十和田湖の霧
夫婦で行く東北旅行
十 和 田 湖 の 霧
作 杉 山 実
3-1
朝から騒がしい、 家の中をトイプードルの「イチ」が走り廻っている。
「こら、何処に行くのよ」 美優が犬を捕まえようと必死に成っている。
今から坂田獣医に連れて行こうと、少しの間預かって貰うのだ。
一週間ほど前一平が「美優、五日間の東北旅行に、二人で行けるらしい」
「えー、休みが?」喜ぶ美優、いつもの綺麗なボブの髪を揺らせて、一平の方を見て微笑んだ。
「まあ、そんなところ、だな」
「怪しいぞ、一平」と笑う美優。
「いや、休暇と云うか、慰労と云うか、とにかく旅行に行けるのだ」一平が言い切ったが、美優がそれ以上追求はしなかった。
少し前に静岡県警に一通の手紙が届いたのだ。
「静岡県警の皆様、十月十日出発のAJ旅行社の夫婦で行く東北旅行で事件が起こると思います、旅行計画を中止するか、警戒をされたし」
それを読んだ課長は「悪戯だと思うが一応旅行社を調査して来てくれ」
佐山と一平がAJ旅行社を訪ねて、内容を話すと「その日はまだ二名しか集まっていませんよ、中止に成るかも知れませんよ」
そう言われて「締め切りはいつ?」と尋ねると 「今月の二十日です、もう一週間しか有りませんから、多分流れですね」
二人は旅行社を出て「もし、今から集まったら?」
一平がそう言ったので「取り敢えず、集まったら教えて貰う様に名刺を渡してこい」
最低五組で出発するのだが、今は一組、参考の為にどの様な人と聞くと島田の中年夫婦だった。
「集まるのは老夫婦が多いのですか?」と尋ねると、 「そうでも無いです、三十代も参加されますよ、」
内容の割に、安いからが理由らしい、 二人が県警に帰って報告すると課長が悪戯か?
テレビのサスペンスドラマの影響で時々悪戯が有るのだ。
特に放送された日の二、三日後が多かった。
静岡発着で添乗員が一名、 朝九時に集合三十七分の(ひかり)で東京に、東北新幹線の(はやて)で仙台に仙台からバスで移動する。
仙台観光の後、秋保温泉に宿泊、二日目はけいび渓谷と中尊寺その夜は花巻温泉 三日目小岩井農場見学、田沢湖、十和田湖、乳頭温泉泊 、四,五日目は弘前城、ねぶたの里公園、青函連絡船メモリアル館他、宿泊は浅虫温泉、最終日は青森を十時過ぎの(はやて)で東京に(ひかり)に乗り換えて静岡には十六時過ぎに到着する日程だった。
佐山が 「もし、急に一杯に成ったら、一平お前が見てこい」と言って笑った。
「何故?」と怪訝な顔の一平に 「俺は独り者だから」参加が出来ないと言った。
「でも、今頃急に一杯に成りますかね」
「判らないけれど、一応は準備をして置いた方が良いかも」
「勘ですね」一平は笑ったがそれが現実に成ったのだ。
二十日の夜AJ旅行社の筒井が「昨日と、今日で7組に成ったのでツアーが行われます」と連絡をしてきた。
『後一組追加お願いします』 電話を聞いた佐山が独断で申し込んでしまった。
課長に佐山が謝って、一平が行く事に成ったのだった。
「明日から、ツアーのメンバーを調査するか」
「本当に事件が起こるのでしょうか?」
「判らんが、可能性は有る、美優さんには言わないで行けよ」
「どうして?」
「また、首を突っ込むだろう」
「まあ」
「それに、何も知らない方が物事を冷静に判断出来るからな」
「そうですね、先入観が有ると、そう見えてしまいますから」
「喜ぶぞ」佐山が一平の肩を叩いて笑った。
美優には旅行の一週間前に話そう。
それまでに何かが判れば、 旅行が中止に成る可能性が有ったから、ぬか喜びは怖い一平だった。
翌日AJ旅行の筒井に脅迫状の内容は言わないで、旅行のリストと住所を貰いに行った。
最初の申し込み者は①岡田優次50歳、妻、真由子27歳、島田在住、 次が②篠田洋二47歳、妻美加43歳、焼津在住、
③柏木一成48歳、妻景子42歳、静岡在住、④飯田光夫50歳、妻、小夜23歳、島田在住、⑤佐藤達夫52歳、妻静子 49歳、静岡在住、
⑥大竹隆二 30歳 妻、雅美23歳、浜松在住、⑦奥野大造 58歳 妻 美代30歳 、沼津在住、⑧野平一平33歳、妻 美優25歳静岡在住、
職業は書かなくても良いから判らない、連絡先と住所だけだった。
「意外と歳が離れて居ますね」
「本当に夫婦か判らないからな」
「調べるのが大変でしょうね」
「そうだな、申し込みの家は判るだろうが、関係迄は判らないだろうな」
「どうします?住民票調べます?」
「地元の警察に紹介してもらえ」
「はい」
二人は住民票が到着してから調べる事にした。
調べた一平が 「佐山さん、全員夫婦ですよ」
「歳が離れすぎじゃあないのか?」
「佐山さんも頑張れば?美優の様な可愛くて 賢い、嫁さん、当たりますよ」と言って笑った。
この時大きなミスをしていたのだった。
それは名前だけの確認だった。
「あの、投書は悪戯でしょうかね」
「職業は、会社員が一人、自営業七人」
「平日に五日間も休める人いるんだ」
「アホか、お前だろう」と笑う佐山。
「あっ、そうか、俺会社員って書いたのだった」
「全員自営業か?」
「静岡の柏木、佐藤、野平を調べますか?」
「三人も居たか?」
「はい,三名が静岡です」
「また、自分を入れているだろう」
「そうだった、俺は怪しくない」
「柏木から行きますか?」
二人は柏木一成の自宅に向かったが、 近所に聞くと最近は見ないと云う。
年齢は50歳前だと、 商店街で商売をしていると教えられたが何処の商店街かは判らなかった。
次の佐藤達夫は駅から少し離れた場所に店舗構えて居た。
「佐藤は商売も普通にしていますね」
「そうだな」二人は店を見て納得して帰ったのだった。
「住所も違うし、職業も異なる、東北に旅行に行くだけが一緒なのでしょう」
「本当に事件かな?」
「例えば、AJ旅行社を最近辞めたか辞めさせられた人の悪戯とか?」
「それも有るかもな」
「一度聞いてみます」
しばらくして一平が「筒井さんに聞くと夏に支店でトラブルが有った客がいたらしいです、それもこの東北旅行で」
「それは、怪しいな」
「静岡に住んで居る小林誠二と云う男が、こんなのはインチキだと言い出したらしいです」
「何故だ?」
「奥入瀬渓谷が中止に成って、コースが急遽変更に成ったのです」
「何故?」
「夏の豪雨で危険だからですよ」
「当たり前の理由じゃあないか」
「それが小林は腹がたったらしくて、嫌がらせの電話も数回有ったらしいです」
「最近は?」
「今月の初め迄で終わったらしい」
「あの忠告文は小林の可能性も有りますね」
「有るな、ワープロの文字だから、証拠はないから」
「どうしますか?明日から」そう言われて佐山は考え込んでしまった。
何も起こらなければ一平には美優との楽しい旅行に成るのか、佐山には何かが起こるのでは?胸騒ぎがしていた。
翌日筒井が電話で、添乗員が町田みどりに決まったと教えてくれた。
「何が有ったのですか?」の質問に「別にまだ判りません」と答える以外に方法はなかった。
各地の警察に調査を依頼したが、不審な事は見つからなかった。
留守が一軒だけで他は商売をしていたから「でも,商売を休んで夫婦で旅行は良いですね」
「そうだな」二人には、もう調べる方法が無かった。
最悪を考えて一平美優夫婦が旅行に参加したのだった。
旅の始まり
3-2
美優はトイプードルの(イチ)を坂田獣医に預けて旅行の準備が整った。
明日から四泊五日の東北旅行、新婚旅行より長い、何か事情が有るのわね、一平のポケットから参加者のメモが出て来た。
岡田優次50歳、妻、真由子27歳、島田在住、次が②篠田洋二47歳、妻美加43歳焼津在住、③柏木一成48歳、妻景子42歳、静岡在住、
④飯田光夫50歳、妻、小夜23歳、島田在住、⑤佐藤達夫52歳、妻静子 49歳、静岡在住、⑥大竹隆二 30歳 妻、雅美23歳、浜松在住、
⑦奥野大造 58歳 妻 美代30歳 、沼津在住、⑧野平一平33歳、妻 美優25歳静岡在住、
歳が離れているカップルが多いな、私よりも若い人も居るのね。
温泉旅行に若い人も行くの?と不思議な感覚で見ていたのだった。
何か秘密の有る旅行だわ、美優は犯罪の匂いを感じていたのだった。
その日の朝、会社員と成っているので適当に会社を考えないと、「一平会社何処にする?聞かれるよ」
「そうだな、みんなの知らない小さな会社にしよう」
「先日のお友達の会社借りよう、旅行だから名刺は無で」
「桜島製粉、富士宮だから、誰もいないし」
「じゃあ、その会社で、詳しく喋れないけれど、誤魔化すか」
「急がないと遅れるわよ」二人はキャリーバッグに詰め込んで自宅を急いで出た。
タクシーに乗って新幹線側の待ち合わせ場所に急ぐのだった。
「もう、皆さん集まっているわ」
美優が会釈をしながら、添乗員の町田に「よろしくお願いします」と言うのだった。
集まったみんなに軽く会釈をする二人だ。
「岡田さん以外は全員集まられていますので、もうしばらくお待ち下さい」と町田が言った。
「しかし、お似合いの夫婦って少ないわね」と美優が一平に耳打ちした。
「僕ら程、ぴったり合ったのはいない」と笑った。
しばらくして岡田がやって来て「揃いました、ホームに行きます」旗を持って町田が先頭に成って歩く。
一平には此処に集まっているカップルの半数は不自然な感じがしたのだった。
まだ慣れて居ないのか誰もお互いが話しをしない。
夫婦に見えるのは篠田、柏木、佐藤の三組で後の四組は年齢差の開きが原因なのか?全く夫婦には思えなかった。
新幹線の座席はDEの席を押さえて有ったので、全員がパートナーと座った。
美優はもう遠足気分で早速ジュースを買って飲み始めた。
「美味しいのに、一平さんは飲まないと言うから買ってないよ」
一平が旨そうに飲む美優を見て「少し頂戴」とせがんだ。
「嫌ね、病気感染するじゃない」と笑いながらストローを一平の口に入れる。
「美優ちゃんの後は特別美味しい」
「飲み過ぎだよ」と奪い取る美優、もう完全に刑事を忘れていた。
佐山がメールで(何か変わった事は?)(何もありません、平和です)(楽しめたら良し、だな)で終わった。
しばらくして町田が本日の日程ですと用紙を配って持って来た。
十二時三十七分に仙台に到着、昼食後青葉城、仙台城見聞館、かまぼこ館の三カ所を見学して、秋保温泉17時着の予定に成っていた。
「私、東北初めてだから,ワクワクするわ」
「俺も初めてだよ」
「一平君私より十年も長く生きているから、行ったと思っていたわ」
「年寄りにするな、今夜は寝かさないぞ」
「いつも、一平の方が先に寝ているわよ」
「今夜は温泉だから」
「酒飲んだら,ダウンでしょう」二人の馬鹿話の間に、しばらくして東京に到着した。
東北新幹線(はやて)でも同じ配列で座席が用意されていて、乗り換えが無かったら仙台まで近い感じがするのだ
一平が車内を見てきたが何も変わった感じは無かった。
このまま何も起こらなければ,楽しい旅行なのになあ、座席に座ろうとすると紙が有る。
(静岡県警の方、ご苦労様)と書いて有った。
「美優?」と見せると「私も先程、電話で席を立ったわ」と言った。
「じゃあ、その数分間に誰かが置いた」
「一平ちゃんが警察だと知っている」
「それで、電話は誰?」
「間違い電話だったわ」
「私達を見ている人だな」
一平は周りを見回すのだった。
(佐山さん、何か起こりますよ,キット)
(何か有ったか?)
