太陽系不動産

 さあ、どうぞどうぞ、お入りください。座るでも寝るでも空中を浮遊するでも、お好きな体勢で。何か飲みますか。液体でも気体でも何でもありますよ。え、水銀。はいどうぞ。
 ほう、太陽系は今回が始めてですか。出張のついでに、不動産をご購入なさりたいと。豪気ですなあ。ええ、もちろん、外宇宙の方にも斡旋いたしますよ。
 お探し物は、別荘ですか。はいはい。手頃な小惑星の出物がございますよ。いえいえ、それはもう、ちゃんとした岩石質の物件で。決して、シャーベット状の氷だけなんてことはありませんので。
 えっ、もっと大きな、はい、惑星ですか。うーん、惑星は、ちょっとねえ。衛星なら、何とか考えますけどねえ。木星の衛星なら、いくつかいいのがありますよ。
 はあ、それなら月がいいって言われましてもねえ。ご存知かと思いますが、われわれ地球人にとって、月というのは特別な存在でしてね。いろいろ歴史的な遺跡などもありまして。まあ、アームストロング船長の足跡とか。え、何てことをおっしゃるんですか、インチキなんかじゃありませんよ。あの時代の技術でも、ちゃんと月に行けたんですよ、ホントです。
 ええっ、それなら地球ごと買いたいですって。そんな無茶な。いったい、いくらすると思ってるんですか。はあ、いくらでも出すと言われましても、そんな重大なこと、わたしのような一不動産屋に決められませんよ。冥王星のような無人の惑星ならともかく、およそ300億の人間が住んでるんですよ。え、冥王星は惑星じゃないって、今はそんな細かいことはいいでしょう。
 とにかく、いくらお金を積まれたって、住民が住んでる惑星はダメですよ。したがって、火星もダメです。ああ、もちろん、衛星もです。月だって、今じゃ100万人以上住んでるんですから。
 じゃあ冥王星でいいって、軽くいいますね。確かに、今は観測基地以外無人ですが、そんなに安くはありませんよ。何しろ、それこそ昔は水金地火木土天海冥って言われたぐらい、え、こんなにいいんですか。えへっへ。いやあ、お目が高い。確かに、今が買い時ですよ。
 はあはあ、冥王星は自分用で、お子様にも別に一つ考えていらっしゃると。なるほど、なるほど。
 ええっと、先ほどの地球と月の話ですが…
(おわり)

太陽系不動産

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さあ、どうぞどうぞ、お入りください。座るでも寝るでも空中を浮遊するでも、お好きな体勢で。何か飲みますか。液体でも気体でも何でもありますよ。え、水銀。はいどうぞ。ほう、太陽系は今回が始めてですか。出張のついでに、不動産をご購入なさりたいと…

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-07-27

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