日向ぼっこ(仮)

※この作品は同性愛、姉妹愛(近親相姦)、ヤンデレ、兵器、戦闘シーンが含まれます。
苦手な方は閲覧をおすすめ出来ません。ご理解をお願いします。
(今後追加予定要素→異世界、グロ)

1ー1

隣には大好きな妹。周りには大切な家族。そして友達と先生。皆で楽しく笑って、時には泣いて、色んな時間を共に過ごす。私は幸せだ。凄く幸せ者だ。
守らなきゃいけない。この時間を、この空間を、この場所を、

みんなを


────────────


夏の太陽が眩しい晴れた日に私、白石真弓(しらいしまゆ)はとあるバス停に立っていた。今日は夏休み最終日。全寮制の学校へ通っている私は一時帰省していた実家を後にして、学校へ向かうをバス待っている。

「人が多いねー。仕方ないけど。」
「私から離れるなよ。絶対に」
「・・・分かってるよ。」

私の手を握り周りを警戒しているのは双子の妹の真人(まこと)。生まれた時からずっと側に居ていつも2人で行動をしている仲良し姉妹・・・と言うか、真人が側を離れる事を許さない。凄く心配症で過保護なのだ。まぁ、私自身苦ではないからいいんだけどねー。ちなみに真人も同じ学校に通っている。

「暑いよー。人多いよー。」
「皆行く先は一緒なんだから仕方ねぇだろ。ほら、バス来た。行くよ。」
「はーい」

学校行きのバスが来た途端、我先にと皆一斉にバスに乗り込んで行く。

「チッ、」
「舌打ちしない。舌打ちしない。」

一応バスは何台か用意されてるんだけど、明らかに乗り込む生徒の数の方が多くてバスの中は毎回ギュウギュウになる。いつも思うんだけど、バスの台数を増やすべきだよ。絶対に。
真人は毎回座席に私を座らせてくれるんだけど、今回は間に合わなかったみたい。残念だけど、まあ仕方ない。

「やっぱり父さんに送ってもらうべきだったか・・」
「やめてよー。また校門前で泣かれたら大変。」
「・・・確かに」

私達のお父さんは優しくて家族想いのいいお父さんで、去年はお父さんの車で送り迎えしてもらっていた。・・んだけど、寮に戻る日は朝からずっと泣いてて、そのまま運転するから凄くハラハラした。そして校門に着いても泣いてて、真人と一緒に宥めるのに苦労した。真人よりも凄い過保護。そして泣き虫。

「お父さん、大丈夫かなー」
「母さんが居るから大丈夫だろ」

今年も学校まで送ると言ってきたお父さんを2人で全力で止めた。そしたら泣き出してしまって困ってるとお母さんがやってきて「この人は私に任せていってらっしゃい」と言ってくれた。その言葉に甘えて実家を出たんだけど、お父さん泣きやんだかなー。学校に着いたらメールしよう。そうしよう。

「バス出発しまーす」

運転手さんのアナウンスが終わるとバスが動き出した。私達が通う学校は山奥にあって、徒歩で行けなくもないけど道はガッタガタだし上り坂だしで歩いてる人は基本的には居ない。居るとすればムキムキマッチョさんぐらい。
暫くバスに揺られて、この山道登ったら学校です!って所で急にバスが止まった。すると皆ザワつき始めた。

「すいません、ちょっと様子見てくるので待ってて下さい」

運転手さんはそう言うとバスから降りて行った。

「何だろー、故障かなー?」
「もしそうならここから歩きだぞ。鬼畜だ・・」
「でも一応学校までもう少しの所だから、頑張れば行ける!多分!」

ちょっと意気込んでる私とは対照的に、真人や皆はうなだれている。中にはイライラしてきてる人もいる。暫くして運転手さんが戻って来た。

「すいません皆さん、タイヤがパンクしてしまってここではタイヤ替えも難しいです。申し訳ないですがここからは徒歩で向かうか、別のバスが来るまで待機でお願いします」

深々と頭を下げながらそう言う運転手さん。パンクなら仕方ないかーと私が荷物をまとめていると周りが騒ぎ出した。

「ふざけんなよ!こんな道登れってーのかよ!」
「ここに居てもこんな暑い日に死んじゃうじゃない!」
「どーにかしろよ!」

きっと死にやしないだろうなーと私は思った。エンジンはかかるだろうから、、恐らく。
それにこれは事故であって運転手さんの故意ではない。なのに運転手さんに怒りをぶつけるのは可笑しいんじゃないかな。とか考えてると、何だか私もイライラしてきちゃって、気づいたら大きな声を出していた。

「グチグチ言ってても仕方ないんじゃないかな。ここではどうしようもないって言ってるんだから、文句ばっかり吐いてても時間の無駄だよ。」

言いながら自分でも驚いた。幸い私と真人は出入口のすぐ近くで、文句を言ってる人達は奥の方に居るから離れてたけど、一気に周りが静かになってくのを感じた。そして私はそのまま言葉を続けた。

「天気もいいし、ピクニック気分で行こうよ。真人」

そう真人に言うとポカーンとしてたけど、すぐに「あぁ、そうだな」と言い2人でバスを降りた。運転手さんとすれ違う時に小さく「ありがとう」と聞こえた気がした。

「全く、お前には参る」
「ごめんってばー。ついね、つい」

歩きながら真人に怒られてます。でも仕方ないのだ。ムカついたから。ついね。

「たまーに男前な事をいうんじゃねーよ」
「まぁまぁ、もういいいじゃん。ピクニックだよー、楽しいよー」

真人の手を引っ張り走り出した。「お前なー」と言いながら笑う真人を見てなんだか心がほんわかした。真人はよく周りの人から「過保護過ぎる」と言われるけど、私はそれで幸せなのだ。優しくてかっこいい私の自慢の妹です。
暫く2人で歩いてると後ろから声が聞こえてきた。

「おーい!ねぇ、待ってよー!」

声の聞こえた方へ振り向こうとした私を「見るな」と真人が阻止した。そして繋いだ手の力を強め早足で歩き出した。

「え、ちょ、待ってってばー!」

それでも声の主は諦める様子がなく近づいてきてる。気がする。それと共に私達の足もだんだん早まってく。これはもう、走ってるね。うん。
が、頑張り虚しく人の気配がすぐ背後まで迫ってきて「チッ」と聞きなれた舌打ちが聞こえてきた。

「もうー、足速いってー」

追いかけて来た人が真人の肩に手を置こうとしたが、それを真人は払いのけた。そして私をそっと背後に隠した。

「触れるなゴミ。」
「ゴミ!?ちょ、酷いなー」

アハハーと笑うその人はチャラ男臭がムンムンに漂っている。こんな人と関わりはないはずなんだけど、何の用だろうか。・・・まさか、カツアゲ!?

