シリアス君!

シリアス君!

くだらないことをだらだらと面白く。

シリアス1

 僕は夕ノ宮(ゆうのみや)(とおる)
 クラスメイトからはシリアス君と呼ばれている。
 誰がこう呼び出したのかは知らないけど、なぜかそんな風に呼ばれている。
 シリアスを苦手とする僕がどうしてこんな名前負け同然のあだ名をつけられているのか、理解に苦しむがきっと僕の容姿と性格の問題だろう。
 僕は感情を顔に出さない。基本的に無表情。右目に眼帯をつけているからか、考えていることが読み取りにくいとも言われたことがある。
 その反面。
 僕はシリアスを得意としない。しんみりしたりギスギスしたり重い雰囲気が苦手だ。
 なんだろうシリアスな雰囲気に触れるとぞわぞわするというか……性に合わないんだろう。
 どうしてもネタやらを入れてその雰囲気を壊したくなる。和ませるという目的ではない。
 僕はただ平穏に少しくだらない笑いのある日常が好きなだけだ。
 重たい雰囲気は僕のほのぼの日常理想には遠い。
 自覚中二病患者である僕はこのことを「シリアスブレイク」という業として考え、それを行う僕自身を「シリアスブレイカー」。
 そう呼んでいる。

 よく言えばムードメイカー。
 悪く言えばKY(ケーワイ)
 TRPGでのポジションはルーニー。TRRGが分からない?ggr(ググれ)
 そんなシリアスブレイカーである僕は今日もラノベ席で頬杖をつく。
 現在時刻8時20分。生徒は皆着席し、40分まで教師を待つ。この時間帯は生徒にとっての休み時間のようなものだ。
 教師という監視の目もなく規則もあまりしてきされぬ場。
 ええ……僕の大嫌いな時間ですよ。
 ……はぁ。案の定。
 一人の女が席を立つと遅れて二人席を立った。学年でも有名なガングロトリオ。
 リーダーの篠田(しのだ)。金髪にピンクのメッシュを入れ耳の近くでツインテールをしているのが特徴的。
 金本(かねもと)臼井(うすい)。金本はショートボブで顔にハートのペイントをしている。臼井は両耳10個以上、口に一つピアスをしている。
 そして三人とも白のネイルに白の口紅。マスカラ塗りたくりのガングロ。多くの生徒に嫌われている。正直僕も苦手だ。
 篠田を先頭に金本と臼井が続いて僕の席に近づいてくる。
 え、ちょ、関わりたくねぇ……僕なんかしたっけ。
 直接何かしたことはないぞっ…!
 金髪でピンクのメッシュって外も中身もカラフルだな!とか、顔中ハートだらけでお前の顔はパレットか!とか、そんなにピアスつけてドMなの?とかそもそも校則違反なんだよ!とか口に出して言ったことねぇし!!
 まさか顔に出ていたとか…!
 いやありえん。自分で言うのもなんだが僕はポーカーフェイスだ。友人からも基本的無表情で何考えてるのかわからないといわれたくらいだ。これしき顔に出すことはない……。
 僕が心当たりを探っていると三人は僕の席へ近づいてくる。
 パコン、パコンと三人ともかかとを踏みつぶした上履きを鳴らす。
 やべぇ……!