(僕らの正体、知られています)
(そうなのか?敵が誰で?目的も判らない、もう少し判らないと、何も出来ないな)
(このまま、続けます)二人は急に小声に成った。
「前が飯田夫婦、後ろが岡田夫婦、横の三人掛けには一人サラリーマン風の男」と一平が言う。
「時間からして、誰にも気づかれないで、この紙を置いたのは、前か後ろね」美優の推理が始まった。
美優にはもうこの旅行が事件の捜査だと判っていた。
美優は後ろの岡田を指さして「間違い無いわ」と言うのだった。
それ以外には何も起こらずに仙台の駅に到着した。
到着すると立ち上がって「旅行には最高の季節ね」美優が大きく背伸びをして言った。
ホームに降り立つと、町田が旗を持って先頭に立って16人を引率して、駅前の観光バスに案内した。
大型の豪華なバスで、乗客数三十席の豪華サロンバスに17人だから、広々空間「わー,素敵ね」岡田真由子が言った。
「本当、これなら長旅も楽ですね」奥野美代が言う,少し各自が話しをする様に成っていた。
「今から、青葉城に行きます」町田が人数を確認してバスが出発した。
「かまぼこ工場では試食が有りますが、余り食べないで下さい、夜の料理が食べられませんからね町田が言うと一同が笑った。
少し和やかに成った車内の雰囲気だった。
美優は考えていた。
何が目的なのだろう?何故静岡県警なのだろう?恨み?
「恨みだ!」不意に美優が口走った。
「おいおい、急にびっくりするじゃあないか」
美優は一平に耳打ちした「これは、静岡県警に対しての恨みだわ」
「美優、耳感じる」
「馬鹿」そうは云っても、一平は美優の推理には感服していた。
(佐山さん、美優が,県警に対しての恨みの行動だと云うのですが?)
(恨まれる事も有るだろうなあ、多すぎて特定出来ない)
(逆恨みも有りますよね)
(もう少し様子を見て~)
やがてバスは青葉城跡に到着、伊達政宗の馬に跨がった凛々しい像の前で写真を撮影する。
、眼下には広瀬川が見えて「歌で有名な川ね、ゆったりと流れているわ」美優が眼下を見下ろして言う。
遠くを見て「仙台湾かな?」一平が遠くを指さす。
「戦前は国宝の門が沢山残って居たのですよ、大手門、脇櫓、翼門とね、仙台の空襲で焼失したのですよ、残念です」大野が一平に話しかける。
「物知りなのですね」美優が話すと「良いと思う事が悪い場合も有りますよね、戦争もその延長でしょう」大野が言った。
「はあ」一平は訳が判らないで,生返事をするのだった。
青葉山に位置するから青葉城と呼ばれ仙台城の別名として有名なのだった。
今は殆ど昔の面影が無い状態で、観光はもっぱら景色を見る場所としての役割に成っている。
仙台城見聞館で過去の歴史、発掘調査の成果、石垣修復の工事の様子を映像で紹介している。
伊達政宗による仙台城の築城と城下町の歴史がパネルに展示されて、各種のレプリカと模型で判りやすく紹介していた。
その後一行は鐘崎のかまぼこ工場に、笹かまぼこの出来るまでの工程が紹介されて、焼きたての笹かまぼこが試食出来た。
直ぐに試食をする一平に「沢山食べたら,駄目って言われたでしょう」と美優が注意をした。
「だって美味しいよ、これ」笹かまぼこの見本を口一杯に入れる一平だった。
最初の死体
3-3
「今夜は、全員で宴をしますので、月の間にお集まり下さい、宴会は十八時を予定しています」
秋保温泉に到着する前に町田がマイクでみんなに報告した。
「明日は何時出発ですか?」柏木の妻景子が尋ねて「一応九時を予定しています」一行は、秋保温泉でも大きい旅館、秋保館に到着した。
旅館の前には綺麗に仲居さんが並んで出迎えてくれて「気持良いね」と顔を緩める。
「こら、一平仕事だぞ」と調子に乗る一平を嗜めた。
部屋に入ると電話で佐山に「何も無いですね、今、美優はトイレですから」連絡をした。
「あの紙以外は全く何も無いのか?」
「有りませんね、美優がね,あの紙を置いたのは、岡田さんだと言うのですがね」
「岡田優次か?島田の人だな、この人は最初から申し込んでいた人だ」
「それじゃ、単なる旅行ですよね」
「そうだと、思うがな、美優さんの勘は怖いから」
「また、連絡します」
美優が帰ってきて「お風呂入りに行きましょうか?」と一平に言った。
「そうだね、大浴場も大きいから」
「十八時迄には、帰って来るのよ」
「はい,判った」浴衣に着替えて行く一平と浴衣を手に持って行く美優。
二人は事件が起こらなければ、楽しいのだがと思うのだった。
宴会が始まって、次々運ばれる料理。
「カラオケを用意していますので、お好きな方からどうぞ」
町田が言ったが誰も歌わない。
「それでは私が一番手で」町田が場を盛り上げようとトップバッターで歌い出した。
拍手喝采「それでは順番に、野平夫妻からどうぞ」いきなり歌う事に成って「よし、歌おうか」立ち上がる一平の袖を美優が引っ張った。
「貴方は下手だから、私が歌うわ」
そう言って酒の勢いで歌い出した美優は歌が上手だった。
民宿で客と一緒によく行ったから「巧いぞ、美優-」一平は完全に酔っ払いの世界に成っていた。
次に奥野夫妻がデュエットで歌い、場は大いに盛り上がった。
美優は気に成っていた。
飯田光夫が居ないのが,時計を見ると七時半を少し過ぎていた。
全夫婦が歌って後は歌いたい人が次々に歌った。
交互に次々と歌うが、美優はこれって、まるでみんなが混雑を装う様にも見えていた。
しばらくして「大いに盛り上がりましたが、時間も参りましたのでお開きにしたいと思います」と町田が挨拶して宴会は終了した。
美優は盛り上がった格好だけして、絶えず飯田夫妻を観察していた。
最後まで飯田光夫は戻らなかった。
美優は解散の後、様子を見ながら添乗員の町田に「飯田さんの旦那さん、居ませんでしたね」と尋ねた。
「ああ、お腹の調子が悪いと言われて、席を立たれましたよ」と答えた。
「そうなんだ」美優は納得して部屋に戻った。
早朝の静岡県警は騒がしい、熱海の海に水死体が発見されたのだ。
背広の内ポケットに名刺が入っていて、飯田光夫、五〇歳、島田で時計の販売業をしている。
佐山は聞いた事が有る名前だなと思ったが直ぐには思い出さなかった。
検死に廻されて、結果が出るまでに島田の時計店に向かった。
その時一平から(異常有りません)のメールが届いた時、佐山が思い出した。
(飯田光夫って夫婦居たよね、ツアーの中に)
(はい、居ますよ)
(今、居るか?)
(調べて見ます)
一平は荷物を持って乗り込むツアーの客の中に奥さんの小夜を見つけて「ご主人は?」と尋ねた。
「昨夜から具合が悪く、今朝、旅行をリタイアしました、今日から私だけです」と小夜が答えた。
「えー、一人で参加ですか?」
「だって費用払っていますから,一人で楽しんで来いと言われました」
「今、ご主人は?」
「もうそろそろ、起きているのでは?」
殺人事件を知らない一平は、納得して(体調を崩して,休んでいます)とメールをしたのだった。
佐山も同一人物とは思わなかったから(引き続き、観光を楽しんで)と送っていた。
死因は溺死、死亡推定時刻は深夜の十二時から三時に成っていた。
佐山は時計屋に到着したのが、店は戸締まりがされて誰も居なかった。
近所に聞くと昨日から締まっていましたよと言われて、佐山はどうすることも出来なかったのだった。
豪華サロンバスは十五名の客を乗せて、東北道を平泉に向かって走って行った。
「不思議ね、普通夫婦で旅行に来て体調崩した人を残して一人で旅をするかな?」美優が小声で一平に言った。
「歳が離れているから、甘いのでは?」
「そうかな?私なら一平ちゃんを看病しますよ」
「僕らは愛し合っているからね」
「じゃあ、愛してないの?」
「そうなるね」
町田がマイクで「中尊寺からけいび渓谷に行きます,その後は花巻温泉で露天風呂付のお部屋で過ごして頂きます」
「凄い」『素敵』と歓声が上がった。
「今夜は、楽しみね」
「美優ちゃん、目がいやらしく成っていますよ」一平がからかって、程なくバスは中尊寺の駐車場に到着した。
旗を持った町田を先頭に歩いてゆく、飯田小夜に美優が駆け寄って「一人で寂しいですね」と尋ねた。
「そんな事ないですよ、東北初めてだし」
「そう、仲良くしましょう」
「ありがとう」
「歳も近いから」
「ご主人陽気な方ね」
「ノー天気なだけです」
「楽しそうですよ」
「飯田さんは随分お歳が離れていらっしゃるのですね」
「再婚ですから」
美優が小夜は夜の商売、スナックかクラブの女性では?そんな感じがしたのだった。
観光シーズンだが平日だから、人は比較的に少なく待たなくても金色堂に入れた。
中尊寺金色堂は、岩手県西磐井郡平泉町の中尊寺にある平安時代後期建立の仏堂である。
奥州藤原氏初代藤原清衡が天治元年に建立したもので、平等院鳳凰堂と共に平安時代の浄土教建築の代表例であり、当代の技術を集めたものとして国宝に指定されている。
「歴史を感じるわね」
「綺麗ね」
「昔は金色でぴかぴかだったのだろね」と各自が口々の金色堂を語っていた。
約一時間の見学が終わってバスに戻ると町田が「やはり、一人は寂しかったのね、飯田さんの奥さん此処で別れると言われました」と話た。
しかし小夜の姿は見えなかった。
七組の夫婦がけいび渓谷に向かった。
渓谷の入り口に有るレストランで昼食を食べて、しばらくしてから、色付き始めた木々の葉を見ながら、渓谷美を楽しむ船の旅に成った。
迫り来る岩、沢山の魚が船の側を泳いでいるのが見える。
ここでも二時間の時間を使って、ゆっくり、ゆったりした行程に成っていた。
船を降りると「これから、花巻温泉に向かいます」町田が言った。
バスは一路花巻温泉に向かった。
佐山は殺されたと思われる飯田の身元を調べた。
飯田光夫、五〇歳独身、妻とは三年前に離婚、現在は一人で時計店を営んでいる。
死んでいるから店は閉まっている当然だ。
午後に成って、東京から長男が遺体を引き取りに来た。
三年前に離婚した時に、母に付いて行ったので子供二人は母の手元に居た。
母は遺体を引き取りたく無かったらしいが、長男が反対を押し切って来たと言った。
長男は二十五歳で東京のデパート勤務で、今日は休みなので来たのだ。
「お母さんは反対と伺いましたが」
「三年前にお金の事で離婚したと聞いています」
「そうですか、遺体はどの様にされますか?」
「遺骨だけを持ち帰りたいと思います」
「お母さんが反対されているから仕方ないですね」
「はい、葬儀もしませんが、私の父ですから」
「そんなにお母さんはお父さんの事を?」
「お金の事でもめていましたから」
佐山は離婚の原因はお金か浮気が多いから、仕方なかったのだろうと思うのだった。
消えるツアー客
3-4
「一応、長男と母親を調べました、全く怪しいところは有りません、佐藤小夜四八歳、今は吉祥寺のブティックで働いて居ますね、当日は店のみんなと飲み会で深夜まで飲んでいました。長男はデパートの棚卸しで同じく深夜まで、次男は旅行中ですね、行先は中国です」
佐山は小夜?小夜?何処かで見たな「えー」と思い出した。
飯田光夫、小夜、一平の旅行のメンバーだ。
一平にメールで(飯田夫妻は今、そこに居るのか?)
(居ません)
(いつから?)
(旦那は今日の出発前、奥さんは昼前)
(判った)
佐山は今朝まで居た?似ているが違うのか?