「いやぁ、面白いねー」
「知らん。」
「もー、お喋りしたいなーと思って来たのになー」

ニコニコと気持ち悪い笑顔で変な事を言ってきたチャラ男。コワいんですけど。

「ゴミと話す事などない。」
「いやいや君じゃなくてー、後ろの君」

語尾にハートマークが付きそうな勢いで今世紀最大に気持ち悪い事を言ってくるチャラ男に、私は蕁麻疹が出そうです。

「こいつ気持ち悪いな。行くぞ真弓」
「ちょ、待ってよ」

真人も呆れてその場を去ろうとした。が、チャラ男がそれを阻止しようとしたのか私の手を掴んできた。その瞬間、真人の目の色が変わりボソッと「殺す」と呟いた。

「え、ちょ、はっ!?」

真人はすかさず私とチャラ男を遠ざけ、手早く突撃銃(機関銃)を構えるとその銃口をチャラ男に向けた。

「ゴミが。殺す。」
「おま、校外での武器の発動は校則違反だぞ!?」
「構わん。死ね。」
「真人!ダメ!」

真人に声をかけるも届いてないみたいで反応がない。真人の元へ走りだそうとした瞬間、どこからかピーッと甲高い笛の音が聞こえた。

「白石真人。学校外での武器発動は校則違反です。直ちに銃を下ろせ。」

声のする方を見ると眼鏡をかけた女の人が立っていた。この人は、風紀委員会顧問の益田蒼(ますだあおい)先生だ。

「白石真人。聞こえないのか、銃を下ろせ!」

さっきよりも強くなった声に真人の体はやっと動いて銃を下ろした。益田先生は真人の元へ行くとそっと突撃銃を取った。

「規則により貴方の武器は没収します。詳細は2-A担任の佐野翠(さのみどり)先生へ伝えます。それまで大人しくする事。いいですね」
「・・・・」
「いいですね!」
「・・・はい」

表情を変えず返事をする真人を見て先生は「はぁ」と短いため息をついた。そしてチャラ男へ目を向けた。

「貴方は怪我はありませんか」
「えっ、あ、はい、あ、ありません・・」

チャラ男は少しビクッとした後先生の問に答えた。次に先生の目は私に向けられた。目力の強さにゴクリと唾を飲んだ。

「・・・」
「・・・さぁ、学校まではもう少しですよ。」

何か言われるのかと構えてたが特に何もなく少し呆気に取られてしまった。あ、そんな事より、真人だ。

「真人、真人、」
「・・・・・・なのに」
「え?」

真人の元へ行くと何か呟いていた。よく聞いてみると「あと少しだったのに」と言っていた。それを聞いた瞬間、私の中で何かがプツンと切れた音がして、気づいたら真人の頬を叩いていた。

「ッ・・」
「バカ。バカ、バカ、バカ!」
「・・・真弓、」
「殺しちゃったら人殺しだよ!捕まっちゃうんだよ!刑務所に行っちゃうんだよ!」
「・・・ごめん」
「そしたら一緒に居られなくなるんだよ!側に、居られなくなるんだよ!」
「うん・・ごめん・・」

真人は眉を下げしょんぼりとした。顔をのぞき込むと今にも泣きだしそうな顔をしていた。あーぁ。かっこいい顔が台無しだなー。

「ずっと、守ってくれるんでしょ?」
「っ・・うんっ」

真人は小さくもう一度「ごめん」と言った。よしよしと頭を撫でてあげる。すると照れながらも嬉しそうな顔をした。この顔はきっと私しか知らない顔。姉の特権だよねー。優越感。

「よし、じゃあ行こっか」
「うん。そうだな。」

手を繋いで歩き出した私達を、ずっと見つめる視線がある事を感じる余裕がこの時の私にはなかった。


────────────


暫く歩いて行くと校門が見えてきた。あー、やっと着いたー。

「とうちゃーく!やっと着いたー!」
「疲れた・・もう絶対にこんな所歩かねぇぞ」

真人もいつもの様に戻り、私は達成感に満ち溢れていた。それはもう清々しく。

「遅かったですね。待ちくたびれましたよ。」

急に背後から声が聞こえてきて盛大にビクッとしてしまった。振り向くと益田先生が立っていた。いや、もう、ホント、心臓バクバクなんですけど。

「え、す、すいません・・?」
「全く。白石、妹の躾はちゃんとして下さい。」
「は?躾、だと?」

「そうですよ」と不敵に笑いながら真人と睨み合ってる益田先生。さっきの態度となんか違うなーと思った方、大正解ー。実は仲良しさんです私達。
風紀委員会顧問と言う立場上、特定の生徒との交流はあまりよろしくないらし。で、他の生徒が居る時はさっきみたいに鋭い目つきで厳しい益田先生、誰も居ない時は今みたいに優しい(?)益田先生になる。

「私の武器返せ。」
「それは無理です。規則ですから。」
「チッ」

これは確実に先生が正しいよ。うん。

「ちゃんと翠に伝えておきますからねー。」

フフフとまた不敵に笑う先生は魔女みたいで怖いです。翠と言うのは私達のクラスの担任の先生の名前で、佐野翠先生の事。

「めんどくせぇ・・。あいつ絶対何か言ってくるだろ」
「違反をしたのは妹ですよ。自業自得です。」
「・・うぜぇ」

先生が正論すぎて、何も言い返せてない真人。2人の会話はいつ聞いても面白い。そして何故か、先生は真人の事を絶対に名前で呼ばない。理由を聞いてもいつも流されて教えてくれない。嫌いって訳ではないみたいだから、別にいいんだけど、気になる。

「さて、そろそろ皆が到着します。貴方達は寮へ向かいなさい。」
「あれ、私達が最後じゃないのー?」

私達が乗っていたバスは最後尾のバスだったし、きっと他の皆は迎えに行ったバスに乗ってるだろうと思っていたけど、違ったのかな。疑問が顔に出てたのか、先生が小さくため息をついて教えてくれた。

「・・迎えのバスにはほんの数人しか乗っていませんでしたよ。大半はバスを降りて歩いているそうです。」
「うわー。マジか。」
「え、歩いてるの?あの人達が?」

文句ばっか言ってたのに、意外すぎる・・・。

「兎に角、貴方達は寮へ。また問題を起こされても困ります。」
「会っても気まずいもんね。行こう、真人」

「またねー」と先生に手を振り、私達は寮へと向かった。
その後、益田先生が安堵のため息をついてた理由も知らずに。

1-2

寮へ着くとベッドへ直行しダイブした。約1ヶ月ぶりのベッドだが布団はふかふかしていて気持ち良い。これも寮母さんが各部屋をちゃんと管理して定期的にお掃除してくれてるお陰だ。ありがたやありがたや。

