酒の席の小話 ‐激短編‐

真夜中人だかりの飲み屋街で、無関心な笑いと共に、こんな話が酒の肴にあがっていた。

「受刑者の出所後の世間の反応について、警視はどのようにお考えですか?」
ある新聞社の女性記者が、警察署で取材をしています。
彼女は、自分が初めて企画した連載コラム『受刑者の人権と差別について』の取材に、いつも以上に一生懸命の様子。
「受刑者は受刑者として、自らの犯罪への反省をし、罪を償い出所します。また、社会生活に溶け込めるように、訓練もしています。みなさんには、そんな彼らの現状を理解していただき、温かく見守って頂けることを期待しています。」
女性記者の気迫に押されながら、警視は応対に必死。
「どうもありがとうございました。」
ようやく質問攻めが終わり、警視はぐったりした様子。
 そんなホッとした警視の口から漏れた一言。
「いやー、この立場になって一番嬉しいのは、あなたのような美しい女性と、こうして会話ができることですよ。飲み屋に行ったらこの時間、いくら取られるか解りませんからね。」
ジョーダン飛ばす男性警視。
しかし、この一言で、上や下への大騒動。
女性記者の顔色は一変。
「な、なんて失礼な。私は飲み屋街にいるような、ホステスなどではありません。」
いくら警視が取り繕うと、もはやどうにもなりません。
「ホステスと一緒にされた、私への侮辱発言に対し、私の怒りは収まりません。」
 女性記者は怒髪天。怒り止まらず、行き着く先は法廷へ。
『判決。主文、被告を有罪とみなす。』
法廷闘争、行く末は、警視の軽率な言動で、女性記者に慰謝料支払い。
冗談飛ばして、首も飛び、併せて家庭も飛んでいった。
男性警視の後悔は、全くもって先立たず。

こんな事件が新聞の一ページを飾った夜。
霞ヶ関の片隅の、夜中に繁盛するスナックで、ホステスの女性が店で言う。
「女性記者って、どんな取材で警視庁に、わざわざ出向いて行ったのかしらね。」
客とともにこの事件の、新聞記事で談笑している。
 身分も立場も関係なく、人の多さと関係なく、隣の客と目をあわせない、ひっそりとした付き合いの仲、笑いのネタに尽きることなく、今宵も夜は更けていく。

酒の席の小話 ‐激短編‐

酒の席の小話 ‐激短編‐

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-08-06

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted