あの日見た夢をもう一度見るために
こんにちは、クリスです。この小説は自分が書く作品の最初です。書いている途中でくだらなくなってやめた作品は入れてません。(笑)
これ、実は書いていて凄く楽しいんですよ。正直、小説書くのにこんなに楽しめるなんて思ってませんでした。
この作品は、結構長く続くと思いますので最後まで読んでいただければうれしいと思います。
読みやすくするために、チャプターで分けています。
初心者で、あまり本を読まないくせに小説を書こうとしているものですが、よろしくお願いします。
あの日見た夢をもう一度見るために
変わらない毎日、変わらない自分。いいのだろうか?このまま時間が過ぎても――。
時間は止まることは無い、いつか何もかもが終わる。だから俺達は歩き出す必要がある。いつまでも止まっているわけにはいかない。
夢を見ていた。
それが何だったのかは分からない。でも、暖かくて、美しくて、それでも弱く脆くて、貧弱な、そんな夢だった。きっとそれが幸せというものなんだろう。
でも、今の夢の内容きっと二度と思い出せないだろう。
「夢?」
眠気がする。
「あれ、俺いつの間に寝たんだ?」
手には購買で買った焼きそばパンと麦茶。
周りを確認してみるが誰も居ない。
携帯を見て時間を確認する、5時間目が始まるところだ。
俺は中庭のベンチで寝ていた事に気づいた。
予鈴が鳴る。
「やべぇ、急がないと!」
急いで焼きそばパンを食べようとした。
「……っ!」
パンは喉に詰まる。
「ごほっ、ごほっ!」
急いで手に持つ麦茶を飲む。
「ふう……。」
ひとつため息をつき、俺は教室へと歩いていった。
教室に戻った後、自分の席に座る。
その隣の席には中学校からの親友、長田郁が座っている。
俺にとって郁は頼れる親友であり、お互いいつも助け合っている。
だだ、郁はちょっと元気すぎるところがあり、ついていくのが難しい。
「おっ、ギリギリセーフだな、大崎春樹くん!」
郁に声をかけられる。
「ああ、昼飯食べてるときに寝ちゃってたみたいなんだ。」
「はは、またかよ!お前好きだよなあそこで寝るの。」
「悪いかよ、日当たりが良くて気持ちいいんだ。」
「授業に遅れなきゃいいんだけどね。まだ進学してから1週間目だぞ。」
「ああ。」
先生が教室に入ってきて授業が始まる。
HRが終わり放課後になる。
俺は特に部活をしているわけでもないので帰えることにする。
いつも郁と一緒に帰っている。
玄関で妹の春香がまっていた。
「お兄ちゃん達遅い!」
妹は何故か高校生になっても俺のことを「お兄ちゃん」と呼ぶ。
このおかげで俺はたまに変な目で見られることがある。実に迷惑だ。
本人は、癖だと言ってやめようにもどうすればいいのかわからないらしい。
「ああ、ごめん。」
とりあえず誤る。
「んじゃあ、帰ろっか。」
俺達は玄関を後にした。
帰り道、俺たちは三人で並んで歩いた。
俺は、空に広がる夕日を眺めながら歩いた。
「そういや……。」
郁が春香に話しかける。
「前から気になってたんだけどさ、何でおまえは俺たちと帰るんだ?」
「うーん、帰り道が一緒だから?」
「いやいや、なぜ疑問系っ!」
俺はツッコミを入れる。
「にしても、友達と帰ったほうが楽しくないか?こんなとこ退屈じゃん。」
「だから、いちいち話し合わせるのがめんどくさいから?」
「いやだからなぜ疑問系っ!」
もうどうでもいいや……。
「まあ、ならいいんだけどさ。」
郁は納得したかのようにいう。
「でもさ、こっちのほうが居心地がいいの。」
「え?何で?」
俺は答える。
「うーん、何でだろ?わかんない。」
「まあ、やっぱ慣れてるからじゃないの?」
今度は郁が答えた。
「かもね。」
俺たち3人はは長いとはいえないがずっと一緒にすごしてきた。
でも、居心地がいい、か。なんか照れるな。
しばらくの沈黙。
「あーあー、なんか楽しいことないかな~。」
それを崩すように郁が喋る。
「たとえば?」
俺は郁に聞いてみる。
「隕石が振ってきたりとか。」
郁は目を光らせながら言う。
「いや、それは楽しいことなのか?」
「い、言われてみれば……。破壊しか待ってないよな……。」
郁はぶるぶる震えながらいう。
「まあ気持ちはわかるかも。せっかくの高校生活なんだし、もっと高校生らしいことがしたいかな。」
春香が言う。
「高校生らしいってなにさ?」
