ラザンノーチスの闘技士

ラザンノーチスの闘技士

傘下(かさもと)

ラザンノーチスの闘技士

午後の『円卓』

 時刻は午後1時。私は首から下げた懐中時計を仕舞うと空を見上げる。抜けるような青空は雲一つなく、ここ数日で一番の快晴。こんな日は戦争なんて延期して、市場に買い物に行きたい。私はこの『円卓』の観戦席で背凭れ(せもたれ)に身を預け空を見上げる。こんなにいい天気なのに、私たちは国をかけて戦争をしようとしている。
「あぁ、バカみたい………」

フィリア・ジャンヌダルク

 私は技巧整備士(ぎこうせいびし)。フィリア。フィリア・ジャンヌダルク。女性。第六国家ラザンノーチスを代表する闘技士(とうぎし) 《トァザ》 の専属技師だ。
 今日の『円卓』で行われる戦争の発端は先日に届いた通達だ。
 以下に、届けられた通達の内容を公開する。


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            《第六国家ラザンノーチス連合国より通達》

   第六国家ラザンノーチス連合国
   技巧整備士国家資格所有者
   フィリア・ジャンヌダルクに通達

   我が国ラザンノーチスは第八国家ラバニスとの協議を行い、明日『円卓』にて戦
   争突入する。よって、ラザンノーチス代表闘技士 《トァザ》 を行使し、第八国家
   ラバニスとの戦争に応じる事となった。
   国家保有単機最大戦力である闘技士及びその技巧整備士である 《フィリア・ジャ
   ンヌダルク》 は、この戦争による闘技士トァザの行使に技術的協力とラザンノー
   チス連合国の勝利のために、『円卓』に来られたし。

   この要請に応じない場合、技巧整備士国家資格剥奪
   並びに反逆罪として強制的にその身柄を拘束する。


                        ラザンノーチス連合国総司令部
                     総帥 ガストー=ソル・ホーエンハイム


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 …もとより国家のために存在し、地位と名声と権力の上に生きて行けたのも、前提として私が国一番の技巧整備士だからだ。国の単機最大戦力であるトァザの唯一の整備士だからだ。戦争が始まれば、祭り上げられて戦わされる。いや、戦わされるというのは横暴か、私はトァザとともに上り詰めてきたのだから。率先して戦場に躍り出るのが、技巧整備士と闘技士なのだ。
 だから私はトァザと共に『円卓』への招集に応じた。

トァザ

 そして『円卓』。あと数時間後にはこの円卓は戦場となる。
「フィリア」
「んー?」後ろから声をかけられる。振り向くとトァザが居た。「調子はどう? トァザ」
「いつもと変わらないさ。少し気持ちを落ち着かせたくてね」
 そういってトァザは全身の技巧の噛み合わせを一つ一つ確かめるように慣れた動作でストレッチする。
 トァザは黒い鎧のように変色した肌とネガ反転した白髪、四肢の関節は全て技巧四肢になっており、上裸の肉体は洗礼された筋肉と補助脳に繋がれた人工筋肉が複雑に絡み合った芸術品。トァザの肉体はどんな一瞬を切り取ったって美術館に飾られる彫刻よりも美しい。緋眼(ひがん)双眸(そうぼう)は真っ直ぐに『円卓』の中央、闘技場を見据えている。
 そうして充分に全ての筋繊維を慣らした後、トァザは隣に座る。
「ラバニスの闘技士(とうぎし)はどんな奴だろうね」トァザは私に聞く。
「さぁ、ま、どんな相手だろうと私のトァザが負けるわけないわ」
 ラザンノーチス連合国はこの星の大陸地図上にある6番目の国。広大な土地に豊かな自然と健やかな発展を続けてきた。第一国家アリストレア、第二国家セーレム、第三国家アマテラス、第四国家マグナシム、第五国家シグラード、そしてラザンノーチス。後ろには第七国家ユグド、第八国家ラバニス、この八大国家が『円卓』協議によって定められた現八大国家である。
 その他の小さな国は八大国家と協定を結ぶ発展途上国となる。
 今回のラバニスは第八国家。『円卓』では、戦争によって国が持つ発展途上国の所有権を争うという。
 簡単に言えば強気な外交を始めたのだ。既に1年前にラバニスは第七国家ユグドに勝利し、ユグドの管理していた発展途上国の所有権利を勝ち得ている。おそらくここから味を占めて、強気な態度なのだろう。
 一方こちら、ラザンノーチス闘技士トァザ。現在『円卓』の戦績は無敗。過去の歴史300年の間にラザンノーチスは15回の戦争をして、4回の敗北をしている。しかし私と私が作り出したトァザは歴代の単機最大戦力を上回り、5年前に国の代表として『円卓』に立ってからは無敗である。
 16回目の戦争。私とトァザは4回目になる。
 ラザンノーチスが今無敗記録をもって他の八闘士と国家を牽制している中、臆さずに侵略を行うという決断を、ラバニスは下した。戦ったことはないが、それほどまでに揺るぎ無い自信を持てるほど、ラバニスの闘技士と技巧整備士(ぎこうせいびし)は優秀なのだろうか。

