【短編】教室の片隅でぼくらは ~ 夏のロダンとドジっ子 ~

【短編】教室の片隅でぼくらは ~ 夏のロダンとドジっ子 ~

■第1話 Side:ソウタ

 
 
いつもと変わらない一日のはじまりのはず、だった。
 
 
 
朝練の為に6時には起き、7時前には学校に着いて、部室でユニフォームに着替え
グラウンドに駆け足で行く。
そこにはまだ部員の姿は疎らで、本来なら率先して一番乗りしなければならないはずの
後輩1年の姿も見渡す限り明らかに少ないのは、もうデフォルト。

朝練の為の準備をはじめていると、同学年の部員が気怠そうに顔を出し、その後3年の
先輩たちがゾロゾロとやって来る。

そして小一時間、体を動かすと眠かったはずの頭は覚醒され、1時間目の授業がはじまる頃には
絶好調に頭は冴え渡り、『やっぱ朝型ってイイナー』なんて思うのも束の間。
 
 
2時間目がはじまる頃には早起きの代償が早々に顔を出し、おまけに腹の虫は大暴れ、
前席の奴の背中と机上の立てた教科書に、ガタイのいい己の体を隠して、
いや。全然本当は隠れてはいないのだけれど、一応、授業をしている教師に申し訳ないと
思っているという心ばかりの意思表示をして、机に突っ伏し、寝る。
 
 
気付いたら4時間目の終わりを告げるチャイムが鳴って、昼休みの喧騒に目が覚める。
すると、おもむろにスポーツバッグに入った母親手作りのドデカ弁当を取り出して
即座にかっ込み、500mlのパック牛乳に口をつけガブ飲みして、喉元に込み上げるゲップを堪える。
ここでゲップなんかしたら隣りの女子から白い目で蔑まれるのは必至。グっと飲み込む。
 
 
そうこうしてると終業のチャイムが教室に廊下に響き渡り、放課後の部活や帰宅に
急ぐ人波をかいくぐって、また慌てて部室に行く。

そして、ユニフォームに着替えグラウンドに駆け足で行く。
そこにはまだ部員の姿は疎らで、本来なら率先して一番乗りしなければならないはずの
後輩1年の姿も見渡す限り明らかに少ないのは、もうデフォルト。
 
 
 
・・・・・・・・という、

俺の毎日の生活のリズムが、今日、今、このタイミングで、なんの前触れもなく、崩壊した。
 
 
 
 
 『・・・・・・・・・・なんだ、コレ・・・。』
 
 
 
朝練の為に6時には起き、7時前には学校に着いて、靴箱の前で内履きを取り出そうと
そこに手を突っ込んだ指先に、内履きとは明らかに違うそれの感触。
 
 
掴んで、目の前で、凝視する。

顔と手の角度で言うと、ロダン作 ”考える人 ”のアレ。
掴んで、そのまま、”考える俺 ”
 
 
 
 『・・・・・・・・・・・・・・・・・て、がみ・・・・?』
 
 
 
暫し、呆然と立ち尽くした。

黒く日焼けしたその指先で、手紙の表と裏をぎこちなく交互に見すがめる。
と言っても、どっちが表でどっちが裏なのか分からない。

なぜなら、今まで生まれて一度も手紙なんか貰ったことはないし。
いや、違う。そうじゃなくて、その前に。宛名も、差出人の名前もそこには無いのだ。
 
 
挙動不審にオロオロし、ふと、隣りの靴箱がクラス1のモテ男のそれだと気付く。
バスケ部で、長身で、スラっとしているのに適度に筋肉まで付いているという、
世で言う”細マッチョ ”のソイツ。 世の中って本当、不公平だと思う。

俺なんか、なにをしたって ”中の中 ”で、身長はそこそこあるけど、”そこそこ ”
レベルなのは身長だけで、顔も、頭も、野球センスも、足の長さも、”中の中 ”

”そこそこ ”ってアレでしょ? きっと”中の上 ”以上のことゆーんでしょ?
なら、俺。やっぱ ”中 ”です。 いや、もしかしたら ”中の下 ”かも。
ちょっと見栄張りました、すんません。
 
 
・・・間違ったんじゃないか?

俺の靴箱と間違って、細マッチョに渡す手紙、俺んトコに入れちゃったんじゃないか?
そうゆうドジっ子がいるってネットで見た。
まさかってその時は思ってたけど、本当に世の中に存在するとは思いもしなかった。
二次元の世界だけに存在する生き物だと決め込んでた。
だって自分の好きな奴の、間違うかー? 間違った時点でアウトでしょー?
 