「うーん、そうだね~。わかんないっ。」
笑いながら言う。
「つまり、青春、だな!」
郁も笑う。
俺たちは毎日こんな風に過ごしていた。
毎日、毎日、中学校のときから変わることなく、この3人で――。
俺たちはずっと同じ場所に止まっている。
翌朝、俺は学校へ向かう準備をして朝食を食べる。
朝食は普段俺のお母さんが作っている。
お母さんの作る料理はどれも絶品だ。
そして、今年から妹と一緒に通学することになる。
「じゃ、いこうか。」
「うん。」
学校に着くと校門の前で郁に会う。
「おす。」
片手を挙げながら言う。
「よっ。」
郁も同じようにする。
そのままくだらない話をしながら、俺たちは教室へ向かっていく。
教室の前で春香と別れ郁と教室に入る。
「でさ、それが傑作だったのよ!ありえないだろ。」
HRが始まる前の馬鹿を話をする。
昨日やっていたゲームの話らしい。
担任の望月伊佐美が教室に入るなりHRが始まる。
途端、教室が静かになる。
ここまではいつもの日常。
「皆さんおはようございます。」
教室全体が挨拶を返す。
「えーっと、いきなりですが本日、このクラスに新たな仲間が加わることになりました。」
俺は不思議に思った。
四月に、しかも進学してからまだ一週間、普通に考えて転校生がくるわけがない。
「西野さん、入ってきて自己紹介をしてください。」
先生は廊下に向けて言う。
しかし、誰も入ってこない。
「西野さーん、大丈夫ですよ入ってきても。」
その言葉の後にゆっくりと、まるで何かを警戒しながら一人の少女が教室に入ってくる。
黒く長い髪が風に揺れる。
……
俺は見とれていた。
「……西野歩です。よろしくおねがいします。」
彼女はぺこりと頭を下げる。
――西野さんか……覚えておこう。
「では、用意しておいた、あの後ろの席へどうぞ。」
先生は俺の後ろを指差す。
――全然気づかなかった……。
俺の後ろに机と椅子が丁寧に置いてあった。
西野さんがこっちまで歩いてきて、自分の席に座る。
そのまま何事も無くHRが終わり次の授業が始まる。
1時間目が終わり休み時間となる。
途端俺の後ろの席にわらわらと人が集まる。
きっと転校生に興味を持つ人たちだろう。
「西野さん何月生まれ?」
「血液型何?」
「西野さんだっけ?どこから転校してきたの?」
「どうしてこんな時期に?」
「西野さんって美人だよな~、彼氏とかいるの?」
次々と繰り出される質問。
が、彼女は何も話すことなく黙り込んだままだ。
――……え?
――震えてる?
彼女は震えていた。
その、容姿に似合わないくらいにうずくまっていた。
「え?あ、ごめんねいきなり押しかけてきちゃって。」
それに気づいたのか、西野さんに謝る女子生徒が一人。
「何かあったら遠慮なく言ってね。じゃあ、いくね。」
女子生徒は立ち去ろうとした。
「あ、忘れてた。わたし堀内理穂。よろしくね。」
春樹(堀内さんって確かクラス委員長だったよな?)
昨日のHRのとき自分から立候補してたっけ?
その堀内さんは立ち去っていった。
それと同時に人ごみは無くなっていった。
俺は彼女をまだ見つめていた。
目が合った。
彼女の目は、まるで誰かに助けを求めているような、そんな目だった。
今の俺にはどうすることも出来なかった。
「あ、ごめん。」
俺はとっさに前を見る。
同時に教室に先生が入り授業が始まる。
午前の授業が終わり、昼休みになる。
「よーし、じゃあ、購買行くか!」
「ああ。」
俺は郁と一緒に購買へと向かう。
途中春香と出会う。
「お兄ちゃんたち、今からパン買いに行くか?」
「まあな。」
「一緒に来るか?」
郁が春香を誘う。
「言われなくても。」
と、いうわけで購買についたわはいいけど……
「なんじゃこりゃーーーーーー!!!!!!」
「あ、お兄ちゃんがキレた。」
「これは、さすがにキレるだろ!」
「確かにこれじゃあな~。」
郁は呆れたようにいう。
「で、どうしてこんなに混んでる訳?」
唯一落ち着いていた春香が聞く。
「君達知らないの!?」
後ろから男子生徒の声
「今日は新商品のパンがあるんだ。」
男子生徒は一度回りを確認してから続ける。
「それは、幻のダークサンドだ。あれを見てくれ。」
男子生徒は壁に張ってある一つのビラを指差す。
「新商品ダークサンド
この表面の黒さ、果たして何でできているのか!
