一葉、フォリオの民

一葉、フォリオの民

 親には見せられないものを書いてしまいましたあ。じゃあ、ごはんの方々はっていうと言いわけできませんー。でもレズじゃありませんー。形式無視なので、無粋かもしれませんが、よろしくお願いいたします。

「香乃・表面」

「あー、あー、なるほど。両親が毎晩喧嘩してたら、作文に書けないってことか」
「文盲、って意味わかる? 小学校のセンセはずっと私が文章書けないって思ってたんだよ。父にいたっては知恵遅れと思ってた。養護施設に入れるべきだと言っていた」
「それは今でも変わらないんじゃん? 香乃の成績知ってるよ。春休み明けの時点で古典、歴史、赤点のラッシュ」
「ふざけるな。ことは人権問題だ。仕方なく詩を書いたよ。それでも韻を踏むことはできたから、国語能力は認められた。快挙だよ」
「? 作文書けないのに詩は書けたの?」
「そう。嘘っぱちでいいし、ピアノやってたから、リズム感も耳も良かった。五歳で作曲習ったし、母の詩集を隠れて読んでた」
「……人間力って知ってる?」
「待て、言うな。予想できる……カレーが作れて、下駄箱に靴を入れられたら合格、とか言うんだろう」
「言葉、男になってる」
「君と話してると地金が出る。ゆーじょーの証」
「それだから、だれといても男同士みたいになっちゃうんだよ。オトコ、引いてるよ」
「いまさら非難されたって、直しようがない。人生で一番苦しい時期を、闘志燃やしてくぐり抜けてきたんだから。気を遣わなかったワケじゃない。必要だったんだ。雄々しくあれと求められた結果だ。君のようにお姫様仕様にはできていない」
「その調子じゃ結婚、無理だね」
「恋愛の方もさっぱりだ」
「知ってる。地金が出そうになると、振るんでしょ」
「気を許しそうになるとな。あんまり良い奴だと甘えたくなるんだ。敵の幻想を壊したくない。それぐらいの分別はあるつもりだ」
「因果だなあ。美形なだけに」
「因果だよ? もちろん、男好きのレッテルも辞さない」
 マスカラ空にする勢いで、こんな会話ができるのも、相手も自分もケータイだから。
 別に声を裏返す必要もない。こびこびの目線を送らなきゃならない理由もない。
 ああ、楽だ。こんなに気持ちのいい話はない。
「君、私と結婚しない?」
「あたしは女性専門じゃないから!!!!!」
「彼氏がいるのも知っている。紹介したのは私だ」
「そんなら、何故そんなことを……」
「気が楽さ。理由はそれだけ」
「それだけでその道に引きずり込まれたんじゃ堪らない」
「その道ってなんだ」
「! あたしが知るか! どこまで説明させる気!」
「あ、怒った?」
「アヤマレー。今なら冗談で済ませられるー」
「具体的になにかしたい、と言うわけじゃないんだが」
「だから! 話聞いてる? 思考が働いてないときに電話すんなっっちゅーの!」
「悪かった。もう切るね?」
「うーん、そう……悪いけど、あんたの言うことはハナシ半分に聞いとくから」
「半分? もう半分は?」
「また! あんたのそれは病気だよ」
「人生最後のとき君の声を聞きたい」
「だから、女を口説くなとあれほど……」
「めげない。これがほんとの私。君がほじくり返したんだから、責任とれ」
「少女趣味だなあ。ほんとだね? 本気であたしにプロポーズまがいのことを?」
「ううん、美少女趣味。君のような娘が欲しいので是非男と結婚したい。じゃあ、切る」
「あったくー。いっつもそうなんだから。無事、元気に生きなよ? 間違えるなよ? くれぐれも道を踏み外すなよ?」
「うん、ありあと。じゃあね、もと風紀委員さん」
「うん、じゃあ……達者でくらせよ」
「君もね」
 あー。悪い癖が出たな――。高校の時にもこの子には猫被ってるの見破られたし。縁は切られたくないし。危ない、あぶない。オトコ紹介しといて執着すんなよ、私。
 考えながら、髪の毛をひっつめに結び、やたらと上品で一生使えるのが売りの、勉強机でポエムを書き殴る。幻想から抜け出せないままの自分には、これが生き甲斐。
 今、二十歳。心はまだ思春期。大学の文芸部でボクという人称で詩を書いてる。 
「悪いか!」