一平は聞いた事をそのまま伝えて、確かめてはいなかった。
正確には宴会の始まった時には飯田光夫は居た!だった。
伝え聞いた話しを佐山にメールをしたのだ。
夕方サロンバスは花巻温泉の高級旅館花栄に到着した。
「今宵は各自お食事処でお好きな時間にお食事を但し夕食は六時から八時の時間帯でお願い致します、朝は九時半の出発を予定しています」と町田が説明してバスは旅館の駐車場に停車した。
仲居が数人来て荷物を部屋まで運んで、一平達の係は岡田夫妻との二部屋で荷物を持って部屋に案内した。
大きい荷物は男性がバスから運んで部屋に届けた。
「一平見て、庭に面した露天風呂よ」
「美優夜は何時の食事にする?」
「お腹空いてないから七時」
「おやつ食べ過ぎだよ」一平が電話で七時の夕食を伝える。
「さあさあ、一平お風呂に入ろう」と美優に急かされて,露天風呂に向かう一平だった。
その頃身元不明の全裸の女性の水死体が、御前崎の海岸に夜釣りに出掛けた釣り人に発見されていた。
静岡県警では大忙しで、まだ飯田光夫の事件が何も判らないのに、また次の殺人事件に困惑していた。
(一平殺人事件連発で大変だ)と佐山がメールを送ってきた。
(ご苦労様です)
(呑気で良いなあ)
(お風呂に入るので)一平は美優が待つ露天風呂に浸かっていた。
「どうしたの?」
「佐山さん、大変みたい」
「何か有ったの?」
「また殺人事件だって」
「どんな事件?」
「聞いて無い」
「一平ちゃんも刑事でしょう、事件位聞かないと」
「僕は美優と遊ぶのが楽しいです」と乳房を掴む。
「うぅ」と美優も楽しんでいる。
「ほら、美優も良いでしょう」
「それは良いけれど、いゃー感じる」一平が乳首を弄るのだった。
食事処に行くと仲居が料理の準備をしながら「困りますね」と言うので「どうしたのですか?」と尋ねると「お隣の岡田さん、急に夕食いらないと、おっしゃって」と困惑の表情だ。
「二人共?」
「奥様だけ先程食べられて、お部屋に戻られました」
「準備の前ならね」そう言いながら、一平達の食事の用意をしながら「お飲み物は?」と尋ねて「ビール下さい」美優が間髪を入れずに言った。
「よく、病気になるね、明日リタイアだったりして」と一平が冗談で言う。
「そして最後は私達だけだったら?」
「美優脅かすなよ」
「そんな事忘れて新婚気分を味わいましょう」と甘えた仕草の美優だった。
翌朝、昨晩の予想通り岡田夫妻はリタイアで夫婦共に姿を見せなかった。
旦那さんの容態が悪く昨晩遅く病院に入院したと云った。
サロンバスは六組の夫婦を乗せて小岩井農場に、朝の出発が遅かったので、昼に成って食事の後、田沢湖に向かった。
その後角館を見学して、比較的早く乳頭温泉に到着したのだ。
温泉を楽しんで貰う為に「明日は九時には出発しますので、十和田湖、奥入瀬、浅虫温泉が明日のコースです」と町田が言った。
真鶴の海で三人目の遺体が見つかったのはその日の夕方だった。
免許証から、岡田優次五十歳、佐山はまた思い出した。
この名前も見覚えが有るぞ、一平のツアーの客と同じ名前だ。
早速(岡田さんは居るか)
(昨夜、病院に行きました)
(病院?)
(はい、夫婦一緒に)
(岡田さんの写真か飯田さんの写真送って貰えますか?)
(そうだな、それが確かだな、すこし、違うだろうが,大体は判るだろう)
しばらくして飯田光夫の写真が着た。
「美優これ見てよ」
「禿頭の叔父さんじゃないの、このツアーの人白髪混じりだったよ」
(佐山さん、別人ですね)
(そうか、明日岡田さんも送るよ)
(大変ですね,次々と)
(そうだよ、身元不明の若い全裸の死体もだから)
その日の夜また寸又峡で全裸の若い女性の水死体が発見されたのだ。
男性の死体が二人、身元不明が二人佐山はこの事件に関連が有るのでは?と考えていた。
殺され方が似ていたから、多分女性は身元を隠す為に全裸にしたのだろう、どうしても男性二人の名前が気に成ったのだ。
乳頭温泉で「一平見てよ、牛乳よ」と露天風呂を見て美優が珍しそうに言った。
「お風呂が牛乳なのか?」
「馬鹿じゃないの?乳白色の温泉よ」
「でも乳頭って,エッチな気分に成るな」
「一平ちゃん好きだから困るわ」
「美優も嫌いじゃないでしょう」そう言いながら浴衣の上から胸を触る。
「また、後で、よ」そう言って大浴場に美優は向かった。
大浴場に行くと奥野美代が湯船に浸かっていた。
美優が軽く会釈をすると「貴女達は何処から?」と聞いて来た。
「静岡ですけど」と答えると「貴女は本当の夫婦?」と尋ねられた。
「そうですけど?何か?」と美優が答えると「いえ」そう言うと湯船を後にしたのだった。
変なの?どう言う事よ?失礼な人ね、美優は乳白色の湯に浸かりながら,何故?あんな事聞いたのかな?と考えるのだった。
翌朝「どうなっているの?」と町田がぶつぶつと言いながらサロンバスに乗り込んできた。
「どうしましたか?」一平が警察口調で聞いた。
「わー、びっくりした」と町田が驚いて「奥野さん夫婦も調子悪いと,言われて」
「えー、三組目?」美優が今度はびっくり顔に成った。
昨夜の湯船の会話が頭に蘇っていた。
「今朝、会われました?」美優が聞くと「誰に、ですか?」
「奥野夫妻に、です」
「会いましたよ、気分が悪くてバスに乗れないと言われました」
「そうですか?」美優は電話か伝言かと想ったのだったが、実際に会って話したのなら、具合が悪いのは本当なのだと想った。
昼過ぎにメールで岡田の写真が送られてきた。
痩せた感じの顔が携帯に映し出された。
「バスの岡田さんとは似ても似つかないわね」と美優が言うとメールで(バスの客とは違いますよ,佐山さん)
(そうか?その後は何か有ったか?)
(また、一組減りました、奥野夫妻です)
(変な,ツアーだな)
(はい、何か有ればまた連絡します)
「一平、やはり、変よ」美優が不思議そうに言った。
「何が?」
「また、死体が出る気がするわ」
「何処で?」
「勿論、静岡県警の管内よ」
「何故?」
「警察に対する挑戦よ」二人は小声で話しをする。
幸いサロンバスはがら空き状態だから、聞こえる心配は無かった。
十和田湖にバスが到着して、昼食を十名で食べた。
ビールを飲む人もいて、和やかに過ごして「ここから自由行動で、十和田湖、奥入瀬渓谷を楽しんで下さい。十六時半に出発です、温泉到着は十八時半から十九時と遅めです」と町田が言って、観光タクシーの券を配布した。
上限三千円に成っていたから、それ以上は自前に成る。
遊覧船の券は約五十分のコース、奥入瀬は電動アシストサイクル券付き、歩けば一日コースだから、時間を見て適当に戻らなければ十六時半には間に合わないのだ。
「どちらに行こうか?」
「遊覧船にしましょう」
「時間が有れば、奥入瀬も少し見るか」二人は遊覧船の乗り場に向かった。
「遊覧船私達だけね」
「本当だ、みんな奥入瀬に行ったのか?片道十四キロを電動サイクルで走るのか」
「気持良いでしょうね」
「最高の季節だからね」
第二八甲田丸に乗って二人が港を出ると「一平!霧が出て来たよ」
「本当だ、今頃?」
「景色が見えないよね」と二人は残念がった。
大事件の予感
3-5
結局二人は湖上からの景色を見られなくて、電動サイクルで奥入瀬方面に少しだけ見物に行く事に成った。
「銚子大滝、白糸の滝に行きましょう」
「これは楽だな」電動サイクルに乗って向かう、その時携帯が鳴った。
「誰だよ」一平がそう言いながら見ると佐山だった。
いつもはメールなのに「はい、一平ですが?」
「おい、一平、奥野大造って客居るか?」
「今朝からいませんよ、具合悪くて」
「その奥野大造が水死体で今、見つかった」
「また同名の他人でしょう」
「今、送る」直ぐに死体の写真が着た。
「違いますよ、こちらの奥野さんはもっとデブですよ」
「それより、変だと思わないか?」
「そんなに、同姓同名の人が死ぬか?」
「そう言われて見れば変ですね」
美優が一平の所に戻って来て「どうしたの?」
「佐山さんのところでまた、このツアーの名前の人が死体で見つかったと」
携帯の写真を見せて「誰?この人?」
「だろう、誰だか判らないだろう?奥野さん」
「違うよね、このツアーの奥野さん肥えていたからね」
二人は、銚子大滝を見て白糸の滝に向かった。
「誰とも会わないわね」
「遊覧船乗ってなかったから、もっと先まで行ったのじゃないの?」
「でも時間も迫るからバスに戻らないとね」
「私達も戻ってお土産でも見ましょう」
二人は白糸の滝から引き返して土産物店に入って、お土産を数点買ってバスに戻った。
「一番じゃん」
「お帰りなさい、十和田湖は霧が出ていたわね、見たかったですね」と町田が言うと「そうなのよ、見えなかったわ」
「他の人達全員遊覧船には乗らないのが正解だったかも」
町田が時計を見ている。
「みなさん遅いですね」一平が言うと運転手が「此処から浅虫温泉まで二時間近く掛かるのに」とやきもきしながら時計をみる。
しかし誰も戻らない「どうしましょう?」町田が運転手に言った。
美優が「おかしいわ、身分を明かした方が良いみたいよ」小声で言った。
その頃網代でも女性の全裸死体が見つかっていた。
身元は不明、佐山達は振り回されていた。
女性はみんな若い,亡くなった男性は中年、死体の場所が全く異なっていたから、誰一人事件の関連を考えていなかった。
「すみません、私、静岡県警の野平一平と申します、これは妻の美優です」
「刑事さん?」
「実はこのツアーで事件が起こると投書が有りまして、悪戯かとは思ったのですが,念のために参加したのです」
「刑事さん、これって事件ですか?」
「可能性が高いですね」
美優が「静岡ではこのツアーの参加者と同名の人が三人亡くなっているのです」
「えー、そんな」と町田が驚きの声を出した。
「でも、名前だけで、このツアーの人では有りませんでした」
「もうしばく待って誰も戻らなければ、私達を新幹線の駅に送って貰えませんか?」そう言ってから佐山に電話をした。
「佐山さん、事件発生です」
「何が起こった」
「誰も居なくなりました」
「そのバスをそのまま連れて帰って来い、遺留品と指紋の採取だ」
「判りました」電話を切ると、「すみませんが、このバスで静岡まで走って貰えますか?」
「えー、私は仙台の人間ですよ」と運転手が困り顔に成る。
「これは、大事件かも知れませんから、お願いします」美優も一緒に頼むのだった。
五時半に成ってようやくバスは動き出した。
「変わった事件ね、静岡の事件と一緒だなんて変ね」美優が言った。
「写真全く違うわ」
「それじゃあ、女性の写真送って貰ってよ」
美優が言うので「佐山さん女性の遺体の顔写真一枚送って貰えと美優が言うので、すみませんが送って貰えませんか?」
「それに、気が付かなかったな、送るよ」
しばらくして写真が届いて「あっ」二人の顔色が変わった。
「奥野美代さん」声を揃えて叫んだ。
町田がその声に驚いてやって来て「町田さん、この顔」
「奥野さんの奥様だ」と叫んだ。
「これは?どう云う事なのだ?」と一平が言うと「偽装夫婦よ、飯田さんも岡田さんも同じよ」と美優が言った。
「佐山さん、偽装夫婦だそうです、」
「一平何言っているのだ?判るように説明しろ」
すると美優が携帯を一平から取って説明を始めた。
「佐山の叔父さん、女性はツアーの客ですよ、多分三人共、男性は別人です、ツアーの参加していた夫婦は偽装の夫婦です」
「何だ?それ?」
「殺された男性は住所も統べて本当で,このツアーの男性は統べて偽物なのでは?」
「成る程、流石は美優名探偵だな」
「目的が判りませんよ」
「二人は新幹線で帰って、一平には早く手伝って貰おう、バスは仙台の警察に任そう」
二人は七戸十和田駅で町田と一者に降りた。
仙台の警察がバス会社に行きますから、そのままにと頼んで、運転手も帰れると喜んだが、一平達がバスを降りて直ぐに、大音響と共にバスは黒煙を上げて爆発した。
「何!」
「もう少しで即死だった」
「わー、怖い」と町田が美優に抱きついて震えていた。
駅前はパニック状態に成って、消防車、パトカーが到着して、一平は説明に四苦八苦で、結局三人はその日は帰れなかった。
ビジネスホテルで三人は宿泊した。
「もう少しで私達は死んでいたわね」
「あの投書と、この爆破、警察を恨んでいる人達の犯行だね」
「一平明日から大変よ」
「そうだよ、命拾いしたからな」
「でも怖かったわ」そう言いながら一平に抱きついて眠る美優だった。
東北旅行連続殺人事件捜査本部と書かれた部屋に刑事が集まってこれまでの経緯を説明していた。
これが旅行の参加者です、三人が亡くなっています,女性ですが?
