デモクラシー

4/9・10 『デモクラシー』 ドラマシティ

企画・製作=ホリプロ

作=マイケル・フレイン

演出=ポール・ミラー

キャスト

ヴィリー・ブラント(西ドイツ首相)=鹿賀丈史

ギュンター・ギョーム(東ドイツスパイ)=市村正親

ホルスト・エームケ(首相府担当大臣)=近藤芳正

アルノ・クレッチマン(ギョーム監視役)=今井朋彦

ディートリッヒ・ゲンシャー(内務大臣)=加藤満

ウーリー・バウハウス(ボディガード)=小林正寛

ラインハルト・ヴィルケ(首相府スタッフ)=石川禅

ギュンター・ノラウ(保安局長官)=温水洋一

ヘルムート・シュミット(国防大臣・後の首相)=三浦浩一

ヘルベルト・ヴェーナー(院内総務・党の黒幕)=藤木孝

梅田コマ劇場とドラマシティが合併して梅田芸術劇場となり、チケットの購入方法が変わったのに伴い、この舞台の9日のチケットを「ぴあ」のデジポケというシスティムで初めて取ってみた。ネットで申し込んだチケットは携帯にダウンロードしてあるが、これを使って入場するのは初めてだ。  入り口にそれらしき機械が置いてあり男の人が立っていたので、誰かがするのが見たいと思い暫く眺めていたが誰も来ない・・・20分たっても誰も来ない(笑) で、仕方なく初めてなんですが・・・、と近づいてったら「ダウンロードは出来てますか?」 「ハイ」 「では携帯を此処にあててピッと押してください」 すると印刷された紙がスルスルッと出てきた。  これがチケットだ!  やったぞ! 心の中で小さく叫んだ(笑)

ただ一般発売の時期がかなり過ぎてからの申し込みだったから座席は後ろから数えて3番目の左の端の方・・・、でもドラマシティは劇場も小さいしとても観易い劇場なのでそんなに不満ではないし、しかも今日の俳優さんは台詞が綺麗に話される方ばかり・・・、後ろの席でも充分声が届いたし、これからも度々利用したいな、と思った。ちなみに今回は2日ともほぼ同じ席。

会場に入ると当時の新聞記事や政府内の人物関係等が大きく展示してあり大勢の人が見入っていた。今日の主役である首相秘書ギョームが首相の後ろにピッタリとくっついている写真も有ったが小柄でやや小太りのメガネをかけた人だった。これは西ドイツ首相の秘書が東ドイツのスパイだった、という史実に基づいて書かれた話だ。出演者は男性ばかりのお芝居だが、私はこういう舞台が割合に好きなんだなぁ?(笑) それが何故だか判らないけど・・・。

舞台は幕はなくセットが見えている。舞台中央に菱形状に一段高いひな壇があり、廻りの3箇所に種類の違う机が置かれている。舞台上手の手前側には大きな机と椅子、その奥には小さな机と椅子、そして下手側奥には会議用に大勢が座れるようになったテーブルと椅子・・・。そしてこのセットは最後まで変る事なく、BGMもないシンプルな舞台が始まった。

最初は西ドイツ首相に当選したヴィリー・ブラントの演説の場面から始まったが、この演説台がかなり高くなっていて、その前に白いスクリーンのようなもが置いてある。このスクリーンが状況に応じて色々に変化する。時にはシースルーのように向こうが透けて見えたり、時には鏡のようになってこちら側の物を映したり・・・、このスクリーンの使い方が中々面白かった。

演説をしている首相を見ている人が居る。下手側にギョーム、上手側にアルノ・・・、そして二人は会話するのだが今回の舞台の一番の特徴はこの二人の会話は他の人には判らない、という事、つまりスパイであるギョームと監視人であり連絡係であるアルノの会話は、実際ならば人気のない所で行われる筈だが、この舞台では同時に済ませてしまう(笑) 政府内での出来事をその都度逐一報告している、という実情がわかりやすい。だから今井さん扮するアルノ・クレッチマンが会話するのは市村ギョームのみ、この状態が呑み込めるのに少し時間がかかったけど・・・(笑)市村さんの台詞はやや歯切れが悪いかな、対する今井朋彦さんの声は決して大きくないのに良く通る、かなり早口であるにもかかわらず台詞の全てが後ろの方に居ても聞き取れる。うぅ?ん、流石だな!

この会話で二人が東ドイツの人間である事がわかり、彼らの仕事はブラント首相の東方政策を探る事!  

後ろの壁に東西ドイツの地図が張られてあるが、知識として知っていても東ドイツのど真ん中にぽつんとあるベルリンを見ると本当に大変な事だったんだ、と実感する。しかもこのベルリンの中に東西を分ける壁が有ったなんて・・・。同じ民族が敵味方に分かれて戦うなんて本当に悲劇だと思う。余談だが日本も もしかしたら東西に分断されかねない状況だったと聞いた事が有る。同じ敗戦国でありながら日本の全てをアメリカが占領した事がドイツ・韓国のように同胞が引き裂かれる悲劇にならなかった事を思えばアメリカに感謝か・・・。

ギョームはブラント首相の相談役のようなエームケから首相執務室での勤務を言い渡される。東ドイツのスパイが西ドイツ首相の最も近い位置に配置された・・・(^^ゞ

だがギョームの立場はかなり不安定で内閣の人達に中々受け入れられないし、肝心の首相からも辞めさせて欲しいと言われるが気に入られようと懸命に働き、やがて自分は「帽子掛け」だと・・・、 ここに居ても誰も意識しない存在になった、と市村さんらしいひょうきんな身振りで語る(^^ゞ  鹿賀さんの舞台を観るのは始めてだが、すこし喉にかかったその声にはTVで馴染みがある。背は高くて恰幅も良く首相の貫禄は充分だし、特に足をやや広めにバンと開いて立つ姿か大変気に入った!(笑) 実は鹿賀さんの歌声が余り好くではなくて「ジキルとハイド」にお誘いを受けた時は観る気がしなかったが、なんとその声さえも心地よく響く・・・、この舞台の鹿賀さんを観て今までの認識が一変に吹き飛んだ(^^♪ やっぱり生の舞台を観てから判断するものだと痛感した。

