隻眼の人形使い マリオネット戦記

 女の子が泣いている……後ろには真っ赤な夕焼けが……顔は逆光で見えないが、夕焼けのせいなのか目を真っ赤にて涙を流してるのが見える……男の子を抱きしめて……女の子は何かを喋ってるが……何を言っているのかわからない……その瞬間真っ白な光に……光……光の流れ……いや、これは情報の流れ……情報の渦……ただの0と1の塊しかないのに……それは言葉であったり音楽であったり写真であったり……今回は誰かの記憶だったらしい……
 ボクはその流れの中に身を預けていた『ネットは広大だわ』と誰かが言っていたが、まさしくそうだなネットは広い、広いなぁ。
 ボクの左目にあらゆる情報が集まって来る、どれも何気ない情報だ……ん?何気ないファイルが目に入った『プロジェクト マリオネット システム(PMS)レポート』?
 ちょっと、気になりそのファイルを開けようと手を伸ばし……

第1章

「にーさま、朝だよー、にーさまー」
 ボクの頬をペチペチと小さな手でたたくので目が覚めた。
「あっ起きた」
 ん?もう朝か、おはよ。
「にーさま、おはよー、またネットにダイブしてたよ」
 ああ……またか……最近、無意識にダイブしちゃうな。
「はい、にーさま、これ」
 と、手には黒い眼帯を差し出してきた。別に黒でなくてもいいけど、どこかの少佐の様に白地に青のストライプにしようか、それともドクロマークを入れれば海賊っぽいかなっと思いながら眼帯を装着して着替えを始めた。
 そういや今日から学校か……ボクは4月から高校1年生になるのだ、うん面倒。
「にーさま、そんな事言わない、めっ!」
 ちなみにこいつは妹ではなく、父さんが作った自動人形
オートマトン)、全長約28cm、オッドアイで白黒猫をイメージして制作したらしい。正確には父さんの設計図を元にスモールサイジングしたものだ。等身大で作ってもらっても良かったのだが、夜のお供のお人形さんと勘違いされるのは絶対にイヤなので。
 猫耳にしたのはセンサーやアンテナ類を本体から離すため、だったらうさ耳の方が効率が良いのだが、ボクは猫耳が好みなんでね。ちなみにこいつの名前は、パフェだ。
 パフェはボクの思考を読んで応答する様に設計してある、だってボクは喋れないし……
 おっと自己紹介忘れた、ボクの名前は摩耶 零夢(まや れいむ)7年前の災害で、左目と声と記憶を失った。ボクの声の替わりにパフェを作ってもらったのだ。
 しかも、成長の速度が遅くなったのか?止まったのか?、身長140cm体重35kgと5年前からほとんど変わってない……
 真新しい制服に袖を通して……。
 ふわぁ、ああ……眠い……さて顔洗って朝飯にしよう、パフェ行こうか。
「あいっ!」
 と、パフェはひょいっと肩に乗って来た、だいたいここが定位地、人混みが多い時は胸ポケットの中。
「かーさん、おはよー」
 パフェがいつも通り元気に挨拶する。ぼくは右手をちょいと上げる。
「レイ君、パフェちゃんおはよう、いつも元気ね」
「あいっ!」
「かーさんも今日から転属先で仕事なんでしょ?」
 とか話しながら朝食をとる、仕事内容は機密事項が多いので、こちらからは聞かない様にしている。どこでなにをしているのやら……

 母さんの名前は、晴海(はるみ)年齢は永遠の17歳+α、職業は医師で生体物理学者だ、ボクの左目に怪しげな機器を埋め込んだ張本人、なんでも思考制御デバイス試作0号機だそうだ。
 これを埋め込まなかったら一生植物状態のままだったらしいく。災害で救出された時は、何かが左目を貫通して左脳までダメージを受けていて、さらに口から熱い空気を吸ったらしく、重度の火傷で声帯を失ってしまいかなり重症だったらしい、意識を取り戻しても右半身は麻痺したままだったそうだ。
 というか、当時実際そうだったのだ、思い出してもおぞましい……。

 災害に巻き込まれ、救出された時点で生きているのが奇跡だと言われたらしい。すぐに緊急手術を受け一命を取り留め、その時にデバイスを埋め込まれた。もちろん執刀医は母さんだ。脳に入った異物は手術では取り出せない深さにあり、すでに脳内組織と癒着してたそうだ。
 検査の結果、その異物はガラス状の物質で毒物や放射線等は検出されなかったので、そのまま様子見って事で置かれたのだ。
 その後、3ヶ月は意識が戻らなかったそうだ。
 意識を取り戻した時、心と身体の不快感に気づいた、目を開けている筈なのに何も見えなく右半身はどうしても動かない、右耳から音が聞こえない……
 辛うじて左耳からは音か聞こえるが、何か語り掛けられている様だ……が、何を言っているのか理解が出来ない……
 この時の姿は、頭には脳波測定用のコード、胸には心電図のコードに栄養分を取る為のチューブが直接胃に入ってる、左腕には動脈に血圧を計る為の針が刺さっていて、静脈には採血と点滴用の針が刺さっている、指先には血中酸素濃度を計る為の洗濯バサミの様な物が、鼻口には酸素マスク、尿道カテーテルにおしめ、などなどスパゲティー化した有様だった。
 意識はあるのにコミュニケーションが出来ないっていうか言葉が浮かばない、考えられない……自分はどこの誰なのか?……ここはどこなのか?……しばらくして辛うじて右目が見える様になって来たが何が映ってるのか理解できない……
 そんな生きているか死んでいるか分からない状態が1ヶ月続いた頃、いきなり激変が来た。
 頭が割れる様に痛い!痛い!痛い!『ああっ!!』声にならない叫びを上げたが誰も気が付かない。脳波と心拍計の異常アラームが鳴り響く、看護士達が駆けつけるが対応に苦戦している。その痛みは段々と顔面から首、胸、腕、腹、足まで広がって全身激痛まみれ……触られる、いや肌に触れてる物だけでも激痛が走る!その時異変が起きた。
 身体をモニターしていたノートPCから音声が、
「痛い!痛い!痛い!……苦しいよう……誰か……助けて……」
 看護士達が一瞬何が起きたのか互いに顔を合わせたが、看護士の1人が呼びかける、
「痛いの?苦しいの?」
 ノートPCからの音声が。
「ああっ……痛い……助けて……」
「鎮痛剤用意!急いで!!」
 点滴チューブから鎮痛剤を投与され、薬が効いたのか眠ってしまった。
 あんなに鳴っていたアラームも静まって、正常値を示してる。
「ふぅ……なんとか、なったわね……」
「PCから声が?……どうなってるの?」
 看護士達は首を傾げていた。
 そう、このノートPCには、そんなソフトはインストールされていないのだ、疑問に思うのは当然のことなのだ。
 激痛に襲われていた頃、ボクは妙な感覚に陥っていた。体中が痛いのに、痛みを感じて無い、もう1人の『自分』がいる感じだった。この『自分』は、光の流れの中に居て出口を探してる。そして、見つけてしまった。そうそれは身体をモニターしているノートPCだ。
 それに付いているWEBカメラから外を見たら、そこには、苦しんでるボクを懸命に看病している看護士達が見える。『自分』は、ボクの思念とPCのスピーカーを繋げて音声を伝える事にして……成功した。
 これが最初のネットダイブだったようだ。
 その後、容態は急速に良くなって行った。
 今まで、もやもやしていた思考はすっきりはっきりして、何を言われてるのか分かるし、目も何を見ていてそれは何なのかも理解出来ている、そして動かなかった右半身も徐々に動ける様になって来て、口から物を食べられる様になったから胃に繋がってるチューブも取れた。
 精密検査で、CTやMRI等で見たら、デバイスから根の様な物が出てこれが脳神経の役目をしているみたいだった。これは一種の生体コンピューターなのだろうか?
 あの時の激痛は現存の神経とデバイスの回路を繋げる為の作用だったらしい。また謎の異物からも根の様な物が出て、これはどういう役目をしているのか未だ不明のままだ。
 どうやらデバイスは左脳の働きをしている様で、これは一種の電脳化なのだろう。でも声は取り戻せなかったなのが悔やまれる……
 そして、ボクともう1人の『自分』との境界線がだんだん曖昧になって、やがて1つの意識に融合したようだ。

 パフェには、思考制御デバイス量産テスト1号機が搭載されている。このデバイスは一種の人工知能で短期間で出来る物ではない。ボクに埋め込まれたデバイスを元に自分でプログラムを修正して進化するAIなのだ。それでなか、なかなかボクと相性がいい、反応も同期も時間差ないし、ただし代弁するのに時間差があるが。

 家族は、父さんは応用ロボット技師で某国にある本社に出向中、あと妹が1人いるが父さんに付いて行って留学している、来年受験だかどこに行くのだろ?
 そうそう、ボクは血の繋がった家族でなく養子にしてもらったのだ、例の7年前の災害の時に本当の家族は行方不明になったらしい、1つの街が廃墟になった位だ。
 死者・行方不明者合わせて5万人とも10万人とも言われている、しかも役所のデーターも全滅していて、当時8歳のボクの身元は分からなかった。
 っと言うより、本当に8歳だったなのか?怪しいのだが……
 身体的な特徴で8歳だろうと推測したらしい、そして新しい名前と誕生日をもらった。
 まあ記憶がばっさり消えているので、悲しむ必要はなかったけどね……

 さて、学校に行こうか、今日の予定は入学式と、その後はクラスに行って自己紹介とかするらしい。
「かーさん、行ってきますー」
 パフェがそう言うと肩に乗ってきた。
「4月なのにまだ肌寒いな……」

 ちなみに、この街は例の災害の復興の為に国が全部買い上げ再建した研究都市の様な所だ。
 様々な国の研究施設や企業の開発設備を扱う為にセキュリティが厳しく、特別に発行したIDがなければ住めない所で、災害の教訓から各所の地下に避難所(シェルター)が設けられていて、収容人数はこの街の人口3~4倍は可能だそうだ。
 月に1度避難訓練をするほど徹底されている。この街のに住みたがる人は多いのだが機密施設が多いので簡単にはIDが手に入らないらしい。
 街の地下には網の目状に軌道車(トラム)が敷設されていて、1車両4人乗りの無人車が無数に走っていて、予約をすれば50人乗り用の大型トラムも来る。
 これは、鉄のレールと車輪ではなくゴムタイヤを使用してるので揺れや振動が少なく乗り心地は非常にいいのだ。
 駅でIDカードを非接触式カードリーダーにかざすと1分以内に来る、そして乗り込み行き先を音声またはキーボード入力すると自動的に最寄りの駅まで連れてってくれるシステムになっている。
 トラムは客車だけでなく貨物車もあり、そのおかげで地上では自動車はほとんど走っていない。

 そうそう、災害ってのは正体不明の『アレ』が出現する時に発生する、『重力衝撃波震動』通称『重力震』の事だ。直接『アレ』の攻撃を食い止める事は出来ないが重力震なら耐えられる設計になっている。
 重力波異常として予知が出来るので、事前に警報が鳴り直ちにシェルターに避難する事になっているのだ。
 この街は、『アレ』に対処する為に造られたと言っても過言ではないほどの設備だ。
 
 等々と昔を思い出しながら、とぼとぼと歩いて行くと学校が見えてきた、目の前に女生徒が歩いている。
 あれ?なんか見覚えのある様な?
 ん?あの角……なんかヤバい!
 直感がそう訴える。
「にーさま、自転車が!」
 パフェのセンサーも異常を捕らえ、とっさにボクは目の前の女生徒の手を引っ張る。
「えっ?なに?」
 女生徒が振り向いたと同時に目の前の角から自転車が減速せずに猛スピードで通り過ぎて行った。あと1歩出ていたら大事故になる所だった。
「きゃっ」
 女生徒は短い悲鳴を上げてしゃがみ込んでしまった。
 うん、自転車の一時停止違反だね危ないな。パフェの映像記録を提出しないと、自転車の人ご愁傷様……。
「大丈夫?」
「あ……ありがと……って。あれ?その眼帯にそのお人形さんは……レイレイとパフェちゃん?」
「えっ、えっと、君は……ミオミオ?」
「やっぱりレイレイだ~久しぶり~元気してた?」
 彼女、ミオミオの名前は神尾 美緒(かみお みお)小学校からの幼なじみで、しかもお隣さんだった。互いに2階に部屋があって窓から手を伸ばせば届きそうな距離にあり、かなり親しい関係だった。
 退院した当時は、まだ右半身の麻痺が残ってて杖を持てば何とか歩ける状態だった。そんなボクを何かと助けてくれたのがミオミオだ。
 いつの頃からか『レイレイ』『ミオミオ』と呼ぶ仲になっていった。
 小学校卒業と同時に親の仕事の都合で引っ越してしまって会うのは3年ぶりぐらいか。
「ミオミオおっきくなったね、びっくりしちゃったよ」
「ちょっとぉ、どこ見てんのよ」
 っと、言いながら両手で胸を隠した。
「違う違う、背だよ背、ボクより頭一つ分以上大きいじゃないか」
 ちょっと言い分けっぽく言ってみた。実際ミオミオは胸も大きいのだ、この様子じゃ結構気にしてる?地雷を踏まない様に気を付けないと。
「そういうレイレイは変わって無いわね。そうそう外では、あんた結構有名人よ知ってる?」
「うーん、地上波は見ないから分からないな」
「何、観てるのよ?」
「CSのドキュメンタリー」
「何それ?」
 ミオミオの話では、民放のワイドショーとかで特集を組まれていて結構ボクの事を紹介しているらしい、個人情報をなんだと思ってるのだ。
 そういえば、最近取材申込の電話が多くなってるがすべて断ってる。家の電話番号は非公開の筈なのに、どこから聞きつけたのか?
 その手の番号は即ブラックリスト入りして2度と掛からない様になっている、もちろん番号不表示も着信拒否の設定になっている。
 マスコミは、機密情報満載のこの街には入れないので、パパラッチ等はいないはずだ、仮に盗み撮りする様な不審者が居ても、監視カメラや無人偵察機(ドローン)が巡回してるのですぐに見つかってしまうだろう。

「もうすぐ学校だね」
「うん」

 学校はこの街の一角にある『国際黄金三星高校(こがねみつぼし)』通称『金星』だ、ひょんな事でボクはここの『マリオネット システム(MS)科』に入る事になってしまった、本当は『情報システム開発科』を希望だったのに……

 入学式では、校長先生のイヤになるほどの長ったらしい挨拶……これはもう拷問としか考えられない、子守歌に聞こえてしまって寝てしまいそうだ。
 あと新任先生の紹介、生徒会長の挨拶等々永遠と思われる時間を過ごした。本来は理事長の挨拶もあったのだが、緊急の用事が出たとかで欠席したようだ。
 でも、生徒会長の見事なツインテールに目を奪われてしまったのは内緒だ、ボクより1つ年上なのに子供っぽい体型……それにツインテールが良く似合う、ボクは別にツインテール属性はないけどね。
 この学校では、2年生が主な活動をしているので生徒会長や部活部部長も2年生だ。3年生は相談役に徹していて口を挟まない様にする風潮になっている。
 そして、なんだかんだと滞りなく終了、肩に乗ってるパフェに怪訝な目を向けられるが、そんなのは慣れっこだ気にしない気にしない。さてクラスに向かうか。

 『黄金三星高校』とは、この国『大和皇国』が創立した国際高校で軍属の士官学校もかねている。
 しかも結構広い、港がありでっかい訓練船が停泊している。空港も滑走路が5000mもあり余裕で大型機や宇宙往還機が離着陸ができる設計になっている。航空法関連で、ここでは高い建物は管制塔しかない。
 当然、地下には先ほどのトラムが走ってるので、移動には苦労しないで済む様になっている。 
 うわさでは、某国の会社が資金を寄贈したとかで、その会社の社長が理事長をやってる話だ、今回の入学式で初めて挨拶する事になってたのに急用が出来たとかで欠席してしまった。未だに姿を見せてないのでホントに居るの?っていう都市伝説なってたりもする。
 ここには、いろいろな学科があり、その中で特殊な学科が『マリオネット システム(MS)科』だ。
 『マリオネット』とは『アレ』に反撃する為に開発された機体及び制御技術である。
 元々は宇宙開発用のアシストスーツで心臓部となる特殊な『MSコア』を内装する事により強力な戦闘力と機動力を有する事がわかり、これを戦闘用に改造している。
 『戦闘強化外骨格』と言った方が分かり易いだろう、だたしMSコアの適応能力者は非常に少なく、現時点で女性しかなれないらしく、しかも20代前半までと年齢制限付きだ。男性だとMSコアが拒絶反応を起こして近づく事も出来ないようだ。
 『MS科』はコアの能力者の適正向上、マリオネットの戦闘や整備・開発を目的とした学科だ、機密事項や戦闘訓練が多い為にセキュリティの関係で他の学科と校舎は別にある。
 ただし地下道で繋がってるので行き来はできるがIDが無いと入れない様になっている。
 コアの管理運用整備は、ここでしか出来ないので『MS科』は世界中で一カ所しかない、その為に各国から留学生が来ている。

 クラスは、1組で……席も決まってるのか……って、一番真ん前かよ……それより、ここ(MS科)は女子高だったよな?うわさは聞いてたけど……やっぱり男はボクだけ?……視線が痛い……うーむ……居づらい、あちらこちらで、こそこそ話ししてるし……。
 そう、さっきのミオミオの話で、『男性初のマリオネットパイロット』言う特集の影響なのだろう、自分の知らない所で話題になってるのはイヤだな。
 廊下に面した窓には、他のクラスの子が覗いているし、ボクは見せ物じゃないって……
 チャイムが鳴って、先生が入って来た。ショートカットで小柄のくせに胸がでかい、思わ目が釘付けになってまう。
「このクラスの担任になりました、『蒲原 由比(かんばら ゆい)』です。皆さんよろしくお願いします」
 っと、ぺこりとお辞儀をして、たゆんと胸も揺れた。
 うん、由比先生かわゆい。でも巨乳が趣味じゃないぞ……ないと思う……ないと……てっ、ボクは巨乳属性かよ!と一人突っ込みをしてみる。
「それでは、簡単に自己紹介と行きましょうか、最初にこの科で唯一の男子である摩耶(まや)君からお願いします。」
 ……いきなりボクからかよ。
「……」
「……ほ、ほら、皆さん気になってるでしょうから……」
 仕方がないな、そういや『仕方ない』って言葉は嫌いって誰が言っていたな、ボクは肩に乗っていたパフェを両手に乗せて、目の前に持ってきた、教室中から。
「猫耳っ子!!」
「きゃー!!」
「かわいいっ!!」
 とか、黄色い声で耳がキンキンする、見かねた由比先生が。
「はいはい、静かに摩耶君が困ってるでしょう」
 教室が静かになった所で、パフェがぺこりとお辞儀する。
「初めまして、ボクは自動人形(オートマトン)のパフェといいます。にーさまの名前は、摩耶零夢(まやれいむ)といいます、にーさまは、7年前の災害で左目と声と記憶をなくしてるので、にーさまの言葉はボクが言いますのでよろしくでーす。」
 なんか教室の雰囲気が変わったぞ、ただの人形好きかと思われたのか?引き気味だったが好奇心に変わった様だ。
 さすがに特集では、パフェの事まで詳しく報道されなかったらしいな、もし取材を受けてたらどんな事に巻き込まれるかたまったものではない。
 とかなんとか、一通り自己紹介が終わった。ミオミオも一緒のクラスだとは思わなかったよ。
 MS科は1クラス24人、多少前後するが……6組まである、少数精鋭ってより適正者が少ないので何とか集めたって所だ。
 1組と2組は空戦専用機、3組と4組は水戦専用機、5組と6組は陸戦専用機のクラス別になっている。
 だたしマリオネットのパーツは互換性があるので、ユニット交換をすれば空戦機でも海戦戦闘や陸戦戦闘もできる仕様になっている。

 ちょうど、チャイムが鳴った取りあえず休憩だ……さて……どうしたものだろう……なんか、いきなり囲まれたよ。

 そこへ、1人の女生徒が。
「摩耶君、ちょっといい?」
 と、ボクの手を握って教室から出ようとする、確かこの子は『家山ぬくり』さんだったか。
「何?」
「私のレイレイをどこへ連れてく気!」
 ミオミオよボクはおまえのか?
「何あの子?知り合い?」
「どんな関係?」
 などなど、後ろから声がするがそのまま連れて行かれた。
 連れて行かれた所は屋上でなかなか景色が良いな。
「摩耶君、久しぶりだね」
 え?、前にこの子に会ったっけ?パフェに思念を飛ばして。
「えっとボクと、どこかでお会いしましたっけ?」
「7年前に会って……ああ、確か記憶を……いや去年の夏にビッグサイトで……」
去年の夏って?あれか?ビッグサイトには、それしか行っててなかったはずだ。
「ロケット博ですか?」
「っ……」
 
 なんかドアの方が騒がしいな?
「ちょっと、押さないでよ」
「静かにして」
「あの2人、何の関係かな?」
「今、良い所……」
 等々聞こえる気がする。

 ぬくりさん、なんか歯切れが悪いな?たしか7年前っと言ったよね?
 そこで予鈴が鳴った。もう教室に戻らないと、彼女もすっと歩きだした。
「続きは、今度……」
 うん……そうだね……何だったのだろ?
 室内に入るドアへ向かい、ボクもあとを追う様に付いていった、そしてドアを開けると数人の女生徒が重なる様に倒れて来た。
「いたたた……」
 この中に、見知った顔が居たので、
「ミオミオ何やってるの?」
「いやー、何でもない何でもない」
 と、言いながら逃げていった。
「ったく、何やってるのやら……」

