天空聖戦
歴史好きの皆さんに、是非《ぜひ》とも、読んで頂きたい渾身《こんしん》の力を込めて書き上げた珠玉《しゅぎょく》の作品です。
ストーリー展開の中で、たまに、『アハッ((笑))』ポイントが出てきますので、どこで飛び出すか、見付けて頂くのも、ひとつの楽しみとして加えています♪
喜怒哀楽《きどあいらく》を、てんこ盛りに、取り入れた人間ドラマとファンタジーの融合した物語りです。
あなたも、躍動感《やくどうかん》、溢《あふ》れる夢の大陸《プレート》の一人となって波乱万丈《はらんばんじょう》の旅旅に身を投じてみてください~☆
中庸付偏《ちゅうようふへん》
【中庸付編】《ちゅうようふへん》
この付編では、物語りの舞台であるテラ大陸に ついて、細かく説明を加えています。
三次元的な視点を文字に落とし込むことにより 、読者である、あなたの疑問を腑に落とすこと が目的となっています。
ご一読下さるならば、更に物語りに深みが加わ ることでしょう。
テラ大陸の面積 - 約762000平方km
テラ大陸の海岸線の長さ - 約2000km
デリアサス荒野の面積 - 約300平方㎞
テラ大陸の平均標高 - 約300m
テラ大陸の最高峰..
ゴルドバ 暗黒山
標高-2222m
マナトリア山脈に 降った雨は大陸一の大河オリゾ ンへ流れ込んでいる。
大陸の 北西部は大半が乾燥した荒野。
人々は比較的、雨 の多い海岸部やオリゾン河流 域周辺に居住し ている 。
テラ大陸には マナトリア連山や桃源郷、 梟《ふくろう の 森、更に
真理郷といった山地や深い森林地帯も 広がっている。
北部からは南部にかけては、広く荒れ地が分布する。
この地、荒野デリアサスでは大陸決戦が繰り広げられた 。
ガリウスの丘にある神像の石は10 億年以上も 前の岩石でできている。
ロレンソ沿岸には大きなサンゴ礁帯「エメラル ド.リーフ」が広がり、その美しさは、クレマチスの瞳と呼ばれた。
デリアサス荒野には浸食によって形成 された巨 大な一枚岩、ダイナ. ロックが見られる。
このダイナロックに立つ者は英雄として万民から祀られた。
『ダイナを征する者、大陸を征す。
ダイナロックに刻印された文字が多くを語る。
プロローグ。マナトリア王朝の滅亡。MH-995
【序章】
マナトリア王朝の滅亡。MH-995995)
マナトリア王朝。
第十五代。
ホーミン王、治世。
夏冬時代。
広大なテラ大陸の東に位置する マナトリア王朝。
かっては、強大な領土を有して 全土にその威光を輝かせていた。
諸侯は、その権威の前にひれ伏して媚を売り、保身に明け暮れて いた時代もあった。
しかし、時を経るにつれ、国王 ホーミンの専横により、家臣の 中から離反する者や
国を出て独 立の道を歩む重臣も現れ、国力は 次第に衰退して行った。
マナトリア王朝は内部分裂によ り三分割された。
各々に新たな王を立て大陸を我ものにせんと立ち上 がったのである。
やがてテラ大陸は、力ある者に よる群雄割拠の時代へと移行して行った。
そんに中、衰退の一途を辿って いたマナトリア王朝の本拠地、緑 葉城を囲む軍勢が現れた。
マナトリアから離反した、かつ ての家臣シヤンソニアの領主ド ンデンが、この機に乗じて反旗を翻したである。
シヤンソニア領のドンデンは、 近隣の諸侯を次々と併合して、緑葉城に、その牙を向けたのである。
緑葉城 籠る兵士の10倍 の兵力を有していた彼は圧倒的な力の差を見せ付けて威圧し、かっての主人ホーミンに降伏 を促した。
ホーミンは戦わずして城をドン デンに明け渡し娘のサフランを 彼の妃として差し出した。
さらに始祖から代々マナトリア 王朝に受け継がれてきた至宝、聖剣エメダリオンと
空 の箱を 貢ぎ物として娘サフランに持たせ嫁がせたのである。
ホーミンは、その見返りとして 己の保身と小さな城を与えられ 僻地のロレンソへと流された。
ここに、栄華を誇ったマナトリ ア王朝は滅んだのである。
その後、ホーミンの行方を知る 者はなかった……
しかし彼が人並み外れた医学と 科学の天才的識者であることは 全土に知られていた。
その後、聖剣エメダリオンを手 に入れたドンデンはシヤンソニ アの王を号した。
彼は更なる野心を抱き自らの王 朝を大陸に建てようと領土を広 げる方針に出た。
かって共にマナトリア王朝で重 臣として肩を並べていたガリウ スが治める独立国エマール。
この地を手に入れ全土に威光を 示し皇帝の座に着くと豪語した 彼は意気揚々と進軍を開始した。
しかし、遠征に次ぐ遠征で兵士 は疲弊し、また慣れない土地での戦いを強いられ逃走する者ま で現れた。
ドンデン王はオリゾン河の大戦 で大敗をを期した。
ガリウス王の巧みな戦術と懐柔 策が効を奏しシヤンソニア軍は 多くの兵を失い敗走した。
そんな最中、ドンデン王は捕ら えられた。
エマールの王ガリウスはドンデ ンに情けを掛けて属領として使 えるならば、国へ還すと約束した。
シヤンソニア国は、都と隣の漁 村ロレンソを残して、全ての領 土をエマール国へ割譲した。
時代はシヤンソニア王国の時代 からエマール王国の全盛期へと移行したのである。
ガリウス王は、テラ大陸の都を 金が大量に産出されるエマール に定めた。
暦歴 も、マナトリア暦 からロイヤル暦へと改号したた。
彼は妃の父、神聖シャベリア家 の老師を始祖とし、ガリウス自 信はロイヤル二世と称した。
遷都を記念しオリゾン河を望む 丘をガリウスの丘と命名した。
そして、国教である太陽神の象 徴して国民から信仰を集める救世主 女神の神像を建てた。
ガリウスは、神聖シャベリア家 からソフィアを妃として迎え入 れていたため、太陽神の地上に 於ける代理者としての立場を得 たのである。
然るに、その父.老師から 国主の剣.サザンクロスを受け継いだ。
これで名実とも彼の威信が全土 に伝わり晴れてテラ大陸の主となったのである。
この物語りは、そんな時代の変遷期から始まる。………………
太陽神からの賜物、光の白花《ミニヨン》~闇の紅花《ルージュリアン》MH-995
マナトリア朝暦、MH-995
《 ふくろう 梟 の森》
(((カーン カーン)))
うっそう 鬱蒼とした木々が繁る ふくろう 梟 の森に斧を振るう音 が響く。
『あなた…少しお休みになったら』
夫である ミストラル 天人の額から流れる汗を拭き取る妻の 美空。
二人には五歳になる息子の ブァン 翔がいた。
ブァンは生まれつき、足が不自由で いま 未だに立っ て歩くことができずにいた。
そこで、父のミストラルは梟の森にあると言わ れる聖木で、車椅子を造ることにしたのである 。
草木をかき分け斧を振るっては、辺りを見回す ミストラル。
『これほど探しても見付けられないとなると、 聖木の話は、やはり伝説上のお おとぎばなし 伽噺 だったの かもしれない…』
ミストラルは、ひとつ大きく溜め息を吐いて、 近くの木に寄り掛かった。
美空がミストラルの寄り掛かった木の根本を指 差し ささや 囁く。
『あなた! その木の根本、青白く光っているわ 。』
美空の、その声に振り返った ミストラルは、光 る木の根本に斧を振るった。
(((カーン カーン))
『聖木の ルミエール 光 …間違ない!』
『この木で、ブァンの車椅子を造ることにしょ う!』
ミストラルは手早く聖木を切り出し車椅子を組 み立てていった。
『あなた…車椅子を聖木で造ると太陽神からの 賜物があると以前、私に話して下さった事があ りますね…』
『私の願いが叶うかしら…』
ミストラルは、美空の方を向いて深く うなづ 頷いた。
美空は笑顔を浮かべて、水を汲みに近くを流れ る小河の方へ駆け出し、水筒を水辺に浸した。
すると美空の手元に、上流から竹で編んだ かご 籠が 流れ着いた。
籠の中を覗くと、沢山の花に囲まれた女の子の 赤ちゃんが満面の笑顔で、こちらを見ていた。
美空は、思わず大きな声でミストラルに声を掛 けた。
『あなたー! こちらへ来てくださる!』
ミストラルは車椅子を造る手を休め、美空の元 へ駆けつけた。
二人は竹籠の中で笑っている赤ちゃんを見詰め て、その後、視線を合わて、そっと呟いた。
『ブァンの妹ができたね。』
『あなた…この子の名前は ミニヨン 花 にしましょう。』
その時、梟の森、空高く虹の光輪が現れた。
『太陽神様、天からの賜物と祝福に心より感謝 いたします…』
ミストラルと美空は、その場に膝まづき 天を仰ぎ祈った。
…………………………………………………………………☆
その頃、王都エマールでは……☆
《王城.ガリウス王の寝室。》
『私は、もう、そう永くは生きられまい…』
『ドンデン……あの者が聖剣エメダリオンを携 えておるとは夢にも思わなかった……』
『闇と光、二振の剣を同じ国に置くと、滅びも たらす。』
『彼の者と共に聖剣エメダリオンは、シャンソ ニアへ留め置く。』
ソフィア妃の手を取り、微かな声で囁く様に話 すガリウス。
かつての、勇者の姿の片鱗も見られない痩せた 姿となっていた。
王宮医師のホーミンがガリウス王の脈動を計る 。
『王様、余りお話しを、なさらない方がよろし いかと…お身体に さわ 障ります。』
ホーミン医師は、いつもの様に傷口に塗り薬を して包帯を巻き、飲み薬を調合し器に注ぎソフ ィア妃に手渡した。
『ホーミンよ。、金は、いくらでも出すゆえ、 どんな遠方からでもよい、良薬を調達してくれ ぬか……』
ソフィア妃は、痩せ細ったガリウス王に器に満 たされた薬を飲ませた。
ホーミン医師はソフィア妃の願いを汲み王の寝 室を出た。
『まだ、死なれては困る…』
『わしの、量子理論が正しい事を世に知らしめ るためには、まだ、金が足りぬ。』
『後、五年もすれば、わしの孫、 まなむすめ 愛娘が支配す る アルカディア 理想郷ができあがる。』
『わしも、 よわい 齢65じゃ…愛娘の喜ぶ顔を見るまで は死ねん!』
ホーミン医師は、腰を曲げて杖を付きながら階 下にあるロィヤ王子の部屋を訪ねた。
((コンコン……))
ドアの磨りガラスに写る影を部屋の中から見て いたロィヤ王子は、無言でノブを引いてホーミ ン医師を招き入れた。
『ロィヤ様…もう間もなくで、ございますよ。 』
『あなた様が、この世界を支配する時代が直ぐ 側まで来ております。』
『わたくしの孫娘、ルージュリアンが、どうし ても、あなた様と添い遂げたいと申しておりま す。』
『町娘という身分を承知で、お願いしておりま す。』
『この、余命、幾ばくもない年寄りの願いを聞 いてくださるのであれば、あなた様を帝王の座 へとお連れいたします。』
ホーミン医師は、そう言うと杖を、ひと振りし て叫んだ。
『 いで 出よ! 闇の王冠!』
『 クオンタムリープ 大跳躍 !』
すると、ロィヤ王子の前にある円卓に、天上の 宝石アルビレオ王冠が姿を現した。
赤と青の二重星の輝きは、真理の言葉と量子理 論の申し子を現していた。
ホーミン医師が王冠の二重星を指差した。
『この青い星は、あなた様です。』
『そして、隣に寄り添う赤い星は、わたくしの 孫娘、ルージュリアンにございます。』
『この王冠は、二人が一つになつた時、 むじんぞう 無尽蔵 の力を発揮いたします。』
ロィヤ王子は、深く頷いて、ホーミンに応えた 。
『必ずや、ルージュリアン殿を、私の妃にいた します!』
『血の契約により宣誓いたしましょう!』
ホーミン医師は懐刀を取りだし、自分の てのひら 掌 を 、わずかに切り円卓に置かれている王冠に注い だ。
その後、懐刀をロィヤ王子に手渡した。
ロィヤ王子も、同じ様に てのひら 掌 をわずかに切り王 冠に血を注いだ。
『契約は、成りましたぞ!』
『この、ホーミン、身命を尽くして、ロィヤ王 子にお仕えいたします!』
ロイヤル三世、戴冠式。 00
ロイヤル三世、治世暦、元年【AB-00】
王都、エマール
鳩の群れが、蒼天の空に羽ばたく。
厳かなセント.ルミナス大聖堂の鐘が、王都の街に鳴り響く。
パレス広場から王城へ続く王冠の道を華やかな衣装を纏(まと)った長い行列が進む。
その中にあって、ひときわ威光を放つ四頭立ての、羽飾りの付いた白馬車。
戴冠式へ向かう、シャベリア.ブロウ王子の姿が民衆の目に映る。
手を振り笑顔で応える王子に沿道の国民が手に白い羽を持ち歓喜のエールを贈っている。
その中に一目、新国王の姿を見ようと群衆を、かき分け人々の間を縫って最前列へと進み出た希望と彼の妹、友の姿があった。
『お兄ちゃん、今度、王様になるブロウ王子て優しい顔してるって聞いたよ。』
『王子様、早く見たいなぁ~♪』
友は 笑みを浮かべながら希望に語りかけた。
『ブロウ王子は、とても、お人柄の良い方で国民から、すごく愛されているんだよ。』
『先王が崩御されてから国母ソフィア様の願いで摂政として国の政治を任されているんだ。』
『余分な兵隊を減らし家へ帰して農園や漁港に力を入れるよう民を導いた賢い王子なんだ。』
『ブロウ王子の威光で国民の暮らしは、だいぶ豊かになったんだよ。
『友が使える、お金が少し増えたも、王子様のお陰だね』
『うん、増えたねー♪』
アミは屈託のない笑顔で応えた。
『ブロウ王子の国王即位を記念して新しいお金、ブロウGOLDが、全てのエマール国民に配られたんだよ。』
『しかも、持っていった古いお金を2倍のGOLDで交換してもらえたんだ♪』
『これで悪徳商人たちや、悪い役人たちが溜め込んでいる偽GOLDは、全て使えなくなる。』
『王城へ換金に来た悪い奴らは皆(みな)捕まってしまうね!』
希望の話しに友(アミ)も頷ま《うなづ》いて答えた。
『本当に賢い王子様!』
『これで、わるーい、お医者さんホーミンとガロン隊長も捕まっちゃうー!』
辺りを見回し大きな声で話す友(アミ)の口を慌てて塞ぐ希望。
行列の馬車からカーテンを微(わず)かに開けて覗きこむ王室侍従医のホーミンと将校ガロンの姿。
行列中ほどになると、煌びやかなブロウ王子が乗る4頭立ての白馬車が姿を見せた。
口を塞いだ手を離した瞬間、再び友が叫んだ。
『ブロウ王子様ーー!』
その声に気付いたブロウ王子が白馬車から、友に笑顔で手を振った。
友が希望の服の袖口を強く引いて興奮ぎみに言った。
『お兄ちゃん!、王子様が、ご挨拶してくださったよー!』
嬉しそうに、はしゃぐ友の頭を優しく撫でる希。
4頭立ての王子を乗せた白馬車はセント.ルミナス大聖堂の前で止まった。
大理石が敷き詰められた戴冠式の式場へと入る王子。
豪華絢爛な花束が飾られる段を昇る王子の視線の先には国母ソフィアと聖職者の月読みの巫女が待っていた。
据えられた王座に着くブロウ王子。
国母ソフィアがロイヤル三世の即位の儀を宣言する。
『エマール王国、新国王!』
『ロイヤル三世の御代が太陽神の祝福を受け永久に栄えんことをーーー!』
月読みの巫女が、恭しくブロウ王子の頭に王冠を載せた。
国母ソフィアは夫でありブロウ王子の父でもあるロイヤル二世、ガリウスより引き継がれた国守の剣を新国王、ブロウに手渡した。
またの名を……
サザンクロスと呼ばれる
魔剣である。
この世を乱す魔物を召喚する闇の剣。
それゆえに始祖により封印を施れ代々の王へと受け継がれてきた。
『新国王、ロイヤル三世に栄光あれ!!』
王座の両側に居並ぶ王族と重臣面々そして近隣より祝賀に訪れた国賓の大使たちが一同に礼を尽くす。
その列の中にあって一際注目を集める絶世の美女の姿があった。女神の再臨とも詠たわれた隣国シャンソニア王国の姫、フランソワである。
彼女の目的は、エマール王国と誼を結び、同盟関係を構築することにあった。
フランソワは小太りの侍女、ジューネに目配せをして、台座に載った親書を、新国王の元へ運ぶよう促した。
新国王の側近、初老のマジョロダムが進み出て侍女ジューネが差し出した台座に手を伸ばした。
ジューネは台座を離さず、親書だけを受けとるようにマジョロダムを睨んだ。
台座を受けとる受け取らないの、一悶着する二人に、国母ソフィアの咳払いが飛んだ。
『こほん!』
『マジョロダム、シャンソニア国王殿よりの親書を読み上げよ!』
マジョロダムは、ジューネを睨み付け新国王の承認を受けた親書を読み上げた。
『シャンソニア国王より、エマール王国の新国王へ、心より戴冠の祝賀を申し述べます。』
『この折に両国の永久に及ぶ発展と平安を期し我、娘フランソワを新国王の妃に推挙いたします。』
王族、重臣、国賓の間からどよめきが生じその後、大きな拍手へと変わった。
国母ソフィアと新国王ロイヤル三世が視線を合わせ微笑む。
ソフィアがフランソワの手を取り、ロイヤル三世の王座の横へとエスコートし宣言した。
『いや、実に、めでたき良き日じゃ!』
『両国の間で永久の契りを結ばん!』
これを下の座から、うつむき加減に睨む人物がいた。
先王の長子でありながら、国母ソフィアの子ではないという運命を背負う黒子爵ロィア。
もの言いたげな表情で、産みの親である月読みの巫女を、しばらく凝視していた 。
戴冠式が終わり月読みの巫女が息子である黒子爵ロィアの側へ近付き小声で囁いた。
『お前は、この様な小国の王で終わることはない。』
『現世における地上の帝王となるのだ。』
『暗黒山、ゴルドバの頂へ登れ』
『お前の理想郷が、そこにある。』
言葉(ロゴス)の出現~真理郷(セオクラ)に迫る紅蠍(べにさそり) 00~01
ロイヤル三世、治世暦、元年~1年【AB-00~ 01】
本来、人々を助けるために開発されたはずのド ローンが、反乱を起こした。
科学の進歩により、従来のコンピューターシス テムに取って変わった量子コンピューターの出 現が要因となった。
人間の頭脳を遥かに凌駕する驚愕の思考能力を 持った量子コンピューターは、政治、経済、軍 事に於いて支配的存在感を現し始めた。
その究極の姿が言葉という概念。
つまり ロゴス 言葉である。
ロゴス 言葉を頂点としたドローンによるドローンのた めの アルカディア 理想郷、絶対帝王制が、ここに確立された 。
その底辺で うごめ 蠢くドローンや ボトムソルダ 前線兵士達の間から 、いっしか帝王と呼ばれる仮想的存在が擁立さ れた。
この 実態のない不条理を埋め合わせるため、 ロゴス 言葉 エンパヤー 帝国の ルージュリアン 量子思考中枢回路は頂点に1人の人 物をインストールした。
彼の名前は……
シャベリア.ロィヤ
エマール王国の第一王子である。
本来ならば、エマール王国の主としての座にあ るべき存在であったが運命の糸に翻弄され みずか 自ら 放浪の道を選んだ人物。
それゆえに、人々からは黒子爵と呼ばれ権勢の かや 茅の外的存在として扱われていた。
抑圧された彼の心の中に内在する深い信念と強 靭的な魂の雄叫びが、 ロゴス 言葉という顕現者を造り 出したのである。
『神の領域まで届く、摩天楼を築く!!』
『我は、全てを支配する ロゴス 言葉 エンパイヤー 帝国 の支配者と なるのだ!!』
『ドローン.ストライク[究極の力]は我の手 中にあり!!』
この強い信念が量子コンピューターの ルージュリアン 中枢思考回路に多大な影響力を及ぼした。
本末転倒、理想とは全く違う支配的社会システ ムが、ここに確立された。
エマール王国は二分された。
新興独立国
ロゴス 言葉 エンパィヤー 帝国 の誕生である。