岡田優次50歳、妻、真由子27歳、島田在住、
次が②篠田洋二47歳、妻美加43歳焼津在住、
③柏木一成48歳、妻景子42歳、静岡在住、
④飯田光夫50歳、妻、小夜23歳、島田在住、
⑤佐藤達夫52歳、妻静子 49歳、静岡在住、
⑥大竹隆二 30歳 妻、雅美23歳、浜松在住、
⑦奥野大造 58歳 妻 美代30歳 、沼津在住、
「実在の人か調べてくれ」
「旅行社にもう一度行って資料の詳しい物を貰って来てくれ」
「岡田優次、飯田光夫、奥野大造は実在だと思いますが」
「ツアーの参加者は偽物ですが?」
「三人の妻は?」
「偽物だと思います」と一平が言った。
「それでは十和田湖で消えた残りの人達は?」
「判りませんが、夫婦では無いかも知れません」
「野平君しか見ていないから、誰も顔が判らない」
「よし、ツアーの町田さんと野平君の奥さんに似顔絵を描いて貰おう」
「誰か旅行社に行ったら、来て貰える時間を聞いて来て貰ってくれ」
「野平君と三人で時間を合わせてな」
「はい」
しかし、捜査員が向かったAJ旅行社静岡支店は、炎に包まれて朝から消防車で大変な騒ぎに成っていた。
幸い出勤前で怪我人は誰も居なかったが、資料も無くなって営業は当分出来ない状態に成った。
夕方に成ってようやくツアーに同行した町田の住所が判って、刑事が訪問したが留守だった。
近所の話しでは朝から数人の男女が来ていたらしい。
「美優さんは大丈夫か?」
「美優が狙われるなら私も危ないでしょう?」
「住所は出鱈目か?」
「はい、適当に書きましたが?」
「実在の場所か?」
「無い住所書きました」
「それなら大丈夫だな」
「どうしたのですか?」
「本当の住所を書いていたら、危なかったのでは?自分達の存在を消したかったから、バスも,旅行社も消したのでは?」
「そうですよね、バスには大きな荷物はトランクに入っていましたから、十和田湖では持って出ていませんからね」
その日の夜青森県警から時間をセットされた爆弾だったと報告が有った。
女性の身元
3-6
全く東北旅行の痕跡はなくなった。
仕方が無いので明日、美優を県警に連れて来て似顔絵を作る事に成った。
三人の全裸女性の身元は判らない。
亡くなった男性三人には奥さんが居なくて、離婚か死別だった。
美優と一平の記憶だけ、町田は行方不明のままだった。
捜査会議が夜遅くまで続いた.。
「一組ずつ、話そう、最初の飯田光夫五十歳、島田で時計店を営む、妻とは離婚、妻は佐藤小夜、東京でブティックに勤務、子供が二人、三人共アリバイ有り、旅行に行っていた飯田光夫は正体不明、妻小夜は水死体で発見、身元不明年齢は推定二十三歳」
「飯田に付いて何か有るか?」課長が尋ねる。
「偽の飯田夫妻は翌朝まで一緒だったと」一平が言って「偽の妻で殺された女は昼まで一緒に居たらしいな」佐山が言った。
「はい」
「その日の夜、御前崎で水死体か」
「少なくとも移動に五時間は必要だろう」
「飯田偽夫妻の妻の写真で新幹線を手分けして探せ」
「次の岡田だが岡田優次五十歳、真鶴の海にて水死体で発見、妻真由子とは昨年死別、同じく島田で宝石店を経営、偽の妻真由子は寸又峡で水死体身元不明推定年齢二十七歳」
一平が「花巻温泉の夜迄は一緒でした」と言った。
「三人目の奥野大造五十八歳、楽器店経営、沼津在住、浜名湖で水死体にて発見、妻美代とは三年前に死別、偽の美代は三十歳位」
「AJ旅行社は放火、ツアーコンダクターの町田は行方不明」
「それ以外の夫婦、篠田洋二、美加、柏木一成、景子、佐藤達夫、静子、大竹隆二、雅美の夫婦は健在で旅行には参加した形跡がない」
「以上が今までに判った事だ」と課長が話した。
「明日、奥さんを連れて来てくれ」その言葉で解散と成った。
美優は午後からイチを引き取りに熱海の坂田獣医を訪れて居た。
「「イチ」元気だった」
美優の行動はこの時既に警察が監視していた。
町田が行方不明に成ったから、佐山が内密で刑事を二名付けていたのだ。
夜一平が「美優明日一緒に県警に行って貰えないかな?」
「何しに?一平の代わりに私が刑事するのかな?ようやく実力を認めたか」と胸を張った。
「その胸は僕の物です」と一平が撫でると「キャー、痴漢」と笑う美優。
「嬉しい!感じる!だろう?」
「相変わらず馬鹿ね」と一平の手をはね除ける。
「どうせ、似顔絵を描いてくれ、知っているのは一平お前と美優さんだけだ、明日一緒に来てくれ、そうでしょう」
「何故?判るの?」
「諸君の考えている事はお見通しよ」
「その通りなのだよ」
「明日はイチを美容院に連れて行こうと思ったのに」
「頼むよ」
「仕方無いな、無能な刑事の妻は辛いよ」そう言って笑った。
翌日二人揃って県警に行くと佐山が「美優さん、悪いね」と言った。
課長の持田が「態々すみませんね」と挨拶に来た。
「捜査大変でしょう?」
「今回は困っています、手がかりが全く無いので」
「それじゃあ、課長さんにこれプレゼントしますわ」と一枚のCDのケースを差し出した。
「音楽でも聴いて、リラックスですか?」
「流石、課長さん発想が面白いです」と笑った。
「何ですか?」
「ツアーのメンバーの写真、焼いてきました」
「えー、写真有るのですか?」
「はい、最初から変な旅行だったので、携帯で隠し撮りしました」
「流石、奥様、噂には聞いていましたが、感心しました、有難う、助かります」と握手を求めてきた。
そこに一平が「似顔絵何処で書きますか?」と言ってやって来た。
「この素晴らしい奥様にはとても似合わない、野平君、少しは奥様を見習いなさい」
そう言われて「はあー」一平が唖然としていた。
「課長さん、捜査は?」
「全くです」
「私、あの女性は水商売か?風俗の女性だと思います、一緒にお風呂も入りましたから、雰囲気で判ります」
「そうなのですね、水商売、風俗ね」
「はいそれも、静岡近辺だと思いますよ、言葉の感じとか、話しの内容が遠くの人ではないと感じました」
「野平君、奥様の洞察力を少しは見習いなさい、実に素晴らしい」
「皆様頑張って、それでは、私は帰ります」美優はお辞儀をして帰っていった。
「おい、誰か奥様を自宅迄お送りしなさい、」
今の捜査課長はこの春から着任していて、署内では若干オカマと呼ばれていた。
「全員が隠し撮りされているじゃないか?」
「野平君の奥様は素晴らしいね、これを数枚コピーして捜査員に持たせて聞き込みを初めてくれたまえ」
「はい」
「佐山君、これで進展するね、顔も住所も判らないでは探す術が無かったからな」
「はい、助かりますね」
「殺された六人に共通点は無いのか?」
「商売をしている以外は?」
「女性の共通点は?野平君の奥様が先程、女性三人は水商売か風俗の女性で静岡近辺ではないかと言っていた。一度総動員して当たってくれたまえ、意外と的が当たっているかも知れない」
「はい」
その夜から捜査員が風俗、水商売関係を徹底的に探した。
死体の写真ではなく旅行中の写真が有ったので、意外と早く一人目の女が見つかった。
スナックビルの一角に店を持つ「千鳥」のお店の女の子で名前は茜と呼ばれていたらしいが、「千鳥」は全く開店しなかった。
管理会社に問い合わせてママと呼ばれる家も不在、店の中を見る為に店の扉を開くと店主が死体で放置されていた。
「また、犠牲者か」
「何人犠牲者が出るのだ」
「しかし、美優さんの推理は正解だったな、大野の妻役の美代がこの店で働いて居た茜だった」
店の中を徹底調査、指紋採取、自宅も一人暮らしだ。
加藤美弥子が殺された店主だったが、自宅に茜に関する資料は全く無かった。
指紋は美代と一致したのでこの茜が美代を演じていたのには間違いがなかった。
夜に成ってスナック「千鳥」に良く行く客、納入業者の酒屋、カラオケ業者に接触したが、統べて現金販売で茜を一二度見た程度だった。
茜の出勤時間が遅かったらしい、調べていくと茜が店に出るのは週に土曜と金曜の二日だけで、昼間の仕事も住所も判らない。
折角見つけた手がかりは消えてしまった。
夜帰った一平は流石に疲れて「美優、美代さんの勤め先見つかって行ったら,経営者殺されて居たよ」
「静岡のスナックだったのね」
「そうだった、美代って人の身代わりしていた茜って女の人だけれど、源氏名だから、経営者亡くなったから判らない」
「指紋とか採取出来たの?」
「したと思うよ」
「今回の犯人は大きな組織だよね、手口が個人では無いわ」
「手が込んでいるよね」
「まず、何故偽の夫婦を作ったか?普通に殺せば良いのに」
「美優でも判らないか?」
「ひとつ判るのは、過去の犯罪者が何名か居るのよ」
「何故?」
「指紋の照合を恐れているのでは?バスの爆破、旅行社の放火」
「確かにそうかも知れない」
「スナックに指紋が有る可能性が有るわね」
「他の二人が判らない」
「風俗のデリヘルとかじゃあないかな?」
「店には関係がないから?」
「犯人が暴力団と交際が有れば簡単に女性は調達出来るからね」
「殺された女性は頼まれた人達でそれ以外が統べて犯人グループ?」
「その可能性高いわね」しばらく考えて「名前を使われた人達に関連が無いか調べた?」
「何も無かったよ」
「いいえ、必ず何か有るわ、過去にさかのぼって調べる必要有りね」
「もう疲れたから、お風呂に入って寝よう」
「珍しく,元気がないのね」と美優が笑った。
一平は歩き疲れていて、お風呂をあがると直ぐに高鼾になってしまうのだった。
美優はネットのデリヘルのページを見ていた。
店のホームページではなく、総合サイトを検索していた。
これは昔の人も沢山掲載されていたから、もしかして掲載が残っている可能性が有って、根気がいる作業だった。
美優は明け方に成って小夜に似た女を見つけ出したのだった。
「疲れた」そう言って眠ったのだった。
若奥様サロン
3-7
「美優、いつまで寝ているの?」と一平が美優を起こした。
「眠いよ、徹夜だったのよ」
「何をしていて?」
「デリヘルよ」
「えー、デリヘルのバイト?」
「馬鹿か!小夜に似た女を見つけたのよ」そう言うと「おおー」と言いながら抱きつくのだった。
「止めてよ、もうしばらく寝かせて、机のメモもって早く県警に行かないと」
「判りました、ごゆっくりお休み下さい」そう言って一平は出て行った。
デリヘルアロマはマッサージを主としたデリヘルだったので昼間も営業していた。
「静岡県警だが、店長はいるか?」
「うちは健全なデリヘルですよ、法に引っかかる事はしていません」と逃げ腰だった。
「違うよ、この子、此処の子か?」と写真を見せると、男は写真をのぞき込んで「めぐみ、ちゃんだ、急に連絡無くなって困っていたのですよ」
「殺されたよ」一平が言うと「えー、いつですか?」驚く。
「数日前、水死体で発見されたのだ」と言った。
「そうだったのですか?人気有ったのに」
「めぐみさんの身元の判る資料有るか?」
「うちは、日払いだから、簡単な身上書しかないです」
「それを、コピーしてくれ」
「もう要りませんから持って帰って下さい」と引き出しから探して差し出した。
「彼女を良く指名していた客は判るか?」
「判りますけど、殆ど偽名ですよ、」
「何で管理しているのだ」
「携帯の番号ですよ」
「じゃあ、その番号を書き出して貰えるか?」
「全部ですか?」
「めぐみさんのここ二ヶ月でいい」
「判りました、と邪魔くさそうにメモに書いて渡してくれた」
一平は新人刑事とデリヘルアロマを後にした。
佐山は名前を使われた人達を聞き取りに行ったが、全く共通点がなかった。
勿論自分達の偽物の写真も全く知らない顔だった。
捜査本部で携帯番号を電話会社に紹介して調べる事に成った。
