今夜限りの月


「おう、こんなとこで、ラッキーだな」

 お前は相変わらず嫌らし気な微笑を語尾に含ませ襲来した。

 僕は逃げたかった。
 
 寝汚いお前を置いて、夜が明けない内に混沌なる床を抜け、左様なら。

 月め、今夜みたいに明る過ぎるのは止めろよ。今夜限り、今夜限りだ。

 一年前もこう考えたんだよ、僕は。

 他人の臭いが染み付いた身体を世界に見られないように、影を選んで歩いた。

今夜限りの月

今夜限りの月

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-08-04

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