陸戦型ドローン、通称、 べにさそり 紅蠍により、都市や町 や村は襲われ人々は ロゴス 言葉. エンパイヤー 帝国 へと拉致されて いった。
天まで届く摩天楼の建設のために、強制労働を し 強いる監視兵からの むち 鞭が人々の背中に飛ぶ。
この様な社会体制を誰が望んだであろうか。
いつしか奴隷となった者たちは伝説上の存在で あるガリウスの丘に立つ マスター 救世主と テラ 女神へ救いを 求めるようになっていた。
天地の創造主、太陽神が マスター 救世主と テラ 女神を使わし てくださり、この窮状からの救いを必ず我らに 、もたらしてくださると……
……………………………………………………☆
暗黒山、ゴルドバの ふもと 麓
《 セオクラ 真理郷》
『姉貴!』
『本当に戦う気かい!』
山の巨人として、その名を知られるモンテニユ ーが、 セオクラ 真理郷の族長カサブランカに問い たず 訊ねた 。
『ああ!』
『やるしかない!』
『お前も、わたしの槍の腕前、十分に知ってい るだろう!』
『負けはしないさ!』
困惑した表情で姉のカサブランカを見るモンテ ニユー。
『誰か、敵の様子を見に行かせた方が、良くな いかい?』
『それは、姉貴の槍の前に立てる敵は、いない と思うけど、ここは、念を入れておくべきだ。 』
カサブランカが弟のモンテニユーに視線を移し て呟いた。
『その役目、誰がやる……』
族長カサブランカからの視線を避け、 うつむ 俯き、視 線を反らす郷の兵士達。
モンテニユーが、そこで口を開いた。
『俺が、見て来てやる!』
砦の門を鉄槌を担ぎ出て行こうとする、モンテ ニユーの前をカサブランカが さえぎ 遮った。
『お前が、砦を出てしまっては、守りが手薄に なり、返って、ここが危うくなってしまう。』
『わたしが、いこう!』
『わたしが、戻るまで砦のことは、お前に任せ る!』
カサブランカは、蒼天の ストーム.スピア 槍 を片手に砦の門 を出た。
馬に股がり火の手の上がる山向こうの ローズリー 山猫村へ と向かった。
隠密行動をとりゴルドバ山の獣道を馬で走るカ サブランカの背中を追う人影。
木の枝から枝へと飛び移るスピードは尋常では なかつた。
『猿?』
カサブランカは手綱を引き馬を停め、辺りを見 回した。
すると、真上の枝から何者かが飛び掛かって来 てカサブランカの背後に周り喉元に短剣を突き 付けた。
『油断したわね…カサブランカ』
短剣を収めて、体を空中で回転させ近くに降り 立つ女。
『水臭いじゃないの!』
『一人で行く気なの?』
カサブランカが目を凝らして彼女を見た。
『疾風の山猫!』
『ローズ.リンメル!』
驚いた表情で、カサブランカが彼女に語りかけ た。
『あんたの村も奴らに襲われたと聞いたけど… どうなったんたい?』
リンメルは、表情を曇らせ肩を すく 竦めて答えた。
『 ひど 酷い有り様よ……』
『老人から、幼子まで捕まえられ奴隷として山 の向こうへ連れていかれたわ…』
『家は焼かれ、畑は荒らされ、もう村の形さえ 残っていない…』
『 ローズリー 山猫村は、この世から消えたのよ!』
カサブランカは蒼天の ストーム.スピア 槍 を地面に立てて馬 から降り、リンメルに語りかけた。
『済まなかった…もう少し早く気が付いたら、 援軍に駆け付けたものを……』
『……………………………………。』
しばら 暫くの沈黙の後、リンメルが口を開いた。
『終わった事は、もう取り返しはつかない…こ らから先の事を話し合いましょう。』
『わたしの村の有り様は、決して他山の石では ないわ。』
『奴らの進軍進路からして、明日は、あなたの セオクラ 真理村が標的にされるのは、目に見えている。 』
『先手を打って、罠を仕掛けるのよ!』
山猫リンメルに先導され、森が開けた丘の上か ら行軍するドローン陸戦部隊. べにさそり 紅蠍の群れに視 線を送るカサブランカ。
『思ったより、数が少ない……』
『ざっと、数えても ひゃくたい 百体もいない…』
カサブランカが、リンメルに訊ねた。
『あのぐらいの部隊なら、お前の村で十分に守 りきれたのではないか?』
リンメルは服の袖を上げて切り傷を見せた。
『裏切り者により、門が開放され一気に攻め込 まれて守る体制を取れず、わたしの村は総崩れ となったのよ……』
『さっき、油断したわねと、あなたに言ったと こだけど一番に油断していたのは他でもない、 この私だったと言う訳……』
カサブランカは同じ むらおさ 村長としての立場から、涙 を堪えて顔を背けるリンメルの気持ちが痛いほ ど分かった。
敵の状況を確かめカサブランカは、リンメルの てつ 轍を踏まないように彼女に助言を求めた。
『内部に敵の スパイ 斥候がいないか、先ず確かめて! 』
『そうでないと、外からと言うより、内から滅 ぼされるわよ。』
『次に、村の周囲に穴を掘り奴らの進軍を食い 止める』
『勝たない迄も、負けない戦ができるわ!』
カサブランカは、深く うなづ 頷いて、リンメルの手を 取った。
『今日から、お前は私の強い味方だ。』
『私の参謀として、側にいてほしい。』
二人は、固く手を握り義姉妹の誓いを立てた。
リンメルは首に下がっていた、山猫村の むらおさ 村長を 現すネックレス外しカサブランカの首に掛けた 。
『あなたと行動を共にします。』
『私の ローズリー 山猫村の弔いをさせてください。』
『姉上様!』
王都エマールへと進軍するドローン陸戦部隊. べにさそり 紅蠍の前哨戦が始まろうとしていた。
真実の海~真理郷(セオクラ)前哨戦。00~01
ロイヤル三世、治世暦、元年~1年【AB-00~ 01】
暗黒山ゴルドバの裾に広がるセオクラル海。
通称 《真実の海》
一年に一度の大輪月の夜に小舟を浮かべ語り合 う姉と弟。
月読みの巫女とシャーマンのラビの影が月明か りを受けて長く海面に伸びる。
月を見上げながら、巫女が溜め息をひとつ吐い て呟いた。
『ラビよ。 お前は運命を信じておるのか……』
小舟の上から、釣糸のない竿を海面に突きだし ながらラビが答えた。
『姉上、またそのお話しですか……』
巫女の首に巻かれていた、赤いスカーフが、時 おり吹く海風に運ばれて宙を舞う。
『あと、もう少し手を伸ばせたならば、 クリスタルタブレット 宝石板 は私の手中にあった……』
『この、輪廻転生の旅に、いつ ピリオド 終止符を付すこ とができるのか……』
風で遠くへ運ばれるスカーフを見てラビが姉に 語りかけた。
『姉上……スカーフが風で、どこかへ飛んで行 ってしまいます。』
巫女は、ゴルドバ山へ吹き上げる風に舞い上が る、スカーフへ視線を移した。
『よい……我らも、あのスカーフと同じ運命な のだ。』
その時、 突き出した釣竿の先にある海面を見つ めるラビの表情が一瞬、変化した。
『姉上、ご子息の黒子爵がゴルドバの いただき 頂 に着 いたようです。』
『流石に、運命を司る巫女様。』
『明鏡止水の術は衰えてはおられません。』
『ご子息の横に、同乗している美女は?』
『あの顔立ちに見覚えがあります……ルージュ リアンではありませんか!』
『あの者は、深緑の妖女の娘……』
『幼き頃、妖女の願いで、わたしが預かり、し ばらく共に過ごしておりましたゆえ、よく知っ ております。』
『姉上は深緑の妖女と、義姉妹の契りを結ばれ ておられますので……』
『深い えにし 縁の糸で引き寄せられたのでございます ね。』
巫女はラビの質問には答えず、岸辺に立つ人影 へと小舟を寄せるよう、手で合図を送った。
『ラビよ、時を操る祭司としての努めを果たせ ……それが、お前の運命だ。』
『私の手には運命の鍵が、お前の手には、時を 操る鍵が渡されておるのだ。』
ラビは釣竿を仕舞い小舟の かい 楷を取り岸辺へ向か い漕ぎ始めた。
『姉上の、お心のままに……』
岸辺に着いた巫女とラビの前には、先ほどまで 馬車を走らせていたルージュリアンの姿があっ た。
ラビが、わずかに笑う表情を見せたルージュリ アンに声を掛けた。
『 クオンタム.リープ 大跳躍 の術、既に習得していたのですね…… これは驚いた。』
巫女は彼女の鋭い眼光を見逃さなかった。
『今では、その名も全土に とどろ 轟く紅の魔導師。』
月読みの巫女は、深緑の妖女との契約に従いシ ャーマンのラビをルージュリアンの側近とした 。
ゴルドバ山の いただき 頂 に立つ黒子爵ロィヤ。
頭上を舞う赤いスカーフが 未踏の地であったは ずの暗黒山から ふもと 麓へ伸びる大きな道へと黒子爵 を誘う。
世界を牛耳るという夢と野望を胸に秘めたロィ ヤ王子。
眼下に広がる アルカディア 理想郷が真理の ロゴス 言葉こと、ロィヤ 王子の つい 終の住みかとなった。
…………………………………………………………☆
【一年後……】
《 セオクラ 真理郷》
『きゃがつたぞー!』
セオクラ 真理郷の砦、 ものみやぐら 物見櫓から遠くの方に視線を送る 山の巨人モンテニューが叫んだ。
モンテニューの声に、櫓の上に昇る むらおさ 村長のカサ ブランカと腹心のリンメル。
カサブランカが、参謀のリンメルに問い ただ 質した 。
『落とし穴は、もう出来ているのだろうな…』
リンメルは、砦の周りを指差して答えた。
『ご覧ください…草むらが、この砦を囲む様に 盛り上がっているのが、お分かりになりますか ?』
カサブランカは、櫓から身を乗り出して周りを 見渡した。
『うん……確かに!』
『奴等が、穴に落ち込んだら、我らの火の玉攻 撃を散々に喰らわせてやる!』
『モンテニュー!』
『お前の火の玉投石にも期待しているぞ!』
モンテニューは姉のカサブランカ村長の げき 檄に拳 を上げて応えた。
『おうよー!』
『力仕事は、俺の得意とするとこだ!』
『姉貴は、昼寝でもして待ってな!』
モンテニューは、砦を方円状に取り囲む櫓を全 て通路で繋ぎ、昇り階段を設置していた。
更に、 セオクラ 真理郷の民兵と ローズリー 山猫村の敗残兵を再編成 して階段の下に待機させ、いつでも火の玉投石 を補給できる体制を整えていた。
『お前は、力だけが取り柄と思っていたが…… 中々の知恵もあるではないか~』
カサブランカがモンテニューの頭を軽くポンと 叩いた。
『へへ…どうだ!』
『姉貴、俺のこと、見直しただろう!』
得意満面なモンテニューは横目で参謀のリンメ ルに視線を移し片方の目を まばた 瞬きさせた。
カサブランカの後ろに立つリンメルが小声で笑 う。
『ウフフ…』
カサブランカは、リンメルの方を振り向いた。
『 リンメル……どうかしたか?』
『いえ、何でもありません…姉上様。』
『この戦は、我らに勝機がございます。』
『 ローズリー 山猫村の弔い合戦、必ず勝利へ、このリンメ ルがお導きいたします!』
『リンメルがいたら、わが村は怖いもの無しだ な!』
三人は顔を見合せて笑い、その後、近付く帝国 陸戦ドローン べにさそり 紅蠍に視線を移した。
頭領のカサブランカが、蒼天の ストーム.スピア 槍 に セオクラ 真理郷 の旗を巻き付け高々と掲げ叫んだ。
『いざ!!、開戦だーー!!』
その号令を合図に、各々(おのおの)が持ち場に 着いた。
帝国陸戦部隊、 べにさそり 紅蠍を率いる紅の魔導師ルージ ュリアンが指揮車両の屋根に立った。
彼女は セオクラ 遠真理郷の砦が間近に見える距離まで行 軍し止まった。
『シャーマンのラビよ。』
『お前の時を操る力……未だに私には理解でき ぬ。』
『深緑の妖女の娘と知って、私に近付いたのか ……』
シャーマンのラビは、ルージュリアンの紅杖が 小刻みに屋根を叩くのに目を止めて言った。
『ルージュリアン殿…そのように苛立たれては 、士気に関わりますよ。』
『勝敗は、時の運でございます。』
『この、私めに、できることは時を待つ事でご ざいます。』
ルージュリアンは、顔を曇らせて呟いた。
『そのような事を、この策士の私に言うか。』
『時を待つとは……また分からぬことを申した な。』
『まぁ、よい…月読みの巫女と我の母は深く長 い付き合いがあるようだ。』
『その時とは、好機を待つと理解してよいのか ……』
『シャーマンのラビよ、我の使者として セオクラ 真理郷 砦に向かえ!』
『門を解放し、武器を捨て、村長を引き渡せと 勧告せよ。』
『さすれば、我の陣営に加えエマール王都の先 鋒に加え栄誉を与えると告げよ!』
聖なる歌姫ゴスペリーナ~真理郷(セオクラ) の奇跡。00~01
ロイヤル三世治世暦、元年~1年【AB-00~01 】
『きれいな、お星さま~☆』
ミニヨン 花 は、五歳の誕生日を迎えていた。
光の教会の屋根裏部屋
そこは、幼いミニヨンにとって、最高の宝箱だ った。
天井に空いている三角窓から、夜空を見上げる ミニヨンの視線の先にある、ひときわ輝く星。
『何て言う名前のお星さま、なんだろう?』
ミニヨンは枕を抱えて、眠れぬ夜を過ごしてい た。
部屋の扉から漏れる明かりに気付いた母の美空 が、片手に絵本を持って入ってきた。
『ミニヨン…もう夜も更けました。』
『早く、お休みしましょうね。』
ミニヨンは、母の持っている絵本に視線を移し て訊ねた。
『お母さん…あのお星さま、なんていうお名前 なの~? 』
美空はミニヨンの横に腰かけて、頭を優しく な 撫 でながら三角窓に視線を向けた。
『月よ。』
絵本を開いて、挿し絵を見せながら答えた。
『昔々、光の神様はテラ星に、ご自分の息子と 娘をお造りになりました。』
『そのあと、こどもたちの、お世話をする、12 人の ひじり 聖をお造りになりました。』
『その中に、リベルという、取り分け賢く力も 強い聖がいました。』
『その聖は光の神に言いました。』
『あなたは、ご自分のことを、光と愛の神だと 言われますが、しかし実際には、ご自分の息子 と娘しか、愛してはおられない!』
『聖たちが、あなたに使えているのは、あなた を愛しているからではなく、あなたの力を おそ 畏れ ているからです。』
『 リベルの、この言い分に答えを与えるため、 光の神様は彼に時間を、お与えになりました。 』
『リベルをテラ星を周る月に置き、名を神に反 抗する者という意味の、デニモスとしました。 』
『光の神様は、 ミラドス 空 の箱を開いて、万物が神の 愛を求めているのかを 確かめるため、あらゆる災厄を開放しました。 』
『しかし、ただひとつ、残されたものがありま した。』
『それは、誰も取り去ることができない エスポアール 希望 』
『この希望の光は、輝くクリスタル.タブレッ トとなり世の中を明るく照らしました。』
『光の神様はデニモスに言いました。』
『お前の言い分が、正しいことを、証明してみ せよ。』
『希望の象徴、クリスタル.タブレットを、お 前の手で、再び ミラドス 空 の箱へ戻して見せよ!,』と
美空が、そこまで絵本を読み終えてミニヨンを 見ると、スヤスヤと眠りに就いていた。
美空はミニヨンに優しく毛布を掛けて、額にキ スをして屋根裏部屋を出た。
光の教会の裏庭に広がる マナ 愛の湖で夜空を見上げ る、ひとりの聖女。
蒼く澄んだ さざなみ 小波に美しい歌声が重なる。
ミニヨンが寝返りを打ちながら寝言を呟いた。
『ウフフ……歌姫、ゴスペリーナ』
…………………………………………………………☆
桃源郷から、遠く離れた西の空
大陸の西端。
暗黒山の ふもと 麓。
真実の海を臨む村。
セオクラ 真理郷
『姉貴……誰か馬に乗って門の前に近付いてく るぜ!』
『一発、火の玉、喰らわせてやろうかー!』
『お待ちください!』
投石の構えを見せたモンテニューを、村長カサ ブランカの参謀、リンメルが静止した。
頭の上まで、掲げた石を、そろりと下ろすモン テニュー。
『あれは、どうやら格好からして、牧師のよう です。』
『多分、我らに投降を勧めに来たのでしょう。 』
モンテニューが顔を真っ赤にして怒鳴った。
『冗談じゃねーぜ!!』
『あんな、坊主に丸め込まれて、この郷を明け 渡すぐらいなら突撃して死んだほうがましだ! !』
カサブランカがモンテニューを制して口を挟ん だ。
『まぁ、待て……何をしに来たのか、話だけで も聞いてみよう。』
参謀のリンメルが落とし穴の草むらの前まで来 たシャーマンのラビに声を掛けた。
『そこで待て!』
『こちらから、そこへ向かう!』
リンメルは、カサブランカと視線を合わせて櫓 を降りて、砦の門から出た。
リンメルは、草むらの切れ目まで歩み寄りシャ ーマンのラビに語り掛けた。
『牧師殿…投降を、勧めにこられたのでしょう 』
ラビは馬を降りて、リンメルに答えた。
『流石は、参謀様。』
『お察しの通りでございます。』
『ここは、お互いに無駄な血を流さず砦を明け 渡し帝国の傘下に下られよ…』
これに、リンメルが強い調子で返事をかえした 。
『 ローズリー 山猫村を元に戻し、そちらの頭の首を差し出 すならば、配下の者は見逃すと伝えなさい!』
ラビは、首を左右に振りため息を吐いた。
『どうやら戦は、避けられないようですね…… 』
再び、馬に乗りラビが きびす 踵を返して鞭を当てた。
走り出す馬から、ラビが最後の言葉を掛けた。
『どうか、無駄に命を散らすことなきよう!』
この様子を伺っていた、カサブランカがモンテ ニューに呟いた。
『奴ら、攻めて来るぞ!』
『構えよ!』
リンメルは。足早に砦の門を潜り抜けた。
再び門は固く閉ざされ、櫓の上に次々に火の玉 石が運ばれた。
シャーマンのラビの馬はドローン陸戦部隊、 べにさそり 紅蠍の中へ消えた。
やがて、 べにさそり 紅蠍の群れが、動き出し セオクラ 真理郷の門を 目掛けて ごうおん 轟音と共に突進を開始した。
巨人モンテニューが火の玉石を持ち上げ、紅蠍 に狙いを定めた。
他の民兵達も、投石器を使い櫓の上から襲い来 る べにさそり 紅蠍を待った。
『まだです……』
リンメルが、攻撃に、はやるモンテニューと民 兵達を制してタイミングを計る。
べにさそり 紅蠍は、跳び跳ねるようにして門前の間近まで 猛突進した。
後方から、この様子を伺う紅の魔導師が勝利を 確信したように叫ぶ。
『 べにさそり 紅蠍よ!』
『お前の毒牙の餌食とせよ!』
紅蠍の強靭な鋏が門を叩きつける。
(((ドドドドドドーーー!!!!)))
その時、突然、砦を取り巻く べにさそり 紅蠍の真下の草む らが陥没した。
(((ギャーーン ギャーーーン)))
べにさそり 紅蠍は悲鳴を上げて穴の中へと落ち込んで行っ た。
リンメルとカサブランカが視線を交える。
『今です!』
『姉上、火の玉投石の、ご指示を!!』
カサブランカは、蒼天の ストームスピア 槍 を空に向けて掲 げた。
『火の玉、投石!』
『始めーーーー!!!』
カサブランカの命を受け、一斉に火の玉石が、 べにさそり 紅蠍が落ち込んだ穴に向かい投げ落とされた。
這い上がる べにさそり 紅蠍に追い討ちを掛ける火の玉石。
(((ドドーン ドドーン ドドーン)))
燃え上がり、爆破を繰り返すドローン陸戦部隊 。
砦を取り巻く落とし穴から黒煙がモクモクと上 がる。
ひやく 百はいた、 べにさそり 紅蠍は数えるぐらいしか残っていな かった。
撤退を始める べにさそり 紅蠍に セオクラ 真理郷の民兵達が門を開け 追撃を開始した。
先頭に走る、カサブランカとモンテニューの技 が、ここぞとばかりに冴える。
蒼天の ストームスピア 槍 が風を切りつむじ風を呼ぶ。
(((ビューーーーーッ!!))