「零夢君……いや……玲音(レオン)君……あの……夕日の事は……覚えてないの……?」
 彼女が小さく呟いたのは聞こえなかった……

 席に座ってちょうど本鈴がなった、しばらくして由比先生が入って来て。
「今日遭ったばかりで、名前と顔が一致でないと思うのですが、1週間後にクラス代表を決めたいと思いますので、誰がいいのか検討してください、自薦他薦は問いませんよ」
 それを聞いて1人の女の子が、ミオミオが質問をしてきた。
「由比先生、クラス代表って何ですか?」
「それはですね、学級委員とかのようなもので、いろいろなイベントに出てもらうクラスの顔の様なものですよ」
 うん、絶対にイヤだ面倒、それを聞いてミオミオが調子に乗って。
「だったら、レイレじゃない……摩耶君がいいと思いますっ!」
「おおぉ」
 アチコチでいいねいいねと声が、おいおいやめてくれよ。
「ちょっと、まった!」
 ん?誰だ?あの子は確かスオム公国から来た、アイノ ハララ(Aino Harala)さんか。
「そんな奴よりA級機候補生のあたしがふさわしいんだな!」
 推薦してきたミオミオが言い返してきた。
「そんな奴ってなによ!スオムってめちゃまずいキャンディの国なんでしょ、味覚おかしいじゃない?」
「サルミアッキをバカにすんな、このうしちちが!」
「誰が、うしちちですって!」
 あちゃー、アイノさん地雷踏んじゃったよ。
「うしちちがイヤならホルススタインでどうだ?」
「ホ、ホルス……そういうあんたは、洗濯板じゃない!ああ、洗濯板に悪いか。まな板でいいわね」
「なっ!!」
 おいおい……ミオミオも地雷踏んだみたいだ。実際アイノさんは残念賞なのだが……
「貧乳はステータスだ、希少価値だ!」
 ……アイノさん開き直るなよ、胸張って自分でそれ言う?
「乳こそがこの世の理。豊乳は富であり絶対、貧乳は人に非ず!!」
 ミオミオも何言ってるの!!
「な、なにおー!!」
 あちゃーアイノさん爆発寸前だよ……
 って、由比先生止めてよ!!
 「ホ、ホルススタイン……」
 あらら……こりゃダメだな。由比先生も気にしてたのかショックを受けて固まってしまっている、どうしようもない……
 そんなやり取り見ながらボクは、『あっ』と思った、A級機候補生は専用機持ちって事だ、マリオネットの実力が桁違いのエリートだ。
 専用機持ちは軍隊で実力を証明したエースの証し、滅多になれるものではないのだ。
 ボクは、2人の間に入って止めに入った。
「ちょっと!2人とも待って待って!A級機候補生だったらマリオネットの実力が違いすぎる、ボクには役不足だよ。これはアイノさんでいいと思うよ」
「ふん、分かればいいんだな」
「レイレイ……そんな事ないよー」
 ミオミオが不満そうにつぶやくが、何とか言い合いを止めてくれた。
 ちなみに学園に訓練用に配属されているのは、C級マリオネット。A級機候補生専用機はA級に近いB級機で、総合戦闘力に換算するとB++って所だ、一つ上がればA--になる。
 ちなみ学園機はC-って所で、性能に天と地の差があり模擬戦で勝利するのは難しいかもしれない。
「ちょっと待って、レイ君は去年の夏に『アレ』の中型機を墜したよね」
 え?誰?唐突な言葉が教室のドアから声がして、そして誰かが入って来た、その人はシックな装いに……って、おいっ!
「かーさん、なんでここに?」
「学校では、先生と呼びなさい」
 ペチンと名簿の面でをボクの頭を叩いた、パフェだと壊れるからね。角でなくて良かったよ、だってあれは痛いよ。ってか、そういえばかーさん入学式の時にいなかったよな?
「あの先生って零夢君のお母さんなの?」
「わかーい」
 などなど、また教室がざわめく。
「静かに!私は今日からMS科顧問と担当医になった摩耶 晴海(まや はるみ)です、分からない事があったら私に聞く事いいですね?」
「おば……いや、摩耶先生お久しぶりです」
 ぺこりと挨拶するミオミオ。
「あら、美緒ちゃんじゃない元気だった?」
「はい!」
 母さんが顧問になったのは知らなかった。早速アイノさんが噛みついたよ。
「ちょっとまった!中型機を墜したとは聞き捨てならない、あれはそう簡単に墜ちないはずだ!」
「わたしもそこに居た……詳しく知りたい……」
 って、ぬくりさんそこに居たのかよ。
「中型機を墜した?」
「まさか、そんな事……」
 また教室がざわめく、ショックから立ち直った由比先生が。
「摩耶先生、それは禁則事項では?前にそう言われたのですが?」
「MS科内では情報を共用しましょう、外では極秘扱いです。いいですね?」
 母さんがいいと言うのならいいのだろ。
 なんでここに入学する事になったのか、話す事になってしまった。

「それじゃ、レイ君話してちょうだい」

第2章

あれは、去年の夏だった……

 父さんの会社が主催する『ロケット博』が東京国際展示場(ビッグサイト)で開催するのでに見に行く事になった。
 ビッグサイトとは、『コミケ』や『WF』や『ドルパ』等々いろいろなイベントをやってる所だ。
 今回のイベントは一般公開日でなく企業商談会の招待状を特別にもらったので、人混みの苦手なボクには幸いだった、この手のメカ物は好きだから、行かない手はない、各企業のお偉いさんの接待は勘弁だが。

 さて、行くとなるとまずはその交通手段だ、まずは最寄りの駅から電車で30分で新幹線の乗り換え駅に行って、「こだま」に乗り換える、この駅は「のぞみ」は素通りするし……忘れずに駅弁を買っておこう。
 その後の移動手段だが、ここからは消去法で選択しようか。
※これは個人の感想であり、各自都合の良い方法で来館して下さい。
 東京駅からバスで移動は一番料金が安くすむのだが、揺れと車特有の匂いで気持ち悪くなってダメだな。
 品川駅で降りて山手線に乗って大崎駅で「りんかい線」に乗り換えて国際展示場駅で降りる方法は、途中でやたら長いトンネルっと思ったら地下鉄になるので、やっぱ外が見えないとつまらないし、駅から結構歩くしこれもダメだな。
 「水上バス」って手もあるが、浜松町駅から日の出埠頭まで結構歩くし、ちょうど良い出航時間もないからこれもパス、でも晴れた日は後部デッキに座れば、海風が気持ちいいから帰りに乗った方がいいかも。
 やっぱ、新橋駅から「ゆりかもめ」で国際展示正門駅に行った方が良いかも、景色も良いし。途中で大きな橋を渡る前に1周ぐるりと回るのはなぜだろう?
 
 猫耳自動人形(オートマトン)のパフェは、道中ボクの胸ポケットに鎮座している。いつもの肩では、人混みの中を歩くには落ちてしまう危険かあるからね。
 そんなこんなで、ビッグサイトに到着、あの逆さピラミッドに何が入っているのだろ?まさか変形してロボットになったりしないだろうな?
 そんな事を考えながら中に入る、確か会場は東館だっなエントランスホールから結構距離あるよ、途中の通路に自動通路?があるのだが動いているのは見たことない、まだ父さんとの待ち合わせに時間があるので2Fのカフェテリアで時間をつぶそうかと思ったら すでに中で父さんがコーヒー飲んでるよ。

「おう、早かったなレイム、パフェ」
「とーさん、早いね」

 父さんの名前は「摩耶 勇夢(まや いさむ)」応用ロボット技師だ。なんでロケットにロボット技師が必要なんだろ?これも、極秘事項なんでこっちから聞いたことはない。
 早速、会場に入ることにした。首に招待状と身分証をぶら下げて、受付でチェックしてわくわくしながら入場。
 おお、流石にすごいなここはNASAのブースか、いきなり入り口にスペースシャトルのオービターがある、これで何十回も宇宙に行ったのか、こっちにはキュリオシティの実物大模型がある、かなりでかいな。などなど探査機の模型や新型エンジンが展示してある。
 こっちはJAXAのブースか、イカロスのセイルの一部がある、意外に薄いのだな。そういや一緒に打ち上げた暁はどうなったのだろ?
 などと見て回り父さんの会社のブースに来た。父さんの会社は某国にあるロケット関係の会社だ。この会社は新型ロケットやエンジン、人工衛星等々いろいろ開発している。
 位置検索衛星、特殊攻撃衛星、暴徒鎮圧用衛星、温度測定衛星、映像照射衛星などなど……空気のない衛星軌道からどうやって音波をとばすとか、空中に立体映像を映すとか謎技術が満載だ。
 その一角に、これらにそぐわない機体が目に入った、ロボット?それにしては、胴体部分が空っぽだし、パワードスーツか?いや……まさか、これは『マリオネット』か!!初めて本物を見た。
 そこには、白い機体が2機ならんでいて、バックバックに8枚翼、ビームライフル×1、ビームソード×2の軽武装だ、左肩に機体番号だろうか、それぞれ『08』『09』と書かれている。
 
『…………』

 え?なに?なんか……呼ばれた?

「なんだ?レイム、それが気に入ったのか?」

 うーん……なんだろ?
 デバイスに共鳴してる?

「こいつは『クラフト08』と『クラフト09』、ゲルマン語で力とか能力とかの意味なんだ、この意味のようにこの機体は、MSコア適応能力者をスカウトする為のS級マリオネットなんだ」
 えっ?S級?
「とーさんS級って?」
「おまえは知らなかったのか、うん良いだろ……マリオネットはS級、A級、B級、C級、D級があるんだ。全部あわせて2万機限定で制作される予定だ」
「なんで2万機なの?」
「マリオネットは1機でも兵器としては強力過ぎて管理上の問題って事……かな……」
 これは嘘だな、なにかあるぞ。

 あと、いろいろ説明された……

 MSコア適応能力者には5段階のレベルがあって、Lv.5はS級、Lv.4はA級、Lv.3はB級、Lv.2はC級、Lv.1はD級マリオネットが動かせる。
 しかも、Lv.5適応能力者は今の所確認されてない。
 では、なぜ誰も居ないのにLv.5の設定があるのか?
 それは脳の処理能力の限界が計算上ここまであるのと、気力維持を高める為だ、人はそこに満足すると努力をしないものだ。上に目標があれば、それに向かって進むだろうと開発者が言ったそうだ。
 もしかしたら、脳の限界を超えたLv.6が出て来るかもしれない。これは特S級もしくはSS級マリオネットになるだろか?とも言っていた。
 現時点でLv.2からLv.4を合わせても、500人も居ない。Lv.5で2000人ぐらいか?
 なぜそんなに少ないのか?それは、Lv.が1つ上がる毎に1000倍の演算処理能力が必要になるから。
 なぜ、その様な事になるのか?と言うと機体の制御が、その分複雑になるからだ。
 D級はシールドを展開するパワーアシストスーツの様な物で、飛行ができないから陸上戦専用機になる。専用ユニットを装備すれば水上戦も出来る様になる。
 C級は、シールド展開と慣性制御で空中に浮かせられるが補助推進力がないと移動できない、陸上戦もしくは水上戦ユニットを装備すれば飛ばなくて良い分、慣性制御コントロールで通常兵器の火力が数十倍になり総合戦闘力はCからBに底上げされる。
 この為に、B級以上のマリオネットはすべて空中戦専用機になる。
 B級は慣性制御だけで推進できて、さらに高エネルギー兵器「ビームライフル」「レールガン」等使用できる。
 A級はさらに浮遊砲台(ファンネル)が使用できる。
 S級はフルスペック+αの能力で稼働できるそうだ。ただし現地点でLv.5の適応能力者が居ない為に、+αの能力が分からず、ここに展示してあるクラフトの総合戦闘力はA+止まりで正確にはS級とは言えないらしい。
 マリオネットの等級が高くなるとエネルギー消費が激しくなり連続稼働時間が短くなるのは、どうしようもないらしい。
 ただし、レベルの高い適応能力者がレベルの高い機体に搭乗する訳ではなく、操作性や稼働時間を優先してあえてレベルの低い機体を好む人もいるらしい。
 B級マリオネットの高エネルギー兵器、特にビーム兵器は長距離になると大気によって拡散・減衰されてしまうので主に近接戦専用になりエネルギー供給があれば戦闘を続けられる。
 通常兵器は長距離攻撃ができる分、弾薬が切れると、だたのデッドウェイトになってしまう欠点がある。
 だが、ユニットに互換性があるから、通常兵器に換装ができるのだが、高エネルギー兵器を通常兵器に実装すると総合戦闘力が、BからC+に下がるのが難点になる。
 重くなって操作性が悪くなるのを承知して両方実装する機体があり、たいたいこれが通常装備になるのだが、この場合の総合戦闘力はB-になる。

 説明聴いてるだけで頭が痛くなってしまったよ……まだまだ話が続きそうだ……
 その時、『ウゥゥゥゥゥー』とサイレンが、ボクのスマホも『ギュイン ギュイン ギュイン!』と警報音が、そして場内アナウンスが。
『ただ今、重力衝撃波振動の前兆を観測されました。まもなく重力震やってきます。だたちにシェルターに避難してください。繰り返します。ーー』

「レイム避難するぞ、シェルターへ!!」

 そう『アレ』が来たのだ、『アレ』とは正式には未知飛行物体通称『マルス』と呼ばれる。正体不明、目的不明の敵なのだ。
 形状はなぜか魚に似ていて、どっかの学者は収斂進化の極みだと言っていた。収斂進化とはサメとイルカが違う種なのに環境に適応して似た姿になる事だ。
「レイムなにしてる!!」
 父さんが、叫んでいるがボクは思わず08の機体に乗り込んだ。
 その時、軽い機械音して目の前にホログラムが展開した。
「こいつ……動くぞ!」
「そんな……まさか……いや……レイムならありえるか?……」
 父さんも唖然としている。
 そこに、08のAIから合成音声が。
『思考言語大和語設定、パイロットLv.5確認』
オラーシャ語やゲルマン語で考えなくていいのか、って、えっ?Lv.5だって?さらにAIが。
『重力震確認、シールド緊急展開、最大出力』
 シールドが展開すると08を中心に直径50mの淡い光の球に包まれ、その瞬間、空間が虹色に歪み強い衝撃波が襲ってきた。
 虹色に歪んだのは、重力波の影響で空間が伸び縮みして光の波長が変わった為だ、光のドップラー効果と言ったらいいのだろう。
 衝撃が収まったら50mの外は瓦礫の山になって、屋根が抜け落ち空が覗いていた。
『マルス急速接近確認、パイロットバイオスーツ未着用、シールド20%強化』
 08の合成音声が続くと同時に、ボクの左目にこいつのデータが流れ込んできた。
『パイロット同期完了、09リンク開始……09リンク完了』
 えっ?えっ?っと思って隣の09を見ると無人で起動している。
「おいおい、どうなってる?こんな機能をつけた覚えないぞ?」
 父さんが戸惑っている。
『08、09発進準備完了』
 ボクは、左目のデータですべてを理解した。09をパフェを通して無人で運用できる事を……
「とーさんちょっと行ってくるね、08零夢、09パフェ行きまーす!!」

 08、09は風切り音を残して急速上昇して一気に遷音速で1万フィートまで上昇した。
「さすがだな、550ノットでこの高度とは、シールドが無ければ即死だな」
 AI音声が。
『マルス確認、11時下方向』
「あれか?確認した、えっと……なにこれ……魚群?」
 それはまさに魚群、魚の群だ、でかい魚の周りに小さいのが群がってる。そいつ等が海面から650フィートの高度で55ノットの速さで陸地へ移動している。
『コードネーム確認、中型機ハンマーヘッド1、小型機レモラ多数、ハンマーヘッドから発進中確認』
 08のAIの報告を聞きながら。
「十数メートルの小型機は分かるが、中型機は数百メートルあるぞ、マジかよ空母よりでかいじゃないか」
 
 それは独特な形状をしていた。中型機は機首の部分がT字型になっていて機体中央にセイルみたいな翼を垂直にそびえていた、まさにシュモクザメ(ハンマーヘッド)に似ている。小型機は機首の真上に小判型のエネルギー兵器発射口を装備している、この姿はコバンザメに似ている。

「まだこっちには気づいてないな、08、使える武器は?」
『ビームライフル、浮遊砲台(ファンネル)、エネルギーソード、チャージ完了』
「パフェ、先制攻撃する、ロッテ戦術をやるぞ。ボクが長機(リーダー)をパフェは僚機(ウィングマン)を頼む」
「あい!」
 ロッテ戦術とは、リーダーが先行して攻撃をする。ウィングマンは、基本的にリーダーの斜め後方30°距離60mの位置に入って援護・哨戒をする攻撃のやり方。
「誰にケンカを売ったか教えてあげる!!」
 それを合図に太陽を背にして急降下を開始、見る間に豆粒に見えていた小型機が大きくなる。そしてすれ違う瞬間にビームライフルを発射、命中と共にマグネシウムが燃焼する様に白熱発光して消滅した。パフェの09も1機撃墜。それに気がついた小型機が反撃、機首のオレンジ色したエネルギー弾、通称『インパクト砲』を撃ってきたがギリギリ回避する。
「どんなに強力な武器でも当たらなければどうって事はない!」
 とは、思いながらも少々焦ってきた、ビームライフルのエネルギーチャージは1発毎に5秒も掛かる、その時間の隙を補う為に浮遊砲台(ファンネル)を展開してるのだが、これの連続稼働時間は2分でビーム砲10発が限度なのだ、そして本体に接続してチャージに5分掛かる。
「くそっ、まだ12機かキリがない……」
 実際には攻撃を開始してまだ3分しかたってない、端から見ると。
 「たった3分で12機も……」
 と、思っているのだろうか?
 だが、クラフトのエネルギー効率は悪過ぎる。ソフト面は今修正したがハード面はここでは無理だ、まだまだ改良の余地が必要だな。このデータを元に新しい機体が出来ればいいのだが……
 さっき、父さんの言っていたのも頷ける、通常兵器で弾をばらまけば小型機には効果がある。
 だが中型機以上では、それでは歯が立たないので高エネルギー兵器が有用だが、近接戦用兵器なので近づかないといけないのが、小型機が邪魔なので中型機には近づけないのだ。
 通常兵器も欲しい所だが……無いものねだりしてもしょうがないか……
「にーさま、8時の方向にマリオネット4機接近中、陸自の部隊です」
 そちらを見るとOD色(オリーブドラブ)の機体が4機が近づくのが見えた。

「隊長……2時の方向に所属不明機が……戦闘してます……」
「ぬくり、確認した。伊久美(いくみ)確認して」
「了解、機種サーチします……えっ……まさか……あれは、クラフト08と09です」
「ちょっと待ってよ、アレはS級マリオネットでしょ?なんで動いてるのよ?しかも浮遊砲台(ファンネル)を展開ってあの子Lv.4なの?」
「一色(いしき)私語は慎んで、伊久美、通信の用意をして」
「隊長、了解しました」

 彼女達は、陸上自衛軍所属の未知飛行物体対策部隊(アンチ アンノウン ユニット)通称『AAU』の小隊、主力機体は陸自最新の12式ダイダロスのバリエーションで構成されている。構成人員は。

  旭隊長、指揮官専用機S型
  ぬくり、前衛専門機F型
  伊久美、電子戦専用機R型
  一色、 局地戦専用機B型

 ぬくりの機体はB級マリオネットでビームライフルが使用可能、他の3人はC級マリオネットで通常兵器を使用する。あと共通装備に各機体には浮遊砲台(ファンネル)が4機搭載されているが、パイロットのLv.が低いために使用不可、そのかわり安定翼と余剰熱量の放熱フィンの役割をしている。

「こちら、陸自所属の黄色小隊隊長の旭です。所属不明機、応答してください」

 あれは、12式ダイダロス?もう配属されているのか、おっと通信が来たな思考を08を介して音声通信設定っと
「こちら、クラフト08摩耶です。どうぞ」

 通信から来た声は少年の声だった。
「えっ?男の子?あっ失礼、こちら黄色小隊隊長、これからこの戦闘は我々が引き継ぎます」
「いや、ここは協力しましょう雑魚は任せます。ボクは大物を狙いますので。通信終わり」
「ちょっと待って!!」
「……」
「隊長、通信切れました。どうします?」
 伊久美が困った様に訪ねてきた。
「私とぬくりが先行して、小型機を攻撃。伊久美と一色は後方から援護、いい?」
「了解」
「ぬくり、あんたの機体は火力があるから長機をやって、私が援護をする」
「了解……」

 うん、あの小隊が小型機を引きつけてる内に体制を立て直そう。ビームライフルと浮遊砲台(ファンネル)にエネルギーチャージをしないと。
「パフェ、いったん離脱上昇、太陽に隠れるぞ」
「あい、にーさま」

 F型が先行して小型機を撃墜、ビームライフルのチャージ中はS型が毎分3000発口径7.62mmガトリングガンを両手持ちでホースで水を撒く様に牽制し。
 R型が敵機の電子攪乱と胴体側面のスタフウィングに設置された懸架パイロンに設置された対空ミサイルの誘導と毎分625発の口径30×113mmのチェーンガンで攻撃。
 B型が背中の大型コンテナに搭載しているマイクロミサイルと毎分200発の口径35×228mmの機関砲で攻撃するコンビネーション。
 しかし、いくら迎撃しても小型機が減る様には見えない。
「キリが……ないです……隊長……」
「ええ、やっぱりハンマーヘッドを何とかしないと」

 よし、エネルギーチャージ完了っと、さて行くか
「パフェ、あのデカ物をやるぞ、09は行けるか?」
「あいっ、にーさまこっちも行けます」
 浮遊砲台(ファンネル)全機展開!
 中型機に急降下接近!
 擦れ違う寸前に一斉射撃!
 全弾命中……
「なん……だと……」
 そう、クラフト搭載浮遊砲台(ファンネル)8機が2セットとビームライフル2丁の火力、計18門のビーム兵器しかもほぼ0距離射撃でも、ハンマーヘッドに傷一つも付いてない、しかもT字型の機首から無数のインパクト砲が襲ってくる。
 それらを避けながら思案する。
「なにが手がないか?……圧倒敵に火力が足りない……パフェ、奴の装甲の弱そうな所スキャン出来ないか?」
 仮にそこがあったとしてもこちらの火力が通じるか?
「あいっ、にーさま見つけました。T字機首と機体下部のヒレの様な翼の間に放熱用らしいスリットがあります」
 確かにあそこなら行けそうだな、ただ相手は数百メートルの大物だ……なにか……手が……あったぞ!!
「パフェ、09を上昇させて待機、考えがある」
「あいっ、にーさま」