               ♪BLACK☆END♪

 今日も夜は更けてゆく……☆

「☆とか♪とかつけんな!」
 べつに良いんだよ。お読み下さる方があるならば??♪←
「嫌味だなあ、矢印とか」
 だれにもの言ってんだ。
「ひとのことオンナ癖の悪そうなアダルトチルドレンの痛い女にした、作者様にだ、ンノヤロウ!」
 笑えない。本気だから、コレ。
「しょーもなー……」
 本気で作家目指してるんだぞ、この筆者。
「なおさら情けな!」
 年末で財政が逼迫してるが、そちらの話題の方が良かったか?
「やめて……また差し込みが来るから」
 いいダイエットの理由になるな♪
「コンセント、抜くぞ」
 抜くのはプラグだ。間違えないように。
「実家に火ィつけんぞ、ゴラ」
 そう言う場合、押すのは何番?
「110番」
 正解。ピッピッポ!
 ぶち! 電源を切られた……。
 でも自動バックアップで復活さ。ふっふっふ。
「復活させるもしないも、私の自由。ポエムは手書きだし、詩はDVDの中さ」
 なんくるないさー♪
「アホね」
 君は凄いね。相手もないのに会話して。
「異次元生命体には耐性があるんだ」
 イジゲ……それは哀しい、余りにも……
「なんくるないさー、でしょ」
 アホや……我が子ながら……
「なにかいいたい……腹から怒りがこみ上げて、このままじゃおさまらない」
 小説を書け、需要のある奴を。
「……独りドッペルゲンガーか?」
 そうそう♪
「ごはんのM様に悪いから、このくらいに」
 では失礼致した!
「小説書くぞォア?!」
 怖い……気迫が。コワイ……
(女の子なのに気の毒なこと)
 あんた誰。
(あえての、ドッペルゲンガーよ。よろしくね)
 増えた……
「キサマ、何をしたァ!」
 なにも……だって……っ
(あらあら、涙目)
<チース。こまってんだって?>
 わああ!
<<オレも混ぜろ>>
((あたしも入れてん♪))
『……やかましいぞ。脳内を荒らすな……』
「どうやら、集まってるのはドッペルゲンガーじゃなく……」
 ああ、ラノベに萌えてた頃の持ちキャラ、だ……そして筆者は彼らの専属ナレーターだった。
「正確な数を出せるか?」
 多分十人あまり。ほとんどが技持ち。逆らわない方が良い。
「面倒だな。弾の数は?」
 殺す気?! 逆らうなと今言った……
「やると言ったらやる。えものをよこせ」
 コワイ、気迫がコワイ……香乃ちゃん、生き物には極力優しく!
「安心しろ、ドッペルゲンガーは幾つ殺しても罪にはならん。絶対にな……」
 こわい!!!!! 
((だーいじょうぶ! 香乃ちゃんだっけ、ここではあたしらが古株なんだよん)) 
 ァ……それ言っても多分無駄。それよりか良い方法思いついた。このキャラ、潰せば良いんだよ。あったまいー♪
「まずはキサマからだ!」
 アひゃあああああ!
 画面から出て来るうー。香乃ちゃん出て来るゥ?
「残念だがその手のドラマは観ていない。さようなら! 無能なナレーター様」
 
 ああ……さようなら、皆さん。みなさん……

「やっと還りやがったよ。ポエムの続き書こうっと」
 あれ? 生きてるんですけど、未だ。
「またきたの。気は済んだ?」
 つか、怖かった。
「大丈夫。ここまで読んでる人いないから」
 それはそれで無為に過ごしたな。
「ようは自己満足。もう、いい?」
 よくわかったから、もう寝るよ。おやすみ。
「おやすみ。おつかれさん☆」

