ダークヒーロー
あれはいつもの夢である
「おとーさん!!ねぇこれ読んで!」
「あぁ、もちろんだ」
むかしむかし、遠くの遠くの荒れ果てた土地に、一人の若者が居ましたとさ。
その若者は雨も日の光も当たらない辺境の地へ一人、希望を持ってただひたすらに土を耕し、苗を植えた。
しかし、苗は一日と持たず枯れて行き対には一つたりとも苗が残ることは無かった
若者は土や苗の研究を重ねに重ねたが、新しい苗を植えても植えても次々と枯れて行ってしまったため、大層落ち込み、とうとう苗を作ることさえやめてしまいました。
そんなある日のこと、
トントン、トントン
「何だろう、こんな所に」
突然届いたノックの音に、若者は驚きます。
「はい、何でしょう。」
見ると尋ねて来たのは黒い服を来た独りの男。
「此処は貴方が耕した畑ですか?」
「はい、そうですが、此処はもう畑ではありません。」
「なぜですか?」
「此処には苗がない、土も死んでいる。だから此処は畑ではない。」
「いいえ、死んでは居ませんよ、ほら見てください」
そう言って彼が指を指した先には一つの苗が、大地にしっかりと根を張り芽を出していたのです。
若者は信じられませんでした。何故芽が出ていないと決めつけていたのか、何故あそこに芽が出ていたのか、そして何故、「全身黒い服を着た男が若者の家に来たのか、」
「貴方は、何者なんですか」
若者は恐る恐る尋ねます。
「・・・・、私は悪魔です」
男が答えます。
「次代の神となる貴方に、貴方を殺しに来たものです。」
若者は何を言っているのか全く見当も付きません。
「ですが貴方は、、、先代の神達とは違うようだ。」
「はぁ、ですが私はキリスト教徒では有りませんよ」
「良いのです。それだから良いのです。」
悪魔と名乗ったその男は、天に届かせる様に勢い良く手を空に翳した。
「最後の情けです。本来魔王からではなく、神から渡される物ですが、、、」
その瞬間物凄い爆音と爆風に包まれた若者は遠退いて行く意識の中、囁くように言われた言葉が今でも耳について離れないそうだ。
「また逢おうキリスト、お前は昔から私と馬が合っていたのです、早くこっちに来ると良い、その時は私が迎えに行ってあげましょう。」
次の朝、勢い良く目覚めた若者は、長年封印された自分の名前を思い出した。
(CHRIST、)
それが彼の名前。畑に行ってみるとそこにはただ馬鹿みたいに晴れた太陽と、その光を受けて神々しく輝く野菜達の光景があった。
それから若者はこの事を本に書き、今は世界中の愛読書として読まれ続けている。
「お父さん!このダークヒーローに僕もなりたい!」
「そうだねぇ、どうやったらなれるんだろうねぇ」
「いつか僕がこのご本みたいな立派なヒーローになったら、こんなご本作ってくれる??」
「あぁ、作るとも」
「やったぁ!絶対だよ?おとうさん!」
リーンリーンリーン
「おや、誰か来たようだ」
「やぁ、キリスト。迎えに来た。」
「やぁルシファ、もうそんな時間か。しかし君は変わらないねぇ、羨ましいよ」
「・・・時が経たぬ事はとてもつらい事ですよ。」
「そうだろうね、まぁ私も直にそうなるが、、、くくっ」
「何が可笑しいのですか?」
「いや、すまない。何でもないよ」
「そうか、なら良い」
「さぁ行こうか、我が愛しき友キリストよ、」
「あぁ逝こう、すまない我が息子、本は書いてやれなくなってしまったな、」
今も若者はあの荒れ果てた地で年を取ることなく、眠るように息絶えているそうだとさ。
FIN
ダークヒーロー