午後の『円卓』 2

 午後2時。『円卓』の円形の観戦席を眺めること数分。静かな緊張が会場を包む。その生暖かい風に不穏な気配を感じる。敵だ。観戦席の下にある技巧整備士(ぎこうせいびし)席。闘技場を挟んで向こう側、二人の歩く姿が見えた。
 屋敷に篭って作業をして生きていた私はあまり視力がよろしくない。傍に置いていた手提げ鞄から度の強い眼鏡を掛けて、右のつるに付けられた簡易レンズを望遠に切り替えて覗く。
 前を歩く男はその歪んだ猫背から技巧整備士と推測される。高級なジャケットに身を包んでいるが、本人に似合っている感じはあまりしない。
 後ろを歩く人間は一目見て闘技士(とうぎし)だとわかった。闘技士に許された最低限飾りを取り払った服。身体の技巧四肢化。しかし………。
「驚いたな…。」私は少なからず衝撃を受け、高揚する気持ちを隠さずに呟いた。
「どうした?」トァザは私に訊ねる。
「いや、少女だから驚いたよ」
「少女?」トァザは緋眼(ひがん)を凝らして見つめるが、目は技巧ではなく生来のものなのでこの距離ではよく見えないだろう。
 私は懐中時計とを取り出して時刻を確認する。
「…2時半に両者挨拶。闘技場に行こう」私はトァザの技巧の手を取り立ち上がる。

アンダー・アーロン

「これはこれは、技巧整備士(ぎこうせいびし)が淑女とは、驚きですねぇ。」そういって握手を求めるラバニスの技巧整備士。深く刻まれた笑い皺は断裂した地層のひび割れに似た渇きを連想させる。痩せ型の中年だ。
「…いえいえ、淑女と言えるような人ではありませんよ。私はフィリア・ジャンヌダルク。第六国家ラザンノーチス代表の技巧整備士です。」私は握手に応じて改めて名を名乗る。
「これは失敬、私から名乗るべきでしたね。私は第八国家ラバニス代表の技巧整備士アンダー・アーロン。そしてこちらが闘技士(とうぎし)ティカ。…ということはお隣に従えている男がまさにラザンノーチスの単機最大戦力(トァザ)ですね」
「えぇ、私のパートナーです」
「噂はラバニスにも届いていますよ、《無敗の黒き闘技士トァザ》 最高技巧整備士団 《IDEA(イデア)》 の代表ブラッドリー・ジャンヌダルクの娘。その最高傑作。」
 期待していますよ。とアンダー・アーロンはにこやかに告げる。
「…お詳しいのですね」そう言いながら、心根では特に驚きもしない。私がジャンヌダルク家であることは明白だし、トァザは最高傑作に違いはない。
「…やはり、パートナーとは愛し合っているのですか?」
「は? アイ?」
「そうです。愛。素体が死体とはいえ、元は同じ人間、顔の整った青年(トァザ)の死体に霊素を注ぎ直し、補助脳を埋め込んで自分好みに人間を改造する。それが技巧整備士でしょう? 貴方は女で闘技士は男です。異性ですよ? 当然夜の方もパートナーかと」
「失礼な方ですね。私と彼はそんなことしません。」私は酷然と言い放った。「そう仰るあなたとそちらの闘技士は…」
「パートナーですよ? 当たり前でしょう。『朝も夜も』。ね?」
「………っ!!」
 私とトァザの目の前でアンダーはティカの腰に手を回し首筋に舌を這わせる。アンダーの(スプリット・タン)は蛇のように左右の舌が器用に動き、闘技士ティカの耳朶を左右からつまむ。
 ティカは無感情な顔で私を見つめる。私は呆気に取られていたが、視線を合わせないように目を反射的に逸らす。その時に気付いた。私が技巧整備士だからか、女だからなのか………。
 『ティカの胸は闘技士にそぐわない改造をされている』それに気付いて、腰や髪や顔を一瞬のうちに確認する。美しすぎる。闘技士にそぐわない技巧。
 性的すぎる。なんだこの醜悪さは………。
「どうしたんですかぁ」アンダー・アーロンは全て悟ったように下卑た笑いを浮かべている。その皺の歪さは、純粋な恐怖を覚える。
「………いえ、それではそろそろ開戦ですし、準備しましょう」
 どうやらアンダー・アーロンという男は私が嫌いな人間のようだ。
 

開戦演説

「泣いていたな」
「え?」
「いや、相手の闘技士(とうぎし)のことだよ。これから開戦なのに、戦い辛い」
 私には何の表情も読み取れなかった。アンダーは死体を好き勝手にするのが技巧整備士(ぎこうせいびし)の愉しみだと言う様な口ぶりだった。おそらく一方的な性愛であり、闘技士ティカはアンダーを愛してなんかいないのだろう。
「私はあの技巧整備士が嫌いだ。勝って、あの闘技士を救い出そう」
「あぁ」
 私とトァザはロータッチで手を打ち合い。開戦に備える。

