幸運な王子

 舞踏会から逃げ出してしまったシンデレラを、王子は自ら馬に乗って追いかけた。途中、森の中で眠るオーロラ姫を発見し、思わず口づけすると、姫は目を覚ました。放って置くわけにもいかず、一旦城に連れて戻ろうと、姫を自分の後ろに乗せ、馬を走らせた。ところが今度は、毒リンゴを食べた白雪姫の棺をかついだ七人の小人と遭遇し、驚いた小人が棺を落としてしまったため、白雪姫は喉に詰まった毒リンゴを吐き出して生き返った。これまた置き去りにできず、王子は二人の姫を馬に乗せ、自分は手綱を引いて城に戻った。
 城に帰ると、あろうことか二人の姫は言い争いを始めた。
「口づけされたってことは、王子はわたしが好きということよ。あなた、少しは遠慮しなさいよ」
「冗談じゃないわ。あなたは眠っていただけじゃない。わたしなんて死んでたのよ。王子様は命の恩人なのよ。誰が他人に渡すもんですか」
「何よ。やる気?」
「やってやろうじゃない」
 あられもなく、つかみ合いの喧嘩になった姫たちの横で、王子はオロオロするばかり。
 そこへ、自分を追いかけていたはずの王子がいっこうに姿を見せぬため、痺れを切らせたシンデレラが乗り込んで来た。
「ちょっと、あんたたち、後から出てきてあたいの王子様を盗らないでちょうだい。あたいの方が先約なのよ」
「ふん、あなたなんて本当のお姫様でも何でもない、ただの庶民じゃない」
「そうよそうよ。あなたの出る幕じゃないわ」
「何よ、偉そうに。あたいがどれだけ苦労してこのチャンスをつかんだと思ってるの」
 三つ巴の争いになっているところへ、城の奥の部屋から、さらに何人もの姫が現れた。
「ベッドにエンドウ豆があって眠れません。王子様の横で眠らせてくださいな」
「体は親指くらいでも、王子様への愛はこの城よりも大きいですわ」
 中には、しゃべれないらしく、こんなプラカードを掲げた姫もいた。
【あなたのために、声を犠牲にして人間の姿になったのよ。責任とってちょうだい】
 王子はどうしていいかわからなくなり、城を飛び出してしまった。
 行くあてもなく彷徨っていると、突然、目の前に空飛ぶ舟が降りて来た。
「日本から来たかぐや姫です。一緒に月へ行きましょう。これが本当のハネムーンですわ」
 だが、王子が舟に乗り込もうとした時、姫たちが追い着き、一斉に叫んだ。
「逃がすもんですか!」
 ああ、過ぎたるは…。
(おわり)

幸運な王子

幸運な王子

舞踏会から逃げ出してしまったシンデレラを、王子は自ら馬に乗って追いかけた。途中、森の中で眠るオーロラ姫を発見し、思わず口づけすると、姫は目を覚ました。放って置くわけにもいかず、一旦城に連れて戻ろうと、姫を自分の後ろに乗せ、馬を走らせた。ところが今度は…

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-08-16

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