 眼帯で表情が分かりにくいもののきっと冷や汗くらいはかいているだろう。
 どうして僕がこんなやつらに焦るかって苦手だからというわけではない。こういうタイプは何を言っても「マジウケるww」「マジないんですけどー」で全てを済ますのだ。
 そう僕は日常会話は勿論会話には大抵ネタを入れる。それをやめろというツッコミはなしだ。これは僕の会話術(ポリシー)なのだから。
「あんたさー」
 うっわっ!
 ピクッと肩が動いてしまい咄嗟に彼女らのほうを見ると。
 彼女たちの目は僕を映しておらず僕の隣の席の星野(ほしの)琴葉(ことは)さんを睨んでいた。
 俯いて顔を上げない星野さんに目の前の机をバンッと叩いて続ける。
「おまえ、よくもチクってくれやがったな…!」
「そーだよお前のせいで親にまでバレたじゃんどうしてくれんの?」
 篠田に続いて僕に一番近い、篠田の右側にいる金本が続く。
「なんとか言えよ!!!!」
 両手でバンッ!と机を叩きながら臼井は脅す。(僕から見て脅しにしか見えなかった)
「あ、あれは……」
「あああん!?!?」
 こええよ!!答えようとしてんだから言わせろよ。
「あ、あれは!!あなた方が未成年なのにも関わらずタバコを吸われていたから……!!」
 目に涙を浮かべてキリッと睨み返す星野さんを見てクラスの委員長、江口晃が口を挟んだ。
「これ以上星野さんを責めるなっ!」
 流石ッス委員長。
 だけど委員長じゃこいつらには勝てない。
「話を聞いていると君たちが悪いだろうっ!君たちの逆恨みだ!!」
「えぇ~なにぃ?その女庇って正義のヒーロー気取ってんの??」
「さっすが委員長~!ひゅ~!!」
「あダメだやべぇマジウケルwwww」
 だよなー。
 江口が言っていることは正しい当たり前だ。けれどこいつらには正論なんざ通じない。
 この通り文句たらたらでしまいにはウケるで片づけるのだ。
「つーか部外者は引っ込んでろよ」
 篠田はつけまつげに塗りたくったマスカラのせいで全体的に黒に見える目で睨むと再び星野さんを標的に。
「委員長に庇ってもらえてよかったねぇ~」
「けどさぁあんたのせいでクラスのやつらまでバレたじゃんどうすんの?」
 えぇぇえええええ!?
「あなた方が言えと言ったのではないですか……!!」
「普通言う?」
 臼井が篠田と金本に質問をすると「いわなぁい(笑)」とわざとらしく返答する。
 こんな間近でこんな腹が立つことされるとねぇ……。
 最初は関わるつもりなかったんだけども。
 僕の嫌いなシリアスその1「集団で責めて理不尽をいい周りさえ困らせる」。
 別れ話や自分の成長のためにシリアスに関しては僕は何も言わない。本当にKYだからな。
 あぁ……今から僕がすることは個人的にイライラしてきたからだ。
 いい加減何か言わないと気がすまなくなってきたからだ。
 正義感など全くない。
 委員長のように正義感のない僕は正論プラスあいつらの腹の立つことをする。
 あいつらもやっていることであいつらも腹の立つこと。
 自分がやって楽しくてやられてムカつくこと。
 それは一つだ。