凄まじい勢いで べにさそり 紅蠍を貫く。
(((ドカーーーーーン)))
巨人モンテニューの鉄槌が、力任せに べにさそり 紅蠍を打 ち砕く。
鋏を失い、足を無くした べにさそり 紅蠍の、わずかに残っ たドローンが紅の魔導師ルージュリアンの指揮 車両を囲む。
その周りを、取り囲むように セオクラ 真理郷と ローズリー 山猫村の 民兵達。
セオクラ 真理郷カサブランカが前に出て、ルージュリア ンに叫ぶ。
『勝敗は決した!』
『おとなしく、その首を差し出せ!』
指揮車両の上で高笑いをするルージュリアン。
『お前立ちの、戦いぶり、実に見事!』
『良いものを、見せてもらつた。』
指揮車両にドカツと腰を下ろしてルージュリア ンがシャーマンのラビに視線を移し呟いた。
『これが、時を待つと言うことか……』
ルージュリアンは、カサブランカ、モンテニュ ー、そしてリンメルの三人を指差して、強い調 子で叫んだ。
『再び戦でまみえる時は、お前立ちの こうべ 頭に火の 玉が降り注ぐだろう!!』
ルージュリアンは、静かに立ち上がり、ラビに 視線を移して言った。
『撤退する……』
『 クオンタム.リープ 大跳躍 !!』
その言葉を最後に紅の魔導師ルージュリアンと 、シャーマンのラビの姿は戦場から姿を消した 。
セオクラ 真理郷をめぐる、戦いは、カサブランカを頭 とする、守備側の大勝利に終わった。
この戦果の報せは、テラ大陸、全土を駆け巡り 、蒼天の ストーム.スピア 槍 カサブランカの名を津々浦々 まで轟かせた。
後に、この戦いを人々は称賛して
【 セオクラ 真理郷の奇跡】
として語り継いだ。
真理郷(セオクラ)滅亡~桃源郷、兄妹の誓 い。03
ロイヤル三世、治世暦、三年【AB-03】
テラ大陸の北に位置する暗黒山ゴルドバの ふもと 麓に ある小さな村落。
二年の平穏な日々が続いた或る日こと。
《 セオクラ 真理郷》
《《ゴオーーーー》》
空を漆黒の翼で染める三束鴉の群れ。
ロゴスエンパィヤー 言葉帝国の巨大空母プロパガンダから、飛び立 った ていこくちょくせつえんごき 帝国直接掩護機の編隊である。
真実の セオクラル 海 の岸辺で、いつものように小舟を浮 かべて魚を捕るローズリンメル。
真実の セオクラル 海 の沖合いに停泊している帝国の巨大 空母プロパガンダの姿が彼女の目に飛び込んで 来た。
その時、三束鴉からミサイルがリンメルの頭上 、空高くに白線を引いて セオクラ 真理郷へ放たれた。
その白線の先を目で追うリンメルの表情が凍り 付く。
セオクラ 真理郷に轟音が鳴り響き真っ赤な火の手が上が り黒煙が立ち上る。
リンメルは、義姉カサブランカと同士モンテニ ュー、そして郷の民の安否を確かめるため、一 目散に(いちもくさん)に セオクラ 真理郷を目指した。
肩で息をするほどに、走りに走ったリンメルの 目前には、変わり果てた セオクラ 真理郷の とりですがた 砦姿 があっ た。
防備柵と櫓は焼け落ちていた。
郷の おもや 母屋も民家も跡形もなく燃え上がり、紅蓮 の炎を上げている。
逃げ惑う人々の群れに、三束鴉から容赦のない 機銃掃射の弾丸が飛ぶ。
《《ババババーーー》》
追い討ちを掛けるように空から ゴルドバロン 大鷹 の爆弾が 降り注ぐ。
《《ドドドドドドーーーン》》
セオクラ 真理郷は、圧倒的な帝国の軍事力の前に、成す 術もなく崩れ去った。
リンメルは、降り注ぐ爆弾や、三束鴉からの機 銃掃射を避けながら
義姉カサブランカの姿を探すが、彼女の姿は、 どこにも見当たらなかった。
じんはい 塵灰と化した セオクラ 真理郷の上空を ブルースワロー 蒼燕 が旋回した 。
その窓から、高笑いをして下を見下ろす紅の魔 導師ルージュリアン。
大木の影に隠れて ブルースワロー 蒼燕 に乗るルージュリアン を睨むリンメル。
帝国への復讐を胸に誓い、森の中へと姿を消し た。
セオクラ 真理郷は滅んだ。
時に、【AB-03】
セオクラ 真理郷を葬ったルージュリアンは、帝国空母プ ロパガンダへと帰艦した。
着艦した ブルースワロー 蒼燕 から空母プロパガンダの広い甲 板に降り立ったルージュリアンは ボトムソルダ 兵士 の前に 立ち叫んだ。
『エマールへの道は開けた!』
『これより、王都を攻めて、我らの宿願を果た す!!』
『我らは、これより、真理の ロゴス 言葉 エンパィヤー 帝国 を名乗 るのだーー!!』
《《おーーーー!!》》
兵士達の間から、勝利の雄叫びが上がる。
その頃、各々に新たな拠り所を求めて、目的地 へ向かう三人の姿。
蒼天の ストーム.スピア 槍 のカサブランカ。
ゴルドバ山の巨人、モンテニュー。
疾風の山猫、ローズ.リンメル
互いの安否も、分からぬまま、己の信念を信じ 、未来へ向かう。
……………………………………………………☆
遥かに南の空の下。
戦いとは無縁の楽園。
《桃源郷》
車椅子を押す少女……
彼女の名前は ミニヨン 花 。
五歳年上の兄、 ブァン 翔は生まれつき足が不自由で、 外出には妹が必ず付き添っていた。
『ミニヨン…いつも、ありがとう。』
『少し、休んでいく?』
兄が妹を気遣い声を掛けた。
『大丈夫だよ~お兄ちゃん♪』
ミニヨンは笑顔で明るく答えた。
山裾にある マナ 愛湖の ほとり 畔。
そこにある光の教会から伸びる細い一本道は小 高い桃源の丘へと続いていた。
道の途中でブァンがポッリと呟いた。
『ドローンチェアーがあったら、ミニヨンに、 こんな苦労を掛けずに済むのに……』
ミニヨンは車椅子を止めて、兄の顔を覗き込ん だ。
『わたしは、この車椅子が気に入ってるのー、 お父さんの手作りだし、お兄ちゃんと一緒にお 出掛けできるから~♪』
ミニヨンの屈託のない笑顔が眩しい。
妹の透き通るような青い目
そして、明るい表情
ブァンは きょうだい 兄妹の枠を越えた、何かを感じていた 。
ミニヨンは、再び車椅子を押して、道なりに咲 いている桃の花を楽しそうに見ている。
しばらく進むと、桃源の丘へ登りついた。
丘の中央には、ひときわ目をひく、大きな桃の 木があり、四方に枝を伸ばしてその優美な姿を 見せていた。
この大きな桃の木がある郷。
人々は、ここを『桃源郷』と呼び聖地として崇 めていた。
聖桃木の下は、ウサギやリスといった小動物が 憩う のどか 長閑な場所である一方
この地で救世主かが降臨されたという伝説から 、近隣の街や村々から巡礼者が訪れ祈りを捧げ ることも、度々(たびたび)あった。
ミニヨンは、車椅子を聖桃木の根元まで押して 行くと、その場にペタンと座り込んだ。
ブァンは、額の汗を、 しき 頻りにハンカチで拭き取 る妹の仕草を見て、手持ちの水筒を彼女に手渡 した。
『だいぶ汗をかいたね、喉が乾いたろう』
ミニヨンは、渡された水筒の水を、ゴクゴクと 美味しそうに飲み干した。
空になった水筒を頻りに振り残量を確認するミ ニヨン。
ブァンは、笑いながらに呟いた。
『もう、水はないようだね…』
ミニヨンは何を思ったのか、水筒をグルグルと 回し始めた。
その様子を見ていた、ブァンの表情が次第に変 化していった。
空になったはずの水筒に水が沸き出してきたの である。
更にミニヨンは、もう一本の空になった、水筒 を取り出して二つをパーンとぶっけて見せた。
すると二本の水筒が三本になった。
ブァンは、その光景を見て自分の目を疑った。
ミニヨンはキョトンとしている兄の表情を見て 無邪気に話し掛けた。
『お兄ちゃん!わたし、すごーいでしょ♪』
『これ、あげるー!』
ミニヨンは何事もなかったかのように振る舞い 、水が満たされた水筒をブァンに手渡した。
ブァンはミニヨンに、優しく方語り掛けた。
『ミニヨンは、光の神様から、とても祝福され ているんだね。』
しばらく、間を置いて兄は再び口を開いた。
『ミニヨンは、この不思議な力を、他の誰かに 見せたことがあるのかい?』
妹は笑顔で兄に答えた。
『お兄ちゃんに見せたのが始めてだよー♪』
ブァンはミニヨンの頭を な 撫でながら 言った。
『この不思議な力は、僕とミニヨンだけの秘密 にしておこうね……』
ミニヨンは明るい声で『わかった~♪』と答え た。
ブァンはミニヨンの額に、優しくキスをして、 そのあと、両手で彼女の顔の頬の辺りを丁寧に 包み込み、誓いの言葉を述べた。
《《《僕の永遠の女神様が、ここにいる》》》
ミニヨンは青い瞳をキラキラと輝かせ呟いた。
『わたし、お兄ちゃんのこと、だぁーい好き! 』
見つめ会う二人に、時は永遠に止まったかのよ うに思えた。
桃源郷での、兄妹の誓い。
神像の丘に立つ青年 。03
【 天、空、地】
【太陽神の、愛から、出でし】
【輝かしい、光を、享受せんことを】
【万物の創造主に、栄光が】
【永久に、あらんことを】
………………………………………………………………☆
【ドローン.ストライク】
【 第一章 】
動乱の幕開け。
ロイヤル三世、治世暦、三年【AB-03】
《王都、エマール》
オリゾン河を見下ろす、ガリウスの丘にある神 像。
そこに刻印された文字を読む、ひとりの青年がポッリと呟いた。
『この神像は、いつから、ここに有るのだろう…』
『そして、誰が何のために、創ったのだろう… 』
手を高く翳し王都エマールを優しく見守る救世主、女神の姿。
母なる大地の都、エマールを見守る守護神である。
青年が神像に見入っていると背中を杖のよ うな物で軽く突っく長い白髪と長い髭を伸ばした老人が立っていた。
『名は何と言う……』
老人が青年に訊ねた。
『 希望 です。』
老人は彼の目を真っ直ぐに見て語りかけた。
『良い名じゃ……気に入った。』
そう言うと彼は神像に嵌め込められているクリスタル.タブレットを外した。
すると途端にクリスタルタブレットはエメダリオンの剣へと変化した。
その後、十二の小さな輝く星が空へと舞い上がり八方へと飛び去った。
老人は希望に、エメダリオンの剣を渡して徐に話し出した。
【蔭、極まれば陽となり、陽、極まれば蔭とな る。】
【全てのものは、二者一対、闇は光を呑み込み 、光は闇を祓う。】
【地の神像に光を、空の月に闇を置く。】
【これを天より見守る】
『 希望 よ! 』
『 万民が、塗炭の苦しみに喘ぎ救いを求める時、
そなたが、国民をを導く旗印となれ!』
老人は、そう彼に言い残すと神像の丘を下り遠くに見える梟の森へと姿を消した。
……………………………………………………☆
『お兄ちゃん~』
芝生の上で、いつの間にか寝てしまっていた 希望に、声を掛ける妹の友。
彼女の高い声に目を覚ました希望。
『 友……』
『お兄ちゃん、お爺ちゃんが、早く、帰って来 い、だって。』
『あれ…………何?』
友がオリゾン河の沖合いを指差して訊ねた。
希望は友が指差す方角に視線を移した。
『マストの旗はドクロに牛の角のマーク…』
『あの船は義賊、ドンキー.ハートの船だよ。』
友が希望に答えた。
『お爺ちゃんは、海賊船だって、言ってたよー』
『お爺ちゃんが、心配するから、早く、帰ろう よー』
『あ!……』
希望 は神像の足元に嵌め込まれていた宝石板が無くなっていることに気が付いた。
『あれは、夢ではなかったんだ……』
彼は沖合いから港へ近付く義賊、ドンキー.ハートの船を遠目で見ながら、小走りに帰宅を急 いだ。
開戦!、王都エマールへの空襲。03
ロイヤル三世、治世暦、三年
《王都、エマール》
『ドローン.ミサイルだぁー!
漆黒の翼を輝かせ、王都の空を侵犯する ちょくせつえんごき 帝国直接掩護機の空襲である。
三本の長い噴射口を持つその容姿から、通称、 さんそくがらす 三足鴉と呼ばれ、王都の民から恐れられていた 。
『助けてー!』
『おー!、……神よ我らを救いたまえ!』
空を覆い襲い掛かる三足鴉の群れに逃げ惑う人 々が、口々に救いを求めて叫び声を上げる。
王都エマールは大陸の北端に勃興した真理の ロゴス 言葉帝国の侵攻を受けていた。
王国を二分する戦いの
ほうぎょ
、ガリウスの
崩御に伴う世継ぎ争いだった。
シャベリア家、第二王子ブロウを推す現体制と 、黒子爵こと、第一王子ノィアを王座に着けよ
ひるがえ 翻 した革新派との間で起こった争
うと反旗を
乱である。
両者の確執は日を追うごとに深まってゆき、双 方とも一歩も譲らない姿勢を崩すことなく、最 悪の事態、武力衝突という解決策へ進んだので ある。
《《カーン カーン カーン》》
時計台が空襲警報の鐘を鳴らす。
(((ドドドドーーーン!
王都のモニュメントから黒煙が上がる。
シンボルマーク である高い時計台に、
.ミサイルが発射された。
とけいだいもり 時計台守の老人が叫ぶ。
『おのれー! 』
『帝国の手先め!』
『神の住まわれる、神聖な王都に、なんたるこ とを!』
『必ず神罰が下るぞー!
老人は時計台の一角から三足鴉を目掛けてライ フル銃を構えた。。。。。
《《カチッ カチッ》》
修道女が駆る荷馬車~梟の森へ。03
ロイヤル三世、治世暦、三年。【AB-03】
《王都、エマール》
《《《ドドドドドーーーーン》》》
(((地震だぁー!!)))
『何やら、オリゾン河へ大きな爆弾が落ちたら しいぞ!!』
『同盟国、シャンソニア領、ロレンソの方角か らだ!』
『ばかな! シャンソニアが、王都の背中に銃口 向けるなど考えられない!』
街を逃げ惑う人々が口々に叫ぶ。
王都エマールは、ロゴス帝国から飛来した コンドリア 三足鴉戦闘機の空襲と
同盟国、シャンソニアから飛んできた弾頭騒ぎ が重なり混乱の るつぼ 炉坪と化していた。
『アミ、手を絶対に離してはいけないよ!』
エスポアールは、妹のアミの手を引いて倒壊し 炎上する街を走った。
逃げ惑う人々の群れに、 おび 脅えて泣き出し座り込 むアミ。
エスポアールはオリゾン河に架かるプランタン 橋が近いことに気付きアミを背負って走る。
『もう少しの辛抱だよ!』
『ほら、見てごらん、プランタン橋が見えてき た!』
アミの顔に わず 僅かながら あんど 安堵の笑みが戻った。
その時、修道女が駆る黒馬車が二人の横で止ま った。
『お乗りなさい…』
修道女は優しく穏やかな声で兄妹に声を掛けた 。
エスポアールは修道女に軽く会釈して、アミの 手を引き馬車に乗り込んだ。
『ボクと妹は、これから桃源郷へ行くところで す。』
『シスターは、どちらへ向かわれるのですか? 』
修道女は黒馬に むち 鞭を入れて馬車を走らせながら 答えた。
『梟の森にある修道院ですよ…』
『身寄りのない人々の世話をしています。』
修道女の荷馬車は、二人を乗せると継承の道と 終結の道、二つに別れて走った。
それは、観察者により行いを変える光の特性そ のものだった。
修道女と エスポアール 希望 が交わった特異点である。
パラレルワールド 多重世界への扉は今、まさに開かれた。
……★☆
〈継承への道。〉
アミが向かい側に座る女性の手から、わずかな がら血が にじ 滲み出ているのに気付いた。
女性は頭からスッポリとフードの付いた白いロ ーブを着けているので、顔を見ることはできな い。
しかし、 女性の横に置かれている美しい装飾が 施された竪琴は、高貴な家柄の出であることの あかし 証となった。
アミはポケットからハンカチを取りだし、彼女 の血を拭き取り、自分のスカートの裾を破り止 血の為、女性の手に巻き付けた。
『ありがとう……お嬢ちゃん』
女性は頭のフードを外してアミに礼を言った。
『わたし、アミて言います!』
『おねーちゃんの、お名前は?』
『私は、ク………』
》》》》》
彼女が言い掛けた瞬間、黒馬車が大きく揺れた 。
修道女がプランタン橋を渡り終えたところで、 手綱を強く引いたためである。
『もう、ここまで来れば大丈夫です』
『妹さんを、少し休ませてあげなさい…』
エスポアールは修道女の気遣いに感謝して、ア ミを座席に戻し近くにあった毛布を掛けて眠り に就かせた。
黒馬車は再び走りだし、梟の森へと入って行っ た。
妹のアミがスヤスヤと安心して眠る顔を見届け たエスポアール。
戦禍の街から逃れて来た疲れのために彼自身も 、いつの間にか深い眠りに付いていた。
《梟の森》
《《《ヒヒヒーン》》》
馬の高い いなな 嘶きで目を覚ましたエスポアール。
修道女が、エスポアールとアミ、そして白いロ ーブの女性に声を掛けた。
『着きましたよ…』
修道女は、三人を黒馬車から降ろし修道院へ案 内した。
癒しの湖と呼ばれる湖水の中央。
大きな岩塊の上に建つ格式のある館。
外観は古いゴシック様式で、縦長の窓にステン ドグラス。
蔦が壁の全面を覆っていた。
館の中央にある高い主水塔の屋根には、円い太 陽神のシンボルにクロスが重ねられた紋章が立 っていた。
修道女は正面の大きな鉄の扉を開き、大広間へ と三人導いた。
大広間を挟むように両側に螺旋状に伸びる階段 。
正面二階の壁には大きな絵画が飾られていた。
美しい女神が玉座に座る救世主の横で高く手を 翳している。
荘厳な絵に見入る三人。
その時、広間に声が響いた。
『神像、救世主と女神じゃよ…』
螺旋階段を降りてくる白髪に白髭を蓄えた老人 の姿。
修道女が老人の方を向き直り会釈した。
『老師様、いらしてたのですね。』
『お預かりしておりました姫様を、お連れしま した。』
老人は白いローブを着た女性のフードを外し、 彼女の手を取った。
『老師様……あの折りは命を救ってくださり、 ありがとうございました。』
『 お前の目は、透き通る空のようじゃ……』
『一度死にかけた、お前を生き帰らせたのは、 わしの手元に置き竪琴の聖女として育てるため じゃ。』
女性は長く白いローブを両手の指でつまみ、裾 をやや上げ頭を垂れて答えた。
『老師様さえ、よろしかったら、わたくしに異 存はございません。』
『老師様との、約束を守るため、この館に来た のですから…』
アミが老人の顔を覗き込んで訊ねた。
『おじーちゃん、この、おねーちゃんのこと、 知ってるの?』
老人はアミの視線まで姿勢を低くて答えた。
『この娘さんは、これから天使になるんじゃよ ~』
アミに、そう告げた老人は笑いながら螺旋階段 を昇って行った。
階段の中程で足を止めエスポアールに視線を送 る老人。
『青年よ、わしと、どこかで、会ったかのう~ ☆』
竪琴の美女、天に昇る。03
ロイヤル三世、治世暦、三年【AB-03】
《梟の森》
半月の夜…
うっそう 鬱蒼と生い繁る梟の森。
そこは静寂が支配する世界。
狼や山猫の眼が暗闇の中で月明かりを受けて光 る。
動物たちが、傷を癒そうと館がある湖に集まっ て来る。
中洲に荘厳と立つ格式のある館。
その 古い修道院の扉が開いた。
『老師様、まだ月が出ております。』
『もう、お発ちになるのですか…』
修道女は、身支度を終え馬車を納屋から出して 来た、老師の背中に言葉を掛けた。
『シスター、もう、ここでの用事は済んだのじ ゃ…また機会があるならば、立ち寄る』
老師は湖の畔で竪琴を弾く美女と側に寄り添う 少女アミの元へ歩み寄った。
(((ポロロ~ン ポロロ~ン♪♪♪)))
竪琴の音色に耳を澄ます老師とアミ。
『美しい音色じゃ~☆』
『うん♪』
美女は老師の姿に気付き、軽く会釈を交わした 。
美女の弾く竪琴の音色に合わせて、アミが讚美 の歌を唄う。
『美しき乙女、天より竪琴の音を奏で救いの道 を開く♪ 加護聖と女神を伴い、主は来ませり~ ♪』
その歌声に、合わせるように、老師が手に持っ ていた杖を夜空の彼方に向けて翳した。
すると、一筋の光が天から降りてきて美女を包 み込んだ。
『時が来たようじゃ』
老師がぽっりと呟いた。
茫然と竪琴を奏でる美女を見詰めるアミ。
その様子を二階の窓から伺うエスポアール。
竪琴の美女は光に導かれるように、天高く夜空 に舞い上 り、やがて星の光と重なった。
老師は、アミの頭を優しく な 撫で、その後、別れ の言葉を告げてから、馬に鞭を入れ馬車を走ら せた。
老師を乗せた馬車は、梟の森に吸い込まれるよ うに見えなくなった。
▲▲▲)))))
翌朝……
エスポアールは、修道女にアミの世話を願い出 た。
桃源郷への道程は、山あり谷ありで険しく、と ても少女の足では、辿り着けそうになかったか らである。
修道女の横に立ち、彼女の服の袖口をつかんで 、不安そうにエスポアールを見詰めるアミ。
『おにーちゃん、早く帰ってきてね!』
エスポアールは手を振り、アミを館に残して、 桃源郷へ救世主を探す旅に出た。
解説。プロローグ~一章
【ここまでの、ストーリーの要約。】
神像の丘で、不思議な老人に出会ったエスポア ール。
老人から光輝く聖剣、エメダリオン渡され、万 民を救う希望となる使命を託された。
折しも、エマール王国の王、ガリウスが崩御し たことを切っ掛けに、世継ぎ争いで国が真っ二 つに割れた最中であった。
本来ならば国王の座に着くべきは、第一王子、 シャベリア.ロィアであったが
国母ソフィアの子ではないという、運命を背負 っていたために
彼は、廃嫡子の憂き目を甘んじて受けねばなら なかった。
業を煮やしたロィア王子こと、黒子爵は母であ る、月読みの巫女の助言を受け
暗黒山の麓に、
するのである。
アルカディア 理想郷に拠点を設けた量子コンピューター ルージュリアン 中枢思考回路は
陸戦型式ドローン
への侵攻の足掛かりを狙う。
近隣の村々を次々に襲い支配範囲を拡大する。
しかし、小さな村落、
合い撤退を余儀なくされた。
この敗戦を踏まえて、圧倒的な科学技術を誇る
ドローン帝国は、航空戦力による空からの侵 攻作戦へと舵を切り反撃に出たのである。
エマール侵攻の妨げとなる
で葬った紅の魔導師は、これを機に《真理の言 葉》帝国を名乗った。
厳しい戦禍に見回れた、エマール王国の人々は 、いっしか桃源郷に現れるといわれている、救 世主へ救いを求めるようになった。
………………………………………………………………☆
ここでは、主な
物や品について、
ストーリの世界観や展開などの理解に、お役立 てください。
年齢は、ロイヤル三世、治世暦、元年の【AB-00】を基準としています。
BB=ビフォア-.ブロウ [治世前]
AB=アフター.ブロウ [治世後]
【主な登場人物】
謎の老人
性別[男] 年齢[不詳]
老師。
エスポアール 希望
性別 [男] 年齢 [15]
アミ 友の兄。
アミ 友
エスポアール 希望 の妹。
性別 [女] 年齢 [10]
ヨブ
性別 [男] 年齢 [60]
エスポアール
アミ
希望 と
友の祖父。
パピヨン.ハート
性別[女] 年齢[15]
海賊のドンキー.ハートを祖父に持つ勝ち気な 天然娘。
砲術学校を主席で卒業したスナイパー
大陸一の銃の使い手。
修道女 [梟の森にある修道院主]
性別 [女] 年齢 [42]
白いローブの美女[竪琴の天使]
性別 [女] 年齢[不詳]
エマール国王.ロイヤル三世
シャベリア.ブロウ[第2王子]
性別 [男] 年齢[25]
国母ソフィア [ロイヤル三世の母]
性別 [女] 年齢[48]
黒子爵 = シャベリア.ロィア[第1王子] 性別 [男] 年齢[28]
月読みの巫女 [黒子爵の母.]
