5、ボウイが絆?
5、麻奈
5、麻奈
午前三時。たった一人の部屋。
(なんていう雨と風。真冬の嵐?――それもよりによってこんな日に!)
眠りを邪魔するのはそれだけではない。時計の音、冷蔵庫のうなる音。そして何より心を乱しているのは納得できないままの結婚の結末。
「何時間か前には私は妻というもう一つの名前をもっていた。夫がいた。で、今は独身?――それってどういう事?」
麻奈の小さなひとり言が部屋をかけ廻る。見開いた目のその先には昼間離婚届を出しにいった時の自分の顔が見える。
(なんて情けない顔。まるで親を見失った迷子の子供だわ。ただ、紙に記入してしばらくしたら手続きは終わりましたと言うあの物知り顔の男の人の声。実感なんて何もなかった。
あのうすっぺらな紙一枚で二十五年の結婚が終わりましたなんて思えるわけがない。まして望んだ離婚でないならなおさら。なのに私は自分から届けを出しに行った。それが正解なのか、とんでもない間違いなのか判断もつかないまま。どうして?――結着をつけたかったから。本当に?――もしかしたら最後の意地だったかも。・・学生結婚なんてとんでもないとあれ程親に反対されて・・うまくいっていたのいに。
一年まえまでは。そう思っていた。やっぱり親の見る目がたたしかった?・・・いいえ、何かが急激に狂いだしただけ。)
麻奈は目を閉じ布団を深くかぶった。それでも眠りは麻奈を避けて行く。
(四十五歳、今日長い結婚生活を終えました。明日から新しい人生。・・・ばかばかしい。ここまでの人生の意味が空中分解して鋭いガラスのかけらの様になって私を突き刺しているのに。このかけらをどこに片付けるの?それとも捨てる?わからない。――自分を保つ気力もないというのに。)
5、ボウイが絆?