桜が僕に教えてくれたこと

幼き日の約束

ある日、少女は大きな桜の木の下で蹲り声を殺して泣いている少年を見つけました。


少女は初めて会うはずの少年を知っていました。



「ねぇ。どうして君は泣いているの?」



少年は涙を両手で拭いながら答えました。



「皆、僕やかえでを化け物だ!って言って仲間外れにするんだ。僕は皆と違うから……僕には皆には見えないのが見えるから……」

「そっか!だからあたしが見えるんだね」


「おなじ?あ………」


少年はきづきました。少女が人間でない事に。


少女は花の妖精。

この大きな桜の木を守る守り神のような者だったのです。



「れんくんは化け物なんかじゃないよ。ただ、人と少し違うだけだよ。だから……自分を責めないで」

「どうして……どうして僕の名を?」



少女はクスクス笑って


「わかるよ!だって君はあたしと同じだから」


少年は首を傾げると少女はその内わかるよと言って微笑みました。


「あたしはね。お花の妖精なの!そしてこの大きな桜の木を守る守り神でもあるの!あたしの役目はね、皆を幸せにすること。願いを叶えること。だから、れんくんがあたしにお願い事してくれればあたしが叶えたげる!」



そう言うと少年は少し考え込んで顔を上げました。


「じゃあ、僕を助けて…」

「助ける?」

「うん…僕を…幸せにして」


「わかった!必ず君を幸せにしてみせるから!」


「ありがとう!僕の名は蓮!君は?」


少女は満面の笑みで答えます。



「あたしは桜!!この木とおなじ名前なの!」

約束

(桜…起きて桜!)



聞きなれた声に眠い目をこすりながら起き上がる。



「ふわぁぁ。おはよう。」

(おはようじゃないわよ。貴女今日からこうこうってところに行くのでしょう?」


こうこう?高校……



「高校!!!そうだった!!!」



そう、私は今日から高校という人間が勉学に励む為の施設へ行くんだった。

彼に会うために。

役目を果たすために。



(桜。本当に大丈夫なの?彼、あの日以来来なかったじゃない。)


「うん。理由は分かってるから大丈夫。」


(また未来を見たの?)


「うん。良いのも、悪いのもね。」



だから私は彼の名を知っていたのであって彼がここへ来ないのも全て知っていた。


そして、彼の人生も。


(桜……貴女危険な事考えてる?)


「どうだろ?おっと!もう行かないとさすがに間に合わない!初日からちこくっていうのはヤダからもう行くね!」



(あ……。貴女が優しくて強い子なのは知ってる…貴女がいなかったら私はもうあの世にすらいれなかった。あの女の子も大切な人といれなかった。どちらもとても危険だったのにそんなの全く気にせずにあの子は動いた。だからこそ心配なのよ…桜。)