「真弓・・・」
「ん?どーしたの、真人」

真人が私のベッドに腰をかけて名前を呼んだ。顔に目を向けると眉間にシワを寄せて、どこか悔しげな表情をしていた。

「守れなくて・・ごめん、」
「・・・・」

あぁ、さっきの事、か。

「ううん。私は大丈夫だよ。ほら、元気元気!」

笑顔でそう伝える。それでも真人の表情は変わらないまま、そっと私の右手を手にとった。

「触れてしまったんだ・・大切なお前の身体に、汚い物が」

"人"を物呼ばわり。いつもの事。
真人は周りの人を人だと思っていない。私と両親を除いてね。原因は勿論ある。凄くザックリ言うと"私"だろうか。詳しくは、また今度。
まぁ、ここに入学してから1年とちょっとで特定の先生、クラスの皆、極少数の生徒は受け入れてくれる様になって、一応マシにはなったんだけどね。さっきまで一緒に居た益田先生もその中の1人。

「ごめん、真弓・・ごめん」
「真人・・」

何度も謝る真人をギュッと抱きしめた。頭を撫でると真人も私を抱きしめた。暫くそのままで居るといつの間にか私は眠っていた。


────────────


ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、

目覚めはあまり良くないもので、呼び鈴のチャイムが鳴り響いていた。あー、これはきっとあの人の仕業だ。

「んー、いつの間にか寝ちゃってたねー」
「私が行くからいいよ」

起き上がってベッドから降りようとした私を止め、真人は扉へと向かった。手を広げ背伸びをしていると騒がしい声と共に身体に何かが激突してきた。ちょっと痛いです。

「真弓ー!私の真弓!あー可愛い可愛い!」
「ゴラァ変態糞教師離れろボケカス」
「ちょ、翠ちゃん、」

私を力強く抱きしめスリスリと頬ずりをしているこの人が佐野翠先生。私は「翠ちゃん」と呼んでいる。クラスの担任で、私達の良き理解者さん。・・・なのはいいんだけど、苦しい。 真人の暴言ハンパないし。

「テメェマジでぶっ殺すぞ」
「武器を没収されたお前が殺せるのか?この私を」

やっと解放されたかと思えは2人で睨み合ってるし。
翠ちゃんは見た目はゆるふわで可愛らしい感じなんだけど、性格が凄くたくましい。初めの頃はそのギャップに中々馴染めなくて戸惑った。今はもう大丈夫だけどねー。

「ちょっと2人ともストップー。翠ちゃんどーしたの?急用?」

まだ睨み合ってた2人を止めて翠ちゃんに用事を聞いてみた。すると「あ、そうだった」と言うと近くの椅子を持ってきて座った。

「蒼に聞いたが、お前ら今朝男子生徒と一緒だったんだって?」
「あー、まー、そーなるかな?」
「勝手に着いて来ただけだ」
「それは、1人か?他に誰か居なかったか?」
「え、んー、誰も居なかったよ・・?」

翠ちゃんの質問の意図が分からず、首をかしげた。真人は「変人」と言わんばかりの目線で翠ちゃんを見ている。翠ちゃんはふぅとため息をつくと、言葉を続けた。

「お前ら、"異動願"は知ってるな」
「え、うん。一応は。」

"異動願"。それはクラス替えを生徒自らが志願すると言うこの学校特有のシステム。と言うのも、入学してから卒業するまでクラスが替わらない為、ずっと同じクラスメートと過ごす事になる。その間、問題が発生した時に対処する手段の1つとしてこの異動願がある。
何となくとか気分とかでも使えるが、基本的にはこれまでの成績に再試験と面接の実施がある為、結構面倒くさい。故にほとんどの生徒は利用しない。

「今日な、異動願が大量に出された。しかも全てAクラス志望だ。」
「は?何だよそれ」
「え、ちょ、え?」

Aクラスと言うのは私達のクラスだ。 この学校は1学年4クラスに分けられてるんだけど、その基準が入学時の学力の高さになる。分かりやすく言うと、「A、素晴らしく大変良く出来ました」「B、良く出来ました」「C、頑張りましょう」「D、物凄く頑張りましょう」みたいな感じかなー。
Aは、学力がズバ抜けて高い人しか入れない優秀クラス。私、一応頭良いんだよ(笑顔)。Bとの差も物凄くあって、容易に入れるクラスではない。他のクラスの子がAに異動願を出したとしても、再試験の時点で却下される事が多い。

「1年に1回出るか出ないかの異動願が大量に出されただけでなく、全てAの志願。職員達は困惑していたよ。もちろん私もな。」
「・・・おい、それは私達と関係があるのか」

真人の問いに翠ちゃんが少し黙った。そしてゆっくり口を開いた。

「・・・異動願を出した生徒な、全員あのバスに乗っていた奴らしい」
「え、」
「そして、志願理由がほぼ全員"Aの双子に会う為"だったそうだ」
「意味分かんねぇ」

そんな理由で異動願が出せる事にまず驚いてます。私情にも程があるよコレ。真人も呆れているし、翠ちゃんも「私も引いた」と笑っていた。
私と真人は他のクラスの子から"Aの双子"と呼ばれている。まぁ、双子だしいつも一緒に行動してるし真人目つき悪いしで、ぼちぼち目立ってるらしい。こんな真人でも一応かっこいいから(さっきから色々失礼)、少数だけどファンの子が居る。本人はうっとおしいらしいけど。
普通の子は怖くて近寄ってこないんだけどねー。真人は目で人を殺せるから(嘘)。

「何で私達に会いたいんだろ・・真人のファン?」
「そんな感じの奴も何人か居たなー」
「わー。ファン増えたね真人」
「やめてくれ。」

心底嫌そうな顔の真人。あー。楽しい(酷)。

「お前ら、バスで何か言ったんだってな。聞いたぞー」
「私は言ってない。真弓だ」
「いやぁ、つい」
「真弓・・原因はお前か」

翠ちゃんは頭を抱えた。え、原因?何の事?

「何でお前らに会いたいのか聞いたら、皆口々に"あの時の言葉が"とか"惚れぼれした"とか言っててなー。」
「え、真人じゃなくて、私?」
「いや、幸いどっちが言ったかは分からないらしい。ただ、イメージ的に真人だろうって事にはなってるみたいだがな。」
「おい、完全に巻沿いじゃねーか」

「ハハハハ、そうだなー」と大爆笑の翠ちゃん。真人が視線で殺そうとしてますよ!!