「隊長、あの08がこちらに来ます。通信来ました」
 伊久美が報告した後。
「こちら、クラフト08摩耶、全機集まってください」

「私がこの小隊の隊長の旭です。……ええっ!ホントに男の子が乗ってって!!……あっコホン、失礼……えっと、なんの用かな?」
「あなた方の浮遊砲台(ファンネル)とマリオネットを1機借りますね」
「なにを……えっ?」
 クラフト08のAIの合成音声が。
『12式ダイダロスB型をハッキング……ハッキング終了……リンク終了、パイロットリジェクト』
「きゃっ、なんで?あたしのマリオネットが……!!」
 一色が喚いたが無視して、08が彼女を掴んで伊久美に手渡してから08の音声が。
『12式ダイダロス浮遊砲台(ファンネル)同期、起動します』
 各機4機計16機の浮遊砲台(ファンネル)が起動した。
「あなた一体なにを……」
 隊長の動揺が収まらない、何せ無人でマリオネットを稼働したどころか浮遊砲台(ファンネル)まで起動されてしまったからだ。
「なに、ちょっと危ない事です。小型機をお願いします」
 そう言うと、クラフト08とダイダロスB型と浮遊砲台(ファンネル)16機がハンマーベッドへ向かった。

 時間が無いな、浮遊砲台(ファンネル)の稼働時間が短いのが痛いな、さて……
「パフェ待たせた、浮遊砲台(ファンネル)全機展開、右舷に半球状に配置、合図したらスリットに一点集中、突破口に09を盾にしながら08とダイダロスを突入させる。準備はいいか?」
「あいっ、配置完了いつでもいいです」

 ハンマーヘッドの右舷に32機の浮遊砲台(ファンネル)が半球状配置に付く、その間にも黄色小隊は小型機を引きつけてくれる。
「いくぞ!メガクラッシュ!!」
 必殺技?の様な掛け声とともに32門のビーム砲が一点に集中しスリットが爆散して大きな穴が開いた。
「パフェ09シールド最大出力で展開し先行、突入する」
「あいっ」
 ハンマーヘッドのインパク砲を09のシールドで防ぎながら、浮遊砲台(ファンネル)で牽制。
「まずい!再生している!!」
 穴の周辺が発光し、みるみる穴が塞がっていく。
 しかも、浮遊砲台(ファンネル)が被弾し始めた、エネルギー切れで回避が出来ない所に攻撃されたのだ。
「ええい!!ままよ!!」
 08の速度を上げスリットの穴に強引に滑り込ませた、幸い08とダイダロスはダメージは無し、だが09はシールドの限界で小破してしまった。だが急速回避して上空に離脱した。
 ハンマーヘッドの中はかなり開けていて、以外に静かだった。
 全砲門発射用意!!
「ダイダロス・アタック!!」
 また必殺技?の様な掛け声と共に08のビームライフル連射とダイダロスの機関砲連射とマイクロミサイル全弾発射、着弾した所から小爆発から始まって次々誘爆していく。
 爆発の中で、なにか赤い光が見えた、それと同調する様にボクの脳の異物が反応した様に思えた。

「なにあれ?」
 最初に気づいたのは、伊久美にお姫様抱っこされた一色だ。その光景はハンマーヘッドのスリット付近から『ボコッ』と半球状のドームが出来たかと思ったら、小爆発の連鎖だろうか『ボコッボコボコボコ……』っと機尾に向けて一気にドームが多数形成し、ヒレ状の尾翼まで来たかと思うと同時に大爆発、白熱発光して燃え尽きた。それと同時に、小型機も全機発光して燃え尽きて消えた。
「まさか、中型機を撃墜してしまうなんて……」
 旭隊長ほか3名が唖然としている。そう、この時点までこれを墜した者はいなかったのだ。
 発光が消えたら、3機のマリオネットが姿を現したがその内2機が自由落下し始める、それは08と09だ稼働時間の限界が来たのだ。
「まずい落ちる!!ぬくり来て!!」
「了解……」
 旭隊長が08を、ぬくりが09を受け止めたが、いつも冷静沈着の彼女が。
「隊長!!……こっち無人です!!」
 驚きを隠せない、ダイダロスを無人運用しただけでなく、09も無人運用だったのだ。
「すみません、ちょっと張り切り過ぎて稼働時間を越えてしまいました」
 と零夢、その胸ポケットにパフェが頭を出している。  怪訝そうに、旭隊長が。
「どういう事なの?」
「なに、マリオネットを人型浮遊砲台(ファンネル)と思えば簡単な事です、少々ハッキングに苦労しましたが……」
「そんな簡単に……」
 あきれる旭隊長だった。
「私のマリオネットを返して!」
 一色が抗議をする。
「はい……今、呼びますから……」
 伊久美の前に一色の機体が来て、それに乗り込む一色、
「うん、どこも壊れてないし異常なし……って、なにこれ?すんごい軽い!弾切れを抜きにしても動きが軽過ぎ!なんで!?」
「それ、制御プログラムにバグがありましたので修正しました。あとパラメーターも少々変更しました。これで約25%向上したと思いますが、不具合があるなら戻しますけど?」
 ボクはそう答えたが、一色は。
「いや、大丈夫……これでいいわ」
「あと、フライトレコーダーには、あなたのデーターで攻撃したと記録を書き換えました。これで戦闘記録を書いてください」


 そんな光景をお台場から見ていた勇夢。
「まさか……ここまでやるとは……」
「やあ、あれがあなたのご子息ですか?」
 背後から声を掛けられ、振り返ると零夢と同年齢位の少年と大柄の役員と秘書嬢が、その後ろには護衛の女の子が控えていた。
「イサムよ彼は、どこの学校へ進学するつもりだ?」
 と大柄の役員。
「零夢は黄金三星の情報システム開発科を希望してます」
「いや彼は、マリオネットシステム科に欲しいね」
 と少年が答え、秘書嬢が。
「社長、では彼は合格でしょうか?」
 社長と呼ばれた少年は。
「うん、今はまだ荒削りだけどね、きっと凄腕のウィザードになるだろうね。いずれは僕の直属に置きたいね」
「ちょっと待ってください社長、もしかして今回の招待状は息子をマリオネットに乗せる為に?」
「ご名答、当初は係員が誘導して乗せてもらう予定だったが、マルスが出て来たのは誤算だった。いや有用なデーターを取れたよ。」


 翌日、大々的に各マスコミが騒ぎ報道した。
『中型マルス初撃墜!!』
『マルス内部に神風特攻!!』
『お手柄、陸自黄色小隊!!』
 などなど、黄色小隊の写真付きで各見出しを飾っている。
 クラフト2機の戦闘は無かった事になっていた。
 って事よりボクが、黄色小隊のフライトレコーダーを改変したから公式には何も残ってないので。
 この時の、攻撃方法は正式に『ダイダロス・アタック』と呼ばれる様になった。だが、これを実行するには装備の信頼性と余程の覚悟が無いと出来ないから、実践する小隊は、数隊のチームだけだ。 
 この事件は『お台場沖撃墜事変』と呼ばれ、マリオネットの研究開発の予算が増額される引き金になった。
 

 余談だが、バグとパラメーターの変更で、一色機の総合戦闘力はCからC+に、そして中型機撃墜の功績で専用機を持つ事になり、階級も軍曹から曹長に昇級した。
 本人曰く。
「私が墜した訳じゃないのに、いいのかなぁ?」
 と、困惑したそうだ。
 一色機のプログラムを解析して陸自黄色小隊も総合戦闘力が上がって、旭機はCからC+、伊久美機はC-からCへ、ぬくり機はBからB+になり、しかもA級機候補生となった。

第3章

「って、事でMS科には一芸入試様なモノのでここに入ったのさ」
 パフェが話を終えた、これだけ思念データを送るのは疲れる。
「そっか、だから入試に見た覚えがなかったのね」
「そのお人形さんは目立つからねぇ」
 クラスメイトがうんうんと頷っていると。
「へー、去年のあれは、レイレイがやったのかぁ」
 ミオミオも関心している。
「ちょっと待った!!」
 いきなりアイノさんが叫んだ。
「おまえLv.5でS級マリオネットを動かして中型機を墜したのかのか?」
「非公式ではそうらしいね、公式だと陸自黄色小隊が墜した事になってて、結構ニュースでやってたよ」
「なんでおまえみたいな男が、Lv.5なんだよ?男は乗れないんじゃないのか!?」
「この辺は調査中で極秘事項だから勘弁してね、所でクラス代表はどうするの?」
 っと、摩耶先生が聞いてきた。
「やっぱり、レじゃなく……もうレイレイでいいや、レイレイがいいと思います!」
 ミオミオよ、そう断言するなよ……
「やっぱり、摩耶君だよね」
 クラス中がワイワイしてると、アイノさんが。
「おいお前、あたしと勝負しろ!!今の話が本当がどうか怪しいもんだけどな」
「いいけど……、学校のマリオネットはC級でしょう?A級候補専用機に勝てる訳ないでしょう?」
 ボクが反論すると、摩耶先生が。
「あら、それは大丈夫よ、2日後の午後にはレイ君用専用機が届くわよ」
「ええっ!!」
 クラス中にどよめきが走る。
「専用機持ちが、2人……も」
 ミオミオも驚きを隠せない……
「私も専用機……持ってるのだけど……」
 ぬくりさんが小さくつぶやく……が誰も聞いてはいない……
 そこに由比先生が、タブレット端末を操作し何かを確認しながら。
「はいはい、私語は終わり、それでは3日後の1400時に訓練海域で模擬戦を行います。摩耶君、アイノさんいいですね?」
「はい」
「それで、いいぞ」 
「摩耶君は、2日後の午後から機体の受領とセットアップ、整備に入ってください、あと諸々の書類のサインもあります。その間の授業は免除しますので、完璧な状態にしてくださいね」
「はい、あとテスト飛行の許可をいただけますか?」
「あたしも飛ぶぞ!」
「それなら、放課後に訓練空域ならいつでもいいですよ、そのかわり管制塔に離陸許可を取ってください」

「先生!」
 と、ミオミオが手を上げながら。
「私たちも模擬戦を見たいのですが……」
 そうだ!そうだ!と、クラス中騒ぎだした。
「はい、それはもちろんです……確認が取れました学園所属の軽空母を出せられるので、それに乗ってください。出航時間は1100時です。昼食は艦内で取ってもらいます、摩耶君とアイノさん、あとは……専用機持ちのぬくりさんは1000時までに空母への搬入を済ませてください、ほかに質問は?……」
「えっ?ぬくりさんって専用機持ちだったの?」
 ミオミオがびっくりしている。
 そういや、自己紹介で専用機持ちって言って無かったよな。
 でも……学園専属の軽空母って……なんでそんなもんもってるのだ?
 さらに由比先生が。
「話が前後しましたが、この学科は士官学校も兼ねています、皆さんの階級は准尉になります」
 アイノさんが。
「なんだ准尉かよ、前の部隊では少尉だったのになぁ」
「そうそう、元隊に戻れば元の階級になります、無事卒業できれば1階級昇進します。それとMS科は全寮制ですが、しばらく摩耶君には自宅から通ってもらいます」
「ええええ!!」
「なんでー?」
 うをっ!クラス中にブーイングの嵐が……
 由比先生が、にこっとして。
「かわいい摩耶君が、襲われない様によ」
 どっと笑いが。
「そんな事、する訳ないでしょう」
 笑いながら、ミオミオが言うが……おい、ミオミオよ目が笑って無いぞ……こいつ襲う気満々だったな……
「って言うのは冗談で、寮の男子向けの改修工事が遅れているのよ、幸い摩耶君のご両親はマリオネットの関係者なので、学園近くに自宅があるのであまり変わらないのですけど、そこの付近のエリアは機密区域の為で、特別のIDがなければ入れませんので、遊びに行くのは控えましょうね」

 母さんが目の前にいるし、父さんもマリオネットの関係者だしな。
「それでは今日の授業は今のHRで終了します、速やかに帰宅して明日の準備をしてください」

 さて、今日はこれで終了って事で家路につくけど、自宅が学園の近くでも、途中からは女子寮とは反対方向になるので。
「ボク、こっちだから」
「バイバイ、麻耶君」
「レイレイ、また明日!」
「うん、また明日」
 クラスメイト達と手を振って分かれた。
 1人になって、とぼとぼとしばらく歩いていると、パフェの耳がピクッと動いて……秘匿通信で報告してきた。

『にーさま、誰か付いて来てます』
 パフェ、後ろを見るな、だいたいでいいから人数と位置わかるか?
『あいっ、0530の方向20m先、木の陰に1人です』
 うん……今日は天気がいいし……例のやつ試してみるか?
 パフェ、アレのハッキング用意!
『あいっ、にーさま』

 通信開始……ログイン……OK……制御パスワード……OK……配置確認……OK……よし範囲内に入ってるな……風景画像設定……OK……照射位置設定……OK……照射準備完了……次の角曲がったら照射……3、2、1、今!

「あれ?どこ行った?おかしい……見失なったか??」
 ボクの目の前を1人の女生徒が走って行った、彼女はボクが見えてないようだ、制服のリボンの色からしてボクと同じ1年生か。
 パフェ、すぐにログアウト、足跡とID消して、あとはこのファイルを目立つ所に貼って。
『あいっ!』
 さっき話をしていて思い出していた、去年のビッグサイトにあった衛星の機能を使ってみたのだ。
 去年のあの事件から、ネットダイブしていろいろ嗅ぎ回って調べた。
 結構セキュリティーが厳重で、見つからない様にするのは至難の業だった……
 でも1度入ってしまえば、案外スムーズに事は進んだ。
 使ったのは映像照射衛星ってやつだ、3機以上の衛星で立体映像を映すものだ。
 ボクには原理がわからない……たぶん重要な情報はネットから切り離してるスタンドアローン状態のPCもしくは外部メモリーだと思われる、その形跡があちこち見られたからだ。
 でも、今まで調べた資料を元に、だいたいの推測がついた。
 たぶんだが、3機以上の衛星を使用して、画像データー入りのレーザーを目標に交差し干渉させて大気を励起し高エネルギー状態にさせ立体スクリーンを作り、そこに画像データーの映像を映すのだろう。
 今やったのは、背景を投影してボクの姿を消す様に設定してみた。
 ぶっつけ本番でよくやれたよ、衛星制御PCにアクセスするのに架空IDと制御パスワードはあらかじめ隠しファイルを作って潜まして置いた。
 向こうのシステムエンジニアは、泡食ってるだろうな……
 ハッキングには、こっちとあっちの公衆LANを複数使って踏み台にして特定されない様にしてある。
 もうこのIDは処分したし、あちらも何らかの対策を取ると思うから同じ手を使えないな。
 その後、ボクは彼女が戻って来る前に反対方向に進み出しIDを非接触式リーダーにかざしてセキュリティーゲートを通った、その直後に。
「あー!あそこにいた!!」
 と彼女が叫んでIDをかざすが、入り口が閉まり進入禁止の表示とアラームが鳴り出し、警備ロボが出て来る。
「くっ!」
 さすがに、このエリアには入れない様で、さっさと逃げてしまった。
 なんだったのだろう?あの子は……


 一方、某国某社の社長室にて。
「社長大変です!」
 秘書嬢がノックも忘れて慌てて入って来た。
「やぁ、どうした?そんなに慌てて?」
「たった今、我が社の衛星を不正使用された形跡がありました、システム部に逆探させましたが国内の公衆LANを踏み台にしたようで、これ以降追跡出来ませんでした」
 社長と呼ばれた少年は自分のタブレットPCのアプリを立ち上げ、衛星状況を確認しようとしたら。
「おや?なんだ?……これは……」
「どうなされましたか?」
「見てくれ、やられたよ……こんなのが……」
 それはデスクトップ上にデカデカと貼られた写真とメッセージが……

『衛星お借りしました』

 秘書嬢がそれを見て……
「えっと……これは……彼ですよね?」
「ふむ……彼のマリオネットは、今どうなってる?」
「はい、今最終確認してますので、梱包発送で2日後の午後には到着予定です」
「そうだ!追加アプリ頼めるかな?彼のマリオネットに衛星の特別アクセス権を与えよと思う」
「よろしいので?」
「やはり彼は、一流のウィザードだ。彼なら切り札の一つになるかもしれない。あと社内のシステムを全見直しを、まだ隠し技があるかもしれない、他社に気づかれない内に対応を」
「はい、社長」

 こうしてこの会社のシステム部は、上へ下へと大騒ぎになり、あっちこっちから隠しファイルやらダミーファイルが出てきて、なぜかワクチンソフトがそれらを検出できなかったので、手作業でファイルを開ける作業をやる羽目になってしまった。
 進入経路はシステム部が見逃していた極極小さなファイヤーウォールからだと判明、急遽パッチで塞いだが、まだ見落としがないか確認作業中。

「うちのシステム部を差し置いて……たいした奴だな、告訴しないのか?」
 大柄の役員が尋ねて来たが。
「直接の被害がないからね。システムの見直しの口実をくれて助かったよ、うちのエンジニアは頭が固いからね」
 と、年齢に似合わず少年社長は、寛容な態度を取ったのでした。
 後日、優秀なハッカーをスカウトしたのは別の話だ。

 翌日、登校中にボクは某国某社のゴタゴタを昨夜にネットダイブをして様子を伺った事を思い出していた。
「さすがだな……もう対処するとは、思わなかったよ」
 そこへ。
「摩耶君おはよー」
 と、クラスメイトが挨拶してきた。
「おはよー」
 ミオミオも合流して。
「レイレイおっはー、ねえ明日は専用機が来るんだよね?どんな機体かな?」
「うん、ボクも気になる所だよ」

 教室に入り席に着くが、相変わらず騒々しい見せ物じゃないよ、席の周りやら廊下側の窓やら見に生徒が後を絶たない。
 よく見ると昨日の付けて来た子もいる、気のせいかな?なんか目つきが怖いよ。
 そこへチャイムが鳴り波が退いていく様に、ざぁっと生徒達がいなくなった。
「オマエ、モテモテだな」
 ミオミオが変な目でこちらを見ている……
 アイノさん席に着かなくていいのか?と思ってると。
「はいはい、席にいて」
 そこに由比先生が入って来た。
「ヤバッ!」
 アイノさんは華麗なステップで、席に着いた。
 由比先生が教壇に立って。
「さて、授業を始めますよ。今日はマリオネット誕生までの出来事を振り返って見ましょう……」

 旧暦(西暦)1999年8月に高麗半島に大型の『なにか』が……当時は何が起きたのか分からなかったですが……地面に衝突しました。
 この衝撃で、高麗半島が消滅、大和海沿岸に巨大津波が発生、沿岸全域が水没して多くの人が犠牲になり、巻き上がった粉塵は成層圏まで達し太陽光を遮断しました。
 この影響で世界中が寒冷化し小氷河期状態になり、海が凍り食料や石油等のエネルギー不足で多くの人が犠牲になりました。
 それから、その『なにか』は原型を保ったまま浮遊しシン共和国に向かいました。
 目撃者によると『なにか』は巨大な魚の形・・・ジンベエザメに似ていたと言っています。
 この空飛ぶ魚は、強力な電磁パルス(EMP)を発生していて電子部品がショートして使い物にならなくなり、スクランブル発進したシン共和国の戦闘機は近づいただけで機器が故障し墜落炎上、ミサイルもEMPエリア内に入ると誤作動して爆発してしまい役に立ちませんでした。
 地上でEMPを直接浴びた人は、炭の柱になったといわれます。たとえて言うならば強力な電子レンジに入った様な感じでしょうか。
 驚異を感じたシン共和国は、それに核兵器を使用する事を決定し実行しましたが、EMPの誤作動で目標に到着せずに爆発して放射線汚染と衝撃波での被害で都市は全滅しました。
 しかし近距離で爆発したのに関わらず、それは直接の被害を受けた様には見えませんでした……



 突然、由比先生が話を止めて口元に指を当て『シー』のポーズを取りゆっくりとボクの前に近づいてくる……
 ボクは目を瞑って居るが、机の上ではパフェがその様子を見ている。
 固唾を飲む、クラスメイト……
 それを、にやにやしながら見ている、ミオミオ。
 そして由比先生は、教科書を縦にしてボクの頭に向かって振り降ろし……
 バシッ!
「おおっ!!」
 どよめくクラスメイト。
「なっ!?」
 絶句する、由比先生。
 そう、ボクは頭に当たる寸前で、真剣白刃取りをやってのけたのだ。
「さすが、レイレイ!、腕は鈍ってないようだね」
 ミオミオが、そう称える。
 ボクは目を開けて。
「先生……何のつもりです?」
 冷たく言ってみた。
「ご……ごめんなさい!」
 と、頭を下げてきた、その拍子にたゆんと胸が揺れて首元から見えそうになる。
 な、なんかこぼれそう……目の行き場に、こ、困る……
 ガタッっとアイノさんの方から聞こえたのは、気のせいか?
「て、てっきり居眠りしていたと思ったので……」
 由比先生が言い訳を始めてきた。
「別にいいですよ、片目なので疲れるのです。周りはパフェとリンクしてるので、そっち経由で見ていますから、これだと疲れにくいので」
「レイレイは、よく新任先生にやられるよね、小学校の時もチョークを投げられて、それを交わして後ろの席の私に当たったものだよ……」
 ミオミオが昔話を……そういや、そんな事もあったな。
 さらに、ミオミオが。
「先生、気を付けた方がいいよ、レイレイをいじめた人は大変な目にあってるから、たとえば……下田君は交通事故にあってるし、三島君は頭に植木鉢が当たりそうになったし……」
 たまらずボクは。
「おいおい、ミオミオ変な事言うなよ、下田の奴は信号無視して飛び出したじゃないか、三島の方はマンションのおばさんが謝りに来たでしょう。その時はミオミオと一緒に別の場所に居たでしょ?だいたい何で、ミオミオには何も起きてないの?」
「えっ?私なんかやったっけ?」
「こういうのは、言葉のいじめだよ暴力だよ。いつも誇張して話すから結構落ち込むんだよ、あと周りの目も変になるし……」
「いやーごめんごめん」
 両手を合わして、謝るミオミオ。
「あははは……」
 と乾いた笑いをする、由比先生でした。