「なんとか学校には間に合……っふぎゃあ!」

「どわっ!!!」


全力疾走し角を曲がろうとしたとき同じように走ってきた男の子にぶつかる。


ネクタイの色は緑。2年生だ。



「ご、ごめんなさい!寝坊して急いで…て……」


ふわっと感じる懐かしさ。


「あ…いや、俺の方こそ悪かった。痛かったろ?大丈夫か?」


「蓮君…」


「え?あ、あぁ。確かに俺は蓮だけど……」


いた。彼が蓮君だ。

こんなに早く会えるなんて……


「一年?お前入学式早々寝坊したのな…」

「え?あ!はい!すみません…」



あの時は同じぐらいの背丈だったのに今は見上げるほど大きい。


「兄さん置いてかないでよ。ん?その子は?」

「あ!桜です!今年から桜ヶ丘学園に入学しました。宜しくお願いします!楓君」


楓君。蓮君の双子の弟さん。

これも夢で見たから知っている。


けどかえで君は目をぱちくりさせていた。



「あ……えっと…ほら!お二人共バスケットで有名だから!」


『あー…なるほどね。』


よ、良かった。うまく誤魔化せたみたい。


「それよかほら。急がないと遅刻するよ?」



「あ!そうだった!!すみません!失礼します!」



頭を下げて背を向けた瞬間楓君の方から殺気を感じた。


「っ!」


振り返ると恨めしそうに睨む彼の目。

……彼はきっと私の正体に気づいてる。


そして彼自身もまた自分が何者なのかも分かってる。


だからこそあんな風に睨んだんだ。




「以上!新入生326人起立。礼。」


「ふぎゃー…やっと終わった!まさか入学式があんなに眠いなんて…」

「あははっ!あんた面白いこというね。入学式なんて眠いものでしょ?」



不意にかけられた言葉にビクッとなる。



「あーごめんごめん笑笑驚かすつもりじゃなかったんだけさ。あたしは夏樹。あんたは?」

「桜は桜だよ!よろしくね!」


「中等部にはいなかった子だよね?仲良くしてね。」

「うん!」


お友達出来た……


その事実がどうしようもなく嬉しかった。


「ところでさ、バディ誰とだった?」

「ばでぃ?」


頭の上に?を浮かべると優しく教えてくれた。



「そ。バディ。この高等部の伝統行事みたいなもので、1年生は2年生とバディ。つまり相方みたいなものね。そのバディを組んで1年間色々なことを教えてもらうのよ。ほら、受付で渡されたプリントに付箋ついてるでしょ?そこに書いてあるのよ。」



プリントに付箋……



「あ!あった!えっと…2年A組神宮寺蓮く…先輩!」


蓮君だ!!!


