秘恋
誰にでもある青春時代の秘め事です。
秘め事
僕には好きな子がいる。
同じ小学校の隣のクラスのE子だ。
もちろん誰にも言ってないから、誰も知らない。
誰に気付かれることもないのだ。
当然だ。
だって、話したことすらないのだから。
完全な一目惚れだ。
外見だけを好きになったわけじゃない。
誰にでも優しく接することが出来る彼女だから好きになったのだ。
ちなみに話をしたことがないのは、彼女だけではない。
生まれつき僕は、言葉を発することが出来ない。
一生、僕は感情を伝えることが出来ない。
だけど、それでもいい。
E子を好きでいれるだけで幸せだから。
それにずっと見てきた僕だからわかることもある。
E子には好きな人がいる。
いつも仲良く話をしたり、一緒に遊んだりしている。
そう僕の親友のK太だ。
K太はスポーツ万能で人当たりが良く、勉強以外は完璧だった。
僕からしてもK太といれるのは誇らしいことだった。
相手がK太なら仕方ないと思っていた。
しかし、学年が上がってもK太とE子が付き合うことはなかった。
どう考えても両思いなのに僕には理解ができなかった。
中学三年生になる頃には、E子と僕も同じクラスになり、少しは話す様になっていた。
そうこうしている間に、あっという間に僕たちの中学三年間が終わった。
僕は、県外の進学校に通うため、寮に。E子とK太は同じ地元の高校へ。
今だから言えるが、正直、ホッとしている。E子のことは好きだが、
K太と仲良くしているところを見ているのは辛かった。。。
そして、あっという間に高校三年間も終わり、僕は無事に志望校に合格し、ゆったり残りの高校生活を満喫していた。
普段ならない携帯の音が部屋に鳴り響く。
知らない番号からだ。
「もしもし」
「K太の母です。」
K太の親からだ。
どうしたんだろう?
いつもの元気な声でないことだけは確かだった。
「今日、K太とE子がはねられたの。」
何を言ってるの?
急いで病院に向かった。
詳しく話を聞くと「飲酒運転」で突っ込まれたらしい。
K太はE子を守って即死、E子は重症。
そりゃ、助からないよな。
胸の奥から溢れ出てくる思い、だけど、僕には吐き出すことが出来ない。
もどかしい。涙は出てくるのに。心が張り裂けそうなのに。
何を言えない。何も話せない。
床に映る自分の顔を見ながら、何も出来ない自分の無力感を感じる。
県外に出ずに一緒にいればよかったんじゃ。
どうしていいかわからなくなってた。
そこに医者が近付いてきた。
これK太さんが握り締めてたよ。
?
何かの紙切れだ。
そこには、「タイムカプセル」とかいてある。
僕は、一瞬よくわからなかった。
K太の母いわくタイムカプセルを持って僕に謝りにくるつもりだったらしい。
僕はハッとした。
「中学卒業の時のタイムカプセル・・・」
僕はK太の葬儀のあと、一人中学のグランドへ行く。
確かこの辺だったよな。
うろ覚えすぎて、何箇所も穴を掘ってしまった。
そうしていると、二個タイムカプセルが出てきた。
別の学年の人のタイムカプセルかな。と二つとも蓋をあける。
片方は僕たちのだ。
K太と僕のメッセージカードが出てきた。
僕のは以前と変わらなかった。「E子が好きだ。」
K太のカードにはとんでも無いことが書かれていた。
「ごめんな。未来のお前に謝らないといけないことがある。これを見たら俺を殴ってくれ。昔いつもお前は、俺がE子と付き合うべきだって後押ししてくれてたよな。お前がいうように俺はE子のことが好きだ。だけどな。E子が本当に好きなのは、お前なんだよ。」
意味がわからなかった・・・いつもあいつら二人は仲良くて・・・どういうこと・・・
「E子は奥手だろ?だから、俺にずっとお前との間を取り持ってほしいって相談してくれてたんだよ。ただ、俺もE子と付き合いたかったし、お前も応援してくれてたから、『あいつには彼女がいる』って嘘ついちゃったんだ。でも、結局中学三年間使っても付き合えなかった。だから、お前に伝えようとしたんだけど。お前は県外行き決めちゃうし。」
なんだなんだ・・・わけがわからないぞ。E子が俺のこと好き?K太が僕に嘘ついてた?
段々、冷静でいれない自分がいた。
そう思いながらも続きを読む。
「だから、高校三年間頑張って見て、無理だったら諦めて、お前に話すことにしたんだ。今、これを読んでるお前はきっと怒ってるだろうな。お前もE子も騙してた最悪なやつなんだから。本当にごめんな。」親愛なる◯◯へ
嘘だろ・・・
ポツ・・ポツ・・・ザザー
雨が降ってきた。
しばらく僕は動けなかった。
カン・・・カン・・・
何の音だろう。
女子のタイムカプセルだ。
中には、E子のメッセージカードが入っていた。
「◯◯好きだよ。」
ねえK太。もう殴れないじゃん。
どうしたらいいの?もういいから・・許すから戻ってこいよ!
ハッとした。初めて声が出た。これが僕の声なのか。
けど、こんなものいらないんだよ。そんな中、電話が鳴る。
「E子さんの容態が」医者が言う。
僕は走り始めた。
「E子」
ビショビショになりながら手術室に着いた。
僕の声が響く。
おぼろげな意識の中で、E子が反応した。
「来てくれたんだね。嬉しい。」
心拍が乱れ始めた。
「E子好きだ。タイムカプセルで二人のメッセージ勝手に見た。ごめん。声も出るようになって、いっぱい話したいことあるんだ。俺と付き合ってくれ。」
「ふふ。嬉しい。うち幸せだよ。けど、もう少し早く聴きたかったな・・・・」
「E子ーーーーーー」
ピーーーーーーーーーーーーーーーーー
手術室に嫌な音が鳴り響く。医者が電気ショックを用意する。
僕はどうしたらいいんだよ。E子・・・
それから時は流れ、僕も社会に出て、結婚もし、子宝にも恵まれている。
えっ結婚相手?もちろんE子だ。
あの後、E子はなんとか一命を取り留めた。6年間にもわたるリハビリ生活を終え、僕と結婚した。
ようやく車椅子にも慣れてきたみたいだ。
ちなみに子供の名前はK太だ。
僕たちの中で、K太はいつまでも生き続けている。
K太の分も一瞬一瞬を大切にしないとな。
「命の大切さ・尊さを胸に秘めて」
Fin
秘恋