雨がやんだら(終)

   三十七

 花田浩二が事務所に姿を見せた三日後、私は〈宗方五郎記念病院〉に向かって、フォード・ファルコンを走らせた。梅雨入り早々の〝中休み〟を終えたばかりの空からは雨が降りそぼり、ファルコンのフロントガラスを打ちつけていた。
 〈花勝水産〉を訪れる際に下りた館山自動車道の〈市原インター〉を通り過ぎ、その先にあるサービスエリアにファルコンを乗り入れて、事務所を出発してから最初の休憩を取った。ここで、少し早めの昼食を摂ることにする。海の見えないサービスエリアのレストランで、〝イチ押し〟だという海鮮丼を食べる私の隣では、営業途中のサラリーマンとおぼしき男たちが、スポーツ新聞の芸能面を挟んで語り合っていた。話題は、下山文明による〈聖林学院〉で開催されるイベントについてだった。昨日、正式に発表されたらしい。彼らによれば、〈聖林学院〉が選ばれたのは、下山文明が〝校風に惚れ込んだから〟と記事に書かれているらしい。嘘を百回もつけば、真実になるそうだ。稀代のプロデューサーであれば、残りの九十九回など数の内に入らないに違いない。
 〝イチ押し〟だという海鮮丼は、わざわざこのサービスエリアまで足を伸ばす必要もない味だった。最後の一口をお茶で流し込み、レストランを後にして、〝淹れたて有機焙煎コーヒー〟と幟を立てたカフェで、テイクアウトのコーヒーを買った。食後の一服の〝お供〟を手にして、サービスエリアの片隅に設置された喫煙コーナーに向かう。密閉されたガラス張りの中で、煙草を喫っていると、動物園の檻に入れられた希少動物の気持ちが、少しばかりわかった気がした。フードコートで買ったコーヒーは、ただ濃いめに淹れられただけの美味くもなんともないコーヒーだった。どうやら、海鮮丼もコーヒーも、私は〝九十九番目〟の客だったらしい。
 コーヒーの半分以上を灰皿に捨てて、喫煙コーナーを後にした。ファルコンに戻り、再び館山自動車道を南下する。〈木更津ジャンクション〉を通り過ぎ、〈君津インター〉で館山自動車道を下りた。そのまま道なりに進んでいくと、古ぼけた料金所が見えてきた。房総スカイラインへの入口だ。
 昨日、大江のメールに添付された地図に従って、料金所を無視して通り抜ける。大江が送ってくれた地図は、一度プリントアウトしたものに、所々メモを記した後でスキャニングされたものだった。〈君津インター〉は赤い丸で囲まれ、房総スカイラインの入口には〝料金不要〟とあった。このメモ書きがなければ、車内で慌てて財布を探していただろう。
 房総スカイラインは、房総半島を左袈裟に斬った剣筋のように海へと続いている。大江の地図にあった〝覆面パトカーに注意!〟という注意書きを守って、制限速度を保ちながら目的地へと急いだ。ワイパーがせわしなく動くフロントガラスの向こうでは、雨に濡れる若葉と雨を降らす暗い雲が広がっていた。若葉に必要なのは、深い蒼で彩られた空と、天へと伸びることを誘う陽光ではないのだろうか。いや、違う。この季節をくぐり抜けてこそ若葉は茂り、大木にもなるのだ――柄にもなく、取り止めのないことを考えていることに、私は気づいた。
 ――灰色の脳細胞が導き出す答えなど、当てにできるものか
 ギアをサードに落として、アクセルを踏み込んだ。お為ごかしな考えを吹っ切るため、大江の注意書きを無視して、スピードを上げる。構うものか。前後に車の影はないのだ。それに今日の私には、〝臨時収入〟があるではないか。
 〝臨時収入〟が事務所に届いたのは、今朝のことだった。身に覚えのない現金書留の差出人欄には、〝元依頼人〟が経営する学校法人の名前が押印されていた。現金書留の中身が、私が請求するはずだった金額――当然、請求書などは送っていない――よりも、かなり上乗せされていることは、封筒の厚みでわかった。口止め料の意味合いもあるのだろう。
 ――さて、この一方的に送りつけられた現金書留は、どう処理したものか
 尾藤であれば、〝臨時収入〟などなかったかのように、あの学校法人と〝良好な〟関係を再び築き上げるだろう。古河であれば、自分の顔をはたいた札束を突き返すのと同時に、あの理事長に別の〝なにか〟を叩き返すに違いない。
 どうやら、我が友たちは、なんの役にも立ちそうにない。
 煙草を一本喫う間だけ悩んで導き出した回答は、事務所を出がけに、近くの銀行のATMで、現金書留の中身を入金することだった。〝臨時収入〟として、ありがたく頂戴しておく。なんのことはない。背に腹は代えられなかっただけのことだ。