嬉しい。でも周りは違った。


その言葉に皆がコッチを向き憐れんだ目で見る。



「まずいよ桜。神宮寺先輩は…」

「特に蓮先輩の方はな……」

「可哀想…」



次々に飛んでくる言葉に目を丸くする。


「どうして?とても優しい人だったよ?」


「優しい!?んな馬鹿な!!知らないの?あの人、幽霊とか悪霊とか見えるんだよ?気持ち悪い。あの人に関わった人は皆不幸になったの。疫病神よ。」


「疫病神なんて…そんな言い方ないよ」

「本当よ。桜。今からでも遅くないわ。先生に変えてもらいましょう。幸い今年は2年生よりも人数が少ないの。余ってる先輩に変えてもらい……」


「やだ。桜は蓮君がいい。それに、桜がこれで不幸にならなければ蓮君の疑いは晴れるってことでしょ?」


だから絶対変えない。

そう言うと皆は顔を見合わせてため息を吐いた。

説得を諦めたみたいだ。


この未来はうっすら見えていた。


教室で独りの蓮君。そばにいるのは楓君だけ。


このことだったんだ。






2年A組ホームルーム


「うげ…神宮寺兄と同じクラスかよ…」

「私なんて隣よ!?気持ち悪い。」


なんで一年ごとにクラス替えがあんだよ。


こうも毎年毎年言われちゃあかなわねぇよ。



俺は昔から悪魔だの化け物だの言われてきた。


それはこの霊感とちょっとした霊能力のせい。


人よりも霊感が強いせいかやたら奴らは近づいてきては悪さしようとする。

そして俺はそれらを浄化する力があった。


普通なら感謝されるはずなんだが……この有様だ。


「酷い言われようだね。兄さん。」

「楓か。なーんでお前は何にも言われないんだ。」

「そりゃ僕は隠してるからね。それに兄さんみたく目つきも悪くないし。」

「ケンカ売ってんのか?」

「別に。それより兄さんのバディの子みた?」

「あ?んなもんみてねぇよ。見たとこで向こうが先公に愚痴って変更だろ。」

「それはどーかな?花宮 桜って今朝の子だろ?あの子は中等部にもいなかったし兄さんのことバスケでしか知らなかったっぽいよ?」



桜………



「あぁ。朝のちっちゃいのか。あいつちょっと同じ匂いがしたんだよな……」

「同じ匂い?洗剤同じなのかな?」

「ばーか。そう言う意味じゃねぇよ。」

「………ふーん。で。どうすんの?」

「なにが?」


楓はハァと溜息をついて


「バディのこと。僕変わろうか?」


楓はバディがいないらしく、変わろうとしてくれた。

その方がいい。

そう分かってるのに俺はその誘いを断ってしまった。


「いや、いい。俺に任されたことだし…」

「……珍しいね。兄さんから歩み寄ろうなんて。」

「そんなんじゃねぇよ。んじゃ、行ってくるわ」

「うん。気を付けて。」




計算外だ。

いつもの兄さんならと思っていたのに………


「花宮 桜。お前は邪魔な存在でしかないんだ。」





1年教室



「いい?桜、なんかあったらすぐ先生に言いなよね?」


「分かった分かった。」

「あんた本当に分かって……っとバディの先輩来たからもう行くけど、本当に大丈夫?」

「夏樹ちゃん心配しすぎ!大丈夫だから。ね?」



そう言って夏樹ちゃんの背中を押す。



疫病神か………


そんなんじゃないのに。



「花宮 桜。いるか?」



聞き覚えのある声と同時に辺りが騒めく。



「あ!はい!桜は桜です!」


席を立って蓮君の元へ歩く



「本当に行く気?」

「すごい…私じゃ絶対無理。」


変な小言が聞こえるけどそんなの無視無視!


「さっきぶりです!1年A組花宮 桜です!宜しくお願いします!」

「ん。じゃ、テキトーに校内案内すっから。」


ふいっと背を向けて歩き出す彼に私は付いて行った。




「音楽室に理科室、体育館、トレーニングルーム、一通り説明したな。」

「蓮先輩。」

「んな先輩なんて無理に付けんな。さっきみたいな呼び方でいい。」

「……蓮君。一箇所回ってないとこあるよ?」



その言葉に彼は足を止めた。


「美術室。」

「あそこはダメだ。お前、俺と同じで視えるだろ。ならあそこになにがいるかわかるだろーに。」


この学校の校門をくぐって感じた強い憎悪。

それは美術室からきていたもの。


悪霊。


「でも、放っておけない。あの人たちは早く楽になりたいの。でも誰も助けてくれないからあぁなってしまった。でも、桜なら。蓮君なら助けられる。」

「お前も分かってたのな。俺が霊能力者だって。」

「蓮君はそんなものじゃいよいよ。そんなのよりももっとずっと強い。」



首を傾げる蓮君。



「その内わかるよ。それより、美術室へ行こ。」


彼は大きな溜息をついて私の前を歩く。



「あそこには長く住み着いてる悪霊だ。絵が大好きだったが不幸な事故のせいで筆を握れなくなった。」



それであそこにいるんだね。



そうこう話している内に美術室室の前へ着く。

教室から滲み出る霊気がすぐに感じ取れた。

でも、同時に聞こえてきたのは彼女の願い



もう一度…絵を描きたい。



「絵?絵を描きたいんだね。」



私は気づけばその扉を開けていた。

彼は唖然としていた。



「たく…なんなんだよお前は……」




美術室は凄まじい霊気は感じるものの本体が見つからない。


「ばーか。上だよ。」

「上?うわぁ!!」



言われた通り上を見上げると恨みをもった…でもどこか悲しげな顔をしている女性がいた。


(絵を…カキタイ…もう一度…)



「そっか…絵を描きたいんだね。だけどあなたは筆を握れなくなってしまった…」


(そうダ…あれさえナケレバ………)