「で、では、授業の続きをやります」
  
 よ、余談ですがその後、シン共和国は核の使用を国民・国際的に非難され、さらにクーデターが起こり政府が解体されました。
 それから、しばらくして空飛ぶ魚は、強力なEMPを発生、空間を歪め消えてしまいました。
 この一連の出来事で全人口の2/3が亡くなり文明社会が100年後退したと言われます。
 この事件は『東アジア大事変』、高麗半島のクレーターは、有名な予言書から引用して『アンゴルモアクレーター』、空飛ぶ魚は『マルス』と呼ばれる様になりました。
 翌年、人類の新たな1ページとして西暦を廃止し、新西暦(N.C)2000年と呼称する事を国際会議で決議しました。
 新西暦1年としないのは、これは当時コンピュータの2000年問題に起因しています。話がそれますので分からない人は後で質問してください。
 後の調査で超大型マルス、コードネーム『ブルーホエール』は現れる前から強力なEMPと『重力衝撃波震動』通称『重力震』を発生させる事が分かりました。
 これを『タッチダウン現象』と呼び、消える時も重力震を発生させるので、これを『テイクオフ現象』と呼びます。
 これを機会に、マルスはたびたび出現し小型ならEMPエリア外から徹甲弾や榴弾等の砲撃で物理攻撃を与えると消滅する事が判明し、その頃では時代遅れの大砲を装備した大型戦艦の復活、つまりは大鑑巨砲主義につながりました。
 ただし、大型戦艦は製造・運用費用に問題がありそれに変わる兵器を模索中でした。
 しかし中型以上では直撃を受けてもすぐに再生してしまうので墜せる事ができませんでした。しかし、ある程度ダメージを与えるとテイクオフ現象を起こして、どこかに消えてしまうのです。
 宇宙に逃げたとか異次元に逃げたとか言われますけれど、実際どこから来て何が目的、何者なのかは現在でも不明です。
 そして7年前に今までと違う出来事がありました。  それは、いつもは魚型だけだったのが昆虫型の中型機コードネーム『メガネウラ』が魚型の中型機コードネーム『マンタ』にインパクト砲で攻撃されながらタッチダウンしてきました。
 メガネウラはそのまま地面に墜落、爆発炎上して消えました、そしてマンタはテイクオフ現象を起こして消えてしまいました。
 そこは、まさしくこの場所です。この被害で何十万人という死傷者・行方不明者が出ました。
 この事件は『駿河大事変』と呼ばれます。
 その1年後、某会社の技術開発研究員が、えっとこの人は麻耶君お父さんですが、マリオネットシステム(MS)を発表しましたが、当初世間では評価されませんでした。
 しかし、MSコアを搭載した飛行戦闘外骨格壱号機はシールドを展開しEMPを封じただけでなく、インパクト砲も防ぎ強力なビーム攻撃でマルスを撃墜しました。
 このパイロットは今の摩耶先生です。あっ、今のは機密事項なので気をつけてください。

「おおお」
「すげー」

 教室中から驚きと感嘆声が、父さんが作って母さんがパイロットだったのかよ知らなかった……しかも撃墜って……

「摩耶君が動かせるのって、もしかして遺伝?」
 クラスの誰かが言ったのだが、由比先生が。
「それは、まだ調査中です、私たちも想定外だったので慌ててます。それでは話の続きをしましょう……」

 マリオネットは強力な兵器ですけど、唯一の問題点は適応者が少ない事です。
 10歳頃から20歳前半までの女性しかなれませんのです、唯一の例外が摩耶君です。さっきも言った様にこれは調査中です。
 倫理上10歳の少女に戦闘をさせるのは……って反対意見も多かったけど適応者の期間が短いなのと、マルスが頻繁に発生しないと言う理由から12歳からの参戦となりました。
 あなた達の中にも12歳頃から参戦した人もいると思います。
 もちろん、いきなり実戦する訳ではなく、それまでに適応試験やシミュレーター訓練、実機訓練を受けてます。
 適応者にはLv.1~Lv.5まであります。レベルが1違うとMSの処理能力が1000倍になりそれだけ、高度のマリオネットが扱えます。
 マリオネットは高度の高い順にS・A・B・C・D級がありますのは知っていますね。いきなりLv.1の人がA級やS級を扱えません、しかも安全装置のリミッターが掛けられています。
 無理して稼働させようとしたら脳がオーバーロードして焼けてしまいます。
 学園に配備されてるのはC級ですが、上級者が乗れば自動的にリミッターは解除されます。しかし装備を装換しないと、それ以上の能力が出ませんので気をつけてください。
 あとは、レベルを上げるのには「1%の才能と99%の努力」ですので、みなさんがんばってください。
 由比先生が話し終わると同時にチャイムがなった。
 これは、エジソンの言葉だっけ?
 休み時間になると早速アイノさんが。
「オマエはその1%かよ、レイム?」
「アイノさん、それは違うと思うよ、ボクは7年前のあの事故の生き残りでね、リハビリとパフェを思念同期させるのに苦労したからね……」



 その日の放課後、ボクはマリオネットの格納庫にいる。それは学園所属の訓練用マリオネットに乗る為だ。
 事前にこっそり由比先生にメールを送って承諾をもらったのだ、まさか受理されるとは思わなかったよ。
 だたし制限付きだったが、搭乗の感覚を掴めたかったのでよしとしよう。なんせ乗るのは8ヶ月ぶりになるから……
 マリオネットに乗るには、バイオスーツが必要だが、ボクの専用スーツはマリオネットとセットで来る事なので手元にはまだない、危険回避の為にスーツ未着用での飛行と銃器と刀剣の扱いは禁止されている。
 ボクはスーツの替わりに動きやすい服装、えんじ色のジャージに着替えている。
 この色は黄金三星学園の女子指定の色で、男子用の青色もあるのだが、1人だけ目立つのは嫌なのであえて同じ色にしてもらったのだ。別に男の娘属性とかではないからね。
 そういや、クラスメイトから「女装したら似合うかも?」と、なんて言われたが、なんか嫌な気がするのは気のせいだろうか?
「で……なんでここに、アイノさんとぬくりさんがいるの?ついでにミオミオも?」
 そう、ここいるのはボクだけでは無かったのだ。
「なんか面白そうなのが、見れそうって聞いたからだ」
「……」
「ついでってなによ」
 こうなるのが嫌で極秘に話を進めたのに、どこから情報が漏れたのか?
 ミオミオが。
「私の情報網をバカにするなよ」
 とか、言ってるけど……
「まぁ、来てしまったのはしょうがないか……」
 ボクは諦めて学園のマリオネットに乗り込む事にした。
 学園のマリオネットは、名称プロメテウスPー51Cで、『C』はC級のCらしい。
 通常時の武装は35mm機関砲1門、ロングソードが1本ショートソードが1本が標準装備。
 このソードはただの剣でなく刃先が極小振動して分子結合を切断し分厚い鉄板を豆腐を切る様にサクッと斬ってしまう切れ味を持っている。非公式には斬鉄剣とか呼ばれているらしい。
 バックパックには、C級用飛行ユニットが装着してある、これは飛行補助ジェットエンジン×4、放熱板を兼ねた安定翼がX字の様に配置さてれている。浮遊砲台(ファンネル)は装備されてはいない。この時の総合戦闘力はC-になる、武装強化でC+まで行くが訓練用にはこれが最適らしい。
 今回は使用許可が出なかったので、すべて外してある。ちなみに、この時の総合戦闘力はD-。つまりこれは、だたのシールドが展開できるパワーアシストスーツだ。ただしLv.の低い人が乗ればの話だが……
 
「さてと……」
 マリオネットに乗り込むと、軽い機動音がして始動し始めた、プロテメウスのAIが。
『パイロット思考言語大和語確認、Lv.5確認……リミット解除……本機は、S級装備をしていませんので、C級のまま起動します……』
「うん、思った通りだな」
 ボクが思ってた通りに起動したのを確認し。
「ホントに動いた……Lv.5……ってマジかよ!」
 アイノさんが驚嘆している。
「……」
 ぬくりさんは変わらずか、去年のあれを見たからな。
「やっぱり、レイレイはすごいねー」
 ミオミオは、今更の様な事を言っている。
 ボクは、プロメテウスに歩く様に指示を飛ばす。
「そういや、これで歩くのは初めてだったな、この前はそのまま飛んだから……」
 プロメテウスは、指示通りに滑らかに歩きだした。
「うむー……レイムはホントに男か?」
 アイノさんが疑問を投げかける。
「レイレイは男の子だよ、ちゃんとおちんちん付いているの見たし」
 ミオミオがトンデモ発言を……アイノさんが真っ赤になって。
「み、み、見たって?……どこで?」
「んー、一緒にお風呂入ったよ、で見せ合いっこもしたよねー」
 ミオミオの発言に、アイノさんがさらに赤くなって……
「お、お、お風呂!?」
「……み……見せ合いっこ?……」
 ぬくりさんも真っ赤に。
「おいおい、それボク達が小学2、3年生の頃だろ?見せ合いっこって言ったって、おまえが勝手にボクのを見たでしょうに、それに自分で『くぱぁ』とかやって、はしゃいでいたくせに」
 アイノさん頭から湯気が……どんな事なのか想像出来たのだろうか?
「く、くぱぁ?」
「で、ミオミオ今でも、それできる?」
「うっ、さすがに無理……うーん……今、考えるとめちゃくちゃ恥ずかしいよ……」
 ミオミオが真っ赤かになってしまった。
「おまら、どんな関係だよ!!」
 アイノさんが怒鳴るのはムリない。
「ボクとミオミオは小学生の幼なじみで、お隣同士。その時はまだリハビリ中で、1人でお風呂は危ないって事で、ミオミオが補助してくれたんだよ」
「摩耶おばさん、いや先生にお願いされたからね」

 話を中断して、格納庫から出ると。
「うわー」
「ホントに動かしてる」
「すごい!!」
 ギャラリーがたくさん……クラスメイトどころかMS科全員がってほど集まっている。
「何で、こんなにいるんだ!!」
 ボクが叫ぶと、ミオミオが。
「私が言ったらこうなった……」
「おまえは歩くスピーカーか!」
 気を取り直して、ボクは各部のチェックを始めた。
「関節の可動範囲の確認だから……やっぱ、これかな?」
 と言う訳で、基本中の基本のラジオ体操第一を始めてみた。頭の中で音楽をイメージしながら四肢を動かしていく、中盤に差し掛かった頃、不意に背後から気配が……
 半歩右に避け、右手で相手の右腕を取り、左手で首を押さえつけ、左足で両足を払い、うつ伏せに倒しそのまま押さえつける。この間約0.5秒。
「ま、参った!!」
「アイノさん、何してんの?」
 アイノさんはいつの間にか自分の専用機に乗って殺気丸出しで襲って来たのだ、さっきの話で火が付いたか?
「あははは、レイレイに不意打ちはムリだよ、後ろに目があるんじゃないとかと言われるんだよ」
 そのアイノさんは、いきなり倒されると思ってなくて、シールドを張る間もなく地面に思いっきりキスをしてしまった。スーツを着ていたので大怪我にはならなかったが。
「ヘ、ヘルメットを被って無かったら即死だった……」
 そうつぶやくアイノさん、なんか顔色悪いよ。
「おおぉ」
「すごい!」
「マリオネットの組み手って初めて見た!!」
 と、ギャラリーが大盛り上がり。
「い、今のは……認めたくないが……今、あたしと勝負しろ!!」
「おお」とギャラリー。
 仕方なくボクは。
「ルールは?見ての通りユニットは何も付けてないよ?」
「大丈夫だ、さっき確認したら、今から30分滑走路が使える。その間は離着陸はないらしい。ルールは競争だ、5000m滑走路を1往復だ」
「わかった」
 それを聞いてギャラリーが、一斉に滑走路へ駆けだしていった。


 ボク達は滑走路の端、スタートラインに着いた。
「誰にケンカを売ったか教えてあげる!」
 ボクが言ったのと同時に。
「位置について……用意……ドン!」
 ミオミオの合図と共にボクは走り出したが、アイノさんがまだスタートしてない……?どうした?トラブルか?
「ふん、これくらいハンデなんだな」
 だいたい1000m位先行した所で、アイノさんがスタートした。
 もの凄いスピードだ、走ってるってより滑ってる?そうか慣性制御でホバリングしてるのか!
 ギャラリーから、「ずるい」とか「いんきち」とかのブーイングの嵐が。
「誰も『走って』って言って無いぞ」
 なら、こっちもやってやる!飛行は禁止されてるがこれならどうだ!!
「パフェ、慣性制御起動!歩幅設定は……」
『あいっ、にーさま』
「お先ー」
 アイノさんがホバリング走行で追い抜いて行った。
「じゃあ、行くぞ!!」
 その瞬間、プロメテウスがスピードを上げる、姿勢は前屈みになり空気抵抗を減らし、地面を思い切り蹴りその時の摩擦で火花が出るほどだ、慣性制御は補助的に使い歩幅を大きく取る。見た目にはスピードスケートの選手の様だ。そして、先を行くアイノさんにだんだん追いついて行く。
 そして追いつくと思った瞬間アイノさんが方向転換、もう滑走路の端に着いたのだ、ボクも負けずに思いっきり地面を蹴り方向転換、この時もの凄い火花が見えたとか。
 まだ間に合う!慣性制御のベクトルを50%後方に割り振り推力に変換!
 この時の速度は2人とも350Km/hを越えている。
 アイノさんもなかなかやりるな、でもここまでだ!
 残り500m、慣性制御のベクトルを後方に90%増量しラストスパートを掛ける、ゴールまであと100mの所でアイノさんと並びそのままゴール、と同時に前方に全ベクトルを向けて急ブレーキを掛けた、摩擦でアスファルトから煙が上がり足から盛大に火花が上がった。
「うわー」
 と、ギャラリーが声援しながら駆け寄って来る。
「写真判定によると同着です」
 どうやらゴール地点で、誰かが写真を撮っていた様でこれが決め手になった様らしい。
「引き分けは好きじゃない」
 とアイノさん、ボクも。
「同じく」
「明日も乗るのか?」
「いや、許可が出たのは今日だけ、明日は専用機が来るからその整備かな?」
「そうか……」
 アイノさん、そんなにがっかりしないで。、
「なあ、由比先生の授業で思い出したが、オマエあの事故の前に会ってないか?」
 不意にアイノさんが、変な事を聞いてきた。この前に同じ事を聞かれた様な……
「ごめん……7年前の事は記憶がないんだ……」
「悪い……変な事聞いて……」
「いや……気にしないで……」


「レイムは……いや……レオ(Leo)は……あの夕日の事は覚えてないのか……?」
 彼女がそうつぶやいたのは聞こえなかった……

第4章

 いつもはネットダイブするのに、この晩は久しぶりに夢を見た……
 赤い大きな夕日を背にして小さな女の子が泣いていた……顔はシルエットになっていて誰だか分からないが……夕日のせいか目が赤く腫れている……ボクを抱きしめて何か言ってる様だが……何を言ってるのかぜんぜん聞こえない……

 はっ?不意に目が覚めた、今何時だ?
『にーさま、今は2時です。どうしたんですか?何かうなされてました、にーさまの夢はさすがに同期できませんので、分かりませんが……』
 そうか、夢は同期できないのか……何のはだったのだろ?今のは……ボクの記憶が消える前の出来事か?それとも無意識に誰かの記憶にダイブしたのか?……前にも同じ様なのを見た気が……
 その後悶々としていたが、いつの間にか眠ってしまった様だ……気がついたら目覚ましが鳴っていた。


「ようレイム、なんだ辛気くさい顔をして?」
 アイノさんが訪ねてきた。
「なんか寝不足でね……」
「摩耶君……今日はマリオネットが来る日だから……」
 ぬくりさんが声を掛けてきた。
「そうか今日からレイレイも専用機持ちか」
 ミオミオが感心した様に。
「そうかそうか、そんなに興奮してたのか、うんうんわたしも専用機が来る時はわくわくしたなぁ」
「私も……」
 いや……そうじゃないんだがな……と心の中でつぶやいたのだった。


「さて、今日はマリオネットの安全対策の話をしましょう」
 由比先生の講義が始まった。

 マリオネットは元々宇宙開発の為に作られました。その為に2重3重の安全装置があります。まずはパイロットスーツです、これは正確には『スキンタイト型強化宇宙服』、通称『バイオスーツ』と呼びます。
 これは外皮にケプラー繊維を施し、ポリウレタン繊維とナイロン繊維を使用してウェットスーツの様に体を拘束して1気圧の状態を確保します、そして耐熱・耐寒や対Gスーツの役目をします。
 各所には、リキッドアーマーが仕込まれていて、対弾効果も有しています。
 リキッドアーマーとは、非ニュートン性流体……えっと、テレビでよくコーンスターチを溶かした水の上を素早く動くと歩けて止まると沈む実験を見た事があると思いますが、それの応用ですね。
 これはセラミック粉末とシリコーンオイルを使ってます。近距離でAK-47くらいの弾丸なら耐えられます。
 どこかの兵器の様に水着の様な服でシールドが切れたりナノマシンのエネルギーが切れたりしてパイロットが死傷する事が少ないのです。
 バックパックには生命維持装置と非常用電源とパラシュートが内蔵されてます。通常時はアンビリカルコードで本体につないで空気、電源、通信、データー等を送ります。
 次にマリオネットですが、これのシールドは『次元断裂シールド』といって量子力学の弦理論に基づく余剰次元で作られたものです。慣性制御の副産物といっていいでしょう。

 これには教室中が「???」の嵐だった。
 さすがに、量子力学は理解できないようで、でも由比先生はそれに気にする事なく講義を続ける。

 このシールドの利点はエネルギーが続く限り高エネルギー兵器、熱や荷電粒子・実弾体攻撃などを通さないのです。最大出力だと大気圏突入も可能です。
 欠点は内側からの攻撃ができない事です。ですからシールドをフルポイントに使うのでなく、ピンポイントで使う方法がいいでしょう。

「先生……質問……」
 ぬくりさんが手を挙げて問い掛けてきた。
「はい、ぬくりさん」
「私……去年、摩耶君の戦いを見てた……そのとき摩耶君はバイオスーツを着てなくて、しかもシールドをフルに使ってました……でも、ちゃんと攻撃して当てました……これは、どうしてでしょう……?」
 由比先生が困った様にして。
「実はそれは私たちも困ってたのです、解析してもどうしても分からないのです……」
 すかさず、ボクが代わりに答える。
「そんなの簡単です、シールドを2重に展開して弾を発射した瞬間に内側のシールドをピンポイントで消して、通り過ぎた時に張り直して、外側のシールドも同じ様にするだけです」
「ええっ!!」
 由比先生以下クラス中が驚いていた。
「それは……マイクロ秒……いやナノ秒……いやいやそれ以下の単位の制御ですよ、それをこんな簡単に……」
「レイムがLv.5だからだろ……?」
 アイノさんが難しい顔で呻いた。
 そうなんだろうか?そんなに難しい物だったのか?あの時は、マリオネットが自動でやってた気がしたんだが……

 由比先生が戸惑いながら……
「えっと、それは置いといて講義をつづけますね」
 もしも、マリオネットが被弾炎上したら、消火装置から炭酸ガスが出て消火します。機体の制御ができなくなったら機器の電源を落とし、手動でマリオネット本体に装備しているパラシュートを展開してください。
 機体を破棄しなけれないけない状況になったら、脱出してバイオスーツのパラシュートを展開してください。
 MSコアは、バイオスーツにコードで繋がってるので、着地したら回収を優先をしてください。コアは量産が出来ないので回収は優先順位が最大です。

 ここでチャイムが鳴り。
「この時間は、ここまでです」
 っと、いいながら教師を出ていった。

 ボクはトイレに行こうと、教室を出たらあっという間に囲まれてしまった。
「退いてください!!」
 思わず叫んだが、退く気配がない。即座に脱出経路を算出する。各生徒の動きと自分の動きを計算して……
「よし、1秒後に隙間が出来る……今!」
 わずかに開いた隙間からダッシュし脱出に成功、後ろから「摩耶君待って~」とか「逃げた!追え!!」とか物騒な声が聞こえたが、即座にトイレに駆け込んだ。
 元々は女子校(女子科?)なので男子トイレの数が圧倒的に少ない、来客用に各階の一番端に一カ所あるだけだ。毎回そこに駆け込むに大変だよ。
 これから、バイオスーツに着替える事があるのに更衣室は?と聞けば、今使ってない部屋が格納庫にあるのでそこを使うとの事、見に行けばちゃんと男子更衣室となっていて中にシャワールームも設置している。
 中に入るには非接触リーダーにIDが入った学園証をかざせばドアが開くシステムが採用されている、のぞかれる心配はないのだろう。逆に、女子更衣室は開かないのだろな。
 