 午後3時。
 開戦直前。
 気がつくと空にはドローンが飛び交い、闘技場の流れ弾に備える。『円卓』は闘技が行われる為、観戦席、来賓席、技巧整備士席に透明な防護壁が形成される。そして『円卓』の領空にまでそれは伸びる。
 疎らだった観戦席は今や人が押し寄せ、ラザンノーチスとラバニスの戦争を見届ける。
 首から下げた懐中時計を確認する。あと1分後に両国の国王が演説を行う。
 闘技場に目をやるとトァザが準備運動をしている。太陽が照らす闘技場で黒い人工皮膚の中から寸分の狂いなく配置された筋肉と、それに絡み合う人工筋肉が鋭くしなやかに動いている。
 視線に気付いたのかトァザは振り返り手を振る。私も微笑んで手を振りかえす。
 ふと、ラバニスの闘技士ティカを見る。
 先ほど見た大きな胸は小さく収納され、曲線美を描いていた全身は技巧の鎧で覆い隠されている。白い肌、白い鎧、オレンジ色の長い髪。全ては微動だにせず沈黙している。そこでスピーカーからノイズが漏れた。開戦演説が始まる。

 きぃん…。と僅かにハウリングした後、先ずは戦争を起こした側、ラバニスの国王が演説を行った。
「第八国家、我が国ラバニスに生きる民と、第六国家ラザンノーチスに生きる民よ。今日は記念すべき日となるだろう。第七国家ユグドに勝利してから1年。皆に良い知らせを伝えようと思う。

『ユグドは完全に手中に収めた』

 これは『円卓』に集まってもらった皆に初めて伝える。これからは七大国家として地図は更新され、より大きくラバニスの文字が地図に記されるだろう。
 そして、今日。我が国ラバニスはラザンノーチスに勝利を収め、後には全てを統治する。
 技巧闘技士による単機最大戦力での戦争。国が軍を廃止して久しいが、最高技巧整備士団IDEA(イデア)の開祖マルドゥック・ジャンヌダルクが提唱してきた国家統治思想は、我が国ラバニスが実現するであろう。………」

 会場はざわめいた。ラザンノーチスの国民は不安を募らせ、『円卓』の観戦席の向こう側半分、ラバニスの国民は歓声を上げていた。私は舌打ちをして目を閉じる。静かにラザンノーチス国王の演説を待つ。

「第六国家ラザンノーチスの民達と、第八国家ラバニスの民よ、混乱しているだろうが臆することはない。我が国は連合国であり、加盟している国には今回来賓席に来てもらっている。我が国ラザンノーチスは広大な大地に豊かな自然と健やかな発展を続けてきた。我が国が管理している発展途上国も少しずつ第九国家になろうとしている。
 今日が要だ。国民が一つとなり、団結し、ラバニスに臆することなく、どうかトァザを応援していて欲しい。
 私は第七国家ユグドを取り戻し復興させるつもりだ。私は屈しない。ラザンノーチスは決して沈まない。この開戦によって勝利を収め、ラバニスの愚行をここで打ち砕く。」

 スピーチが終わる。ラザンノーチス側のざわめきは収まるが、不安は消えない。
 通常、戦争によって決められる事は外交と発展途上国の奪い合い。しかし、ラバニスははっきりと告げた。ユグドを侵略した。と。発展途上国ではなく、第七国家そのものを。
 問題なのは『侵略』という言葉だ。『連合国になる』でも『統合した』でもなく、『支配した』と言う。これは『円卓』の歴史上初めての事だ。
「………くそっ!」私は憤りを隠すこともせず、隣の空席を叩いた。ラバニスはジャンヌダルクの名を振りかざし、八闘士国家を脅かそうとする。最高技巧整備士団IDEAの思想は侵略支配ではない。曲解されて歪んだ正義を振りかざそうとするラバニスに対して、歯痒く思う。アンダー・アーロンも技巧整備士であるならば、先程のラバニス国王の思想を否定するべきではないのか。………いや、きっとアンダー・アーロンもまた、腐っているのだろう。

 混迷渦巻く『円卓』の中、絶対に負けられない戦いが始まる。

第1戦

 『円卓』闘技場にはとても頑丈な人工大理石。そこには2人が向かい合っている。
 第六国家ラザンノーチスの無敗の黒き闘技士(とうぎし)、トァザ。
 第八国家ラバニスのティカ。その素性は明らかにされていない。
 闘技士から半径300メートルの円周に防護壁があり、その外側に技巧整備士(ぎこうせいびし)席。上の階層に観戦席という形だ。来賓席や国王の観戦席は離れた場所にあり、上空のドローンから中継を見守る。
 スピーカーから開戦のアナウンスが流れる。

