私の奥様は魔女!

私の奥様は魔女!

 本作品は、雪里舞氏に寄稿した作品のリライト版となります。

  1

 漫画が好き。
 そう言うと、大人やそういうものから卒業しつつある子供ですら、みんな変な目で私を見る。
 私がメイドという職業を選んだのは、ある漫画を読んだからだ。
 その漫画では、あるメイドの女性が厳しい階級社会の中で、世間知らずのお坊ちゃまと出会う。二人は、紆余曲折、谷越え山越え、涙なくしては語れぬ物語の果てにハッピーエンドを迎える。そんな素敵な漫画に出会えたことが、私の職業選択を決めたと、例え一度でも口にしたら、良くて下手な冗談。悪かったらもう二度と口を利いてくれないかも知れない。少なくともまともな大人という枠から出されてしまうのは間違いない。
 もっとも、私に職業の自由は、最初からなかったけど。
 孤児院の食卓しか知らない女の子は、色々な意味でタフな子は兵隊さんに志願するし、頭の良い子は看護婦さんの給費生になる。私に看護婦さんはもちろん無理。兵隊さんはもっと無理。残るのは、工員とメイドしかない。
 運が良かったことに、飛び込むようにこの仕事に就いて、辞めたいと思ったことはこれまで一度もない。楽な仕事ではないけど楽しいし、好きと言ってもいい。
 そう、好きだと言ってもいい。
 でも、見上げた先、呼び鈴を押すことができない。
 メイドを続けていくためには、呼び鈴を押さなければいけない。
 いつの間にか握りしめてしまった鞄を持つ手が痛い。鞄の中身は全財産と紹介所でしたためて貰った紹介状が入ってる。
 押さなければならない。でも、押せない。 
 こんな時だというのに、脳天気な私の頭の中には、孤児院に居た頃、夢中になって読んだ漫画が思い浮かんでいた。その漫画は、学生が放課後のクラブ活動を楽しむ話で、主人公は素直で可愛らしい子だけど、色々と残念な子だった。
 その残念な子でも、一番最初のエピソードでは、ちゃんとドアを叩いて、前へ進むことができたはず。
 だから私だって、私という物語のエピソードをまたはじめるためにも、呼び鈴を押さなければいけない。
 でも、よくよく考えると。あの子は、天使のような妹と、人生そのものを一緒に楽しめる良い仲間に巡り会えた。漫画だからと言ってしまえばそれまでだけど、すごく優しい世界だ。憧れてしまうほどの。
 ずるい。ずるいよ。
「って、あああ。それどこじゃないのに」
 でも、なんで、よりにもよって「魔女」なんだろう?
 紹介所で紹介されたブラック家は、大学教授で世界的な冒険家の旦那様と、イーストエッジの貴族出身で魔女の奥方様の新婚夫婦。子供はなし。執事とメイドが一人いて、給金だって悪くない。
 冒険家と魔女なんて、まるで漫画みたい。でも、魔女は……避けたい。
 魔女は苦手だ。というのも、孤児院に週二度来る魔女が恐い人だった。
 「口曲りの魔女」と自称するくらい口が曲がっていて、皺の中で小さくなった瞳は、砂糖で煮詰めた苔桃のようにぎらぎらしていた。
 その口から出てくる言葉は、定規で叩かれたように電撃が走るし。子供だろうと大人だろうとまったく容赦がない。
 風邪を引いて熱を出したときだって、泣き出したいのをぐっと我慢しているのに。病気になったのはお前自身の責任だって、口でも、その態度でも、耳を両手で塞いでも聞こえてくるくらいに怒鳴るような人だった。
 孤児院の面倒をタダで見てくれたのだから、今となっては感謝すべきなことはわかってる。でも、色々許せないことが多いし、今でも、もし街で出会ったのなら、回れ右をして逃げ出してしまうくらいに恐ろしい。
 もし、扉一枚開けたとき、あの口の曲がった老女と同じタイプの女性が出てきたらどうしよう?
「いけないいけない。まずは深呼吸」
 深呼吸をしたところで、私を見つめる視線に気がついた。
 まるで角砂糖に紅茶を一滴垂らしたかのような子猫が、私を見上げていた。
「あ、猫ちゃんだ」
 私が顔を近づけても逃げない。間違いなく飼い猫ちゃんだ。しかも、とびきり上品な。ここの飼い猫なのかも知れない。
「かわいい。撫でてもいい?」
 子猫は「いいよ」と言うように頭を下げ小さく鳴いた。
「うわ。柔らかくて温かい。いいなぁ猫ちゃんって。それにひきかえ私は大ピンチ。今から面接。もし、雇って貰えないと、今日から寝る場所もない」 
 言葉にすると、現実が今さらのように重くのしかかってきて、体が重くなったような気がした。
 帰る場所のあてもなければ、お金だって残りわずか。
 子猫は何かを感じたかのように、小さく鳴くと走って行ってしまった。
「あ、猫ちゃん」
 立ち上がったところを突然後ろから突き飛ばされた。
 呼び鈴を押すか迷っていたドアが開いたのだ。