ゆらりと降りてくる。


あれ?あれって一体…


「ごめんなさい。あなたの心覗かせて?」

「え?あ、ちょっ!桜!」



彼女の胸に手を当てた。

すると辺りの空間は歪み、再び現れたのは少し綺麗になったこの教室。


つまり過去だ。



「お前…心を視れるのか?」


「うん。蓮君も視えるんだよ。」


「俺も?」



彼も視える。そう…全てが戻れば。



「お。高橋。今日も絵を描いてるんだな。」

「あ、先生!はい!次のコンクールに向けて描いてるんです!」




何気ない会話が始まる。


"高橋"と呼ばれるその少女が今回の悪霊だろう。


彼女は絵の才能に優れていて将来有望な人材だった。

だけどそれをよく思わない人達もいた。

同じ部活動の生徒。


「高橋さん最近浮かれ過ぎてない?」

「本当。ちょっとイラッとしちゃうな。」

「じゃあ…ちょっと痛い目見せてあげましょうか?」




「なるほどな…この後この子が筆を握れなくなった事件が起きるってわけか。


蓮君は深刻そうな顔で彼女を見つめる。



場面は変わり理科室。


塩酸を使った実験で事件は起きた。



「ねぇ、それ本当に平気?危ないよ。」

「大丈夫。ちょっとじゃ死にはしないわ。」



彼女たちはすこし怪我をさせるつもりだった。

事故に装いすこし塩酸を彼女にかけるつもりだった。


なのに。



彼女のスカートの裾に塩酸が軽くかかる。

そしてその液が足に染み込み怪我をする。その程度のはずだったのだが。


「いっ!!!きゃあ!」


予想以上に取り乱した彼女は慌てて立ち上がると後ろで実験しようと塩酸を持っていた少年にぶつかり、その拍子に手から離れた液を利き手である右腕全体にかかってしまった。



「いやぁぁぁあ!!」



彼女はただれていく腕を抑え暴れだす。




幸い命に別状はなかったその女は二度と筆を握ることは出来ないと医者に宣告された。






「なんで…こんな………」


なんども筆に手を伸ばすも感覚が無いせいで掴むことが出来ない。



「私はただ絵を描きたいだけなのに。なんで……もう…嫌だ…」




女はそう言うとゆらりと立ち上がりある場所へと向かう。


「美術室……」


そこで女は首を彫刻刀で掻っ切り自殺した。





(ミルナ………みるなぁぁぁぁ!)



現実へと引き戻されたときその女は頭を抱えてうずくまっていた。



「……お前馬鹿だ。」

「蓮君……」



こんな事で命を無駄にするなんて…



(お前にナニガ分かる…私ノ生キ甲イ…)


「だけどな…死んじまったら終わりだろ?何年かかるかわからねぇ。だけど、もしかしたら他になにか打開策が見つかったかもしれないだろ」


(……………ア……ウァ……)


泣き崩れる女


次第にただれていた全身がヒトの形になる。


右腕はひどい火傷のようにただれていた。



「それがあなたの本当の姿なんだね。」

(見ないで…こんな醜い……)



桜は一歩ずつ女に近づきそして


「大丈夫。あなたはとても綺麗だよ。」

(!?)


そっと抱きしめた。


「触れる……のか?」

「蓮君のおかげだよ。蓮君の言葉には魂が宿る。その思いが彼女を正気へと引き戻した。」


言葉に魂………




「ねぇ、あなたの願いは何?」

(………絵を…描きたい。)





無惨な姿になった右腕をみてポツリと呟いた。



「そっか。分かった!」


(え?)


そう言うと桜は彼女を右腕にそっと触れる



すると触れた右腕が淡い桃色に光る。


しばらくすると光は消えた。そして……


(手が…元通り…動く…動く!!!)


「あなたの願いは叶えたよ。……もう少し…早くあなたに会えていれば……」



悲しそうにする桜を彼女はそっと包み込みそして


(ありがとう!)



優しく微笑み消えていった。





"あたしはね。お花の妖精なの!"



「え?」


ふと蘇る記憶



"そしてこの大きな桜の木を守る守り神でもあるの!あたしの役目はね、皆を幸せにすること。"


大きな桜の木そこを護る妖精。


"願いを叶えること。だから、れんくんがあたしにお願い事してくれればあたしが叶えたげる!"