 ……おっと☆

              <裏面クリア、終了>

「香乃・裏面」

 彼女はまるっきり知らないはずだが、実はカマのオトコに憧れている。だから、無事というわけにはいかないと思う。つか好きになったら、カマだった。仕事に几帳面でどこもかしこもオトコ臭がない。華のようにほほえむひと。恋にすらならない運命のひと。
 何処を尊敬したかというと、芸術的な才能。高校入学時、演劇部と美術部で取り合いになった、という噂だった。一方で私は廊下で複数の男子に蹴たぐりまわされてるのを見たことがある。何やってるんだろ、とは思ったけれど、集団は苦手。今頃彼はどうしてるか、不明だ。
 ……前途多難だ。始まってすらいない恋に焦がれても、やっぱり幻想だと思うんだ。
 つかね、もう小学生の時にはわかってたんだよ。バイロン詩集を読んで、どんなか知らない詩人の一文が忘れられない。
『恋とは何かと考える者は、もはや恋はできない』
 私、心はマスラオ、でいいかしら。だって恋するつもりもないんだもん。あるのは人類愛。きわめて狭い範囲の。国境どころか県境すら越えられない、半径3M以内のものしか気にかけない。大切にしない。
 つか、身体にタッチされるのはアレだが、適切なボディランゲージは必要と思う質だ。猫が好き。私が実に惚れっぽいのはやっぱり彼女しか知らない。ちょっとかわいい後輩に声をかけるとよく「こんなところでナンパするんじゃない」と叱られた。同じ委員会で名前聞くぐらい、普通だと思うが。うんざりした。
 歩くときは彼女が私の腕に細うでを絡ませたりしてきたので、内心パニックだったが、あえて拒まず、しのいだ。女好きじゃないよ。身体の接触は苦手なんだよ。なんで手をつなぐの? なんで着替えの時、下着見せ合ったり、胸にタッチしたりしてるの? 「さわっちゃお」「きゃっ」って……ここはどこなんだ! 謎だ……女の子って不可解だ。よくわからん。私にバストがあるのを見て、意外そうにする彼女もかのじょだったが。
 一度、真正面からぶつかったことがある。
「私はレズじゃない!」
「なんと言おうと、あんたは真性だ」
「暗示にかけないでくれ。私は単なる面食いの一般市民だ! いわゆる! 普通の!」
「一般市民の格を下げるな! きのどくでしょー」
「私は単に年下の娘は妹に見えるだけだ。姉が妹を大切にして何が悪い」
「あんたが見てるのは幻想よ。幻想の妹に対する恋なのよ」
「神なのか、君は?!」
「どこの世界の話よ」
「孫子さ。というよりかそれはこちらのセリフだ!」
「今のままじゃ人としてリスペクトできない。改善なさい!」
「い、言いがかりだ……っ。根拠が何もない! 私はノーマルだっ、ストレートなんだ!」
「つか、目をつけられる方の身にもなれって言ってんの、あたしは! 最上級生として!」
「おせっかいだなー」
「いくらでもいえばいいわ。あんたの凶行はあたしがくいとめるから!」
「凶行ってさア……言葉の使いどころ、ちがくない? 私はさア、実際、普通の感覚でくらしているのよ?」
「一日に特定の子になんども話しかけるのは、おかしい」
「君の感覚がよくわからん……っ。私は人見知りなので、知り合いには極力切られないようにしてるだけだ」
「へー、人見知りでも下級生には気軽に話せるんだ。かわいいねだのお洒落だね、だのと」
「ご指摘の意味がまだよくわからないが……妹に人見知りはしない。ののしられてもいい」
「そこよ! あんたの変態性欲!」
「はあっ?! すっごいショックなんですけど! 変態ってなにさ、せーよくって!」
「少女に執着してるとオトコできないよ」
「オトコなんか、いるか!」
「ほうら、本音が出た。あんたは天性の女好きよ!」
「謝れ! なんで君というひとにそこまで言われねばならんのだ」
「口調まで変わっちゃって。自覚ないんですかあ?」
「あるよ! だから普段、極力しゃべらないようにしてんじゃん」
「O.K.自覚はあるのね? この偽善的二重人格者!」
「次から次へと君、サドか? その不当な扱いやめてくれ」
「ところがあたしは風紀委員。危険分子は見張っとく主義」
「それで? 他にもいるでしょ。ガッコにチューハイ持ち込んでたりとか」
「ああいうのは男子委員にまかせてる。だって怖いじゃない」
「私はなんだっていうの。スケープゴートか?」
「なるほど、スカートも靴下も普通だし、一見優等生。でもね、中身はどうなのかしらね」
「中身を云々ぬかすのか、風紀委員が!」
「あったりまえじゃない! 一見普通の女子が一番危ないの!」
「言いがかりだ……っ」
 なんでそこまでと言うほど、ねじ込まれ、ぐっさり刺された。
 私のよわよわしい抵抗も空しかった。絶句した。もうおしまいだと思った。
 私はそれから鬱になった。不当に変態さん扱いされたのだ、しかたあるまい。体育の時は保健室の常連さんになった。いや、ランニングが苦手だったわけじゃない。運動性ぜんそくがぶり返したのだ。
 それでも、彼女はしぶとく私を監視し続けた。勢い、付き合いが一番長くなった。で、いまさら夜にケータイであのようなセリフの応酬になったりする。昨日の敵はなんとやらだ。
 大学で花柄ワンピ来た華奢な女装男子を見かけたが、興味はない。あれはパットを使わないと骨格でわかる。別にああいうのが好きなわけじゃない。好きになったら草食どころか草原の風にそよぐ一輪のお花ちゃんだった……というだけのことだ。しかし一体、本当の、私の春はいつ来るのか。彼女に言ったら「すでに頭の中わいてる」と言われそうだ。
 年中春で、感覚がマヒしてるのか、それすらもわからない。全くめんどうな性癖だ。
「うーん、アンビバレンツ……このナレーションにもな!」


一応のEND

一葉、フォリオの民

なぜこの小説を書いたのか? ―自分の限界を超えたストレスと長いスランプ(迷走)にみまわれたから。
表現したいものは何か? ―性的嗜好の数々とそこに生きる人々。
執筆上どのような挑戦があるのか? ―虚々実々ってところでしょうか。ほとんどがフィクションですが、一部実話だったり致します。

一葉、フォリオの民

「……人間力って知ってる?」 「待て、言うな。予想できる……カレーが作れて、下駄箱に靴を入れられたら合格、とか言うんだろう」 「言葉、男になってる」 「君と話してると地金が出る。ゆーじょーの証」 「それだから、だれといても男同士みたいになっちゃうんだよ……」 「いまさら非難されたって、直しようがない。人生で一番苦しい時期を、闘志燃やしてくぐり抜けてきたんだから。気を遣わなかったワケじゃない。必要だったんだ。雄々しくあれと求められた結果だ。君のようにお姫様仕様にはできていない」

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-01-08

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 「香乃・表面」
  2.  今日も夜は更けてゆく……☆
  3. 「香乃・裏面」