れんたろうず。1話。彼女が出来る方法

れんたろうず。1話。彼女が出来る方法

何とか無事に始業式を終え、本格的に大学生活が始まった。
真っ先にバイトを見つけたいところだったが、
「まず、講義の時間割決めないと」
 片桐千歳が、パンフレットを俺に突き出して言ってくる。
 なんでも大学というのは自分で時間割を作るらしい。ただ、受けられる授業は限られていて4年間で必要単位をとれば卒業できるらしいが、必須科目とかもあるようだ。一年間めいいっぱい入れて4年生の時に授業を少なくし、就職活動に専念するってのがセオリーらしい。
(ま、セオリーなら俺も従うか。卒業してフリーターなんてヤバいしな…)
「で、こんなのどう?」
 千歳が俺に手書きの時間割を見せてくる。いつの間に書いたんだ? というよりも根本的に
「これ、個人の自由だよな。別に千歳と同じにしなくても良いんだよな?」
「いいけど、一人で講義受けるのって寂しいよ?」
 いたいところをついてきた。そもそも俺のことだからサボリ癖がつくかもしれん。
「とりあえず、今年は千歳と同じでいい」
「おっけーおっけー」
 千歳の機嫌がものすごく良くなった。始業式以降今日で三日目なのだが、毎朝俺に電話をして学校に行こう。何時のバスに乗ろう。とか言ってくる。しかも嬉しそうに。というか、朝っていうか六時だからな。
 家はものすごく離れているらしいが、大学に行くためのバスは一本しかない。
「じゃ、受付に行って提出してこよう」
「わかった」
 俺が素直に従った理由は、ただ単に考えるのが面倒くさかったのと、千歳が言ったとおり俺にはまだ友達がいないに等しい。サボリ癖もあるかもしれないし。それに毎日午後四時には帰宅できる。バイトを探すのも比較的容易になりそうだ。
 と、そんなとき
「ちょっと待て」
 俺たちに声をかけてきた金髪の男。西村。下の名前は忘れた。
「あ、おはよう。西村君」
 千歳が万遍の笑みで挨拶をするが、
「あ、おはようじゃねぇ。なんで俺、抜け者なんだ? なんか三日目というか入学式以降俺、常に蚊帳の外にいる気分なんだが」
「だって友達じゃないし…」
 仕方ないじゃないといった顔をする千歳。
「俺、この拾いキャンパスを延々と二人を探したんだぞ? どこかの何々を探せ並に探したんだぞ」
 よく見たら汗びっしょりである。細身の長身だから気にならなかったが。
「携帯に電話すればいいじゃんか…番号教えただろ?」
 入学式の後、俺たちは番号を交換したはずである。
「れんたろう。思い出してくれ。あの後何があったかを」
「確か、ウキウキ気分で番号を登録したおまえはトイレの便器に携帯を流しちまったな」
「そうそう。そう! それで俺はまだ携帯がない状態なんだ!」
 わかってくれよそんなことって顔をしてるな。西村。
「あんたが悪いじゃない。自業自得よ。そもそもあんた友達いないわけ? クラスで一回顔合わせしてるでしょ? 自己紹介とかそういうのしてるはずよ?」
 千歳の言うことはもっともである。俺と千歳はもちろん同じクラスだが他にも同じクラスメイトの人とはほぼ番号交換くらいはした。もっとも俺がこうして千歳といるのは、電話がかかってくるというのもあるが、俺のクラス。俺以外全員女というある意味地獄のクラスだった。よく言えばハーレムなんだけど。入学式の時気づけばよかった。意識してなかったからな。
「俺のクラスは全員男だ…」
「だから何よ」
「入学式の俺の発言で俺が危険人物と思われてしまって友達ができなかった…」
「当然危険人物だと思われるしね」
「…だから俺には貴様らしか友達がいない!」
「偉そうに言うなよ…」
 千歳はため息をつく。
「というわけで、俺も同じにしたいから見せて!」
「別にいいけど」
 俺は時間割を見せると、
「…女性心理学の授業は受けないのか?」
「…なんでそんな授業受けないといけないのよ」
「…いや、俺、それだけは受けたいと思っていた授業なんだが…」
「…受けたければ自分で受けなさいよ」
「…一緒に受けないか?」
「…絶対に嫌」
「…れんたろう…」
 悲しそうな顔で俺を見てくる西村だが
「すまん。西村。俺も恥ずかしくてその授業は受けたくない」
「…そうか。来年こっそり受けような」
(え? そこで約束させるの?)
 ちょっと西村がウザいと思った。
 時間割を提出してので今日はこれで終わりなのだが、
「ところでサークルとかどうするの?」
 千歳が聞いてきた。興味がなかったわけではないが、できれば入りたいっていう気持ちもあったのだが、
「まずはバイト決めるのが先かなぁ。それからでいいかなと思ってるんだけど。千歳は?」
「あたしはバイトは別に…ただ大学って最初で最後だからってのがあって」
「そうかぁ。なんかいいところあったら教えて」
「あったらね」
 少し寂しそうな顔をした千歳だったが、
「れんたろう。俺もバイトしようと思ってるんだ。一緒にやろう」
「いいけど、なんだか俺には西村がだんだんホモにしか見えなくなってきたんだが」
「俺はホモとかゲイとかではないぞ。俺はこう見えても…」
 と、言い終わる前に、
「あ、いた。西村くぅぅぅん!!!」
 背は平均。眼鏡をかけて喧嘩したら間違いなく負けそうな、というか開始前から泣いてる男が現れた。
「なんだ。友達いるじゃない」
 千歳は「できれば関わらないでよね」って顔をしている。実は俺も同じ心境だった。
「確か貴様は斉藤と名乗ってたな」
「そうだよぉ。西村君にお願いがあって来たんだぁ」
「ふむ」
「自己紹介のとき、困ったことがあったら余に相談したまえって言ってたよね」
「言ってたな」
 小声で千歳が俺に「この人自分のこと余って呼んでるの?」と言ってくるので「そうみたいだな」と返した。
 途中で号泣したりするので、話が長くなってしまったが、要するに彼、斉藤というのだが彼女が欲しいらしい。しかしクラスメイトは全員男。友達はいらないけど彼女が欲しいらしい。でも、出会いが全くないそうだ。
(俺とは逆のパターンだな…)
 俺はそう感じていたのだが、
「出会いなんか自分で探しなよ。サークルでもなんでもやれば出会いくらいあるでしょ?」
 千歳の「こいつ嫌い」オーラが満開である。というか、千歳にはきっと「好き」と「嫌い」しかないのかもしれない。クラスでもそんな感じだったから誰も寄ってこずって感じだったし。
「どういうサークルに入ればいいのかわからないんだよぉぉぉぉ。俺には彼女さえ出来ればいいんだよぉぉぉ。というか、君、かわいい! 俺と付き合ってくれぇぇぇぇぇ!!!」
「死んでも嫌だよ」
「西村くぅぅぅぅぅん!!!」
「なるほど。貴様の言いたいことはわかった。俺に策がある」
 策って…。
「隠していたが不可能を可能にする、一発逆転の策を授けるのが俺の能力なのだ」
 うん。別にどうでもいいカミングアウトだな。
 なんか魔法が使えるとか言ったら「おおー」とか言うかもしれないが、西村の言ってることは要するに「助言」だからな。
「よし。斉藤。俺が策を授ける実行したら貴様に必ず彼女が出来る。安心しろ」
「ありがとう西村君!」
「残念ながら二人とも。巨はここでさよならだ。また明日会おう」
「もう会わなくていいよ」
 千歳の嫌味たっぷりな言葉も聞かず、西村は斉藤とどこかに行ってしまった。