直接電話すると相手を突き止められないからだった。
約十名の番号だったので、数時間後に電話会社からコピーが送られて来たので早速捜査員が調べに行った。
「夜に成って、一人を除いて関係無い様です」
「その一人は?」
「該当の住所には異なる会社が入っていましたが、それも十数年前から変わっていないのです」
「めぐみの客の線は消えたな」
その日も一平は疲れ果てて家に帰ると美優がいない、時間は十一時を過ぎて、携帯にかけてみたが電源が切れていた。
どうしたのだ?不安に成る一平が佐山に「美優が居ないのですが?と不安な声で言うと」
「美優さんには刑事が付いているから何か有れば連絡が有るはずだが」
「じゃあ、尚更変ですね」
「何かメモとかはないのか?」テーブルを見る一平「あっ、携帯が有ります」
「忘れて何処かに行ったか?尾行の刑事に聞いてみる」で電話が切れた。
一平が出掛けてからまた美優はデリヘルの画面を調べて範囲を広げていた。
それは東京に見つけたのだ。
携帯が鳴って「一平ごめん携帯忘れた、今ね、兄貴の家に居るの!東京で二、三調べたいの、だから明日帰るね、由佳里さんと一緒に行くから大丈夫よ」
「確かに東京は管轄外だけれど、何処に行くのだ」
「飯田さんの奥さんに会いに行くの、それと真由子さんが勤めて居た店」
「美優、真由子さんも見つけたのか?」
「ええ、そこにメモ有るでしょう」
食卓の上のメモを探して「何?若奥様サロンって?」
「浮気斡旋所みたいなものかな?」
「えー、そんな変な商売有るの?」
「判らないから,調べに行くのよ」
「危ない事は止めてよ、」
「だから由佳里さんと行くのよ」
「大丈夫よ」
電話を切ると一平は佐山に「夜分すみません、美優が真由子さんも探したみたいで、今東京に行っています」
「俺も今、尾行の刑事から連絡で今、東京の親戚の家だと聞いて安心した所だった、真由子を見つけたとは,流石だな」
「それが、ですね、若奥様サロンって云うお店らしいのですよ」
「何だ?それ」
「よし、今から課長に連絡して、女性の刑事をガードに増やそう、男性では入れない場所も有るからな」
「お願いします、美優の探偵好きには困りますよ、いつから変わったのか?」
「お前と結婚してからだろう」と笑った。
翌日由佳里は母俊子が来るのを待って、子供を預けて二人で出て行った。
婦人警官の清水聡子が尾行して、男性の刑事本間正と二人に成っていた。
清水は美優とは面識が無い年齢は近いから横に居ても判らない利点が有ったから、ガードに付いたのだ。
持田課長は美優の洞察力と行動力を高く評価していた。
それは、カメラの隠し撮りから、女性の存在を突き止めていた事で実証されていた。、
佐山の進言に即座に反応していたのだ。
何かが判るのでは?の期待が有った。
尽く捜査の道が塞がっていたのも捜査課長の気持ちの表れだった。
美優は身元の判る物を統べて持たずに東京に来ていたから、携帯も自ら置いてきたのだ。
一平は忘れたと思ったが、警察の匂いが犯人に警戒感を持たすのではと思っていたからなのだ。
(若奥様サロン)と呼ばれる所は、五反田の歓楽街から少し離れた場所に有って、一見普通の美容院とエステのお店だった。
「あれ?風俗じゃない」
「そうね、ネットの閲覧の真由子さんは、此処の客?従業員?」
「でも、紹介サイトの様な感じだったのだけれど」
「どうする?」
「美容院?エステ?どちらかに入ってみる?」
「美容院なら、シャンプーとセットだけでもいいの、じゃない」
「様子を見に行きましょう」
二人が中に入ると、係の女性が「いらっしゃいませ、どちらさまでしょうか?」
「。。。」
「当店は会員制に成っていまして、会員様の紹介の方以外は、お断りしています」
「そうなの?私、静内順子さんに教えて貰ったのですが、二ヶ月程前ですけれど」と美優が言ったので由佳里が誰よ、それと言った顔をした。
静内順子これが真由子に似た女の此処での名前だった。
「ああ、静内さまのご紹介ですか?少々お待ち下さい」と女性が奥に入っていった。
店内の様子が自分達の場所から見えない、普通美容院なら、直ぐに見えるのに仕切られていて見えなかった。
しばらくして四十代の女性がやって来て「静内さんのご紹介とか?」
「はい」
「当店は会員制で美容院とエステで女性のトータルの美しさを作るサロンですから、会員に成って貰わないと」そう言いながら個室に案内した。
「私、当店のフロアーマネージャーの緑川綾子です」そう言って名刺を差し出した。
「新田美優です」
「新田由佳里です」
「お二人のご関係は?」
「義理の姉妹です」
「静内さんとのご関係は?」
「偶々旅行で知り合いまして、仲良く成って、良い美容院とエステが有ると聞きまして、貴女も出来るわよと云われまして」由佳里が美優さん何言っているのと言った顔をした。
「あー、そう言う事ですか?身分を証明する何かお持ちでしょうか?免許証とか?」
「免許証なら私は持って居ます」と由佳里が差し出した。
「私はクレジットカード位しかないです」と美優が言ったまた由佳里が変な顔をする。
「じゃあ、一応それでも見せてもらえますか?」
「はい」と云って差し出した。
それを持って奥に行ったので「どおして?」と小声で由佳里が言ったら,美優は素知らぬ顔をしていた。
由佳里は直ぐに,刑事の妻と判ると駄目なのだと悟ったのだった。
しばらくして緑川は出て来て「最近、静内様とは?」
「二週間程前に、私と義理の姉が此処に会員に成りたいと、特に姉の主人は貿易の仕事で海外に行くのが多いので、私も兄とは全く血縁がないのです、連れ子でして、今は東京で仕事を探しているのです」
「今は義理のお姉様の所に?」
「はい」
「今日は、折角ですから、髪をセット致しますので」、
「またご連絡お願い致します」
「正式の会員のご連絡は自宅にお手紙で会員証を送りますので」二人が案内された美容院には三人の客が居た。
「お荷物お預かり致します」そう言ってバッグを持って出ていった。
仕切りの有る個室の様な変わった美容室だった。
若奥様?
3-8
此処は犯人達の経営する商売のひとつだった。
デートクラブに近いシステムで浮気を目的に人妻を斡旋するのだ。
勿論人妻でない女性もいるが、統べて会員制に成っている。
男性は特に身分の高い会社の役員とか医者、議員、特に多いのは地方から出てくる議員と会社の社長、芸能人も使うのだ。
このサロンはその女性達を見極める場所なのだ。
紹介だからそれを目的に来ている女性が多かったが中には美優の様に何も知らないで、会員の紹介で,美容とエステと思って訪れる人もいるから、唯、美優は真由子が別の仕事で誘ったのを、それとなく云ったから、興味を持たれたのだ。
吟味して綺麗で納得した女性を赤坂の(出会い系デートクラブ若奥様)に登録するのだ。
真由子は以前からお喋りで客の話を他の客に喋って、クレームの対象に成った事が二三度有ったのだ。
その為今回の仕事に利用されて殺されてしまったのだ。
勿論エステで身体も調べる事が出来たから一石二鳥なのだ。
唯、女性客の目的が違う場合は困るのだが、今では四分の一の客は美容とエステだけで来ている。
高価だからそれなりには儲かるから良かったのだが、本来の目的の女性が必要で、需要が多いのだ。
男性客は殆どが一人の女性、中には一人の男性が三名と付き合っているお金持ちも居たのだ。
会員資格入会金五十万、紹介料十万、気に入らない場合は次の人が半額に成る。
一度紹介すると後は自由恋愛だが、殆どの女性から金銭の要求が有るのだ。
気に入れば一応その日はSEXまでは補償といったシステムに成る。
年会費十万を毎年払えば、次々と女性を紹介して貰える。
女性が不足した場合は断る事も有るのだ。
サロンの会員は女性を紹介すれば、お礼が貰えるから、紹介も結構するのだった。
特に真由子はお喋りで勧誘は多かったから、不思議には思っていなかった。
此処の人間には真由子が死んだ事は知らされていなかった。
このサロンと、本体のデートクラブの関係は一部の者しか知らないのだった。
シャンプーとセットだけしか、しないそれでも一万円の料金に成っていた。
ぼったくりだわ、そう思いながら美優は仕切られた個室に由佳里と別れて座った。
「可愛いですね、お客様は」と美優に美容師が言った。
「そうかしら」
「中々お綺麗で可愛いですわ、また次回も来て下さい、エステも有りますので」そう言いながら髪を洗ってセットをした。
二人の持ち物は統べて検査されていた。
不審な人間ではないか?を持ち物で調べていたのだ。
美優は携帯を入れてなかったから、殆ど身元の判る物は置いてきたのだ。
由佳里の持ち物には美優との写真とか、一緒に住んでいるらしき物を入れていた。
帰りに緑川がお二人様には無料のエステと美容室で使える券をくれたのだ。
「次回はカットでも、パーマでも使えます,エステもフルコースの券です、お待ちしています」と渡された。
「こんなの、頂けるのですか?」
「宣伝です、会員に認められたお客様の特典です」
「有難うございます」由佳里と美優は嬉しそうに帰って行った。
「美優さん、よくあんな嘘が言えますね」
「此処、怪しいわよ」
「そうなの?」
「変でしょう?シャンプーとセットで一万も払ったのに、フルコースの無料券って、十万以上よ、多分」
「でも、丁寧で上手な美容師さんだったわ」
「もう一度行く必要が有るかも」
二人の刑事が待ちくたびれて美優達の後に付いて行った。
清水聡子も入ろうとしたが断られたのだった。
「でも、よく静内順子って言ったわね」
「だってネットに書いて有ったから、一か八か言ったのよ」
「美優さんは勇気有るわ」
「昔の怖い経験に比べたら」
「そうね、銀行時代は怖かったわ、変態親子に弄ばれて」
「由佳里さんの持ち物で会員に成れたのよ、このサロンは何か有るわ?」
「また、変な事されたりして」
「そんな感じは無いわね、お金の匂いはするけれどね、もう一カ所付き合って」
「何処に?殺された飯田さんの奥さんがブティックで働いて居るのよ、他の人はみんな独身で飯田さんだけ三年前に離婚しているのよ」
「東北殺人旅行の事件ね」
「そうよ、警察が調べられない何かが判れば良いのだけれど」
「服買わないと駄目かな?」
「その時の気分で」そう言って笑った。
サロンでは緑川が店長の悠木元に「先程の二人美人でしたね」
「このサロンの客じゃないな、静内が例の仕事で誘ったと思う」
「そうですね、此処の料金を簡単に払える服装では無かったですからね、」
「次回来たら身体を調べて、誘ってみたら?」
「外見からはナイスボディでしたよ、特にボブの女の方は、まあ両方綺麗ですが」
この店では二人しかデートクラブの事は知らなかったのだった。
二人は一時間程で佐藤小夜のお店に着いた。
お客が居たので二人は店内を見て廻って時間が空くのを待った。
「お待たせしました、と店主がやって来た」
「佐藤さんに少し要件が有りまして」と美優が言うと店主が嫌そうな顔をしたので由佳里が「このスカート見せてもらえますか?」と言ったらまた機嫌が良くなって、「試着されますか?」
由佳里に美優が目で買うの?と合図を送ると由佳里は軽く頷いた。
助かるわと思うのだった。
しばらくして、佐藤の手が空いて美優の処にやって来た。
「ごめんなさい、」
「どの様な事でしょうか?」
「実は私先日の東北旅行に行っていた,野平と言います」
「ああ、前の主人と同じ名前の方がいらして、何かよく判らない話しでしたが?」
「それが、違いまして、実際は別人なのですが、住所も名前も佐藤さんが結婚されていた名前の夫婦だったのです、」