《第1戦》
《現時刻より『円卓』は開戦しました。》

 しん………。
 会場は先程までの雑談を止めて、無音になる。
 闘技士は互いに微動だにせず、全員の視線を静かに受け止めていた。闘技士の霊素が静かに息を潜めて、好機を伺う。私たち人間には、この光景はいつも不思議な光景で、まるで二体の彫刻を眺めている気にさせられる。しかし、次の刹那にはその視線全てを置き去りにして闘技場から消え去る。
 先手はトァザだった。
 トァザの技巧による鉄拳一つでティカを連れ去る!
 ゴウゥゥゥゥゥン………。
 防護壁を打ち鳴らし透明な壁がたわんで、音叉のように音が響き渡る。それが開戦のゴングであるかのように。
 ティカはすぐに体制を立て直し、空中で身を翻しかかと落としを繰り出し反撃。トァザは後退してやり過ごすと、接近するティカのその細い腕で貫かんとする貫手を手の平で払い除けて頭突きを繰り出す。ティカは頭突きをスウェーバックで躱し、その流れで右膝蹴りと左脚サマーソルトキックを繰り出す。それらはいずれも空を切り、トァザは距離を取る。ティカは足技のキレがいい。トァザが回避でやり過ごすのを察するに、足技がメインなのだと予想される。
 そしてトァザが再び距離を詰める。ティカの右膝の技巧が展開して蒼く光る刃が飛び出し武器が形成され、膝蹴りを行い迎撃する。トァザは右手の技巧を展開してパイルバンカーを掌から打ち出し、ティカの右膝を砕き、体勢を崩したティカの左脚も手刀で切断した。
 両脚を無力化し、頭を掴み再び防護壁に叩きつける。
 バゴンッ!
 呆気なく第1戦の決着がついたことを、防護壁のゴングが告げる。
 ラバニス側の防護壁。観戦席付近にティカは倒れていた。その上にトァザは立ち、静観している。
 ティカの両脚は技巧の人工筋肉とワイヤーの神経が千切れて、防護壁に叩き付けられた衝撃が補助脳に異常をきたしたのだろうか、動きを止めている。

 観戦席が状況を理解するとラザンノーチス席から地鳴りのような歓声が湧く。

『………こんなもんか?』
 私のインカムからトァザの会話音声が届く。どうやらラバニスの闘技士ティカに向けて放った言葉らしい。
『……いえいえ、御安心を。まだ出力は25パーセント』
 その声はアンダーの声だった。ラバニス技巧整備士席から飄々とした声が聞こえる。

 ドローンが戦況を確認して、第1戦が終わりを告げる。

第2戦

 闘技士(とうぎし)は第1戦の終了と共に技巧整備士(ぎこうせいびし)席にメンテナンスを受け、第2戦に備える。とはいえ闘技士の戦争はどちらかが停止するまで終わらないので、この場合歩いて戻って来れたのはトァザのみ。ティカはラバニスの防護壁に叩き付けられたのでそのまますぐに技巧整備士の施術を受けている。
 私はトァザの技巧を確認してみるが、とりあえず第1戦は一方的な運びとなったため、損傷は無い。第2戦で気になるのは、ラバニスの闘技士ティカのことだった。
「『痛い』って」
「え?」トァザの呟きが何を意味しているのか分からずに聞き返す。
「ティカが言ってた」
「『こんなもんか』に対しての返事?」トァザが第1戦に言っていた言葉だ。あれはアンダーが返事をしていたが。
「いや、ティカが応戦して貫手をして来た時。」
「ティカが言っていたの?インカムには声が聞こえなかったけど」
「いや、目が言ってた。多分声帯が無いのかも」トァザはさらっととんでも無いことを言う。
「どういう意味?」
「頭掴んだ時、首に咽頭が無くて、よくわからないけど不自然だった。多分技巧が入ってる。そこからアンダーの声が聞こえたから」
 トァザがラバニス技巧整備士席を見つめる。それに習い私も眼鏡のレンズで様子を見る。ティカはラバニスの技巧整備士アンダーと補助整備士達に囲まれていて、ティカの姿は見えない。

 第2戦。再び闘技場では2人が向かい合っている。
 ティカはまたも沈黙しているが、砕かれた右膝は元通りらしい。そこにアンダーはつかつかと歩いてきた。私は固唾を飲んで見守る。
『先程までの戦いは前座ですよ。貴方の戦闘データも欲しかったのでねぇ』
 私は黙ってインカムから会話を聞く。アンダーの顔を望遠で確認するが、確かに口はつり上がったまま動いていない。どうやら本当にティカの内部に組み込まれた技巧から会話しているらしい。
『どういうことだ』
『この娘、まだ闘技士としては半人前でね、私がいないと、『本気』が出せないんですよ』
『………』
『フフフ、第七国家ユグドの国王には悪い事をしてしまいました。天国で娘と再開させてあげたいんですけど。生憎、霊素が無いと闘技士は機能しないでしょう?』
『!? …まさか、ティカがユグド国王の娘だというのか』
『ンフフ。どうでしょうねぇ』

《第2戦を始めます。ラバニス技巧整備士アンダー・アーロンは速やかに防護壁内に退避してください》
 スピーカーから淡々とアナウンスが流れ、会話は中断される。私は嫌な汗がどっと吹き出て、背中を伝う。眼鏡のレンズ越しにアンダー・アーロンの背中を見つめる。アンダーは微かに微笑み、私と目を合わせてきた。
「!!?」
 全身に電流でも流れたように私は本能的恐怖を感じ、直ぐに眼鏡を外す。恐らくアンダーは自身も技巧化しており、私と目を合わせるなんて造作もないことなのだろう。とてもじゃないが、アンダー・アーロンは狂っている。
 私はすぐに手提げ鞄から端末を取り出し、ユグド国王の娘について調べた。なんと恐ろしいことか、ユグド王女の名はティカという悲しい事実を示した。

