空の彼方、君に守られて僕は飛ぶ。

強大な力を持つ巫女がいる国は
世界を治める権力を持つ。

巫女の力は遺伝ではなく突然変異である。
故に、巫女を産み落とした一族には
その国の王族より、半永久的に庇護を受けることができ
生活はたゆむことなく保証される。

ただし、巫女が祖国のために唄い続けることが
国の庇護を受ける絶対条件である。

巫女の存在数は国によりさまざまであり、
巫女が存在しない国は瞬く間に巫女を持つ他国に侵略され
その領土を奪われる。

...特殊な能力を持つ巫女の唄は、
戦闘中のパイロットたち個々の能力を増幅する力がある。

巫女の生まれ持った能力が高ければ高いほど、パイロットに与える力も強大となり
勢いは増幅する。

巫女は時に自分の意に反して唄わなければならない。
唄いされすれば個の力は発動するのだ。

さらには巫女が自らの意思を持ち、祈りを込めて唄い、
それに呼応するパイロットがいる時こそ
巫女と彼らは同調し、最強の力を発揮することができる。

いつどの瞬間に、どこの国にどれほどの力を持つ巫女が誕生するのかを
知る術はなかった。
遺伝も何もない、全くの突然変異、神の産物なのだ。

巫女として産まれてきた者には身体の一部に印があった。
刻印の場所は人それぞれである。
だからすぐには母親ですらそれが巫女の印だとは気づかない、
ごくわずかなアザなのだ。
両親は願う。どうか、どうか、この子がなんでもない
ただの可愛い赤ん坊でありますようにと。

安堵するのも束の間、産まれたての赤ん坊がいる家には
国からの視察が入る。
そしてそのわずかなアザを目ざとく見つけて
それを巫女の印だと認めるとすぐさま親元から引き離し
王城へと連れて行く。

祖国のためという大義名分で、自由を奪われいわば一生鳥かごに閉じ込められ
飼われ続けるようなものだ。

今後彼女たちはいついかなる時においても
唄い続けなければならないのだ。

生活の保証なんていらない、だから我が子を返してくれ。
そう泣き叫ぶ親もいる。
しかしその叫びは決して届くことはない。

印を持って生まれたその赤ん坊こそ、その国の財産なのだ。
自由は、許されない。

邂逅

生命(いのち)が尽きるその時まで、僕は君に恋していたい。

手を出したら、もう止まらなくなることはわかっていた。


−10年前
少年は空を舞う。
高く、鳥のように。

目の前には父の背中。
その上を見ると視界いっぱいに空の青が飛び込んでくる。

余計なものは存在しない。
圧倒的な空間。
眼下には陸の緑が広がる。

あれ...?
なんだろう、どこからともなく澄んだ音が聴こえる...?

唄...?


いや、そんなハズはない。
ここは高度何千メートルの音速の世界だ。

聞こえていいのはせいぜいエンジンの音くらいだ。

〜〜。...。〜...。

いや、でもやっぱり聴こえる!
なんだろう、この音階。空気の合間をすり抜けて実に鮮やかに。
意識した途端、ハッキリと耳に届く。

懐かしい。泣きたくなる。
心臓を鷲掴みにされて、心が存在するならそれに直に触れられたかのように
その唄は自分の奥まで染み入ってくる。

唄はどこまでも続く。風にのり、空気に溶けて
この空全体を包み込むように
それは幼いコウヘイの胸にいつまでも残る唄声だった。

二人の出会い side コウヘイ

初めて出会ったのは3年前

雲ひとつないよく晴れた空の日。
えらく整った顔をした自分と同い年くらいの
美少年。

黒髪ショートが快活そうに見える。
背はさほど高くない。
目線の位置は自分と同じだ。
ぴくりとも笑わない。

うわー、まつ毛なげー。
瞳(め)でけー。
髪サラッサラだなー。
笑ったら可愛いだろうなー。
いや、待て待て待て!
男に可愛いとか何考えてんだ俺!

とコウヘイは心の中で自分にツッコミをいれる。

あーでもイケメンて無表情だと余計に目立つんだなー。

にしてもこいつほっそいなー。
と思って無意識に出た行動がそれだった。

あまりにも細いのでちゃんと筋肉というものが存在するか確かめようとしたまでだ。

軽く拳を握ってコウヘイは小突く仕草で何の気なしに
そこへ手を伸ばした。

−ふにゃん。

...アレ?ナンダ、コノカンショクハ...?

予想外の感触にコウヘイは慄く。

「あれ?えっ?はっ??えっ?
 あれっ?!」

相手は固まって動かない。

思わず手をグーからパーに裏返して改めて確認してしまう。

今思えば(当たり前だが)これが余計だったのだ。

「っっっっつ!!!
 っなにすんだ!!!
 この、ヘンタイっっっっ!!1」

目の前の相手は力の限りそう叫ぶと瞬時に見事な高さの足さばきで
コウヘイの頰を思い切り蹴り飛ばした。

こーいう時、手より足技の方がダメージは強烈である。

あまり上背のないコウヘイは軽く2メートルは吹っ飛ばされ、
運悪く後方に待ち構えていた気に激突した。
なまじ日頃厳しい訓練を意味なく受けているわけではない、
とっさに受け身を取れたからこそ背中からの衝撃で済んだのだ。

「へへ、俺、なかなかやるじゃん...。」
とかすかに自分を讃えたままコウヘイの意識はブラックアウトした。

空の彼方、君に守られて僕は飛ぶ。

空の彼方、君に守られて僕は飛ぶ。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2015-08-09

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  1. 邂逅
  2. 二人の出会い side コウヘイ