「まー、大半が即却下だったし、残りも再試験でダメだったんだけどなー」
「なら、特に問題はないよね?」
「いやー、そうでもなくてな、」

翠ちゃんは苦い顔をして頭をかいた。短時間で表情コロコロ変わって、翠ちゃん忙しいなー(呑気)。

「なんだよ。そうでもないって」
「それがなー、1件だけ通ったんだよ」
「え、通った、って?」
「異動願、受理されたんだ。1つだけ」
「マジかよ・・」

驚いた。さっきも言ったけど、Aクラスは優秀クラスで容易には入れない。在学中に他のクラスからAに異動した例は、これまで片手で足りる程しかいないと聞いていたけど・・(因みに学校は創立167年目)。

「し・か・も、そいつがなー、」
「う、うん」
「・・Dから来る」
「は・・・?」

え、DからAに・・・?あ、ありえない・・

「これは、学校創立以来初めての事だそうだ」
「え、そんな事、出来るの・・?」
「成績、試験、面接、全て基準を満たしている。いや、大幅に超えていた。」
「何でそんな奴がDに居るんだよ」
「私が知るか」

少し沈黙が続いた。その人は何故Aに入りたいのだろうか。真人のファン?それとも、他の人のファン?んー・・いくら考えても分からない。

「兎に角、今言えるのは"まともな奴ではないだろう"って事だな」
「そうだな。」
「目的は知らんが、きっかけはきっとお前らだ。気をつけろよ」
「当たり前だ」
「うん、分かった」

楽しく、何事もなく、幸せに生きて行きたい。限られた空間でもいい。大切な仲間達と居れればそれでいい。そう思っていたのに・・・。

「で、早速明日から来るんだが」
「始業式だし、午前中で終わるだろ」

私達の守ってきた場所が少しづつ崩れて行く音は、誰の耳にも届かない。

2-1

「むにゃむにゃ・・すやぁ」
「・・・」

あぁ、なんて可愛い寝顔。天使だ。萌え要素たっぷりの私だけの天使だ!
・・はい、こんにちは。白石真人です。今寝ているこの天使は私の双子の姉の真弓です。私に似ずスクスク可愛く育ってます。素晴らしい。

ピピピ、ピピピ、ピピピ、

「んっ・・・んー、ふぁー、あ、おはよぉー」
「おはよう、真弓(ニヤニヤ)」

目覚まし時計の音で目覚めた真弓は可愛い笑顔で起床の挨拶をした。あー。1回「目覚まし時計この野郎」とか思ったけど、いいモノ見ましたありがとう目覚まし時計!
「今日からまた学校だねー眠いねー」とか言いながらベッドでゴロゴロしてる姿とかマジ天使!こんな可愛い天使を生んでくれてありがとうお母さん。そしてそんなお母さんを生んでくれてありがとうおばあ(以下略)

「真人鼻血出てるよー、はいティッシュ」

いつの間にかベッドから起き上がっていた真弓の声にハッとした。危ない危ない。変な橋を渡るところだった。

「ねぇねぇ、朝ごはん食堂で食べよー?」
「無理だ」
「即答っ!?」

「オムライス食べたいー」とむつけてる真弓。カワイイ。
真弓は食堂のオムライスが好きらしい。去年の文化祭の時に食べて以来、時々こうやって聞いてくる。だが、食堂なんて人が多い所に連れていく訳にはいかない。それに昨日の今日だ。行ったら恐らく騒ぎになるだろう。

「また文化祭の時にでも行こう。それまで待っててくれ。」

頭を撫でてやると「はーい」とむつけながらも返事が来た。マジかwa(以下略)
仕方ない、今日の朝ごはんはフレンチトーストでも作るか。コレも真弓の大好物だ。きっと機嫌も直るだろう。・・と思って食卓に出すと「わーい!フレンチトースト!」と子供の様に喜んでいた。たまにお前の単純さが不安になるよ、真弓。

「忘れ物はないか?」
「ない。多分」
「・・多分なんだね」

真弓は結構テキトー人間だ。だからこそほっとけない。今日は授業ないし、大丈夫だろうけど。
部屋を出て校舎へと向かう。道中明らかにこっちを見ている奴や指を指してくる奴が何人か居たけど気にしない。教室に着くと見覚えのある人が扉の前に立っていた。

「何の用だ。邪魔だ。」
「あっ、ま、真人様、す、すいません」

この子は姫岡柚子(ひめおかゆずこ)。私のファンだとか言って追っかけてくる軽いストーカーだ。

「あ、柚子ちゃんだー。おはよー」
「あ、あんたなんかに、名前で呼ばれなくないっ!」

ついでに真弓の事が嫌いらしい。好かれすぎてるのも困るが嫌われてるのも妹としては複雑な気分だ。真弓本人は全く気にしてないみたいだがな。

「真弓、教室に入ってろ。」
「はーい」

教室の扉を閉めて「で、何」と聞くと「あ、あの、」とモジモジしだした。真弓がやったら可愛くて萌えるがこいつがやっても全く萌えない。残念だ。

「真人様、あの、昨日の件聞きました。それで、その、沢山の方が真人様の魅力に、気づいてくれました、」
「それがなんだ」
「えっと、あの、私、周りの方の勧めもありまして、この度真人様の、ファンクラブの初代会長を務める事になりましたっ」
「・・・は?」

「よろしくお願いしますっ」と目を輝かせて言う姫岡。いや、全くもって嬉しくないんだよこっちは。

「そういうの、嫌いだと言ったはずだ」
「で、でも、本当に沢山の方が真人様を、」
「それが嫌なんだ。」
「ご迷惑はお掛けしませんっ」
「いや、もう既に「いいんじゃなーい?」

「迷惑だ」と言おうとしたら聞きなれた声に遮られた。振り返ると窓から顔を出した真弓が笑顔でこちらを見ていた。

「真弓、お前には関係ないだろ」
「そんな事ないよー、お姉ちゃんだもん」

こいつは、何を考えているんだ・・あまりいい事ではなさそうだが。

「ファンクラブ、作ろう作ろう!」
「お前な、他人事だと思って」
「私は嬉しいよ。」

急に真面目な顔をしてそう言った真弓は、珍しく"お姉ちゃん"だった。

「真人は凄いんだよ。もっともっと認められるべきだよ。」
「・・・」

あまりにも真剣に言うから何も言い返せない。姫岡も黙って真弓を見ている。するとパッと笑顔に戻った真弓が「ね、柚子ちゃん」と声をかけた。

「柚子ちゃんもそう思うでしょ?だから、嬉しいんだよね。仲間が沢山できて」
「っ・・は、い」

突然の事に少し困惑した様に返事をした姫岡。それでも、目は輝いてる様に見える。あー、もう、ホントこいつはー・・。

「はぁ・・・、分かったよ」
「え、真人、様、」
「真弓に免じて認めてやる」
「おー、認められたねヤッター!」

「バンザーイ」と手を上げてる真弓と嬉しそうに泣く姫岡。不思議な構成だなコレ。

「ただし、姫岡」
「は、はいっ」
「真弓に手を出す奴が居たら即刻殺す。それがお前だったとしてもだ。」

「分かったか」と言うと姫岡は暫く黙った。そして静かに「分かりました」と言った。
ファンクラブと言うのは不特定多数が集まる集団だ。1人では出来ない事も複数になれば出来てしまう。それが善であればいいが、悪がないとも限らない。真弓がそれに巻き込まれるのは避けようと思いこっちは行動してるのに、当の本人は知ったこっちゃないだろうな。まあ、"自分よりも他人"気質なあついらしいっちゃ、あいつらしいがな。