《第2戦》
《現時刻より『円卓』は開戦しました。》

 アナウンスが終了すると闘技場には変化が現れた。第1戦とは違う大仰な技巧の兵装作動音と共にティカの下半身は展開され、フレームと人工筋肉が噴出されたスモークの中で変化していく。ティカの技巧から吹き出すスモークによって全貌は見えないが、最初はドレスのように脚に纏う布が展開され、そのドレスのような技巧が展開と結合を繰り返す。やがてシルエットは固まり始め、その脚が蜘蛛のように展開している。目を疑う間も無く、スモークが風に流されて確証へと変わる。
 観戦席から(おのの)く声とざわめきが広がる。異形の技巧。それは神話に出てくる哀れな娘 《スキュラ》 に似ていた。
 スキュラ。上半身は美しい女性。腹部には三つ首の犬と六本の脚があると言い伝えられている。
 ティカは腹部に技巧による犬の首を模したレリーフと三つの銃口。そして六本の脚。爪先は矛のように尖り、第1戦に見せた武器と同じ蒼い燐光を放っている。

《最終兵装》

 最高技巧整備士団IDEA(イデア)の開祖であり私の祖父マルドゥック・ジャンヌダルクが当時各国の軍備制度を廃止するために見せつけた圧倒的な力。当時の混沌とした禍災戦争(ワールド・ウォー)の最中、全てを終結させた圧倒的戦力差。その技巧。
 それこそが 《最終兵装》 。
「ありえないわ……っ!?」
 いや、ありえないということはない。理論的に可能である。しかし、 《最終兵装》 を闘技士に実装するには、最高技巧整備士団IDEAのメンバーでなければならない。そして、 《最終兵装》 を展開するには、世界が武力によって脅かされている状況でなければ、展開は原則禁止であるはずだ。
『慄きましたねぇ…ンフフ』
「!!」
 インカムからアンダーの声が聞こえる。どうやら私がトァザの中に集音マイクを取り付けていることも、今取り乱している姿も筒抜けなのだ。
『なぜ最終兵装を作動している! 円卓内での闘技士は武力によって世界を脅かしてはいないっ! ……こんなこと、IDEAが許すとは思えないっ!!』トァザが私の声を代弁して叫ぶ。そうだ。この場において最終兵装の展開は必要ない。
『いやいや、そちらの国王は言いましたよ『この開戦によって勝利を収め、ラバニスの愚行をここで打ち砕く』と。そして、連合国に協力を要請して、我が国ラバニスを武力によって弾圧しようとしていることは明白。』
『………めちゃくちゃだ』
『私はか弱いラバニスを救済したいだけですよ。ンフッ、フフフッ…クハハハハハ………』
 私は技巧整備士席の椅子から立ち上がりトァザを見つめる。かなり押されている。
 こんなはずじゃなかった。
 おかしい。ありえない。
 トァザは闘技場内で六本の矛と止めどなく吐き出され続ける光弾をすんでで回避しながら苦戦を強いられていた。スコールのように降り続ける矛をかわし続けるのは、いくらトァザでも至難の技だ。
 防戦一方。
 私の手はじっとりと汗に濡れていた。
 思考が停止する一歩手前。どうする。どうしたらいい。目の前の状況を打開する術が見つからない。
 やがて、トァザはついに雨に打たれる。槍の雨、矛のスコールを避け続けるのは流石に無理だ。トァザは右膝の技巧を矛に貫かれて動きが止まる。それを見逃すはずもなく、飛びかかる残りの5本の矛がトァザを貫いた。
 全ては一瞬だった。
「トァザっ!!」

《第2戦、終了いたします。技巧整備士は第3戦に備えて下さい》

ザルバニトー

「ごめん。フィリア」
 トァザはラザンノーチスの補助整備士達に運ばれ私の下に運ばれた。
「………貴方のせいじゃない。暫く動かないで。輸血するわ。」
 トァザは酷い有様だった。肩から先、膝から下。四肢全てを貫かれ、技巧は矛の持つ熱によって融解して溶け落ちていた。胴体と頭のみ。そして腹部二箇所にも刺突による穴が穿たれている。大量失血。恐らく霊素の消耗も激しい。
「…第2戦、…ティカの意思は何も感じられなかった…」
「喋っちゃダメ」
「………僕達は勝たなければならない。」
「!」
 強い拘束力を持った言葉。トァザは動揺している私を叱責するかのごとく断言した。その言葉は、昔私がトァザに向けて放った言葉だ。
「…大丈夫だよ。フィリア」トァザが血の気のない顔で微笑む。
「ごめんなさい。」
 私は涙を拭い、第3戦に勝つ為に直ぐにスペアの技巧をトランクから取り出し、交換する。トァザの溶解した技巧の根元から取り外し、人工筋肉を取り外す。そして新しい物に取り替えていく。落ち着け。私はジャンヌダルク家の娘だ。勝機はある。何か、何かあるはず………。
「《ザルバニトー》だよ。フィリア…」
「…!? でも、あれは…」
「大丈夫。今の君になら扱える。今の状況は僕にしか変えられない。…僕等なんだ。フィリア。」
 闘技士(とうぎし)技巧整備士(ぎこうせいびし)でなければ戦争は止められない。私は覚悟を決めて『円卓』に3時間のメディカルタイムを申請した。

