詩篇17 逸脱なんぞ小さな脳内作用よ、夢おばさん
夢の中でね、髪の毛をくしゃくしゃっとされて。
見知らぬおばさんに、それはそれはもうくしゃくしゃっと。だけどおばさんは言ったのです。
寝癖だと思わなければ、これは寝癖では無い! と。
だからわたしは、寝癖は今確かにここに存在するのだけれど、わたしが寝癖だと言い張らなければ寝癖は寝癖という形を失って、結果寝癖ではなくなる。だけれども、存在はしているのですよ、ここに。と淡々と言い返したのです。
さすればいきなり賞賛の嵐。どこからか拍手喝采。喝采。しかしよくよく考えてみれば、見知らぬおばさんと同じことを口にしているのではないですか、というこの羞恥。を枕に顔を埋めながら、わたし自身から発せられる甘い匂いを鼻にくっ付けながら、頭をくしゃくしゃと掻きながら、ため息。
その見知らぬおばさんとジャンケンもしていたわ。ジャンケン。だけれど、グーチョキパーのそれではなく、なんだか意味不明な形を五本の指と手の平で作り上げて、グーチョキパーの三種類だけがジャンケンではない! そしてすでにジャンケンの意味すら失っていることに気が付いていない。
逸脱。
を試みて、結局それぞれの偉大さに気が付いてしまう。それは幸せですか。不幸せですか。
それでも負けじと逸脱。形からの脱走。無形への憧れ。そして嫉妬。再逮捕されれば生きながらえるものを、明日には壊死してしまうかもしれない極寒の地を逃走。
あれ。だけどわたしの場合。
待って。おばさんは、寝癖だと思わなければ寝癖では無いと言ったけれど。だけど、わたし、寝癖ではないけれど、だけどそれはそこに存在するのだと言ったわ。寝癖という入れ物が無くなるだけなのよ。
解き放たれるものは何。
何も。
概念。
だけどそれは、結局は檻の中。遠く遠く、柵の見えない広大な檻は果たして檻ですか。
そもそもわたしが字を書く際に、思考活動をする際に、普遍的な基礎基盤を持つこと自体、もうすでに広大な檻の中で檻とは知らずに駆け巡る。ということに後から気付く。
それは幸せですか。不幸せですか。
夢の中の見知らぬおばさんはきっと幸せで、だけどそんなこと誰にも分からなくて、そうだろうと決めつけながら自分とおばさんを秤にかけるこの醜態。
天秤はぴくりとも動かない。
詩篇17 逸脱なんぞ小さな脳内作用よ、夢おばさん