悪魔らは笑いながら輪になって

悪夢

あの、大きなボロ屋の、壁に取り付けられた真四角のトタンをくぐって、おかしな生き物が次々と出てきて、裏の遊び場を埋め尽くした。

夕簿のような、古新聞のような黄色い空気に、カクカクと、ヌメヌメと、生き物たちが蠢く。
私は仏壇の部屋の窓から、じっと見ている。
気持ちの悪い生き物は、まるで私達みたいだ。

不安な気持ちで目覚めたら、まだ夜明け前の青黒い部屋の中、喉が乾いて、薬缶から麦茶を飲んだ。



もう一度目を瞑って目覚めたら、おねしょをしていた。



怒られるのはいつも怖い。

私達の世界

私達の世界は、お互いの家と暗い林に囲まれた、小さな裏庭。
水たまりの泥を掬って、泥団子を作る。
無心の静寂は、けたたましい呼び声に切り裂かれる。

みんなが集まった。

勝って嬉しい、花一匁

ぐいっと、引き摺られる。隊列が乱れる。

負けて悔しい、花一匁

あの子が欲しい

あの子じゃ分からん

私の思い知らぬ所でぶつかり合う、愛憎に満ちた視線と生々しい思惑。

相談しましょ、そうしましょ

「はーちゃん、のけもんにしようや、むかつくけん」

淫猥な微笑を口角に浮かべる恐るべし6歳児に、3歳の私は、誰にも悟られないよう、唾を密かに飲み下す。

ゆうちゃんとはなちゃんは双子。
私達のこの四角い世界を恐怖で統治する双頭の怪物だ。
私が気づいた頃にはこういう事だったし、理不尽だと感じる知識や経験さえ、私には無かった。
ただ私の潜在意識は断続的にこう呟いていた。

「危険だ!!」

この「四角い裏庭の世界」は、そのまま一つの社会として、階級、搾取する側される側、分業、徒党、支配、争いを生み出し、またそれを我々一人一人に強いた。

生を受けたその瞬間から、「社会」という呪いがかけられることになっているんだ。

おじちゃんのタバコ


「いいものもってきた、おいちゃんのタバコ、テーブルのうえにおいてあったけん、こっそりもってきた!」

くすくす、それはもう愉快そうに笑いながら、双頭の怪物はやってきた。

タバコ―――それはうちにもあるもので、且つ我々子供が触ってはいけないものなのだ。
そんな危ないもの!どうするつもりなのかと、心で聞いたが、やはり私は口にできなかった。
3歳児のくせに、悲しいおべんちゃらの下卑た笑いを、へっへとやりながら、彼女らを見た。

「さーちゃん、やってみて」

そう言って、はーちゃんは私にクシャクシャの四角い包みを差し出した。
灰色っぽい外装で、中から何本もの細長い棒と、金属が覗く。私はその金属が火をつけるものだと知っていた。
父も同じものを持っていたからだ。

猫は死んだ

青いペールの蓋を開けると、蝿が何匹と飛び出てきて、強烈な臭いと四散した。
白い、クネクネした何かが、子猫の体で忙しなく動き回っている。

猫は死んだのだ。

悪魔らは笑いながら輪になって

悪魔らは笑いながら輪になって

悍ましい程に残酷だった、幼い子供の頃の私達。 腥さを発散させながら狭い世界を謳歌する子供たちの日常をグロテスクに書きました。

  • 小説
  • 掌編
  • 成人向け
  • 強い暴力的表現
  • 強い性的表現
  • 強い反社会的表現
  • 強い言語・思想的表現
更新日
登録日
2015-08-05

Copyrighted
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  1. 悪夢
  2. 私達の世界
  3. おじちゃんのタバコ
  4. 猫は死んだ