  2

「大変申し訳ありませんでした。どうぞ、おかけ下さい」
 執事さんは、漫画に登場する執事というものが、みんなこんな声をしているんだと思わせる声で勧めてくる。
 私は、頭が取れてしまうくらい一生懸命に首を横にふって辞退した。
 座らないでもわかる高級品のソファーとか、見慣れない外国の調度は、必要最低限をよくよく考えながら取り揃えましたという感じ。こういうのが本当のお金持ちの家なんだ。
「鼻のところをすりむいていますから、手当をさせて下さい」
「いえ、こんなのどってことありません」
「本当に申し訳ありません」
 と深々と頭を下げるロマンスグレーの執事さん。
 困る。困るし。
 さっき、名前を聞いたはずなのに、執事さんの名前すら思い出せなかった。
「あ、あの。私」
 「面接で来ただけなんです」と言いたいのに言葉が出てこない。
「どうぞ。遠慮なさらず」
 どうしてこうなっちゃったの?
 目が熱くなってきた。
 子猫の相手をしていて、立ち上がった途端。勝手口の扉に突き飛ばされてしまったのだ。
 この家の扉は旦那様の趣味ですべて外側に開くようになっていた。なんでも靴を脱ぐ習慣がある国ではこれが普通で、しかも、扉のあり方一つとってみても、それ自体が平和と豊かさの象徴なのだとか。
 幸い、私はというと擦り傷一つ無かった。擦り傷があったって、こんなに丁重にもてなされては申し訳ない。
 介抱されるためにこの家に来たのではなく、面接を受けに来たのだから。
「私、実はメ……」
「まさか、目が痛いのですか?」
 違う、違う、違うと首を横に振る。
「面……」
「顔を打ったのですか?」
 わー、なんでそうなるの。
「メイドの面接でお伺いしました。ごめんなさい」
 もう訳もわからなくなって深々と頭を下げた。
 沈黙。
 あ? あれ?
 怒られる? 怒鳴られる?
 恐る恐る顔を上げると、柔らかな笑みが出迎えてくれた。
「あなたがティーダさんですね。紹介所から伺っています」
 執事さんは突然のことにも、まったく動じていなかった。
「あ、はい」
「ティーダさん。まずは、私の謝罪を容れて頂けますか?」
「はい?」
「突き飛ばしてしまった謝罪です。大変申し訳ありませんでした」
 執事さんは深々と頭を下げた。
「そんな、平気です。へっちゃらです。丈夫さだけが取り柄ですから。あはははははは」
「まずは手当を。それから面接を行いましょう。さぁ、おかけてください」
「え? いいんですか?」
 ここは客間だ。今まで働いてきた家にとって、その家の子ども達ですら入れてもえないくらい。客間はその家にとってのとっておき。
「構いません。どうぞ」
「はい。失礼します」
 凄く座りやすいソファーだけど、なんかお尻が落ち着かない。
「これは、奥様が作られた傷薬ですから、すぐに良くなりますよ」
 執事さんは、小さなケースから軟膏を指にとると、失礼しますと断ってから、鼻先に伸ばした。軟膏はシミもしなければ匂いもしなかった。
「これで、よろしいでしょう」と小さく頷くと、「では、ここで簡単な面接を行いましょう。紹介状を」
「はい」
 膝の上に乗せた鞄を開けた瞬間、血の気が失せた。一番上に入れておいたはずの封書がない。
 紹介状がなければ、身分を証明する手だてがない。
「え? あれ? あれ? あれ?」
 鞄をひっくり返すと、タオルや歯ブラシ、下着や着替えがボロボロ落ちた。
 折り重なった下着の下に紹介状の入った封書が!
「あった。よかった。よかったー」
 咳払いがした。
 心なしか執事さんの頬が赤くなっているような気がした。
「あ!」
 磨き上げられたテーブルにパンツが落ちている。
 全身の血が顔に集まって、頭から白い湯気が沸いているような気がした。
「す、すみません」
 あわててパンツを引っ込め、頭を下げて、両手で紹介状を差し出す。
 かっこ悪すぎ。
 どうして、いつもこうなの?
 執事さんは何事もなかったように、内ポケットからナイフを出して封書の封を切ると、紹介状に目を通した。
 私は唾をごくりと飲み込んだ。
 紹介所の出してくれる紹介状は万能じゃない。新聞の求人記事を見た飛び込みよりはましという程度だ。
 執事さんは書類を畳みながら、ため息をついたように見えた。
 終わった。
 すべて、終わった。
 頭がずんと重くなってくる。今日これからどうしよう。橋の下かな。
「雇いましょう。最後はティーダさん次第ですが」
「え? いいんですか?」
 あっけなく合格が出たことに、つい言葉が漏れた。
「はい。繰り返しになりますが、この家に勤めるかはティーダさん次第です。奥様はブラック家に入られたとは言え、ここはもうれっきとした魔女の家ですから、いろいろございます。私自身、奥様に付き従ってブラック家に入りましたから、ティーダさんが知る執事とは大分趣が異なることでしょう。それと、もう一人メイドがいると聞いていますか? これはいささか難があるので、オールワークスの経験がないと困るのです」
 実は、私。執事さんの言うことの半分も聞いてはいなかった。安堵感と喜びが胸の中にダンスしていたから。
 執事さんが急に席を立ったように見えた。話を聞いていなかったせいなのだけど。
「え?」
「部屋を案内しましょう」
 反射のように、「はい」の声と共に立ち上がって、学校のように胸を張り気を付けをした。
「良い返事ですね」
 執事さんは大きくゆっくり頷いた。