中身はランダム、君のは何が入っている!?」
そしてその名の通りダークなどす黒いパンの写真がある。
これは食欲が無くなる。
「な、気になるだろ?おっと、早くしないとパンがなくなる。検討を祈ってるぞ。」
男子生徒は人ごみの中へと突っ込んでいった。
「なんだったんだ今の……。」
郁は言う。
「それはともかく、これは確かに気になるな……。」
「そうだね……。」
「よし、じゃあこうしよう。誰がそのパンを買えるか勝負だ。勝ったらみんなにパンを分ける。」
いやそれ、勝っても損するだけじゃん。
「じゃあ、はじめ!」
「えっ、まっ。」
郁は人ごみに突入する。
「お先にっ!」
その後に春香が続く。
「ふう……」
なんか、訳のわからない勝負を始められた……。
――パンのことも気になるし、とりあえず行ってみるか。
俺は人ごみに向かって走り出した。
「おらーー。」
人と人の間を泳ぎながら走っていく。
「っ!」
誰かに押されて倒れそうになった。
俺は何とか体制を整える。
「まだまだっ!」
人ごみの中を泳ぎ続ける。
――ついた!
レジ前には着いたはいいもののダークサンドを探し出す必要がある。
そしてこの人ごみ。いつなくなるかは分からない。
おまけに誰かに押されることもある。
――レベルが高いな。
自分用のパンを適当に2つ取る。
カレーパンとメロンパンだった。
――ラッキー!
そのままダークサンドを探す。
突然、視界にどす黒いものが映る。
――あった!
あとひとつだった。
俺は走り出し、手を伸ばし何かを握った。
「よし。」
俺は、自分の手の中を確認する。
ちゃんと取れていた。
「おばちゃん、この2つください。」
「はいよ、300円。」
――って、何熱くなってるんだ俺。
郁は俺の調子を狂わせる。
俺はおばちゃんにお金を渡して、人ごみから出て行く。
そのすぐそばで郁達が待っていた。
「どうだった?」
「な、なんとか。」
息を切らせながら言う。
「マジか!?ちょっと見せてみろ。」
この様子だと取れたのは俺だけか……。
俺は手に持つダークサンドを郁に差し出す。
「黒いね。」
「おう、黒いな……。」
「勝負はお前の勝ちな!今度なんかおごるよ!」
「あ、ああ……。」
どうせろくなモンおごられないだろうから期待はしないでおこう。
「じゃあ、教室に戻ってから食べるか。」
「私も行く。」
春香が言い出す。
「俺たちの教室、先輩の教室だぞ。」
「大丈夫だと思う。パンも気になるし……。」
「まあ、いいだろ。」
とりあえず教室に戻る。
自分の席の後ろの席を確認する。
西野さんがいた。
とりあえず席に座る。
春香は誰も座っていなかった俺の前の席の椅子を反対にして座る。
誰も彼女の存在を妖しく思わない。
「じゃあ、とりあえず3人で分けよう。」
と、後ろの視線に気づく。
西野さんだろう。
「じっー。」
ものすごく見ている。
「ほしいのか?」
「べ、別に。」
パンから目を逸らさず言う。
「ならいいや。」
途端に彼女が悲しい顔をする。
「やっぱほしいんだな?」
ちょっと笑顔になった。
「いいわよ……。」
「よーし、じゃあみんな食べるぞ!」
俺はわざとらしく言う。
彼女を確認する。
西野さんは今にも泣き出しそうだった。
――かわいそうだけど、なんか面白いな。
「丸いパンを3つに分けるのもめんどくさいし、ちょとやるよ。」
「え?いいの?」
ほら、やっぱほしいんじゃないか。
「いいよな、みんな?」
俺は残りの2人に聞く
「そういうことなら大丈夫。」
春香の許可が下りる。
「お前が買ったんだし好きにすれば?」
「じゃあお前にはあげない。」
「前言撤回!」
「冗談だ、ちゃんとやるよ。」
そういうことなので、俺は丁寧にパンを4つに分け西野さんを含めそれぞれにやる。
「覚悟はできたか?それじゃあ、いただきまーす。」
「いただきます。」
「いただきます。」
「いただきます。」
パクリ
一口食べた。
「……。」
「……。」
「……。」
「なんだ、これは……。」
「なんなんだろう……。」
「なんとも言えないな……。」
なんともいえない味だった。
美味しくもなく、不味いも無い。
いったい何でできてるんだこのパン。
具は……。
世の中知らないほうがいいこともあるだろう……。
それを、西野さんは美味しそうに食べている。
「……美味しい?」
聞いてみる。
「まあまあね……。」
とはいっても相変わらず美味しそうに食べている。
どういう味覚してるんだ!?