 最後まで、房総スカイラインで覆面パトカーに出くわすことはなかった。房総スカイラインを通過してからは、〈片倉ダム〉を横目に県道二四号を走り、鴨川有料道路――大江のメモ書きには、〝二一〇円、必要です〟とあった――へと進んだ。行き過ぎる雨に霞む景色の中に、山肌の斜面を利用して作られた棚田が見て取れた。先人の智恵と努力による鮮やかな緑を眺めながら、〈宗方五郎記念病院〉を目指す。
 房総半島特有の深い山あいの道を通り抜けると、市街地に入った。やがて突き当たった交差点を左に曲がり、海沿いの道にファルコンを乗せる。この海沿いの道は、あの古い漁師町へと続いているのだが、リゾート地を有しているせいか、道行く人々を受け入れる準備は万端とばかりに、看板やホテルが賑々しく立ち並んでいた。中には、虚栄心を満たすだけで、なんの効能も期待できない金造りの風呂桶を売りにしたホテルまであった。
 左に大きく曲がるカーブを抜けると、右手にはシャチを見ることのできるリゾート施設が広がり、パームツリーに囲まれた敷地の向こうに、白壁の大きなビルが建っていた。
 オーシャンビューを謳い文句にしたリゾートマンションのような外観の建物こそ〈宗方五郎記念病院〉だった。その証拠に、ビルの外壁に慎ましく病院の名前が記されている。
 案内の看板に従い、外来用の駐車場に乗り入れて、ファルコンを停めた。駐車場は、この図体のでかい車を余裕で収められるだけのスペースが、確保されていた。それもそのはずで、よく見れば、周りに駐車されているのは高級車ばかり――ベントレー、アストンマーチン、ジャガー、マセラッティなどなど――だった。
 駐車場から病院までの通路には、傘を差すことなく病院まで歩いて行けるように、商店街のアーケードのような屋根がしつらえられている。訪問者たちの所有車といい、ホスピタリティの高さといい、わかってはいても、ここは高級リゾートマンションではないのかと勘違いしてしまいそうだった。
 広い入口には、手入れの行き届いた観葉植物が飾られていて、病院内に一歩踏み込むと、見舞客にしては着飾った紳士、淑女たちがロビーを行き交っていた。彼らに混ざって、見舞客を出迎えに来たのか、それとも見送りに来たのか、点滴をぶら下げたスタンドを傍らにしたパジャマを着た男や、車椅子に乗せられた女たちと、白衣を着た看護士たちの姿がある。やはり、ここは病院なのだ。そう理解すると、消毒薬かなにか――とにかく、なにがしかの薬の匂いを、かすかに感じた。
 私は、ロビー右手にある〝インフォメーションセンター〟と記されたカウンターに行き、来訪の理由を告げた。淡いピンクの事務服を着た顔の細長い受付嬢が、慣れた調子で「A棟の十二階になります。左手奥の直通エレベータをご利用ください」と言って、十二階のナースステーションで、もう一度受付をするよう教えてくれた。
 馬面をした受付嬢の猫撫で声に従ってロビー左手の奥に行くと、待ち構えていたかのように、エレベータがドアを開けて待っていた。恥をかかない程度に小走りをして、エレベータに乗り込む。
 エレベータは、思ったよりも狭いものだった。車椅子や、ときにはストレッチャーを乗せるため、病院のエレベータは広めに作られているものなのだが――そう、このエレベータは、十二階の入院患者が、見舞客とともに一階へ降りてくることを想定していないのだ。
 直通エレベータのコントロールパネルには、ドアの開閉ボタンしかなく、通常なら各階のボタンがある位置に、群青のプレートが貼られていた。白い文字のレタリングが施されている。かろうじて英語ではないことがわかるくらいで、なんと書かれているかまでは、読みとれなかった。横文字であるということは、聖書かなにかから、抜き書きした一節なのだろう。
 やがて十二階にたどり着いたエレベータは、昇っていたことを感じさせないほど静かに停まった。ゆっくりとドアが開いて目に入ってきたのは、アイボリーに塗られた壁と、木目調の床だった。この最上階のフロアは、病気や怪我を治して退出することを目的としているのではない。来るべきその日までを、穏やかに過ごすためのフロアなのだ。
 フロアには二組のグループがいた。どちらも海に面した窓の前で、大きな酸素ボンベを取りつけられた車椅子を囲んでいて、それぞれのグループには、ひとりずつ白衣をきた看護士がつき添っていた。フロアの中心では、看護士と患者の家族とおぼしき男が談笑している。
 フロアの右手にあるL字型のカウンターキッチンを思わせるナースステーションでは、男が木目調のカウンターに寄りかかるようにして、優しい眼差しで彼らを見守っていた。フロア全体を包む雰囲気は、そこはかとなく明るく、その分だけ私の胸は締めつけられた。