  3

 ブラック家の茶色のワンピースに、作業用のエプロンを付けた姿でスカートの端をつかみ、淑女の礼をする。
 鏡の中の私も、照れ笑いになった。
 孤児院に居た頃。冬至祭に合わせて、たくさんの古着を寄付してくれるおばさんがいた。山のようになった古着の中から、お気に入りの一枚を手に入れるのはある意味、女の戦いで。どうにかして自分のお気に入りの一枚を手に入れると、他の女の子達と一緒に鏡の前でポーズを取った。こうしているとそのときのことを思い出す。
「ティーダは、まるでお姫様みたいだね」
 その声に、
「うん」と思いっきりの笑顔で頷いたことを今も覚えてる。
 あの頃は、ある漫画のようなお姫様になりたかった。お姫様の名前が甘いおやつなら、家臣達も皆、お菓子の名前がついた愉快な人たちで。次から次に不思議な事件が起こる不思議な国のお姫様と家臣達の愉快で素敵な物語だ。
 今や、そういったお姫様の後ろに控える侍女になろうとは……。
「って、私。今、本当に「うん」と言ったよね? 声も聞こえた?」
 ティーダは息を呑む。子供の頃の記憶と現実がごっちゃになっていた。
 危うく悲鳴を上げそうになった。部屋の中に、濃く淹れすぎた紅茶のような赤髪のメイド服姿の子がいた。
「あなたが、今日入る予定のティーダだったんだ」
 笑顔が本当に似合う女の子だ。
「え? あの」
「あ、私? 私、ヒルダ」
「ヒルダさんですね」
「イーヤ」
 女の子は思いっきりすねてみせる。
「え?」
「旦那様や奥様に、ヒーちゃんって呼ばれてるの。だから、ヒーちゃんて呼んでくれなきゃイヤ」
「ヒーちゃん?」
「うん。その代わりティーダのことも、ティーちゃんって呼ぼうか?」
「ティーダでいいです。子供の頃から、ずっとそれだし」
 思わず目を瞬いた。私はあることに気が付いてしまった。
 ここは三階にある部屋で、入口の扉は閉まったままだし、外では執事さんが着替えるのを待っている。
 他に入れる場所と言えば、開いた窓しかない。
 でも、ここは三階。
 扉は開いた気配がない。
 最初からヒーちゃんが居なかったことは確か。
「どうしたの? ティーダ」
「え? あ、ヒーちゃんは、どうやってこの部屋に入ったのかなー、なんて」
 ……なんか、実は、とっても怖いことを聞いてるかも私。
 「魔女」という単語が頭の中をチラチラする。
「そんなこと? 簡単簡単。あの窓のとこに枝が見えるでしょ? ヒーちゃんその枝から飛び乗ったの」
「ああ、なんだ枝から飛び乗ったんだ。え?」
「だってヒーちゃん」
 ヒーちゃんが突然白い煙に包まれると。そこには、あの勝手口で出会った角砂糖に紅茶を一滴だけたらしたような子猫がいた。
 まるで「ねっ」と言わんばかりに、小首をかしげる。
「えー」
 思わず上げてしまった声が大きかったらしく、ドアがノックされた。
「どうかされましたか? ティーダさん」
「あ、はい。私は大丈夫です。今、開けます。
 今、ヒーちゃんが来てくれまして」
「ヒーちゃん? ヒルデガルド」
 執事さんは、今までにない強い口調と厳しい目で部屋の中を見た。けれど、すでにヒーちゃんはいなくなっていた。また窓から枝を伝って外へ行ってしまったのかも知れない。
「どうかしたんですか?」
「ヒルデガルドは仕事をサボってばっかりのダメメイドでして」
「あの、子猫に変身できるんですよね?」
 一つ確認しておきたかった。もし執事さんが否定したら、自分が悲鳴を上げてしまうところまで予想が出来た。
「はい? 人に変身できるのですが」
「え? 子猫に変身するんじゃないですか?」
「いえ。人に変身するんです」
「?」
 何かがかみ合わない。でもよくわからない。「?」だけが残った。
「とにかく。家の中を案内しましょう。服のサイズもぴったりでよかったです」
「あ、服と言えば、みんな腰のあたりに穴を塞いで縫ったような跡があって」
 今、着ている礼服にも、タンスの中の礼服も、みな腰より少し下のあたりに補強され穴なっていた部分があった。今はちゃんと縫われているけど何に使うものなのかよくわからない。
「それは、しっぽを出す穴ですよ」
 執事さんが何でもないことのように言うものだから、つい。
「ああ、しっぽなんですね」
 と何でもないことのように答えた。でも頭の中には「?」が残され、「?」がさらに増えて行く。
「ヒルデガルドには、ちゃんと縫っておくように指示しておいたのですが。気になりますか?」
「え、あ、大丈夫です」
「本当は、ヒルデガルドの一つ上の姉のために仕立てたものなのですよ」
「そうだったんですか?」
「身ごもってしまいイーストエッジに残ることになったものですから」
「赤ちゃん! おめでたいですね」
「ええ。孫や子は何人いても良い物ですよ」
 執事さんの微笑みに、ぴんと来た。
「え? ヒーちゃんは執事さんの?」
「申し遅れましたが、あれは、私の末娘です。実の娘ゆえ、どうしても甘やかしてしまいがちで。あれは本当ならいイーストエッジに置いてくるはずでしたが、奥様のお気に入りでして」
「へー。あ、お孫さんおめでとうございます」
 ティーダは立ち止まってお辞儀をした。
「ありがとうございます。それでは、まずは台所から案内しましょう。
 この屋敷は、旦那様が住まわれていたアパートを買い取り改築したものですから、色々コンパクトに出来ております。階段での移動も少なくありません。小さい家ながら、お掃除は大変ですよ」
 優しげな表情は何一つ変わらなかったのに、執事さんの雰囲気が、今までの渋い執事さんから、不思議と、獲物を前にした獣のような、そんな鋭さに変わったように思えた。今までのお客様へ対する顔から、お屋敷仕事の顔に切り替わったのかも知れない。このタイプの人は仕事にはめちゃくちゃ厳しいのだ。 
 大変かも。
 でもやるしかない。
 大丈夫、私だって三年間メイドをやって来たんだから。
 言葉には出さずに心の中だけで呟いて、最後につばをごくんと飲み込んだ。