 もうシリアスは終わりだ。

 さて、もみじ饅頭がショボンしているイヤホンジャックのついたスマホをズボンの後ろポケットから取りだして。
「お前いい加減に――」
 篠田が声を荒げた瞬間。
〈あなたとなら一緒にとびだせそっ!心が満たされるそんな気持ちな~のっ!――〉
 僕のスマホからスーパー萌えボイスが盛大に流れ出す。
 クラス全員の視線をジーっと感じる。めっさ刺さるわ~。
 取りあえず着信を拒否。
「おいお前、空気読めよ」
 金本が腕を組みながら僕を見下ろす。
「空気読めないお前らにはいられたかねぇよ」
 今日の第一声がこんな一言とは思いもよらなかったぜ。
「あ?」
「あのな……普通に考えてさこの状態で浮いてるのお前らだからな」
「は?アニソンとか流したやつに言われたくないんですけど~」
「マヂウケる」
 如何にも後ろに(笑)やらつけてそうな言い方で僕を見下ろす三人をどう煽るか。
 そんなのは簡単だ。
 コホン。

「いつもいつも校則違反してる上に違法していたことを先生に言われて逆ギレするとかマァ~ジありえないんですけど~マヂウケる~」

「テメェふざけてんのかゴラ!アアン!?」
 篠田の逆鱗をついてついに激怒した三人。
 もうこいつらは僕しか見てない。
 沸点のひっくいやつを動かすのは容易い(たや)
 あとは適当に煽って自分たちが完全アウェーだとわからせればこっちの勝ちだ。
「ふざけてる?普段君たちが使ってる言葉だよ~?んん、もしかしてふざけた言葉だってわかって使ってたの?ごっめ~ん」
「ぶん殴んぞ!!!」
 臼井が拳を構えて僕を威嚇する。
「いいけど~?まぁ?ここで僕を殴っても殴らなくても?退学になるであろうことは?かわらないからねぇ」
「じゃぁお前と星野を殴ってもいいよな?」
 戸惑ってそして怯えた顔をしていた星野さんの目はキリッとしていた。
「あの、これ以上夕ノ宮君に迷惑をそしてクラスに迷惑をかけるのはやめて頂けませんか……」
 高いソプラノの可愛らしい声は少し低くなっていて、ちょっと強がっているのか震えていた。
「もとはと言えばお前がチクらなけ――」
「――もとはと言えばあなた方が校則違反をしたのが悪いでしょう」
 強気に返すか弱い女の子。
 クラスでは裏方にいつも回るタイプ。
 リーダーシップはないけどしっかりしていて周りを落ち着かせる安心感があると評判なそんな星野さんが。
 バンッと机を叩きながら立ち上がり、篠田を睨み返している。
 あまりのギャップに教室中は静かになり時計の針の音だけが聞こえる。
 
 ――35分。
 ガラガラガラガラ。
 いつもの教室の扉の音は5分早く、入ってくる人は一人多かった。
「篠田、金本、臼井、職員室に来なさい」
 怒りに満ちてどこか呆れている女教師、空橋先生の声に三人は軽く舌打ちをして後ろのドアを乱暴にしめて出ていった。
「星野、あなたは少し保健室に来てもらっていいかしら?」
「は、はい」
 星野さんは右側の通路を通った方が早くに空橋先生のところに行けるのに対し、左側――つまり僕にとっての右側の通路に足を運び少しだけ止まると「ありがとうございました」と僕にしか聞こえないお礼を言って教室を後にした。

  ■■■

「おつかれ~シリアス君」
「お前に呼ばれるとなんか気持ち悪いな」
「ひでぇなおい」
 星野さんの件は僕も少し協力したけれどその僕に協力してくれた友人――大河(おおかわ)隼人(はやと)
「ま、助かったよ隼人。おかげで教室が静かになった」
「電話かけて、先生呼びに行っただけだけどな」
 もみじ饅頭がショボリーヌしているイヤホンジャックをつけた若干ショボンな雰囲気漂うスマホで隼人に
【ヤッホー?元気?あなたの事だから元気に決まってるわねっバカは風邪ひかないっていうしテヘペロン☆
 それはおいといて星野さんが危険な目に合いそうな状況、た・と・え・ば殴られちゃう(´;ω;`)とかそんな状況になったらアタシ電話してちょ☆そしてアタシが怒鳴られちゃったら先生呼んで助けちくり~】
 というメールを送り隼人は僕に電話をかけ、篠田が怒鳴った時に先生を呼びに行き先生と帰ってきたわけだ。
「お前の文面なんなの……なんでオカマ口調なんだよ読みにくいんだよ」
「ちょっとした遊び心だよ許せ」
「まぁ……前返信に20分くらいかけてギャル文字で送ってきた時よりは大分マシだよホンット」
 あれは疲れたなパソコンでググりながらスマホで打ったりコピペしたり……。
「もうホントにあんな状況でこんなふざけた文面で送ってきて……」
 フッ……笑わせるな。

「僕を誰だと思ってる僕はいつだってギャグを求める――シリアスブレイカーだ」

 

 
 

シリアス君!

シリアス君!

シリアスな雰囲気が苦手な自称・シリアスブレイカー、夕ノ宮透。 クールな見た目に反しノリがよく笑いごとが好きな夕ノ宮はシリアス君と呼ばれている 今日も名前負けしたあだ名で呼ばれながら、教室のシリアスな雰囲気をぶち壊す!

  • 小説
  • 短編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-07-27

Copyrighted
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