性別 [女] 年齢[45]
フランソワ姫 [隣国シャンソニアの大使]
後、ロイヤル三世の妃。
性別 [女] 年齢[20]
マジョロダム[ロイヤル三世の側近]
性別 [男] 年齢[50]
ジューネ[フランソワ姫の侍女]
性別 [女] 年齢[18]
シャーマンのラビ[月読みの巫女の弟]
性別[男] [38]
ルージュリアン
性別[女] 年齢[[28]
くれない [紅 の魔導師]
リーフテリア
深緑の
妖女 の娘。
亡国マナトリア王朝の末裔。
ホーミン王の孫娘。
量子コンピューター中枢思考回路。
ロゴス
真理の
言葉の軍師。
ミニヨン 花 [桃源郷の少女]
性別 [女] 年齢[ 5 ]
ミストラル 天人 [ミニヨンの父]
性別 [男] 年齢[30]
救世主として国民から慕われる。
ゴスペリーナ 美空 [ミニヨンの母]
性別 [女] 年齢[25]
ブァン 翔 [ミニヨンの兄]
性別 [男] 年齢[10]
カサブランカ
セオクラ 真理郷の長。
性別[女] 年齢[28]
ストーム.スピア
蒼天の
槍 の達人。
山の巨人、モンテニューの姉。
ローズ.リンメルと義姉妹の契りを結んだ。
姉貴分。
モンテニュー
性別[男] 年齢[25]
鉄槌の巨人。
怪力の持ち主。
カサブランカの弟。
ローズ.リンメル
性別[女] 年齢[26]
ローズリー
滅ぼされた
山猫村の村長。
疾風の山猫。
短剣の名手。
謀略に長けた策略家。
カサブランカと義姉妹の契りを結んだ。
妹分。
【主な地名】
神像の丘
ロイヤル二世により建造された始祖を祀る聖地 。別名ガリウスの丘。 神像の足元には
王都エマール
テラ大陸の中央に位置する都。
貨を求めて人々が集まる中心地。
セント.ルミナス大聖堂
様々な祝祭、儀式が行われる場所。
パレス大通り
エマール王都のメインストリート。王城から大 聖堂を抜けパレス広場まで続く目抜通り。
オリゾン河
テラ大陸の中央を流れる大河。
ラドスの箱が沈めらた聖なる河。
プランタン橋
オリゾン河に架かる唯一の大橋。
ふくろう 梟 の森
昼間でも暗い木々が鬱蒼と繁る森林。
ールと桃源郷を隔てる大きな森。
言われている。
癒しの湖
梟の森の中央、修道院が立つ場所。すべての生 物の傷や難病を癒すと言われる奇跡の場所。
暗黒山
ゴルドバ山、未踏の地。黄泉の国への入り口と も呼ばれている。
真実の海
セオクラル海 、
鏡のような凪ぎの海。風が吹いても波がたたな い不思議な場所。
セオクラ 真理郷
ふもと
ゴルドバ山の
麓の村落。
ロゴス.エンパィヤー
真理の
言葉帝国
量子頭脳を持つドローンが造り出した封建社会
アルカディア
という
理想郷 ゴルドバ山の麓に位置する国。
桃源郷
苦難に喘ぐ人々を救う救世主が現れると言われ る約束の聖地。
聖桃木
聖地の象徴的存在。救世主降臨の場所。
【様々な物と品】
クリスタル.タブレット
聖板、 もしくは宝石板と呼ばれている。万民の 救済を現す希望の象徴。
パラドスの箱
太陽神が愛の表明の証を得るために、反対者デ ニモスとの論争で使った箱。様々な災厄を地に もたらした半面、希望という光を万民に与えた
オリゾン河、深くに沈められているという。
さんそくからす 三足鴉
ドローン帝国の先鋒。
ーンミサイルで街を破壊する。
国主の剣
サザンクロス。シャベリア王家に代々、 引き継がれる魔剣。
魔物を召喚し世を乱すとされ、始祖により封印 を施された。
テラ大陸の元首の証でもある。
聖剣エメダリオン
光の象徴。
救世主の剣。
サザンクロスと交わると、この世を空に戻すと 言われる至宝。
オリゾン河大戦、勃発! 04
【 第二章 】
《集い寄る星々》
ロイヤル三世、治世暦、四年【AB-04】
《王都、エマール》
(((ドドーン……ドドーン)))
王都の各所に設置されたトーチカから、空に向 けて対空砲撃が開始された。
真理の ロゴス.エンパィヤー 言葉帝国 の ちょくせつえんごき 直接掩護機、通称、三足鴉の 編隊が、エマール王都の領空を侵犯したためで ある。
帝国の 航空戦力という、圧倒的な物量戦略の前 に、エマール王国は厳しい戦いを し 強いられてい た。
しかし時を経るにつれ同盟国あるシャンソニア からの鉄、アルミ等の物資援助、並びに技術供 与を受けたエマール王国は新たな力を得たので ある。
光子砲戦艦、艦隊名も蒼き水龍と改名した。
処女航海の相手は悪名高き空の悪魔、 さんそくからす 三足鴉で ある。
艦隊の指揮を執るのは、国母ソフィアの第三王 子。
美男子の誉れも高い、プリンス.アランドール 子爵。
全身を銀の鎧で装い、蒼いマントを翻す様は、 見る者の目を奪う。
人々は彼を『蒼き水龍の申し子』と呼び敬愛し た。
フランドール子爵が、王都の空を我が物顔で飛 び回る三足鴉を睨み激を飛ばした 。
『鴉の群れも、今日が見納めになろう!』
『目標!三足鴉!』
『全艦隊!』
『撃てーーー!!』
《《ヒューーーーーン》》
《《ヒューーーーーン》》
オリゾン河沿岸に横一列に並ぶ艦隊から一斉砲 撃が開始された。
四重のスリット砲から撃ち出される光子の弾幕 。
無敵を誇った三足鴉は、次々と黒煙を引き撃墜 されてゆく。
オリゾン河に三足鴉の残骸が、あちらこちらと 散在している。
アランドール王子の横で、この様子を見ていた 王宮詩人の美少年ヘンリーが呟いた。
『空の帝国、地に落ち、海の王国、空を征す… …』
アランドール王子は美少年ヘンリーの方を向き 直り、肩に手を置いてわずかに微笑んだ。
『王宮詩人ヘンリーよ、お前の武器は、その巧 みな言葉にある。』
『母君の寵愛も厚きこと、わかるような気がす る。』
『将来、お前の時代が来るかもしれないな…』
その時、神像の丘に避難のため、集まっていた 国民から歓喜の声が上がった。
『我らが、無敵の艦隊! 蒼き水龍!』
『アランドール王子に栄光あれ!』
エマール 王国を守る鉄壁の布陣、王国艦隊。
その行く末は明るいと、誰もが信じ疑わなかっ た。
桃源郷へ忍び寄る戦禍~真理(セオ)の尖塔 (オベリスク)特異点からの始まり。04
ロイヤル三世、治世暦、四年【AB-04】
《桃源郷》
仲の良い きょうだい 兄妹、 ブァン 翔と ミニヨン 花 。
今日も、いつも日課となっている、桃源の丘へ の散歩に来ていた。
ミニヨンは、見通しのよい場所へ車椅子を移動 した。
『おにーちゃん、ここなら、遠くの方まで見え るね~♪』
桃源郷の丘の上からは 、梟の森の向こう側、王 都エマールの空まで見通すことができた。
(((ドドーン……ドドーン)))
山々にコダマする、大砲の大音響が桃源郷にも 届いた。
『花火かな~☆』
ミニヨンは、背伸びをして王都の空を頻りに見 ている。
ブァンは、王都エマールの空を飛び交う帝国の 戦闘機が、次々に黒煙を吹き墜ちていく様を、 遠目で見ていた。
『家に帰ろう……母さんが心配するといけない 。』
ミニヨンは兄のその声に答えて軽く頷いた。
帰宅を急ぐ二人が桃源の丘を下って行くと、道 の傍らに、ひとりの青年が横たわっていた。
見るところ、服はボロボロに擦りきれており、 遠くから来たことが分かった。
『巡礼者かな?』
ブァンがミニヨンと顔を見合わせて言った。
『すみません……もう二日間、何も口にしてい ません。食べ物があったら、分けていただけな いですか……』
青年は、弱々しい声で二人に語り掛けた。
ミニヨンは青年に駆け寄り、バックの中から、 食べずに取って置いたサンドイッチを取り出し 与えた。
サンドイッチを貪るように食べる青年。
ミニヨンは青年に、水の入った水筒を手渡しな がら訊ねた。
『あなた、お名前は?』
『どこから、何のために桃源郷へ来たの?』
青年はサンドイッチを食べ終わると、水筒の水 を飲み干し一息吐いてから、話し出した。
『ボクの名前はエスポアール』
『桃源郷に来たのは、救世主を探して、王都を 救ってもらうためなんだ。』
『今、王都エマールは、帝国の侵攻を受けてい るんだ。』
『都の民は、毎日、不安な日々を過ごしている 。いつ、帝国の奴等に捕まって、連れて行かれ るか分からない。』
『さっきの、大きな爆音も、王都エマールから のものだと思うよ……』
ミニヨンは、エスポアールの話を聞いて、こぶ しを握った。
『ゆるせなーい!弱い者いじめする奴等!』
『わたしが、きゅーせしゅ、探してあげるー! 』
ブァンが、エスポアールに話し掛けた。
『ボクの父さんも、帝国との戦いに参加すると 言って家を出て、だいぶ経つんです。』
『よかったら、家に来て、都の様子を母にも話 して聞かせてください。』
『わたしからも、おねがいしまーす!』
ミニヨンがペコリと頭を下げた。
エスポアールは、車椅子の取っ手を握り、頷い た。
ミニヨンが車椅子の前を小走りして、スキップ しながら、道案内をかってでた。
ミニヨンの、首から下がるペンダントが夕日を 受けて煌めいている。
太陽と月 、そして12の星。 中央の玉座に鎮座 する救世主と、傍らで右手を高く翳す女神。
その刻印の意味を知る日は、まだ遠い。
時の糸車は、三人の運命を乗せて、まさに今、 回り始めた。
…………………………………………………………☆
大陸の北の端……
《 セオクラ 真理郷》の跡。
セオクラ 真理郷跡は、北の中心地という痕跡は、もはや なかった。
郷のシンボルである セオ 真理の オベリスク 尖塔は ネイティブ 原住民から、 帝国側へと移る。
ロゴスエンパィヤー 言葉帝国は、それ以降、真理言葉帝国と名乗り 北の王者としての立場を誇示した。
彼らが セオ 真理の オベリスク 尖塔には空爆をおこなわなかった のには深い わけ 理由がある。
この セオ 真理地が、畏怖の念を持って先祖代々渡り 、崇敬の念を受けた来た特異点だったからであ る。
この世に存在する二つの特異点。
桃源郷の大桃木の地。
真理郷の セオ.オベリスク 真理尖塔の地。
だれも、この地の領域を侵すことは許されなか った。
何故ならば、この掟を守らぬ国や街、村落は必 ず滅亡したからである。
その セオ 真理の オベリスク 尖塔の前に集う四人の影があった。
妖しげな炎が オベリスク 尖塔の傍らに備えられた釜戸から 立ち昇っていた。
備えられた祭壇の前に立つ月読みの巫女が厳か な声祈る。
『創造主の業の始まり、リベルは天から落とさ れた。』
『リベルはデニモス(反逆者)と呼ばれ創造主か ら遠く離された。』
リベルに使える者たちもフラムと(炎の魔物)と 呼ばれ天より追放された。 』
『創造主の業に対する ぼうとく 冒涜は すなわ 即ち滅びを意味す る。』
『リベルと呼ばれる者は、かって創造主と共に おり多くの ひじり 聖の中でも大きな力を与えられてい た。』
『しかしリベルは創造主の愛に不信感を抱き自 ら反逆者となった。』
『その強大な力のゆえにリベルは高慢な思いを 自らの内に宿し創造主に敵する者となり デニモス 魔王と なった。』
『闇の教典には、こう記されている。』
月読みの巫女はパタンと闇の教典を閉じ傍らに いる孫の王宮詩人ヘンリーに訊ねた。
『この魔王とは……誰のことで、今、どこにい るのか、お前にわかるか……』
ヘンリーは、父の黒子爵ロィヤと母のルージュ リアンへ視線を送った。
まだ少年のヘンリーには、全てを理解すること は、できなかつた。
月読みの巫女は、ヘンリーの頭に手を置いて話 した。
『ヘンリーよ、答えを知りたいか?』
ヘンリーは、巫女の目を見て深く うなず 頷いた。
『お前は国母ソフィアのお伽噺をしているゆえ 王座の間に入ることも容易であろう。』
『魔剣、サザンクロスを、この ばば 婆の所へ持って 来てくれぬか。』
『そうすれば、お前の謎も解ける…』
ヘンリーは巫女に うなず 頷き、母のルージュリアンの もとへ駆け寄った。
ルージュリアンは、夫のロィヤのもとへ、ヘン リーを連れて寄り添った。
遠くの方から馬車の車輪が きし 軋む音が段々と大き くなって聞こえきた。
『姉上!、馬車の用意が出来ましたよ。』
((ヒヒヒヒーーーーン))
馬の手綱を強く引くシャーマンのラビの姿。
ラビが、姉の巫女に声を掛けて馬車を停めた。
ヘンリーを馬車へと案内するルージュリアン。
『母上、父上……お婆様。』
『しばしの、お別れでごさいます。』
シャーマンのラビが走らせる馬車はヘンリーを 乗せ暫く走ると、 クオンタムリープ 大跳躍 してその場から一瞬 にして姿を消した。
ルージュリアンが、ポツリと呟く。
『次、会えるのはいつになるのか……』
セオ 真理の オベリスク 尖塔で祈祷を終えた三人は再び、それぞ れの目的の地へと別れて行った。
…………………………………………………………☆
蒼き水龍~最後の勇姿。04
ロイヤル三世、治世暦、四年【AB-04】
《王都、エマール》
オリゾン河沿岸に停泊する王国艦隊。
エマール王国の鉄壁。
蒼き水龍の艦上へ、ひとりの男が通された。
同盟国、シャンソニアから来た、軍事顧問、ガ ロン将軍である。
艦隊指揮官、アランドール王子が出迎えに出た 。
『ようこそ!ガロン殿。』
王子が握手を求めて右手を差し出した。
『指揮官殿、お初にお目に掛かります。』
『本日より、王子の副官を務めるよう国母ソフ ィア様より言い渡されたガロンでこざいます… 』
ガロンは、王子と握手をせずに、自分の胸に手 を充て挨拶を交わした。
困惑の表情を見せる王子を、よそにガロンが語 りだした。
『ドローン帝国の、新造空母が近付いておりま す。 今回は、前回の鴉とは比べ物にならないほ ど強力です。』
『わたくしに、妙案があります!』
『ここは、方円の陣形で、防御に徹するのが、 宜しいかと…』
王子は、ガロンに訊ねた。
『まだ、何の連絡も入っておらず、レーダーに 敵影も写っていない?』
『副官殿は、どこから、そのような情報を入手 されたのか?』
『はい、どういうわけか、わたくしには 、それ が分かるのです。』
『霊感とか言うものでしょう…』
ガロンの舌の根も乾かぬ内に、空襲の警報がな り、ドローン帝国の大きな空母が、エマール王 都の空を侵犯した。
厳しい表情で、空母が侵犯した空の方を睨む王 子。
次々と空母を出艦する、 ファルコン 爆撃機 、通称【大鷹】 の群れ。
王子が全艦隊に命を下した。
『全艦隊、三列陣形!』
蒼き水龍は、日頃の訓練の成果で、素早く隊列 を変化させた。
横長に広がっていた大鷹の群れはひとつの塊と なり、王国艦隊の頭上から爆撃を開始した。
(((((ドドドーーーン!!)))))
三列陣形を取った、艦隊の数隻の艦上にドロー ン爆弾が炸裂した。
炎上する艦船を見て、ガロンが呟いた。
『指揮官殿は、艦隊を沈めるおつもりか!』
アランドール王子は、落ち着いた声で、語った 。
『守りにばかり、徹していたのでは、勝てる戦 も負けるものだ。』
王子は艦隊の上を行き過ぎた大鷹の群れを確認 した後、右手を高く翳して叫んだ。
『全艦! 三段砲撃! !』
『撃てーー!!』
《《《《《ドドドーーーン》》》》》
蒼き水龍と言わしめた、王国艦隊のお家芸。
通称、炎の矢が大鷹の群れを粉砕した。
炎に包まれる大鷹の塊。
オリゾン河へ火の玉となって墜ちて行った。
水龍の砲口は、空母へと向けられたが、既に撤 退し、姿を消していた。
この勇姿に、多くの兵士、国民から歓喜の声が 上がった。
『アランドール王子!万歳!』
『蒼き水龍に栄光あれー!!』
副官のガロンが戦勝のワインをアランドール王 子へ手渡した。
『恐れ入りました。流石に蒼き水龍の申し子と 呼ばれる方だけはあります。』
ガロンは、王子がワインを飲み干したことを確 認して、その場を足早に立ち去った。
笑顔で笑うアランドール王子の周りを囲む兵士 たち。
羨望の目で優れた指揮官を見ていた。
その時、王子がワイングラスを甲板に落とし、 その場に倒れた。
その様子を見ていた副官のガロンが、急ぎ、医 師のホーミンを王子の元へ呼び出した。
ホーミンは王子の脈を取り、目を見開いて、瞳 孔を確認した。
その後、首を横にユックリと二回振って呟いた 。
『勇者、アランドール王子は、崩御されました ……』
ブァンの受難~ミニヨンの奇跡。04
ロイヤル三世、治世暦、一年【AB-04】
《桃源郷》
ミニヨンは桃源の丘から裾野の村まで延びる緩 やかな細い坂道を下り
遠くに見えてきた光の教会をを指差して、車椅 子を押すエスポアールに嬉しそうに呟いた。
『見えてきた~♪』
『あそこが、わたしと、おにーちゃんの、お家 ー!』
屋根に十字架と太陽の円が重なる紋章を見て、 エスポアールは笑顔で答えた。
『光の教会だね…』
ミニヨンは手を後ろに組みながら、前屈みの姿 勢で微笑んだ。
『そうだよ~♪』
ブァンと車椅子を押すエスポアール、そしてミ ニヨンの三人が、笑いながら村の入り口に差し 掛かった時
路地から、五人の少年たちが躍り出てきた。
リーダー格の大柄な少年が三人の行く手を遮( さえぎ)る。
『ブァン! 見つけたぞ!!』
『お前の、父親のせいで、俺たちの父ちゃんは 戦争に駆り出されたんだ!』
『噂では、誰も生きて帰れないて言ってたぞ! 』
少年たちは手に持つていた小石を、ブァンの車 椅子目掛けて投げた。
その中の、ひとつが真っ直ぐにブァンのところ へ飛んできて、彼の額に当たった。
エスポアールはブァンを、少年達が投げる小石 が届かない安全な場所まで遠ざけた。
気性の荒いミニヨンが、この状況を黙って見て いるはずはなく、彼女は大きな声で叫んだ。
『あんたたちー! 何するのよー!!』
『おにーちゃんを、いじめる子は、わたしが、 ゆるさなーい!!』
少年達はミニヨンを指差して、お腹を抱え笑い 出した。
『こんなチビに何ができるー!』
少年達は再び、小石を拾いブァン目掛けて投げ る。
ミニヨンは少年達を睨み付け、片手を高く かざ 翳し て叫んだ。
『悪魔のこども! いなくなれー!!』
すると、少年達が投げた小石は途中から方向を 変えた。
『うぁー! 石が 、こっちに、向かってくるー !』
慌てて逃げたす少年達の背中を幾つも石が追い 掛ける。
『あのチビ! 化け物だぁー!!』
『覚えてろー!』
捨て台詞を残し、少年達は蜘蛛の子を散らすよ うに逃げ去った。
ミニヨンは車椅子の兄の元へ走り寄り、心配そ うに額の傷を見て
わず 僅かに にじ 滲み出ている血を、ハンカチで優しく拭 き取った。
『おにーちゃんは、わたしが守るよ!!』
ブァンはエスポアールの方を向き直り、話し掛 けた。
『今、見たことは、誰にも話さないでください 。』
『妹は太陽神から祝福を受けた少女なんです。 』
エスポアールは、深く頷いて答えた。
『わかったよ。ボクと君、そして妹さんだけの 秘密にしておこう。』
ミニヨンは、王都から来たエスポアール事を母 の美空に知らせるため、一足先に光の教会へ入 って行った。
エスポアールは、足が不自由で思うように行動 の取れないブァンの心の内を察して遠慮がちに 話し掛けた。
『君の、その足、歩けるようになるかもしれな いよ…』
『梟の森に癒しの湖という所がある。』
『この湖の水に浸ると、すべての病は癒される と言われているよ。』
『君さえ、よかったら、連れて行ってあげられ るんだけど…』
『訳あって梟の森にある修道院に妹を置いてき ているんだ。』
『救世主を見付けた後、王都へ帰る途中、梟の 森へ立ち寄るつもりでいるよ。』
ブァンは、エスポアールの気遣いに感謝の言葉 を返した。
『ありがとう』
『とりあえず、今は、光の教会にいる、母に王 都の様子を話してください。』
『父の事を気に掛けている母を、少しでも安心 させてあげたいのです。』
エスポアールは軽く頷いて、車椅子を押し、光 の教会へと入って行った。
北風の天使、ミストラル。04
ロイヤル三世、治世暦、四年【AB-04】
【桃源郷】
テラ大陸で、唯一の非戦闘地域。
聖域とされる場所。
ここ桃源郷は、桃の花が今は盛りとばかりに咲 いている。
マナ 愛 の湖に映り込む、眩い太陽の光 が教会の壁 面を明るく照らしている。
礼拝堂のドアを勢いよく開けて、祈りを捧げて いる母親の元へ駆け寄るミニヨン。
朗報とばかりに母親の美空に語りかける。
『お母さん! あそこにいる、王都から来た、お 兄さんが、街の様子を教えてくれんるだってー !』
『お父さんのことも、わかるかもしれないねー !』
笑顔満面のミニヨンに、美空の顔も ほころ 綻んだ。
エスポアールは、ペコリと頭を下げて美空に挨 拶をした。
『初めまして。王都エマールから来ましたエス ポアールと言います。』
『実は、この村に救世主が、いると祖父から聞 いて訪ねて来ました。』
美空は笑顔で、エスポアールをテラスのテーブ ルへ案内した。
『長い道のり、大変な、ご苦労をされましたね …』
『よく、訪ねて来て下さいました。』
『今、美味しいお菓子と、お茶を用意しますの で、ゆっくりと椅子に腰かけて、街の様子を聞 かせて下さいね。』
しばらくすると、美空が皿に、出来立ての桃パ イを乗せて、テーブルへ出して来た。
『うぁー♪、美味しそうな桃のパイだぁー!!』
ミニヨンが、待ちきれずに、一枚、パクリと桃 のパイを頬張った。
『ミニヨン。お行儀が悪いですよ!』
母の叱る声に肩を すく 竦めるミニヨン。
それを、横目で眺めながら、エスポアールがク スリと笑った。
『ミニヨンちやんは、とても元気のある女の子 だね~♪』
場が和んだところで、 おもむろ 徐 にエスポアールが街 の様子を語り出した。
『王都は今、ロゴス帝国の侵攻を受けて悲惨な 状況です。』
『度々、空から戦闘機や爆撃機が現れては、ド ローンミサイルや、爆弾で街を破壊しています 。』
『何の罪もない人々が、怪我をしたり、家族を 失ったり、命を落としたりしています。』
『ボクの、祖父もドローンミサイルの攻撃を受 けて行方知れずです。』
『生きて いるかどうかも、わかりません。』
『そんな中でも、各地から集まった有志の人々 が民兵軍を組織して、立ち向かおうと必死にな っています』
『多分、ご主人様も、この民兵軍に入って戦っ ておられるのではないでしょうか。』
『よろしかったら、ご主人様のお名前を、お聞 かせください。』
『何か思い当たる節を、お伝え出来るかも知れ ません。』
美空はお茶をエスポアールに、すすめながら話 した。
『私の主人は ミストラル 天人という名前です。』
『ご存じかしら?』
エスポアールは、驚いた表情で、返事を返した 。
『その方は、民兵達の間で、北風の天使と呼ば れていますよ。 』
『詳しい事は、分かりませんが、民兵達が噂を していました。』
『なんでも、高い塔の上から、落ちてきた、預 言者ヨブを救い上げた天使がいると、もっぱら の評判です。』
美空は近くに立って話を聞いていたミニヨンを 、抱き寄せて顔を優しく な 撫でながら呟いた。
『あなたのお父様は、太陽神の お使いなのよ…』
『お父さん! 元気でよかったー♪』
ミニヨンの無邪気な、声が夕日を受けて煌めく 湖のテラスに響き渡った。
ブァンの生い立ち~救世主降臨。04
ロイヤル三世、治世暦、四年【AB-04】
《桃源郷、光の教会》
エスポアールは、この地に赴いた目的である、 救世主の存在についての話しを切り出した。
『美空さん…この村に救世主がいるという噂は 本当でしょうか?』
美空はブァンの方を、しばらく見て、太陽神に 祈りを捧げてから、間を置いて おもむろ 徐 に話し出し た。
『この子、ブァンが生まれる一年前、大輪月の 夜のことです。』
『この教会から、さほど遠くない桃源の丘の空 に、光の玉が現れました。』
『まだ、乙女だった私は、好奇心から聖桃木の 真下まで行き、光の玉が何かを確かめに行きま した。』
『すると、その光の玉が、頭の上まで降りてき て、私を包み込みました。』
『驚いた私は、裸足のまま走って光の教会まで 、戻りました。』