午後の『円卓』 3


 『円卓』はラザンノーチス技巧整備士(ぎこうせいびし)の申請した3時間のメディカルタイムを了承した。
 戦争時、闘技士(とうぎし)が著しく消耗し、第3戦を迎えられない状況の場合受理される、施術に与えられる時間である。スピーカーから流れるメディカルタイムのアナウンスにラバニスの嘲笑が響き渡る。辛酸を浴びせられる思いだが、そんなことを考えている暇はない。霊素安定剤をトァザに投与すると、補助整備士が腹部二箇所の止血と応急処置を行う。直ぐにラザンノーチスにある私の家に車を走らせて目的の物を取りに向かう。
 ここから車を飛ばして45分。家に着くと門が自動で開くまでの時間すら惜しくて、無理やり車で突進して蝶番を破壊し、こじ開ける。国民の税金で建てた家はここぞとばかりに広さを発揮して、私の工場である部屋にたどり着くまで苦労した。直ぐにトランク四つの中を確認して持ち出す。ズシリとした技巧が詰まっているため、女1人には辛い荷物だ。
 《ザルバニトー》。
 私の生み出した問題児。今の状況では、ただスペアに取り替えた所でラザンノーチスに勝利はない。私はトランク四つを車に積んで、来た道を戻る。ハンドルを握りながら頭の中で施術のイメージを掴む。どうしたって賭け勝負。スペアの技巧の方が安定しているだろう。トァザとの親和性も調節しなければならない。ハンドルを握る手が汗で滑る。アクセルを踏む足が震えている。
「クソッ………っ! クソッ!クソッ!クソッ! ………しっかりしろフィリア・ジャンヌダルク!!!」
 車内で叫ぶ。不安は消えないが、気休めでもいい。奮い立たせないと泣きたくなる。
 闘う意志を無くしたら、技巧整備士は勤まらない。

 2時間経過、『円卓』に戻ると直ぐに補助整備士がトランクを持ち出して、トァザの所まで運んでくれた。あと1時間。
「補助整備士は各トランクにある《ザルバニトー》の補助脳に動物磁器ケーブルを装着して。4つ全てが装着できたら私に伝えて頂戴」
 私は補助整備士に指示を出すとトァザの第7頸椎にある補助脳を取り外して、霊素複製装置に取り付けた。次にトランク四つに残された技巧四肢、両腕と両脚を分解し始める。補助整備士が驚いて、『間に合うんですか?』と訊ねる。
「間に合うわけないでしょう………! それでも勝たなきゃいけないの。…最後の、…最後の不戦勝のカウントギリギリまでには間に合うように力を貸して………!」
 もとより間に合うなんて思っていない。私はただの人間だ。技巧整備士なんていう役職について、神に近い人間なのだと思い上がった事もある。
 おかしな話だ。その時の失敗作が今になって必要になるなんて。《ザルバニトー》。お願い。力を貸して。
 私は祈りながら《ザルバニトー》を分解する。そしてワイヤーの神経束を途中から切り取り、スペアのワイヤー神経束に接続する。次に人工筋肉を取り替える。右腕終了。大丈夫だ。残り時間36分。
「手が空いてる補助整備士はこの右腕をトァザに接続して。仮接続でいいわ、最終接続は私自ら行います」
 次。同じように左腕、親和性の低かった《ザルバニトー》のワイヤー神経とそれに対応する人工筋肉を、親和性の高いスペアと取り替えるだけ。直ぐに左腕も施術を終えて補助整備士に引き継ぐ。右脚に掛かる。太腿の付け根の技巧を分解して行く。『フィリアさん。動物磁器ゲーブルに補助脳を接続しました』
「四つ? 全て完了したのね? 1番腕の良い補助整備士が4つ全てを確認して。」私は1度手を止めて霊素複製装置を確認する。複製は完了していた。トァザの霊素も私に協力してくれているのだと信じて、気を引き締める。「確認して問題がなければ随時複製して下さい。」
 再び右脚の分解を始める。残り時間24分。間に合え…!
 右脚の技巧も同じようにワイヤーの神経束の取り替えと、人工筋肉の交換をして組み立て直す。
「右脚! 仮接続お願い」
 ラスト。左脚が終わり、仮接続に回す間にトァザの右腕の最終接続を行う。次に左腕、右脚、左脚…。残り時間3分。やはり間に合いそうにはない。
「複製完了した補助脳4つを、それに対応する技巧。各 《ザルバニトー》に挿入してください。」私はその間にトァザの第7頸椎に補助脳を再接続する。

《メディカルタイムが終了しました。両国闘技士は闘技場に集合してください》

「………。」
 全ての施術は完了した。しかし、ここからが正念場だ。今行った施術では、補助脳の『摘出』・『複製』・『追加』・『接続』を行った。
 ここからが正念場。
 私は『円卓』に対して祈り続けた。現状を伝えることは出来ない。もし、トァザの施術は終了していること。トァザの霊素が安定するまで、もう少し時間がかかることを伝えてしまえば、『円卓』はその時点でラザンノーチスの闘技士が戦闘不可能であると判断し、敗戦を決定するだろう。
 ふと闘技場に目を向ける。禍々しい最終兵装を展開したまま、ユグドの王女は制止している。
 私はトァザの右手を握り、祈る。

 お願い………。目を覚まして、トァザ………!

