11、ボウイが絆?

11、夫婦・・夢と怖さを織り交ぜた関係?

11、夫婦・・夢と怖さを織り交ぜた関係?


 麻奈は自分の人生のこの理不尽にも思える変化をどうしたら冷静に受け止められるのかわからずにいる。静かな気持ちで振り返っても見えて来るのはついこの間までどこにでもいる主婦であり、母である自分の姿ばかり。終わったものはさっさと切り捨てたほうが身のためだ。どれほどあの時代がよかったと思ってみたところで先は見えてこない。人は前を見て生きろと言う。なんどでもやり直せるのだと。


(本当に?――人の事なら私もそんな事を言うかも。いざ自分の事となるとそんな簡単には割りきれない。
二十五年。あれはあれって笑って言えるわけない。自分のことなら誰だって言えやしないから。――この一年をのぞけば幸せとも言える結婚だった。そりゃどんな家族や夫婦にもある波はあったけど。大きいのも小さいのも。だけどどう考えてもこんな風にならなければいけないのかわからない。わかるのは今の自分をとてもみじめだと感じてる事だけ。)


人と人の関係が壊れていく時は常識も理屈も役に立たない。長い間夫婦でいてその最後はおかしいくらいお互い言葉が通じなかった。私にとっての理不尽は夫にとってはもはや仕方のない事。その逆も。
(二十五年一緒に暮らしてきたのに何も思いが通じないと気付いた時の感情はなんて言うのだろう?多分私の知らない言葉だわ。)


 二年前、夫の経営する会社が倒産して――確かに夫はかなりまいっていた。十年の歳の開きがある夫はあの時五十三。人生をマイナスからやり直すには厳しいのは私でなくても誰でもわかる。
(だからこそあの時家族がバラバラにならなくてよかったと心から思っていた。家族四人で頑張るつもりだった。夫もそう言ってた。でもきっとあの倒産から夫は変わっていたのかもしれない。そう言えば人生観が変わったとか言ってたっけ――あの人の人生観――どんなの?そもそもそういう事を口に出すのが苦手な人だった。何がどう変わったのか。


私が言えるのは二十四年間はいい夫だったという事。倒産して夫の中の何かが変わっていたとしても私も子供達もその事で夫の人間的価値を変える事はなかった。
あれは破産の免責が決定してどの位たった時だったかしら、――突然思いもかけないことを言いだした。これからは自分のために時間もお金も使いたいと。あれはどういう事?
わけがわからない。第一これまでまるで自分の人生がなかったみたいな言い方。そんな言葉に私がどれだけ心をえぐられるかもわかっていたはず。それはわたしの知らない夫だった。それとも私が知らなかっただけ?もしかして二十四年ものあいだ私が傷つくのを恐れて言いたい事も我慢していたとか・・・。
そして今やそれもどうでもよくなったと言う事なの。確かに家族が壊れるのを覚悟すればなんでも言える。だけど私にだって数え切れない我慢があった。夫婦は恐怖と裏切りを隠してこそ成り立つ関係?そんな・・・ただ、どちらにしてもそこから狂気の一年が始まった。


 麻奈は一年の荒れた生活と、眠れない日々で痩せこけた頬に冷たいタオルをあててほてる心を沈めようとした。
(突然思いがけない悲劇に襲われた人は誰もがきっと言う。どうしてこんな事に。どうして私なのと。ただ天災と違って離婚はあなたにも責任の一部はあるとみんな思う。――その通り。でもそれにしても何故――私なの?)
         

                         

11、ボウイが絆?

11、ボウイが絆?

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-07-28

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