 
 
・・・・・・・・・。
 
 
本当に間違ったのか、それとも、もしかしたら・・・万が一。
いや、億が一、俺への手紙だったとして、どうすんの?こうゆーのって。
 
 
てか、その前に落ち着け、俺。
中、まだ見てないし。見てから悩めばいいんだ。

もしかしたら、連絡事項的な? ”今日の4時間目自習だってよー ”みたいな?
いやいや、そんなの、こんな可愛いピンクの封筒使う? 例のドジっ子とかなら使うのかも。
えー・・・ドジっ子、まじ、空恐ろしいじゃんか。 男子ゴコロを弄ぶなよ!
 
 
野太い指先で、ゆっくりゆっくり丁寧に薄桃色の封筒を開けた。
そして中に入っている便箋を取り出すと、それは二つ折りになって現れる。
 
 
 
  ”今週末の夏祭りに行きませんか? 

           神社入口で夜7時に待ってます。”
 
 
 
掴んで、そのまま、ロダン作 ”考える俺 ”
 
 
 
その日の朝練は、遅刻した。

気付けば靴箱前でだいぶ長いことロダンでいたようだった。
遅刻した罰として腕立て伏せ30回が課せられたが、そんな腕立てなんか何百回でも
やるから、誰か、どうか、この手紙をどうしたらいいのか教えてください。お願いします。
 
 
 
夏祭りまで、あと2日・・・
 
 

■第2話 Side:メイ

 
 
その朝のイメージトレーニングは完璧だった。
 
 
 
毎朝、7時前には学校に着いてしまうオオムラ君より早く登校し、靴箱に手紙を入れ
大慌てで部室に行って着替えを済ませ、素知らぬ顔して朝練の準備をしなくてはならない。
 
 
オオムラ君は、2年生部員なんだからもっとのんびり登校してきたっていいのに、
1年生より早く出てきて朝練の準備をし、マネージャーの私の仕事まで手伝ってくれる。

先輩の自分より遅く出て来る後輩部員にも、決して嫌味を言ったりしない。
実のところ、あまり深く考えていないのではないかと思う。
そんなのオオムラ君にとっては、取るに足らない事なのだと。
 
 
そんなオオムラ君は典型的なムードーメーカーで、人一倍頑張るけれど残念ながら補欠で
でもそれに卑屈な感じになることは一切なく、顔半分が大きな口なのが特徴のよく笑う人だ。
 
 
そんな私は、自覚はないけれど世で言うところの ”ドジっ子 ”という部類に入るらしい。
不本意ではあるが、結構な確率でまわりから言われるという事は、そうなのだろう。

そんな私がマネージャーをする野球部は、そのドジっ子体質のお陰でまぁまぁ被害を
こうむっており、あの温厚と言われる部長の顔を引き攣らせたのは1度や2度ではない。
多分、部長の温厚の水準は高い位置で設定されているんだと思う。そう思いたい。

そんな私を、大きな口を開けてガハハと笑いながらいつもオオムラ君は助けてくれる。
しかもそれは、フォローして作り笑いを浮かべる感じではなく、本当に心の底から
愉しそうに笑う。 その笑う顔が大好きで。大好きで。
 
 
 
  気付いたら、もう、困っちゃうくらい、大好きで・・・
 
 
 
勇気を出して告白をしようと決めたのは、3か月前。
3か月間、策を練った。
 
 
本当は夏祭りではなくて、春の桜まつりに照準を合わせていたのだが、モタモタするうち
その計画は無理だと判明し、じゃぁ次は初夏のあじさい祭にと路線変更したが、
ぼんやりしてるうちに祭は終わっていて、七夕にはなんとかと思っていた矢先に
季節外れのインフルエンザにかかるという予想だにしないハプニングに見舞われ、
もう、この夏祭りが最後のチャンスだった。

何故そんなにお祭りにこだわるのかと言うと、大して理由はない。
なんとなく、お祭りがいいかな~って。楽しいし。キライな人いないでしょ、お祭り。
 
 
靴箱に入れる手紙の為のレターセットを買いに行くが、種類の多さに迷いに迷って、
その日は買うのをやめて浴衣コーナーに浴衣を見に行った。

夏祭りはやっぱ浴衣かな~と思ったのだけれど、浴衣を物色しながら、まずその前に
手紙を書いて靴箱に入れなければならないし、私、まだレターセットも買えてないって気付く。