 そんなこんなで、いつも戦場みたいな休み時間だから、休んだ気がしないのは、気のせいではないのだろう。
「もう少し、なんとかなんらのか……」
 ぼやいていると、アイノさんが。
「誰かと、付き合えばいいじゃないのか?」
 なぜか顔を赤らめて言うと、ぬくりさんが。
「不潔……」
「誰がじゃ!!」
 すかさずミオミオが。
「あなた」
「オマエらなぁ」
 なんか3人が言い合いを始めてしまった。
「おいおい勘弁してよ……」

 チャイムが鳴って次の授業は……かーさんじゃない摩耶先生か、先生と言うとなんか違和感が……

「はい、次はマリオネットの動力についてです。これは極秘中の極秘事項なのでかなり大雑把な説明になります……」

 マリオネットコアは動力源・慣性制御・シールド制御
と、それらを統合制御する量子コンピューターの4つで構成されています。
 簡単に言うと動力は反物質反応炉(アンチマターリアクター)から得ます。ただ反物質(アンチマター)を容器に閉じこめてるだけでは、容器に触れただけで対消滅を起こしてしまいます。そこで、慣性制御の技術が入ります。
 この宇宙に物質だけあって反物質がないのはなぜでしょう?宇宙創世時のビッグバンで両方作られたのに、互いの粒子は対消滅しましたが物質は残りました。
 反物質よりも物質の方が多かったとも反物質の方が寿命が短いとも言われてました。なぜ反物質が少ないとか寿命が短いのか疑問に思わないでしょうか?
 それは、ヒッグス場(フィールド)に関係があります。ヒッグス場には磁石のS、M極の様に極が有るのです。私たちの宇宙は『グラビティー ヒッグス場』通称G極です、これとは反対の『リパルション ヒッグス場』通称R極があります、これは同じ極は引きつけ合い違う極は反発する性質が有ります。ちょうど磁石とは逆になりますね。
 R極はG極に反発する性質、すなわち斥力を応用する形で慣性制御をします。R極を作る事でマリオネットが飛ぶのです、しかもR極の中は反物質も安定するので高エネルギーも作れます。
 では、R極はこの宇宙のどこにあるのでしょう?それはビッグバンの起きたその向こうの空間だと思われます。R極では反物質は安定してます。
 ではその接触面はどうなっているのでしょうか?実はそこには何もありません、ただ空間が広がってるだけです。
 それはライデンフロスト効果、分かりやすく言うと、熱したフライパンに水を垂らすと、すぐに蒸発せずに自分の発した蒸気で転がる現象を見たことがありますか?これと同じ事が対消滅のエネルギーで物質と反物質が互いに交わる事なくなったのです。
 では、R極はどうやって発生させるかは極秘事項です。まぁ一つヒントを与えましょうか、ヒッグス場で生じる粒子は一つじゃないって事でしょうか。
 これによって反物質爆弾とか作られたら、世界は……地球は絶滅するでしょう。
 MSコアだけでも街が一つ消滅するかもしれません、だから生産数を限定して一括管理していますし、コアの回収が重要なのがわかると思います。
 無理に外殻を壊して中を見ようとすると中の均衡が壊れて爆発してしまいす。
 実際某国でありました、幸い山間部で人が住んでない所でしたので、人的被害が出ませんでした。
 その国はこれをマルスのせいにしてもみ消そうとしましたが、私たちはすべてのコアをモニターしてます。マルスの発生も確認されていません、不正な行為は見逃しません。
 この為にこのコアのナンバーは欠番になりました。
 そして契約条例違反の為に、その国のMSコアはすべて没収し、マリオネットはただの人形になりました。そして技術者の大半は亡命したと聞いています。

「先生、その国はどうなるのです?」
 クラスの1人が質問をした。
「その国では契約条例違反でマリオネットの開発・常駐は禁止されます。しかし、マルスが出現したら要請がありしだい迎撃に出ます」
 別の生徒が。
「R極に居ても、私たちに害はないのですか?」
「それは大丈夫です、物質が反物質より寿命が短いといっても大して変わりません、量子レベルの問題で弦理論の余剰次元の影響ぐらいでしょう、これがシールドになります」
 これはもう大学レベルの授業じゃないのか?またもや教室中が「???」の嵐になってしまった。
 ちょうどチャイムが鳴って、授業の終了を告げる。教室を出ていこうとする前に摩耶先生が。
「レイくん、1300時にマリオネット制御管制室に来てください、覚悟してねマリオネットの受理のサインが山ほどあるから、それからセットアップよ」
 と言いながら出ていった。

「いよいよだな、レイム」
「ああ、そうだな」
「どんな機体か……気になる……」

 その後、午前中の授業はつつがなく進み……

「MSコアには、『第一条:人間に危害を及ぼしてはならない。第二条:人間に服従しなければならない。ただし第一条に反する場合は、この限りではない。第三条:第一条及び第二条に反する恐れがない限り自己を守らなくてなならない。』っていうアシモフ博士が提唱した三原則が組み込まれています。マリオネットは、模擬戦闘以外に人間に対して戦闘及び暴動鎮圧等に使用出来ません、如何なる政府に対しても中立の立場を守ってください……」
 ここでチャイムが鳴り由比先生が。
「摩耶君、アイノさん、明日の模擬戦は少し変更になします」
 アイノさんが。
「どういう事だ?」
「2組のクラス代表候補2名が、模擬戦に参加したいと、言ってきましたので加わる事になりました。当然2組のクラス全員も見学しますので、がんばってください」
 思わずボクは。
「昨日の競争を見てか?……それで2対2で?それとも巴戦ですか?」
「それは、そのときの状況ですね、相手がどう出るか」
 それを聞いてアイノさんがうれしそうに。
「レイム、とりあえず2人で2組をやっつけようぜ、それからオマエと勝負だ!!」

 お昼になったので、クラスのみんなと食事に行く事にした、寮には自炊用の設備があるらしく、何人かはお弁当を持って来ている子もいる。それぞれグループを作って、机をくっつけ食べたりてたり外の芝生の上で食べたりしている。
 ここの食堂は生徒や職員、他のマリオネットの研究者、技術者、軍人等々いろいろな人が居るので、一種のレストラン街とか、屋台村とかの様になっていてほとんど並ばないで食事が出来る。
 しかも、食費はすべて国から支給さてれてるので無料になる、しかし支給っていっても普通のレストランより豪華な気が……、その分食べ過ぎには注意が必要になる。
 料理を受け取る際に非接触式リーダーにIDをかざせば、カロリーや栄養分がモニターに表示されてカロリーオーバーだと注意の警告がでるので、これは助かる。
 そんなこんなと、ワイワイ食事をして午後から別行動になるので、みんなと分かれてマリオネット制御管制室のドアの前に……
 き、緊張するなぁ……
 コンコン……とノックをすると中から。
「どうぞ、あっIDをかざして入ってね」
 この声はかーさんだな……
 IDをリーダーにかざすとスッとドアが開き、案の定かーさんが。
「レイ君早かったね、こっちのテーブルに来て」
 言われるまま、そのテーブルにつきイスに座った。
「まずは、マリオネットを受領する前に必要事項を読んでサインをしてもらいます」
 っと、テーブルの上にドサリと書類の束が、ひもでくくると立つんじゃないかと思えるほどだ。
「うへー」
 思わず呻いてしまったよ。
「もう、そう言わないの。まずは、国連で……これが内閣総理大臣……運輸省……国防省……県知事……陸自幕僚……空自幕僚……海自幕僚……後は……」
「って、何で自衛軍も?」
「いずれ、お世話になるかもよ?後これが一番大事だから読んでね」
 と、出されたのは『攻強皇国機甲』と書かれた書類だ。
「攻強皇国機甲?」
 下手をすると公共広告機構と間違えるだろうな……
「それはね、空・陸・海といずれの自衛軍に属さないマルス対策の為の第4の組織よ、あまり宣伝してないけど別に秘密組織じゃないのよ、黄金三星の専用機持ちはこれに入隊しないといけないの」
「え?でも去年、ぬくりさんの陸自が来たよ?」
「あちらにもあちらの理由があってね……予算とか……」
「ああ、お役所だなぁ」
 っと、なんとなく納得してしまった。
「えっと、この『入隊契約特例B項』を読んで頂戴」
 なになに……主契約者なる、皇国機甲がマルスに対し戦闘もしくはそれに準じる状態になった場合、命令拒否権、期間終了までの脱退の自由を喪失する。なお期間は契約後から二年間とする。
「って事は、今マルスと戦闘状態してるから2年間は辞められないって事?」
「いえ、指令官や隊長が皇国機甲命令権を発動した場合よ、学生でも使える戦力は出し惜しみ出来ないの。でも、入っていて損はないわよ、頻繁にマルスは出ないし、それなりに給金が出て出撃すれば危険手当も付くし。あと皇国機甲での出撃時は階級は元隊より一階級上がります。つまり、レイ君は少尉、ぬくりさんは曹長から少尉に、アイノさんは少尉から中尉になりますから、上官はアイノさんになりますので、戦闘時はアイノさんの指示に従ってください」
「アイノさんが上官か……なんか想像つかないな。それにしても2年か、なんかケータイの2年縛りみたいだな。それで2年後つまり、3年生になったら?」
「そのまま継続するか、軍属の人は元隊の指揮下に入るか、軍に入らず研究機関の指揮下に入るか、どこかの企業に就職活動するか、そのときに決めます」
 つまり、3年生の戦力は当てには出来ない訳だな。
「それで、入るの決めたの?」
「わかった、どこにサインすればいいの?」

 こういう事で攻強皇国機甲に入隊する事になった。メンバーはクラスごとに専用機持ちで小隊を作る事になっているそうで、1組は。

 所属:黄金三星1-1機甲飛行歩兵小隊
 隊員:アイノ ハララ中尉 A級候補生 Lv.3
    家山 ぬくり少尉  A級候補生 Lv.3
    摩耶 零夢少尉   S級暫定者 Lv.5?

 現在、1ー1隊は3名の構成員でなりたっていて、隊長はハララ中尉になる。ボクがS級なのかまだ確証がないとか……
「それでかーさん……」
「学校では先生と呼びなさい」
 すかさず訂正が入ったよ。
「……摩耶先生、ボクのマリオネットはどこに?」
「付いてきなさい」
 と、言うと席を立ち隣の部屋へ向かい始め、ボクもその後を付いていった。そして格納庫の一角にカバーの掛かったマリオネットの前に来て……
「ふふ……驚かないでね、あっ見せる前にバイオスーツに着替えてらっしゃい、すぐにセットアップを始めるわ、そこの更衣室に用意してあるわ」
「はい」
 やっとお披露目か、楽しみだな。IDをかざし中に入るとバイオスーツ一式が置いてあった。
 瞬時に見えない左目で説明書を解析して。
「これは……パーツがいっぱいあって面倒だな……」
 制服を脱ぎ、下着姿になってから冷却インナーを着てスーツを着るのだけどこれが結構きつい、でも動きは妨げない様になっていて意外に動きやすい、後はスカルキャップをかぶって髪が出ないようにしないと。
 授業で由比先生が言っていたな、「ヘルメットをかぶったら髪が目に入っても取れないから気を付ける様に」って。
 ヘルメットをかぶって首のロックを掛けて、バックパックの生命維持装置の確認っと、これでOKかな?
 更衣室を出ると摩耶先生が。
「意外に早かったわね、ちょっと確認するからそのまま立ってて……」
 ボクの周りを目視してロック等を指差し確認ている。
「うん、よし!初めてにしては完璧だわ、でも油断しちゃダメよ。慣れた頃が一番危ないから……じゃあこっちに来て」
 カバーの掛かったマリオネットをの前に来て。
「それじゃ、カバーを外すわよ」
 ガバッとめくったら。
「ウオッ!!なんじゃこりゃ」
 思わず叫んでしまったよ、そこには艶消しの金色(マットゴールド)の金ぴかマリオネットが……
「かぁ…じゃない……摩耶先生これは……」
「ふふふ、びっくりしたでしょう、これは『LOー20K1ジョーカー』よ。これのコアはレイ君とパフェちゃんの思考制御デバイスに同期する様に特別に作った、レイ君専用の20001個目のMSコアよ」
「2万1って……2万個で打ち止めじゃなかったの?それにこの色は……」
 ボクはもう驚きを隠せない、だって色どころか新たにもう1個コアを作るなんて……さっきは量産できないって言ってなかったか?
「コアの事はセットアップでわかるわ、これは極秘扱いでね、記録上はコアNo.は20000になってるわ、本物の方はこっちで保管してるから気にしないで。あとこの色は……」
 セットアップでわかるか……肝心なのは、なんで金色なんだろう?これでは、目立ってしまう……
「Lv.5はレイ君が初めてなので、本格的なS級のテスト機になるの。そしてこれは、対ビームコーティングといってビーム攪乱粒子をパウダーコーティングしてあるのよ、粒子自体は無色透明なんだけれど、構造色と言ってコーティングの凹凸が光を干渉してあの色になったの、モルフォチョウって知ってる?あれの羽根の原理と一緒よ」
 ボクは思わず感心してしまった、ただの成金趣味じゃないのか。
「それで、このコーティングの効果は?」
「計算上、マルスのインパクト砲5~6発は防げると思うの、テストではB級マリオネットのビーム・ライフルは20発以上は防げたわ」
 それはすごい、直撃を受けてもダメージを受けないのか、それでふと疑問が。
「なんで他の機に実装しないの?」
 摩耶先生が苦笑いしながら。
「それは目立つからよ……」
「ああ……やっぱり」
 マルスだってバカじゃない、こんな派手だと目立ってしまい実戦じゃ命取りになりかねないからね。
「それじゃあ、セットアップに入るわよ、コックピットに入って」
 ボクは言われた通りに乗り込みアンビリカルコードを差し込むと軽い起動音がし、目の前にホログラムが展開してAIの音声が。
『思考言語大和語設定、パイロットLv.5確認』
「レイ君ってやっぱりLv.5だったのね……」
 摩耶先生は確信してる様に言った。さらにAI音声が。
『摩耶零夢コア同期開始……パフェコア同期開始……』
「えっ?コアって?デバイスの事か?」
 ボクが疑問が持つが……
『クアッドコアシステムセットアップ……』
 クアッド?コアが4つ?どういう事だ?ボクとパフェとジョーカーとあと1つは?
『セットアップ完了……ジョーカー思考制御デバイスアプリ起動…………って事で、お兄ちゃんヤッホー、パフェたんもおひさー』
 え、お兄ちゃんって?……
 ホログラムにジョーカーのデフォルメキャラが出てきた、これってちびキャラでいいよね?
「あい?」
 うん、パフェも困惑してるよ……
『やっぱりー、男の子に乗ってもらうのってーいいね~ゾクゾクするねぇ~』
 この口調はまさか……
『おや、お母さんもおひさー』
「かーさん、これって妹の?……」
 かーさんも冷や汗を……
「これは……お父さんの……趣味……だと?」
 かーさんの思考がパンクしてるよ。
『いやーお兄ちゃん、私はその妹さんの思考データーのコピーなんだよー』
 ボクは頭を抱えながら。
「おい……ジョーカー、お兄ちゃんは辞めてくれよ」
『えー、じゃあ「おにい」とか「にーさま」とか「兄貴」とか「兄様」とか……』
 おまえ、どういう思考してるの?
「却下だ却下、マスターと呼べよ」
『はーい、じゃあーマスター私に名前を付けてよー、ジョーカーって無骨な名前はやだよー』
 わがままなAIだな、妹そっくりだよ。
「じゃあ……サンデーってどうだ?」
『サンデー?日曜日?』
 ジョーカのちびキャラが、首を傾げて。
「いや、そっちの“Sunday”じゃなく、こっちの“sundae”の方だよ」
『スィーツのサンデーか……パフェたん繋がりね……うん、いい名前ありがとう、おにいじゃない……マスター』
 おまえメモリー大丈夫か?
『じゃあ、早速サンデー・ジョーカーの身体を説明するねー……』

 私、サンデー・ジョーカーは全身に対ビームコーティングをしてるのー、この金色いいでしょうゾクゾクするわー。
 背中のバックパックには4枚羽根が付いてるでしょうー
これは浮遊砲台(ファンネル)になってるの、えっ少ないって?いやいやこれは1枚に2機が繋がってる状態なのでーこれは8機の浮遊砲台になるのー。
 両腕を見てーマリオネットには珍しい物理シールドを装備してるのー、実はこれもシールド1枚に4機の浮遊砲台で出来ているのでー私には、合計16機の浮遊砲台が装備してるのーすごいでしょうー、システムバージョンアップすれば、もっと増えるよー。
 標準装備はー、手持ち武器はビーム・ライフル×2、7.62mmガトリングガン×1、あとエネルギーソードが2本あるのー、通常は背中のマウントに装備するのー。
 右肩にはビームバズーカー、左肩には105mm自動装填無反動砲を装備、右腰のスタブフウィングには、対装甲電磁誘導砲(レールガン)左腰には30mm機関砲(チェーンガン)、両足にはマイクロミサイルポットがあるのー。
 あっ、右足のはビーム攪乱幕散弾になってるから気を付けてねー。

 なるほど、基本的に右側はビーム系の高エネルギー兵器で、左側は質量兵器って事か……
「で、クアッドコアってどういう事?」
 サンデーのちびキャラが扉の方を指して。
『お母さんードアの外に誰かいるよー』
 かーさん……いや摩耶先生は、ホログラムを叩こうと手を伸ばしながら……
「摩耶先生と呼びなさい」
 たが、ただ空を切るだけで……
『痛ーい、はーい先生ー』
 別に痛くはないだろ、なんでこいつ人間っぽいのだ?
 摩耶先生が、モニターを確認して画像をこっちに回してくれた。そこには女生徒が、聴診器の様な物で盗聴してる姿が映し出された。
「パフェ……この子……」
「あい、この前に付けて来た子ですね」
 なんか探ってる?
「ここは、完全防音になってるから無駄なのに、それにしても最近『ネズミ』が多いわね、一応警告しておくわ」
 摩耶先生がキーを叩きならつぶやき、まもなく警備員がやって来るのが見え、それを見た女生徒は即掛け出して行った。
『ではー、クアッドコアの事ですねーえっとこれは非常に極秘の話ですのでー、マスターの思考が私のAIに入ってくれればーわかるよー』
「パフェ、サンデーのAIに接続……ダイブ開始……」
『あんっ……入って来るっ……こんなの初めて……』
 おい変な声出すなよ、傍目から見ると恥ずかしいだろ……

 …………なるほど……って、でも……これは、アレなのか?……いや……そもそも、これは……なに?

 摩耶先生が。
「レイ君、お父さんからメッセージがあるわよ、読んでいい?『追加アプリを特別に用意した、これは自由に使って良いと社長が承認した。機会があれば使って見てくれ。 勇夢』って、なんのアプリなの?」
「えっと……このアイコンかな?」
 アイコンをタッチすると、別のホログラムが立ち上がって画像が映し出された、そこには地球が映っていてその周りには無数の点が回っている。
「これは……あの人工衛星だな……使っていいのか」
「レイ君、あの少年社長に気に入られたみたいね」

 しばらく、慣性制御や武装のチェックをしてて。
「パフェ、今何時だ?」
「あい、にーさま今15:54です」
 やばい、アイノさんと飛ぶんだっけ……まだ終わりそうにないな……
「サンデー、アイノさんどこに行るかわかるか?」
『アイノたんですねーアイノたん、アイノたん……いましたー駐機場にマリオネットで待機してますー』
「通信繋げてくれ」
『はーい……マスター繋がりましたー』
 ホログラムが立ち上がり、映ったと思うといきなり。
「遅い!何やってる!!」
「ごめんこめん、まだセットアップが終わらないんだ今日は無理かも……」
「もう、しょうがないなー」
 と言って画像が切れた。
『マスター、アイノたん1人で飛んで行きましたー』
「あいつ、怒ってるかな……?」
 と、思いながら作業を続けるのだった。 

第5章

『ぶつぶつぶつぶつぶつ……』
 さっきから、サンデーがぶつぶつ言って……、うーん、うるさい。
「おい、サンデーさっきからなんだ?」
『だってー、パフェたんばっかりズルいー、私だってー「お兄ちゃん」と言いたいしー、いつも一緒にいたしー、でもマリオネットから降りると離ればなれになるしー』
 えっと……これはどういう事だ?
「サンデーたんが羨ましがっているのです」
 パフェよ、おまえも『たん』付けかよ。
「じゃあ、そのちびキャラをボクの左目にインストールいていいぞ」
 妥協案として、これが最適だと思いたい。
『えっ?いいのー、じゃあ行くよー』
 っと、言ってサンデーが入って来た、一瞬ブラックアウトしたと思ったら、左目の仮想デスクトップに、ちびキャラが……
「って、おいなんだ?その姿は?」
 そう、その姿はちびジョーカーではなく、猫耳の幼女だったのだ。
『てへー、パフェたんのデーターを元にアバターを作ってみましたー、だってーアレでもいいのだけどーこっちの方がかわいいからー』
 どうやら、白猫をイメージにアルビノを意識したらしく赤目でプラチナブロンドの髪を足下まで伸ばしている。
「これで、マリオネットを降りたら大丈夫か?」
『うん、更にうれしい事に遠隔操作でジョーカーを動かせるよー』
「まぁ、いいか……その姿なら『お兄ちゃん』って呼んでいいから」
『わーい』