「それって意味不明ですね」
「今日寄せて貰ったのは、殺された三名の男性で奥様がご健在なのは佐藤さんだけなのですよ」
「えー、殺されたのでしょうか?」
「違います、もう以前に死別されていて」
「そうでしたか、びっくりしました、殺されるのかと思いました」
「それで立ち入った事を聞くのですが?ご主人と離婚された原因がお金の問題と主人から聞きまして」
「???」
「すみません、私の主人は静岡の刑事なのです、あの東北旅行で事件が起こると事前に投書が有ったので、一緒に同行していたのですよ」
「ああ、ようやく理解出来ました」
「別に私が刑事のマネをしなくて良いのですが、刑事には喋り難い事も有ると思いまして、私も実は狙われているようなのです、一緒に姉に付いて来て貰っているのです」
「それは怖いですよね、バスも爆破されたとニュースで」
「私、後五分降りるのが遅かったら死んでいました」
「怖いですね、」
「ですから、早く犯人の手がかりが欲しくて、唯一の奥様にお話を聞きに来たのです」
小夜は少し考えて「大体夫婦の離婚って浮気かお金の問題が八割だと思うのです、元の主人の店も商店街で時計屋をしていました。結婚当初は商売も順調だったのですが、デスカウントの店が郊外に出来て、それに携帯の普及で時計を持つ人が減って、時計以外の品物も販売する様に成ったのですが、主人が私に内緒でサラ金に手を出していて、催促の人が店に来る様に成って、判ったのですが、それで喧嘩に成って,別れたのです、」
「成る程、それでも時計屋を亡くなるまでされていましたよね」
「別れてから、お金を何処かで用意したのか、どの様に成ったのか判りませんが、商売はしていましたね」
「そうでしたか、有難うございます」と会釈をして美優は店を由佳里と出た。
「お姉さん、ごめんなさいね、出費させて、」
「いいのよ、美優さんには高いワンちゃん頂いたから、先日も交配の申し込みが有って、儲かったから」
「雄だったよね、イチは雌だから」
「凄い血統なのだってね、話しを聞いてびっくりしわ、行きつけの犬の美容師さんがこの犬高いでしょうと言ったので,貰ったのと話したら血統書が有るでしょう、見せて下さいと言われて、持って行ったら,直ぐに申し込みが有ったのよ」
「そうなの?」
「半端な交配料じゃあ無いみたいに聞いたわ、子犬が生まれたらまた貰えるみたいよ」
「まだ子犬産まれてないのに?」
「そうよ、このクラスの犬は交配料と子犬が生まれたお礼は別なのだって」
「幾ら貰ったの?」由佳里は指を三本出した。
叔母さん狂っていた筈ねと苦笑いをしたが、凄い犬だったのだと改めて感じた。
美優と警察の違い
3-9
二人が歩いていたら「野平さん-」と佐藤が追いかけてきた。
「どうしました?」
「ひとつ忘れていました」
「何を?」
「別れた主人が、サラ金で困っている人達と別れた後共同で何かしていたと聞きました、助け有っていたのかも」
「態々すみません」
「思い出したらまた、連絡しますわ」そう言うので、携帯の番号を書いて手渡したのだった。
「野平さんも気を付けて下さいね」
別れた主人とは云え、亡骸を見るのは辛かったのだろう、子供には父親に違いがなかったから、美優は会釈をして佐藤と別れて帰って行った。
尾行の刑事から今日の美優の行動が佐山に報告されて、会員制の美容サロン若奥様の件と佐藤小夜に会った事が報告された。
何故一度警察が調べた佐藤に美優が再び会ったのか?
美容サロンは既に一平から聞いていたので調べていたが、高級美容エステのサロンで中々一般は行けないサロンだと調べていた。
その夜一平が、「あの若奥様サロンって、中々入れないのに、よく入れたな」と聞いた。
それは清水が断られたのに、美優が入ったからだ。
「私ね、あそこ怪しいと思うのよ」
「何故?次回の無料券くれたから」
「何故?」
「これ十万以上するのよ、簡単に貰えるのって変でしょう」
「それより、会員でない美優が何故?」
「それはね,静内順子さんの紹介と云ったからよ」
「誰?その人」
「真由子さんよ」
「あの偽夫妻の殺された岡田の妻役だね」
「多分ね、怪しいから、侵入捜査が必要ね」
「どうやって入る?」
「普通に行っても高いだけよ、私も体が綺麗で、若い人なら何かつかめるかも」
「女性の美人刑事か?」
「居ないでしょう?」
「私に任せなさい、でも急に行くと怪しまれるから二週間以上先に成るけどね」
「そんなに待てないなあ」
「じゃあ、警察で考えなさいよ、静内順子の紹介で行けば入れるわ」
「課長に相談してみよう」
「それより、亡くなった三人の過去の事判る資料ってないの?」
「過去って?」
「五年位前かな?」
「調べてないだろうな」
「通帳のコピーとかは?」
「通帳?何で?お金貰って殺される人はいなよ、殺す人はいても」
「違うの、お店の経営状態が判るでしょう」
「それと今回の殺人事件と結びつくの?」
「判らないけど、知りたいの、探してきて」
「美優の頼みだから仕方無いなあ」
「お風呂入って寝るわ、疲れた」
「僕が今夜は疲れてないよ」と張り切る一平に「じゃあ、警察のみんなに判らない様に先程の資料貰ってこられる?」
「はい、お風呂行こう」と喜ぶ一平だった。
翌日捜査課長に美優のサロン若奥様の話をすると、「二週間も待てない、誰かを投入しなければ」手がかりもなく上層部から苦言が続いていたから持田課長も窮地に成っていた。
犯人一味は静岡県警に恨みを持って居るのは明らかなのだが、原因が判らないのだが、唯、美優と一平には警戒をしていた。
それは自分達の顔を見ている事が心配の種だったと思ったからだった。
美優も心配はそこに有って、もしもあのサロンが敵のアジトだった場合、自分の顔が露見する可能性が有ったからだ。
女は髪型と化粧で多少は誤魔化せるが、多分先日は旅行に行った連中が居なかったから、良かったのだが、今度は危ないかも知れないと思っていた。
髪が伸びて多少イメージを変えなければと思うのと、直ぐには行けないのだった。
持田課長が婦人警官の早乙女百合に白羽の矢を立てたのだ。
殆ど事務をしているが、可愛いくて若いのが決め手、栗色の長い髪で警察官らしくなかったからだ。
清水は一度行ったので顔が知られていた。
もう一人は交通課から森本咲子を選んできて、別に捜査をする訳では無かったから安全だろうと考えられていた。
翌日二人は東京に向かって、本間刑事が同行して行った。
中には入れないが一応待機するのだが、緊急時には飛び込む予定だった。
真由子が此処と関係が有るとしか全く判らないから、何とも準備が出来なかった。
一平は捜査資料の中から通帳を探していたが、中々見つからなかった。
唯、信用金庫との取引を示す書類が有ったので、信用金庫に向かった。
偶然か?三人共同じ信用金庫に口座が有ったのだ。
過去の取引履歴を三人分手に入れて、美優は何を発見したのだろうと眺めていた。
過去五年分も出してくれたので枚数も数十枚に成っていた。
早乙女と森本が(若奥様サロン)に入ると緑川が応対した。
「此処は会員制ですので、何方かのご紹介でしょうか?」
「静内順子さんに紹介して頂きました」
「いつ頃でしょうか?」
「三日前です」
「ああ、それでは中にと応接に案内された」
「身分証明書なぞお持ちですか?」
「はい」と二人は運転免許証を差し出した。
「お仕事は?」
「彼女はデパートで私は区役所です」
「お二人とも独身でしょうか?」
「はい」
「正式会員に成られますと,自宅に会員証をお送り致します」
「今日はカットとかはして頂けるのでしょうか?」
「通常紹介で来られた方はシャンプーとセットで次回からですが、本日は特別に切らせて頂きましょう」
「エステも今日は駄目なのですか?」
「会員でない方はお高いですが?」
「私、アロママッサージが良いわ」経費を貰っていたので調子に乗っていた。
「それでは、カットの早乙女様はこちらに」
「はい」
「マッサージの森本様はシャワールームに」二人は、エステと美容院を一緒に調べ様と欲張っていた。
「お荷物はお預かり致します」と二人のバックは持って行かれた。
シャワールームは豪華な作りで流石は高級店だと森本は満足していた。
「バスタオルを巻いて横のお部屋のAの個室にお入り下さい」
「はい」と係の女が言った。
一方早乙女は個室でカットをして貰っていた。
技術は一流で早乙女は満足していた。
森本もマッサージを受けて充分満足をして個室を出た。
「会員の審査を通過致しましたら、会員証をお送りいたします、早乙女様が五万、森本様が七万でございます」
二人は顔を見合わせて高いねと目で合図したが、仕方が無かったので支払って帰ったのだ。
「気持良かったけれど,高いね」
「どう?私のカットは?」
「綺麗けれど高いね」と言いながら出て行った。
緑川にはもう連絡が入っていた。
静内順子が亡くなったと、最近の紹介は警察の調査だから気を付ける様にとの連絡が有った。
美優は二ヶ月前と言っていたから,デートクラブから連絡が有ったが該当者には入らなかった。
この二人も三日前と言わなかったら怪しまれなかったのだが、美優はその辺りを考えていた。
彼女達の持ち物もデパートとか区役所の匂いがする物も入れてなかった。
免許から直ぐに警察の人間と見破られていたのだった。
「高い、高い、サロンでした」
「これが領収書です」と夜遅く差し出したのだった。
「間違いか?静内順子はサロンの客だっただけなのか?」
「その様です」二人は高いカットとエステにご満悦で帰って行った。
持田課長のショックは測り知れなかった。
「美優、これ銀行で貰って来たよ」
「ありがとう」
「一カ所しか判らなかった。不思議に三人とも同じ青空信金を使っているのだけ判ったから、本店で貰って来たよ」
「そう、素敵」と美優が一平の頬にキスをした。
「嬉しそうだね、良い事有ったの?」
「一平の今の言葉よ」
「?????」
一平には何が何なのか判らなかった。
美優には狙い通りの結果が嬉しかったのだ。
3-10
「一平ちゃん、この五年間でね、静岡で起きた大きな事件、殺人以外も含めて調べてくれない?」ベッドの中で美優が言った。
「五年前の美優の身体は判らない」
「馬鹿!直ぐに触る」
美優の乳房を揉む一平「あっ、駄目真面目な話しよ」
「終わってから」そう言いながらキスをしている一平、
「まだ、子供作らないから、着けてよ」そう言いながら愛し合う二人だった。
相性が良かったのだろうか?仲が良い,イチが「ワン、-」と鳴くのが面白いのだった。
二人がSEXをするといつも同じ鳴き声を出すのだった。
しばらくして「私ね、この事件は県警に対する挑戦だと思うのよ、だからこの五年の間に静岡県警が関わった事件が関連していると思うのよ」
「。。。。。」
「何?寝たの、もうー」
「グーグー」と鼾をかいていた。
「こりゃ駄目だ、シャワー行こう、またゴム着けてない,馬鹿」と言いながらベッドを抜け出す美優だった。
「イチ、いつもお前変な鳴き声出すね、人間のSEX判るの?彼氏が欲しいのか?」と頭を撫でるのだった。
シャワーを終わってテーブルで一平が持ち帰った資料を見る美優だった。
入出金に同じ名前の欄に蛍光ペンでマークを付けて、飯田の分で眠く成って終わったのだった。
翌朝「一平君、昨夜の話し調べてよ、県警に対する犯人の挑戦なのだから、今回の事件は」
「本当かな?」
「態々、投書とか、座席にあの様な紙を置かないわよ」
「大きな事件ね、美優がいたぶられた銀行事件?美優と初めてSEXした事件だな」
「それって私の身体の事件ばかりじゃないの、また私が狙われるの、喜んでいるの?」と怖い顔をする。