『礼拝堂で、震えながら祈っていると、 まばゆ 眩い光 と共に、太陽神のお使いが現れました。』
『そのお使いは、長い杖を持ち、その先端には 、月の形をした大きな飾りが付いていました。 』
『その、お使いは、よく通る声で語りました。 』
『我は、時を操りし者、太陽神の導きにより、 汝の胎内に、世を救いし、 マスター 主 、降臨せしめた 。』
『乙女よ! 恐れるな、汝は太陽神により祝福さ れし者なり。』
『お使いは、そう言葉を言い残すと、姿が見え なくなりました。』
『その後、村で木こりをしていた、主人と結婚 して一年後に、ブァンが生まれました。』
『この子が生まれた時、主人が私に言いました 。』
『この子は、生まれながらにして、 あしかせ 足枷をして いるが、悲しんではいけない。』
『これには、深い意味があると、そして、それ こそが、救世主の あかし 証であると 』
『エスポアールさん、あなたが探している救世 主とは、この子、ブァンなのです。』
しばらくの沈黙のあと、エスポアールが口を開 いた。
『こうして、光の教会へ導かれたのも、きっと 、太陽神のお導きですね。』
エスポアールは、梟の森にある癒しの湖の事を 美空に話して聞かせた。
『その、癒しの湖に浸ると、ブァンの足が治り 、歩けるようになるのね…』
美空は、礼拝堂から、小さな袋を持ってきて、 エスポアールに手渡した。
『金貨、30枚が入っています。この子の足が 治るのなら、このお金を旅費にしてくださいな 。』
『 年一度、大輪月の日、シャーマンという人が 、この桃源郷に馬車を止めます。』
『 金貨3枚で、王都へ行く人達を乗せてくれま す。』
『その馬車で、ブァンを癒しの湖へ連れて行っ ていただけるかしら。』
エスポアールは、救世主を助けるという大役を 喜んで受け入れた。
『美空さん、わかりました。ブァン君のことは 、お任せください。』
『大輪月の日、迄は、まだ、あと三ヶ月程度待 たねばなりません。』
ミニヨンが、そこで口を挟んだ。
『それまで、お母さんに、ピーチパイの作り方 、しっかり教えてもらえるねー♪』
ブァンが、笑顔で相槌を打った 。
『ミニヨンは、お菓子の事となると、目がない ね~♪』
明るく笑う四人の声のハーモニー。
外はもう、すっかり暗くなり、星々の明かりが テラスと まな 愛の湖を優しく照らしていた
双剣のバロンと隻眼のガリバー。03
ロイヤル三世、治世暦、三年【AB-03】
テラ大陸、北の端、 のどか 長閑な漁村。
《シャンソニア領. ロレンソ》
透き通った海面に エメラルドリーフ 珊瑚礁帯が まぶ 眩しく映える。
『今日の海風は、気持ちがいいな~♪』
岸壁に腰を下ろし、遠くの水平線へ視線を送る 隻眼の武骨な男が呟いた。
王都からの使い、国王の側近、マジョロダムが 隻眼の男と話しを終えて馬車に乗り帰って行く 。
それと入れ替わるように、長いブロンドの髪を 海風に靡かせた、年若い乙女が彼の元へ走り寄 ってきた。
『ガリバー♪』
元気に手を振る彼の フィアンセ 婚約者、クレマチス。
息を弾ませながら嬉しそうにガリバーに話しか ける。
『シャーマン牧師様が、今度の新月の日に私た ちの、式を挙げてくださるそうよ~♪』
ガリバーは、満面の笑みを浮かべるクレマチス の腰の辺りを両手で つか 掴んで、持ち上げ喜びの声 を上げた。
『そうかー!、これで俺たちも晴れて夫婦とい うことだなぁー♪』
堤防の上から 、この様子を伺っていた、背中に 長い二本の剣を差した長身の若い男が、二人に 声を掛けた。
『ガリバー、カナリア号を近々、降りるそうだ な…』
『この村は、まだ平和になったわけではないの に、お気楽なことだ。 』
『ドローン帝国が、この村にも迫っている、こ のご時世に、空を離れて漁師にでもなるつもり か!』
ガリバーは、優しく婚約者のクレマチスを下ろ して呟いた。
『俺はもう、戦いはたくさんだ…傭兵家業も今 回の仕事で終いにするつもりだ。』
『これからは、こいつと、一緒になって幸せな 家庭を築くつもりでいる。』
バロンはクレマチスの方を向き直り話し掛けた 。
『クレマチス……お前を怒らせたことは謝る。 』
『シャンソニア王国の姫、美人姉妹の一人が、 なぜ、こんな男を選ぶのか、俺には理解できな い!』
『もう一度、俺とやり直せないか?』
バロンは懐から、たくさんの金貨が入った袋を 取り出してクレマチスに手渡した。
『こんな漁師に着いていったら、一生、苦労す るのは目に見えている…』
クレマチスは金貨の入った袋をバロンに投げつ けた。
金貨が辺り一面に散らばる。
この様子を見ていた、通りがかりの少年達が急 いで金貨を拾い集め、逃げ去った。
クレマチスが首を横に大きく振って叫ぶ。
『バロン! あなたは、いつもお金、お金の事し か頭にないのね!』
『私は、お金や家柄より、この私自身を愛して くれた、このガリバーに着いていくことに決め たの!』
『それに、あなたの悪い噂も聞いているわ!』
『帝国のスパイだって!』
『そうやって、お金をたくさん、稼いでいるん でしょう!』
………………………………
暫くの沈黙の後、バロンが重い口を開いた。
『わかったぜ!、お二人さん』
『帝国がこの村を滅ぼす迄の 短い春を、精々幸せに暮らすんだな!』
バロンは、捨て台詞を残して、その場を立ち去 った。
クレマチスはガリバーの方を向き直り、彼の首 の辺りに両手を回して微笑んだ。
『二人で、幸せな家庭を作りましょうねー♪』
『子供も、たくさん欲しいわ~♪』
クレマチスの、眩しい笑顔にガリバーが答えた 。
『おう! もちろん 勿論だぜー!』
クレマチスが視線を堤防の方へ移し呟いた。
『あ、牧師様だわ~♪』
馬車を堤防脇に停めて、シャーマンが笑顔で二 人に手を振って挨拶した。
『これから、桃源郷へ巡礼に行くところです。 』
『式の前日迄には、ロレンソに帰る予定でいま す。』
『また、式でお会いしまししょう!』
牧師のシャーマンは、そう言うと馬に むち 鞭を入れ て馬車を走らせた。
ガリバーは、クレマチスの方を見て話し掛けた 。
『お前と楽しく暮らすために、最後の大仕事を 終わらせてくる!』
『ロイヤル国王様、直々のお達しなんだ。』
『お前の姉さん、フランソワ妃の進言もあった そうだ。』
『直ぐに終わらせて、お前の元へ帰ってくるの で、暫く待つていてくれるな。』
クレマチスは、ガリバーの瞳を真っ直ぐに見て 答えた。
『ガリバー、あなたのこと、待っているわ。』
『姉さんには、私のこと、何も心配しないでと 伝えてね。』
二人は暫しの別れを惜しみ、軽くキスを交わし た。
その後、 ガリバーは、カナリア号、通称( 火の 鳥)が格納されている嘶鳴の滝へと向かった。
一方、 クレマチスは、シャンソニア王国の離宮 が立つ見晴らしの丘へ戻って行った。
ルージュリアン、リンメル、ガリバー、バロ ン、絡み合う運命の糸04
ロイヤル三世、治世暦、四年【AB-04】
《王都、エマール》
『この雨は、きっとアランドール王子の涙の しずく 滴 でしょう。』
詩人ヘンリーが、馬を連れて城の門の横に立ち 呟いた。
傘を差し、何やら長い手荷物を馬の鞍に乗せて 、 むち 鞭を入れ走り出す。
『国母ソフィア様のお使いで、何処かへ出掛け るのかな?』
慌てた様子で馬で走り去るヘンリーの姿に視線 を送る門番兵士の二人。
『国母ソフィア様も、とにかく人使いが荒いよ なぁ~』
『まったく、同感だぜ!、何年、門番兵士やら せる気だろうなぁ~』
『城の内は、国母ソフィア様の、お気持ち次第 でコロコロ変わるから、下の者はたまらんよ… …』
門番兵士の話を、門の影で聞き耳を立てる、フ ランソワ妃の侍女ジューネが、コホンとひとつ 咳払いをした。
『しまった!、俺たち、終わったなぁ~トホホ …』
門の前に、しやがみこみ、肩を落として頭を垂 れる兄弟。
彼らの前に 綺羅びやな金の装飾が施された鞍を 着けた黒馬が止まる。
毛並みの良い馬に股がる妖艶な美女。
そぼふる小雨に濡れた彼女の姿は男たちの視線 を集めていた。
ポルト、ポルカの兄弟門番兵が美女に歩み寄り 訊ねた。
『アランドール王子の葬儀に来られたのですか ?』
『失礼ですが、名前をお聞かせください。』
沈黙している美女に、戸惑う門番兵。
そこへ、後ろから近付いて来た、ガロン将軍の 恫喝の声が響いた。
『おぬしら! 下がっておれ!』
ガロンが美女に声を掛けた。
『これは、 くれない 紅 の魔導師、ルージュリアン殿。 』
『定刻通りのお越しとは、恐れ入ります…』
ガロンは、手のひらを上に向け、千年杉の大木 の下にあるテラスへ、ルージュリアンを案内し た。
ルージュリアンは、手に持っていた金塊の袋を テラスのテーブルへ放り投げた。
『お前の のぞみ 希望の品だ! 受けとれ!』
『今回の手腕は見事であった……』
『アランドールの奴め、天国で、さぞかし我ら の策謀に は 嵌まった事を悔しがっておろうな。』
ルージュリアンの高笑いが響く。
ガロンは、辺りを見回して人影の無いことを確 認した。
『ルージュリアン殿、声が大き過ぎます…他の 者に聞かれたら、事が露見してしまいますぞ。 』
ガロンが小声で呟いた。
『そのように、萎縮しておっては、大事も成せ ぬ。』
ルージュリアンはガロンの襟首を掴んで、更に 言葉を続けた。
『艦隊の指揮権を得た気分はどうかな……ガロ ン将軍殿。』
『近いうちに、再度、王都へドローン爆撃を行 う。』
『今回のお前の役目は、艦隊をオリゾン河へ沈 めることだ。』
『事が成就した暁には、山ほどの、金塊をお前 にやろう。』
『どうだ……悪い取り引きではなかろう。』
ガロンは愛想笑いをして答えた。
『も、勿論でございますよ~』
『流石は、錬金術に通じておられる魔導師様』
『これからも、良しなに、お取り計らいくださ い。』
ルージュリアンは、高笑いをして、黒馬に乗り 鞭を入れた。
『ガロン、期待しているぞ!』
『今度の戦が楽しみだ!』
黒馬に鞭を入れて走り出すルージュリアンの後 に、少し遅れて駆け出す茶色の馬があった。
『あれは……妃の側近、ローズ.リンメル!』
『今の話しを、聞かれたのでは……』
ガロンは走り抜けるリンメルの姿を横目に城の 中へと消えた。
しかし、この話しを大木の影で聞いていたもう 一人の男がいた。
傭兵の身でありながら、正規軍以上の華々しい 戦果の持ち主。
隻眼の火の鳥、ガリバーが木陰で呟く。
『これは、国王陛下に、高く買ってもらえそう だ!』
クレマチス~老師と共にロレンソを去る。 03
ロイヤル三世、治世暦三年【AB-03】
《漁村、ロレンソ》
痩せた白髪頭の老人がロレンソ湾の岸壁に座り 、海の底で輝く美しい エメラルドリーフ 珊瑚帯 に見入っている 。
折吹く海風を楽しみながら、お気に入りのパイ プ煙草をふかしている。
その先から出る煙の輪が、隣に座っている孫娘 の方へ流れてゆく。。。
『この村も、昔はもっと賑やかだったんじゃが ……』
『若い衆は、ほとんど戦に刈り出されて残って いるのは、年寄りと子供だけじゃ…』
水平線に目をやる老人ドンキーが、となりで釣 竿を垂れる孫娘パピヨンに呟いた。
『お前も、まもなく砲術学校卒業じゃのう~』
『やはり、皆と同じように、離宮仕えを考えて おるのか?』
パピヨンは竿を上げて針の先を見ながら答えた 。
『わたし、じっちゃんの後を継ぐ気は更々ない からね~』
『海賊の娘て、皆から言われて、肩身の狭い思 いをするのは、もう懲り懲りだから~』
『パピヨンよ! 何度言ったら分かるんじゃ、海 賊ではない、義賊じゃ!』
パピヨンは針の先に着けてあった餌が無くなっ ているのを見て、ひとつ、ため息を吐いた。
『また、餌だけ持っていかれたー!』
困惑の表情を見せるドンキー。
『お前は、いっも人の話しを聞かぬのう~』
『おや?……珍しい事もあるもんじゃ』
岬の小高い頂き、見晴らしの丘に立つシャンソ ニア離宮を見てバルトが呟いた。
『どうしたの? じっちゃん。』
パピヨンも、ドンキーの視線の先に目を移した 。
『この片田舎へ何の用じゃろう?』
『あの、銀翼の機体は、確か双剣のバロン』
『帝国機と、一緒になって離宮へ降りたようじ ゃ……』
『帝国のスパイの噂は本当だったんだー!』
暫くした後、パピヨンが離宮を指差して、驚き の声を上げた。
『あー!、だれか、離宮の窓から海に落ちた! !』
『じっちゃん! わたし行ってくるー!、助けな きゃ!!』
『気をつけるんじゃぞー!』
走り出すパピヨンの背中に、ドンキーが声を掛 ける。
岬の下、人が落ちた海の辺りを目指して全力で 駆け出すパピヨン。
馬車が、砂ぼこりを上げ、パピヨンの横を通り すぎる。
馬に、激しく むち 鞭を入れる長い白髪と しろひげ 白髭を蓄え た老人。
パピヨンに視線を移して、過ぎ去っていく。
息絶え絶えで、岬の下の海辺まで辿り着いたパ ピヨン。
近くに落ちていた豪華な装飾が施された竪琴を 拾い、辺りを見回す。
美しい女性を抱えて馬車に乗せ、馬の きびす 踵を返し て鞭を入れ、走り出す白髪の老人。
パピヨンの前で老人が手綱を引き、馬車を止め た。
老人はパピヨンが持っている美女の竪琴を受け 取った。
その後、肩掛けの袋に手を伸ばして、七色に輝 く ホリーロック 石 をパピヨンに手渡した。
『王都、エマールへ行け……お前の未来はそこ にある。』
再び走り出す馬車を横目で見送るパピヨン。
『あれは、クレマチス姫!』
第二次オリゾン河海戦、王国艦隊、撃沈す! (パピヨン.ハート~隻眼のガリバーの勇躍。 )03
ロイヤル三世、治世暦、三年【AB-03】
《ロレンソ湾~オリゾン河》
ロレンソ湾から、オリゾン河へ入って来た、大 型漁船。
ドクロに牛の角を、あしらった旗印がマストに 、たなびく。
漁船には、似つかわしくない大きな大砲が目を ひく。
『じっちゃん、そろそろ、海賊家業、やめたら どう?』
パピヨンが祖父のドンキーに語り掛けた。
『ばかもん! 何度、言ったら分かるんじゃ!』
『海賊じゃない!義賊じゃ!』
パピヨンはドンキーの言葉を受け流し更に続け た。
『義賊は、牛や豚を勝手に略奪たりしないしー !』
『じっちゃんは、やってる事と、言ってること が違うー!』
ドンキーは顔を真っ赤にして怒った。
『あれは、略奪でない!』
『戦争で死んだ家畜の処分をして、街の衛生管 理に貢献しておるのじゃー!』
パピヨンは呆れ顔で返事を返した。
『じゃー誰かに頼まれたわけ?』
ドンキーは胸を張って答えた。
『ボランティアとかいうもんじゃ!』
『言われてからやるような奴は、偽善者じや! 』
パピヨンは沖合いから、近付いて来る戦艦を指 差しドンキーに訊ねた。
『じゃあ、どうして、王国艦隊に追いかけられ るわけー?』
ドンキーは双眼鏡をパピヨンに手渡した。
『あの戦艦の旗印を、よく見てよ!』
パピヨンが呟く。
『趣味悪いー! 金貨の山の紋章』
バルトが舵を大きく切って、砲口をガロンの艦 隊に向けた。
『悪徳将軍!ガロンじゃ!』
『奴こそが、大悪党じやー!』
『パピヨン! 砲台に着け!』
『お前の砲術学校、首席の腕前、わしに見せて くれ!』
パピヨンが顔を脹らませて答えた。
『こんな事のために、技術習得したんじゃない のにー!』
『もう、いやだー!』
《《《ドドドドドーーーーン》》》
漁船の両側に高い波しぶきが上がる。
『奴ら、撃ってきゃがったー!』
『正当防衛じゃ!、パピヨン』
『遠慮することないぞ! 、撃ち返すんじゃー! 』
『何をしておる?、早く撃つんじや!』
砲台に着いたパピヨンがドンキーの方を向き直 りトリガーに手を置いた。
『砲撃指示、待ってるんだけど~』
ドンキーは、ズルッと足を滑らせて答えた。
『ここは、砲術学校じゃない!』
『実戦じゃー!』
『う、う、撃てーー!!』
パピヨンは、砲撃指示に従い発砲した。
《《《ドドドドドーーーーン》》》
砲弾がガロン艦隊の、かなり手前に着弾したの を確認したパピヨンは、標準を合わせた
『じっちゃん!今度は外さないよー!』
『砲術師パピヨンの本領、見せて上げる!』
慎重にガロン将軍が乗る旗艦にターゲットを絞 る。
パピヨンは再度、トリガーを引いた。
白線を引いて、弾頭はガロンの乗る旗艦の砲台 に着弾した。
《《《 ガガガガーーーーン》》》
ガロン旗艦に搭載されている砲台が木っ
に砕け散った。
看板から火柱が上がり、右往左往する兵士達が 消火に奔走する姿が見える。
ドンキーが、その様子を見てパピヨンに呟いた 。
『お前も、義賊の頭領になる資質、十分有りと 見た!』
消火を終えた、ガロンの艦隊が再度、漁船に追 撃を開始した。
パピヨンが大砲のトリガーを艦隊目掛けて引く 。
(((カチッ…カチッ)))
!』
『え?……もう、玉切れー!
ドンキーは羽根帽子を深く被り直して、叫んだ 。
『全速前進!、王都、エマールへ!
パピヨンは呆れ顔でドンキーに呟いた。
『逃げるのかぁ~』
…………………………………………………………☆
《数週間が過ぎた或る日……》
『親方 ~3足鴉の群が巣から出てき ましたよ 』
王都エマールを臨むオリゾン河の沖合いに浮か
ロゴスエンパィヤー
ぶ、真理の
言葉帝国の巨大空母プロパガンダ。
直接援護機、通称、三足鴉の編隊が次々飛び立 つ。
『親方ではない ガ ン指揮官様と呼ぶのだ!』
くちひげ
そ 反らしながら王国艦隊指揮
口髭を上に
細く長い
官に昇進したガロン将軍が胸を張った。。。
『どうでもいいけどーここは先制攻撃したもん 勝ち です。』
『速く大砲、ぶっぱなしちゃい ましょうよ ! 』
砲術学校を、主席で卒業したばかり の女砲術士 官、パピ ンの論談が 始まった。
彼女は、亡くなったエマール王国の第三王子、 アランドール子爵の葬儀で、哀悼の砲を空に放 つ役目を王妃フランソワから賜っていた。
その縁が切っ掛けとなり、士官の道が開かれた のである。
その後、彼女の、軒並み外れた砲術の腕が見込 まれ、王国艦隊副官としての任へ国母ソフィア の推奨により就いていた。
しかし、本来の目的は、王妃の依頼を受け、ガ ロン指揮官が帝国と通じているとの情報が、本 当か、否かを確かめるために同乗していた。
『いや 、まだだ!』
『 もう少し、三足鴉を引き付 けてから砲撃し た方がよい! 』
『パピ ンとか言ったな ……砲術学 校を主席で卒 業したそうだが実戦 は、まだ経験がないのであ ろ う! 』
『ワシの指揮ぶりを見て、後学の基 礎とせよ !』
パピヨンは、横目づかいでガロン指揮官を見て 呟いた。
『王妃様の言った通りだ……メッチャ怪しすぎ ー!、このオヤジ……』
『何か、言ったか?』
ガロンが首をパピヨンに少し傾け
『別にーーー!』
しらを通し、空を見上げるパピヨン。
『どうにも、気に入りない娘だ!』
『目上の者への、礼儀かが、なつておらん!
』
『軍人は、規律を重んじなくてはならん!』
パピヨンは顔を真っ赤にして怒鳴るガロンに呆 れて、主砲の上に腰かける。
!』
『着席!
!』
『起立!
『これぐらい、学校でならってるしー!』
…………………………
『もう!』
『三足鴉が餌に飛び付きたくてウズウズしてる よ!』
『頭領!、三足鴉が、横に広がったよー!』
『襲ってくるー餌にされちゃうよー!』
『ここは、セオリー通り、艦隊を横展開から方 円に変更した方が安全では?』
三足鴉の思惑を見抜いたパピヨンが ガロン指揮 官に助言した。
『頭領ではない!』
『 指揮官様と呼べ と言っておる!
『何度、同じことを言わせるの だ!
パピヨンが、ガロンの言葉に左目を上にして考 え込んだ…………
『たしか……同じことを以前、誰かに言われた ー!』
戦いの進展を見守るように 一隻の大型漁 船が 神像の丘を見上げる岬に停泊 してた。
漁船の広い甲板には赤い戦闘機と隻眼の火の鳥 ガリバーの姿があった。
気品のある紳士と、その横には不釣り合いな傭 兵の姿。
『国王陛下、おっぱじまります よ! 』
『約束の礼金の方は、頼みました よ!』
『 婚礼を控えているもの で、何かと物要りで してね! 』
国王ロイヤル三世は、少し顔を曇らせてた。
『陛下……どうかしましたか?』
『まさか、金欠とかですか……』
ロイヤル三世はガリバーに、袋が張ち切れんば かりに金貨の入った袋を手渡した。
『そうではない…この戦が落ち着いたら、お前 に話さなくてはならないことがある……』
『今は、目の前の敵の撃破に集中してくれ!』
『航空戦力のないエマール国にとって、お前は 貴重な存在だ!』
『隻眼 の火の鳥ガリバー よ!』
『大いに期待して おるぞ! 』
『俺は傭兵です!陛下。』
『金さえ貰えたら何でもやり ますよ!』
『早速一鳴きしてきましょう かー!』
カナリア号へ歩き出すガリバーの前を遮るロイ ヤル三世。
しばら
『いや
暫く様子を見るこ としょう…… 』
傭兵ガリバーは国王の出撃命令を 待った。
(((ドド ン ドド ン ドド ンーーーー!))
三足鴉のドローンミサイルが王国艦隊に 次々と 炸裂する。
『なんでー?』
『防御シールドは、常識でしょーう!』
『大指揮官さまー!』
『これじゃー反撃しない内に、全艦、撃沈され ちゃうよー! 』
『この、オヤジ……頭、いかれてる』
『だめだー!』
『この戦、負け率……』
『100パーセントーーーっ!
空を自由自在に飛び回困、艦隊目掛けてミサイ ルを放つ三足鴉に惑の表情を見せるパピヨン。
見計らったように、ガロン指揮官が砲撃命令を 下す。
『目標 !』
『帝国空母 !』
『全艦 砲撃 準備! 』
パピヨンはガロン呆れ顔でを見 た。
『はぁ?……砲撃準備してなかったのー!』
『大指揮官さまー!』
『この距離で砲弾は、三足鴉の巣に届きません よー! 』
『少女、ラパンちゃんでも、わかるのに……な んでー?』
『それに…お家芸の四段スリット光子砲は、
こへ持っていったわけ?』
『何を、ゴチャゴチャと言っておる!
わし
『小娘は、 黙って
儂の神業を見ておればよいの だー! 』
まった
パピヨンの助言に、
全く耳を貸さないガロン指 揮官は全艦に命を下した。
『砲撃開始 !』
『撃てーーー! 』
空砲にも似た白煙が空に虚しく線を引いた。
横一列に並ぶ王国艦隊は、 一隻、
甲板に三足鴉からのミサイル攻撃を受け火の手 を上げて撃沈されてゆく。。。
その光景に、肩を落としてパピヨンが叫ぶ。
『わ た しは、もう、大指揮官さまーにお付き 合いできないー!』
『救命ボートを一 隻、お借りします!』
『 では……グッとラック! 』
『お前!…… どこへ 行くつもりだー!』
『まだ戦 は終わっておらぬぞ! 』
ガロン指揮官の呼び声を背にパピヨンは救命ボ ートでで神像の岬を目指した。
激しく燃え上がり、傾き掛ける艦船の列。
王国艦隊はガロン指揮官の旗艦を残し全て撃沈 されていた。
ふさわ
敗軍の将軍には、
相応しくない含み笑いを浮か べるガロン指揮官。
彼も、護衛の兵士に囲まれながら救命ボートへ 乗り込む。
神像の岬とは、反対方向へとボートを漕ぎ出す 。
三足鴉の群れはガロンが旗艦から離れたことを 確認すると上空からミサイル集中攻撃を残りの 艦船に加えた。
大陸に有名を馳せた王国無敵艦隊。
ガロンの帝国への内通という裏切りにより呆気 のない最後となった。
神像の岬に停泊する大型漁船の横を救命ボート で通り過ぎるパピヨン。
国王ロイヤル三世と隻眼の火の鳥ガリバ ーが甲 板に立ち沈み行く艦隊に目を
パピヨンは、甲板に立つ二人と視線を交わして 敬礼し、その後、神像の丘へと撤退した。
国王ロイヤル三世は、凱歌の雄叫びを上げて帰 投する三世鴉の母船、巨大空母プロパガンダを 、ゆっくりと指差しガリバーに告げた。
『隻眼の火の鳥、ガリバーよ!
こなみじん
『あの三足鴉の巣を
粉微塵にして、王都エマー
!』
ルの危機を救ってくれ!