「もう用は済んだろ。HR始まるぞ」

そう言うと姫岡は「はっ!そうだった!」と言い頭を下げ自分の教室へと走って行った。悪い子でない、とは思うんだけどなー。

「おい、お前らもHR始まるぞ」

いつの間にか後ろにいた翠に頭を叩かれた。いや、叩く必要性ないだろ今。睨んでやるとフッと鼻で笑われた。・・・ムカツク。「HR始めるぞー。席につけー。」と言いながら教室に入る翠の後ろに続いて教室に入り、自分の席についた。
出席をとってる最中、後ろの席から「ふぁー」とあくびをする声が聞こえチラッと後ろを見ると、真弓が眠そうに目を擦っていた。あー、かわ(以下略)

「よし。それじゃー始業式に向かうぞー。・・と言いたい所だが、その前に紹介する奴がいる。おい、入ってこい」

教室の扉が開かれ、皆一斉にそちらを見る。
入ってきた人物は颯爽と黒いロングストレートの髪を靡かせながら黒板の前へと歩く。こいつが、Dに居た変人か···。

「初めまして。Dクラスから来ました、結城朱(ゆうきあけり)です。よろしくお願いします。」

ニコリと笑った結城朱とか言う奴。みんなザワつきはじめた。そりゃそうだよな。Dから来る奴なんて、聞いた事ねぇんだから。
翠が「お前の席あっちなー」と指さした方向はこちらと結構離れてて安心した。

「よし。そろそろ向かわないとヤバいから急げー」

皆席を立ち体育館へと向かい始めた。私は真弓を起こして(やっぱり寝てた)他の奴らと一緒に歩きだした。終始強い視線を感じていたが、そんなの気にしない。

2-2

始業式も終わり教室に戻ってきた私達は話し合いを始めた。内容はもちろん今日来た"アイツ"の事。
「真人は結城さんの事知っていたんですね。あまり驚いていませんでしたから」と眼鏡を拭きながら言ってるのが藤井壱(ふじいはじめ)。頼れる学級委員長だ。
「Dからなんて、何が目的なのかしらー」と鏡を見ながらメイク直しをしているのは秋野郁澄(あきのいずみ)。大人の色気しかない奴。
「真弓は僕が守るからなっ!」としれっと許し難い事を言ってるのが木村心音(きむらしおん)。「私もしーちゃん守るねー」と真弓に言われ告白はあっさりスルーされてる。ざまぁ。

「昨日の件は大まかには聞きましたが、それがきっかけだとするとやはり目的は真人と真弓のどちらかではないでしょうか。」
「真弓だった場合直ちに殺すけどいい?」
「いい訳ないでしょバカ」

郁澄に頭を叩かれた。あれ、今日誰かにも叩かれた様な気が・・

「しーちゃんどーしたのー?」
「いや、何でもないよ・・(告白スルーされた・・泣きそう)」
「んー・・・」
「はぁ・・(僕やっぱり男として魅力ないのかな・・)」
「しーちゃん、しーちゃん、」
「え、なーに?」
「飴ちゃんあげるから、元気だして?」
「ま、真弓・・っ」

うんうん。真弓はなんて優しい子なんだ。こんな男のくせにナヨナヨしてる奴に構うなんて、優しすぎるだろ。と真弓の素晴らしさに浸っていたら、目の前で心音が真弓に抱きついていた。あ、殺そう。

「心音やめなさい。真人が目と殺意だけで貴方を殺そうとしてますよ。」
「えっ!!やだ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

土下座してる心音を無視して真弓を腕の中に収め膝の上に座らせた。うん、最初からそうすれば良かったんだよな。

「全く、ホントシスコンよねー真人は」
「シスコンではない。愛だ。」
「それはそれで問題しかないですよ」
「生まれた時からずっと一緒に居るんだ。愛が芽生えても可笑しくはないだろ。」
「「・・・(ドン引き)」」

2人だけの姉妹。親は共働きで家ではいつも2人きりだった。愛は芽生えるだろうが(そんな事ない)。

「えっと、話を戻しましょうか、ね。」
「そ、そうね、」
「でも今のところ何も動きないよね。明日からとか?」
「今は様子見じゃないかしらー。何か考えてるとか」
「恐らくそうでしょうね。こちらもそれなりに行動しなくてはいけませんね。」

何か、気づいたら私抜きで話し合いが進んでるんだが・・。皆酷くないか。

「ん、ちょっとトイレー」
「真弓、ぼ、僕が一緒に」
「てめぇ女子トイレに入る気か。私と行くぞ真弓」

再び落ち込んだ心音を置いて真弓と一緒にトイレに向かった。トイレにまで着いて行くのかよとか周りは思うだろうが気にしない。これは私の意思でもあり真弓の意思でもあるんだ。あー、別にトイレが怖いとかではない。
廊下で真弓が出てくるのを待っていると誰かが近づいて来る気配がした。殆どの生徒は寮に戻ってるはずだから、先生だろうか。

「こんにちは」
「・・・」

声を掛けられ顔を向けると"アイツ"こと結城朱が立っていた。

「そんなに睨まないでよ、別に何もしないよ」

笑顔で喋る結城。この笑顔が胡散臭くて私は嫌いだ。

「ただ、忠告をしようと思ってね」
「・・忠告?」
「うん。昨日君達を追いかけた男の子、覚えてる?」
「・・それがなんだ」
「その子には気を付けた方がいい」
「どういう意味だ」
「あまり近づかない方がいいって事だよ」

言葉の意図が分からず睨んでもずっと笑顔。あー、ホント気味が悪い。

「じゃ、それだけだから」
「は?意味わかんねぇんだけど」
「僕が言えるのはこれだけ。じゃーね」
「お、おいっ」

呼び止めても結城は振り向きもせず去っていった。直後、真弓がトイレから出てきて「どうしたの?」と聞いてきたが「何でもない」と伝え教室へ足を向けた。何なんだ、アイツは・・。

「お帰りなさい。時間も時間ですし、そろそろ寮へ戻りましょうか」
「まだ何も話し合ってないぞ」
「私達で話したから大丈夫よー」
「・・・」

何この除け者感・・ちょっと仕打ち酷くないですかマジで。

「真人はいつも通り真弓を守ればいいんですよ。あとは私達に任せて下さい」
「・・分かった」

ま、壱が何かしら考えてくれてるんだろう。任せるとするか。

「壱ちゃん、私は何したらいいー?」
「んー、そうですねー、真弓はー」
「私から離れなければいい。」
「それちょっと違うー!」
「ふふ、それでは真弓は真人を見張っていて下さい。いつ死人が出ても可笑しくないので」
「あ、そうだね!りょーかい!」
「いや、納得するなよ」

壱と真弓の会話は保育士と子供みたいでなんだかほっこりする。真弓がガッツリ甘えるのは母さんと私と壱くらいだろう。一番は私だけどな(ドヤ顔)。
さて、ここまで付き合ってくれた奴は分かってるだろうけど、私は物凄く真弓が大好きだ。姉妹とか同性とかそう言う概念は今どき古いんだよ。かなり昔に同性間でも子作りが出来る様になってるし、血縁者同士の結婚も珍しくない。時代の進歩って素晴らしいんだよ。

「今日の夕飯は何作るのー?」

寮の部屋に戻ってすぐ私にそう聞いてきた真弓。うん、こいつ最近食い気しかないんだよなー。成長期ってやつか?