「他に何か無いかを調べて欲しいの」
「判りました」
「それとね、本物の旅行参加者で行ってない四組の口座って調べられる?」
「難しい、のじゃないかな?」
「そうか、これが判れば解決するかも知れないわよ」
「本当に!」
「うん」
「持田課長今、窮地だから、無理してでも調べるかもな」
「青空信金の取引が有るか?五年間の記録が有れば尚更良いわ」
「青空信金に口座が有るかは電話で聞いて見るよ」
「お願い」
「また信金か?エロの理事長が登場するの?」
「馬鹿!」
「じゃあ何が?」
「アホの刑事はもう登場しているけれどね」
「刑事の失敗が事件の正体か?」
一平を指さして「君よ!」
「こら、俺を馬鹿扱いしたな」と追いかけると逃げる美優「ワンワン」騒ぐイチ、玄関で捕まえてキスをする二人に,イチが「ワーヲ」と鳴いたのだった。
一平は四組の大竹、佐藤、柏木、篠田に電話で青空信用金庫に口座が有るかの確認をした。
すると美優の読み通り統べての人に口座が有ったのだ。
それを美優に連絡すると「やっぱりね」と言った。
一平が出てから資料に蛍光ペンで記しを付けて、「他の人の口座が判らないかな、イチ」と犬に話しかけていた。
(若奥様サロン)の悠木にデートクラブの陣内彰から「何とかバイトの女性を見つけてくれないか?最近は変な趣味の金持ちも多くて、女の子が嫌がるのだよ」
「断っていたのでは?」
「上客でね、中々断れないのだよ」
「どの様なタイプですか?」
「Mの女の子が好みとか、アナル趣味とか変なのが居るのだよ」
「先日も少しよい子が来たのだけれど、警察の手先だったから、静内順子の件で調べに来た様だ」
「会長の命令だったから、仕方無かったのだろうが、警察に来られると迷惑だよな」
「会長の怒りは相当な警察嫌いだからな」
「順調な仕事が潰されたから、怒りは判るが、今回の件は警察も必死だろう」
二人の仕事も会長橋間一彦の傘下のひとつの事業だった。
DIDグループと云う組織の会長に君臨していた。
儲けの多い仕事なら直ぐに始める社会派暴力団と呼ばれる組織なのだ。
一見会社だが、中身は暴力団と殆ど同じなのだ。
表舞台には登場しないからBT企画がサロンを経営していたのだ。
外部からは全く関係が見えない仕組みに成っていた。
持田課長は焦っていて、予想した通り森本にも早乙女にも会員証は届かなかった。
しかし警察の捜査の事を聞いた会長の橋間はまた警察を愚弄してやろうと考えたのだ。
「遊んでやれ」と命令をするのだった。
数日後早乙女百合と森本咲子に会員証が届いたのだ。
持田は喜んでこれで突破口が開けたと、遊ばれているとも知らずに、二人が揃ってサロンに行くと「お待ちしていました、本日はエステですか?」
「はい」二人が嬉しそうに言うと「年会費五万頂きます」と云われて「カードでも?」
「宜しいですよ」
「エステは先日のアロマでしょうか?」
「全身脱毛エステも有りますが?」
「お値段は?」
「五回セットで三十万です」
「月に一度でしょうか?」
「そうですね、その様な間隔ですね」
「どれにしようかな?」
「森本様は先日のマッサージの時に産毛が多かった様に思います、と係が申しておりました」
「そうなのよ、」と考えていたが「トイレ何処でしょうか?」
課長に確認しなければと思い森本はトイレに駆け込んだ。
説明を受けた持田課長は、「それなら毎月、行けるから、何かが判るのでは?」
持田課長は費用よりも事件の解決の糸口が欲しかったのだ。
戻ると「二人共それでお願いします」
「えー、」と早乙女が驚いた顔に成ったのだった。
捜査本部では一平が持田課長に美優の頼みで有る、四組の口座照会をお願いしていたが、中々持田も良い返事をしなかった。
「君の考えで,他人の口座の情報を公開できない、その四組は名前を使われただけなのだろう?」
「はい、でもどうしても妻が、これが有れば事件の実態が判ると云うので」
「何!君の奥様の意見か」
「はい」
「それを、早く言いなさい、それに、事件の実態が判ると言ったのか?」
「はい、その様に」
「判った、何とかしよう」と急に態度が変わって自ら刑事を伴って青空信用金庫の本店の理事長室に行ったのだった。
エステの二人は「恥ずかしかったわね」
「まさか、つるつるにされるとは」
「それにレーザー、チクリと痛かった」
「後四回も行くの?」
眉毛と髪の毛以外を統べて剃られて、レーザーで処理されて、長時間に疲れた様子だった。
緑川が「あの二人、びっくりして帰りましたね」
「ご苦労さんな警察だ、税金の無駄使いに無駄毛の処理か」と店長と大笑いをしていた。
「この前の二人中々来ませんね」
「まだ二週間だから判らないけれど、あの二人はデートクラブで使える上玉だったな」
「主人が貿易会社で海外に出ている時に来るのかも?」
「今度来たら,陣内さんの望みの女性か調べないといけないからな」
「上客の趣味に対応するのも大変だな」
「ほんとうね」
「先程の警察の二人また来るでしょうか?」
「何かを見つけるまで来るのでは?」
「静内順子の事件とは関係無いのにね」と二人は笑うのだった。
県警に帰って森本と早乙女は「何も有りませんでした、」
「涼しい感じがします」と意味のない報告しかなかったのだった。
一平は資料を貰ったので自宅に届けに戻っていた。
「美優ちゃん、」
「一平仕事さぼっているの?」
「違うよ、美優の希望の口座控え貰って来たの」
「おお、素晴らしい、やるわね、名刑事」と抱きついた。
「不思議に全員に口座が有ったよ」
「やっぱり」美優は納得顔になったのだった。
3-11
事件の進展が有ったのはその後直ぐだった。
ツアーコンダクターの町田が水死体で、池から見つかったのだ。
もう死後相当経過していたのだ。
ブロックで繋いでいた紐が外れて浮かんできたのだ。
これで八人の被害者が出たことに成った。
美優は貰った資料から七組の共通点がひとつだけ有る事に気が付いていたが、それが何なのか?が理解出来ないでいた。
それは七組全員がサラ金DIローンの顧客だと云う事だった。
ネットで調べても存在しないサラ金業者だったから、美優は何故七組の中の三人が殺されて、旅行の全員が偽物なのか?それが判らないのだった。
殺された五人の内、運転手と町田はみんなの顔を見たから殺された。
自分達二人が犯人は警察の人間と知っていた。
これは警察への挑戦だと解釈していた。
妻役を演じた三人の女性で美代役は茜でスナック千鳥の加藤美弥子の二人は死亡、もしかしてこの加藤美弥子も青空信金?
小夜役のデリヘルアロマのめぐみは多分偶々雇われた。
すると手がかりは静内順子の(若奥様サロン)だけが糸が繋がっている気がしたが、今度は自分の顔を知っている人が居るか?
危険が有るって由佳里義理姉の助けが無いと進まない、自分の危険は仕方が無いが、由佳里義理姉が心配だった。
一平が帰ってきたので「サロンの調査は進んでいるの?」
「二人が二回行ったのだが、高い会員権と全身脱毛エステを五回受けるコースを一回受けて、身体が涼しいとか言っていた」
「昔、一平と初めて結ばれた時の様に成っちゃうのよ」
「パイパン?」
「そうそう、顔の産毛も全身よ、だからすべすべよ」
「私剛毛だから、脱毛は多分痛いのよね、レーザーで毛根を焼くのね」
「僕は気に成らないから」
「そんな問題じゃないのよ、敵の懐に飛び込んでいったら、今、美容とエステの無料券が有るから,綺麗に成るのだけれど」
「今以上に綺麗に成るの?」
「成る、成る、私毛深いから綺麗に成るのは良いのだけれど、不思議だと思わない?」
「何が?」
「警察の女性が行ったら、もの凄く高い会員権とエステ代払ったでしょう?」
「そう言って課長がぼやいていたよ」
「私達は無料なのよ、変でしょう?」
「ずーと?」
「一回だけれどね、会員権も無料よ、だから警察だって見破られていると考えた方が良いの」
「成る程、」
「でも課長に言ったら駄目よ、一平が嫌みな奴に成るから、放って置けばいいわ、何もしないでお金だけ取られるから」
美優には手に取る様に判ったのだ。
「今、悩んでいるの」
「何を?」
「乗り込むか?旅行の時の人がもし居たら、私は逃げられなくなるでしょう」
「あの人達が犯人なら」
「だから今、髪伸ばしてイメージ変えているのよ」
「それで、いつものショートボブにしてないのか」
「そうなのよ、だからもし行って知らない人だけなら、イメージチェンジでショートにするとか考えないとね」
「警察の二人では先に多分進まないのか?」
「私一人ならどうなっても良いのだけれど由佳里姉さんが心配なのよ」
「そうだね、由佳里さん心配だね」
「明日聞いてみるわ」
その夜の二人は「美優は毛深いから情が有るのだね」そう言いながら抱き合っていた。
「変身しちゃうから、びっくりするよ、あっー一平感じるわ」イチが変な鳴き声をあげるのだった。
翌朝「一平ちゃん、加藤美弥子の口座も調べて見て」
「先日から口座調べているけれど何か判ったの?」
「多少判ったのだけれど、まだ結びつかないのよ」
「そうなのか?判らないのに、課長に言うのも危険だしね」
「佐山の叔父さんは?」
「仙台と青森に行っているよ、バスの爆破の件と各旅館の事を調べに、地元の警察に助けて貰って」
「そうね、消えていった偽物達が何処に行ったかだよね」
「最後の四組は別にして、三人の偽物だよね、」
「四組は奥入瀬で消えただけだから、今の処犯罪者じゃないからね、でも三人は完全に犯罪者だからね」
美優はサラ金DIローンと青空信金の関係、過去の事件にこの事件の謎が有る様な気がしていた。
糸口は静内順子なのか?困惑の美優だった。
サラ金DIローンが今は存在していない事が美優を混乱させていた最大の原因だった。
ネットで調べると社長の河野洋祐は三年前業績不振で会社が倒産で自殺の成っていた。
河野と青空信金の関係も全く判らない状態だった。
美優の写真を元に佐山は三人を探していた。
有力な情報が佐山に入ったのだ。
秋保温泉に初日に泊まったと言っていた飯田の偽物の男が八時過ぎの新幹線に乗車したらしい、監視カメラで確認すると確かに上りの新幹線に乗車していたのだ。
一平の報告では翌日体調を壊して旅行をリタイアしていて、妻役の小夜だけが中尊寺まで一緒だったと聞いていたから、この偽男でも充分に二人を殺害出来ると考えたのだった。
この犯罪は役割分担でお互いがお互いを知らないのかも?
そう考えれば繋がるのでは?佐山はその様に考える様に変わった。
全員が最初から計画を立てて行動するのではなく、個々が役割を与えられて,実行するそうすれば、万一逮捕、失敗が起こっても何も判らないのでは?
少なくとも飯田の偽物は時間的に可能だ。
宴会を抜け出して熱海で飯田光夫を殺害して戻って小夜役のめぐみを殺害する時間は充分に有る。
佐山が一平に電話をした「飯田の偽物が秋保温泉の出発時にリタイアしたと言ったな」
「はい、ツアーの町田さんがその様に」
「では飯田が居ない事に気が付いたのは何時だ?」
「そこまでは、見ていません、美優なら知っているかも」
「美優さんに聞いて見る」
直ぐに佐山は電話をして自分の考えている事と実際の監視カメラの話しをしたら「叔父様、私が飯田の偽物が宴会の席に居ないのに気が付いたのは七時半前位だったと、もう少し早くから居なかったと思いますよ、それから小夜さんの偽のめぐみさんは多分昼前には居なかったと」
「ありがとう、私の考えがひとつ実証されたな、」
「後の二人も?」
「可能性が高いな」
「私も思い出してみます」
「何か思い出したら教えてくれ」
「はい」
美優は佐山の話で今回の事件は鵜飼いの鵜の様な事件?