 カウンターに寄りかかっていた男が私に気づき、軽く会釈をしてきた。背丈は、六尺に寸足らずの私と同じぐらい。〝医者の不養生〟というわけではないだろうが、半袖の白衣から伸びる腕は青白く、ノミで削ったかのように頬がこけていた。そのせいで、実際の年齢以上に老け込んでいるように見える。
 男の方からも歩み寄り、右手を差し出してきた。胸のポケットにつけられた青い縁取りのネームプレートに〝大江信也〟とある。
 私は差し出された手を握り返すことはせずに、自己紹介を済ませた。
 男――大江はおどけるように唇を〝への字〟にして、やり場のなくなった右手をそっと戻した。
「大江です」不健康そうな見た目の割に、彼の声には張りがあった。「遠いところを、わざわざお越しいただいて……」
「いいえ。今日は、こちらのわがままを聞いてもらっているわけですから――」
 お礼を伝えて、早々に本題を切り出そうとした私を、嬌声が遮った。
 なにがあったのかはわからないが、窓際にいたふたつのグループが、手を叩いてはしゃぎあっている。フロアの中央にいた看護士と男が、ふたつのグループにそっと歩み寄り、その様子を眺めていたナースステーションの看護士たちの顔には、微笑みが浮かんでいる。
「……ちょっと、場所を変えましょう」大江が提案をしてきた。
 頷いて応えると、大江は病棟に通じる廊下の手前にある扉を開けて、私を案内した。そう広くない部屋には、〝簡単な〟応接セット――それでも、私の事務所にあるものより立派なものだ――が置かれていた。大江は私にソファに座るよう促した。
「ここは、患者さんの家族と面談する部屋ですか?」私は訊いた。
「そうですね……でも、それだけじゃありません」大江は部屋の奥にある冷蔵庫を開けて、中身を探り始めた。「ご家族の方々の〝ガス抜き〟に使っていただく部屋でもあるんです」
「〝ガス抜き〟……ですか?」医者が使う表現としては、適切ではない。
「さっき、患者さんとご家族が笑い合っていたのを、ご覧になったでしょう? あんなことができるのも、この部屋があるからなんです。このフロアに入院される患者さんたちは、ご家族が無理をして笑ってるんじゃないか……とか、周りのことに疑り深いというか、ものすごい敏感になっているんです。だから、ご家族のみなさんには、哀しい顔をするのは、この部屋だけにしてもらって、患者さんとは肩の力を抜いた恰好で、接してもらいたいいんです」
「終末医療の現場における最大の配慮……というわけですか」
「そういうことになりますかね。患者さんのご家族同士で、食事会みたいなことを開くこともあるんですよ。お酒はさすがにダメですけど。ただ、そうやってお互いの傷口を舐め合うことも、ご家族のみなさんんには効果的なんですよ」
 医療現場へ配慮をしすぎると、言葉遣いにまで心配りは及ばなくなってしまうようだ。
 大江は日本茶の入った小さなペットボトルを二本取り出すと、こちらを向いて訊いてきた。「煙草……喫われます?」
 私は当然、「はい」と答えた。
 大江は柔らかな笑みをたたえて応えると、冷蔵庫の隣にある食器棚から、陶器製の灰皿を手にして戻ってきた。
「どうぞ」ペットボトルを一本、私の前に置き、灰皿はテーブルの真ん中に置いた。
 飲酒は厳禁で、喫煙は容認――ここは、ボルステッド法が生きている町なのか。いや、マフィアの暗躍を許したあの〝高貴な実験〟は、八十年ほどまえにかの国で廃案になっている。なんのことはない。この部屋で喫煙が容認されているのは、彼が私と同好の士であるからなのだ。その証拠に、大江はしきりとポケットを探っているではないか。
 私はワイシャツの胸ポケットから煙草を取り出して、大江に差し出した。煙草の箱を見て、大江は目をつぶって顔の前で手刀を作り、一本抜き出した。私も一本振り出して、煙草をくわえる。
「すいません。どこかに忘れたみたいで……デスクの抽斗かな?」
「構いませんよ」ブックマッチを擦って大江にかざしてやり、自分の煙草にも火をつける。
 最初の一服を深く喫い込んで、美味そうに吐き出す。「煙草好きにとって、どこもかしこも、いつ何時も禁煙っていうのが、一番のストレスですからね」
「医者の言う科白とは、思えませんね」
「まァ、ホントは言っちゃいけないんでしょうけどね……ですが、我慢し過ぎるのも、よくないですから。精神衛生上の問題です」
「お医者さんってのは、ずるいですな。なんとでも理由がつけられる」
「そう言われてしまっては……立つ瀬がありません」大江が言った。
 口にした言葉とは裏腹に、大江は悪びれもせずにぷかりと煙を吐き出している。いい頃合いだった。私は本題を切り出すことにした。
「博之君のことなんですが……会わせて、いただけるんですよね?」