隻眼のガリバー親指を立てて応、国王にえて見 せた。
『いくぜ 火の鳥、カナリアーー!
走りだしカナリア号へと、素早く乗り込むガリ バーの最中に国王が呟いた。
『火の鳥!』
『咆哮の時、来たりー!!』
解説、二章。
【ストーリー要約】
蒼き水 龍こと、プリンス、アランドール第三王 子。
彼の目を見張るような、活躍により王都エマー ルの守りは磐石と思われた。
しかし、ロゴス帝王の腹心、紅の魔導師ルージ ュリアンの策謀により、彼は命を落とす。
代わりに、王国艦隊の指揮を執るのは副官のガ ロン将軍であった。
帝国側に通じている彼の指揮下に入った 王国艦 隊の行く末は、まさに風雲の灯火となった。
弱体化してゆくエマール王国に、歯止めを掛け ようとロイヤル国王は
同盟国シャンソニア領、ロレンソに住むフラン ソワ王妃の妹、クレマチスの婚約者ガリバーを 召喚する。
彼は歴戦の勇者でもあり、敵からは、隻眼の火 の鳥と恐れられる人物であった。
彼が王都へ召喚されている間、婚約者のクレマ チスはロレンソの離宮で帝国側に通じる双剣の バロンの急襲を受け命を落とす。
そんな中、桃源郷に住む救世主ブァンの情報を 掴んだエスポアールは、王都へ向かう 足掛かり を固めつつあった。
救世主を守る加護聖たちも、
現れ始め、天空決戦の舞台は徐々に整いつつあ った。
………………………………………………………………☆
キャラクター 登場人物と地名、そして様々な
ここでは、主な
物や品について、ご紹介します。
ストーリーの世界観や展開などの理解に、お役 立てください。
年齢は、ロイヤル三世、治世暦、元年の【AB-00】を基準としています。
BB=ビフォア.ブロウ
AB=アフター.ブロウ
【主な登場人物】
※第一章の解説で紹介した人物は、省略してい ます。
蒼き水龍=シャベリア.アランドール子爵[第三 王子]
性別[男]年齢[22]
ガロン将軍
同盟国シャンソニアから派遣された軍事顧問。
アランドール王子の副官。
性別[男]年齢 [45]
ホーミン
王宮御抱え医師
性別[男]年齢[70]
隻眼の火の鳥=ガリバー
傭兵
シャンソニア王国、第二姫君クレマチスの婚約 者。
性別[男]年齢[27]
銀翼の双剣=バロン
スパイ
ロゴス帝国の
斥候
クレマチスに恋心を寄せるが、断られた後に彼 女の命を奪う。
性別[男]年齢[28]
ポルト、ポルカ
エマール王城の門番兵士
双子の兄弟。
性別[男] 年齢[25]
パピヨン..ハート
海賊の孫娘。
砲術士。
性別[女] 年齢[18]
ドンキー.ハート
パピヨンの祖父。
海賊&義賊。
年齢[60]
[男]
性別
ヘンリー。
美少年。
王宮詩人、
性別[男] 年齢 [12]
【主な地名】
ロレンソ
エマール王国の同盟国、シャンソニア領地、漁 村。
シャンソニア離宮
ロレンソにあるクレマチス姫の離宮。
父親のシャンソニア国王、
僻地に送られた 悲運の姫君の住まい。
嘶鳴の大滝
グラシャス。
ガリバーの戦闘機、カナリアの格納庫。
【物や品】
アスピラスィオン
クレマチスの壮麗で優美な竪琴。
聖なる石
ホーリロック。
七色に輝く 聖宝石。
加護聖の証。
預言者~ヨブの覚醒。03
【第三章】
〈 生まれ出ずる星、去り行く星。〉
ロイヤル三世、治世暦三年【AB-03】
《王都エマール~オリゾン河流域。》
《《《ドドドドドーーーーン》》》
火柱をを吹き上げながら燃える、エマール王国 艦隊のガロン旗艦。
モクモクと黒煙を
る。
やがて、徐々に間隔が開き、漁船の姿は岬の陰 へ消えて行った。
その様子をオリゾン河を眺望する神像の丘から 目で追う 隻眼の男ガリバーが呟い;た。
『見ちゃいられないねぇ…無敵を誇った王都の 鉄壁、王国艦隊の成れの果ての姿があれとは』
『優れた指揮官を失うと、こうも違うもんか… ぁ…』
隣に立つ細い眼鏡を掛けたグラマラスな女がそ れに答えた。
スリットの入った民族衣装を着る槍術士、カサ ブランカである。
『中々、やるじゃない……あのポンコツ漁船』
『あの大砲の形状は、二重スリット光子砲によ く似ているけれど……』
『まさか漁船に搭載されているとは思えないわ ……』
『もしかすると砲術士が乗っているかもしれな いわね…』
『漁船だと思い侮ると、痛い目に遭うわ…』
近くの神像の足元に寄りかかり、海を眺めてい た、腹の出た頭の薄い大柄男が近付いて来た。
彼の名はポルカ。
国王の命により、門番兵士の役を解かれ、今は カサブランカと共にガリバーの側近となってい た。
民族衣装を着るカサブランカが気に入ったのか 、彼女のところへ近付いて来た。
『お、俺はカサブランカの衣装の方が気になる なぁ。』
(((ビューーーツ)))
カサブランカの槍術の腕が冴え渡る。
ポルカは喉元の手前にある、槍の矛先を手で、 ゆっくりと払った。
それから、金貨の入った袋を取り出しカサブラ ンカの目の前に出した。
(((ジャラ、ジャラ、
『お、俺…金持ちだぞ…欲しいものは何でも買 えるし、俺の妻にならないか?…』
カサブランカは、槍を収めて、眼鏡を外し、ポ ルカの肩に手を置いた。
『世の中、お金も大切だけど、それが全てでは ないということ…覚えておくことね。』
『女だと思って、侮ると痛い目にあうわよ。』
ガリバーは神像の丘の斜面を降りた 。
その様子を目で追うカサブランカとポルカ。
どこから流れ着いたのか、老人が海辺に横たわ っていた。
『じいさん!おい!だいじょーぶか!』
老人を抱き起こし、声を掛けるガリバーにカサ ブランカとポルカの二人が追い付いた。
ポルカが、老人の顔を覗込み言った。
『この、じいさん、どこかでみたことがあるな ぁ?』
カサブランカはオリゾン河の対岸にあった時計 台が、倒壊していることに気が付いた。
老人は周囲の騒がしさに、意識を取り戻し小声 で話し出した。
『わしは、時計台守りのヨブじゃ……』
カサブランカは表情を
んだ。
『あの、めくらめっぽうに、辺り構わず、ライ フル銃を撃つ名物じぃさんだわ!……怖い。』
カサブランカから、いつもの気勢が消えて震え ている。
彼女はポルカの後ろに隠れた。
ポルカがポッリと呟く。
『お、俺 は……あんたの方が、怖い。』
ガリバーはヨブ老人を抱き上げ、神像の丘まで 、連れて行った。
近くに停めてあったカナリア号にヨブ老人を乗 せ、ベットに横にならせ語り掛けた。
『直ぐに、ホーミン医師に診てもらう段取りを するから、安心して寝てな…じぃさん。』
ヨブに、そう告げると操縦席に座り、カサブラ ンカとポルカに出発の合図を送った。
カサブランカがガリバーを見詰めて、ポルカに 呟く。
『ガリバーて…優しいわね、わたし、あんな人 に憧れるわ。』
『俺は……?』
ふて腐れ気味のポルカが路上の小石を蹴った。
ポルカが蹴った小石がカナリア号のデッキから 機内に転がり込む。
そのまま 四人を乗せたカナリア号は白煙を吹き 上げ、急ぎ王城へと向かった。
機内にあるスクリーンに、ロゴス
る荒野の道の映像が写し出された。
ランチェスター民兵軍(多国籍義勇軍)が、
ス帝国の陸戦ドローン部隊と対峙している様子 である。
ランチェスター民兵軍を率いるのは、北風の天 使と謳われたミストラルと山の巨人と敵から恐 れられるモンテニューだった。
『王都の守りは、俺たちに任せてくれ!』
『お前らは、帝国の根城を潰してくれ!』
スクリーンを手で、叩きながら、ガリバーが叫 ぶ。
その時、機内の計器が乱れ始めた。
『何かしら……これ?』
ベットに寝かされているヨブ老人の近くで光る 小石にカサブランカが気付いた。
その石を手で拾い上げ、光に
ホーリーロック
『聖なる
石
その時、聖なる
し輝きだした。
衰弱しきっていたヨブ老人が、木の枝を杖がわ りにして、ムクリと起き出し何やら呟いた。
ポルカがヨブ老人に近づき話しかける。
『じぃさん……寝てなくていいのか?』
ヨブ老人は、ポルカを押し退けて、叫んだ。
『光石、現れし時、聖なる預言者、地に立つ! これ
もろびと
是、
諸人に来る主の裁きを伝えん!』
そう言うと、再びベットに横になった。
四人を乗せたカナリア号は、静かに王城の中庭 に降りた。
ガリバーはカナリア号のハッチを開き三人を降 ろした。
王城へ 歩き出すガリバー。
その後を追って小走りに、後ろからカサブラン カが付いていく。
ポルカが老人ヨブに声を掛けた。
『じいさん……どこへ行く気だ?』
ヨブは、何も告げづに、杖を付いて王都の街へ 姿を消した。
花売り少女~踊り子.ラパン。04
ロイヤル三世、治世暦、四年【AB-04】
《王都、エマール》
王城からセント.ルミナス大聖堂、そしてパレ ス広場まで続く王都で一番の大通り。
クラウンロード 道
またの呼び名を王冠の
押し車に花束を、たくさん積んで歩くひとりの 少女の姿。
彼女の名前は ラパン。
ピンクのスカーフに、花柄のワンピース、頭に
ばら
は赤い
薔薇の飾りが着いた帽子を被っている。
『お花、買ってくださ~い。』
『お母さんが、病気で寝ています…』
『お薬を買うお金がありませ~ん。』
『お願いしま~す。』
服が薄汚れて、靴の先が破れた、みすぼらしい 格好をしている彼女の声に立ち止まる人もなか った。
やがて雨も降りだし人影も、まばらになった。
傘もなく、ひとり、パレス広場の噴水前まで
り着いた彼女。
わず 僅かに残っていたお金で、花束を包むために買 った紙も雨に濡れ、使い物にならなくなってい た。
しゃがみこみ小声で泣くラパ
冷たい雨に震え、
ン。
そこへ白馬車が停まり、執事を連れた一人の紳 士が降りてきた。
彼女に傘を差し掛けなから、紳士が声を掛けた 。
『その花束、ぜんぶ私がもらおう。』
柔らかな優しい気品のある紳士の笑顔に、ラパ ンの表情にも笑顔が戻った。
『伯父様~ありがとうございます♪』
紳士は執事に金貨が入った袋をラパンに手渡す よう促した。
『こんなに!』
ラパンは驚き、深々とお辞儀をした。
『これで、お母さんの、病気を治す薬を買って きなさい。』
『その帰りに、肉と葡萄酒、それにパンも買っ ていくといい。』
『たくさん、お母さんに食べさせて、おやりな さい。』
そう言うと、紳士は傘をラパンに預け、白馬車 へ花束を積んだ。
それから笑顔でラパンに手を振り、雨の街へと 白馬車を走らせ姿を消した。
ラパンが金貨の入った袋を開けると、たくさん のお金に混ざって、七色に光る
いた。
ラパンは、七色に光る石を取り出して、雲間か
かざ
ら見えてきた太陽に
翳す。
すると、目映い光がラパンの体を包みこむ。
『お母さんが、絵本で話してくれた、七色に光
ホーリーロック
だわ!』
石
る
『伯父様……あなたは、もしかして…』
ラパンは、嬉しさの余り、スキップをして、王
クラウンロード
冠の
道 を走った。
『ラパパン、ラパパン、ラパパン、オレー!』
お得意のタンゴのステップ。
近くにいた仔猫が足に、まとわりついて来る。
彼女が踏むステップの調子に合わせて仔猫が跳 び跳ねる。
すると、みるみる、仔猫の数が増えてラパンの 周りを囲んだ。
これを見ていた街の人々は、彼女のことを、踊 り子.ラパンと呼ぶようになった。
ラパンは肉屋に寄って金貨を支払い、牛肉を受 け取った。
肉屋の親父、メタボリックが驚き叫んだ。
『牛も増やして欲しいー!!』 ~ヨブの覚醒。03
アスピラスィオン~竪琴の聖女。04
ロイヤル三世、治世暦、四年【AB-04】
《王都、エマール》
●
美しいハープの音色。
流れるような旋律が、人々の心を癒し慰める。
頭には星が散りばめられたティアラ。
七色の虹を思わせる柔らかな衣が、オリゾン河
なび
から吹いてくる風に
靡く。
透き通るような白い肌に、エメラルドの瞳。
ブロンドの長い髪が、月明かりに
パレス広場の噴水に腰掛け、美しい竪琴の音色 を奏でる彼女のもとへ
どこからともなく、ひとり、またひとりと、心 の癒しを求めて人々が集まって来る。
竪琴の聖女を囲む人々の中に、踊り子ラパンと 隻眼のガリバー、砲術士パピヨンそして白馬車 の紳士
ひげ
さらに長い
髭を蓄えた老師の姿もあった。
『きれいな女の人……まるで天使様』
竪琴の聖女に見とれるラパンの背中に、声を掛 ける一人の紳士。
『アスピラスィオン……竪琴の聖女だよ……お嬢 ちゃん。』
『世の中が、争いに乱れ、人々の心が
、天から使わされる聖女。』
一年に一度の、今日、大輪月の夜に、ここに居 合わせる事ができた人々は幸せだね。』
踊り子ラパンは、後ろを振り向き、紳士に語り 掛けた。
『白馬車の伯父様…』
紳士はラパンに訊ねた。
『ご両親と、一緒に来たのかな?』
ラパンは首を横に振り答えた。
『お父さんは、帝国との戦いに行って行方知れ ず…お母さんは体が弱くて、寝たきりなの』
紳士は、傍らにいる執事にラパンの世話を頼め る人物がいないか訊ねた。
『陛下…それならば、よいお人がおります。』
『戦災で、店を焼かれ、飼っていた牛や豚も海 賊に持っていかれた親父さんが途方に暮れて相 談に来ました。』
『仕事も家族も……この戦争でなくしたと』
紳士は執事のその話しを聞いて、金貨の入った 袋を、肉屋の親父に渡すよう彼に頼んだ。
『肉屋を廃業したのなら、漁船を一隻、やると 、その親父さんに伝えてほしい。』
『オリゾン河は、魚が豊富に獲れるので船があ れば、生活には困らないと思う。』
他人事ではない、この話をとなりで真剣に聞い ていた砲術士のパピヨンと紳士の目が合った。
『砲術士さん。突然で本当に悪いのだが、この 女の子を、肉屋の親父さんのところまで、連れ て行ってくれないだろうか…』
紳士が執事に目配せをして、金貨の入った袋を パピヨンに手渡した。
砲術士のパピヨンは首を縦に振って答えた。
『お安い御用です!』
『よろしくね♪、お嬢ちゃん。』
パピヨンはラパンの手を取り、笑顔で挨拶を交 わした。
踊り子ラパンは、紳士が誰なのか気付き彼の前 に、かしずいた。
『踊り子ラパンが、国王陛下に、
げます。』
噴水を挟んで、反対側に立つ隻眼のガリバーが 竪琴の聖女を見詰めて呟いた。
『よく、似ている……クレマチスに』
その様子を、離れたところから見て、頷く白髪 の老師。
大輪月の夜に集い出会う、加護聖たちの煌き… ………
……………………………………☆☆☆
偵察機、蒼燕~漁船、忍び寄る影。04
ロイヤル三世、治世暦、四年【AB-04】
《王都、エマール》
入道雲が、オリゾン河から ロレンソ湾にかけて モクモクと、雄大に空を覆っている。
夏も盛りとばかりに涼を求めて人々が川遊びに 興じる姿が、あちらこちらに見られる。
しばし、戦禍を忘れさせるような暖かな陽射し が、王都の街を和やかに包み込んでいる。
束の間の、静けさがこんなに貴重な時間なのか と、だれもが心の中で手を合わせる。
そんな或る日……
青い空に、飛行機雲の白い帯を引いて飛ぶ偵察 機の姿にエマールの民が空を見上げる。
ブルースワロー
ロゴス
エンパィヤー
蒼燕 、真理の
言葉
帝国 の指揮官機である。
その蒼燕に目掛けて オリゾン河に停泊する一隻 の大型漁船から大砲が放たれた。
(((ドドーン)))
『親方!』
ブルースワロー
『どうして、
蒼燕 に大砲なんか撃つんです~ ?』
むだ
『玉の
無駄使いは止めましょうよう。』
『敵の直接援護機が空母から来たときのため取 っておきましょうよ……』
砲術士のパピヨンが漁船の船長であるメタボリ ックに助言した。
『親方ではなぁーい!』
『船長と呼べもう、肉屋の親父ではないぞー! 』
ブルースワロー 蒼燕 を指差した。
パピヨンが敵の偵察機、
『あ、船長ー!』
『見てください…今日は、珍しく大当りですよ ー!』
ブルースワロー
『
蒼燕 の左羽根から、黒煙が出てます。』
ブルースワロー
メタボリックは
蒼燕 が飛ぶ空の方に目を凝ら す。
『いや、あれは右羽根だ!』
『パピヨンよ、お前は、そろそろ眼鏡が必要だ な!』
パピヨンは心で叫んだ。
『その言葉、あなたに言いたい…』
メタボリックとパピヨンの間に割って入った少 女ラパンが蒼燕を指差して言った。
『真ん中の、ながーい尾羽根だから、どちらで もないよ。』
ブルースワロー 蒼燕 は、機体のバランスを崩しながらも旋回 を始めた。
ブルースワロー
パピヨンが
蒼燕 を見てメタボリックに叫んだ 。
ブルースワロー 蒼燕 が、こちらに向かって来ます
『大将ー、
よ!』
ブルースワロー
『下手に手を出すから、
蒼燕 も、マジ切れで すー!』
『来たーーー!』
『ドローンミサイルだぁー!!』
『大将じゃない!』
『 船長と呼べ!……何度言 せるんだ…』
『何ー?、ミサイル!!、それを早く言ないか ー!』
メタボリックは慌ててドローンミサイルの方角 を確認してラパンに愛想笑いで手を合わせた。
『ラパンちゃん、例のアレ、頼めるかなぁ~♪ 』
『メタボの、おじちゃん、今夜の夕食は何~? 』
『今夜は、特上の牛肉ステーキだよん♪』
『やったー!、メタボの、おじちゃんの願い、 聞いてあげます~♪』
迫るドローンミサイルに、パピヨンは逃げる態 勢を取った。
『悠長に、夕食の話をしてる場合じゃなぁーい !』
『メタボの親方!、わたしは、命が惜しいので 、お先に河へ飛び込みますー!』
パピヨンの服の袖口を掴んでメタボリックが落 ち着いた声で言った。
『まぁ待て、パピヨンよ。』
『ラパンちゃんが、なぜ、この船に乗っておる のか、今、見せてやるから。』
踊り子、ラパンが甲板の上でタンゴを踊り出す 。
パピヨンは頻りにメタボリックの手を袖口から 離そうと、必死にもがくが離そうとしない。
『わたしは、能天気な、お二人様と天国へは、 行きたくありませーん!』
踊り子ラパンが、手を叩きながら、タンゴのス テップに合わせて歌う。
『ラパパン、ラパパン、ラパパン、オレー!
』
ドローンミサイルは、軌道を見失い、
すると、
クルクルと回り始め、やがて河へと落ちて行っ た。
ダンスを踊り終えたラパンは、メタボリックの 、ところへ走り寄り笑顔で話し掛けた。
『特上ステーキ、はやく、食べたぁーい♪』
腰を抜かして、ペタンとその場に座り込むパピ ヨン。
ブルースワロー
くれない
蒼燕 の窓から漁船を見下ろす
ージュリアンが、その姿に目を止めた。
『伏兵がいる……急ぎ空母へ帰投する!』
メタボリックら三人の頭上を過ぎて
やがて水平線の彼方へ姿を消した。
『船長~、今日は、やけに漁船がたくさん出て ますねー?』
ブルースワロー
パピヨンが
蒼燕 が水平線に消えた辺りを指差 してメタボリックに訊ねた。
メタボリックは額に手を充てて、
ながら、パピヨンが指差す沖合いの辺りに視線 を移した。
『ほんとだなー』
5……まだいそうだな~』
4、
3、
2、
『1、
『オリゾン河は、魚がたくさん捕れるから、ロ レンソからも漁船が入ってきておるのかもしれ んなー』
メタボリックは、漁船の群れを気にすることも なく、エマール岬の港へ帰港した。
…………………………………………………………☆
《オリゾン河、沖合い》
ロゴスエンパィヤー
真理の
言葉帝国巨大空母プロパガンダの艦上に 立つ二つの影。
『お前の秘策、この戦局を打開できるかもしれ んな…話してみよ!』
紅の魔導師ルージュリアンが、腹心となった双 剣のバロンに語りかけた。
『俺は、漁村ロレンソの生まれだから、漁船の 扱いにはなれてます。』
『船底は、かなりスペースがあり、伏兵を忍ば せるには持ってこいですよ!』
ルージュリアンは、遠くの小高い丘に建つ王城 を眺めて、紅杖を指した。
『王城はシールドで防御されておる……』
『我らの得意とする航空戦力では、歯が立たな い……』
べにさそり
『俺が、漁船団に集結させた
紅蠍と
率いて王城に奇襲を仕掛けます!』
ルージュリアンは、含み笑いを浮かべてバロン に指揮護符を手渡した。
『漁船師団の指揮を預ける!』
『存分に暴れてこい!』
『私は、お前に、ここを任せて、デリアサス荒
ランチェスター 多国籍義勇軍と対峙しておられるロゴ
野におる
ス帝王の援軍に向かうとする!』
『大きな戦果を上げた暁には、お前を私の右腕 として将軍に推挙する!』
バロンは、深々と頭を下げて、その後、空母か らボートで漁船に乗り移った。
『今日は、闇夜……奇襲には最適な夜だ。』
『この作戦を成功させて、俺は必ず帝国の将軍 に成り上がる!』
王国艦隊の指揮官を辞任し帝国側に寝返ったガ ロンが甲板の隅から、その様子を見ていた。
後ろから、ポンと彼の肩を叩くルージュリアン 。
『王国艦隊の始末、よくやってくれた!』
『お前の働き大いに評価しているぞ。』
『あの、バロンも、やがてお前と肩を並べる将 軍になるであろう……』
『足下を、すくわれぬように気を付けることだ な。』
『お前と、あのバロン、どちらが先に帝国の支 柱となるか楽しみにしておるぞ。』
『私は、これより荒野デリアサスへ向かう。』
『副官のお前に、空母の指揮を預ける。』
『バロンとの連携を密にして、この戦いを勝利 へと導くのだ!』
カサブランカは、そう言うとクルリと背を向け 、艦橋の中へと姿を消した。
しばらくすると、空母の後部甲板が開き大型長 距離爆撃機ゴルドバロンが姿を現した。
大きな轟音ともに、甲板走り抜ける大鷹の ゴルドバロン 翼 。
北の空へと高々の舞い上がり、やがて雲の中へ と吸い込まれていった。
………………………………………………☆
《エマール王城、宮殿の間》
王座に座る、ロイヤル三世。
左に座る妃のフランソワ。
右に座る国母のソフィア。
三人の王族の前に、召喚された切れ者達の姿が 並ぶ。
隻眼の火の鳥、ガリバー。
ストーム.スピア
のカサブランカ。
槍
蒼天の
疾風の山猫、ローズ.リンメル。
無敵の砲術士、パピヨン.ハート。
元、門番兵士、ポルカ.ホーテ。
ポルカは、王宮詩人ヘンリーが疾走した折りに 、悲しむ国母ソフィアへ綺羅びやなドレスを献 上した。
昔取った杵柄の裁縫の腕を見込まれ今や その功で部屋付き服職人となり、国母の寵愛を 受けていた。
フランソワ妃がロイヤル三世に、小声で耳打ち をした。
『わたくしが、岬へ偵察に出しておりました、 リンメルが陛下に是非とも、緊急にお伝えした いことがあると申しております…』
リンメルに語りかけた。
ロイヤル三世が、
『リンメルよ……申してみよ。』
リンメルは頭を上げて王に応えた。
『お伝えします!』
『岬の沖合いに、多数のシャンソニア漁船が停 泊しております。』
『丘に昇り、水平線の彼方に目を凝らしており ましたら、わずかながら、帝国空母の船影を発 見いたしました!』
そこで、国母ソフィアが口を開いた。
『なんと!』
『ならば、ポルカ、ポルト兄弟に代わる門番兵 士を早く決め、敵の進入に備えねばー』
国母ソフィアは、カサブランカとパピヨンに視 線を向けた。
『槍の女!、そして、鉄砲使いの娘!』
『今日より、門番兵士として、仕えよ!』
カサブランカとパピヨンが顔を合わせて叫んだ 。
『えーー!!!』
『門番兵士て……………………なんで、わたしが』
『大切なお役目です。』
フランソワ妃が、二人に優しく声を掛けた。
『身命を、賭して、お仕えいたします……』
カサブランカとパピヨンは、渋々、答えた。
隻眼のガリバーが、アランドール王子の葬儀で 、ルージュリアンとガロンが密談をしていた件 を話した。
王は、少しの沈黙の後に、ガリバーのもとへ金 の入った箱を側近のマジョロダム持頼みって来 させた。
わが
イージス 盾 となり、帝国の刃を
我国の強い
『これで、
折って欲しい!』
隻眼のガリバーは、深く敬服して、王に答えた 。
『この、ガリバーがいるかぎり、王国の空は、 必ず守ってみせます!』
▲
王都、エマール城、攻防戦~ 荒野の道、ヘ ンリーと巫女の契約。04
《王都、エマール港》
『今夜は、やけに漁船が港に入ってくるねー』
『珍しいことも、あるもんじゃ~』
フランソワの侍女ジューネが、夕食の買い出し に漁港を訪れていた。
魚屋の親父、ドンキー.ハートが魚介類を袋に 入れてジューネに手渡した。
『はい!、5000GOLDだよー!』
ジユーネが、驚いた顔をして叫んだ。
『たかーーーー!!』
オヤジー!ー!』
『このー!、ボッタクリ、
ドンキー.ハートも、驚いた顔でジユーネを見 返した。
『なによー!』
ジユーネは顔を膨らませて怒った。
ドンキー.ハートは首を左右に振って、慌てた 駆け出す仕草を見せた。
『もう!、いいかげんにしてーー!