もう一度文具コーナーへ行ったら、意外にアッサリと ”コレ ”ってのが見つかり、
じゃあ最初の決められなかったのはナンだったんだろう?って自問自答。
 
 
手紙の文面はコレで良し。

自分の名前は・・・・書けない。 書いて、もし、来てもらえなかったらショック死しちゃう。
だから自分の名前は書かないのは決定として、オオムラ君の名前って書いた方がいい
のかなこうゆう場合。でも、靴箱に入ってるってことは自分だって普通気付くよね?
なら、いいか。 わざわざ書かなくても分かるはずだし。 書くのやーめた。
 
 
朝7時前には学校に着いてしまうオオムラ君より早く登校し、靴箱に手紙を入れた。

そして、朝練の準備をしながらオオムラ君を待つも、一向に彼は顔を出さない。
 
 
 
  (あれ・・・? 今日って、休み・・・?)
 
 
 
すると、珍しく遅れてきたオオムラ君は、何故か狂ったように腕立て伏せをしている。
 
 
 
  (手紙・・・ 受け取ってくれたんだよね・・・?)
 
 
 
いつも以上にオオムラ君のことばかり気になってしまって、バケツに入ったボールを
ひっくり返し、キャッチャーフライに駆けだした捕手の足元まで広がったそのボールは
ギャグのように捕手をすっ転ばせて、また私は温厚なはずの部長を引き攣らせた。

やっぱり、部長の温厚の水準は高い位置で設定されているんだと思う。そう確信した。
 
 
 
夏祭りまで、あと2日・・・
 
 

■第3話 Side:ソウタ

 
 
夏祭りのことが頭をグルグルして、もう眩暈がしそうだ。

母ちゃんが更年期で眩暈が云々ゆってたのバカにしてたけど、謝る。ごめん。
眩暈ってツライんだね、母ちゃん。 俺も若年期?障害とか、かもしんない。
 
 
どうする?
どうする?俺。
だって、もし行って、もしノコノコと行ったとして、見紛う事無く勘違い人違いだったとしよう。
 
 
死ぬ。
俺、死ぬよ?
死んじゃうよ?
あれ?なんでオオムラが? みたいな半笑い顔向けられたら、俺、即死だよ?

ハズ死するわ。恥ずかしすぎて死ぬわ。”死因:ハズ死 ” ちょっと、いやかなりダサい。
死因報告書?的なやつに、そう書かれんのかな。もっと頭良さそうな言い回しになるか。
ならいいか。 いや、いくねーだろ。
 
 
でもさ、よく考えろ。ロダン作の俺。

ほんとに俺への手紙だったら、行かなきゃそれは相手の**さん(仮)を傷つけることになる。
逆に、俺じゃなく細マッチョへの手紙でも、靴箱間違ってましたよって教えてあげなきゃ
細マッチョからスルーされたと思って哀しむかもしれない。それは気の毒だ。
 
 
スルーって一番ツラいパターンだって知ってる。
小学4年の時、なんか知らんけど女子を怒らせてクラス全女子から無視されて、
俺、泣きながら家に帰ったことあった。思い出すだけで胸が痛い。

だから、やっぱ、俺は行かねばなるまい。**さん(仮)の間違いを訂正する為にも。
 
 
**さん(仮)の間違いを訂正するのは、夏祭りの夜7時。
部活は6時半頃おわって、それから家に帰って着替えて、その後夏祭りって。
ちょっとタイトなスケジュールだけど、そこら辺どうなってるんだろう。

**さん(仮)はもし帰宅部なら時間的に余裕だろうけど、俺が野球部だって知らないのかな?
知っててこのハード・スケジューリングだとしたら、かなりのドジっ子だ。

やはりドジっ子恐るべし。ドラえもんでも準備しとかなきゃ、俺、着替えらんないよ。
青い半月ポケットが無ければ、俺、無理よ? あれ、白だっけポケットは。
 
 
助けてー ドラえもーーーん! このままじゃ、俺、ユニフォーム姿で人生初の
夏祭り参戦ってことになります。 もしかして**さん(仮)は、すげえ可愛い浴衣とかで
来てくれちゃうかもしんないのに。 俺、泥で汚れたユニフォームって。
 
 
助けてー クリーニング屋さーーーん! 今からじゃ真っ白にするのは厳しいですよね?
今からユニフォームをカッチリとドライクリーニングすんの、今日の午前中までに出せば
明日の夕方には出来るって、そののぼり。 都市伝説かと思ってたけど信じていいの?