  ◇ ◇ ◇

 銀色の六角形ポットから強い香りが湧き立っている。その匂いだけで目が冴えてしまうような深い香りが、胸の奥まで広がって行くような気がした。
 執事さんは、なみなみとエスプレッソをマグカップに注いだ。たっぷり四人分はある。
 一瞬、執事さんはうっかり間違ってしまったと思ったけど。
「では最後に、このマグをティーダさんの紹介もかねて、奥様に持っていきましょう」
「は、はい」
 これでいいんんだ。
 なみなみ注がれたエスプレッソのマグをお盆に乗せた。かなり重たい。
 あれ? これ、ミルクもお砂糖もないの? 
 エスプレッソと言えば、ミルクもお砂糖も入れるか、ミルクを嫌う人は、砂糖をもりもり入れるのが普通だと思っていた。
「驚かれましたか?」
「はい。あっ」
 顔に出ちゃってた?
「構いませんよ。私も体に良くないと思っておりますから。でも、これを飲まれるときの奥様の満足げな様子を見ると。取りあげてしまう方が、かえって体に悪影響があるような気がします」
 階段を上りながら、執事さんは小さくため息をついた。
「私も、夜の甘いお菓子に、つい手が伸びて」
「そうですね。タバコを止められなかったり、お酒をやめれないのにも、通じるかも知れません」
 執事さんは扉の前に立つとノックをした。
「ヴォルテールです。今日から屋敷に勤めてくださるティーダさんをお連れしました」
「入って良いわよ」
 扉の内側から声がした。
「失礼します」
 のぞき込むようにして部屋に入ると、息を呑んだ。
 恐ろしく広い部屋だった。この屋敷の中に絶対に収まりそうにもないくらいに広く、本棚が整列している。その様子は、蝋燭の明かりで浮かび上がる図書館だ。
 暗闇の中、そこだけが切り抜いたかのように、閲覧席が浮き上がって見えた。黒いワンピースを着た女性が、読んでいた本を閉じた。
 「口曲がりの魔女」ようなおばあさん魔女ではなかったけど、明らかに今までの屋敷の奥様方とは違う若い女性だ。
 あの方が、このブラック家の奥様に違いなかった。
 にっこり微笑んでいる。
「テスト」
 不思議なことに、その口元だけが漫画の一コマのように見えて、そう呟いたような気がした。
「あ、私、ティーダと申します」
「ビューエル・ブラックよ。マグをこちらにちょうだい。聞いているとは思うけど、私はこれでも一応魔女なの。魔女の家に勤めると言うことは、それなりにおかしな事がたくさん起こるし、気苦労も絶えないと思うわ。その辺平気かしら?」
「はい。大丈夫です」
「本当に?」
「本当です」
 足先が、何か柔らかいものを踏んだ。虎の敷物の尻尾を踏んでいた。
「怖い思いもたくさんすると思うし、死にそうな目に遭うかも」
 こともあろうに、死んでいるはずの敷物の虎が、間違いなく頭を左右に巡らした。自分の尻尾を踏んだ相手を見つけ、肉食獣の瞳でにらみつけてくる。
え? 嘘?
 雷のような声で吠えると、肉を引き裂き、骨をバラバラにしてしまう白い牙が光った。
「うわわわあわわあああ」
 悲鳴を上げながら、変な踊りの格好になってしまったけど、マグだけは死守する。
 薄目を開けると、虎の牙はここまで届いていない。
「奥様」
 執事さんが渋く重い声をたてた。私は自分が叱られたわけでもないのに、体が縮こまってしまう。
「怒らないで。ちょっとしたいたずらよ。本物のお化けだって出ることがあるかも知れないし、私のいる家で働きたいのなら慣れておく必要があるわ。ね? ティーダもそう思うでしょ」
 本物のお化けはなるべくなら遠慮したいけど「はい」と返事をした。
「でも、少し気になることがあるわ」
 執事さん、私、そのいずれか、そのいずれでもないような言い方をした。何だか物凄く不安になってくる。
「なんでしょう?」
「今朝聞いた話では、ティーダは紹介所からの斡旋よね? 前の屋敷の執事は紹介状を書いてくれなかったの?」
 ナイフがスコンと音を立てて胸に刺さったような気がした。メイドにとって前のお屋敷の紹介は、絶対に欠かすことのできない物だ。初めてお勤めするならともかく、前に働いていたことがあって移る場合、紹介がなければすでに負けといってもいい。本来、紹介所の紹介では、ブラック家のような大学教授や貴族の家には、面接を受けることすら出来ない。
「前のお屋敷は暇を出されてしまって」
 言葉をどうしても取り繕ってしまうけど、平たく言えば首のこと。住み込みで働いていた前のお屋敷から昨日の昼に追い出されたばっかりだ。
 奥様に目を合わせずらかったけど、私は逃げなかった……と思う。
「ふーん。まーいいわ」
 奥様はまったく表情を変えなかったように見える。
「いいんですか?」
 私は追撃の手が緩んだことに逆に聞いてしまった。
「少なくとも、ヴォルテールが私に会わせたわけだし、問題ないわ」
 ヴォルテール? あ、執事さんの名前。
「ティーダ、よろしく」
「よろしくお願いします」
「辞めたくなったらいつでも言って、て言うとなんか凄く嫌な感じがするでしょうけど。私は魔女で、魔女には魔女のやり方があるし、しきたりも数多くあるの。普通とか常識とかから少しずれているから、逃げ出したくなっても仕方がないわ。そうなったらいつでも遠慮なく言って」
 猫が新しいオモチャを貰うとこんな感じになるのかも知れない。私はそんなことを奥様の目を見て思った。
 でも、不思議と「口曲りの魔女」に感じた怖さとか嫌な感じはなかった。だから、勢いよく「はい」と答えてしまって、何だかそのまま「はい」と答えるべきではなかった気がして、「いえ、そう言う意味ではなくて。あの……その」
「いいわよ。遠慮はなし。堅っ苦しいこともなし。お客様に粗相さえなければいいわ。あ、そうだ。ティーダあなた、料理は得意?」
「え? あ、えーと。普通です」
「普通?」