「何が食べたい?」
「オムライス!」
「食堂は行かないからな」
「しょ、食堂は、また今度にするよ、」

図星だったのか目を泳がせている。分かりやすすぎるぞ・・!!!可愛いけど!!!

「私のオムライスで残念だったな」
「え?何でー?」
「食堂程の美味さはないぞ」
「そんな事ないよ?真人のオムライスは世界一美味しいもん!」
「ッ・・お前って奴はー、」

満面の笑みでそんな事言われたら嬉しくないはずが無い。最近食堂のオムライスしか言わないから、私の作るオムライスは忘れたんだと思っていたのに・・こいつはホント、小悪魔だ。

「はぁ・・作っといてやるから、先に風呂入れ」
「うんっ、分かった!」


────────────


夕飯を食べ終えソファに座って真弓と一緒にテレビを見る。恋愛系の連ドラで毎週欠かさず見ている。・・真弓がね。私はそれに付き合ってるだけ。正直テレビに見入ってる真弓を見るので忙しいんだ。主人公が落ち込むと真弓も落ち込み、喜ぶと真弓も喜ぶ。何この可愛い生き物!!

「ま、真人、」
「ん?何?」

可愛い真弓に癒されていると急に名前を呼ばれた。

「あ、あのね、」
「うん」
「こ、これからも、私にオムライス、作ってね!」
「へ?」

何か急に変な事言ってるし、何か聞き覚えのあるセリフだしで頭をフル回転させてみた。あー、つい数秒前、聞いたな。ドラマの主人公が恋人にプロポーズをする場面。『これからも俺に味噌汁作ってくれないか』これは大昔からのプロポーズのセリフの定番と聞いている。え、このドラマどんだけベタなんだよ。
え、いや、それより・・・

「真弓、お前、それって、」

顔を真っ赤にして俯いてる真弓。・・・全く、ホント何なんだよこの可愛い生き物は!!!

「真弓」
「な、なに、」

可愛すぎて抱きしめた。耳まで真っ赤にして、あー、可愛すぎる。

「もちろん。ずっと作ってあげる」
「う、うんっ」
「そのかわり、」

耳元で言うとバッとこちらを見た真弓が満面の笑みで「もちろん」と言って抱きついてきた。どこまでも可愛い姉だ。
実は、私よりも真弓の方がシスコンだと言うことはあまり知られていない。私の真弓への愛よりも、真弓の私への愛の方が断然重かったりする。要するにバリバリ両思いな訳だ、私達は。

「これからも、美味しいって言ってね」

これは私からのプロポーズ。

3-1


────────────


夢を見た。
1人の小さな女の子が立っている。
こちらを見ている。
──誰?
問い掛けようよした時黒い大きな塊が来た。
途端に周りは赤く染まりたくさんの悲鳴が聞こえる。
暫くすると大きな塊は居なくなり静かになった。
女の子が立っていた場所には誰も居なかった。

あぁ、たべられてしまった

誰かがそう言った。
これは、夢。


────────────


「オ・ム・ラ・イ・ス!」
「この前食ったろ」
「それは真人のやつー!次は食堂の!」
「次はって何だよ。もう十分だろ」
「オムライスは毎日食べても飽きません!」

真弓でございます(サ●エさん風)
新学期が始まって早2週間。いつも通り授業を終え帰り支度をしている真人にいつも通り駄々をこねてます。

「毎日オムライスって、どんだけ栄養偏ってんだよ!」
「オムライスお野菜入ってるよ!」
「微量だろうが!大半は米と卵じゃねぇか!」
「じゃあサラダも食べる!」

「そう言う事じゃねーよ!」と凄く怒ってる真人。えー。何が違うんだよー。

「真弓!ぼ、僕が一緒に」
「てめぇは黙ってろよ。無い脳みそもっと空っぽにしてやろーか」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

しーちゃんがまた真人に殺されかけてる。毎日飽きないなぁー、もう。(※毎日駄々をこねてる人)

「真人、あまり心音を虐めないで下さい。」
「虐めてない。教育だ。」
「ええぇえ!!これ教育だったのぉおぉおお!?てか何のぉおぉぉおおお!?」
「脳みそ空っぽにする教育って何よそれ・・」

いやぁ、今日も賑やかだ!

「2週間ずっと言ってるんですよ。そろそろ折れたらどうですか真人。」
「何で私が折れなきゃいけないんだ」
「いや、そろそろどっちかは折れなさいよ。いつまで続ける気?」
「私はオムライス!」
「いや意味わかんないから」

私も頑固だけど真人も頑固なんだよねー。これが双子の欠点だな・・。いずみんは呆れてるし壱ちゃんは何か考えてる。しーちゃんは、あれ、まだガクブルしてる。大丈夫かなアレ。

「こうなったら行きましょう。食堂へ」
「はぁぁあぁ?」
「ホント!?やったー!」

さすが壱ちゃんだなー。分かってる分かってる!

「おい、何考えてんだよ」
「流石に文化祭時のみでは真弓が可哀想ですよ。この時間なら人も少ないでしょうし、私達もご一緒します。またにはいいでしょう?」
「・・ チッ、分かったよ、」

持つべきモノは友だ!!壱ちゃんはいつでも私の味方してくれる有難い存在です。お供物したいくらい!(要りませんよ。壱)
復活したしーちゃんも一緒に皆で食堂へ向かった。真人はずっと納得いかない顔をしていたけど、ちゃんと着いてきた。これはあれだな。寝るまでずっと不機嫌な予感がする。

「それでは私と真人は注文して来ます。郁澄達は席に座ってて下さい。」
「わかったわ」
「りょーかいっ」

食堂に着き、席に座ってオムライスを待つ。はぁー、やっと食べれる私のオムライスちゃん!

「ホント2人とも頑固なんだからー。あまり私達を巻き込まないのー」
「だって、真人がー」
「真弓、自分が姉って自覚ある?」
「・・・うん!」
「ないんだね」
「聞いた私が馬鹿だったわ」

しーちゃんは苦笑いし、いずみんは頭を抱えてしまった。うーん、そう言えば忘れてた・・。私、お姉さんじゃん!!

