私と貴方とあの子

私と貴方とあの子

私とあの子の、なにが違うんだろう。

体型?顔?性格?

身長も体重もきっとあまり変わらないくらいだし、あえて言うならあの子のほうが胸は少し大きいかも。顔はまぁ部類は違くても私もブスではないと思っているし、性格はあの子と同じようにいろんな人に分け隔てなく接してるし、いつも笑顔でいるほうだと思う。あの子のほうが落ち込み易いかな。

出会った頃から割といつも一緒に居たと思うのに、暫く姿を見ないうちに、貴方の隣はあの子になってた。

私と同じことをしていて、あの子となにが違うのか。

同じこと、では無いのかもしれないけど。
笑いあったことも、一緒に帰った帰り道も、一緒に食べたご飯も、一緒に遊びに行った場所も、私とは普通の景色で普通に楽しいだけだったのかも。二人で居て心臓の音がうるさかったのも、私だけだったのかも。

きっとあの子といる時の貴方は周りの景色ももっと輝いて、食べたご飯は美味しいんだかそうじゃないんだかの判断も出来ないくらいで、あの子と過ごす貴方達は二人とも心臓の音がうるさかったんでしょう。

好きになったのは、いつかわからなかった。
ただ、なんとなく過ごしやすかったから一緒にいて、一緒にいる時間をもっともっと増やしたいと思った時には、私の心臓はうるさかった。
近付くだけで、話しかけられるだけで、中学生や高校生のように、私の心臓は高鳴った。

2人でお酒を飲んで帰る帰り道に近くなった距離にも、おぼつかない足取りで歩く私の手を引いて歩く貴方の掌にも、数日頭から離れられなくなるくらいだった。

「お前だから言うけどさ」

この一言を聞いた瞬間に一瞬でも期待した自分をひっぱたきたい。バカ!これから聞きたくもないことを言われるのよ!ってね。

「…どした?」

首を傾げて平静を装いつつ返事をする。

「好きな子、出来たんだよね。んで、この前告ったら…告白とかガラじゃねーとか言うなよ?」

私の思考回路は好きな子、出来たんだよね。ここまでで止まった。
私が笑いながら貴方を弄るんだろうという事を先読みして言った一言の後、回らない思考回路でなんとか返事をする。

「なにそれ、本気のやつ?」

小麦色に焼けた私とは正反対の顔色が、段々と熱を帯びて赤くなるのがわかる。
顔を反らして口を抑えた後、にやつきを収めてから話し出す。耳、真っ赤だよ。そんな事を思いながら自分の涙を引っ込める。

「いやほら、お前この前風邪ひいてしばらく来なかったじゃん?そん時話しかけられてさ、いつもお前と二人だったから話しかけられなかったって。そんなの気にしないのにな、お前。」

…いやいや、気にするよ。
貴方と一緒に居るために私がどんだけ周囲を遮断してると思ってんの。それにしても、あの子は以外にも積極的らしい。見る限りでは、誰にでもあまり変わらない雰囲気だったのに。それで?といった感じにアイコンタクトを送る。

「で、さ。まぁそこから一緒に帰るようになったりよく話すようになったんだけどさ、なんか反応が素直っていうか、なんか可愛いな。って思うこと増えてさ。…ってあーもう!俺気持ち悪い!」

可愛いな、っていう一言を聞いた瞬間、心臓がまたうるさくなった。いつもの心地いいうるささじゃなくて、痛みがある。照れて前髪をくしゃくしゃにする貴方を眺めつつ、精一杯のにやけ顏を作って、返事をする。一刻も早く家に帰って、ベットに潜り込んで枕に顔を埋めて叫び出したいのに!

「それで、好きだな、って?」

精一杯の皮肉と意地悪だった。喋りすぎたら、まくし立てて貴方を責めて、泣き出してしまいそうだったから、短く。

「にやつくなよ。そう。それであー俺この子のこと好きなんだな、って思って。気付いてからはもう、黙っていらんなくてさ。」

ここまで言って照れた顔が真面目な表情に変わった。私はというとにやけ顔がうまくできていた事に悲しくも安堵しながらその表情を保てますようにと祈りながら返事をする。

「で、告白したんだ。まぁ秘密とかできなそうだもんね。」

「うるせーよ。そしたら泣き出しちゃってさ。」

おっと。私と似た性格っていうのは、ここで撤回かな。間違っても私は泣けるタイプではなかった。貴方は私の返事を待たずに続ける。

「話しかける前から好きだったって言ってくれてさ、お前と一緒に居るのに、近付くのも自分がずるい気がして嫌だった、って。でもそういう事よりも、気にできないくらい好きだった。って。」

また真っ赤になる貴方の頰を掴みながら、返事をする。

「なんなの、惚気?やめてよねー私はあんたのお母さんかお姉ちゃんの気分だったわ。」

こんなこと言いたくない。私だって、貴方が好きなんだよって言いたい。バカって叫びだしたい。でも、よかったねって言ってくれることを待ってる、仲のいい友達として、私だけに話してくれている貴方を裏切ることもできない臆病者な自分に嫌気が刺す。

貴方の頰を掴む私の右手を掴み、真剣な顔をして私を見る。言葉に詰まって手を振り払い、最後の大仕事にかかる。

「よかったじゃん。私に誰も好きにとかなれねーわって言ってたくせにね。恋人いらない誓いは決裂ね。」

皮肉めいた言葉と顔をあなたに投げつけ、振り払った右手で貴方の髪を撫でる。もうこれ以上、こんな話はできない。

「今日さ、用事あったからこんなもんでいい?これ以上あんたの惚気聞いてたら胸焼けするわー。」

笑いながら立ち上がる。

「うるせーよ。したら一緒に駅まで行くわ。」

もう、貴方のそういうところが好きだけど、今は嫌いだよ。一緒にいたら、泣けないでしょう。

「いや、迎え来てるからいいや。連絡来たし。」

鳴ってもいないスマートフォンを持ち、席を離れる。

「ここは、奢ってよね。」

無理して作った笑顔で伝票を差し出す。

「はいはい、ほんと抜け目ねーな。」

大好きだったあの笑顔になり、私の手から伝票を抜き取り、レジに向かう。

お店を出て向き合い、前かがみになって、言う。

「速攻で別れるんじゃないよ!」

「おう、お前もいいやつできたら教えろな。」

しばらくそんな人できないよ。と心の中で返事をしながら振り向きざまに手を降る。


数年経って、好きだったことを笑い話になんてできるのかな。とりあえず今日はお酒とお菓子と好きなものをたくさん買って、自分を慰めてあげなくちゃ。よくやったよ、えらかったね。って。

また貴方とあの子を見た時は、笑ってからかえるくらいにならないと、きっと次は喧嘩の相談か、乙女心がわからないって相談が来るから。

「お前だから言うんだけど、か。」

私だって貴方だから言いたかったよ。



もう、帰ろう。おぼつかない足取りをリードしてくれる貴方はもういないのだから。

私と貴方とあの子

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私と貴方とあの子

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更新日
登録日
2015-08-16

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