そうだ……その子も同じことを言っていた…



そしてその子の名は……



「桜……そうだ。あの木と同じ名前…」

「久しぶりだね。蓮君。約束…果たしにきたよ。」

反対の存在

「久しぶりだね。蓮君。」



そう言って微笑む彼女が昔と変わってなくて落ち着く。



でも、どうして記憶が……



「記憶は消されたんだよ……残念だけどそれは私にもわからない。でも、あの日蓮君の記憶が消されるのは知っていたの。夢で視たから。」



夢……



「未来が見えるのか?」

「あんまり良いものじゃないけどね。」


あまり良いものでない。そうか。良い未来も悪い未来も見えるということか…


「そうだ。お前に聞きたいことがあったんだ。………あの日お前と俺は一緒って言った。あれはどういう意味なんだ?」



「それは………」


「兄さんはそんなやつと一緒じゃない。」



「……楓君……」

「楓?お前何か知ってるのか?」



桜の言葉を遮るように楓が姿をあらわす。

その目には怒りがみえた。



「こいつと兄さんは真逆の存在だ!」

堕天使

「こいつと兄さんは真逆の存在だ!」



その言葉がどうしようもなく辛かった。



そして彼は語り出した。



事件の発端となったのは20年前。

僕らが産まれる3年前。



天使の女は恋をしたんだ。

魔界の男に。


二人は両親の目を盗み度々会っていた。そして、人間界へと駆け落ちした。



天使の名は恋歌。

彼女の父は天界の長でもあった。


天界を裏切った恋歌に長は酷く怒り、天界の名誉の為と恋歌を見つけ次第抹殺しろとの命がくだった。


そして逃げ続けること3年。

二人の間に子が産まれた。


1人は純白でもなく、漆黒でもない灰色の翼を持った子供。

もう1人は完全に父親の血を引いた子だった。


ここで疑問が生まれた。


1人目の男の子は両方の血を引いていたことに。

天界、魔界では他種族が交わり子を持つ時、混合種が産まれることは決してないという。

そして、他種族同士の間に産まれる子は決まって母親の血を引くそうだ。


しかし不思議な事に1人目は混合種。二人目は父親の血を引いていた。



この事はすぐに天界へと連絡が行った。


しかしその時、天界でも同じ事が起きていた。


妖精族と天使族の間に産まれた女の子。

妖精族は羽を持たない。

天使族は羽と光り輝くリングが頭上にある。

産まれてきた子供は羽を持たずしかし頭上には天使の象徴があった。


同じ日に3人の混合種が産まれた事により両界は大騒ぎとなった。


そして、子供らが3つの時、事件は起きた。



天使の恋歌が消された。

天界の人間によって。


そして戦争が起きた。


両界何万もの者たちが命を落とした。




「その戦争はどうやって終わったんだ?」

「そこの女に聞いたら。」



楓君は顎で私をさした。



「桜…」

「桜が……二つの世界を繋ぐゲートを閉ざしたの。」



あの時の私にはそれしか方法が無かった。

力が無かったから。弱かったから。


「そしてこいつは天界の英雄になった。」

「違う!英雄何かなってない!」

「嘘はいいよ。行こう兄さん。こいつは兄さんを殺して手柄を取りたいだけだよ。」


違う……私は英雄なんかじゃない……



「蓮君…」

「…………」



何も言わずに去っていく。


違う……私はあなたを助けたいだけ……


「………待って…」


やっぱり…未来を変えるなんて出来ないの?


私はまた…救えないの?

大丈夫

「桜ちゃん?」

「ん?どうしたの愛。」



隣にいた彼は突然立ち止まった私をみつめた。



「桜ちゃんの声聴こえた気がしたの…ごめん。一……私、行かなきゃ。」



嫌な予感がする…


彼はニコリと微笑んで



「あぁ!桜ちゃんか。うん。行っておいで。俺は先に帰って夕飯の支度しとくから。あぁ。もしあれじゃ彼女を連れてきなよ。」

「うん!ありがと一!じゃあ行ってくる!」



私はその場を後にした。






((さくら…どうしたノ?元気ないネ))


「え……あ、ううん!何でもないよ!!」



いけないいけない。

皆が不安になってる。

心が乱れれば精気が乱れる

精気を乱せばお花達も元気が無くなっちゃう。


「上手くいかない事だってあるもん。大丈夫。桜なら出来る。」



きっと出来る。あの人を救えなかった分、蓮君達は絶対に守る。



「桜ちゃん!」



懐かしい声が聞こえる。

辺りを見回しても声の主は見つからない。という事は……



「あ、そんなとこにいたんだね!愛ちゃん!」


いたのは頭上。


満面の笑みでこちらを見下ろす彼女は愛ちゃん。

人間に恋をした天使だった女の子。


私が唯一助ける事が出来た女の子。

だけど……私の力が未熟だったあまり、彼女の中の力を全て消す事はできなかった。




「愛ちゃん久しぶりだね!」

「本当!助けてもらった日以来かな?」



そっか……あれからもう7年経つんだ…


「でも、なんで愛ちゃんがここに?ていうか!お空飛んじゃダメー!天界の人にバレちゃう!」

「えへへー。ごめんごめん!でも、直ぐに来たかったの。」



そう言って彼女は降りてくるとそっと私を抱きしめた。

そして優しい声で



「ねぇ。もう独りはやめよ?」

「………」


やっぱ愛ちゃん凄いな……全部見抜いてる。

言っちゃいたい。言えたらどんなに楽かな。

でもごめんね。もう、後悔したくない。巻き込みたくない。

だから………



「ありがと愛ちゃん。でも、大丈夫だよ。」



あなたはやっと掴んだ幸せを大事にして…


「………桜ちゃん…私ね、どうして人間になっても力が残ってたのか不思議で仕方なかった。でも思ったの。きっと、この残された力であなたを助けろって意味だと思うの。」


「違う…それは桜が未熟だったから…だから…」



「桜ちゃん!私は十分幸せだよ!力なんて気にした事ない!そんな事より、誰も味方がいなかった中、あなたとマリナ様だけが私を守ろうとしてくれた。それがどうしようもなく嬉しかった。」