その前に、出したら今日の部活出来ないじゃん。 ダメじゃん。ドライクリーニング。
今後はもう、無意味な頭からのスライディングやめようね、俺。うん。
 
 
着替え問題発生、問題継続中、解決方法思いつかず。

続・ロダン作 ”考える俺 ”
 
 
 
夏祭りは、もう明日・・・
 
 

■第4話 Side:メイ

 
 
夏祭りは夜7時に待ち合わせ。
部活はいつも大体6時半ころに終わる。
 
 
あれ・・・。 学校から神社まで30分近くかかるかも。
って事は、浴衣に着替える時間なんか元々なかったんだ。

よかったー、あの浴衣早まって買っておかなくて。 危ないトコだった~。
 
 
という事は、一旦家に帰って制服から着替える時間ないかもしれない・・・
どうしよう。
もう、夏祭りは明日なのに。
 
 
結構時間かけて策を練ったはずなのに、こうゆうトコが私のダメな所なのかも。
温厚な部長の顔が引き攣るのも分かる気がする。
ごめんなさい、部長。 部長を悪者に仕立て上げかけてました、私。

私もそうだけど、オオムラ君も着替える時間ないって事になる。
なら、いっか。 お互いジャージなら、それはそれで。

いや、ほんと、あの浴衣買わなくて良かった~・・・
 
 
明日は晴れるかな~?
雨で中止になった場合のこと考えてなかったけど、天気予報とかもノーチェックだけど
まぁ、大丈夫だよね? なんとかなるでしょ。
お天気はどうしたって変えられないし。 雨だったら傘持てばいいだけだし。問題ない。
 
 
っていうか、当日。 オオムラ君に第一声なんて声掛ければいいんだろ。
きっとビックリするよね、私だって分かったら。
 
 
 『マネージャーだったのかー』 とか言われて、

 『うん、そう。私だったの。』 って言って。
 
 
 
 『取り敢えず、お祭り行く?』 とか言われて、

 『うん、行く。』 って言って。
 
 
 
 『金魚すくいやろうか?』 とか言われて、

 『うん、やる。』 って言って。
 
 
 
 『この金魚あげるよ。』 とか言われて・・・
 
 
 
ああああああ!!! 私。金魚、大っ嫌いなんだった。
 
 
 
すぐ死んじゃうから、私、苦手なんだった。
妹にはエサあげすぎってよく言われたけど、多いに越したことない気がするじゃない?
少なくてお腹空いたら可哀相だし。

ダメ、ダメ。取り敢えず、”金魚すくい ”のトコは別の・・・ヨーヨー釣りにでもしよう。
でも。 ヨーヨー釣りって、アレ、何が楽しいんだろ?
すぐ釣れるし、釣ったところで指に輪ゴムはめてバンバン叩くだけじゃない?

それなら、別のヨーヨーの方が面白いんじゃないかな? スケバン刑事のやつ。
CS放送のドラマチャンネルでスケバン刑事みたけど、結構面白かった。バカバカしくて。
その前に、私、そっちのヨーヨーも出来ないんだった。
 
 
その前の、もっとだいぶ前に。 オオムラ君になんて告白したらいいんだろ。
今日はもう遅いから、明日考えよう・・・
 
 
 
夏祭りは、もう明日・・・
 
 

■第5話 Side:ソウタ

 
 
もう、あっという間に当日になってしまった。
 
 
 
色々作戦は練った。
取り敢えず、部活は休めないからちゃんと出て。
 
 
6:30に部活終わったら、ダッシュで部室に駆け込みそのまま荷物を持って
学校を後にする。
待合せの神社手前にあるコンビニのトイレで、スポーツバックに入れて持って来た
Tシャツとジーンズに着替え、デオドラントシートで汗だくの体をなんとかして、
ちょっと荷物は多くなっちゃうから、本当はコインロッカーとかに荷物入れたいけど
そんなもん近くになかった気がするし。 まぁ、デカい荷物持参に関しては諦めよう。
 
 
7時ちょい前には待ち合わせ場所には着きたい。

**さん(仮)が、本当に俺を待っていてくれるのか、やはり人違いかは分からないけど
取り敢えず、第一声も考えた。
 
 
 
