一番星がみえますか

彼女からメールが届いた。
真っ暗な写真と、「一番星がみえますか」のひと言。
真四角に切り取られた夜空の写真と思われるが、本当に星など写っているのだろうか?

彼女はそうやって、たまに意味のわからないものを送り付けてくる。
だいたい暗い夜空の写真。
それを、彼女はなんどもなんども形をわずかに変えて送り付ける。

僕は正直に、星なんて探せられなかった。
所詮携帯電話のカメラで撮ったものだろう、レンズ越しに映るはずがない、
「星は見えないな。僕の目が荒んでいるのかな」
そう返して、またいつものように真っ暗の写真が送られてくる。

彼女は飽きるまで送り続けた。
僕はいつも、星のひとつも見つけられなかった。

そもそも彼女の撮った写真に星が写っていたかどうかはわからない。
それでも、久しぶりに彼女を助手席に乗せて峠を走った。
「一番星ってどれ?」
山頂で車を停めて、ふたり並んで星空を眺めた。
どれだと思う?
半分冗談に、半分苛々していたことくらいわかっていた。

この、わたしたちから見える範囲に星がみっつほどあります。
一番星だけを当ててほしい。



僕はしばらく、その彼女とは合わなかった。
彼女が何を求めているのかもわからなかったし、僕も付き合う気がだんだんとなくなっていくのが自覚できた。

8月の13日。ペルセウス流星群の日だ。
あいにくの曇り空で流星群は期待できなかったけど、ちらちらと落ちる小さな星をぽつぽつ数えた。

一番星を探して。
また真っ暗な写真と共に送られたメールで、僕はようやくひとつのひかりを見つけ出した。

これでしょう、と意気揚々と返信を送ると、彼女は激昂した。
見える星が一番星じゃないんや。


もう彼女のことは遠い昔の話になってしまったが、今も星空は僕を見下ろして嘲笑う。
今だって彼女の気持ちはわからない。
ただ唯一、一番星は星空のなかにないことだけが残った。



fin.

一番星がみえますか

一番星がみえますか

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-08-13

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