「もうちょと素直になったほうがいいぞ。」
それだけをいい、袋からカレーパンとメロンパンを取り出す。
「お、3個買ったのか!」
「俺がパンの4分の一だけ食べて満腹だと思うか?」
「思わないな。」
「だから俺にくれ。」
「やだ。」
思い切り言ってやる。
西野さんのほうを向く。
「もうお昼は食べたか?」
「……まだよ。」
「弁当とかは持ってるか?」
西野さんは首を横に振る。
「どっちか食べるか?」
「別にいいわ……。」
西野さんのお腹がなる。
途端に西野さんの顔が赤くなる。
「しょうがないな。どっち食べたい?」
俺は西野さんの机にパンを並べる。
「カレーパン。」
これだけは譲れないという顔で俺を見る。
俺は西野さんにカレーパンをあげることにする。
なので俺はメロンパンを食べることにする。
西野さんは凄くうれしそうにそれを食べ始める。
俺はそれを暖かく見守った。
郁「あ、ずるいぞ。俺にもくれ!」
春香「お前は自分のを食え!」
春香は郁の顔をグーで殴る。
「痛って~な。やんのか?あぁ?」
「ああ、やるとも。」
2人は睨み合い、喧嘩が始まろうとしている。
「ちょ、ちょっと待て!」
速攻で止めに掛かる。
「ぷっ。」
西野さんが笑った。
「何が面白いんだよ。」
「あなたたちいつもそんな感じなの?」
西野さんは呆れたように言う。
「まあ、こんな感じだよね?」
「ああ、日常だ。」
「まあ、そうなるな……。」
「ぶっ。ははは。」
それを聞いて西野さんが笑い出す。
「あなたたち、本当に馬鹿ね。」
しかも馬鹿扱いされた!?
さっきまで素直じゃなかった子なのに!?
「馬鹿でいいんだよ馬鹿で。」
「俺たちは学生なんだ、いつか俺たちはいつか社会人になって、こんな日常とは縁がなくなるんだ。だから馬鹿は今しか出来ないことなんだ。だから俺はこの機会を無駄にしたくないんだ。」
郁は自慢げに言う。
「この前郁に借りたゲームにそんな台詞あったな~。」
「コラー、言うな!せっかくいいこと言ったつもりなのに!」
「お前がいい台詞を言うなんて10年早いわ!」
春香はまた郁の顔面を殴る。
でも、一理あるな。
俺たちはいつまでも止まってはいられない。
いつか社会に出るんだ、そしたら何もかもが終わる。
だからといって、今は前に進むための勇気がないんだ。
俺たちはもっと何かを成し遂げたいんだ。
「だから、痛てーんだよ。あぁ?」
郁はまるで昭和ドラマの不良のように春香を睨む。
「あらら、またループしてる。」
「いつも、こんなんだな。」
俺は呆れたように言う。
「羨ましいな……。」
「え?」
「ううん、なんでもない。」
ふと、別の視線に気づく。
視線のほうを見ると一人の女子生徒があわてて黒板のほうを見る。
――あの子は確か……。
郁の幼馴染の前川真子だ。
どうしたんだろう……。
こうして昼休みは過ぎていった。
午後の授業が終わり、放課後になる。
とりあえず後ろを確認。
今日転校してきたばっかりなので、一人で帰ることになるだろう。
「西野さん、俺たちと帰らないか?」
聞いてみる。
「え?」
俺の言葉に耳を疑う西野さん。
「俺たちと、一緒に帰らないか?どうせ一人だろ?」
「……そうね。」
「そういえばまだ自己紹介してなかったな。俺は大崎春樹。よろしく。」
「大崎くんね、おぼえたわ。」
大崎くんって……。
「おっと、俺のことを忘れないでほしいな!」
隣で聞いていた郁が話しだす。
「俺は長田郁。こいつの親友だ。」
郁は俺の肩を叩きながら言う。
「ちなみにこいつ俺のこと好きなんだ。」
「え!?えぇぇ!」
引いてる!?
この子以外に天然かも!