 『俺に、手紙くれた?』

 『うん・・・。』 

 『てへへ。 ありがとう・・・。』 これは、俺ヴァージョン。
 
 
 
 『俺に、手紙くれた?』

 『は?』

 『間違って俺んとこに入ってたよ、ドジっ子だなー、ハハハ』 これは、NOT俺ヴァージョン。
 
 
 
NOT俺ヴァージョンのこの続きは、怖すぎてそれ以上考えられなかった。

手紙を返して、そのままダッシュで去るしかないだろう。
でも、あの手紙。 あれから何回も何回も読み返して、しわくちゃだ。やべぇ。
 
 
つか、こんなに地球の回転って速かったっけ?
もう昼ですけど。 俺、なんか、全然弁当ノド通んねえ。腹も減らねえ。

一瞬で終わった午前中の授業なんか、一切頭に入らなかった。
期末テスト直前なんだった!出題範囲とか言ってたのかな? 後で誰かに訊かなきゃ。
 
 
こんな状態で部活行って、俺、大丈夫かな?
取り敢えず、声だけ出してこー。盛り上げてこー。面倒なことが起こらなければ、
予定通りにいくはずなんだ。 面倒なことさえ、面倒なことさえ起こらなければ。

起こ、され、なければ・・・ あの、ドジっ子マネージャーに・・・。
 
 
今日はとにかく、マネージャーには大人しくしててもらおう。
俺の仕事が増えたら6:30に速攻帰れなくなってしまう。

マネージャーの仕事も全部俺がやって、ただマネージャーには座っててもらって、
そしたら、予定通りに事は進む気がする。
 
 
そうだ!この計画遂行の要となるのは、あのマネージャーだ!
俺は頭を抱えた。

そう、ロダン作 ”考える俺 ”
 
 
そして、放課後。俺は部活に行った。
ぱんぱんのスポーツバッグを抱えて。
 
 
 
夏祭りは、あと3時間後・・・
 
 

■第6話 Side:メイ

 
 
遂に当日になってしまった。
 
 
 
結局あんまり細かい計画を立てずにその日になってしまったけれど、まぁ、しょうがない。

午前の授業中に、色々考えようと思っていたのだけれど、ぼんやりしてたら昼になった。
いつも通り、お昼ごはんを食べて紙パックの野菜ジュースをストローで飲んでいたら
何故か突然緊張しだした。 なんだろう、心臓がバクバクして苦しい。
 
 
ジャージ姿で夏祭りって、いいのかな?
カッコ悪いけど、オオムラ君、イヤじゃないかな?

どうしよう、どうしよう。
今から家に、服、取りに戻ろうか。 早退しようかな。
でも早退なんかしたら、お母さんからお祭りに行く許可が下りなくなってしまう。
今日の部活は休もうか。でも、休まないのだけが取り柄の私が休むのは、ちょっと。

どうしよう、どうしよう。って思ってたら、なにも解決策はないまま放課後になった。
 
 
ぁ、オオムラ君。 やっぱり早い、もうグラウンド来てる。

私が、ボールがいっぱいに入ったバケツをよろよろ持って移動していたら、
『マネ、俺やる、俺!』 そう言って、バケツを受け取ってくれた。
 
 
 
  (やっぱ、やさしい・・・ オオムラ君。)
 
 
 
バケツは任せちゃったので、他の仕事をしようと手に取るとオオムラ君が慌てて駆けて来る。

『それも俺がやるから!』
他の仕事に手を伸ばすと、『それも俺が!』
 
 
なんだかよく分からなかったけど、今日のオオムラ君はいつにも増して親切でカッコいい。

なにもする仕事がなくなった私は、ただただ、そのオオムラ君の姿を眺めていた。
その姿はあまりにカッコよくて、眩しくて、私は目を細めた。
というより、目を瞑った。
 
 
 
 『マネージャー!!!』
 
 
 
そう叫ぶ声が聴こえると同時に、おでこに激痛が走った。

空高く舞い上がったフライが、私に向かって落ちてきた事なんて、オオムラ君のことを
うっとり考えて目を瞑っていた私は知る由もなく。
 
 
真っ先に駆け付けて私の肩を揺さぶるオオムラ君が、やっぱりカッコよくて、私は
ちょっと見惚れてしまったけれど、そう言えばこの後は夏祭りなんだった・・・。

やっぱり、私ってみんなから言われるようにドジっ子なんだな、なんて再確認。
 
 
おでこを冷えピタで冷やされたジャージ姿で待合せ場所に現れる私に、オオムラ君は
驚くだろうか。
まぁ、いいか。
 
 
 
