新しいゲーム

セレソン28

 セールスマンはプラス思考じゃなきゃいけねえ。よく言われるように、靴のセール―スマンが裸足の部族のところに行ったら、大喜びしなきゃいけねえ。おれだって、伊達に銀河を股にかけて商売してるわけじゃねえんだ。大抵の惑星じゃあ、うまいことボロ儲けしてきたさ。だが、この惑星に着いた時は、ブッたまげたぜ。
 宇宙からの見た目は地球と似てるし、データによると住民はヒューマノイドときてる。こいつは楽勝だと思った。
 ところが、自家用ロケットを宙港に着け、とりあえず入管で手続きをしようと思ってハッチを開けたら、住民に取り囲まれてるじゃねえか。代表らしい人物が何か叫んでるんで、あわてて自動通訳機のスイッチを入れたよ。
「ようこそ兄弟。このファミリアに到着した瞬間から、おめさんもわしらの兄弟ずら。何の遠慮もいらねえ。自分の家だと思って過ごしてけろよ。わしはヨーゼフずら」
「何だか知らねえが、歓迎ありがとよ。おれはサブローだ。とりあえず、入管に案内してくれよ」
「いやいや、そんなものはねえ。サブロー兄弟だって、家に帰って来るのに、別に手続きなぞいらねえずら。何はともあれ、わしの家に食事の用意がしてあるずら。好きなだけ食べてけろ」
 家族同然、というのは、当然比喩だと思っていたが、ヨーゼフの家について、それがまぎれもない事実であることを知った。おれ用の部屋があり、おれ用の食器があり、おれ用のパジャマがあった。食事もヨーゼフの家族と同じテーブルだった。
 だが、外来の客を家族で歓待する文化なのかと思ったら、その同じテーブルに座っているのは、実はヨーゼフの家族でも何でもない、通りすがりの住民だという。
「いやいや、他人じゃねえずら。わしらはすべて兄弟姉妹ずら。このファミリアには、他人なんか一人もいねえよ」
 ヨーゼフは上機嫌にそう言うが、食べ終わった一人が抜けると、またそこに、別の住民がやって来て座り、料理を食べ始めた。ヨーゼフがどれほど金持ちなのか知らないが、これではいずれ破産するのではないか。おれが当然の疑問をぶつけると、その答えは想定外だった。
「それがわしの仕事ずら。ここは、わしの家でもあるが、レストランでも、ホテルでもあるずらよ」
 それから一週間滞在してわかったのは、このファミリアという惑星には貨幣経済というものがなく、すべてが共用されている、ということだった。早い話、ヨーゼフが食事の材料を仕入れなくとも、誰かが肉を、誰かが野菜を、誰かが魚を、勝手に持ってきて置いていくのだ。
 衣食住、すべてが無料だから、何もしなくても生きて行けるのだろうが、家族にも役割があるように、ある者はタダで服を作り、ある者はタダで乗り物を運転し、ある者はタダで子供に勉強を教えるのである。
 おれは困った。これでは商売にならないじゃないか。あ、いや、待てよ。
「なあ、ヨーゼフ。面白いゲームがあるんだが、やらないか」
「どんなゲームずらか」
「ここに数字の入った円盤がある。これを回すと、この玉が転がって、やがて止まる。その数字を当てっこするのさ」
「何だか、面白そうずら」
「そうだろう。当たった方は、このプラスチックのチップをもらえるんだ。な、簡単だろう」
「ルールが今ひとつわからねえけど、やってみるずら」

 一ヶ月後、ファミリアにたくさんのカジノとサラ金ができ、またしても、おれはボロ儲けした、ってわけさ。いや、ホントだぜ。
(おわり)

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セールスマンはプラス思考じゃなきゃいけねえ。よく言われるように、靴のセール―スマンが裸足の部族のところに行ったら、大喜びしなきゃいけねえ。おれだって、伊達に銀河を股にかけて商売してるわけじゃねえんだ。大抵の惑星じゃあ、うまいことボロ儲け…

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-08-03

Copyrighted
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