「んなわけねぇだろ!」
郁に顔を殴られる。
「冗談だ。」
頬をなでながらいう
西野さんは安心したようにため息をつく。
「じゃあ、名前を覚えた所でそろそろ行くか!」
「そうだな。」
玄関で春香に会う。
「ごめん、待った?」
「ううん、別に。」
「昨日怒ってなかったっけ?」
「昨日は授業が早めに終わったからね。」
「だったら怒るなよ!」
「ごめんごめん、からかってみただけ。」
「今更言っても遅いだろっ!」
「あれ?その子はさっきの……。」
春香が西野さんに気づいて聞いた。
「無視かよ!」
「ああ、西野歩さんっていって今日転校してきたんだ。」
「転校?こんな時期に?」
「色々あるんだよきっと。」
「私は、大崎春香。よろしくね。」
「……うん。」
「大崎くんの妹だよね?」
西野さんは俺に聞く。
「ああ。」
これで全員に紹介できた。
「じゃあ、帰るか!」
俺たちは玄関を後にした。
帰り道、俺は夕日を見ながら歩く。
「西野さんってさ、何でこんな時期に転校してきたんだ?」
「……。」
西野さんは黙ったままだ。
「言えないようなことなの?」
「そう、ね。言えないかな……。」
「なら無理しなくていいよ。」
西野さんは少し悲しそうだった。
だから俺は閃いた。
「そうだ、みんな今度の日曜日空いてるか?」
「おう。」
「大丈夫。」
「西野さんは?」
「別に用はないわよ。」
「じゃあ、決定。今度の日曜日西野さんの転校祝いということで、どこかに行こう。」
これで少しは元気になるかな西野さん。
「いいな、それ!」
「それ乗った!」
二人は賛成してくれた。あとは……。
「西野さんはどう思う?」
「……。」
西野はボーっとしている。
「西野さん、あそこに豚形の空飛ばないUFOがいるよ!」
空を指差しからかってみる。
「え?どこ?」
必死で空を見上げ、探し始める西野さん。
「って、んなもんいるか!」
西野さんは凄い勢いで俺のお腹に蹴りを入れる。
「ぐわぁ!」
急所だった。
つっこまれた……。
この展開は以外だった。
そもそも空飛ばないのに空にいるわけがない。
さすがに常識から外れすぎたか……。
痛みがお腹全体に広がっていく。
俺はお腹を押さえ痛みをこらえた。
そのまま親指を立てようとした。
が、途端、西野さんは床にひざをついて、泣き出した。
どうして?あんなに元気だったのに……。
あと少しだったのに。
西野さんは泣く。
「……っ、ごめんなさい。ごめんなさい……っ。」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……っ。」
彼女はひたすら謝りはじめる。
どうして?彼女は何も悪いことなんてしていない。
あれは……さっきのは彼女なりの遊びだったはずだ。
俺はこんなことで怒ったりはしない。
いや、俺のせいなのか?
俺が余計な世話を焼こうとしたからこんなことに……。
今はそんなことはいい。彼女を何とかしないと。
「にし……のさん……?」
痛みをこらえながら彼女の名前を呼ぶ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……っ。」
彼女には俺の声は届いているのだろうか。
いや、きっと届いてないだろう。
「おい、西野!大丈夫か!?」
「西野さん!大丈夫!?」
郁と春香も西野さんの名前を呼ぶ。
「西野……さん、大丈夫だから……。俺は……こんなことで君を責めたりはしない……。」
俺は必死で激痛をこらえ、彼女に言う。
そうだ、こんなことで怒ったりはしない。
「嘘よ!」
西野さんが俺に向かって怒鳴る。
「今までだってそうだった。みんな口ではそういうこと言って私に同情して、でも実際は全然そんなこと無くて、少しずつ私から離れていって、そして最後は……っ、最後は……っ。」
彼女はまた泣き始めた。
俺はかける言葉が見つからなくなった。
そうだ、俺はもしかして彼女に同情していただけかもしれない。
ずっと誰とも話さずにいる彼女にただ同情して、
購買にも行かず、お弁当も無かった彼女に同情していただけかもしれない。
俺は昔からそうだ、他人に余計なお世話をかけて結局は迷惑ばかり。
俺は、駄目な奴なんだ……。
俺は……。
悔しかった。こんな自分でいることに。
ずっと動くことなく同じ場所に止まっているだけの俺に。
視界が曇る。
春樹「くっそーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
思い切り叫んでやった。
これで少し悔しさが無くなるかと思った。
気がついたら、俺は自分の部屋のベットで寝ていた。
あれから西野さんは少し落ち着いたらしく一人で帰ることにした。
俺はというとそのまま家へ帰り、夕食も食べずに自分の部屋で寝ることにした。
とは言うもののさすがに夕食抜きはきつい。
時計はすでに12時を回っている。
ぐぅ~。
お腹がいびきをかく。
春樹「ふぅ……。」
――しょうがない、何かを食べに行こうか。
仕方なく俺はベッドから起き上がる。
「っ……。」
まだお腹は痛んだ。
「……。」
俺は部屋を出た。
電気も点けず薄暗い廊下を歩く。
突然物音が聞こえた。
泥棒か?
物音は酷くなる。
俺は急いでその音の源をさがす。
台所のほうだ!
俺はゆっくり台所へ近づき中の様子を確認する。
人影が冷蔵庫の中を漁っているのがわかる。
「誰だ!」
「わぁああ!」
その人影がこちらを振り向く。
って、どこからつっこめばいいんだ!
春香がメロンパンを加えながらプリンのカップとスプーンを持って開いたままの冷蔵庫のまえでしゃがみこんでいる。
春香は急いでメロンパンとプリンを食べ終わり冷蔵庫を閉じた。
「見・た・な!」
怖い。
「さーてじゃあ部屋に戻るか。」
ごまかしてみる。
おなかの虫が鳴く。
「ほら~晩飯食べないから~。」
「あの時は食欲無かったんだよ!」
あんなことがあって食欲が沸くわけが無いんだ。
「まあ、気持ちはわかるけどさ。じゃあ、とりあえずこれ。」
春香は冷蔵庫をあけてプリンとゼリーを俺に渡す。
あまり胃に重いものじゃないからいいだろう。
俺はプリンの蓋をはずしそれを食べ始める。
「いつもこんなことやってるのか?」
春香に聞いてみる。
「ううん。実は私も夕ご飯あんまり食べてなかったんだ……。」
「そうか……。」
さすがの彼女もショックだっただろう。
「西野さん大丈夫かな?」
あのあと彼女は凄くおちこんでいた。
大丈夫なのだろうか?