翌日。
 最初の授業で西村が隣に座ってきたので、あれからどうなったかと聞くと
「フッ。斉藤に彼女が出来たぞ」と、胸を張って言ってきた。
 俺よりも
「え? あんな人に?」
 千歳が驚いていた。そりゃああの後「あんなのにできるわけがない!」「一から人生やり直したほうが早い」とか散々言ってたもんな。
「ウム。俺に出来ないことなどない」
「どうやって彼女が出来たんだ? 紹介したのか?」
「紹介も何も俺にはクライメイトと貴様らしか知り合いはいない。ちょっと奴には、『女子が沢山入るであろう軽音楽部に入部して好みの順から全員に告白しろ』と言っただけだ」
「斉藤、楽器とか出来る奴だったのか…」
 なるほどな。と感心していたら
「斉藤は楽器なんかできん。譜面も読めん。大体彼女が欲しいだけなんだ。女子がいるならサッカーでも野球でも茶道部でもなんでもよかった。ただ数はいないとダメだからな。話を聞いたら軽音楽部には50人、女子がいるらしい。さすがに50人いたらどれかは承諾してくれるだろう」
「好みの順って…一日やそこらでわかるもんなのか?」
「顔と胸で判断した。そもそも性格なんかわかるわけがないだろう。別に3日で別れても俺の責任ではない。1秒でもいいから彼女ができればいいんだ。れんたろう。貴様に古からの言葉を授けよう。『数打てば当たる』だ」
 呆れ俺にたいして、
「あんたとことん最低ね…」
 と、千歳がボソッと言った。
「フッ。ところが斉藤は確かに好みの順から告白したがとことん惨敗した」
「そりゃそうだ。初対面の人から告白されてるんだからな」
「ウム。ところが49番目の女から承諾を得た」
「48回フラれたのか」
「そうだな。俺もそれは確認した。顔はゴリラだ。間違いなくゴリラだ。体型も文句なしのゴリラだ」
「ゴリラゴリラ言うなよ」
「だが、そういう奴に限って性格はいいに違いない。俺はそう確信している」
「そういうもんなのか?」
「れんたろう。千歳を見てみろ。顔はきれいだと思う。体型も素晴らしいと思う。芸能界でもグラビアでも十分通用すると思う。だが、性格は最悪だ。世界でワーストナンバーワンかもしれん」
「うっせー」
 千歳は小声で文句を言う。
「そういうわけで俺たちは斉藤の門出を見守ろうではないか」
「俺は別にどうでもいいけど…」
「あたしも…」


斉藤の行方は後編に続く。

れんたろうず。1話。彼女が出来る方法

れんたろうず。1話。彼女が出来る方法

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-08-06

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