「ええ。ただ……ちょっと、時間をください」
「どういうことなんです?」
「今、博之君のお母さん……洋子さんの身体を拭いているところでしてね。その間、彼はウチのスタッフと一緒に、外に昼メシを食いに行ってるんです。気晴らしも、兼ねてね」大江は、壁にかけられた時計に目をやった。「もう、しばらくしないうちに戻ってくると思います」
「そうですか……いろいろと、お手を煩わせて、申し訳ありません」
「いいえ」と言って、大江はペットボトルの蓋を開け、日本茶を一口飲んだ。「患者さんとそのご家族、すべてをケアすることが、我々の仕事ですから」
 背筋をピンとして、ソファに腰かける大江が誇らしげに見えた。私と同じように、口は悪く、他人の不幸を、メシのタネにしているというのに。
 ――なにを考えている。彼は傷を癒す聖職で、お前は傷口からエサを漁る野良犬じゃないか
 胸に湧いた〝卑屈な自負〟を煙にして吐き出しまうと、特段話すことはなくなってしまったので、私はなにも言わずに煙草を喫い続けた。小さな部屋には、煙と静けさだけが充満し、紙巻き煙草がジリジリと燃えていく音すら、聞こえてきそうだった。
 私にとっては、さほど気にならない静けさも、目の前に座る大江にとっては、耐え切れない沈黙であったらしい。彼は半分ほど喫った煙草を消して――他人からもらっておいて、贅沢なヤツだ――話し始めた。
「洋子……さんと、僕なんですが、高校の頃、つき合ってたんです。まァ、僕が、高校を卒業するタイミングで別れたんですけどね。僕は……あの町を出て、東京の大学に行くことに決めてたんで。それに、彼女にはお兄さん……浩二さんが、いますから。昔から、ふたりはホントに仲のいい兄妹なんです。つき合ってた頃なんか嫉妬したぐらいなんですよ」三十年ほど前の恋を語っていた大江の目が、私に向けられた。「今だってここの入院費は、浩二さんが出してるんです。ウチの病院、そう安くないんですよ」片目をつぶってみせる。
 駐車場に停められていた車や一階のロビーを行き交う人々を見れば、この病院の入院費がいくらになるのかなど、誰にでも容易に弾き出せることだ。なにより、場を保たせる世間話だったとしても、彼は語るべき内容を間違えている。彼らの過去のことも、ここの入院費を捻出しているのが誰であるかも、今の私にはどうでもいいことだ。
「……もっとも、彼女をここに入院するよう奨めたのは、僕なんですけどね。儲けようと思ったからじゃ、ありません。二年ほど前のことになるんですが、彼女とバッタリ会ったんです。僕の息子は〝ハリ校〟……ごめんなさい、〈聖林学院〉っていう学校に通ってるんですが、そこで、バスケをやってましてね。親バカと思われるかもしれませんが、息子の大会を見に行ったんです。そのときの会場に、洋子がいたんです。それは、びっくりしましたよ。ほら、彼女は芸能界に入ったり、旦那さんが下山文明だったりと、遠い世界の人だと思ってましたから――」大江は再び遠くを見つめて、続けた。「当然、声をかけましたよ。〝久しぶり、覚えてる?〟ってね。洋子も、僕のことを覚えてくれていて……聞けば、彼女の息子、博之君も〈聖林学院〉に通ってて、同じ学年って言うじゃないですか。しかも、同じバスケ部なんですよ。驚きましたね」
 私が初めて〈聖林学院〉の男子寮を訪れた際、食堂には博之と同学年の生徒が集められていた。あの中に、池畑や井原という少年に混じって大江の息子もいたらしい――これも、今となってはどうでもいいことだ。
 大江のおしゃべりは続く。「ウチの息子はベンチスタートだったんですが、博之君はレギュラーでね。大会の結果は三位でした。まァ、優勝はできなかったんですが、祝勝会……みたいな感じで、ふたりで軽く飲んだんです。そうそう、そのとき彼女が急に泣き出しちゃいましてね。泣き上戸なのかと思ってたら、違うんです。彼女が言うには、あんな活き活きした博之君を見るのは初めてだって。母親がダメでも、子供はちゃんと育つんだな……なんて、こぼしてました。これがきっかけで、ちょくちょく会うようになったんです……あ、いや、別に不倫とか、そういうのじゃないですよ。バスケ部の保護者同士、いろいろと情報交換するためだったんです。そりゃァ、この歳になるまでのことも、情報交換しましたよ。だから、彼女が苦労したというか、周りに迷惑をかけたというか……とにかく、いろいろと話を聞きました。ただ、何回目かに会ったときに、気づいたことが、あったんです。彼女の白目なんですけど……ちょっと、黄疸があるように見えたんです。それで検査を奨めました。検査の結果は、原発不明の癌でした。特に肝臓にあるヤツが、ひどくて――」