「そうだ、お兄ちゃん。私の部屋に来てよ!」
「いいけど。どうして?」
「ちょっとね。」
なんだか嫌な予感がする……。
「なんなんだ一体!?」
「来てからのお楽しみっ!」
しょうがないのでついていく事にする。
「とーちゃーく。」
実の妹の部屋の前。
扉には「HA★RU★KA」と彫られた木の板がかけてある。
春香が扉に手をかける。
「では、お先のどうぞ!」
へらへらと笑いながら言う。
――何を考えてるんだ?
とりあえず部屋の電気を点けて部屋に入る。
あとから入ってきた春香が扉を閉める。
春香は鍵を閉め、部屋の電気を消した。
そのまま彼女が俺に向かってゆっくり歩き始める。
その目があまりに異様だったので俺は無意識のうちに後ろへと下がり始める。
春香がどんどん迫ってくる。
春香のベットにに足が当たる。
「ねぇ、お兄ちゃん。春香のことも食べてくれない?」
顔が熱くなる。
待てよ、何がおきてるんだ!?
えっと、とりあえず状況を把握してみよう。
今俺は、実の妹に迫られている。以上。
そんなことを考えているうちに、春香が俺をベッドの上に押し倒す。
「私、お兄ちゃんになら何されてもいいよ。」
そのまま俺の両手の手首をつかみ、俺の唇に彼女の唇を近づけていく。
俺はもう抵抗はできなくなっていた。
少しずつ、ゆっくりと春香の顔が近づく。
心臓が爆発しそうだった。
唇が触れる寸前のところで止まる。
「なーんてね。」
途端体の力が抜ける。
もう頭が真っ白だった。
「さっきの見られたおかえし。大丈夫?そんなにどきどきしちゃって~。」
「で、どうだった?実の妹に迫られる気分は。」
「そ、そうだな……、せ、精神的にものすごいショックだった。」
「あんなに心臓バクバクしてたのに……。」
脈を測られたことに気づく。
顔が熱い。
春香は部屋の電気を点けた。
「でも。正直私もどきどきしちゃったよ。」
「な、なんでこ、こんなことするのさ。」
相変わらず心臓が爆発しそうだった。
「お兄ちゃんをからかってみたかっただけ。」
「からかうにも限度があるだろ!」
「はは、ごめんごめん。」
彼女は笑い出す。
「今日のことは、二人だけの秘密ね!」
「お、おう。」
二人だけの……。
って何を考えてるんだ俺は!
「じゃ、じゃあ、俺は寝るよ。」
ごまかして部屋を出て行こうとする。
「あ、待って。」
俺は足を止める。
「おやすみなさい、お兄ちゃん。」
笑顔で言う。
また心臓が爆発しそうだ。
「あ、ああ、おやすみ。」
高校生にもなって兄のことを『お兄ちゃん』と呼ぶ妹は俺の妹くらいなのだろうか?
その夜はよく眠れなかった。
春香のこともあるけど、やっぱり西野さんのことだった……。
「朝だよ~お兄ちゃん。」
女の子の声が聞こえる。
「ん……。」
目を開けるとベットの隣に妹が立っていた。
「やっと起きたー。朝ご飯できたよ、今日のは私が作ったんだよ。」
「二度ねする。」
俺は布団に潜り込む。
「もう、お兄ちゃんって朝に弱いんだから。」
「……。」
「仕方ないな、あれをやろう。よいしょっ!」
春香は一気に俺の布団を引っ張る。
「あ、こら返せ!」
「かえさないよーだ。」
「ふぅ。」
ここで妹と喧嘩してもキリがないので仕方なく起きあがる。
「眠い……。」
「やっぱり昨日のことが原因?」
途端に顔が熱くなる。
「そ、それもあるけど西野さんのことがメインだ……。」
「うわぁ、なに言ってるの?最初からそっちのこといってるんだけど……・」
「それともまた襲われたい?」
「違う!」
とりあえず台所に行き朝食を食べることにする。
「どう?美味しい?」
そういえば今日の朝食は春香が作ったんだったな。
「お前にしては、まあまあだな。」
「もー、お兄ちゃんの意地悪~。昨日のお詫びに作ったのに~。」
ひとつ異変に気づく。
「あれ?お母さんは?」
「朝連絡が来て、急に仕事が忙しくなったから今日は帰ってこないんだって。」
「今夜は2人きりか。」
なんだかんだでやっぱり昨日のことを忘れることはできない。
二人きりということはまた……。
「あれ、どうしたの?顔赤いよ、やっぱりまだ気にしてるんだ昨日の事。大丈夫、また襲ったりはしないよ。それともまた妹に襲われたいの?」
顔が熱い。
「あ、また赤くなってる~やっぱり襲われたいんだ~。」
「ち、ちがう!」
「あーあ、照れちゃって~。襲われたいなら素直にそう言えばいいのに。」
「だから違うって言ってるだろ!」
弱みを握られた気がする。
教室に入ると俺は自分の後ろの席、西野さんの席を確認した。
西野さんはいなかった。
いや、いるはずもない。
あんなことがあって、学校にこれるわけがない。
俺に、会えるはずがない。
俺自身どんな顔をして会えばいいのかわからなかった。
