朝を告げて

「…映画観たいんじゃなかったっけ」


泣く子も黙る丑三つ時。
わたしは同じベッドで眠る、目の前で眠ってしまった彼を見つめる。
起こすのも気が引けるのでリモコンに手を伸ばしテレビを消した。

しん、と部屋が一気に静かになって置時計の音とふたりの呼吸の音だけが響く。


時間が時間なので、わたしも眠たい。
まどろむ意識のなかで彼をぼんやりと見る。
いつもわたしが先に眠ってしまうことが多いけれど疲れているのだろうか。
寝顔をここまでじっくりと見るのって珍しい、かもしれない。

(綺麗な寝顔だなあ)

彼の綺麗な寝顔と、時が止まったみたいに静かな夜更けというシチュエーションが非日常な感覚を加速させた。
わたあめみたいに甘くて淡い儚い気持ちと、通り雨みたいにすぐ消えるような切ない気持ちが湧いて、落ち着かなくてもどかしくなって、くっつきたくなって、彼の胸に顔を埋めるようにして抱き着いた。

このままずっと一緒にいたい
朝がこなければいい
この匂いもぬくもりも忘れたくない
…起きてるときにもぎゅってしたい

そんな、ありきたりな様々がよぎって
恋をしているのだと、実感させられる。
目の前にいるのに、わたしのこの複雑怪奇をこれっぽっちも知らずに寝てる。
だけど時々全部知ってるみたいに言い当てる。
してやったりな顔をされると、どきどきしちゃうけど不思議と安心もする。
わたしの心はわたしにとっても複雑怪奇なのに
日々精度を上げて本心も本心の"肝心"に近付いてくる。
自分すら知らない自分に誘導されてる気分にすらなる。
信頼しているし、不愉快ではないし、嬉しいからいいのだけど。

鋭くも優しい彼との穏やかな日常に、わたしはかなり満足している。
だからこそわたしは喜怒哀楽を見せられるし、心を開いているつもりだ。

…たまに早朝、目が覚めたとき、ぼうっとどこかを見つめる暗い色の目をした彼を、寝たふりをして見つめている。

どこを みているんだろう
なにを かんがえているんだろう

ちゃんと愛してあげられているだろうか。
わがままで誘導されてばかりで頼りないけど、わたしはちゃんと見つめてあげられているだろうか。
同じ方向に、同じ場所に光を当てられているだろうか。
ここで起きて、抱きしめたり声をかけることもできるかもしれない。
でもそれはなんとなく憚られて、無理をさせてしまいそうで、そういうのは嫌で。
だからせめて、わたしはあなたに起こされたくて、いつもばれないように目をつむって寝ることにする。
あなたはまだ夜中にいると知っているから、あなたに起こされたら、朝だということにしてる。

それでふたりで朝を迎えられるのって、しあわせだもの。
そして、しあわせについてくよくよ考えたりしないときって、きっと、本当にしあわせなのですね。


眠っている彼の手がわたしの背中にいつの間にかまわっている今夜だって
狂いそうなほど、愛しい。


おはようをきかせてね、おはようとつたえるよ。

朝を告げて

密かに前に書いたものの続編的なイメージで書いたとか書いてないとか本人ですが憶測を出ません
そのうち昼に活動する人類も書きたいですが昼寝の話にしてたら怒ってください

朝を告げて

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-08-05

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