勇魚のいた街

身近な空を見上げると、何か発見があるかもしれません。また短いです。

蝉が鳴いていた。ビルは見上げるほど高く、無機質な威圧を掛けてくる。
空は蒼く藍色で、西のほうは燃えている。雲は思い思いに空に破れていた。
蟻塚のようなビル郡の間を蟻のような大人たちが忙しなく歩いている。
ビルには明かりが灯り、街は静かに夜を迎えようとしていた。

 それは、あまりに突然だった。
 だれにも気づかれず、新宿の空に勇魚(いさな)がやってきた。

「鯨だ。」
 それに気がついた一人は今や誰も使わなくなった勇魚(いさな)の古称を口にした。
彼は勇魚(いさな)盆地の出身だった。

勇魚のいた街

かつては、海にいた鯨が勇魚となり空に住まいを移してから人々は忙しさのあまり、空を見上げなくなりました。しかし、そんな現代にふと空を見上げると幼いころに父親と狩りに行った勇魚がいるかもしれません。そんなお話でした。

勇魚のいた街

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-08-12

CC BY-NC
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