田に『生きていてね』  『ありがとう・・・このホテルに礼を言いたい』・・・どうやら本土決戦で死ぬ覚悟をしていた砥石頭も生きて行こうと決心したようだ。

場面はその5ヵ月後に変りホテルから出て行くテルが智恵子と荷造りをしている。陛下がラジオの前に立って宣言するという加藤の進言が受け入れられていれば沖縄も広島も長崎もなかったのに、と呟きながら加藤から来た手紙を読み始める。手紙にはスパイ達のその後の人生が記されていて稲葉は満州で捕虜になり今はシベリアに、三浦はマムシにかまれて入院中・・・、岡も火傷で入院中・・・、坪井だけは消息が不明、3人の少女達はアメリカ人のジープへ乗り込むもを見たと・・・。そこへ今は帝大生となった国木田が角帽に黒の学生服を着て現れ、間もなく加藤も来るという。

加藤はこのホテルがアメリカ軍隊の保養地になる事を告げ、全員が上手の扉に消えて舞台は終わる。

この作品の宣伝文句の「抱腹絶倒」・・・とまでは行かなかったけど兎に角笑いの起きる場面の連続だったが、その笑いの中身は井上さんの痛烈な軍部への批判のように思われた。花火のようなH爆弾とか媚薬が含まれたH剤だとかマムシ作戦だとかまるで漫談のネタのように大笑いをした舞台中の作戦は全て本当のことなのだと井上さんがパンフに書かれている。この頃アメリカでは着々と日本へ投下する原子爆弾が準備されていたこの時代に、大真面目でこんな作戦を考えていたとすれば日本は負けて当然かもしれないと思った

役者さんたちが皆素晴らしい!おっとりと人の良さそうな加藤外務官そのままの辻さんも良かったし、つい先ごろTVドラマで内野さんと共演していた大鷹さんは笑いの核だったし、段田さん酒匂さん、そして内野さんの4人の軍人組みは息もピッタリと合い初めから終りまで笑いを巻き起こしていた。やっぱり生の舞台の笑いは良いなぁ?、巻き戻しが出来ないのが残念だけど・・・(笑)

「歌もうまい内野」と評論家に褒められた内野さんの歌はミュージカルで聴かせるような激しい歌ではなく声もほのぼのと素朴な歌い方で心に沁みた。良い舞台だった!

箱根強羅ホテル

箱根強羅ホテル

  • 随筆・エッセイ
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-01-08

Copyrighted
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