自分の席に着く。
「どうしたの?大崎くん?そんなに悲しい顔をして。」
女子生徒の声が聞こえた。
俺はすぐに声のするほうを向く。
堀内さんだった。
「どうしたの?心配事でもあるの?」
彼女は聞く。
「堀内さんには関係ない。」
「関係ないってそんなことはないでしょ。クラス委員長としてクラスの困っている一人を見たら放っておけるわけがないよ!」
「これは個人的な問題だから、ほっといてよ……。」
「個人的な問題でも、困っているのは事実でしょ。」
「西野さん今日来てないけど関係あるの?昨日仲良くしてたよね?」
「……。」
「何が会ったか知らないけどさ、きっと大丈夫だよ。お見舞いでもしてみれば?職員室で住所聞いてこようか?」
「いい、自分で行く……。」
「そう……。がんばってね大崎君!」
堀内さんは立ち去る。
今日、西野さんの家にいって改めて話をしよう。
もう落ち着いた頃だろう。
担任が教室に入りHRが始まる。
午前の授業が終わり、昼休みになる。
午前の授業は全然頭に入らなかった。
「春樹!購買行こうぜ!」
郁が笑顔で言う。
「ああ、そうだな……。」
「昨日のこと気にしてるのか?」
意外と鋭い。
「ああ……。」
「そうか……。でも、落ち込んでても意味ないだろ、落ち込んでたら西野が学校に来るとでも思ってるのか?」
郁が言うと説得力ある。
「そうだな……。」
少しだけ元気がもらえた。
購買につくと春香が待っていた。
「よーし、今日もがんばるぞ~!」
ノリノリたっだ。
「さーて、今日は昨日ほど混んでないし、何にしようか……。」
「はいはーい、私焼きそばパン!お兄ちゃんは?」
「んじゃあ、カレーパン。」
「おお、また二人とも人気商品だな!じゃあ、俺はカツサンドな!」
「カツサンドって、おま、無理だろ!」
カツサンドは一番最初に売り切れるパンだった。
「うるさい!やる前から出来ないと決め付けるな!」
「今日の目標はカツサンドだ、取れたら勝ちな!」
「無理だ……。」
「うむ、では期待しておるぞ。」
くそ、やるしかない!
「んじゃ、バトル開始!おっ、いいなこれ、今度からこれ使うわ!」
まだ続くのか、これ……。
そう思いながら俺は人ごみに向かって走り出した。
春樹「……っ。」
お腹が痛む。
無理はしないでおこう。
「ふう……。」
人ごみから出てくる。
取れたのは、普通のサンドイッチ2個だった。
「どうだった?」
「無理だった……。」
「春香は?」
「私も……。」
「俺も無理だった……。」
カツサンドなんて取れるはずがない。
「今度改めて挑戦しよう!」
「お、おう。」
前向きなやつだ。
パンを食べに教室に戻る。
昨日と変わらず春香もついてくる。
そしてやはりクラスはまったく気にしない。
今日も俺の前の席の人は別の場所で食べに行ったのかいなかったので春香はそこに座る。
「よーっしゃー飯だ、飯だ!」
「んじゃ、食うぞ!」
「おー!」
「やれやれ。」
相も変わらずテンションが高い二人。
郁は購買の袋からひとつの黒い物体が入った袋を取り出す。
「おま、これ……。」
ダークサンドだった。
「んじゃ春樹!昨日や約束したおごりな!」
「んなもんいるかっ!」
「おお、見事なツッコミ!」
「そこ、感心するところかっ!」
相変わらずこの2人と居ると調子が狂う。
「あの……。」
声が聞こえた。
この声は確か……。
「ん?おっ、真子じゃないか、どうした?」
「そうだ、久しぶりに一緒に食べないか?」
「え?」
「まあまあ、そこ座れよ。」
郁は西野さんの席をさす。
「う、うん……。」
前川さんは、西野さんの席に座る。
「で、何?」
郁は前川さんに聞く。
「別に用があるわけじゃ……。」
「つまり、俺たちと一緒にいたいわけだ。」
「えっ?そ、そうなのかな……。」
「おいおい、自分でわからなくてどうする。」
郁は呆れた顔でいう。
「てへへ……。」
「やれやれ……。そうだ真子、新商品はもう食べたか?」
「へ?新商品?」
前川さんは何のこと、と言いたげに首をかしげる。
「これだ!名づけてダークサンド!」
郁は黒い物体が入った袋を前川さんに見せ付ける。
「わぁ……黒いね~。」
前川さんはその物体に興味を持つ。
「ああ、黒いとも!食べるか?」
「う、うん。食べてみたい……。」
「よーし、じゃあ遠慮なく受け取れ。」
郁は前川さんに黒い物体を差し出す。
「え?いいの!?」
「ああ、いいとも。こんな気味の悪いもの君にあげるよ。」
「へ?なんか言った?」
「いや、何でもない。」
前川はその黒い物体が入った袋を受け取る。
そして、その袋を開ける。
「じゃ、じゃあいただきまーす。」
前川さんは一口食べる。
「……。」
俺は唾を飲み込む。
「これ、おいしいね。」
嘘だろ!
