地図帳 -僕の辿った軌跡 -

僕の右手の指の人型。
人差し指が左足。
中指が右足に。
スーイ、スーイ、地図の上を縦横無尽に走ってく。

小山の麓の鳥居のマーク。
手を合わせ、笑顔が絶えない祖父と祖母。
必死な顔する母親に、いつものんきな父の顔。
杉の木々に囲まれて、天狗の姿を垣間見て、僕の顔は強張った。
歩きにくい格好に、おばさん以上の厚化粧。
帰りに転んで粉々にした、千歳飴がなぜだが微妙に甘辛かった。

小河のほとりの堤防沿い。
チョウチョが優雅にダンスを踊り、
草木の香りが陽気にほだされ、僕の鼻先華麗に舞ってく。
後ろでモスラのガキ大将。
前ではゴジラの保母先生。
ドッキドッキの二列縦隊、あの娘と始めて手をつないだ日。

駅の前にそびえ立つ、天まで届く巨大建物。
待ち受けるのは警備員獣か、謎に満ちた非常扉か。
隠し通路の扉には、スタッフ専用なる文字浮かぶ。
駐車場から冒険者。
神秘な塔へといざ出陣。
仲間とはぐれたその時は、救いのアイテム迷子案内。
フェアリーボイスに誘われて、出てきた相手は百面相のうちの母。

広域地図の温泉マーク。
山を飛び越え、気持ちも飛び越え、
盆と正月、クリスマス、一度に来た様な高揚感。
甲子園にも負けないくらいの、熱気と歓喜の大浴場。
扉を開けて第一歩、羞恥と自尊が入り混じる、大人の世界の第一歩。
卓上、大船、豊漁自慢で、山に盛られた海の幸。
一人一品取り分けられた、僕専用の皿の数。
喜ぶ僕の姿見て、慈愛の眼差し、父と母。

ちょっと太目の十字のマーク。
白衣の天使というけれど、おばさんナースが僕の担当。
悲哀と落胆の両親も、僕の前では明るく振舞う。
軽快に走った、僕の右手の指の人型。
僕の旅路の終着点。

薄い紙の上からでは、冷たい感触しか残らない。
次の僕の行き先は、地図には載らない快楽園。
地図帳の数ページしか辿れなかったけれど、お土産、心(もち)一杯(きれない)ほど詰め込んだ。
楽しい人生(おもいで)、ありがとう。

地図帳 -僕の辿った軌跡 -

地図帳 -僕の辿った軌跡 -

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-08-14

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