ジユーネのテンションはマックスに達した。
ドンキー.ハートは、ジユーネの後ろ、港に停 泊している漁船を指差した。
ゆっくりと後ろを振り向くジューネが叫び声を 上げる。
『キャーーーーーーーッ!!!』
さそり
『さ、さ、
蠍ーーー!!』
港は、大混乱に陥った。
べにさそり 紅蠍の群れ。
次々と表れる
ボトムソルダ
その後に続いて現れた、
帝国兵士が無差別に銃 を乱射しながら、パレス広場から王城へ続く王
クラウンロード
冠の
道 を行軍する。
エマールの民は、城へと避難を始めた。
べにさそり
ひときわ、大きな
紅蠍スコーピオン.ハーデス の背中に股がり双剣のバロンが叫ぶ。
『一気に城を攻め落とすぞーー!
『今夜が、シャベリア王家の最後の晩餐だあー ー!!』
王城の門前には、守備隊長の蒼天の
ブランカと無敵の砲術士パピヨン。
『国母ソフィア様も、粋な図らいをなさる!』
『楽しい、遊び場を与えてくれた!』
セオクラ
『
真理郷以来の戦いだーー!!』
ストーム.スピア
カサブランカが蒼天の
槍 を高く翳し叫ぶ。
パピヨンは門の横にある鉄砲塔へと駆け昇る。
最上階の窓から、天から賜ったライフル銃を構 える。
『ドンキーじぃちゃんの、海賊船以来のお仕事
!』
だあーー!
オリゾン河に浮かぶメタボリック号から、砲弾
べにさそり
が
紅蠍目掛けて放たれた。
《《ドドモーーーン》》
王都、エマール城、攻防戦の開戦の
った。
テラ大陸の東西で繰り広げられる、総力戦の幕 開けである。
ロイヤル三世、治世暦四年【AB-04】
《荒野の道、デリアサス》
暗黒山の麓、真理郷セオクラから荒野の道へと 伸びる馬車道。
三頭立ての黒い馬車が砂煙を、巻き上げながら 走り抜ける。
『姉上、そろそろ荒野の道へ入ります。』
馬を操るシャーマンのラビが、後ろの座席に乗 る月読みの巫女に声を掛けた。
『ラビよ……時を操る術を持つ、お前なら クオンタムリープ 大跳躍 でシヤンソニアの都までひとつ飛びで あろう。』
『なぜ、術を使わぬ…何か思惑でもあるのか? 』
(((ヒヒヒーン)))
ラビが、手綱を引いて馬車を止めた。
『姉上、荒野の方をご覧ください。中々、面白 いものが見えます。』
ラビの声に、黒いカーテンを開けて四角い窓か ら、外を覗く巫女。
ランチェスター
『ほう……
多国籍義勇軍がドローン陸戦部隊と 対峙しておるのう。』
ラビは手に持っていた鞭棒で、義勇軍の 方を指 した。
『山の巨人、モンテニューが先頭におり、
の天使も中天を舞っております。』
ランチェスター
『これは、
多国籍軍の方に勝ち目がありそうで すね、姉上。』
巫女は、帝国陸戦部隊の更に後方に視線を移し た。
『いや……そうとも言えぬぞ。』
『ラビよ、ドローンの後方を見てみよ。』
ラビが巫女の視線の先を見ると、高い塔が地響 きを発てながら荒野の入り口にある峡谷の間か ら姿を現した。
『ロゴスの塔!』
『ついに、帝国側の本隊がお出ましという訳で すね、姉上。』
巫女は横に座っている美少年、王宮詩人のヘン リーから、魔剣サザンクロスを受け取った。
『よく、やってくれた。』
巫女は含み笑いをしてヘンリーに言った。
『魔剣サザンクロスが再び、魔物を解き放つ時 を待っておるぞ…』
『シャンソニアのドンデン王…あの男の、腹は 既に読めておる、エマールの先王ガリウスへの 恨みは、まだ消えぬようだのう。』
『妃、マナトリア.サフランとガリウスの間に 生まれたクレマチスを僻地へ送るとは…なんと 心の狭いことであろうか…』
『マナトリア王朝を滅ぼしても、まだ飽きたら ぬとみえる。』
巫女はヘンリーの頭を撫でながら呟いた。
『子どもに、罪はなかろうにのう、ヘンリーよ 。』
『まぁよい……この話はこのへんにしておこう 。』
『ヘンリーよ、お前の良き働きに、褒美を取ら せよう。』
とこしえびと
『月読みの血をひく、
永遠人とし、絶えること のない魂の舟へ乗ることを許そう。』
『闇教典に、書き記す。』
『荒野の道、デリアサスの戦い、後世に語り継 がれる逸話となろう。』
ヘンリー少年は、巫女の言葉を馬車の窓から遠 くを見ながら聞いていた。
『しばらく、この戦を見た後、シヤンソニアへ 向かうことにいたそう…』
ラビは巫女の言葉に頷き馬車を停めた。
『姉上、わたくしは、退屈しのぎに少し遊んで 参ります。』
巫女がラビに視線を移し訊ねた。
『何をする気だ……』
ラビは、微かに笑って答えた。
『時を操るのでございます……』
『………………………………』
ランチェスター
ひとりの杖を付く老人が
多国籍軍と、帝国陸戦 部隊の間に立ち叫んでいる。
『神の裁きは近い!、滅びよ!、魔王の輩よ』
『預言者……』
ヘンリーは、戦いの行く末を馬車の窓越しに見 ていた。
▲
デリアサス&王城の戦い。モンテニュー .落 星. バロンの最後04
ロイヤル三世、治世暦、四年【AB-04】
《荒野、デリアサス》
(((ドドーーン……ドドドーーン)))
峡谷に止まったロゴスの塔から、間断なく打ち 出される遠距離ミサイルの嵐。
くじ
ポルト速射砲隊は、出鼻を
挫かれた。
陣形が乱れ混乱するポルトの部隊。
落ち着きを失い動転するポルト隊長。
シャンソニアの王、ドンデンから出征に際し預
かざ
かったエメダリオンの剣を
翳す。
『う、撃て!!』
ババババババーーーー
キュンキユン------
薬莢が飛び散り、火焔の臭いが辺りを包み込む 。
べにさそり
陸戦ドローン部隊……通称、
紅蠍が赤い胴体を くねらせながら近付いて来る。
『この距離からでは、敵は岩影に隠れて捕捉で きない!』
『もう少し、引き付けてから攻撃を!』
戦場に不馴れなポルトに、北風の天使ミストラ ルが空から援護の言葉を掛けた。
迫り来るドローン紅蠍に、正気を失っているポ ルト。
彼の耳にミストラルの声は届かなかった。
再び、エメダリオンの剣を翳すポルト隊長。
『撃て!、撃て!』
ババババババーーー
キュンキユン-----
ミストラルの親衛隊長ドンキー.ハートがポル トに近付き叫ぶ。
『指揮官殿、弾薬が切れるとの連絡が!』
ポルトは急ぎ、補給部隊への伝令を頼んだ。
走りに走った伝令兵士が、補強部隊のシャーマ ンに伝令を告げた。
『お坊さん!、早く、補給を!』
シャーマンが伝令兵士に語りかけた。
『ポルト指揮官殿は、前に出過ぎております。 』
『隊を下げるようお伝えください……』
シャーマンは、穏やかな笑いで答えた。
補給部隊は、更に後方に下がった。
動く気配を見せないシャーマン補給部隊に苛立 つポルト隊長。
視線を後方に移しながら叫ぶ。
う、撃てーー!』
『う、
ババババババーーー
キュンキユン------
カチッカチッ---
『弾薬が切れました!』
『指揮官殿!』
伝令兵士が叫ぶ。
ポルト部隊は速射砲を、その場に残したまま、 逃走を始めた。
(((ドドドーーン……ドドドーーン)))
ロゴスの塔から、撃ち放たれたミサイルが容赦 なくポルト部隊を粉砕する。
ポルトはエメダリオンの剣を放り投げて叫ぶ。
『て、て、撤退せよーー!!』
塔の上から、この様子を伺う紅の魔導師ルージ ュリアン。
右手を横に振り、ミサイル砲撃を止めた。
岩影で見え隠れしていたドローン紅蠍 の一団が、ポルト部隊に追撃を開始した。
ポルト部隊の壊滅を防ごうと、巨人モンテニュ ーと彼の迫兵士隊がドローン紅蠍の前を遮る。
強者揃いの迫兵士隊とモンテニューは紅蠍の一 団へ突撃を敢行した。
(((ガガガガーーン)))
『鉄屑どもめー!!』
『面倒だ、お前たち、束になって、かかってこ い!!』
モンテニューの怪力が、ドローン紅蠍を粉々に 砕く。
荒野の入り口、峡谷で止まっているロゴスの塔 。
不気味な笑いを浮かべ塔の上に立つ紅の魔導師 。
彼女を睨み付けるモンテニューが叫ぶ。
『ルージュリアン、そこで待っていろ!』
『今から俺様がお前を地獄に連れて行ってやる !』
高笑いをする紅の魔導師ルージュリアン。
『さて……地獄を見るのはどちらかな?』
撤退を始めるドローン紅蠍。
『逃がさんぞーー!!』
空の上から、この様子を伺うミストラル。
ポルト隊長が投げ捨てたエメダリオンの剣を拾
ドンキー.ハート。
うミストラルの親衛隊長、
彼は近くに舞い降りたミストラルへ剣を手渡し た。
『指揮をお取りください!』
『光の聖剣、エメダリオン…この世に存在する 至高の剣のひとつ』
『これがあれば、ロゴスに勝てるかやもしれん ……』
『真の持ち主が現れるまで、私が預かることに しょう。』
親衛隊長のドンキーがミストラルに訊ねた。
『その、真の持ち主というお方は、どこにおら れるのですか?』
ミストラルは、ドンキーを見て答えた。
『今はまだ姿を現していない。』
『時期が来れば自ずと分かるであろう……』
『幸い、魔剣サザンクロスは今、エマール国王 様の手元にある。』
『闇と光の剣、決して矛を交えてはならぬもの …』
親衛隊長ドンキーが小声で呟いた。
『 聞いたことがあります。二つの剣、サザンク ロスとエメダリオンが交わるなら空となると… …この世の終わりだとか。』
『わしには何の事やら、サッパリ分かりません が……』
北風の天使ミストラルは、エメダリオンの剣を 帯び、再び中天に舞い上がりロゴスの塔を目指 した。
大きく翼を拡げた、北風の天使が巻き起こす天 性の技が光る。
《《《ビユユユユーーーーーー》》》
敗走するドローン紅蠍の背後の上空から、凄ま じい強風を吹かせる ミストラル。
紅蠍は強い風に煽られ岩にぶっかり砕け散る
またあるものは、立ち上る竜巻に吸い込まれて 、互いにに衝突し鉄の欠片と化した。
手を挙げて、ミルトラルの援護に応える巨人モ ンテニュー
彼の顔に勝利を確信した笑顔が覗く。
空の上からこの光景を見たミストラルは余りに も、弱い紅蠍の戦いぶりに不安を覚え眉をひそ めた。
撤退するドローン紅蠍の一団に、勢いに乗った 巨人モンテニューが追撃を掛ける。
峡谷へと、逃げ込むドローン紅蠍。
《《《ドドドドドドド……》》》
その時、地中から巨大な紅蠍が現れた。
『見よ!、我らの科学力の粋を!!』
クオンタムリープ
紅の魔導師が、
大跳躍 により召喚した、スコ ーピオン.ハーデスの異様な姿。
モンテニューは空中を旋回するミストラルに連 携攻撃の合図を送る。
巨人モンテニューが高々と掲げる鉄槌、
ハンマーが光を放つ。
ミストラルはモンテニューの背後から彼の両脇
つか 掴み、ハーデススコーピオンの真上まで運ぶ
を
。
はさみ 鋏を構えモンテニューの行方を目で追うハーデ ススコーピオン。
『今だ!!』
ハーデススコーピオンの背中を取った、ミスト ラルがモンテニューを放した。
モンテニューのゴッドハンマーが激しくハーデ ススコーピオンの鋏を打ち砕く。
《《《ガガガガガガガーーーーン》》》
倒れ込むモンテニューの首に、もう一方のの鋏 が食い付いた。
『しめた!』
『モンテニューよ!、地獄を見よ!
てのひら 掌 を叩く紅の魔導師。
よじ
モンテニューは、体を
捩らせてゴッドハンマー
ね
をハーデススコーピオンの鋏に
捩じ込んだ。
巨人モンテニューと、ハーデススコーピオンの 力比べである。
徐々に間隔が開く大きな鋏。
『終わりだーー!!』
《《《ガガガガガガガーーーーン》》》
モンテニューの怪力がハーデススコーピオンの 鋏を粉々に引き裂いた。
鋏を失い、戦意喪失したハーデススコーピオン が逃走を始めた。
『逃がさんぞーー!!、蠍の化け物!
勝利を確信した巨人モンテニューの凱歌の声。
ミストラルは、モンテニュー頭上を急旋回し叫 んだ。
『罠だ!』
『モンテニュー!』
『下がれーー!!』
ハーデススコーピオンを、追って峡谷の入り口 まで辿り着いたモンテニューが、その声に空を 見上げた。
ドドドドドドドド……
ドドドドドドド……
その時、モンテニューの足下が大きく揺れ動き …………
かんぼつ 陥没した。
大穴が口を開き、モンテニューを呑み込んでゆ く。
『ウァアーーーーツ!!』
叫び声と、ともに、モンテニューの姿は漆黒の 穴の中へ落ちて行った。
紅の魔導師ルージュリアンが中天を旋回するミ ストラルに視線を移し笑う。
彼女の背後から、姿を見せるロゴス帝王。
紅の魔導師がロゴスに声を掛けた。
『帝王様……最後の仕上げをなさいませ。』
帝王ロゴスは、ミストラルを睨み、その後、モ ンテニューが落ちて行った大きな穴を指差した 。
『北風の天使よ!』
あがな
『我に、
抗いし者の結末を見よ!』
帝王ロゴスが右手を高く翳した。
『ドローン.ストライク!!』
ロゴスの塔の頂上に据えられた、大龍の口から 巨大な炎の玉が現れた。
きょだいえんぎょく 巨大炎玉は炎の 尾を引きながら空高く昇り、再び下降を始めた 。
その後、モンテニューが落ちた穴へ向かい、大 音響ともに、爆発した。
《《《《ゴゴゴゴオオオーーーン》》》
眩い閃光と轟音が辺りを包み込んだ。
穴の中から煌めく、ひとつの、小さな星が飛び 出した。
ホリーロック
聖なる
石 が新たな主を求めて空へと吸い込 まれて行った。
紅の魔導師がミストラルに叫ぶ。
『勝敗は決した!』
『北風の天使よ!』
『我らに降れ!!』
預言者ヨブが、高いロゴスの塔の上に立たされ ていた。
塔の淵に足を乗せられ、両手を後ろに縛られた 姿。
預言者ヨブが叫ぶ。
『魔王、ロゴスよ!』
『救世主の裁きを受けよ!』
『救世主の聖なる剣、エメダリオンが、必ずや 、汝の胸を貫かんーーー!!』
紅の 魔導師の合図と共に、預言者ヨブが塔の上 から落とされた。
(((ウァアーーーーツ!!)))
叫び声と、ともに落ちてゆくヨブ。
塔の上から落ちてゆくヨブを、ミストラルは、 空を急旋回し翼に勢いをつけ救い上げ地上へ降 ろした。
『おお!北風の如し、天使よ!』
ランチェスター 多国籍軍兵士の間からも驚きの声が上がる。
ミストラルは塔の上に立つ帝王ロゴスと、紅の 魔導師を、見上げて叫んだ。
けんどちょうらい
『
捲土重来!!』
『再び、この地に戻り、受けし雪辱、必ず
ん!』
ランチェスター
その後、ミストラルと
多国籍軍兵士、そして預 者者ヨブの姿はデリアサスの戦場から姿を消し ていた。
デリアサスの戦いは一応の終結を向かえたよう に思われた。
しかし、この後に起きる出来事は、テラ大陸の 行く末を大きく変えるものとなった。
歴史に刻まれた大きな転換点、ターニングポイ ントは、ミストラルの名を全土に轟かせること となった。
………………………………………………………………☆
エマール王城
城の塔。
『カサブランカおねさーーーーん!
パピヨンは悲痛な声と共に、迫り来る
の中へ、入れまじと塔門を閉めた。
べにさそり
塔門に、打撃を与え壊そうと
紅蠍が頻りに門を 叩く。
次第に、蝶番が打撃により緩んでゆく。
その時、なぜか、パタリと塔門を叩く音が消え た。
パピヨンは不審に思ったが、当面の危機は過ぎ たと思い、ガリバーとリンメルが守る王室の間 へと急いだ。
塔の外では、長いロープに爪の着いた金具を塔 の窓、目掛けてバロンが投げた。
バロンはロープに捕まり、塔をよじ登り 、やがて窓の中へと入って行った。
べにさそり 紅蠍の姿はなく、城の庭は静まり返っていた。
クラウンロード
をステップ
道
城の門から港まで続く王冠の
で小走りする少女。
踊り子ラバンの姿。
その後を跳び跳ねながら、次々と続く
列。
べにさそり
ラバンが放つ特別な高周波パルスに
紅蠍はコン トロールされ、もといた漁船へと戻ってゆく。
塔の上からバロンがラパンに着いて行く
見て呟いた。
『魔導師が、言っていた伏兵とは、あの小娘だ ったか……』
『俺としたことが、足元を、すくわれた……』
さそり
『それにしても、使えねー
蠍だぜ!』
ボトムソルダ
塔の中に侵入していた
帝国兵士の一団が下に見 える広間で隻眼のガリバーと剣を交えていた。
かキーン
かキーン
スロープの階段を滑り台がわりにして、素早く 広間へ降りたバロン。
『よお!ガリバー、久し振りだなー!』
そのバロンの声に、反対側の階段上にいたパピ ヨンが叫ぶ。
『クレマチス姫とカサブランカねーさんの命を
!』
返してーーー!