「あっれー?真弓ちゃん?真弓ちゃんじゃーん!」
「真弓、ちゃん、?」

3人で微妙な空気になっているとどこかで聞いたことある声に名前を呼ばれた。声のする方へ顔を向けると、会いたくもない奴第一位、忘れる5秒前だったチャラ男が立っていた。

「真弓ちゃんだー!うわー、真弓ちゃんだー!」
「え、ちょ、なにこれ?」
「真弓、こんな奴と知り合いなの?」

何故か興奮気味のチャラ男から遠ざかり、いずみんの後ろに隠れる。しーちゃんといずみんは訳分からないと言いたげな顔で私とチャラ男を交互に見た。

「バスの時の、あの、話した、男、」

ちょっとしどろもどろになりながらも2人に伝えると「「あー。なるほど」」と納得してくれた。私は今、チャラ男への拒否反応なのか全身鳥肌が立っています。色んな意味で気持ち悪い。

「真弓ちゃんあれから全然見つけれなくて、俺心配してたんだよ!」
「いや、何で」

あぁ。なんて気持ち悪いんだ。何で心配されなきゃいけないんだ。意味がわからないよ。

「体調崩してない?ちゃんとご飯食べてる?あ、少し痩せたよね、大変だ!」
「ちょ、何だよお前、」

しーちゃんの言葉なんか聞こえてないみたいにずっと喋ってるチャラ男。すごく怖い。

「そうだ。俺が作ってあげる!真弓ちゃんの為に俺がご飯作ってあげるよ!ね、真弓ちゃんもそれがいいよね?そうだよね?」
「ちょっとあんた、ホント何なのよ」

おずおずと近づいてくるチャラ男から逃れるように後ずさる。いずみんとしーちゃんが庇ってくれてるけど、もう後ろは壁。あーっ、なんで角の席に座っちゃったんだろう私達・・。

「真弓ちゃんは何が好き?から揚げ?ハンバーグ?カレーの方がいいかな?俺、何でも作るよ」

キラキラーという効果音が聞こえてきそうな笑顔をこちらに向けてくるチャラ男。手をこちらに差し伸べて「さぁおいで」なんて言ってる。間違いない。こいつは馬鹿だ。

「お前、これ以上近づいたら」
「なーにしてるのかなー、後藤くん」

しーちゃんが武器に手をかけた時、誰かが声をかけてきた。「後藤くん」・・誰ですか。

「こんにちは、お3人さん」
「あ、結木、さん」

ひょこっとチャラ男の後ろから顔を出した結木さん。さっきの声は結木さんだったのか。

「後藤くん、ちょっと近すぎるよー。3人ともびっくりしてるじゃん」
「・・・朱」
「え、ご、ごと「ごめんねー、後藤くんが迷惑かけちゃって」

「後藤くんとは?」と聞こうとした私の言葉を遮って結木さんが謝罪の言葉を述べた。この感じからして、恐らく「後藤くん」はチャラ男の事だろうなー。え、結木さんと友達・・?

「朱、お前」
「元クラスメートと言えど、僕の新しいクラスメートを虐めないでくれよー」

「あははー」なんて笑いながら言う結木さんを複雑な表情で見ているチャラ男・・いや、後藤くん。正直何が起こってるか分からない私達は、ただポカーンと2人を見ているしか出来なかった。

「おい、何やってる」
「あ、真人!」
「やあ。こんにちは。」

この状況どうしようか悩んでいた時、真人と壱ちゃんが来てくれてた。真人は結木さんと後藤くんを睨んでいるのに、結木さんは笑顔で挨拶をした。この人、凄い。

「大丈夫ですか?3人とも」
「壱。えぇ、大丈夫よ」
「壱ちゃんー、怖かったー」
「僕真弓を守ったよ!」
「ふふ、心音ありがとうございます」

側に来てくれた壱ちゃんに抱きつくとよしよしと頭を撫でてくれた。安心します。

「てめぇ、何の用だ」
「ちょっとお喋りしてただけだよー。そんなに怖い顔しないでくれよ」
「てめぇらと喋る事なんかない」
「そんな事言わないで欲しいんだけどなー」

にこにこ笑ってる結木さんと今にも血管が切れそうな真人。チラッと後藤くんの方を見るとバッチリ目が合ってしまったので、急いで逸らした。なんでこんなに見てくるんですか怖いですよー。

「ま、いーや。十分お喋りできたし、後藤くん行こーか」
「朱、俺はまだ、」
「じゃ、またねー」

結木さんは笑顔で後藤くんをひっぱって行った。後藤くんは納得いかない顔でこちらを見ていたが、私は結木さんに感謝の気持ちでいっぱいです。いい人かもしれない。結木さん。

「もう……なんだったのよ、」
「あいつ、ムカつく」
「まぁ、真弓も無事ですし落ち着いて下さい。真人」

息を荒げている真人の背中を優しく撫でる壱ちゃん。暫くして落ち着いた真人を席に座らせて、持って来てもらったご飯をみんなで食べた。いつもの様に談笑しながら食べていたけど、真人は一言も喋らず静かに食べていた。

3-2

「それでは、また明日」
「うん、今日はみんなありがと!」

みんなと別れて寮の部屋に帰ってきた私と真人。未だに黙ってる真人を私は黙って見つめる事しか出来ないでいる。

「真弓、」
「へっ!?」
「おいで」

急に名前を呼ばれ変な声を出してしまったが、差し伸べられた真人の手を直ぐに掴み側に座った。真人はよしよしと頭を撫でてまた黙ってしまった。

「……真人、どーしたの?食堂行ったことまだ怒ってる?」

さすがに沈黙に耐えきれなくなり恐る恐る真人に訪ねてみた。

「…いや、怒ってないよ。だだな、、」
「だだ?」
「…最近色々あっただろ。ファンクラブが出来て周りが騒がしくなった。真弓不足なんだ。充電切れだ」

そう言うと真人はギュッと私を抱きしめた。たしかに、たった2週間でたくさんの事がガラリと変わった。周りを警戒し他人を寄せ付けない様にしていた真人の周りには、ファンクラブの子達が来るようになった。私に危害が加わらない様に真人は考えてくれて、最近は一緒に登校ぜす、私は壱ちゃんと登校している。下校時は真人もいずみんとしーちゃんも一緒に5人で。2人で過ごす時間は凄く減ってしまった。

「ファンクラブ、作ろうなんて言わなきゃ良かったかも……」
「今更だ。私は予想の範囲内だが?」
「私は予想の範囲外だよー」

「ははっ」と真人は笑った。正直ここまでだとは思わなかった。真人の魅力を共有できる程度だと思っていた。なんなら一緒に語り合えるかなとかも思っていた。私の考え、甘すぎた…。