"嬉しかった"


その言葉を聞いた瞬間、私の中でずっと溜まっていた者が溢れる。



「う…本当は…普通の女の子にしてあげたかった…普通の女の子として一君と幸せになって欲しかったの……」


「………桜ちゃんのばーか。」


「ふぇ!?い!いひゃい!!!」


愛ちゃんは私の両の頬をぎゅっと抓る。


「私が幸せって言ってんだから幸せなのー!!」



「わひゃった!わひゃったからはらして!」



ジタバタするとようやく離してくれる。



「桜ちゃん。忘れないで、あなたは独りじゃない。私もいるしマリナ様もいる。少ないけど、私達は桜ちゃんの味方だよ。」


「そうなのよ。だからあなたはあなたのしたいことをしたらいい。」



「マリナ様!」




背後から声がして振り返るとそこにはアフロディテの力を司る天使のリーダーマリナ様だった。


そして、愛ちゃんの司っていた力もまたマリナ様と同じだった。


「マリナ様!お久しぶりです!」

「本当久しぶりね!役職だけに中々自ら会いに行けなくてごめんなさいね。」

「いえ!大丈夫です!私はいつも通り元気なので!」


二人は久々の再会をきゃっきゃと喜んでいた。


「それよりマリナ様、どうしてここに?」

「おっと…そうだったわ。桜ちゃん。スミレの事なんだけど…」



スミレ様は自然を司る妖精のリーダー。私が属している所。


マリナ様とは親友らしい。




「スミレ様の事なら知ってます。夢で視たので。」

「そう…やはり知っていたのね。あの子、桜ちゃんの事大好きだったのに……」


スミレ様は私に本当に良くしてくれた。

そして、私達は良く似てる。

だからこそ……


「スミレ様は大丈夫です。安心してください。」

「それを聞いて安心したわ。……あなたに全てを押し付けてごめんなさい。でも、あの子を助けてあげて…」


悲しそうに微笑んでマリナ様はその場を後にした。




「………桜ちゃん。今からウチ来ない?」

「へ?い、いきなりだな愛ちゃんは…」

「えへへ。でも一も会いたがってるの!それにリフレッシュも必要だと思うのだよ!!さ!行こう!」


愛ちゃんは私の手を握りふわっと宙を舞う。



「うわ!愛ちゃん!だからダメだってば!!」

「大丈夫大丈夫!」

「ま、待って!!ゲート!ゲート使お!?」

「あ、そっか!桜ちゃんゲート使えるんだよねー!」



納得したのか飛ぶのをやめる。

よ、良かった……


深呼吸をすると足元に大きな桜の花の形が現れる。


「何度見ても不思議だね。魔法陣って感じじゃないし…」

「そだね。でも混合種って例があんまりないからあってもおかしくはないよね。さ、愛ちゃん入って。」



愛ちゃんが陣の中に入るのを確認し、意識を集中する。

身体が落ちる感覚に襲われたらもう


「我を導け…」


身を任せるだけ。






「ぎゃっ!」

「あ…」


着地に失敗して尻餅をつく。

桜ちゃんは流石、ストンと静かに着地した。



「あ、愛ちゃん……大丈夫?」

「うーん…やっぱ着地は苦手かなぁ…」



まぁ、ゲートなんて使ったことないから仕方ないんだけどね。


「凄い音がしたと思ったらそういうことか。」


「あ!一君だ!」

「桜ちゃん久しぶりだね。7年ぶりかな?いやぁ。大きくなったねー!」




リビングの方から顔を出したのは一だった。



「愛…君本当ドジだなぁ。」

「うるさい!!!」



ムッと頬を膨らませてみせると「悪い悪い」と笑って、



「丁度ご飯も出来たし、桜ちゃんも食べていきなよ。」

「え?…でも…」

「今日は桜ちゃんの大好きな和食なんだけど……」

「食べる!!!」


"和食"の言葉に桜ちゃんの目は一気に輝いた。





「美味しー!!!このお魚の焼き加減、肉じゃがの味の染み込み具合、やっぱ一君は料理の神様だぁー!!」

「あはは!喜んでくれたなら何よりだよ。」



もぐもぐとハムスターのようにご飯にがっつく桜ちゃんを見て少し安心する。