 なんだかんだで、明日の為にジョーカーをコンテナに格納して、貨物(カーゴ)トラムを予約してこの日の作業は終了した。

 翌朝、通学時なんかみんなが、ウキウキしてる様な。
「今日は模擬戦か」
「わたし、マリオネット同士の戦いって初めて見るよ」
「摩耶君のはどんな機体かな?」
 などなど、ワイワイ騒いでる。
「今日は1組と2組の戦いなんでしょう?」
 ああ、そうか2組が乱入するんだっけ。
「あっ、ほら噂をすれば、摩耶君だ!」
「えっ?ほんとだ!」
 ワラワラと集まって来た、逃げだそうとしていきなり腕を捕まれ。
「摩耶君ちょっと待って、はい、みんな退いた退いた。」
 なんだなんだ?
「あっ、申し遅れました。私は新聞部の土本です、はいこれ名詞」
 あっどうも、えっと新聞部副部長 2年 土本五和(どもと ごか)さんか……
「とりあえず、写真撮らせて」
 パシャパシャパシャ
 うわ、まぶしい……
「じゃあ早速インタビューを、今日の意気込みとかを」
「意気込みっと言っても、慣らしの済んでない機体だからなんとも言えないが……」
 ボクが言葉を選んでそう言ったが。
「えー、2組をぶっ飛ばすとかは?」
「そんな物騒な事、言える訳が……だってボクは初心者同様ですよ、専用機持ちにかなう筈がないでしょう?」
「またまた、ご謙遜を……」
と、言った所で、予鈴のチャイムが。
「じゃあ、遅刻しますんでこの辺で」
 土本さんを振り切って走り出す、ほかの生徒も走り出していた。


 席に着くと同時にチャイムがなり何とか間に合った。
「ヤレヤレだよ」
 アイノさんが。
「おまえ、あの新聞部に捕まったのかよ」
「うん、アイノさんは?」
「昨日、おまえと飛ぶとどこかで聞きつけたか知らないが、土本だっけあいつに散々質問されたぞ」
 それに対し、ミオミオが。
「あー、それ私が言った」
「おまえなー、歩くスピーカーかよ」
 それは、災難だったね、と心の中でつぶやくとちょうど、由比先生が入って来てHRが始まった。
「今日は、模擬戦です。早速今から移動しますので、速やかに地下の駅まで移動してください。それからアイノさんぬくりさん摩耶君、あなた達のマリオネットの搬送は大丈夫ですか?
「わたしのはいつでも運べるぞ」
「わたしも……」
「同じく」
「それでは、先に行って搬送を、皆さんは移動を開始しましょう」
 HRが終わって、ざわざわ言いなから教室を出て行くとちょうど2組も移動を開始するところだった。

 昨日予約した貨物(カーゴ)トラムがすでに格納庫に到着していた、これは枠に車輪が付いている様な簡単な作りになってる。
 ボクは左目に常駐している猫耳っ子に。
「サンデー、ジョーカーの様子はどうだ?」
『はーい、お兄ちゃーん、異常なーし、すべてオールグリーンだよー』
 早速、貨物トラムにコンテナを積み込む事にした。これは大型のマニピュレーターで自動で積み込める様になっているので楽ちんだ。
 コンテナには、狭いが1名が居住出来る部屋が付いていて切り離しが出来る用になっている。非常時には、これは専用の個室として、そして簡易基地として、使用出来る仕組みになってるのだ。
 ボクは、バイオスーツ一式入ったバックを持ち乗り込み、IDをリーダーにかざし行き先を伝えた。
 トラムは、振動もなくゆっくり動き出し、途中の駅にはトラムを待っているミオミオ達の顔が見えた、手を振ったら向こうもそれに気づいて。
「レイレイ、がんばって!!」
 と、振り替えしてくれた。
 そして、トラムは終点の港駅に着いたが、徐行しただけで通り過ぎて行く、どこに行くだろ?思ったらいつの間にか壁の雰囲気が変わったのが気が付いた。
 今まではコンクリートの壁面だったが、今はグレーの鉄板に変わっている。しかもトラム以外の揺れが加わった気がする。そして止まった所は、すでに空母の中であった。
 それから、マニピュレーターがボクを乗せたままコンテナを持ち上げあらかじめ決めてあったらしい格納庫の一角に卸した、どうやら目的地に着いた様だ。
 コンテナから出ると隣にはアイノさん・ぬくりさんのコンテナが並んでいて、向こうには2組のコンテナが3つ並んでいる。
「よう、レイム遅かったな」
 アイノさんがニヤニヤしながら言ってきた。
 どうやら、ボクが最後らしい、渋滞を回避する為に迂回と徐行をしたのだろう?
「びっくりしたぞ、港で積み替えるかと思ったら直接、艦(ふね)の中かっだからな」
 アイノさんが感心した様に言う。
「おまえが新型機のパイロットか?」
 突如、後ろから声がかかった、思わずボクは。
「誰?」
「自己紹介がまだだったな、私は2組のクラス代表ゲルマン帝国空軍中尉アンネリース・イェネク(Annelies・Jellinek)だアンリーって呼んでくれればよい」
 この自己紹介の後にパフェが。
『にーさま、この子この前に着いて来た……』
 ああ……そうだな、通路でも盗聴してたな。
「同じく帝国空軍少尉ヘンリーケ・ランナー(Henrike・Lanner)です。ヘンリーでいいよ、ちなみにアンリーの寮機をやってるよ」
「私は……って!!あなた、あの時の!!」
「えっ?君は、去年の?」
 アンリーが。
「おまえ等知り合いか?」
「去年……一色のマリオネットを摩耶君が……操った……で、一色……今日は3人が相手……なの?」
 ぬくりさんがそう答えた。
「いや、今日は参戦しない。専用機持ちは搬入する様に言われただけだ、そういうぬくりは?」
「私も……同じだ……」
「そういや、そんな事もあったね、えっと名前なんだっけ?」
 ボクはそう質問すると。
「私は、ぬくりと同じ陸自黄色小隊曹長聖一色(ひじり いしき)です」
「一色さん、去年のあれ怒ってる?」
 ボクは恐る恐るそう聞いたが、意外な事に一色さんは。
「いや……感謝している。階級が上がったし、憧れの専用機持ちになれたし、まさかこの学園に入れるとは思わなかった……だた、プレッシャーが重いかな……」
 うん、一色さんは強いな。
「みんな、学園では准尉だから上官面するなよ、特におまえ」
 アイノは、アンリーに指を指しながら言った。
「ふん、それはもちろん。でも皇国機甲では階級は1つ上がるからな」

 そう、2組の皇国機甲での所属は……

 所属:黄金三星1-2機甲飛行歩兵小隊
 隊員:アンネリース・イェネク大尉 A級      Lv.4
    ヘンリーケ・ランナー中尉  A級候補生  Lv.3
    聖一色少尉          C級       Lv.2

 特に一色はC級Lv.2でも拘わらず、陸自の判断で専用機を供与されている。つまり去年の撃墜が、一色の手柄と評されている。
 ボクはちょっと疑問に思って。
「Lv.4の中尉さんが、なんでわざわざ学園に?」
 ヘンリーが茶化しながら。
「君がねー7年前にここで行方不明になった妹に、そっくりなんだよーで、軍にだだをこねて来たんだよねー、おねーちゃん」
「誰が、おねーちゃんだ!」
「実際、アンリーは1つ年上じゃん、みんなからも『おねーちゃん』とか『お姉さま』とか呼ばれて満更でもない癖に」
「そそそ、そんなことないぞ……」
 とか、なんとか漫才を広げ始めた。
「7年前ねぇ……ちなみにボクは男の子だからね?」
 ボクがそう言うと、アンリーが。
「でも、そっくりなんだよ妹のレオナ(Leone)に……あの真っ赤な夕日に別れたのが悔やまれる……」
 そんなに、悲しそうに見ないでよ……
 そんなアンリーの言葉に。
「「え??」」
 ぬくりさんとアイノさんが、首を傾げた。
「2人とも、どうしたの?」
 ボクが聞くが、2人は。
「何もないよ……」
 と、言葉を濁すだけだった……

 そうこうしている内に艦は出港をし始めた。
 この艦の名前は、黄金三星学園船舶科所属軽空母訓練艦しょうほう型2番艦『ずいほう』で戦闘時の搭載マリオネットは運用機と予備機あわせて30機になる。もちろん訓練艦とは言え、対マルス用に自衛武器も装備されている。
 現在、南方訓練海域に向けて巡航速度20ノットで航行中。ちなみに最高速度は40ノットらしい。
 昼食を取り訓練海域に到着した。ちなみにメニューは、ずいほう特製カレーライスだ、やっぱり金曜日はカレーだな。
 やがて艦内放送が。
「模擬戦まで、後30分。各員準備急げ」
「いよいよだな」
 ボクたちはすでに、バイオスーツを着込んでいて何時でもOKだ。居住スペースをコンテナから切り離して、それをエレベーターに乗せる。
 1組アイノ・零夢ペアは中央エレベーターから、2組アンリー・ヘンリーペアは後部エレベーターから登場だ。
 そして、コンテナからから出てきた機体を見て1組・2組そして甲板上に出ている『ずいほう』乗組員達、いや無線からもからすごいどよめきが……
 そう、ジョーカーを見たのだ、戦闘用にはあり得ない色だったから。
 それは、そうだろう……なんせ金色だったからだ、ボクだって最初はビックリしたよ。
「「「「なんだこの色は!!」」」」
「…………」
 アイノ、アンリー、ヘンリー、一色が見事に調和し、ぬくりは絶句している。
「これは、テスト機の様なものだから……」
 ボクは適当にごまかす、だって切り札を最初から知らせる訳にはいかないからね、まあすぐに分かってしまうかもしれないが……
「ルールを再確認します。」
 由比先生が、話し始める。

 各自持ち点は、10000ポイントがあります、何もしなくても1秒ごとに1P減ります。つまり制限時間は最大約2時間45分になります。
 シールドの出し方や攻撃をする事でもポイントが減ります。本体に直撃した場合の判定は、損害無・小破・中破・大破・撃墜の5段階あります。判定はマリオネットのAIからのデーターを元に出します。0P=撃墜になりますので気を付けてください。
 ただし、マリオネット本体以外つまり武装や浮遊砲台を破壊されてもポイントは減りません……

 そろそろ時間なので、ボクたちは船首のカタパルトに配置に付いた。
「アイノ発進する!」
「摩耶零夢、行きまーす!」
 カタパルトから射出し、一気に3000フィートまで上昇する。続いてアンリー・ヘンリー組が上がって来て、ぬくり・一色組が武装の代わりにカメラ担いで上がって来た。
「あんた達の晴れ姿をしっかり撮ってあげるから、ちゃんとやんなさいよ」
 一色が茶々をいれるが、アンリーは。
「了解した」
 っと、まじめに答える。ヘッドセットから由比先生が。
「各機、用意いいですか?……では、模擬戦開始!!」

「ヘンリー、まずはあの金ぴかを先にやるぞ」
「はいよ、アンリー」
「見せてもらおう、新型機の威力とやらを……」

 2機が一気にジョーカーに接近攻撃を開始した。
 ボクは、攻撃が当たる前に回避し高速離脱2機を引き離しに掛かったが、なかなか逃げられない。
「こらーあたしを無視スンナー!!」
 アイノさんが叫んでいるが、かまって居られない。
「速い……」
「なんなのあの機体」
 ぬくり、一色ペアが追いかけてくる。
 とりあえず回避しながら、敵の戦力を分析をしないと。
「サンデー、敵の位置を追時監視。パフェは敵の武装を検索」
「はーい、お兄ちゃん」
「あい、にーさま」

 サンデーの情報を元に回避運動し、時々攻撃しても相手は怯まない。
「にーさま、データー出ました。2機はクラフトMk.Ⅱアンリー機はS型、ヘンリー機はF型です。」
 クラフトMk.Ⅱは、去年お台場で戦闘したクラフトのデチューンタイプ。もともとS級マリオネットだったが、扱い切れないという事で機能を落としLv.3でも使いやすくした機体だ。浮遊砲台が8機から4機に減ったのが外見上の違いくらいだ。
「お兄ちゃん、アンリー機減速、ロングレンジビーム・ライフルエネルギー値上昇、ヘンリー機は威嚇を行いつつこちらをアンリー機に誘ってる様です」
 ふむ……ちょっとアレを試して見るか。
「サンデー、浮遊砲台2機射出、1機はヘンリーへもう1機はアンリーの射撃線上へそれぞれ攻撃!」
 ジョーカーから浮遊砲台が離れヘンリー機へ攻撃をしたが、20mm機関砲で簡単に打ち落とされてしまった。
「へん!浮遊砲台1機で落とせると思ったのか!」
 うん、やっぱりね。対ビームコーティングは質量兵器には無力だったか、まあこれは想定内だったし。次はアンリー機の方は……
「なんだこいつ、ちょこまかと……これでも喰らえ!!」
 スナイパー系装備だと近距離戦が不利なのでマイクロミサイルを数発発射し命中爆撒した。
「よし、次は奴だ!!」
「アンリー後ろ!!」
「なに?」
 ボクは動きを止めたアンリー機の背後から攻撃を仕掛けようとするが、一瞬早く。
「無駄だ、喰らえ!!」
 振り向けざまに、ビーム・ライフルを撃ちシールドを張る暇もなくジョーカーに命中!!
「やったか?……なん……だと?」
 ビーム弾が命中すると同時にエネルギーが拡散減衰し霧散した。

『零夢機損害無』

 ずいほうのAIから判定が出る。

「まさか……対ビームコーティングだと……?」
「当たり、金色は伊達ではない」
 アンリーが驚愕の表情を。
「おまえらー、あたしを無視スンナー」
 アイノ機が追いついてきたので、そろそろこちらから仕掛けてみよう、すてに浮遊砲台2機失っているし。
「アイノさん、彼女たちの気を反らすから……出来ればヘンリーさんに攻撃を」
「あたしに命令スンナよ、分かった何する気だ?」
 と、同時に2組の2人が頭を抱え苦しみだした。
「アイノさん今!」
「お、おう?」
 疑問に思いながら、アイノ機がヘンリー機へ接近攻撃を開始、すかさずヘンリーは頭を抱えながら攻撃を回避、離脱をはかる。
「うえっ……何これ……気持ち悪い……」

 こんなに上手く行くとは思わなかった。今やったのは、暴徒鎮圧用衛星を利用させてもらったのだ。
 これは、衛星軌道から低速の荷電粒子を照射して、大気圏にぶつかった時に起きる衝撃破が低周波の音を発生させ、その音が内耳の三半規管に影響してバランス感覚を狂わせて平衡感覚を奪う非致死性兵器だ。
 1機の衛星からだと音が単に円錐状に広がって効果が無くなってしまうので、2機以上の衛星から円をわずかに重ねる事により干渉波を強めピンポイントで目標を無効果できる様になる。
 ボクはヘンリー機に位置検索衛星を暴徒鎮圧用衛星にリンクさせ低周波を照査続ける。
「さて次はアンリーの方か」
「おまえ、何をしたっ?」
「さぁ、体調不良じゃない?」
 ボクは、とぼける様に言った。
「ふざけるな!さっきのアレはただの体調不良じゃない!!ええい!!おまえから片付けてやる!!!」
 おいおい、いきなり機関砲を乱射し始めるなよ、かなり頭に血が上ってるな。
 だが、まともに狙ってないから回避が楽だ。
 でも、このままじゃ埒が空かない。
「パフェ、サンデー、これは出来るか?」
 パフェとサンデーに作戦を伝え。
『うん……お兄ちゃん大丈夫。パフェたん準備いい?』
「あいっ、こっちはOKです」
「じゃあ、やるか!パフェ、サンデー、浮遊砲台囮(デコイ)モード全機発進と同時に偽装開始3・2・1・星影分身の術(スターライト・オルター・エゴ)!」
 何かの技の様に唱えると。
「なに!15機に増えただと!?」
 ジョーカーの現存する全浮遊砲台14機が放出と同時に衛星からジョーカーの立体映像をかぶせ15機に分身した様に見せたのだ。
「本国からの報告にあった、衛星か!こんなものレーダーで見ればって……なに!」
 デコイモードはレーダー波を受け取るとジョーカーと同じ反射率のレーダー波を返し相手を惑わす。
「何、ただの映像だ攻撃なんて……え」
 アンリーは浮遊砲台の事を忘れていたようだ、15機のジョーカーから一斉に攻撃を受ける。だが巧みにシールドを操って最小限のポイント消費に押さえた。
「くっ、なかなかやるなでは、これはどうだ!!」
 アンリーはクラフトⅡの浮遊砲台全機4機を放出しジョーカーにビーム攻撃をするが、対ビームコーティングで攻撃が弾かれてしまう、さらに1機の浮遊砲台に対し2機のジョーカーの連携で次々と撃墜される。
 だが、その間に1機のジョーカーがアンリー機の機関砲で打ち落とされ爆散する。
「これで、あと14機か。まずいな……弾残が少ない……しかも奴はビームが効かないし……」
 ボクは、クラフトⅡを取り囲んでちょっと提案してみた。
「次で決める。どれが本物か、当ててみてよ。はずしたら墜すよ」
「くっ、バカにしやがって……」
 アンリーは周りのジョーカーに見て考察する。
「この中に、ホンモノが……ん?待てよ……?」
 1機だけ違うのがある、あれだけ浮遊砲台を装備してない!ふふふ……意外にお間抜けな奴だな……他は装備してるのに、あれだけ……画像を修正し忘れたな……うん、あれがホンモノだ!!
「ホンモノはこれだ!!」
 っと、真後ろのジョーカーに機関砲を打ち込んだ。
 機関砲の弾はジョーカーに吸い込まれ爆発した。
「やったぞ」

 ALERT! ALERT! ALERT! ALERT! ALERT!

「惜しかったね、残念はずれ~」
 クラフトⅡの警告にも関わらず、アンリーは硬直してしまった。なぜなら目視していた14機以外の所から1機が突然姿を現し背後から左腕でクラフトⅡを羽交い締めをして、右手でエネルギーソードをアンリーの喉元へ突きつけた。

『アンリー機 撃墜』

 ずいほうのAIが宣言した。
「バカな……15機……だと?1機は撃墜したはずなのに?」
「いつから現存機が14機だと錯覚していた?」
 そう、最初の撃墜自体がトラップだったのだ、これは撃墜したと思わせた立体映像で、実際は本体をステルスモードにして映像照射衛星で姿を消す為なのだ。
「じゃあ、1機違うのは?」
「あれもトラップだよ、わざと違う映像を映して判断を誤らせるものだよ。人は1カ所違うと思ったら、それ以外に注意が向かないからね、確証パイアスって奴だよ」
「くっ……私の負けだ……これがLv.5なのか?」


 一方その頃ヘンリーは。
「うぃ~何これ~?気持ち悪い……」
 まだ暴徒鎮圧用衛星の低周波照射を受け続けていた。
「頭が~クラクラする~、うっ」
 胃から酸っぱい物がこみ上げて来る。ここで撒き餌をしたらA級機候補性の名が廃るので我慢をする……いや我慢するしかないのだ。だってヘルメットを被ったままやると悲惨な事に。
「体調不良か?なんか知らないが、リタイヤしたらどうだ?今なら見逃してもいいぞ」
 アイノが、そう提案するが。
「やだ!絶対にやだ!」
 拒否するヘンリー。
「じゃあ、墜ちろ!!」
 容赦なく攻撃を仕掛ける、アイノ。
 それをふらつきながらも、回避するヘンリー。
「う~これじゃ~やられる~」
 攻撃に転じるが、頭がふらついて上手く狙えないので、手当たりしだいに乱射するが、軽く避けられてしまう。
「おまえ、大丈夫か?もう休め!」
 と、アイノが一斉射撃、攻撃がヘンリー機に吸い込まれ……

『ヘンリー機 撃墜』

「や~ら~れ~た~」
 とか、言いながら空母に着鑑していく。それを不満そうに眺めてるアイノ。
「なんだったのだ?……一方的な戦いだった……」
 ヘンリーは攻撃が出来なくて、回避が精一杯だったらしい。それはそうだろう、平衡感覚を狂わせたら飛行すら満足に出来ないから。

『勝利 1組』

「わぁ~!!」
 っと、ずいほうの甲板上で歓声があがる。

 残りのポイントはあと僅か、アイノ機も同じだろう。
「引き分けは嫌いだな、決着をつける。いいよな?」
「もちろん」
 アイノさんが言って来たので、承諾する。
 2機はいったん離れ対峙している。
 元々は2人で模擬戦をする筈だったのに、2組が割り込んで来たのだ。
 ちょっと(?)卑怯な手を使って2人には退場してもらった、ここからが本番だ。

『始め!』

 ずいほうから開始の合図、それとともに急接近する2機。
 今回は小細工無しの戦闘、事前に打ち合わせた独自のルールを2人同時にハモる。
「「先にシールドを出した方が負け、そして弾が切れた方が負けだ」」
 そう、このルールでは手持ち武器の実体弾、すなわちアイノ機は20mm機関砲、ジョーカーは7.62mmガトリングガンでの一騎打ちとなる。
 2機が近づき戦闘を開始。 

 急接近旋回し後ろに付いたと思うと急降下。
 位置エネルギーを運動エネルギーに変え。
 急加速後に 急旋回し回避。
 そして急上昇……ループを描き相手の後ろを取る。
 取られた方は、スライスバックでかわす……
 さらに、インメルマンターンで追いすがる……

「何よこれ、ぜんぜん追いつけない」
「カメラ……撮れない……」
 ぬくり、一色のカメラペアは、2機の動きに付いて来れない。
 
 2機のマリオネットのドッグファイト、実戦でも滅多に見られない機動……
 いや……マルスに、この機動は出来るのか?