 よくもここまで、話を続けられるものだ。まあ、待ち合わせで入った喫茶店に流れるBGMが、好みの曲ではなかったと思えばいい。私は短くなった煙草の代わりに、新しい一本をくわえた。ブックマッチを使わずに、短くなった煙草から、火を継ぎ足す。
 大江が言葉を途切らせた。私の仕種から、ようやく彼の思い出話に、私が興味を示していないことに気づいたようだ。
「――興味、ありませんか? 僕の話」
「ええ。はっきり、言ってしまえばね」用済みになった短い煙草を灰皿で消す。
「ごめんなさい。商売柄なのか、元からなのかはわかりませんが、話が長くなってしまうみたいなんです。患者さん、そのご家族、ときには新人のスタッフなんかの不安を取り除くのが、僕の仕事なんです。最期は……笑顔で迎えたいですから。エレベータに書いてある言葉……あの言葉は、このフロアにいる患者さんに伝えておきたい言葉なんです。あそこには、カッコつけてラテン語なんかで書いてありますが、実は般若心経の一節なんですよ。日本語に訳せば……うーん」大江は首を捻って、唇を〝への字〟に曲げた。
 どうやら、翻訳が完了するまで、待たねばならないらしい。私が煙草を二回吹かした後、大江の翻訳は完了した。
「『逝く者よ、彼岸へ逝く者よ。彼岸に達した者こそ、悟りそのものである。幸あれ』といったところ……ですかね。死を迎えることは、怖くない――」
 何度目かの長話を続けようとした大江の口を塞いだのは、ドアをノックする音だった。大江もさすがにノックは耳に届いたようで、ドアに向かって「どうぞ」と答えた。
 薄く開けられたドアから、顔を覗かせた若い看護士が言った。「準備ができました」
「そう。ありがとう」
 大江が〝手短に〟お礼を告げると、彼女はドアを閉めた。その様子を眺める大江は、いささか不満そうに見えた。振るっていた長広舌を、止められてしまったからだろうか。
「どうぞ、博之君とお会いください……ただ、ひとつ気をつけてもらいたいことがあるんです」
「なんです?」
 居住まいを正してから大江が答えた。「博之君、二週間前にここを訪れたときには、かなり取り乱したんです。今でこそ気丈に振る舞ってますけど、胸の裡では穏やかではないはずです。彼自身、相当に哀しみ、苦しんでいます。僕は同じ年頃の子供がいるから、よくわかるんです。だから……言葉遣いとか、態度とか、いろいろと気をつけて、接してあげてください」
 まだ長いままの煙草を消して、ソファから立ち上がった。このまま辞去してしまってもよかったのだが、彼には一言だけ、言わずにはいられなかった。
「あんたが、長々と話すべきだったのは……今言ったようなことだったんじゃないのか?」

   三十八

 海を臨めるはずが、窓の向こうは五月雨に煙ってしまっていた。
 どんよりと分厚い雲のせいで薄暗い部屋には、点滴に繋がれた痩せ細った女がベッドに横たわっていた。その女の傍らには、ひとりの少年が腰をかけている。
 私は、腰をかけた少年とひとつの賭けをしていた。彼を捜すよう依頼したのは誰か、それを少年が言い当てたら、ここにたどり着くまでの経緯を話す――というものだった。本来なら、決して応じることのない要求だったが、私に〝臨時収入〟を振り込んできた男は、すでに依頼人ではない。なによりも、彼の名前を言い当てるなど、そう簡単なことではないと踏んでいたからだった。
 ところが、少年は私の〝元依頼人〟の名前を、いとも簡単に言い当てしまった。少年は同級生を相手に、たまり場での勘定を誰が支払うのか――そんなギャンブルで連戦連勝だという。どうやら、私は彼の博才を甘く見ていたらしい。
 なんにせよ、約束は守らねばならなかった。
 依頼を受けたことから始まり、彼が通う〈聖林学院〉の男子寮では、池畑という少年と出会ったこと、〈ヴェルマ〉という喫茶店では、〝ファムファタール〟たちにからかわれたことなどを話した。山名湖畔にいる下山文明を、森真砂子と訪れた辺りからは、かなりの内容を割愛して話した。下北沢のロック・バーで一悶着あったことや、朝霞にあるアトリエを訪れたこと、花田浩二が私の事務所を訪れたことなど、少年に聞かせる必要はなかった。
 それでも、少年の前に立つまでの経緯を話し終えるまでには、かなりの時間を要することになった。これでは、おしゃべりな主治医を笑えない。
 話を終えてしまうと、部屋には定期的に響く電子音だけが響いた。痛みを和らげる代償として、一歩ずつ彼岸へと誘う無機質で残酷なメトロノーム――
 メトロノームの音をかき消すように、少年――花田博之が言った。「随分と、遠回りをしたんですね」