「はい。あ、あの。ジャガイモとニンジンの皮むきは山ほどやりました」
 料理が得意かと聞かれることが初めてだった。上手かと聞かれれば自信がない。普通としか答えられない。私の知る料理は誰が作っても変わらないと思う。でも、三十人分の下ごしらえをやっていたことがあるから、皮むきには自信があった。
「包丁は扱えるってわけね。ならいいわ。オールドリーフの悪口を言うわけじゃないけど、オールドリーフってお菓子とお酒以外興味ないみたいね」
「え?」
 思わず言葉が漏れた。
「料理は、食材別に数えても七種類しかないと聞いて、開いた口が本当に塞がらなくなりそうだったわ」
 七種類?
 何のことか全く思いつけない。
「肉をそのままオーブンでこんがり焼いたのと、挽肉にしてパイにしたの、プラス塩漬け豆のスープ」
「ああ」
 鳥の丸焼き、豚の丸焼き、白身魚の丸焼き、それぞれを挽肉にしたミートパイ。豆の塩スープ……本当に七種類だ。知らなかった。
 そりゃ豆のスープに、野菜を入れたり、香草で独特の味付けをしたり。パイの餡だってわざと野菜と香草を多めにして変化を付けることもあるけど、昔ながらのオールドリーフ料理と言えば、孤児院の子供が食べるものも大金持ちの旦那様方が食べるものも、本当に七種類しかない。
 奥様はなおも続けて、
「イーストエッジでちゃんと料理が出来ると言えば、一ヶ月同じメニューが食卓に上ることはまずないわ」
「一ヶ月」
 思わず口から声が出てしまった。
 私は、オールドリーフの七つ料理の他に、いくつか他国風の料理を作ることも出来る。その中には、イーストエッジ風のオリーブオイルをふんだんに使ったカツレツもある。他国の料理ともなじみのある家に勤めていたので、昔ながらの料理だけというわけにはいかなかったのだ。でも、全てのメニューを順に作っていっても、一ヶ月も違うメニューを食卓に上げ続けることはできない。
 料理をそんな風に考えたことがなかった。そもそも、料理や食べ物に興味がなかったのかも知れない。そりゃ、ケーキや甘いクッキーには目がなかったけど。
 そういえば、漫画にも料理を題材にした漫画があったっけ。その国では、四季ごと地域ごとに様々な食材が獲れるので、料理の種類だけで百をくだらないというのだ。それら食材を自分の才能と技術で様々に調理して、誰にでもうまいと言わせる料理人と呼ばれる達人がいた。その達人は料理で勝負を挑み雌雄を決する。たしか、そんな漫画だ。
 今もそうだけど、孤児院に居た頃の私も料理で勝負というのが今ひとつだった。孤児院では、毎日、豆のスープと黒パンと牛乳が食卓に上った。激しい競争だったけど、おなかがすかない程度には食べることが出来たし、口曲りの魔女は恐かったけど毎週お菓子を焼いてきてくれた。だから、食べ物には満足していた。 
 今さらながら、あの漫画をもう少し真面目に読んでおけば良かった。同じようには出来なくても少しはヒントになったかも。
 出来る? 私に?
 もし、出来なかったら……。
 不安が、まるで生き物のように足下から這い上ってくるような気がした。 
「大丈夫よ」
「はい?」
「その様子だとティーダもオールドリーフの申し子みたいね」
 ……も、申し子。
 顔に出てしまった気がしたので、「すみません」と頭を下げた。
 顔に出過ぎ。
「別に良いの。少し言葉が過ぎたようね。悪い意味ではないのよ。自分の生まれた土地の料理をしっかり作れることはすごく大切だし、料理の幅を少しだけ広げてくれればいいんだから。覚えると言っても、切る、焼く、煮る、茹でる、蒸す、揚げる、炒めるの基本を抑えてしまえば、後はその応用と、これが一番大事だけどセンスで片付けることが出来るわ」
 応用という言葉は強敵に、センスという言葉は、突然目の前に現れた壁のように思えた。つばを飲み込みたくなる。
 私にセンス? センスってある?
 なさそうな気がした。でも返事をしなきゃ。
「がんばります」
「良い返事ね。私が直で教えても良いけど。ヒーちゃん、ヒーちゃん、そこにいるでしょ。出てらっしゃい」
 奥様が声を上げると、本棚の影から子猫が飛び出てきた。
 あの角砂糖に紅茶を一滴垂らしたようなあの子猫だ。白い煙が弾けたかと思うとあのヒーちゃんになった。
「はーい。何ですか奥様」
「これヒルデガルド」
「ヴォルテールは、お小言なし」
 一瞬、身を縮こませたヒーちゃんは奥様を見上げた。
「ヒーちゃんはお料理どれくらい出来たっけ?」
 ヒーちゃんは指折り数えはじめ、十を越えたところで、
「んー、尾を入れても足らない」
「うん、いいわ。そういうわけだからティーダ。料理はヒーちゃんに習って。ヒーちゃんはティーダにイーストエッジで食べられているお料理をしっかり教えてあげてね」
「はーい。ヒーちゃん、奥様から教えられた料理をティーダに教えるの。改めてよろしくねティーダ」
「よろしくお願いします」
 ティーダは頭を下げた。
「堅苦しいのはイヤ。あ、奥様」
「何?」
「これからティーダと晩ご飯の作戦会議をヒーちゃんの部屋で行いまーす」
「わかったわ」
「これヒルデガルド」
 ヒーちゃんは、あーかんべーこそしなかったけど、いかにもな勢いで私の手を掴むと、そのまま奥様の部屋から飛び出した。
「脱出成功」
「いいんですか?」
 色々な意味を含んだ「いいんですか?」だ。ヒーちゃんとヴォルテールさんのこともあるし、私には仕事中に私室に戻るという発想がない。
 晩ご飯の作戦会議というのも、不思議な言葉。まるで漫画みたい。
「イヤ」
「え?」
「ティーダまるでよその人みたい。ヒーちゃんそういうの嫌いだな」
「あ、ごめんなさい。えーと、ヒーちゃん。ヴォルテールさんに謝らなくていいの」 
「うん。パパいつも怒ってるんだもん。怒ってない日がないくらい」
 やっぱり厳しい人なんだ。