リンメルは王と妃、そして国母をかばい守りな がら地下通路へ向かう。
ガリバーがパピヨンと国王を見て訊ねた。
『クレマチスが……どうした……』
………………………………
しばらくの、沈黙の後、バロンが口を開いた。
『おゃ?、お前、知らなかったのか……』
『クレマチスはロレンソの離宮の窓から身を投 じて自殺した。』
その言葉にパピヨンがさけぶ。
『ちがう!』
『わたし、こいつの銀翼機が離宮に降りて行く のを見たよ!』
『そのあと、クレマチス姫は、窓から、こいつ に海に落とされた!』
ガリバーは国王の方を向いて訊ねた。
『陛下!、後で話があると言ったのは、このこ と……』
ロイヤル三世は、頷き答えた。
『すまなかった………クレマチスの姉、妃の手前 もあり、またお前の心境も察して話すのが遅れ たのだ。』
国王の隣で溢れる涙を拭くクレマチスの姉、フ ランソワ妃の姿。
その後、リンメルが王族を地下通路へと導いた 。
パピヨンが階段上からバロンの銀の胸当てに向 けて発砲した。
『クレマチス姫とカサブランカおねさんの仇! !』
バキューーーーーン
バキューーーーーン
バキューーーーーン
カチカチカチ……
バロンが階段上のパピヨンを見上げて笑う。
『おや?、天才砲術士も玉切れでは、役にたた ないな!』
ガリバーの眼光が、怒りに満ちて燃え盛る。
『パピヨン!』
『こいつは、俺が殺る!!』
『クレマチスとカサブランカの弔いをさせても らうぞーーー!!』
パピヨンが王室から、一振りの剣を、持ち出し ガリバーに投げる。
『ガリバー!』
『受けとつてーー!!』
ガリバーはパピヨンが投げた剣を受け止めた。
『これはー!!』
『サザンクロス!!』
『失われたと聞いていたが……』
パピヨンが、叫ぶ。
『サザンだか、散々だか知らないけどー早くア イツをやっつけてーー!!』
ガリバーはサザンクロスの束に手を掛けた。
バロンは蒼剣とカサブランカから奪った蒼天の 槍を持ち構えた。
バロンが先に足を踏み出し蒼剣をガリバー目掛 けて振り下ろした。
ガリバーは、サザンクロスを抜き放ちこれを受 け止めた。
《,《カキーーーーン》》
すかさず、バロンは蒼天の槍をガリバーの顔目 掛けて突き出した。
《《ビユーーーーーツ》》
蒼天の槍は、ガリバーの片目を覆う眼帯をかす めてた。
ガリバーの額から血が流れ落ちる。
『流石は勇者の槍だー!『】
『手によくなじむぜ!』
流れ出る血に、視界を奪われ、よろめくガリバ ー。
『へへ……返り討ちにしてくる!』
『覚悟しろ!ガリバー!』
『天国とやらで、クレマチスと仲良く暮らすん だなー!』
バロンは蒼剣を投げ捨て蒼天の槍を構え留めの 姿勢を取った。
その時、ガリバー体が徐々に宙に浮いて背中に 黒い大きな翼が現れた。
ガリバーの容姿は、伝説上の闇騎士へと変化し ていった。
『こ、これは!』
『魔王、デ……デニモス!』
闇騎士が持つ魔剣サザンクロスの周りか漆黒の 闇が現れた。
バロンは、後退りして、蒼天の槍を黒騎士、
掛けて投げた。
(《ビユーーーーーツ》》
黒騎士はサザンクロスを高く翳す。
蒼天の槍はサザンクロス周囲に広がる闇の中へ と消えた。
慌てて投げ捨てた蒼剣を拾いに走るバロン。
闇の中から、ボンヤリとクレマチスとカサブラ ンカの姿が浮かび上がる。
カサブランカの手には蒼天の槍が握られていた 。
クレマチスの竪琴音色が王の広間に響く。
ポロロン
ボロロン
バロンは蒼剣の手前で体が凍りつく。
ストーム..スピア
その背中に、カサブランカの蒼天の
翔ぶ。
《《ビユーーーーーツ》》
《『ぎゃーーーーーっ!!》》
ストーム.スピア
投げられた蒼天の
槍 がバロンの背中から前 に貫通して扉に突き刺さった。
バロンは扉に掴まり、そのまま息絶えた。
王国を苦しめた、双剣のバロンの最後であった 。
黒騎士は、サザンクロスを鞘に収めた。
すると闇は静かに晴れて、また天窓から射す太 陽の光が戻ってきた。
既に、黒騎士の姿はなく、ガリバーが
んでいた。
ガリバーとパピヨン、そしてリンメルの強き勇 者は帝国の攻城策を見事、退けた。
庭に出ると、国王と妃、そして国母、護衛のリ ンメルの四人がガリバーとパピヨンを待ってい た。
ガリバーは魔剣サザンクロスを王に返した。
港に見える敵の漁船団は伏兵ドンキー.ハート の義賊船と、ラパン&メタボリック漁船に、散 々追い立てられ水平線へと消えた。
王都エマールに、再び、静けさが戻った。
王城の庭の片隅に立て掛けられた蒼天の ストーム.スピア 槍
ひとつの時代の終わりを告げていた。
帝王ロゴスの座は黒子爵から離れる。04
ロイヤル三世、治世暦、四年【AB-04】
《荒野の道、デリアサス》
ランチェスター 多国籍軍隊の死闘が繰り広げられ
ロゴス帝国と
た、荒野の道。
ここ、デリアサスは、煌々と満月が光を増して 輝き渡り辺りを照している。
嘘のように静まり返る荒野に勝利を誇るかのよ
そび
うに、巨大なロゴスの塔が
聳えている。
2頭立ての金の装飾が施された馬車がロゴスの 塔の前で止まった。
塔の最上部にある空中庭園から、馬車に視線を 送る紅の魔導師。
『来ました…帝王様』
ロゴスは、ゆっくりと王座に腰かけルージュリ アンに視線を送り呟いた。
『使者は誰だ…』
『シャンソニアからの使者はドンデン王の妃、 サフランと聞いております。』
『どんな、話しを持ち出すか楽しみでございま す…』
『出迎えにいって参ります。』
ルージュリアンは、円盤状の空中エスカレータ ーで馬車のところまで降りて行った。
サフラン妃と侍女、そして竪琴を持つ付き人の 三人が出迎えを待ち立っていた。
ルージュリアンは、いつになく丁寧な言葉でサ フラン妃に挨拶をし空中エスカレーターへと、 彼女をエスコートした。
『サフラン妃、こちらへ…』
ルージュリアンの言葉に促され、サフラン妃と 彼女の侍女、そして竪琴を持つ付き人がエスカ レーターへと進んだ。
エスカレーターは、次第にスピードを上げ、ロ ゴスの塔を昇ってゆく。
四人を乗せたエスカレーターは最上部の庭園へ と着いた。
サフラン妃は、帝王ロゴスの王座へと歩み寄り 、少し距離を置いて立ち止まった。
サフラン妃の後ろに寄り添うように並ぶ侍女と 付き人。
サフラン妃が、先に口を開いた。
『帝王様、丁寧なお出迎えに、まずお礼を申し 上げます。』
『今宵、お訪ねしたのは、わたくしの夫、シャ ンソニアの王、ドンデンよりの停戦交渉のため でございます。』
『ドンデン王が、申すには、領地のロレンソを 割譲し、さらにエマール王国との同盟を破棄す る言っております。』
『停戦が成った暁には、緑葉の城で祝宴を挙げ たいとも、申しております。』
『ドンデン王が申すには停戦の期間は六年と定 め、その後、折を見て終戦協定をと考えており ます。』
『帝国ロゴス様のお返答を、頂きたく存じます 。』
策士のルージュリアンが、帝王ロゴスの耳許で
ささや
小声で
囁いた。
『願ってもない、申し出です。』
『ご承諾を…』
『我軍は、戦力を温存したままで、エマール王 都の鼻先にあるロレンソへ前哨基地を築けます 。』
『しかも、シャンソニアとエマールの同盟が切 れたとなると、もはやエマールの都は裸も同然 でございます。』
『六年の間に、間断無く、エマール王都へ波状 攻撃を仕掛けるなら、次第に戦力が削られ、や がて、力尽き降伏してくることでしょう。』
帝王ロゴスが口を開いた。
『サフラン妃よ、遠路ご苦労であった。』
『ドンデン王に、停戦条件を受諾すると伝えよ !』
サフラン妃は深々と頭を垂れて大役を果たした 。
あんど
その後、
安堵のため息をひとつ吐き付き、付き 人に目配せをした。。。
それを横目で見ていた付き人は(おもむろ)に持 っていた竪琴を侍女へ手渡した。
『帝王様……停戦の祝いに、ここにおります竪 琴の名手が音楽をご披露いたします。』
帝王ロゴスが竪琴の奏者に名を訊ねた。
『乙女よ……名は何と申す。』
『アスピラスィオンと申します。』
侍女はローブを取り、近くの椅子に腰かけ、竪 琴を奏でた。
ポロロン……ポロロン♪
なび
ブロンドの髪が風に
靡き、柔らかな衣に織り込 まれた銀の糸が月明かりに輝きを放っていた。
『美しい音色だ……どこか、懐かしい。』
ロゴスは、しばらくアスピラスィオンの竪琴の 音色に耳を傾けていた。
演奏が終わり、侍女は竪琴を仕舞いサフラン妃 の後ろへ下がった。
『侍従よ。例の物を帝王様へお持ちせよ。』
サフラン妃は、帝王ロゴスへの献上品を差し出 すよう付き人に促した。
うやうや
付き人は歩み出て、
恭 しく献上品の包みを開 き、エメダリオンの剣を帝王ロゴスの目の前に 掲げた。
眉をひそめ、帝王ロゴスの近くに歩み寄るルー ジュリアン。
『これは……聖剣、エメダリオン。』
『これを、我にくれると申すか。』
帝王ロゴスが聖剣エメダリオンへ手を伸ばした 瞬間、付き人が着ていたローブを脱ぎ捨て叫ん だ。
『魔王!ロゴスよ!』
しずく
『聖剣、エメダリオンの
滴と消えよ!!』
付き人は、聖剣エメダリオンを抜き放ち、帝王 ロゴスの胸元を深々と突き刺した。
!》》》
《《《グワァァァ ーツ!
悲鳴を上げて、前のめりに倒れ込むロゴス。
聖 剣エメダリオンはロゴスの胸元から背中へと 貫通した。
ロゴスは聖剣エメダリオンの束に手をやり、苦 しい声で付き人の顔を見て言った。
『北風の天使、ミストラルよ……』
『お前の、策、敵ながら見事なり!』
塔の上から聖剣エメダリオンを刺したまま、ミ ストラルとロゴスが重なるように落ちていった 。
我目を疑いながら沈黙し、その場に立ち竦むル ージュリアンの顔が蒼白へと変化していった。
(((ロゴス様ーーー!!)))
彼女は大きな叫び声を上げ、慌てて帝王ロゴス が落ちていった辺りへと駆け出した。
うろた
事の重大さに、動揺し
狼狽えるサフラン妃をア スピラスィオンが手を引き、乗つて来た馬車で シャンソニアの都へ急ぎ帰って行った。
《《ワウン……ワウン》》
ロゴスの塔に緊急サイレンが鳴り響く。
続々とドローンの群れが塔の下へと出てきた。
塔の下で、息絶え絶えの帝王ロゴスに、寄りそ うルージュリアン。
既に 胸元に刺されていた聖剣エメダリオンもミ ストラルの姿も消えていた。
傍らには白い右翼が落ちていた。
ルージュリアンが、翼を握りしめ叫ぶ。
『奴は、飛べぬ!』
『まだ、近くにいるはずだ!』
捜索ドローンと戦闘ドローンが長い列をなし、 塔の周りを、くまなく走り出す。
怒り心頭に達したルージュリアンが叫ぶ。
!』
『必ず捕まえて、八つ裂きにしてくれる!
荒野デリアサスに響き渡るルージュリアンの声 。
遠くの方で、黒馬車を停めて様子を伺っていた 月読みの巫女。
シャーマンのラビに語り掛けた。
『何やら慌ただしい……動きがあったようだな 。』
『ラビよ、シャンソニアの城へ急ぐぞ。』
シャーマンのラビが馬に鞭を入れて走り出した 。
月読みの巫女がデリアサスの戦いに気をを取ら れる隙に詩人ヘンリーの姿が消えていた。
巫女は隣にいたはずのヘンリーがいないことに 気が付いた。
『ラビよ、ヘンリーはどこぞへ行ったのであろ うか?』
シャーマンのラビが姉のみこに答えた。
『わたくしは、存じません。』
『たぶん、詩人だけに、またフラッと旅にでも 出たのでは…』
月明かりの中、ロゴスの塔を目指す美少年、詩 人ヘンリー。
『誰かが、呼んでいる…帝王の座に着けと……
新しきロゴス帝王、ヘンリー戴冠。04
ロイヤル三世、治世暦、四年【AB-04】
《荒野、デリアサス》
荒野デリアサスを吹き
すなぼこり 砂埃を巻き上げ通りすぎる。
を発てて
煌々(こうこう)とした月明かりに照らされ峡谷
そび
に
聳え立つロゴスの塔。
紅の魔導師ルージュリアンの瞳から涙が
ちる。
『このようなところで、
これも運命であろう。』
息絶え絶えの帝王ロゴスの声に耳を傾けるルー ジュリアン。
『あなた様が亡くなられた後、私はどうすれば よいのか…』
『最後の、お言葉を頂きたい…』
こうべ
ロゴスの
頭を、膝の上に載せて
その姿は、紅の魔導師としてではなく、一人の 男、ロィヤを愛した女の影だった。
ロィヤは、帝王の証である被り物を外し彼女に 手渡した。
青と赤の星が並び光を放つ天上の宝石.アルビ レオ王冠を受けとるルージュリアン。
われ
『もう、
我の、後を継ぐ者がお前の後ろにおる ……』
『父上様……母上様……』
少年の声に後ろを振り向くルージュリアン。
『ヘンリーが、お招きにより、参りました。』
ヘンリーは、父であるロィヤの元へ歩み寄り膝 まづく。
『母より、王冠を受けよ……』
ルージュリアンはヘンリーを抱き寄せ頭に王冠 を載せた。
『まだ、幼いお前が帝王の座に相応しい主とな るまで、この母が導く』
強大な権勢を誇った帝王ロゴスこと、ロィヤ黒 子爵。
妻ルージュリアンと嫡子ヘンリーに見守られな がら、その生涯の幕を引いた。
ルージュリアンとヘンリーが息を引き取ったロ ィヤをロゴスの塔へ運び入れる。
アルカディア
『
理想郷へ』
ルージュリアンの声にロゴスの塔が静かに動き だす。
ハーデス.レクイエム
、この地へ再び戻る日』
峡谷
『死の
『その日、お前が、この大陸における真の支配 者となる時ぞ!』
母のルージュリアンを、見上げて
リー。
ヘンリーの視線は、遠くの地平線へ向けられて いた。
すなぼこり 砂埃を上げて走る金の装飾が施された
地平線を
三頭立ての馬車。
手綱を捕るアスビラスィオンが、不安げに後ろ に気を配る。
『かなり、傷を負っているようです。』
サフラン妃が、片方の翼を失ったミストラルの 背中に優しく布を充てた。
ミストラルを気遣い、荒野の道を静かに走る金 馬車を黒馬車が追い越して行く。
四角い黒馬車の窓から月読みの巫女が金馬車に 乗るサフラン妃に視線を送り通り過ぎた。
金馬車は荒野の道を外れて、傍らにある岩壁へ と姿を消した。
『洞窟?』
月読みの巫女が、ポッリと呟く。
シャーマンのラビが手綱を引き姉の巫女に伺い をたてた。
『姉上、馬頭を洞窟へ向けますか?』
『いゃ…このまま、月夜を楽しみながらシャン ソニアの城門を目指そう。』
『今宵は、何やら胸騒ぎがしてなるぬ……』
金馬車と黒馬車は、其々(それぞれ)の運命を乗 せて各々(おのおの)の道を進んで行った。
荒野デリアサスは、何事もなかったかのように 静まり返っていた。
空(パラドス)の箱は巫女の手に渡る。04
ロイヤル三世、治世暦、四年【AB-04】
《シャンソニア領.マナトリア街道》
シャンソニアの連山から昇る暁の太陽が眩しく 石畳のマナトリア街道を照らしている。
きし
車輪を
軋ませながら走る黒馬車。
四角い窓から見る景色は、いつの間にか、荒野 から森林へと変化していた。
(((ヒヒヒヒーーーーン)))
シャーマンのラビが手綱を引き、馬車を
の門前で停めた。
『姉上、着きましたよ。』
月読みの巫女は、魔剣サザンクロスを手に持ち 、馬車を降りた。
『ラビよ、先を急ぐならば、行くがよい。』
『わたしは、ここで少し滞在してゆくつもりだ …』
しばしのお別れでございます。』
『姉上、
そう言って シャーマンのラビは巫女に手を振り 、馬に鞭を入れて馬車を走らせた。
ラビを見送った巫女は、門前に立ち魔剣サザン クロスを持つ手を高く
朝日に光る剣の輝きに気が付いた門番兵士が、 急ぎ大臣のコマターニャへ、知らせの伝令に走 った。
『大臣!、門前に、月読みの巫女が来ておりま す。』
コマターニャ大臣は、知らせを聞くと直ちに、 王座の間へ駆け出した。
『こまったーにゃ!……こまったーにゃ!』
慌てた様子で入って来た大臣の姿に王座に座る ドンデン王が声を掛けた。
『どうしたのじや。何をそう、慌てておるのじ ゃ…』
大臣は弾んだ息を静めて、
。
『王様、月読みの巫女が門前に来ております。 』
『我らの同盟破棄の
に漏れたのではありますまいか!』
うろた 狼狽えるコマターニャ大臣は、
線を送るドンデン王に気付き、ゆっくりと振り 向いた。
『ドンデン王様、お久し振りで、
』
王座の間に立つ月読みの巫女に驚く大臣。
『いつの間に、来ておったのじゃ!』
月読みの巫女は、大臣を横目で
進み出た。
かね
『
予てより、王様が、欲しがっておられた品を お持ちしましたぞ。』
『国主の剣、サザンクロスにございます]
『お約束通り、
たします。』
ドンデン王は、顔をしかめて、呟いた。
『サザンクロスは、喉から手が出るほど、欲し いが、なにぶん、
はない。』
『あれは、妃が、このシャンソニアへ嫁いだ折 りに、持参したもの。』
『亡国、マナトリア王朝から引き継がれた宝物 と聞いておる。』
月読みの巫女は王座の後ろにある朱色のカーテ ンの影に気配を感じていた。
『ドンデン王様、今が正に、好機でございます ぞ。』
『このサザンクロスは、テラ大陸の長の証でご ざいます。』
『属領の縛りを解き放ち、あなた様が新たな大 陸の皇帝を名乗る時にございます。』
『エマール王国は、もとより、ロゴス帝国も、 荒野デリアサスの戦いで疲弊し守りに入ってお ります。』
『あなた様の、軍隊は高い科学兵器を備え、ま た兵士も無傷にて温存されておられるとのこと 。』
『今こそ、ドンデン王様が皇帝として台頭する 時代にございます!』
『漁夫の利を逃してはなりませぬ!』
朱色のカーテンに視線を移しドンデン王が震え る声で呟いた。
『妃よ、わが、願い叶えてはくれぬか…』
カーテンの影から、
したサフラン妃。
『わたくしの、
、叶えぬ訳には、いきますまい。』
サフラン妃はドンデン王に
。
それを、上目遣いで見た、月読みの巫女は、王 座の前に進み出て、国主の剣、サザンクロスを 差し出した。
側近の大臣コマターニャが、これを受けとり王 座の前にある円卓へと運んだ。
続けて、ドンデン王の手から
り月読みの巫女へ手渡した。
『流石、約束を違える事なき名君、
様。』
『シャンソニアの未来は明るく、輝かしいもの となりましよう!』
月読みの巫女は
、王座の間を後にした。
コマターニャ大臣が門前に馬車を用意して巫女 を待っていた。
『巫女殿、最後に、ひとつ、お聞きしたい…』
『この大陸を納める王は、わが
相違ございませぬな。』
巫女は馬車に乗り込み、大臣の方を向いて質問 に答えた。
『ドンデン王の後ろに、彼の女が付いておる限 りシャンソニアには、誰も手出しはできないで あろう。』
『彼の女とは、誰の事を言っておられるのか? 』
((ビシッ))
巫女は、、馬に
『わたしの口からは、申し上げられませぬな… 』
走り出す巫女の馬車、その背中を見おくる大臣 。
彼は、山裾を走るもう一台の馬車に目を止めた 。
『あの金馬車は王妃様、御用達のはず……』
『誰が、走らせておるのやら…方角からして、 あの先は……』
『桃源郷。』
時代の転換点~新世界秩序への躍動。04
ロイヤル三世、治世暦、四年【AB-04】
《桃源郷》
青々とした、草木が萌える初夏。
強い陽射しに、額の汗を拭きながら、桃源郷の 一本道を進む親子。
取れたての果物が沢山、押し車の籠に積まれて いる。
押し車は、光の教会が見える下り坂に差し掛か った。
九歳になる少女、
れず、果物を、ひとつ、パクリと頬張った。
その拍子に、籠に積んであった果物の山の一部 が崩れ坂道を転がり出した。
((アァー!))
ミニヨン 花 は、慌てて、転がる果物を追いかける。
ゴスペリーナ
母の
美空 が、その姿を見て声を掛けた。
『ミニヨン!、走って、転ばないようにね~』
ゴスペリーナ 美空 が、そう言っていた矢先に
母の
だ。
((アイタタタ…))
坂を下った所で膝を擦り剥いて座り込む
横に金馬車が停まり美女が降りてきた。
『お嬢ちゃん、大丈夫?』
優しく、声を掛け
イオンの姿。
キョトンとした顔で彼女の顔に、見とれる
。
後から追い付いた母の
オンに礼を言った。
『お姿からして、高貴な方とお見受けします。 』
『娘に手を貸してくださり、ありがとうござい ます。』
アスピラスイオンが、
『光の教会へ、ある、お人を、お連れしたので すが…この辺りと聞きました……ご存じありませ んか?』
『わたしと、お母さんの、お家ー!』
となり 隣で話しを聞いていた
アスピラスイオンは、
後部へ案内し扉を開けた。
『あなたー!
そこには、傷つき、翼の片方を失った夫、
が意識も、
『おとーさん!』
ミニヨン
少女、
アスピラスイオンが、二人に話し掛けた。
『ご主人様の北風の天使は、戦いで酷く傷付い ておられます。』
『早く、光の教会へお連れして、傷の手当てを なさってください。』
ゴスペリーナ 美空 と
込んで光の教会へ急いだ。
光の教会の裏庭でピーチパイを手早く作る青年
エスポアール
の
希望 。
車椅子の少年、
エスポアール
『
希望 さんが桃源郷に来てから、もう三ヶ月 、だいぶ上手になったね♪』
『お母さんと、
を収穫してくると言っていたよ。』
『早く帰って来ないかな~楽しみだな~♪』
(((ヒヒヒヒーーーーン)))
光の教会の門前に金馬車が停まり、慌てた様子 で、扉を開ける母の
ブァン 翔の車椅子を押して、
ゴスペリーナ 美空 が
エスポアール
『
希望 さん!、主人が、この中に、いますの で、光の教会の中まで運んでくださらないかし ら。』
エスポアール 希望 は、金馬車の中で、横たわるミストラル を背中に乗せて、光の教会へ入った。
二階の寝室へとミストラルを運びベットへに横 にならせた。
ゴスペリーナ 美空 が、急ぎ傷に手当てを施し包帯をして涙 ながらに、夫のミストラルに声を掛けた。
『あなた……お疲れになったでしょう。』
ベットに横たわる、ミストラルは、彼を囲む家 族とアスピラスイオン、そして
を向けて、微かな声で呟いた。
ミストラルの口が、わずかに動いた事に気が付
ゴスペリーナ 美空 が彼の口元に耳を寄せた。
いた
『わたしは……もう、そう永くはない。』
『まもなく、天に召される』
彼は、そう言うと、
を取り呟いた。
『わたしの後を継ぐもの……万民を幸せ へと導く光が、ここにある。』
彼は、アスピラスイオンに視線を移して、聖剣 エメダリオンを持ってこさせた。
エメダリオンの剣をアスピラスイオンから受け 取ったミストラルは、
最後の力を振り絞り、彼の目を見て、ゆっくり と、聖剣エメダリオンを手渡し語った。
『救世主と、女神を加護し、万民を救う
の旗印となれ!』
彼は、そう言い残すと、眠るように、安らかな 表情で天へと召された。
………………………………………………☆
時代は、新たな転換点へと入ってゆく。
ロゴス帝国と、エマール王国の衰退。
これに、取って変わろうと台頭するシャンソニ ア王国。
近隣の諸国に、皇帝の宣布を告げ、新たな首都 を建てた。
都を交通の要衝でもあり、豊かな資源に恵まれ た地、ロレンソへと遷都した。
国名も、サフラン妃の強い要望により、マナト リア大皇国と宣言した。
近隣の諸国は、保身の為に、我先にと、マナト リア大皇国に靡き、忠誠を誓った。
そんな中にあっても、独立心を失わない孤高の 国も勃興した。
ゴルドバ山、またの名を暗黒山の
郷。
セオクラ 真理郷。
反マナトリアの旗印。
セオクラ 真理郷に集結する君主や領主達。
其々(それぞれ)の野望、信念、理想を胸に新た な戦いへと動き出す。
テラ大陸のパワーバランスの行方を左右するの は、科学力か、それとも、神への全き信仰心な のか……
ドローン.ストライク 。
【fine】
天空聖戦
《☆作者からの一言アドバイス♪》
中庸付偏《ちゅうようふへん》を最初に、ご覧、頂く事を お薦《すす》めします。
時間をタップリと掛けて内容を楽しみながら読 破したい方にお薦めです。
一方、速く読了したい皆さんは、解説だけを追 ってみて下さい。
物語りの概要を短時間でスピーディーに走り抜 けることができます。
さぁ、この世界の扉を、ご一緒に開き物語りの 旅へと歩みを進めましょう!