「遠回り?」
「ええ。最初から、岡辺さんのところへ行っていれば、すぐだったのに……」博之は、かつて華やかな世界の住人だったという母親――花田洋子の手を優しく握りしめていた。
「なんだ? それは……私がヘボ探偵だと、言いたいのか?」
「そういうつもりじゃ……生意気なことを言って、ごめんなさい」
「気にするな。ガキは生意気なことを言うもの……相場は、決まってるんだ」
「ガキ……ですか、僕は?」
「ああ。私から見れば、充分にガキだね」
「そんなガキが、勝手なことをして……ごめんなさい」
「理由はどうあれ、きみの勝手な行動が、迷惑をかけたことは確かだ。きみの同級生……池畑君や、森さん、それに〈ヴェルマ〉の智恵ちゃんも、心配してたぞ」
 智恵の名前を出すと少年は少しだけ顔をしかめた。
「どうした?」
「智恵か……あいつ口うるさいんだよな。姉貴ぶって」
「そんな言い方をするもんじゃァない。彼女は、わざわざ私のところに、メールを寄越してきたんだ」
「どんなメールです?」
「気になるんだったら、早々に連絡をするんだな。きみの方から」
「そう……ですね」博之は、そうこぼして口を閉ざした。
 今日、初めて出会った見知らぬ男に、説教まがいのことを言われたのだ。拗ねてしまうのも、無理はない。
 ――慣れないことを、するからだ。このヘボ探偵
 部屋にはしばらくの間、あのメトロノームだけが響いていた。そろそろ耳障りに感じ始めた頃――リズムは、七回刻んでいた――博之が沈黙を破った。
「下北沢のお店……」
「〈ポットヘッド〉か?」
「そう、〈ポットヘッド〉って言いましたね。そのお店に行ったってことは……母のことを、いろいろと聞いてきたんでしょう?」
 束の間、私は回答に迷った。しかし、ここは正直に答えることにした。
 私は博之に答えた。「ああ。いろいろと聞いてきたよ」
「だとしたら……あなたは、母のことを、どう思いました?」
「どうも思わんさ。きみのお母さんと、直に話をしたわけじゃないからね。なにしろ、きみのお母さんと会うのは、今日が初めてなんだ」
「あなたは、噂話とかは、信じないんですか?」
「信じたところで、私の商売には、なにひとつ役に立たないからな」
 博之が目を丸くしたことは、横顔からでもうかがえた。大人びた口調で呟く。「あなたみたいな人も、いるんですね……」
「あまり多くいてもらっても、困るんだ。商売敵が増えることになる」
 博之は私の軽口には、さしたる反応を見せず、母親の手を握りしめていた。「伯母は……あなたとは違うタイプの人なんでしょうね。母の噂話を聞きつけては、伯母はイライラしてました。そして、よく言ってたんです。母は、いろんな人……伯母や〝オヤジさん〟や事務所の社長さん、そんな人たちの思いを裏切ってきたんだって」
「どうなんだろうな……」
「僕だって、信じたくはなかった。けど……〈ポットヘッド〉のマスターから、いろいろと母のことを聞かされて、伯母が言ってたことも、あながち間違ってないんじゃないかって――」
 奥歯が軋んだ音を立てた。いつの日か、軽薄なマスターの鼻を折りに、下北沢のロック・バーを再訪せねばならないようだ。そのとき、甥であるというアフロヘアをしたあの青年は、どういう態度に出るだろうか。
「いい話じゃなかったけど……母に裏切られた人たちのことを考えたら、伯母たちが母のことを悪く言うのも、わかる気がします。あなたもそう思うでしょう?」
「生憎と、他人に裏切られたことがないから、そんな気持ちはわからんね」
「裏切られたことがない? 嘘でしょ?」
「嘘じゃァない。他人に裏切られたことなんかない。ただ、私が誤解をしていただけなんだ。自分に都合良くね」口にした後で、これは不器用な俳優が出演していた煙草のCMでの宣伝文句だと気がついた。「……そう考えることにしている」
「あなたみたいに、考えてくれる人ばかりじゃないから……」〝元ネタ〟を知らないはずなのに、博之の口調は、私を突き放すようなものだった。「母がこうなってしまったのも、やっぱりいろんな人を裏切ってきたなんです」洋子に向けた目をスッと細くする。「……だから、母はこうやって、周りの人たちを裏切ってきた自分の人生に責任を取ろうとしているんだと思います」
「いい加減にしろ」思わず口をついていた。「ガキのくせに、利いた風な口を叩くんじゃない」
「さっきは、ガキは生意気なことを言うもんだって……」
「うるさい。生意気なことを言うガキを怒鳴りつけるのが、俺たち大人の役目だ」
「ごめんなさい」と呟いて、博之はうなだれてしまった。
 ――おいおい。利いた風な口を利いているのは、お前自身じゃないのか?