  ◇ ◇ ◇

 私の目と同じくらい口も開きっぱなしになったと思う。
 ヒーちゃんの部屋は、毛糸で編んだ猫のぬいぐるみが主役だった。色も大きさも様々な猫のぬいぐるみ達がチェストの上、机の上、窓枠、棚、床以外の場所に所狭しと並べられている。どの子もユーモラスな顔をしていてかわいい。
「ふふ~ん」
 ヒーちゃんは照れを隠すかのように小さな体を揺らして見せる。 
「すごい。かわいい。これ全部ヒーチャンが編んだの?」
「うん。みんなヒーちゃんが編んだの」
「すごい」
 私はさっきから、すごいとしか言えなくなっているのも忘れて、一つ一つ見て回った。
 その中で、にゃん? と鳴き声に、?マークが付く感じの、おとぼけ顔の猫と目が合った。胴体と手が茶虎のぽいストライプになっている。似た猫を知ってる。現実ではなく漫画の。飼い猫を中心としたドタバタのコメディで、何か本当に困ったことがあると、猫も人もダンスを踊って幕切れにしてしまう。そんな愉快な漫画があった。そういえば、何度も貸し本屋さんから借りて呆れられたことがあったっけ。
「ティーダ気に入ってくれた?」
「ええ」
「その子ミケーレっていうの」
 思わず吹き出しそうになった。ミケーレは私の知っている漫画に登場する主人公の猫の名前。 
「ミケーレか」
 頭をちょこんとしてみた。
「気に入ったならあげる」
「え? 悪いよ」
「ううん。貰って。その子も喜んでくれると思うなぁ」
「いいの?」
「うん」
 その笑顔につられるように私はミケーレを手に取った。何ともとぼけた顔。
 ふと思いついてエプロンのポッケに入れるとぴったりだった。エプロンのポッケから覗かせるとぼけた顔にヒーちゃんも笑顔になった。
「かわいい」
「あとで部屋に置いてこないと」
「えー、どうして? かわいいのに」
「お料理仕事で汚れたらかわいそう」
「んー」
 ヒーちゃんは唸った。
 私はもう一度毛糸で編まれたぬいぐるみ達を見た。どの子も本当にかわいい。
「本当にすごいね。こんなにたくさん」
 自分の語彙のなさが嫌になるくらい、よくできていて素晴らしかった。
 どの子も個性たっぷりで同じ物が一つとしてない。見ているだけで楽しくなってくる。
「うん。編むのって凄く楽しいから、ティーダにもお勧めだな」
 ヒーちゃんは、私の「やってみたい」という答えを待つ顔になった。
「え? 私?」
「うん、ティーダ」
「無理、無理」
「えー、やってみなければわからないのに」
 私には、毛糸をこうしたぬいぐるみに編む発想そのものがなかった。そもそも、毛糸で何かを編んだことがない。孤児院ではもっぱら毛糸玉に戻すお手伝い担当だった。
でも、どんなに理由を並べても、ヒーちゃんの上目遣いの目は、私がうんと言うまで、ひいてくれない感じ。
「じゃ、今度、暇なときにでも教えてくれれば」
「うん」とヒーちゃんは大きく頷いて見せた。
「ヒーちゃんね。夢があるの」
 ホッとため息をつく暇もなく、ヒーちゃんは飛んだことを言う。
「夢?」
 思わずそう聞き返してしまった。
「うん、夢。ヒーちゃんが編んだ子達のお店を開きたいの」
「すごい」
 私は胸の前で手を打ち鳴らした。
「奥様も援助してくれるって、旦那様も面白いって言ってくれるし」
「すごい。でも、ヴォルテールさんは?」
 と言ってしまって後悔した。
 ヒーちゃんは息を漏らすように鼻を鳴らすと。
「パパはものすごーく石頭だから。まだ話してもないの」
 これはちょっとどころじゃなく大変かも。漫画ならこういう時は正面からあたって砕けろなんだけど、現実はそう上手くいかない。それくらいは私にもわかる。