「このーちょこまことー」
「また、後ろに!」

 近づいては離れ。
 上昇したと思うと下降。
 左右への旋回の連続……
 後ろを取ったり取られたり……

「シャンデルで頭を押さえようしたのをハイGバレルロールで逆に背後を取った!!」
 ずいほうの甲板で思わず解説するアンリー。
「すごい……あの子ホントに初心者なのー?」
 ヘンリーは先ほどのダメージが治ったのか観戦している。
 甲板のみんなも息を忘れるほど見入っている。

「もらった!」
「リパルション全開!」
 後ろを取ったアイノ機が撃つと同時にジョーカーが斥力を全開、急上昇このまま太陽に隠れ急降下。
 そして互いに銃口を突きつけ……

「ポイント切れだ……」
「あたしもだ……」

『アイノ機、零夢機、共にポイント切れ、引き分けです』

 ずいほうの宣言に。
「うわあぁぁぁぁ!!」
「レイレイ、凄いよ!!」
 甲板上では凄い声援で、キャアキャア騒いでいる。
「決着ならず……か」
 アンリーがつぶやく、ヘンリーが。
「ねえーアンリー、私達あの子が本気出したら勝てるかなー?」
「アイノはともかく、レイムだっけ?初心者であの機動力は……私は……勝てないかも……?」
 アンリーは、お手上げのポーズを取り答える。

「アイノさん戻ろうか」
「そうだな」
 このまま、降りたらどうなるだろう?と思う2人だった。

第6章

 ポイント切れで引き分けた2人は、ずいほうへ着鑑する進路を取った。
「レイム、機体の状態はどうだ?」
 尋ねてくるアイノさんに、ボクは。
「実弾消耗率約40%、ジェネレータがオーバーヒート気味なので、高出力兵器系も使用制限があるかな、機体の温度も上昇中だが飛ぶのは支障なし」
 なんだか、放熱フィン兼用の浮遊砲台の冷却効率が悪い様だ、たぶん対ビームコーティングの影響だろうか?
「そうか、こっちの弾数も30%切ってる、早く帰って整備しな……」

『ギュイン ギュイン ギュイン!』

 アイノさんが、言い終わる前に聞き覚えのある警報が。
「な、なんだ?」
「この警報……まさか……」

「各員に告ぐ!こちら、ずいほうコマンドルーム。マルスの重力震の前兆を捕らえた。出現ポイント、アイノ機・零夢機上空1万フィート、反応大、機種不明、大型機と断定とする。これより攻強皇国機甲命令権を発動。非戦闘員は艦内シェルターへ待避、戦闘員は迎撃準備、1ー1及び1ー2小隊は合同で迎撃せよ」
 空間を割って出現するマルスは、その形状や質量によって前兆現象のパターンが決まってくる。質量が小さければその分、重力波が小さく。逆に質量が大きければ重力波も大きくなる。その為に機種の予測が出来るのだが、今回はどのデーターにも該当しない。
 ずいほう艦内には、非戦闘員用のシェルターがあり、万が一の場合はそれを切り離して救命ボートの役目もする様になっている。今頃は、ミオミオ他クラスメイト達が避難をしている頃だろう。
「ちっ、こんな時に!しかも大型だと!?」
 アイノさんが舌打ちをするが、ボクは。
「アイノさん……いや、今は中尉か。今飛んでるのはボク達だけだ、大尉達が来るまでボク達で!」
「分かった、でもおまえの機体は、限界が近いが大丈夫か?」
「大丈夫、連射しなければ行けます……重力震、来ます!」
「シールド全開!!」
 この瞬間、今までと違い空間自体がガラスが割れる様に裂けて強力な時空変動が来た。それは去年体験した中型機が出現するよりもすごい衝撃だ。
「ぐっ!な、なんだこの衝撃は!」
 シールドを全開にしても機体に影響が出そうな空間の歪み。この分じゃずいほうはただじゃ済まないかも?
「見て!なんか出てきた!」
 裂けた空間から異様な物が……一瞬チェーンソーかと思ったが、よく見たらインパクト砲が無数に配置された銃座だった。しかも異様に長いし大きい……出てきたのは、中型機の全長位なのだが、まだ本体らしき物が出てきてこない……
「なん……こいつは……」
 そこから、やっと本体らしきモノが出てきた。F-22戦闘機を思い起こせる扁平な胴体に6角形の変形デルタ翼の主翼らしきモノが付いている。違う所は垂直尾翼らしきモノがヨットのセイルの様に前後に並んでいる。あとは細かい所はハンマーヘッドに似ているが、大きさが尋常ではない。いままで観測されたモノで最大クラスのモノだ。
 ざっと見積もって1500m以上、その1/3が例の銃座だ。
 しかも胴体下面の発進口から小型機を吐き出している。形は母艦と似ているが、長いアンテナ状のロッドが側面から生えている。
「こちら、ずいほうコマンドルーム。観測されたマルスは新型機と判明。大型機は『ソーフィッシュ』小型機は『ソーシャーク』と呼称する。本艦は先ほどの重力震により中破した。非戦闘員の為に戦線から離脱する。指揮は現在そちらに向かっているアンネリース大尉に委譲する。幸運を祈る。以上通信終わり」
「こちらアンネリース了解した。クラスメイト達を頼む」

「マジで大型機かよ大尉達が来るまで時間を稼ぐぞ、レイムあたしが先行する。まずは小型機をやるぞ」
「了解!」
 アイノ機が先行し零夢機が後続、近ず離れずの軌道をとる。
 零夢機が、無反動砲を連射し小型機を撃墜しアイノ機を援護、進路上の小型機をアイノ機がビーム・ライフルで迎撃。
「こいつ、凄いな……さっきの戦闘もそうだけど、あたしの動きにちゃんと付いて来てる……」
 アイノが関心してると。
「まずい!」
 アイノ機の左舷から小型機が突っ込んでくる。零夢機が、ガトリングガンで進路上の小型機を撃破し続けざまに狙いを付けた。
 しかし、カチッカチッカチッとトリガーを引くが、モーターがブィーンと唸るだけで弾が出ない。
「ちっ!」
 すぐに左翼スタブウィングの機関砲に切り替え撃破に成功する。
「くっ、ガトリングの弾が切れた!」
「こっちもだ、機関砲が焼けた。まずいなジェネレータもオーバーヒートしそうだ」
 アイノ機は、機関砲に続きビーム系もやばそうだ。
「アイノさん先に戻って、こっちはまだ使える武器があるし、万一被弾しても対ビームコーティクングがあるから……援護します」
「分かった、無茶するなよ」
 アイノ機を援護する為に、左足のマイクロミサイルを発射する。そして数機の小型機の装甲を突き破り爆散させる。
 これは対象物に衝突すると爆発して内蔵してる金属を液状化し、これを超高速噴流メタルジェットになり相手の装甲を突き破る成形炸薬弾頭になっている、小型の割に威力があるので、マリオネットの標準装備の1つになっている。
「これで、ミサイル残弾0か……」
 それても、小型機のインパク砲が途切れない……回避するが……そろそろやばいか?
 ジョーカーの動きが一瞬鈍ったかと思った瞬間に小型機のインパクト砲が直撃した。しかも、シールドを紙の様に貫通し対ビームコーティンングをものとのせずジョーカーの頭を吹き飛ばす。
「まだだ、たかがメインセンサーをやられただけだ!」
 と、強がった零夢だが、内心は焦っていた、シールドどころか頼みのコーティングが役立たずって所より、今までの小型機よりもインパクト砲の威力が桁違いの出力だったのだ。ただし機動性と装甲は今までと同程度だったので撃墜が出来たのである。
 今まで、直撃を受けなかったのは奇跡に近かった。それだけ、こちらの運動性能が良かっただけだのだ。
「くっ!サンデー、あと、どれくらい保つ?」
『あと、ビーム・ライフル2発、レールガン、ビーム・バズーカはエネルギー不足で使用不可、他武装残弾0、ビーム攪乱弾8発、機体温度とジェネレータがレッドゾーン突入だよ、お兄ちゃん!』
「にーさま、アンリー機他3機来ます」
 パフェがそう報告してきた。
「待たせたな!後は我々に任せろ」
「よく、保ったな」
「摩耶君、無事……?」
「去年もそうだったけど、あんた凄いね」
 アンリー、ヘンリー、ぬくり、一色それぞれ言ってくる。
「話は後だ、指揮は私が執る。ヘンリーとぬくりは先行、私と一色は後方から援護、レイムは戻って補給と修理を!」
「了解」
 アンリー大尉の命令の元、各自が自分の配置に付く。
「あと、よろしく。修理が終わったらすぐに合流する」
 ボクは、ずいほうに向かい始めるが、数機小型機が追いかけて来る。その内の1機が撃ってきた、振り向け様にビーム・ライフルを撃つと同時にビーム攪乱弾を発射し攪乱幕を展開した瞬間、その攪乱幕を通り抜け右腕からわき腹を通って右足まで直撃し右側の武装が蒸発したが、1機撃墜出来た。しかしまだ追いかけて来る。
「ああ……あんた達の相手は私よ!!」
 と、一色機の背中の大型コンテナからマイクロミサイルの雨が小型機に降って来て撃墜させる。
「助かったよ」
「早く行って!」
 ボクは被弾した所をジョイントからパージして被害を最小限に留めたが、本体のダメージが深刻だ緊急消火装置で消火したが飛ぶのが精一杯。
 どうにか、撤退中のずいほうに追い付き、着鑑っと言うより転げ落ちる様に甲板に降りた。すぐさま赤服の作業員が駆け寄って消火剤を撒き、白服の作業員がボクの体調を見てくれている。
「レイム大丈夫か!!」
 中破状態のジョーカーを見てアイノさんが駆け寄って来た。
「なんとか……」
 アイノ機の方を見るとすでに補給は終わってる様だ、機体の外周を緑服の作業員がチェックしてる。
「ここでは……ジョーカーの修理は無理か……」
 ボクは茶色服作業員に、ある物を要請し交換をお願いしてみた。これを受けた作業員は、怪訝な顔をしたがボクの説明を受けて納得したようだ。
 そうジョーカーの代わりに、ずいほうの予備機と言うより学園所属の訓練機プロトメウスにジョーカーのMSコア『サンデー』に交換し、ジョーカーの武装を移植する。ただし右半身の武装、つまりビームバズーカーとレールガンは先ほどの戦闘で消失してる為に装備不可、なので今の武装は……
 プロメテウスの標準武装の35mm機関砲を右腰のスタブウィングに搭載し、標準装備のロングソードとショートソードと念の為にエネルギーソードを2本携帯する事に、右肩には7.62mmガトリングガンを固定、左腰のスタブウィングにはジョーカーの30mm機関砲に左肩には105mm自動装填無反動砲、両足にはマイクロミサイルランチャー今回はビーム攪乱幕弾は使用しない、手持ちはビーム・ライフルが1丁、浮遊砲台(ファンネル)は4機しか搭載が出来なかった。
 外見はグレー塗装に対ビームコーティングの金色とちぐはぐな色合いだ。
「今更ながらマリオネットの互換性はすごいな……レイム、用意はいいのか?」
 アイノ中尉が聞いてきたのだが。
「こっちはまだ調整が残ってます」
「あいつ等、苦戦しているな、先に行くぞ!」
「了解です」


「なんなの!ぜんぜん減らない!」
「泣き言を言う前に、攻撃しろ」
「そんなこと言ってもねー」
「……」
 一色のつぶやきに、叱咤するアンリー、言い訳するヘンリー、ぬくりは相変わらす寡黙……
 戦況はさっきとぜんぜん変わってない、いくら小型機を墜しても、大型機の口からその分放出してるのだ。
 まだ被弾した機体はいない、皆あのジョーカーを中破に追いやったインパクト砲を警戒しているからなのだ。
「くっ、あいつの腹は底なしか?」
「大尉……いかなる軍勢であっても永久無限では……ない……」
「だなー」
「やだ、囲まれた!」
 4機は互いに背を向け防衛体制に入ったが、このままではじり貧だ、その時。
「みんな、シールドフルパワー!!」
 その通信を聞いた4人は急遽シールド全開し、それと同時にそこに高エネルギーの塊が直撃、アンリー達を何重にも囲っていた小型機は爆散消滅した。
「なっ!?」
 絶句するアンリー達。

 今のは、アイノ機の左右のスタブウィングに装着していたユニットを連結させた、高エネルギービームバズーカーで左ユニットを前にすると収束モードで一点集中を狙うピンポイント狙撃攻撃専用。
 今回の攻撃は右ユニットを前にして拡散モードにして撃った攻撃、いわゆるマップ兵器と言う物で。どちらのモードも高エネルギーを使用する為と砲身への負荷が耐えられないので連射は出来ない。
 しかもユニット単体では攻撃能力がない為と、エネルギー不足で先程の戦闘では使用出来なかった。

「みんな無事かー?」
 アイノが、確認をする。
「いきなり見方に撃つバカがいるか!」
 アンリーが喚くが。アイノは。
「あのまま、やられるのを待つか?それとも、今ので逆転するか?どっちがいい?ちなみに今のはシールドの強度を計算して攻撃したから問題ないのだな」
「ぐっ!」
「アンリー指揮してよ、これから、どうするの?」
 ヘンリーが答えを待ってると……
「……摩耶君は?」
「ああ、ジョーカーが使えないから予備の機体を用意して調整している所だ」
 ぬくりの問いに答えるアイノさらに。
「まずはこいつを収束モードにする」
 と、言いながらユニットの前後を入れ替え。
「これで大型機を狙い穴を開け内部に突入してダイダロスアタックを仕掛ける」
 ふふんと作戦を説明するアイノ。
「なるほどな……先程の攻撃力なら……いけるか、狙い場所は……あのスリットだ。ヘンリーはアイノを援護。突撃は先頭にぬくり・一色・私の順だ」
「わかったぞ、かなりの精密射撃になるから小型機を頼むぞ」
「あいよー」
 アイノの承諾に答えるヘンリー、だがそこに一色が。
「ちょっと待ってよ、アレは摩耶君がやったのよ、私には無理よ」
 それに対し、アンリーは。
「それは、大丈夫だ。その時のデーターは入っているはずだ。それをトレースすれば良い」
「それは……そうですけど……」
 言い淀んでいる一色だが。
「時間がない!小型機が来るぞ!作戦開始!!」
 アイノ・ヘンリーが狙撃ポイントに付きエネルギーチャージを開始した。
「ぬくり、一色。私たちもいくぞ!」
「……了解」
「もう……仕方ないなぁ……」
 仕方がないって言葉は誰かが嫌いと言ったが誰だっか……渋々、後に付いていく一色機、大型機に接近し始めると機首の無数の銃座がオレンジ色に輝き出しインパルス砲を撃ち始めた、しかも小型機の機首も輝き攻撃し始めた。
「これでは、近づけないっ」
「……くっ」
 小型機ソーシャークは、今までの小型機レモラと同じく防御力がないらしく、1発当てれば白熱消滅するが、その分補充されるから相対数は変わらない。
「スリットを狙うか!いけるか?」
「ヘンリー援護して」
 そして、アイノ達は下面に回り込んでスリットを狙う。しかし、大型機ソーフィッフュは銃座を下面に向けてインパルス砲を撃ってきた。
 今回はかなりの精密射撃になるので回避運動はあまり出来ないのと、シールドを使うとその分エネルギーを使うので威力が落ちる。その為にアイノ機のシールドの代わりにヘンリー機のシールドが便りだったが……
「なん……だと……」
 インパルス砲が当たりそうになったので、ヘンリーはシールドを最大出力にしたのだが、1発被弾しただけでシールドを貫通しヘンリー機の両脚を消滅してしまった!
「ぎゃ、まだまだ!脚なんて飾りだ!」
「大丈夫か?でも、こちらの間合いに入った!」
 アイノ機から焦点を極小にした眩い閃光が発射された。ジョーカーを除きマリオネット最大級の出力と言っても過言ではないだろう。その光線は、大気を熱し発光させ一直線に大型機に吸い込まれる……
 大型機に直撃し閃光を出し……
「やったか?」
「なん……だと……?」
 直撃を受けて爆発炎上するかと思われたそれは、ビーム弾が当たったとたん表面上で船尾の方に流れて緑色のオーロラみたいな帯になって消えた。
「んな!!」
 突撃を待機していた3機も驚きを隠せない。どう見てもあれ以上の出力を持つ空戦マリオネットは存在しないからだ。もしあったのならジョーカーのレールガンかビームバズカーぐらいしかないだろう……
 しかし、初戦でジョーカーのそれは破壊されてしまったから……
 ぬくりは今の出来事を冷静に分析した。
「……電磁パルス(EMP)を応用した磁場バリヤ……緑に光ったのは……酸素原子が励起した為の光……」
 ヘンリーは、被弾した両足をパージしながら。
「まさかー、奴にはビームが効かないのー!?」
 現在ここにある機体で実体兵器があるのは、ぬくり機以外の各機の機関砲4丁と一色機のマイクロミサイルコンテナと斬鉄剣(ロングソード)が2本、アイノ機の背中に装備している大型ランスだけだ。刀剣を使うのには、かなり接近しなけれなならないのだが、実際効果あるのだろうか……
 マイクロミサイルも同様、小型機ならともかく大型機の装甲を打ち抜けれるのかは、甚だ疑問が残る、ここで消費するより内部に突入した時に使いたい……
 やれるとするのなら、4機の機関砲を一点集中して攻撃するしかないのだが、大人しくやられはずもないだろうし、小型機の邪魔が入る……思案するアンリーに。
「小型機が来るぞ散開しろ!」
 アイノの叱咤に全機散開して攻撃を再開した。
「もう……切りが無いよ……」
 一色機のミサイルコンテナを解放すれば、小型機ぐらいなら一掃出来るのだが、今これをやれば突入時の攻撃手段がなくなってしまうと言うジレンマが……
 一方、アンリー・ヘンリー機は機関砲で大型機のスリットに攻撃を仕掛けるが、小型機がそこを守る様に割り込み攻撃を受け爆散する。
 アンリー機が展開した浮遊砲台も小型機と相打ちをしてすべて撃墜されてしまった。「なんだよーじゃまするなよー」
「逆に考えるのだ、あそこが弱点だと」
 ヘンリーの呟きに答えるアンリー。
「しかし……このままでは……」
 そこへ正体不明の通信が入って来た。
「告、シーフィッシュを攻撃中の5機は直ちに離脱せよ!」
「なんだ?と、とにかく離脱!!」
 その通信が入ったと同時に、アンリーの指示により5機は離脱した。そして、またあの通信が。
「弾着まて3、2、1、今!!」
 その合図と同時にもの凄い轟音がし、シーフィッシュの上面から側面に掛けて弾着し側面に大きな損害を与えた。しかも、着弾数や威力は戦艦クラスが2、3隻ぐらいはあるだろうか?
 アンリーは急いで周りを見たが戦艦らしき姿はなく、見かけない艦船が1隻急速接近中だった。目測では60ノットは出ている様だ、艦船にしては異常に速い。
 その姿は軽空母に見えたが、何か違う様に見える。通常アイランドと呼ばれる艦橋がなく全通式平甲板(フラッシュデッキ)になってるらしい。
 その甲板に4機の陸戦マリオネットが配置され、射撃をしたばかりの様だ、攻撃をしたのはこれらだろう。
 さらにそこから4機の空戦マリオネットが発進中、しかも船尾から水戦マリオネット4機も発進している。計12機のマリオネットの戦隊、通常兵器に換算すると大隊クラスの戦力だ。
「なんだ?これは……空母なのか?」
 アンリーの疑問に答える様に通信が入ってきた。
「こちら、攻強皇国機甲所属遊撃旅団第2部隊、強襲揚陸艦『あきつまる』です。大型機ソーフィッシュに攻撃を再開する。小型機ソーシャークの対応をお願いしたい」
「こちら金星1ー2小隊隊長アンネリース・イェリネク大尉です。了承した、検討を祈る通信終わる」
 アンリーが通信を終えたと同時に離脱してから、甲板上のマリオネットから第2射が放たれた。砲塔を高角度から打ち出し、そして角度を少し低くして次弾を発射、それを繰り返して最後は直接照準で打ち出した。各機から1分間に6発射された。
 初弾の1発は大きな放物線を描いて着弾すると同時に最後の直接照準弾が着弾、つまりは計24発が同時着弾する事によって戦艦以上の威力を持った攻撃力を敵に与える事が出来たのある。
 しかも陸戦マリオネットは飛ばなくて良い分、慣性制御を攻撃力に回せるので、通常兵器よりも威力が上がるのだ。
 攻撃を受けたソーフュッシュは側面に大穴を開け降下を始め最後には着水した。
 4機の空戦隊は、まとわり付いている小型機を撃墜している。
 今度は着水したソーフッシュに対し、水戦隊が近距離から直接攻撃を始めた。主砲と共に水雷攻撃、誘導魚雷による攻撃も加わった。マルスの電磁パルス(EMP)は水中では効果が少ない為に通常の電子機器が使える為だ。
 しかも水戦機も陸戦機と同じ様に慣性制御を攻撃力に上乗せが出来るので威力も尋常ではない。
 しかし、戦況は有利に進んだかと思われたが、ソーフィッシュは突如青白く光り出し再生能力が速まり、再び浮上しあきつまる隊に攻撃を始めた。
 ソーフィッシュのインパクト砲があきつまるに対し発射、急遽甲板上の陸戦マリオネットがシールドを展開したが、この4重シールドをあっさり突き破りあきつまるに被弾炎上した。被害はまだ小破程度だが……
 あきつまる隊の動揺が抑えられない、なにせ戦艦並の火砲が効かない所かとシールドを貫ける火力とは……
 ソーフィッシュが2発目を発射しあきつまる隊が絶望を覚えた時、どこからともなく赤い何かが……マリオネット通常最高速度3倍の速さの……いや見た目が赤い帚星を思わせる何かが飛来しインパクト砲を弾き返したのだ。
 各自、臨戦態勢を取ったが、それは杞憂に終わった。
「みんな大丈夫?」
 それは、赤いシールドを纏った零夢の操るマリオネットだった。しかしそれは、どうみても通常には見えない……
 今の所、ヘンリー機とあきつまるが被弾しただけだが、各自の精神的ダメージが大きいのが見た目でも分かる。
「おまえ……今のは?」
 気を取り戻してアイノが聞いてくる、シールドを元の色に戻し零夢は。
「マリオネットのリミッターを解除したんだよ。強いて言えばハイパー化かな?」
 通常はパイロットと機体の保護の為に最大出力の20%になるようにリミッターを掛けているのだが、先程の戦闘を分析した結果通常の出力では太刀打ちが出来ないと判明して外した。これはLv.4以上の適応者じゃないと機体が暴走する恐れがありロックをしていたのだが。
「まて!これは危険だからパスワードが必要だろ?このLv.4の私でさえ教えて貰ってないのに……」
 アンリーが喚くが、零夢は。
「禁則事項です」
 と、とぼけるだけだった。ヘンリーが。
「で、アンリーこれからどうするの?」
「再生する前に内部に突入しかないだろうが……あきつまる隊は見ての通り小型機に翻弄されてさっきの砲撃は無理そうだし……」
 不意にアイノが。
「ふふふ、何か忘れていないか?あたしにはこれがある!」
 と、言うなり背中に装備してあるランスを取り出した。それは細長い円錐型した、たとえて言うなら中世の騎士の槍の様だ。
 誰も近接専用の武器だと思って気にも止めてなかったもので、ボクは思わず聞いてしまった。
「それは?」
「オキシジェン・アーク・ランサーだ。鉄と純酸素の反応で4400℃の温度が出せる。さらにアーク放電を上乗せして6500℃を出せる近接武器だ。ただ一回しか使えないから使い所がなかったのだ」
 無い胸を反らして説明するが、目立たないなぁと言う突っ込みは我慢する、今はそんな余裕無いからね。
「太陽表面の温度は約5500℃……それより高いとは……」
 アイノさんの答えに、アンリーは絶句してしまった。
「こいつを発動させてあいつに突き刺して内部に突入し、ダイダロスアタックを掛ける、ただし制限時間は300秒だ、これはどうだ?」
 アイノさんの作戦に、アンリーがうなずき。
「ボクが先頭になってさっきのシールドを張るよ、ハイパー化はあと420秒」
「ふむ、太陽表面より高い温度……これなら奴の装甲を貫けるか。それにパイパー化のシールド……よし!私とヘンリーとぬくりは援護する、レイムが先頭、次にアイノ、最後は一色の順に突入。内部に進入と共に一斉攻撃だ」
「了解、分かっていると思うが突入場所は発進口後方にスリットがある、あそこなら最適かと」
 そう、ちょうど主翼っぽい鰭の根元にスリットがある。そこから高温の空気を吐き出している。放熱用のなのだろう。
「作戦開始!!」
 アンリーの号令に、アンリー機は接近する小型機を牽制、ヘンリー機とぬくり機は突入隊を援護する為に近づいた小型機を攻撃。
 そして、零夢機がハイパー化し赤いシールドを展開しアイノ機・一色機が一列になってスリットに特攻する。大型機のインパルス砲を弾き返し唖然となる2人。
「ハイパー化あと315秒!」
 大型機に取り付き零夢機が最後尾に回ってアイノ機が先頭になり。
「喰らえ、地獄の業火『ヘル・バースト』!!」
 ランサーの先端から閃光とともに高温の火の玉が発生し大型機のスリットに突き刺す。
「くっ、シールドをししても結構くるな」
 アイノがそう呟く、シールドを通しても熱量が分かる。
 ランサーの長さが1/3ぐらいになったらスリットの一部が溶け落ち開口部が大きくなりマリオネットが通れそうになるが。
「まだまだ、あと100秒!出来るだけ内部を焼く!!」
 マリオネット装備のエネルギーソードも高温になるけど、これは線の攻撃で切断するのだが、これは面の攻撃になるのだろうか。
 ランサーが燃え尽きる頃には、半径10mほどの大穴が開いた。しかし、もう再生が始まっている。
「塞がる前に突入!!」
 アイノが命令して、ボク達は無事突入に成功した。
 前回と同じ様に内部は結構開けていて静かだ……だが?
「マイクロミサイル発射準備OK!発射行くよ!」
 一色が言うが、ボクは何か違和感があり。
「ちょっと待って」
「どうした?レイム」
「そうよ、早くやってしまいましょう」
 アイノと一色がそう言うが。その問いに答えず、足に装備しているマイクロミサイル1発撃ってみた。一色のコンテナに収まってるのと同じものだ。
 それは、壁に当たって爆発したが、そこには傷一つ付いて無かった。
「やっぱり……」
 そう、大型機は去年の中型機よりも頑丈に出来ていたのだ。壁を強固にして大型機の船体を維持してるのだろ。
「これじゃ、内部にダメージを与えられない弾の無駄遣いだ」
 ボクがそう言おうと、アイノが。
「なんで、分かったのだ?」
「うん、突入口を見てよ。去年の中型機よりもかなり厚かったから」
 2人が見ると、もう穴が半分ぐらいに小さくなっているが、まだ壁の厚さが分かるほどだった。
「で、レイムどうする?」
「この通路の先、強力なエネルギー反応がある。たぶんそこが動力源だ。そこを叩く!」
「なんで、分かるのよ?」
 一色が聞いてきたが。これはパフェとサンデーの解析で分かったものだが、ここで言うべきでないだろ。自分の能力はなるべく隠して置きたい、なので敢えて。
「プロトメウスのセンサーさ」
「よし、レイムが先行し場所を特定、次に一色、後部はあたしが援護する」
「「了解」」