「……ありがと、愛ちゃん、一君。」


『え?』


箸を置いてニコリと微笑む彼女に私たち二人は首を傾げた。



「桜のこと心配してくれてるんだよね。だから、ありがとう。」


「お礼なんていらないよ。いいかい、桜ちゃん。俺と愛はどんなことがあっても君の味方だ。だから、辛いこととか、悲しいときは独りで抱え込まないでほしい。」



一は優しく微笑みながら桜ちゃんに話しかける。


「桜ちゃん。私からもお願い。もう、何も知らないのは嫌だよ。桜ちゃんの苦しみを私にも分けさせて?」


軽はずみと思われるかもしれない。

人の気も知らないでと言われるかもしれない。

それでもいい。私はもう…あなたを独りにはしたくないから。



「もー…二人には何言っても通じないもんなぁー」



やれやれといった感じの桜ちゃんは俯いて



「ありがと。愛ちゃん。一君。」



その頬に伝っていた物はみなかった事にした。



桜ちゃん。私はね、貴女には幸せになってほしいの。

だから私はどんな事があっても貴女を守りたい。

でも………

本当に桜ちゃんを守ってあげられるのは私じゃなくてあの"レン君"って男の子なんだろう。

それが少し…ほんの少しだけ…悔しかった。

僕が

「兄さん?大丈夫?」


「……あぁ。平気だ。ちょっと驚いちゃいるがな。」



そりゃそうだよね。人間じゃなくてしかも命狙われているなんて…。

そんな現実を知りたい人なんていないよな。


「でも…大丈夫だよ。兄さん。兄さんは僕が守るから。」


「そんなんいいよ。自分の身は自分で守る。まだ力は目覚めてはないけど、それなりにはなる。それより俺が気になるのは、記憶のこと。」



そこで僕はギクっとした。


「たぶんそいつは俺の記憶と同時に力も封じたってことだろ?……まさか桜が?」


「……そうだ。あいつが記憶と力を封じたんだよ。そうすれば兄さんの捕獲が楽になるから。」




僕は嘘をついた。


最低で最悪な嘘を。






次の日から桜が近づこうとする度兄さんは避け続けた。



「あ!蓮く…!」


「……」


どんなに避けられても彼女はめげなかった。

そんなあいつにイラつきが隠せなかった。


「楓、お前どこ行くの?次物理…」

「サボる!」


僕は教室から飛び出した。



「……どうしたんだ?あいつ」








「ふぅ。……授業サボっちゃったなぁ。」


流石に避けられすぎてメンタルやられちゃったな。


桜はただ約束を果たしたいだけなのに………



「お前さ。なんでそんなに兄さんに近づくの。」

「え?あ…楓君………」



楓君は睨むというより呆れ果てた感じだった。



「桜は……約束したの。蓮君を助けるって…幸せにするって…」

「そんなの嘘だ……お前達天界の人間の言葉なんて信用しない。知ってる。お前たちが僕ら兄弟を狙ってることも。全部地界から伝わってるんだ。」



地界から……楓君は地界と繋がってる……!


「ねぇ!狂ちゃんは!狂ちゃんはどうなったの!?」

狂ちゃん…恋歌さんの旦那さんで2人のお父さん…

その後の彼の消息は知らない……

まさか………



「………父さんは生きてる……ただ。ずっと眠ってる。母さんがいなくなったショックで……」



そんな……でも……


「良かった……狂ちゃんまで天界に手を出されたのかと……」

「てか、さっきから何?"狂ちゃん"って…」

「恋歌さん……ううん。恋ちゃんと狂ちゃんとは顔見知りなの。」

「ふーん。………って、え!?」



父さんと顔見知り?

桜が僕に教えてくれたこと

桜が僕に教えてくれたこと

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-07-23

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  1. 幼き日の約束
  2. 約束
  3. 反対の存在
  4. 堕天使
  5. 大丈夫
  6. 僕が