《第六国家ラザンノーチス闘技士トァザがメディカルタイム後も現れません。》
《このまま『円卓』に現れない場合、第3戦は無条件で敗戦と判断します。》
《その場合、1対2の戦績となり、第八国家ラバニスの2勝となります。》
《それでは30カウントを開始します。…28、…27、…26、…25、………》

 カウントダウンが響き渡る『円卓』のラザンノーチス技巧整備士席で、私は震えていた。
 負けてしまうの…?
 お願い、起きて…!
 
《…10、…9、…8、…7、…6、…5、………》

第3戦


《…3、…2、…1、》

 その時、『円卓』が騒めく。
 ラザンノーチスからは安堵の声が上がり、ラバニスからはため息が漏れた。

 黒き無敗の闘技士(とうぎし)トァザは闘技場に向かい歩を進める。
 私は力の抜けた全身を補助整備士に支えられてその背中を見つめる。
『心配かけてごめん…』
 インカムからトァザの声が届いた。
『補助脳が増えたせいで、自分の意識を統一するのに時間がかかったんだ。でも、フィリアの祈りはちゃんと聞こえてた。みんなの祈りも…』
「…いいの、いいのよ……ありがとう」私はインカムから聞こえる声に一人返事をする。別にこの声がトァザに聞こえるわけではないが、溢れる気持ちを止めることができなかった。
『…沢山の声が聞こえた。霊素だからかな。祈りが聞こえた。 その時に聞こえたんだ。』

『《殺して》って』

「?」
『ティカだ。彼女は今、死んだ肉体の中に霊素()を閉じ込められ、アンダーに犯されている。救わなければならない』

《『円卓』は第六国家ラザンノーチスの闘技士トァザの出場を認めます。》
《第3戦》
《現時刻より『円卓』は開戦しました。》

 トァザの霊素は今、トァザ本人の脳と第7頸椎の補助脳、そして《ザルバニトー》の四肢に一つずつ。計6つの脳に複写されている。この問題児 《ザルバニトー》 の失敗は霊素の意識統一の難しさにあった。それが今安定している要因は、親和性の高い神経束と人工筋肉に取り替えた事。そして、トァザと私の今までの信頼関係。強さのみに確執していた 《ザルバニトー》 製作当時の私とは違い、トァザとの絆は強い。
 そして、トァザの強い意志だ。
 ティカを救い出すという揺るぎ無い闘志が 《ザルバニトー》 と呼応する。

 『円卓』の観戦席がどよめく。その視線の先にトァザは立っていた。技巧四肢が緋く燐光を放っている。
 ティカは戦闘態勢に入り、6本の矛を負けじと発光させる。
 白と黒の闘技士。(ティカとトァザ)
 蒼と緋の燐光。(スキュラとサルバニトー)
 両者がぶつかり合うと直ぐに力が衝突し、激しい光の粒子が飛び散った。ティカの前脚3本の矛がトァザに向かって突き進もうとするが、火花が散るだけでトァザには届かない。トァザは両掌を前面に向けて展開して斥力を発生させている。
 この時点で《ザルバニトー》は最終兵装を展開していない。
 そうだ。この技巧四肢は最終兵装を備えている。

 トァザはゆっくりとティカの矛に手を伸ばし、3本の矛を掴むと、ティカ本体に斥力を発生させて吹き飛ばす。防護壁はこの日3回目の衝撃に大きくたわみ、悲鳴を上げるように音の波を『円卓』全体に響かせた。それに負けない程の歓声がラザンノーチスの観戦席から上がる。それらは混ざり合い、巨大な幻獣の咆哮のようだった。
 ラバニスの侵略を拒む強い意思。確固たる闘志となりトァザに力を与える。私に力をくれる。
『フィリア。最終兵装を展開する。』
 インカムからトァザが告げる。
 トァザならティカを救える。私は祈りを捧げて見守る。

『《最終兵装・ザルバニトー》展開』
 トァザは呟き、技巧四肢が一層強く燐光を放ち展開する。その光の粒子は技巧の中から溢れ、輪郭を形成し始める。靄のように不定形だった光は少しずつ両腕に集まり、緋い2振りの大剣となった。
『なぜだ!? フィリア・ジャンヌダルクはまだIDEA(イデア)のメンバーではないのに、なぜ最終兵装を内蔵している………っ!?』アンダーの声が聞こえる。その通り、私はまだ最高技巧整備士(ぎこうせいびし)団IDEAのメンバーではない。それもまた問題児 《ザルバニトー》 の問題点だった。
(おのの)いたか………。アンダー・アーロン』
『お前が、…お前が最終兵装を展開するなど、ありえない………』
『確かに規定違反だ。しかし、俺はラバニスの愚行を打ち砕く』