「まぁ、お前のがないだけマシだな。」
「ん?私のなんて出来る訳ないじゃん」
「作らせない様にしてんだよ。」
「え?どゆこと?」
「んー、秘密。かな」

真人はまた笑った。よく分からなかったけど、いつもの真人に戻っていたので私も釣られて笑ってしまった。

「あ、でもアイツらと喋ってたのは怒ってるぞー。」
「アイツら?」
「結木とチャラ男だ」
「あー、え、でも、あれは、不可抗力だよっ」

結木さん達との事を思い出して必死に言い訳をした。いや、事実をね、言ってるだけだよ。うん。

「不可抗力だろーが何だろーが、イラつくんだよ」
「えー、ごめんなさい…」
「お、お前にじゃない、アイツらにだ。」

ちょっぴりシュンとしてしまった私を慌てて宥める真人。うん、いつもの真人。

「何であんな奴らにお前の声を聞かせなきゃいけないんだ。私だけの真弓なのに」
「ん?ちゃんと真人だけの私だよ?」
「お前の気持ちは分かってるからいい。でもな、お前が誰かを見るのも話すのも接するのも、本当ならしたくない。」

真っ直ぐと私の目を見てそう言った真人をかっこいいなんて思う私は、かなり重症で末期なんだろうなー。真人の気持ちが痛いほど伝わって来るから私は好き勝手出来るのだ。

「大丈夫。私の全て真人だけのモノだよ。真人の居ない世界なんて全てモノクロ。カタチすらない要らない世界なんだよ。私の目には真人しか見えてない。だから、安心して?」
「………ホント、お前には敵わないな」

真人はフッと笑いながら私をギューッと強く抱きしめた。私も強く抱きしめ返した。
何だかんだ、私も真人不足だったのかもしれない。オムライスなんてただの口実で、ホントは構って欲しかっただけなのかもしれない。

「もう少し正直になります」
「ん?なんだ?」
「ううん、何でもない」

「なんだよー」と笑う真人を見て幸せでいっぱいになった。


────────────


お風呂上り、飲み物を飲もうと思ったらストックが無かったので2人で売店へと向かった。ここの売店は24時間営業してくれているので、人が少ない時間を狙ってよく買い物をしている。

「真人、カルピス飲みたい!」
「1本だけだぞ」
「やった!」

大好きなカルピスをカゴに入れ、私はご満悦です。きっと顔に思いっきり出てる。真人しか居ないからいいよね。

「おや、こんな時間に買い物ですか?」

と思ったら誰かいたっ!あ、いや、益田先生でした。

「あ、益田先生も買い物ー?」
「ええ、色々とストック品が切れてしまったので」
「わ、お野菜たくさんっ!」
「栄養は大事ですよ」
「私には真人が居るから大丈夫!」

満面の笑みでそう言うと、益田先生は少し困った顔をして「そうですか」と言った。その時、お会計を済ませた真人がこちらへやって来た。

「あ、益田。」
「妹はいい加減"先生"を付けて下さい」
「公の場では付けてるだろ」
「そういう問題ではなくてですね…」

うん。やっぱり2人が揃うと口論が始まるんだよね。見てて面白いからそのままにしよう。
益田先生はいい人だ。何かと心配してくれるし、私達を気にかけてくれてる。お母さん、ともちょっと違うけど、安心感はある。

「で、どうですか?アレから」
「どうって、別に」

売店を出て、近くにある小さな中庭でベンチに座り私達は話を続けた。夏の夜風は日中よりも少し冷たくなってて心地がいい。

「移動願の件、妹のファンクラブ設立の件、貴女達は望まなかった事がこの短期間で起こってしまいました。きっと、これからもっと事は大きく広がるでしょう。」
「ファンクラブには釘は指した。それに、姫岡も居る」
「妹の釘がどこまで通用するかは分かりませんが、姫岡さんは頼りになる方だと思いますよ。」
「…どういう意味だよ」

益田先生はニコリと笑って「そのままですよ」と言った。真人は明らかに殺意のある目で睨んでるけど、益田先生は気にせず話を続けた。

「結木朱、後藤拓馬。今日この2人と接触しましたね?」
「後藤?…あー、あの男か」
「あの2人には気をつけた方がいいでしょう。」
「言われなくても分かってる」
「ねぇ、何で気をつけなきゃなの?」

結木さんは後藤くんから私達を助けてくれた。少なくとも、悪い人ではないと思うんだけどなー。

「真弓、アイツらはお前を狙ってるんだぞ。」
「でも、後藤くんから「白石」

「後藤くんから守ってくれた」と私が言おうとした時、益田先生に遮られた。

「彼の名前を言ってはいけない。彼の前では絶対に。 そして、結木は白石を助けたのではありませんよ。あの状況を楽しんでる様にしか見えません。信用するにはまだ早いですよ。分かりましたか?」

凄い眼力で私を見る益田先生は今までの中で1番怖いと感じて、私は小さく「はい」と返事をするしか出来なかった。

「さて。そろそろ部屋に戻りなさい。明日も早いですよ。」
「…そうだな。真弓、行くぞ」
「あ、うん」

「おやすみなさい」といつもの笑顔に戻った益田先生に2人であいさつをして部屋へと戻る。
後藤くん…何故名前を呼んではいけないのだろう…。きっと聞いても益田先生は教えてくれないだろう。そう言えば、結木さんにもあの時遮られた気がする…。何か知ってるのだろうか…。聞きたいけど、それは真人が許すはずがない。益田先生が言った通り、信用はまだ出来ないし…。
変なモヤモヤが残したまま、私は眠りにつくしか出来なかった。



────────────



「はい、分かってます。こちらは順調です。」

『────。』

「ご安心下さい。しくじり等しません。」

『──────。』

「お任せ下さい、我が主。」

日向ぼっこ(仮)

・白石真弓(しらいしまゆ)♀ 2-A 双子の姉
・白石真人(しらいしまこと)♀ 2-A 双子の妹
・藤井壱(ふじいはじめ)♀ 2-A 学級委員長
・秋野郁澄(あきのいずみ)♀ 2-A
・木村心音(きむらしおん)♂ 2-A
・佐野翠(さのみどり)♀ 2-A担任
・益田蒼(ますだあおい)♀ 風紀委員会顧問
・結木朱(ゆうきあけり)♀ 2-A(元2-D)
・後藤拓馬(ごとうたくま)♂ 2-D
・姫岡柚子(ひめおかゆずこ)♀ 1-A

日向ぼっこ(仮)

遠い未来の話。 舞台は全寮制の高校。 幸せを噛み締める日常はふとした時に崩れ行く。(予定)

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • コメディ
  • 青年向け
更新日
登録日
2015-08-05

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 1ー1
  2. 1-2
  3. 2-1
  4. 2-2
  5. 3-1
  6. 3-2