指先が触れるまで

指先が触れるまで

小さな歩幅で歩く君の後ろ姿を眺める。
背中に滲む汗を感じながら、どうして同じ場所にいるのにこうも涼しげに見えるのだろうかと思いながら後ろにつく。

真っ白な夏らしいワンピースに身をまとい、踵を鳴らしながら僕の先を進む。

強く吹いた風を受けて、誕生日に買ってあげたつばの広い麦わら帽子の両端を掴み、僕のほうを振り返る。

「あついよ!」

子供か、とでも言いたくなるほどに満面の笑みを見せて言う君の流れる髪を掴み、耳の後ろにかける。途端に顔を逸らす君の頰をそのまま寄せて、キスをする。薄目を開けて君の顔を見ると、強く目を瞑り体を硬直させている。こういう顔されるとさ、ついつい意地悪したくなるんだけど、外だから、とりあえず離れてあげる。

小走りで僕から離れ、拗ねたような照れたような顔をして少し暑そうに頰を手で仰ぐ仕草をする。やっと、暑そうにした君の姿をみて何となく勝ち誇った顔をして返事をする。

「あついね。」

また前を向いて歩き出す君の姿を半歩を後ろにつきながら、いつも入念に手入れをされた君の栗色の長い髪の先に手を伸ばして毛先で遊ぶ。

それにしても、暑い。今日は二人とも休みだからと買い物に出て、買い物帰りの道をふてくされた君と歩く。目の前に広がる青い空と雲を見上げて、君の手を取る。

やっと僕が隣に並んだことに少し微笑んだ君がまた愛しくなって、買ってきた荷物を持ったまま君に覆いかぶさるように抱きしめる。

「あついの!」

「知ってる。でもしたいんだもん。」

いたずらっ子みたいな表情をする自分もなんとなく照れ臭いけど、蜃気楼でも見れそうなくらい暑くて人も殆どいない日中を歩く非現実的な時間ぐらいしたいことをしてもいいと思うから、注意されてもやめてあげない事にした。

家に戻ってきて、冷蔵庫に買ってきた物をしまう僕を横目に、冷えたリビングのソファに突っ伏す君に小さなため息を吐き、近寄る。

「一人で涼むなんてズルイよ?」

「だって、私がやるより早いじゃない?」

勝ち誇った顔でそう言い、体育座りをした君にキスをしようと近寄る。顔をそらし逃げることに成功した君の手を掴み、ソファの端まで追い詰めてもう一度キスをする。

触れるだけのキスを何度もした後、僕が掴んだ手を君は振り払い、代わりに僕の頭を掴み、入れ込んだ僕の舌に応じる。可愛くて爽やかな顔は、少し弱々しいような、女性の顔になっていて、コロコロと変わる君の表情を眺めつつ、言う。

「やっと、触れた。」

「さっきもしたじゃない。」

外でしても、見れないのだ。その表情だったり、触れるだけのキスをした後の深いキスを待つ君がする表情だったり、君に僕の指先が触れるまでの求めるような表情も。


まだお昼を過ぎたばかりだから、時間はある。
これからの時間を、どう過ごすか。ただ、いつもしたいことは寝るにしても食べるにしても、一緒なんだけど。

うだるような暑さの中の切り取られたこの空間で、二人だけの世界で。
とりあえず、気がすむまではくっついて、キスをして。君に好きなだけ意地悪をしようかな。

指先が触れるまで

暑いのにくっつく二人を書きたくて書いたので、いつもに増して短くなりました。
いつも通り、後先はありませんが、ここから先の物語は読者様にお任せします。

指先が触れるまで

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-08-06

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