叶わぬ恋

叶わぬ恋

目の前に、大きな時計の針が、10時を指している
昼間はすごく暑かったのに
この時間になると
屋上のテラスに、涼しい風が吹いている
ワインで火照った頬が、すごく気持ちよく感じる風
心もこれで少し癒された気がする

次回はあなたの喜ぶようなプランを練るからねって
前回デートの帰り、彼がそう言ってたけど
体調が悪く、あまり計画はしていなかったみたい
でも、彼は、いつも私の喜びそうな店を見つけてくれる
もちろん、一緒に居れば、どんなデートでも楽しめる私の気持ちもあるからだと思う
行き当たりばったり三軒をはしごして、飲んだり食べたりして、とても楽しい時間を過ごした
途中は、何度も心がギュ~と痛くなる瞬間があった

いつもより、倍くらいの量を飲んだ
そのせいで、頭が痛く、胃も少し重たい
けど、頭はとても冷静だった
別れ話を切り出すため、お酒から力を借りないと無理みたい
この恋が始まった時と全く同じ
臆病者で、いつもいつも
何しても、踏み出すまで時間がかかる
何しても、お酒に勇気を付けてもらおうとする
むしろ、心の底に、何かがあったら、お酒のせいにしちゃえば
自分は責任逃れできるというズルさだと言ってもいいでしょう

6ヶ月間の長いようで短い恋だった
会う時の喜びより、会えない時の寂しさの方が何倍も多く、辛い恋だった
始まる前に、わかっていたはずなのに
会えない人を四六時中思っている時の、胸がちぎれそうな痛みは
やっとその兼ね合いがわかった
そのままもっと深く恋に落ちると、自分が正気でいられなくなるのが目に見えてきたから
別れることに決めた

以前にも一度別れ話しをした
切り出したのは自分なのに
心が張り裂けられそうで、体の震えが止まらなく慟哭した
その時の彼は、ずっと私の体を抱きすくめて
『ダメ!やだ!寂しい思いをさせないように努力するから、そばにいて』と言ってた
私は自分の未練と彼の強引的な情熱に負けた
実は、そうなると最初から薄々と予感はしていた
もっと正直に言うと、もともと別れる決心なんてそんなになかった

今回もきっとまた涙が止まらないと思い
動揺できない、周囲の目を気にしないといけないこのテラスを選んだ
そして、意外に淡々と話を進められて
彼も意外に淡々と話を聞き、最後に『わかった、時間を置きましょう』と答えた

酔いが覚めるまで、しばらく風を感じながらテラスにいた
彼は優しく、頭のマッサージと、背中を摩ってくれた
『もう行こう』と誰が言ったのが覚えてない
タクシーを拾って、帰路についた

変わらぬ優しさで、彼は私の手をずっと握ってた
見慣れた景色や高速の看板を見ると
都内からの帰り道が、近すぎると初めて思った
しばらく走り、いつもの富士山の見える高速のカーブを通過した
あと少しで家に着くんだ!と、急に寂しくてたまらなかった
これが二人の最後の時間なら、あと少しだけでも一緒にいたかった
あと少しだけでも彼の優しさに触れていたかった

タクシーを降りる前に、彼はいつもと同じ、私のおでこにキスして、『じゃね』って
私は彼の耳元に、自分でも聞こえないくらいの小さな声で、『さようなら』と言い
自分の心に、終止符を打った

素敵な人だった、崇拝と慕いから始まった恋のイニシアチブを握るのは、いつも彼だった
今までちやほやされて、わがままな私、彼と一緒にいる時は
いつもおとなしくついて行くだけのだった
わがままを言えないわけじゃなく、言おうとしなかった
優しい自分を演じているわけじゃなく,ただついて行くだけで満足だった

素敵な恋だった
身も心も全て委ねられた
いろんな経験をさせてもらった
何事に対しても食わず嫌いな私が
彼から勧められることなら、全て抵抗なく試そうとした
それで、いろんな斬新な自分を見つけた
別れたら、この人と会えなくなるのが辛いだけじゃなく
新たの自己発見がここで止まるのも寂しいと言えるでしょう
気がついたら、彼がくれた水を飲みながら、私は公園のベンチに座っている
見上げてみると、空が高く、真ん丸ではない月が明るく私を照らしてる
きっと人生もそうね
欠ける部分があっても、明るく元気でいかないと

ふっと、あの歌を思い出した
you're waiting for the day you're truly loved
I just don't think that he's the one
...
I can't watch you give your heart away for a handful of empty love
...
you deserve someone who makes it about you
...
you should keep holding on thinking that it makes you strong
when letting go can make it right
...
頭を冷やしてくれた歌
勇気を与えてくれた歌

叶わぬ恋

叶わぬ恋

恋に落ちた相手は、愛しちゃいけない妻帯者でした。 辛い日々にサヨウナラを言う決心がやっと出来て。 そこに、新しい自分が生まれました。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-08-06

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