 うなだれる博之を見て、自分が柄にもないことをしでかしたことに気づき、少しばかりの戸惑いを覚えた。しかし、〝付け焼き刃〟の説教など、所詮は〝なまくら刀〟でしかなく、博之にはすぐに顔を上げられてしまった。
「――だけど、もうちょっと、生意気なことを言ってもいいですか?」横たわる母を、優しいまなざしで見つめて言った。「周りの人がなんと言おうと、僕にとっては、母なんです。みんなが言うように、褒められたような人じゃなかったかもしれないけど……僕の母なんです」
 博之のトーンが少し上がっていた。彼を取り乱させないようにとの主治医からの忠告を無視して、博之の言いたいままにさせることにした。黙りこくって〝お行儀良く〟腰かけていることだけが、かき乱されてしまった心を鎮められるわけではない。
 ――大人を馬鹿にしている
 ――子供ぽっくない
 世間がなんと言おうと、私の目の前にいるのは、まだ〝ガキ〟と呼んで差し支えのない年頃の少年だ。彼の周りにいた大人たちが身勝手に振る舞ってきた分だけ、いやそれ以上に、彼はわがままになっていい。
 博之が言った。「みんな……〝母親らしいことなんか、なにもしてもらってないだろう?〟なんて言うけど、そんなことはないんです。そりゃァ、一緒に動物園に行ったりとか、遊園地に遊びに行ったり、レストランで御飯を食べたり……そんなことをしてもらった覚えは、あんまりありません。でも……映画には、よく連れてってもらいました」
「どんな、映画を見に行ったんだ?」私は訊いた。
「僕も小さかったから、よく覚えてないけど……アニメとか、特撮モノみたいな子供が見るようなものじゃなくて、白黒の映画が多かったかな?」
「お母さんが、好きな映画……だったんだろうな」
「多分、そうだと、思います……それで、映画を見終わると、映画館の近くにある喫茶店で、いつもアイスクリームを食べさせてくれるんです。あれ美味しかったなァ……」感慨を漏らす博之の声が震えていた。「帰るときには、僕が眠っちゃって、母におぶってもらって帰ってました。伯父さんの家に着く頃に見た夕陽、きれいだったなァ――」
「それが、お母さんとの思い出か?」
 博之は小さく頷いた。「それだけじゃ……ないけど」
「いいお母さんじゃないか」
「本当に、そう思います?」
「ああ」
「ありがとうございます――」私にお礼を告げた後は、言葉になっていなかった。かろうじて「母さん」とだけ言ったことは、聞き取れた。母親の手を握ったままうつむき、肩を振るわせる。
 部屋には、残酷なメトロノームが無機質にリズムを刻む音――
 痩せた胸を上下させる洋子が、一度だけ小さく身をよじらせた。泣き出した息子をあやしてやれないことが、もどかしいとばかりに。
 博之の歔欷はやまない。
 何気なくベッドの脇にある棚に目をやると、木製の額に収められた写真が飾られていることに気がついた。中学生ぐらいの少年と、私と同年配の女が写っている。ソファに腰かけた少年は、戸惑いと緊張を隠すかのように、やけに澄ました表情をしていた。それもそのはずで、背後から腕を回した女は、彼の肩に顎を置く恰好で、顔を覗かせていた。一見すれば、歳の離れた恋人同士にも、少年が女を〝おんぶ〟しているようにも見えた。少年を優しく包み込む彼女の顔には、儚げでも、なにかを諦めている風でもない、たおやかな笑みがたたえられていた。
 池畑が証言した〝部屋から無くなった写真〟――花田博之にとって〝一番大事で、大好きな写真〟とは、この写真のことだ。
 長い道のりを経て、私はようやく花田洋子という女性に巡り会うことができた。
 写真に収められた光景も、目の前の光景も、母子ふたりにとって、なによりも〝一番大事〟な時間なのだ。兄であろうと、高校時代の〝元カレ〟であろうと、邪魔することはできない。
 彼を捜すことを依頼されただけの男であれば、なおさらだ――
「あの……」そっと踵を返そうとした私に、博之が声をかけてきた。博才のある少年は、他人のささいな心の動きに敏感なのだろうか。
 博之が訊いてきた。「大江さんから、話は聞いてますか?」
 私は「いいや」と答えた。
「モルヒネの量を、今日から倍にしたそうです」博之はそう言って首を捻ると、窓の向こうに視線を走らせた。
 晴れていれば、青い空と蒼い海が一望できる絶好のロケーションなのだが、今は降りしきる雨のせいで、鉛白色に霞んでしまっている。
「――よく降りますね」私がなにも答えずにいると、博之の方から話題を変えてきた。
「ああ。いつまで、降るんだろうな」
「今朝の天気予報、見てないんですか?」
「ここに来るのに、朝一番で飛び出して来たからね。見てる余裕なんか、なかったんだ」
「そうですか……僕のために、ごめんなさい」謝罪する博之の声は、もう震えてはいなかった。「この雨、今週いっぱいは、やまないそうです」
「そうなのか?」
「ええ」と頷いて、博之は初めて私の方を向いた。「――だから、雨がやんだら……帰ります」
「きみを待っているみんなには、そう伝えればいいんだな?」
 力強く大きく頷いて、博之が答えた。華奢な身体の割に、太い声だった。
「雨がやんだら、帰ります」
 母親にそっくりな目が、私を正面から見据えている。哀しい決意に満ちた深い色をしていた。
 私は「わかった」とだけ伝えて、病室を後にした。博之は私を見送ろうとは、しなかった。それでいい。ふたりだけの時間を、それが残りわずかであろうと、〝一番大事な時間〟を無駄にして欲しくない。
 一階まで直通のエレベータの前では、大江がドアを開けて、私を待っていた。目を合わせることも、言葉を交わすこともせずに、エレベータに乗り込んだ。エレベータのパネルに刻まれた言葉にもう一度、目を通した。ラテン語に訳された般若心経の一節だという。
 ――逝く者よ、彼岸へ逝く者よ。彼岸に達した者こそ、悟りそのものである。幸あれ
 たとえ〝仏罰〟が当たろうとも、言葉を飾っただけの生者の驕りにしか、感じられなかった。
 エレベータを降りた後は、足早にロビーを横切って、自動ドアをくぐった。病院の外に出れば、水気を含んだ風が吹いていた。潮風に当たり、波打ってしまった心を落ち着かせる。これで、煙草が喫えれば完璧なのだが、私の目の前には、これ見よがしに〝敷地内禁煙〟と赤い文字で書かれた看板が、立てかけられていた。
 商店街のアーケードのような屋根を通り抜けて、フォード・ファルコンに戻った私が最初にしたことは、煙草を喫うことではない。そもそも、この車は売り物で、借りることになった際に、禁煙をきつく言い聞かされていた。
 私は携帯電話を取り出して、〈聖林学院〉の〝元〟教務課主任へ電話をかけた。やはり、約束は最後まで守らねばならない。運良くなのか、運悪くなのか、森真砂子は〈ヴェルマ〉にいた。
 博之と無事に会えたことを報告した後、彼から近日中に連絡が入るはずだと伝えると、真砂子は「ありがとう」とお礼の言葉を述べて、電話を〈ヴェルマ〉の女主人に回した。一番年嵩の〝ファムファタール〟からは「お疲れ様でした」とねぎらいの言葉を贈ってもらい、最後に電話を回された一番若い〝ファムファタール〟からは、質問責めにあった。こちらに答える間も与えない矢継ぎ早の質問の途中で――確か、五番目の質問だ――母親にたしなめられた智恵は「また、いらしてください。そのときに〝カツスパ〟を食べながら、話を聞かせてください」と言った。
 私は智恵に、またいつの日か〈ヴェルマ〉を訪れると約束をして、電話を切った。彼女たちに、なにを話すかは、これから考えればいい。そして〝カツスパ〟については、あの店に行ってから、丁重にお断りするつもりだ。
 それからエンジンをかけて、メルセデス・ベンツSクラスとアウディA8といったドイツの貴婦人の間で、息苦しそうにしているオーストラリア産まれの田舎娘――フォード・ファルコンを発進させた。〈宗方五郎記念病院〉の駐車場を抜け、元来た道を引き返す。
 〝覆面パトカー〟に無粋な〝ナンパ〟をされることなく鴨川スカイラインを駆け抜け、館山自動車道に入った。対面通行を終える頃には通行料も増え始めて、〈千葉東ジャンクション〉に差しかかる辺りで、渋滞に捕まってしまった。空が分厚い雲に覆われているせいで辺りは薄暗く、どの車もまだ早い時間だというのに、点灯し初めていた。ワイパーがせわしなく動くフロントガラスの向こうには、赤いテールランプの列があった。
 私はふと西の空へと目をやった。心なしか、西の空は少しだけ明るく見えた。帰り際に、博之が言ったように、週末に向けて天候は回復するのだろう。
 晴れ上がった空を迎えるのは、晴れやかな気持ちを持つ者だけではない。
 ――雨がやんだら、帰ります
 そう言った博之の目が、しばらく焼きついて離れなかった。

雨がやんだら(終)

雨がやんだら(終)

海を臨めるはずが、窓の向こうは五月雨に煙ってしまっていた。 ベッドに横たわる女の傍らに、その少年は腰かけていた。 私の今回の依頼は、彼を捜すことだった――

  • 小説
  • 短編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-08-14

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted