聖地巡礼
舗装の悪い田舎道を、そのバスは走っていた。乗客はカニ・栗・ハチ・石臼である。今しも、バスガイドの格好をしたサルが、マイクを片手に案内を始めた。
「え、みなさまぁ。本日はぁ、おとぎ観光バスをぉ、ご利用いただきぃ、まことにありがとぅざぃまぁす。このバスはぁ、サルカニ合戦のぉ、史跡をまわってぇ、参りまぁす。って、面倒なので、ここから普通にしゃべりますけど、みなさま右手をご覧ください」
バスの右側に、大きな柿の木が見えてきた。
「これが発端となった柿の木でございます。申し訳ないことながら、我がご先祖さまはこの木の上に登り、罪もないカニのご先祖さまに硬い柿の実をぶつけたのです」
車内に「おおっ」というどよめきが起こった。
「幸い、一命は取り留められたものの、これを知ったご友人の方々の怒りは治まらず、我がご先祖様に報復する計画を立てました」
再び「おおっ」というどよめきが起こった。
「その舞台となったのが、左手前方に見えて参りました、我がご先祖さまの家であります。尚、現在は道の駅となっておりますので、一旦ここに駐車します。レストランが中央、左がトイレ、右がギフトショップになっています。みなさま、くれぐれも集合時間に遅れないよう、お願いしますね」
乗客が全員降りると、サルの運転手がガイドに話しかけた。
「おまえ、よく冷静にしゃべれるな。おれなんか、ご先祖さまの無念を思うと、腹が立って腹が立って、しょうがねえ」
だが、サルのガイドはフフンと鼻で笑った。
「いいじゃないの。ご先祖さまは性急に利益を得ようとして失敗したのよ。わたしたちは、のんびりゆっくり彼らが汗水流して稼いだお金を搾り取るの。二束三文の土産物を、うーんと高く売りつけてね。いつだって、賢いのはわたしたちの方だもの」
(おわり)
聖地巡礼