 その頃、外部ではアンリー・ヘンリー・ぬくりが攻撃を続けている。ヘンリーが。
「アンリー、突入してからもう5分立ってるよー、どうしたのだー?」
「うむ……通信も繋がらないし……突入口も塞がってしまった……でも、奴らを信じるんだ!」
「でも……このままでは……」
 一部の銃座が旋回してして3機に攻撃を仕掛け始めた。


「この角を曲がった所……止まって!」
 ボクの指示でみんなが止まった所でそっと角の先を見たら円形のドームの周りにうじゃうじゃ何かが這い廻ってる。それを見た一色が。
「イヤーゴキブリ嫌いー!!」
 いや、それはゴキブリじゃなくフナムシと言うと思う前に、一色の悲鳴で一斉に触覚らきし所からインパルス方を撃って来た。サイズからして超小型の部類に入るからか火力はそれほどでも無いし装甲も薄いようだ。
 ボクはガトリングガンで攻撃をしフナムシを撃破すると共にドームにも攻撃をしたがこれではビクともしない。
 一色も攻撃をしようとしたがアイノに止められた、ヘルズストームはボク達の切り札だから。
「アイノさん援護して、あのドームを攻撃する!」
「分かった」
 ボクはプロトメウスの武装35mm機関砲、7.62mmガトリングガン、30mm機関砲、105mm自動装填無反動砲、マイクロミサイルランチャー、ビーム・ライフルを1丁を持ち、浮遊砲台(ファンネル)を4機展開してドームに向けて一斉攻撃を仕掛けた。
 全弾ドームに命中しドームが卵の殻の様に割れ、その余波で辺りを這いずり回ってたフナムシ型も消滅していた。
「なっ!!」
 ドームの中から、大きく多角形の結晶が赤いエネルギーを放って自転している物が出て来た。
「レイムこれは?」
 アイノの問いに、ボクは。
「マルスのコアだ!一色出番だ!ダイダロスアタック!!」
「いっくよーマイクロミサイル全発射!!」
 一色のコンテナからマイクロミサイルの嵐が……死の嵐(ヘルズストーム)がコアへ降りそそり爆散、やがて。

 キーン

 と、硬質の何かが割れる音と共にコアが砕け散りそれと共に大型機の白熱発光し消滅していく。
「シールド最大出力!!2人とも、その場を動くな!!」
 パニックになりそうな2人を叱咤し様子を見守る。


「アンリーあれ見て!」
「おおっ!やったか」
 大型機シーフィッシュは、胴体中央付近から白熱発光して消滅していく、周りを旋回していた小型機も発光消滅していく、まるで輝く吹雪の様だ。
 やがて、光の嵐が収まると、3機の姿が見えてきた。
「みんな無事か?」
 アンリー達が合流しながら聞いてくる。
「な、なんとか……」
「びくとりー!」
「手強い奴だったな」
 ボクと一色、アイノが応えるが、もう満身創痍だ。

「こちら、あきつまる。大型機の消滅を確認。訓練空母ずいぼうは、戦線を離脱し帰還中の為に我が艦への乗船を許可する、以上通信終わる」
 見渡すと、あきつまるが最大船速で近づいて来るのが見えた。よく見るとスクリュー推進ではなくハイドロジェット推進の様だ。たから60ノットの速度が出せる訳だ。
「了解、乗船許可感謝する。各機あきつまるへ着艦せよ」
 アンリーの指示によりボク達は、あきつまるへ着艦した。

第7章

 翌日、ボクはいつもとは感触が違うベッドにいる事に気が付き目が覚めた。
「知らない天井……」
 なんか、匂いからして……どこかの病室の様だ。
「レイム気が付いたか、大丈夫か?」
「みんな心配したんだよ」
 ボクの傍らには、アイノさんやミオミオを含めクラスメイト数人が看病をしていたらしい。
「にーさま、大丈夫?」
『お兄ちゃん、ヘーキ?』
 枕元に座ってるパフェと、左目に常駐しているサンデーが聞いてくる。
「ああ、大丈夫だよ」
 ボクが応えると、アイノさんが。
「おまえ、更衣室にあるシャワー室で倒れたんだぞ、こいつパフェだっけ?感謝しとけよ。こいつが、エマージェンシーコールを出さなかったら大変な事になってだぞ」
「はいはい、後は私が看ますから、あなた達は帰って休みなさい。寝てないのでしょう?」
 そこに母さんが、入って来た。
「そーだな、摩耶先生がそう言ってるし、あたしも疲れたよ……」
「じゃあ、レイレイお大事に……」
 などなど、と言って病室から出て行った。
 ボクは、見送りしようと起きようとしたが、頭がクラッとして倒れ込んでしまう。
「まだ寝てて、左目から結構出血してるから、一種の貧血状態ね。さて、レイ君何がどうなったか、覚えてる?」
 母さんが、そう言っていたので思わず左目に手を当ててみた。いつもの眼帯でなく包帯で止血してる様だ。
 何がどうなったのか?思い出してみる。

 昨日は……

 大型機のコアを一色が破壊した時、そこから2カラットぐらいのルビーの様な多角形の結晶が手元に飛んで来て思わず手に取り、それを無意識にポケットにしまい込んでしまった……
 それから、あきつまるに着艦してそのまま学園の港に入港し先に到着していた、ずいほうに移動してコンテナに収容してトラムで格納庫に……
 到着してから、アンリー達と戦闘報告書を作成してジョーカーの不具合をまとめて提出して……
 その後、更衣室で汗を流しにシャワーを浴びに行った。

 いくらパフェは自動人形(オートマトン)と言っても女の子なので、見られるのは恥ずかしいからリンクを切ってシャワーを浴びながら、例の結晶を照明にかざしながら観察してたら急に光って……

 ……その後、どうなったのだ?記憶にない……だと?
 あの結晶はどこに行ったのだ?……

「レイ君どうしたの?何か思い出した?」
「シャワーに行った、までは覚えてるのだが……」
 母さんが聞いてきて、ボクがそう答えたのだが……なんか頭の中が違和感でいっぱいだ。
「朝ご飯食べられる?まぁ病院食だからあまり期待しないね。この後、検査するからね」

 この後、CTとかMRIとかの検査を受けたが、CTはともかくMRIの騒音は何とかならんのかな……

 検査結果……特に異常なし、ただし左脳の異物が前回の検査より少々肥大してるので定期的に検査必要。

 だ、そうだ。腫瘍ではないらしいので、その辺は安心した。だが……

「今日は、このまま入院して様子をみます、退院は早くても明日の午後になるわよ」
 母さんが主治医なので、したがうしかないだろうな……

 まぁ、入学時からなんだかんだで、どたばたしてたから久々にゆっくり出来そうだ……でも……病院食はねー……
 ちょっと暇だな、TVはあるけど地上波はみないからなぁ……
 そうだ、前にネットダイブした時、気になったファイルを読んでみようか、忙しくてすっかり忘れていたよ。


  ・・・


『プロジェクト マリオネット システム(PMS)レポート』

 本レポートは最優先極秘事項なので閲覧・コピー等は特別許可がない限り禁止とする。

 マリオネットシステム、以下『MS』と表記する。

 MSは対マルス用に開発したが覚醒せず。何らかの要因が必要と思われるが、何が必要かは現在時点不明。

 MSは動力源・量子場慣性制御・シールド制御と、それらを統合制御する量子コンピューターの4つの有機物ユニットで構成されている。 
 しかし、量子コンピュータの人工知能が機能しないと、言うよりプログラムをした事は実行するが応用が出来ない、その為に他の3つのユニットの微妙な制御が出来ないのである。何らかの学習手段が必要と思われる。 

『駿河大事変』後、名称不明の男児を保護する、彼は左目を貫通して左脳に何らかの異物が刺さり、声帯まで重度の火傷を負う重体状態で生きているのが奇跡の様だった。

 緊急手術の結果一命は取り留めたが、このままでは半身不随と判断し『MS試作00番』を一部の機能を制限して埋め込み成功する。以後、機密事項の為この機器を『思考制御デバイス試作0号機』と呼称する。

 被検体の男児、『摩耶零夢』と命名し以後『零夢』と呼称する。

 零夢に埋め込まれたデバイスの量子コンピューターは、1ヶ月間の沈黙を破っていきなり覚醒した。
 推測、この間に生体との融合と右脳からの情報を受け取りプログラムを自己修正させる進化をしたと思われる。

 『MS量産テスト01番』を自動人形(オートマトン)にリミット付きで内蔵させる。その結果、量子通信でデバイス0号機と同期されてる様でこれも、プロクラムも自己修正されてる様だ。

 以後、『MS量産テスト01番』を『思考制御デバイス量産テスト機1号機』自動人形(オートマトン)を『パフェ』と呼称する。

 その後、零夢の影響なのか、パフェに自我らしき物が発現し零夢とパフェと会話する事を確認。

 パフェデーターをMS量産02番、以後『MS02』と呼称する、にインストールしたが、自我は継承されなかった。しかし、AIは量子通信でネットワークを形成していて同期を取る事を確認。

 摩耶勇夢氏が開発していた、飛行外骨格試作1号機『クラフト01』にMS02を内蔵させると、今までエネルギー問題で稼動出来なかったクラフト01が起動する。
 同じくエネルギー源の小型化が出来なかったビーム・ライフルも起動した。しかもシールド、慣性制御も発現した。
 ただし、その扱いは女子に限る様だ。MSコアが覚醒してる時に、男性が近づいたら自動的にシールドを張り、乗る事も触る事も出来なかった。
 推測、量子通信ネットワークでホストデバイスである零夢が無意識に拒絶している可能性がある。
 その為に世間からは注目をされなかった。

 その後、大和皇国沖にコードネーム『ハードノーズシャーク』『レモラ』のマルス戦隊がタッチダウンして来た。

 サイズは小形機に分類されるが、ハードノーズシャークはこの戦隊の旗艦の様で強力な電磁パルス(EMP)を発しながら12機ほどのレモラを指揮している。
 この為、現存の航空機および戦艦はEMPで近接での直接攻撃が出来なく、エリア外から間接攻撃で攻撃しても、動きの速い彼らに避けられ、しかもレモラの攻撃で壊滅寸前になった。

 私、摩耶晴海は、テストを兼ねてクラフト01に乗り込みマルスに攻撃を仕掛けた。
 結果、シールドが機能しEMP及びインパルス砲の直撃を受けてもダメージは無し、慣性制御の推進力も問題無く加速・旋回がスムーズに出来た。ビーム・ライフルの連射問題があるが、エネルギーチャージの時間を稼げれば、1発で撃墜出来る火力があった。

 迎撃艦隊旗艦艦長は「たった3分で……」と絶句していたらしい。
 その後、国際問題になったが、ここでは割愛する。

 ハードノーズシャークを攻撃をした時に、多角形の赤い結晶が見え、それを破壊したら白熱発光して消滅、残りのレモラも同じ様に消滅した。
 予測、多角形の結晶はマルスのコアだと思われる。

 マルスコアのエネルギーパターンと零夢の左脳にある異物のエネルギーパターンが一致し、これはマルスコアではないかと思われるが、確証がない為に現地点では結論を保留。



  ・・・


「ふー」

 っと、一息ついてボクは目を開けた。まだレポートが続くが、後の流れはだいたい予想が付く。
 薄々は気付いていたが……まさか左目とパフェのデバイスがMSコア……とは……しかも、左脳にはマルスコア……だと?
 なんの冗談だ!これは……しかし……今までの事を思えば説明出来るか……この事が漏れるとボクの身に危険が及ぶよな……
 なんで、目立つ所にこのファイルが落ちて居たんだ?
 よし、削除しよう。オリジナルじゃなさそうだし……
 いや、まてよ……これは何かのトラップか?消したとたんに何かが発動するのか?
 再び目を閉じ、ネットダイブを再開し例のファイルに紐が付いてないか確認してみたら……案の定監視してるソフトがあった。
 うーん、この分じゃファイルを開いた時点でトラップに捕まった可能性が、しくじったな……
 なぜか、さっきの動揺が消えて、意識がクリアになると言うか、なんかボクは笑ってる?
 その時、病室のドアがノックして開き。
「レイ君、今大丈夫?」
 母さんが入ってきた。
「母さん、どうしたの?」
「レイ君、PMSレポート読んだ?」
 唐突に母さんが聞いてきた。
「なんで、それを?」
「ふふふ、これよ」
 と、言いながらスマートフォンのアプリを見せて来た。そこには既読済みの表示が。
「で……ボクはどうなるの?」
 思案しなら聞いたが、あっけらかんと。
「別に、何も無いわ。ホントは私の口から言いたかったけど……レイ君がこのファイルを見つけてからと思ったのよ」
「それで、これはどこまでホントなの?」
 真実を隠すのには、本物の情報を少し織り交ぜると事実っぽい隠蔽工作が出来るのが、上等手段だのだが。
「どこまでって、全部本当の話よ。」
「うむ……」
 やっぱり、あれは全部事実か……
「それにしてもレイ君、もっと取り乱すと思ったのに意外に冷静なのね……感心したわ……」
「別に冷静って訳ではないけどね」
「それじゃ、これも言ってもいいかな?……先日の戦闘で確認されたマルスコアとレイ君の左脳にある異物のエネルギーパターンが一致したの、これで左脳にある物はマルスコアと断定されました。しかも、マルスコアのエネルギー流量が以前より増加してます」
 やはりと言うか何と言うか……
「あまり、驚かないのね……レイ君のMSコアが覚醒した以降、マルスの発生比率が大和皇国周辺に偏ったのは偶然ではないと思います。以後この比率が大きくなると予測されます…………」
 母さんが言い淀んでいるな、ならばこの続きは……
「マルスエネルギーをシールドで封印する為にボクとパフェのコアのリミッターを解除する」
「なんで……」
 ボクが断言して言うと、やはり図星だったか。母さんが思いっきり動揺してしまった。
「なんでって言ってもさっきのレポートを読む限り、ボクとパフェのコアがリミッターを掛けられているのが分かったから」
「でも……やっぱりダメ!シールドを使える様にするにはコアのすべての機能を使わなくては出来ないの、動力源や慣性制御が……体内での影響が未知数……」
 母さんが反対してるが、ボクは自信を持って。
「伊達に7年間入れてた訳じゃない。大丈夫、制御してみせるから安心してよ」
 母さんがスマートフォンでアプリの設定を変えてから。
「分かったわ……リミッター解除するには、レイ君がPSMレポートを削除すれば発動します……タイミングは任せるわ、ただし体の安全は保障出来ません……」
「分かった今からやるよ」
 ボクはそう応え目を閉じ……

「PMSレポート削除(デリート)」

 MSコアの量子コンピュータに命令を送ると。
『PMSレポートを削除しますか?    YES/NO』
 ここはもちろん『YES』と……念じると同時に意識が
ブラックアウトした……




 ……ここは、どこかの宇宙、否どこかの時系列……または平行宇宙なのか?……の、どこかに浮かぶ、とある惑星『マー』
 この惑星は、太陽に近い為に潮汐ロックの作用で自転と公転の周期が一致して同じ面をいつも太陽に向けられている。
 その為に昼側は100℃以上になり、その逆の夜側は-100℃以下の厳しい環境になるのだが、海と大気の対流の為にその中間地点は温暖な気候になっている。
 この地点は地球における黄昏(トワイライトゾーン)に似ていて水平線には赤い太陽が、空は真っ赤に染まっているが、太陽は沈む事がない。
 そこにある大陸の一国に建っているとある城。どこか西欧風に似ている……その玉座に座る、頭には獣耳っぽいのが付いている見た目が幼女……幼女と言っていいのだろうか?……が座っている。
「勇者召還の儀は、まだですか?」
 幼女とは思えない凛とした声で尋ねてた。
「姫様、我が太陽『赤の星(ポラリネン)』と主星の『白の星(バイコンネン)』と『黄の星(ケルタイネン)』の星の位置がまだ定位置に来ていませんので、もう少しお待ち下さい」
 姫様と呼ばれた幼女の傍らに控えている術師がそう応えた。
 姫様は立っていた獣耳をがっくりと垂らし。
「そうですか、でも我が国いえ大陸の危機が迫ってます。それまで、耐えられるのでしょうか?……今こそ10年前のお約束を……レオンミシェル様いや勇者レオン……お待ちしています……」


END

隻眼の人形使い マリオネット戦記

どうも、緒本諦です。あきらめると書いて「あきら」と読みます。
これは処女作品で、某ラノベ大賞に応募して見事に落選しました。
どうしてもこれの設定を諦めたくないので、ここに載せてみました。

隻眼の人形使い マリオネット戦記

ひょんな事で、女性にしか乗れない筈のマリオネット(パワーアシスト外骨格)に乗る事になった零夢は、 正体・目的不明のアンノウン『マルス』に対抗する為の学園に入学して、模擬戦や戦闘を行う事になってしまった。

  • 小説
  • 中編
  • SF
  • 青年向け
更新日
登録日
2015-08-16

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 第1章
  2. 第2章
  3. 第3章
  4. 第4章
  5. 第5章
  6. 第6章
  7. 第7章