 ヴォルテールさんの娘さん達は少なくても二人はメイドさんという家だ。多分、ヴォルテールさんの奥様もメイドだったに違いない。そうなると、お店を出すことに抵抗感があるに違いない。ヒーちゃんが素直に相談できないくらいだもの。絶対にそうだ。
「時期を見て少しずつ話をして行くしか」
「うん。そのときはティーダも協力してくれる?」
「え? うん。できる限りは」
 巻き込まれてしまった感じだけど、嫌な感じはしなかった。これだけの猫たちだもの。必ず欲しい人はいるはずだ。
「ありがとう。ティーダ大好き」
 ヒーちゃんが抱きついてきた。
「でも、大変だと思うよ」
「うん。奥様も一年は大人しくメイドをやってからにしたらって。でも、ヒーちゃん我慢できない。今すぐお店を開きたいの」
「でも、お店で売るとなると、もっと、もっとたくさん作らないといけないだろうし。準備もきっといるんじゃないかな?」
 私は思いつきをそのまま口にしたけど、同じ事を奥様に言われたことがあるのか、まだ納得してない感じで「うん」とうなずいた。
「ねぇ、ティーダ。ティーダにはどんな夢があるの」
「私?」
 ヒーちゃんにそう問われて初めて知った。
 夢。
 寝るときに見る夢以外、私は夢を見たことも抱いたこともなかった。
 働くところと、寝るところと、食べるところがあれば十分で、まとまったお金はみな孤児院に寄付していた。
 あのメイドを志すきっかけとなった漫画のように、素敵な出会いがあればなんて思ったこともない。
 日々ぼんやりなんとなく仕事やってて、ものすごくピンチになっても漫画のことばかり考えていて、それでヘマやって追い出されて、でも脳天気で……。
 十年後の私ってどうなるんだろ?
 それどころか、一週間後の私すら考えつかない。
 何をしていたんだろ?
 私って何なんだろう。
 何も……ないや。
 指先がヒーちゃんのように器用でもなければ、センスある食事を作ったこともない。
 軽い驚きと、それ以上に重たい失望感が私を捉えた。
「うーん。ティーダ表情が暗い。夢がすぐに思い出せなくたっていいじゃない」
「え、いえ、そういうわけじゃ」
「ねぇ、ティーダは何が好き?」
 何を言おうか少し迷った。まさか素直に漫画が好きなんて言えない。
 わずかな迷いに、ヒーちゃんは言葉を続けた。
「ヒーちゃんは漫画が好きだな」
「え? あ、私も好き」
 驚きが声にも隠せなかった。初めて漫画が好きだという人に会ったような気がする。確かに小さな頃は私の周りにも漫画の世界に憧れを抱く子は居たけど、十歳を過ぎる頃には卒業してしまう。
「ティーダはどんな漫画が好きなの?」
「うーん。いろんなの読むけど、基本は明るい話かな。恋愛もいいけど、友情がテーマなのが好きかも」
「筋肉ムキムキの人たちが戦う奴? お前はもう……」
「強敵を友と読ませる話しは嫌いじゃないけど。そうだ。そういえば、お勝手口から入ろうとしたとき、クラブ活動で音楽をやる話しを思い出してた」
「え? 何で? 後輩が猫みたいな女の子の話しでしょ」
「うん、それ。あの物語の一番最初。主人公が扉を叩こうか迷うの」
「あ、部長さんが主人公を強引に部室に連れて行くんだよね」
「え?」
 あのときの主人公は自分の手で扉を開けたはずじゃ?
「最初、楽器なんてできないから断るつもりだったのに、みんなで美味しいお菓子を食べて、演奏を聴いて、仲間になるの」
 心の中に、その姿が思い浮かんできた。