夏祭りは、あと3時間後・・・
 
 

■最終話 夏のロダンとドジっ子

 
 
ソウタは大急ぎで待ち合わせ場所に向かいたい反面、額に冷えピタを貼りなんだか
落ち着きのないメイの事を気に掛けていた。
 
 
 
 
  (ダイジョーブなのかな、ほんとに・・・。)
 
 
 
 
なんだか今日はメイも急いで帰りたそうだ。
ちょっと心配だから取り敢えず途中まででも、メイを送ろうか。
 
 
 
 『ちょ、途中まで送るからさ。』
 
 
 
ソウタがメイのカバンを引き受け、隣を歩く。

チラっと横目で冷えピタ姿を見ながら『なんか急いでんの?ダイジョーブ?』 訊くと
メイは、少しだけ俯きほんのり頬を染めて言う。
 
 
 
 『今日、お祭りでしょ・・・。』
 
 
その言葉にギョっとするソウタ。
 
 
 
その冷えピタ姿で、仮に冷えピタをはがしたとて、赤くボールのミシン目がクッキリの
その額で夏祭りに行くとは、さすがクイーン オブ ドジっ子。 感心する。

というか、夏祭りに行くという事は方向は同じな訳で。
まぁ、丁度いいといえば丁度いい。
 
 
 
 『俺も行くんだわ、夏祭り。 俺、7時待ち合わせなんだけど、マネは?』
 
 
 
すると、頬を緩めてニッコリ『私も。』 と笑う。

随分、丁度いいもんだと思いながら、でもこのペースで歩いてたらコンビニで私服に
着替えるのはちょっと厳しいかもと、ソウタは頭の片隅で焦る。
 
 
 
 
  (結局ユニフォーム姿で、人生初の女子との夏祭りかよ・・・)
 
 
 
 
**さん(仮)がどんな格好で来るのか心配でならない、ソウタ。

でもNOT俺ヴァージョンだったら、ユニフォーム姿が逆に ”伝言に来ました感 ”が
醸し出せて結果オーライなのかもしれない。 きっと、そうだ。そうに違いない。
 
 
ふと、隣のメイを見ると額の冷えピタに細い指を充て気にしながら、機嫌良さそうな姿。
 
 
 
 
  (友達とお祭り行くから、ジャージでいいのかな・・・?)
 
 
 
 
友達と行くにしても普通ジャージってことは無い気がする。
もし、仮に、万が一デートだとしたら、きっと相手のヤツ、ギョッとするだろうな。

なんて考えて、ふと何かが頭をかすめた。
 
 
 
 
  (・・・・・デート・・・・?)
 
 
 
 
立ち止まる。
立ち止まって、ゆっくり、隣りのドジっ子を見た。

え・・・
あれ? なんか・・・ なんだろ? なんつーか・・・
 
 
 
 『マネ・・・ 祭り、待ち合わせ7時っつった?』
 
 『うん。』
 
 
 
 『どこで? どこで待ち合わせ・・・?』

 『・・・神社の前。』
 
 
 
・・・・・・・・。
 
  
訊こうか訊くまいか、悩む、その一言。

でも、訊こう。
訊かねばなるまい。
 
 
 
 『・・・・・・・・・・・誰、と・・・・?』
 
 
 
すると、今までニコニコとほころんでいた頬が、急に真っ赤に染まった。
耳まで赤くして俯いて、せわしなくパチパチと瞬きを繰り返して。
 
 
 
 
  (・・・・・・・・・・・・まじ、か・・・。)
 
 
 
 
急に照れくさくなる。

あああ、その前に確認しなきゃいけない事が・・・あったんだ。
一番、重要な例のアノ件を。
 
 
 
 『・・・・・・・手紙・・・・・・くれた?』
 
 
 
緊張しすぎて、声がうわずった。
手の平に尋常じゃない汗。
スパイダーマンよろしく、なんか噴射出来そうなくらい。
 
 
すると、メイは俯いたままコクリと頷いた。
 
 
 
 
  (これは・・・俺の靴箱で間違いなかった。という事でいいのか・・・?)
 