首相になって最初の選挙は2票の差で辛うじて勝ったが、その後ブラントは自己嫌悪に陥る。祖国が大変な目に逢っているとき自分はナチスの迫害を逃れてノルウエーに亡命し、豊かに暮らしていた。その事で国民に反感をもたれている。 ギョームもスパイの仕事に疑問を持ち始めていた。妻も連絡係を務めているし、もし二人が捕まったら子供はどうなる?とアルノに疑問を投げかける。

首相の片腕とも言うべきエームケはギョームに首相の公設秘書を命ずる。ここで舞台にはあの衝立が現れその前に列車の座席が運ばれてきて、ブラントとギョームは列車で全国遊説の旅に出る。

列車の窓から手を振るブラント・・・「同情する勇気を持ってください!」

ここで二人はそれぞれの過去の話をする。父のいない二人の男・ブランとトギョームはお互いの境遇を話し出す。ブラントはヘルベルト・フラームという名を捨ててヴィリー・ブラントを名乗ったと明かし、ギョームは母が浮気をた現場を見た父は飛び降りたと・・・、二人とも父が居ないもの同志で打ち解けあうがウーリーが女性記者が待っていると言った途端にヴィリーの表情が変わる・・・、彼はかなりの女性好きらしい(笑)

その次の選挙ではヴィリーがワルシャワ訪問の時、ゲットーの犠牲になった慰霊碑の前でガクッと膝をついて礼拝する姿が全世界に配信され圧倒的な支持を得て当選する。会場の前にもその新聞記事が展示されていたが、舞台でも奥の一段高い所でそのシーンが観られた。ブラント首相は東方政策に力を注ぎその功績によってノーベル平和賞を受けたのだとか・・・。

2幕ではギョームがスパイかもしれないとの疑惑が濃くなってくる。頭文字は「G」そして男の子が二人・・・。勿論この事はブラントにも報告されるが、ブラントはギョームの男の子は1人だよ、と言う。そしてなんとブラントはギョームとその家族を休暇に誘う。

椅子を2つ並べて語り合うブラントとギョーム、ブラントは自分の生い立ちを語る。父が私生児の自分を認知してくれなかった為にヘルベルト・フラームと名乗らなければならなかった事がその後の人生に陰を落とす事になったと・・・。そしてヴィリーはギョームに「俺はスパイかもしれないよ」と3度も繰り返す。まるでギョームがスパイだと知っているよ!とでもいう様に・・・。

ギョームにも自分に迫る危機を感じていた。アルノも東ドイツへ帰れと言うが・・・、休暇をとり国境近くまで行きそのまま逃げようと思えば機会も金も有ったがギョームは逃げなかった。

恐らくギョームはスパイとしてではなく人間としてヴィリーを愛し、信頼していた。その彼を裏切る事は出来ない・・・、そして逮捕される。

どこの政府にもその内側にはいろんな人間がいて問題は有るもので、そのキーマンが藤木孝さん演じるヘルベルト・ヴェーナーだ。自らを悪役だと言い色んな画策をする。

政府の内部からの裏切りによってブラントは追い詰めれていくが、その過程でギョームは舞台下手から「それは俺じゃない! 俺はしていない!」と叫ぶ声は届くはずもない。ブラントもギョームが居なくなって信頼できる人が回りに誰も居ない孤独を感じている。現職首相と敵方のスパイとの間に芽生えた信頼感・・・、なんだか切ないなぁ?!

次の選挙でヘルムート・シュミットが首相に選ばれた。ベルリンの壁が打ち砕かれ、逮捕されたギョームは東側に捉えられた政治犯と引き換えに釈放される。

舞台の最後にはブラントの背にピッタリと重なるように立つギョームの姿があった。

この舞台兎に角役者さんの台詞が良く通り、後方の座席に居たにも関わらずとっても良く聞こえた事に感動した! 

これこそ舞台俳優の真骨頂だ!

鹿賀さんは声の張りも良いし良く通るし、TV番組の「料理の鉄人」に出ていた時と同じ様な喋り方なのだが、それが全然嫌味に聞こえなかったのには自分でも驚いた!酒好き、女好き、そして心にトラウマを抱え度々鬱状態に陥るヴィリー・ブラントだが、折りにニコッと笑う表情が人懐っこくて、皆に愛された人柄が良く出ている鹿賀さんに見惚れた!只鹿賀さん、9日は全く危なげなかったのに10日は休暇の場面で何度か台詞を噛む場面が有った。千秋楽が近くなってもこんな事が起こるのは、やはり舞台は生き物だと思う。

市村さんはお得意の軽妙な仕草で観客にクスッと笑いをもたらす場面が度々有り、これに関しては市村さんの独壇場だな。

他の役者さんもそれぞれの持ち味が有って良かったが中でもエームケを演じた近藤芳正さん、ヴィリーの事を思い気遣う優しさが溢れる姿には

TVでよく見るやや頼りない役柄とは全く違う面が見られてやっぱり舞台はスゴイなぁ?と思う。

兎に角台詞の洪水のような舞台だった!でも、とても面白い舞台だった!

デモクラシー

デモクラシー

  • 随筆・エッセイ
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-01-08

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