   * 

 主人公は、扉をノックするか迷っていた。
 クラブ活動にまだ一度も参加してないのに、楽器は難しいから無理だと諦めていた。扉をノックしなければいけない理由も、クラブを辞めるため。でも迷っていた。
 背後から突然、音楽の部長さんに肩を叩かれ、なぜか有望な演奏者と勘違いされてしまう。
 部長さんが、戸惑う主人公の手を引っ張りながら勢いよく扉を開ける。 
「みんなー  入部希望者が来たぞー 」
「本当か!」
 部長の幼馴染みが顔を上げる。
「まぁ」
 主人公よりも先に、仲間に加わった子が満面の笑みを浮かべる。

   *

 そっか。そうだった。
 あの主人公は、参加するためではなく、断ろうとして扉の前で迷っていた。でも、姉御肌で勢いの良い部長に手を引かれて物語が始まるのだ。
「私もヒーちゃんに手を引っ張って貰って、早くブラック家の一員にならないと」
「えー、ヒーちゃんでこちゃんはイヤだな」
「おでこは出てなくても、ヒーちゃんはメイドの部長さんだよ」
「うん」
 ヒーちゃんはご機嫌な様子で頷いた。
「あ」
 小さく声を上げてしまった。
「どうしたの?」
「早く。晩ご飯の用意を始めないと。遅れたら大変」
 初日から大失態なんて目も当てられない。 
「うん」
「台所で相談しながら、作らない?」
「うん。ティーダ行こう」
 ヒーちゃんに手を引かれながら、夢とか、料理に引目を感じることとか、そういうことを抜きにして、今は、ここで頑張っていこうと思った。
 漫画なら、私の物語は第二部が始まったばっかりだから。

私の奥様は魔女!

イラスト:藤原あおい 『ねこぼうしあいこうかい』 http://maho.amaretto.jp/

私の奥様は魔女!

取り柄なしのメイドさんが魔女の家に雇われる話。 イラスト:藤原あおい 『ねこぼうしあいこうかい』

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-08-17

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