こんなパンが美味しいわけがない。
「え?今なんて。」
郁は前川さんに確認する。
「美味しいですよこれ!具がハヤシライスなんだね。ご飯も入ってる!」
「ハヤシ…ライス…だ…と……。」
郁は真っ青になる。
「うん。」
前川さんはニヤニヤ顔で言う。
「つまり、当たりだったってことだね。」
春香が言う。
昨日のはハズレだったわけか。
「へ?当たり?」
「いや、なんでもない。お前は知らなくていいことだ。」
「へ?」
前川さんは不思議そうな顔をする。
「そういや、お前ほかのパンは何なの?」
郁に聞いてみる。
「ジャジャーン、ダークサンドだ!」
郁は黒い物体が入った袋を俺たちに見せびらかす。
「んじゃあ、いただきまーす。」
郁は袋を開けて、パンを食べ始める。
「……これは……。」
「ど、どう?」
春香が不安そうに言う。
「寿司にチョコレート……。」
うわ……不味そう。
「……どんまい。」
春香が郁の方をパーでぽんぽん叩く
「あ、ああ……。」
「もったいないから全部食べろよな。」
「あ、ああ……。」
凄くつらそうだ。
「あのっ。」
前川さんに話しかけられる。
「ん?」
「お、大崎さんっ、こんにちはっ。」
「こ、こんにちは。」
何故今になって挨拶をする!?
「きょ、今日はいい天気ですね……。」
「そ、そうだね……。」
何故天気の話になる!?
「……。」
「……。」
お互い沈黙する。
――誰か助けて!
「あー!もう無理食べられん、こんな不味いもん食ってられるか!」
ダークサンドを食べていた郁が大声で言う。
俺の願いが届いたのだろうか?
「郁、全部食べろよな!」
「んなもの食ってられるか!」
とは言うもののパンを食べ続ける郁。
「こいつ馬鹿だろ。」
春香が言う。
「ああ、そうだな。なあ、前川さん?」
黙っていた前川さんに話を振る。
「そうかな?郁は昔から不器用だけどやる時はやる人なんだよ。」
おお、さすが幼馴染だ。郁の事を良く知っている。
「そうだそうだ、俺はやる時はやるんだ!」
郁が自慢げに言う。
「本当か?」
「う、うん。たぶん。」
前川さんは不安げに言う。
俺は思い出したかのように教室の時計を見る。
「ん?どうした?」
郁が聞く。
「ああ、ちょっと用事を思い出したんだ。」
「西野のことか?」
「ああ。」
前川さんの言う通り、郁はやる時はやる。
「じゃ、行ってくるよ。」
俺は教室を後にした。
西野さん、もう大丈夫なのだろうか?
俺が彼女の家に行くことは迷惑にならないだろうか?
そんな不安を抱きながら俺は職員室へと向かう。
「失礼します。」
職員室に入る。
「あら、春樹くん、どうしたのいきなり?」
担任の望月先生に声をかけられる。
「あの、実はその、西野さんのことが心配なので、住所を聞きに来ました。」
「そういえば、転校した次の日にもう休んでるわね西野さん。何かあったの?」
「ええ、まあ。……色々ありました。」
俺は昨日の出来事を思い出す。
俺が余計なお世話をかけていなかったらこんなことはおきなかったはずだ。
俺が悪いのに西野さんに会いに行ってもいいのだろうか?
いや、俺が悪いからこそ誤りに行かなくちゃいけない。
「何があったかは知らないけど、深刻そうなのは確かね。いいわ、ちょっと待ってて。」
先生は机の上に置いてあったファイルから西野さんの住所を探し出し小さな紙に書き写す。
「はい、どうぞ。がんばってね。」
先生から紙を受け取り財布の中にしまう。
「ありがとうございました。」
俺は職員室を出る。
「ふう……。」
ひとつため息をついた。
あの日見た夢をもう一度見るために