 
 
念の為、念の為に確認する。
 
 
 
 『俺の、靴箱に・・・・・・・・入れてくれたんだよな・・・・?』

 『え?』
 
 
 
 
  (え? って言われたーーーーーーーーーー!!!

   違ったんだ、やっぱ隣の細マッチョ宛てだったんだーーーー!!!)
 
 
すると、
 
 
 
 『オオムラ君の靴箱に入れたつもり・・・ 私、間違ってた?』
 
 
 
 
  (ままままま紛らわしいっ!!!!!!!!!!!)
 
 
 
 
その後は、ふたり。 照れくさくて黙って神社に向かった。

もう合流はしてしまっているので、そんな慌てて神社に向かう必要もなく、
おまけに互いに思いっきり部活後の格好のままなので、着替えも不要で。
 
 
思わず、ぷっと吹き出したソウタ。
メイの計画性の無さと、当日に不注意でボールに激突するという運の無さに呆れてしまって
可笑しくてガハハと顔半分を占める大きな口で、大笑いした。

隣りに立つメイも、ソウタにつられてクスクス笑う。
 
 
 
 
  (そうだ。 私、オオムラ君に大事なこと言わなきゃいけないんだった・・・)
 
 
 
急に真剣な顔でメイが口を開く。
 
 
 『オオムラ君・・・ あのね。』
 
 
 
笑っていたソウタが、そのメイの声色に急に身を固くして『はい。』 と立ち止まった。
ピンと腕を伸ばし、小学生の体育のように気を付けをして。
 
 
 
 『私ね、金魚は好きじゃないから・・・ 金魚すくいはヤなの。』
 
 
 
  (・・・・・・・・え?)
 
 
 
 
 『ヨーヨー釣りも、何が面白いのかわかんないし。

  固いヨーヨーの方は、出来ないんだ・・・。』
 
 
 『ぁ、うん。 そうなんだ・・・。』
 
 
 
 
  (これ・・・なんの告白なんですか・・・?)
 
 
 
 
『それだけ。』 そう言って、メイの告白が終わった。
 
 
終わった・・・のか?
終わったらしい。

ぽかんとするソウタに、メイがどこか達成感にじむ顔を向け、次の瞬間。
 
 
 
 『あ!ちがった!! そうじゃなくて・・・』
 
 
開いたままの口が虚しいソウタへ、メイが続けた。
 
 
 
 
 『オオムラ君の笑う顔が、ね・・・

              私。 ・・・大好き、なの。』
 
 
 
 
ソウタの頭の先から足の先、一気に電流が走ったみたいに痺れた。

意味不明なメイの今までの言動が、全て帳消しになるほど、その一言は可愛くて。
やたら可愛くて。可愛くて、可愛くて・・・
 
 
 
 
  (やべえ・・・・・・・・

          チョーどきどき、する・・・。)
 
 
 
 『ありがとう・・・ すげぇ。 嬉しい、かも・・・。』
 
 
 
ジリジリと赤くなってゆく感覚が、照れくさくて仕方なくて。
口許が勝手に緩んでいく。頬も、勝手に。 俺の頬筋どうなってんだ、オイ。
 
 
 
 『取り敢えず、お祭り・・・行こうぜ。』
 
 
すると、メイが『金魚は・・・』

『分かった分かった、金魚とヨーヨーとヨーヨーは禁止な?』
 
 
 
笑った。
大笑いした。

おもしれえな、コイツといるとって思った。
なんか、なんつーか。 夏っていいなって思った。
 
 
 
さあ、夏祭りにふたりで駆けだそう。
 
 
 
                               【おわり】
 
 

【短編】教室の片隅でぼくらは ~ 夏のロダンとドジっ子 ~

【短編】教室の片隅でぼくらは ~ 夏のロダンとドジっ子 ~

その朝、ソウタは生まれて初めて靴箱に入っていた手紙に喜んだのも束の間、宛名の無い手紙にこれは隣のモテ男宛てなのではないかと疑心暗鬼。 誘われた(?)夏祭りに行くまでのソワソワと落ち着かない3日間、どうする?!ソウタ・・・。 ≪全7話 完結≫

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-07-30

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. ■第1話 Side:ソウタ
  2. ■第2話 Side:メイ
  3. ■第3話 Side:ソウタ
  4. ■第4話 Side:メイ
  5. ■第5話 Side:ソウタ
  6. ■第6話 Side:メイ
  7. ■最終話 夏のロダンとドジっ子