 ティカは後ろ足3本で満足に動けず、苦し紛れに腹部の銃口から光弾を吐き出すが、全て斥力によって弾かれてゆく。

『…今助けるよ。ユグドの王女』
強い燐光のせいか、インカムからの音声は乱れてノイズが強い。そのノイズの中で少女の声が聞こえた。

『…あ、りが……う………』

《第3戦。現時刻をもって『円卓』は終了します。》
 『円卓』のスピーカーは、ティカの活動停止をドローンによって確認し、終戦を告げる。私はインカムを取り外すして見つめた。最後の声はティカの声だろうか………。
 『円卓』内は照明に照らされていて、すっかり日も沈んでいる。私は肩の力が抜けて技巧整備士席の背凭れ(せもたれ)に背中を預ける。トァザがこちらに歩み寄る。
「…お疲れ様」
「何、言ってんの……私の台詞よ。」
 差し出されたトァザの手を取って立ち上がると、トァザを1度強く抱きしめ、離す。振り返り補助整備士達に向き直る。
「ラザンノーチス補助整備士の皆さん。ありがとうございました。今日の勝利はあなた達が居なければ達成できなかった成果です。」

ラザンノーチスの技巧士

 『円卓』から一週間が経ち。私の生活は幾分落ち着きを取り戻した。
 ラバニスの技巧整備士(ぎこうせいびし)アンダー・アーロンは私の最終兵装展開は最高技巧整備士団IDEA(イデア)メンバーではないので不正であり、『円卓』の条約違反であると指摘した。しかしその異議申し立てを『円卓』来賓席にて観戦していた連合国の第一国家アリストレア、第三国家アマテラス、第四国家マグナシムの技巧整備士と闘技士(とうぎし)、そして総帥はその異議を却下。ラザンノーチスは明らかにラバニスに武力によって脅かされている状況であったとし、最終兵装を展開した私の判断は英断であり、国家を守る例外的事例として処理した。
 また、最高技巧整備士団IDEAのメンバー。アンダー・アーロンは、第七国家ユグドの王女殺害、霊素拘束、蹂躙した罪と、その霊素がユグド王女のものであった事実を重く受け止め、最高技巧整備士団IDEAの資格は即刻剥奪された。

 ………敗戦した以上、ラバニスの技巧整備士は身柄を拘束、最悪 《斬首》 というなかで、さらにこれだけの罪を上乗せされてしまえば。もう2度と会うことはないでしょう。

 そして、今日。
 第六国家ラザンノーチスの宮殿にて、資格剥奪されたアンダー・アーロンの空席を繰り上げて、最高技巧整備士団IDEAのメンバーとなった。
 父 《ブラッディ・ジャンヌダルク》と同じ舞台に立ったのだ。
「久しぶりだな。フィリア」ブラッディ・ジャンヌダルク。私の父はにこやかに私を呼び止める。
「えぇ。お父様」
「今日からお前もIDEAのメンバーだ。…蛙の子は蛙ということだな」
「あら、鳶が鷹を生むともいいますわよ」
「十で神童十五で才子二十過ぎればただの人。とも言うぞ」
 言葉から滲む圧力。あまり歓迎されていない事は感じているが、あえてそれを無視する。
「…ならば鳶の子は鳶、でしょうね。………トァザこそが鷹でしょう?」
 父は少し悲しそうな顔をして、私を憐れんでいるようだ。そして祝いの席で声を押し殺して告げる。
「………本当はお前がこの舞台に立つことを反対している。お前が鷹を生み出す鳶だという事は感じていたんだ。」
 真剣な顔になり、父は私肩に手を置き諭すように言う。私はその手を取り、握り返す。
「大丈夫よ、お父様。…それと、私が説得されて納得したことなんてないでしょう?」
 そう言って私は父を真っ直ぐに見つめ返す。
 『円卓』はまだまだ混迷の中にある。激化してゆく戦争の中でも、何も問題はない。

《私は最高技巧整備士団IDEAのメンバー。フィリア。フィリア・ジャンヌダルク。女性。第六国家ラザンノーチスを代表する闘技士 《トァザ》 の専属技師だ。》

ラザンノーチスの闘技士

 今回はちょっと特殊な制作方法を取り入れてみました。
『自作小説のストーリーアイデア募集』 //open2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1437578984/ にて、ストーリーアイデアを募集し、集まったアイデアを噛み砕いて書き上げました。
 アイデア提供をしていただいた皆さんにはささやかな謝辞をここに記載します。ありがとうございました。

 さて、『ラザンノーチスの闘技士』いかがでしたでしょうか?
 僕は今までにない戦闘描写とライトノベル風の設定、造語を取り扱うという挑戦が楽しかったです。
 テーマとしてフィリアの人としての成長も描きたかったですが、まだ弱いかなとも思います。
 全体的には血沸き肉踊るライトノベルになっていれば幸いです。

ラザンノーチスの闘技士

………時刻は午後1時。抜けるような青空は雲一つなく、ここ数日で一番の快晴。私達は今日、戦争を始める。 メカアクション・ファンタジーの意欲作。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • アクション
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-07-28

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 午後の『円卓』
  2. フィリア・ジャンヌダルク
  3. トァザ
  4. 午後の『円卓』 2
  5. アンダー・アーロン
  6. 開戦演説
  7. 第1戦
  8. 第2戦
  9. ザルバニトー
  10. 午後の『円卓』 3
  11. 第3戦
  12. ラザンノーチスの技巧士