犯罪者達は全員が鵜の様な存在なの?
そう言われて見れば、全く全員の親近感が無かった。
旅行の途中からは多少は有ったが、全員が共同で殺人をしている集団には見えなかった。
各自自分で調達した偽の妻を殺して、本人も殺した。
後の四組もそれでは、奥入瀬で消える為に誰かが個々に雇った?
ヨーイドンで消えた訳では無いから、青森県警も探せないのか?
じゃあ、夫婦も別々に雇われていた可能性が有る。
あの殺された三組の夫婦だけが静岡駅で会う前から知り合い?
他の四組は集合場所の近くでその日に会った?
美優の推理がドンドン広がっていった。
すると、あの四組の夫婦を捜すのは困難だ。
殺人は統べて、ツアーとは関係の無い場所で発生しているから、バイトで集まった人が怖がる心配は全く無い。
そして順番に人が減りますよと事前に言われていたら、自分の番まで待てば良いだけ、不審は無いだろう?
旅行社がサクラの客を入れているのですよ、ツアー客を集める為にとでも、云えば不信感は無いかも?
頭が良い奴だな、この犯人、三人の犯罪者?爆弾は?事前に時刻を合わせて、荷物として運ばせる?
あの爆破の時刻は普通なら浅虫温泉近くで爆発か?
待っていたら駐車場での爆発で私と一平、町田と運転手は死んでいた。
町田が殺されたのは住所が調べられたから、私達は偽の住所だから探せないか、私達も雇われた人に成っているのか?
座席の紙は全くの別人が置いたのか?
少なくともツアーの参加者は私達を警察とは知らなかった。
美優は後の二人の事を思い出そうとしていた。
3-12
流石は佐山さんだわ、よく見つけたわね。
岡田さんの偽物は花巻温泉に到着して直ぐに居なくなる事が出来たわ、真由子さん役の静内順子は七時頃までは旅館にいたわね。
奥野さんはお風呂で美代さんには会ったわ,朝まで居たと町田さんは言っていたな、でも奥さん美代さん役の茜さんだけが朝まで居たかも知れないわ、誰か大きな荷物持っていたかな?
美優は一応思い出した事を佐山に電話で伝えた。
「大体時間が会うな、変だと思っていたのだ、殺すだけなら静岡で殺せば良いのに変だとね」
「みんな、自分で自分を殺したのね」
「その様だ、爆弾は荷物入れの爆弾だったよ、仙台に乗る時に載せたのだろう、浅虫温泉まで使わないか、十和田まで使わない撮影道具だとか言って置けば運転手は降ろさないからね」
「私、佐山さんの推理の延長なのですが、奥入瀬で消えた四組全員バイトみたいな感じで他人だったのでは?と思います」
「美優さん、それかも知れない、十和田湖から全く判らないから、全員が個別行動なのかも、青森県警は四組とか夫婦で探していたからね」
「話し変わるのですがサラ金DIローンって知っていますか?」
「サラ金DIローンが何か?」
「ご存じ無かったら別に良いのです、また旅行の事判ったら連絡します」
「頼むよ」佐山さんも知らないのか、そんなに大きな事件じゃ無かったのだ、と思った。
由佳里姉さんに電話してみよう「もう、一ヶ月以上経過するから、もう行かないのかなって思っていたのよ、丁度良かったわ、美容院に行こうかと考えていたから」
「そうなの?それじゃ明日でも予約して貰えませんか?」
「賢一さん出張なの,丁度母が来るからいいわ」
電話を切ると同時に一平が「佐山さんが手がかりを見つけたらしいね」
「その様です」
「応援に行かなければ成らないので、出張の用意して置いて、明日早く行くから」
「判ったわ」
一平の電話の後、そうだ、イチを坂田さんに預けて行こう、明日お姉さんの処に泊まらなければ、美優はイチを積んで車で熱海に出掛けて行った。
「また、お願いしたいのですが?」
「良い、タイミングね、今日頼まれたのよ」
「何を?」
「雄のトイプードルのお相手を」
「シェリーは?」
「もう年齢が」
「そうなの、いいわよ」
「助かったわ」
「じゃあ、一週間程預かるわ」
「イチお婿さん決まったね」と頭を撫でると喜ぶイチだった。
翌日朝「今日、変身しちゃうから、帰って来たらびっくりするよ」
「例のつるつる、美肌か?」
「そうよ、姉さんと今日行くのよ」
「気を付けろよ」
「旅行の人は多分居ないから、安心よ」
「そうなの?」
「佐山の叔父さんの推理だと、個別犯だって、私もそう思うの」
確かに旅行後の美優を見ていたのは座席に紙を置いた男だったが、旅行の後は役目が終わったのか、もう消えていた。
旅行の後の行動を一日二日監視が役目だったのだと思うのだ。
一平が出掛けてから、携帯とか身分の判る物を別のバックに入れて、美優は出て行った。
姉、由佳里の家にバックを置いて、二人で昼食を食べに出掛けてそのまま行く事にした。
レストランでサロンのエステのカタログを見ながら「どれにする?一杯コース有るわよ」
「エメラルドコースの無料券って何かな?」
「どれを見ても高いのにね、美白、脱毛、痩身プラスリンパマッサージかな?」
「ソニックって超音波?」
「バストアップも有るよ」
「でも、髪もすると、三時間以上ね」
「無料にしては良すぎるわ」
「脱毛は一回では駄目だから、次からお金取られるからね、中々高く成るわね」
「ワンちゃんの交配料入ったから使っちゃおうかな」
「沢山?」
「びっくりした」
「最高の血統だからね」
手を広げて「えー!凄い五万」って美優が言うと「馬鹿ね、ひとつ多いわよ」「ぎえー」と呆れかえるのだった。
その頃緑川と店長が「先に打診してからにしますか?」
「調べてからにしょう、どうせ、前回の話しだと、それが目的の様な話しをしていたから」
「陣内さん見物に来ると言っていましたよ」
「あの人その方面はプロだから、よく判るよ」
「何をします?リンパマッサージと痩身に美顔、全身脱毛まですれば、三時間は必要ですよ」
「半分は寝ているだろう」
「髪までだと半日ですね」
「上玉だから、サービスするか、稼いで貰わないと困るからな」最初に美優が仄めかした言葉が二人には残っていた。
静内順子の様にデートクラブで働きたいのだと思っていた。
デートクラブの今、必要な人材なのかを調べなければ成らないのだった。
一時過ぎに二人がやって来た「お待ちしていました、店長の悠木と申します、早速ですがこちらに」と応接室に案内した。
「本日の無料コースの説明をさせて頂きます」
「はい」
「全身の無駄毛処理、リンパマッサージ+痩身、美顔です、それにお好みのヘアースタイルに、パーマとか染めると夜迄掛かるかと思われますが、エステが180分です」
「凄いですね」
「脱毛につきましては,後ほど、緑川が説明致します」
「お姉さんは染めないでしょう」
「染めないわ」
「お二人とも元がお綺麗ですから、終わられたら見違えますよ」
「お上手ね、店長さんは」
そこに店員がハーブティを持ってやって来た。
「当店が本場から購入しました、無農薬のハーブティです」素晴らしい匂いが部屋に漂った。
「良い匂い」
「何杯でも、異なる香りのもございます」
その匂いだけで綺麗に成った気がする二人だ。
「それでは緑川に変わります、エステの後か美顔が終わってから髪を整えますので」そう言って悠木は部屋を出て行って、緑川が入って来た。
二人はハーブティを飲んで「良い香りだわ」
「美味しい」
緑川が「異なる味と香りも飲まれますか?」
「後で頂きます」
「ご用意致します」
「脱毛の説明ですが、ご存じかと思いますが大体五回位続けなければ効果が戻ってしまいます、お見かけした感じでは濃く無い様な」
「いいえ、二人共部分的剛毛ですわ」そう言って笑った。
「レーザーで毛根を焼きます、陰部は形を整える為に、一度目は統べて、綺麗にしてから、レーザーをします、二度目からはレーザーの部分だけを処理しますので、綺麗に成って形が整います、他の部分はそんなに毛根が太くないので簡単に処理が出来ます」そう言いながら女性のイラストの用紙を差し出した。
「どの様な感じに整えたいのか、書いて貰えませんか?」
二人が書いていると二敗目のハーブティを持って店員がやって来た。
先程とは全く異なる匂いが漂った、イラストの紙を差し出すと「判りました、係の者に渡して置きます、」と紙に美優と由佳里と書いたのだった。
「これが髪型のカタログですが、どの様に?」
「これも、美味しいですね」
「良い香り」と二人は二敗目を飲み出したが、二時間から三時間は意識が朦朧と成る位に媚薬効果が高く中には眠ってしまう人も沢山いる薬が混入されていたのだ。
それは気持が良いと思わせる為でも有った。
「これにしようかな」と由佳里がカタログの写真に指をさすと「妹さんはショートボブがお似合いでしたが?」
「少しイメージチェンジしたいのでお任せします」
「はい判りました」
二人を着替えのロッカールームに案内して「そちらにシャワールームがございますので、バスローブで、個室にご案内いたします、美顔から致します」
二人は洋服を脱いで「相変わらずお互い濃いわね」
「お姉さんも私も、身体は毛多くないのにね」そう言いながらシャワールームに入っていった。
しばらくしてバスローブで二人が待っていると、ジュースを持って案内の係の女性がやって来た。
「高級店ね、設備もサービスも最高ね」
「有難うございます」と会釈をして、個室に案内した。
「お互いびっくりする位綺麗になるかな?」
「そう成ると、良いわね」
そう言って案内されたが、二人の個室は正反対に離れて居た。
美優が「離れて居るのね」と尋ねると「今、満員でして」と店員が笑ったのだ。
3-13
一平は佐山と合流していた
「ご苦労さん、美優さん機嫌悪かっただろう?」
「いいえ、姉とエステに行くと言って喜んでいましたよ」
「エステか?」
「あの静内順子の関係の有った処で無料券貰ったと」
「大丈夫か?」
「二人だから大丈夫なのでは?」
「よく判らない,高級エステだろう、署員が行って高い料金取られた」
「そうですよ、課長馬鹿ですよね」
美優に聞いた言葉を思い出していた、警察と見破られているのよ、
だった思わず笑った一平だった。
その頃個室で二人は美顔コースが始まっていた、
顔のマッサージから始まって,
保湿増強パック、スチーマーと進んでいた、気持良い、
美優は犯罪捜査を忘れる気分だった。
由佳里も首から顔のマッサージ、
そしてスチーマーと気持良いと感じていたが、
薬の効果で夢心地に成って来る時間が近づいていた。
顔が終わって、バスローブを脱いでバスタオルで俯せに成って、
「電気でリンパマッサージを始めますね」
背中、首、腰,尻、足といつの間にか、眠りも誘った気持が良かったのだ、
今度は仰向けに成って,胸、はら、腕、足と続く
「濃いですね」と係の女性が言った言葉が遠くに聞こえた、
もう完全に薬が効果を現して、
脱毛のクリームを脇に塗って引っ張っても反応が無くなっていた、
そこに陣内と緑川が入って来て係の女性は出て行った
「もう殆ど意識が無いです」
「濃いな」
『これから、処理します』
「俯せにして、尻を上げさせて」
由佳里を俯せにして尻をもち上げて、陣内が調べて
「この女は経験が有る、調教を受けている」
「そうですか?」
「下の処理は綺麗に整えるだけにして、使えなく成るから、
適当に言い訳を考えろ」
「もう一人はどうなのだ」
「それが、変なのです」
「変?」
「薬の効果なのか,敏感に成りすぎて、
くすぐったいと言ってリンパのマッサージを止めて
アロマに変えましたが、目がシャキです」
「そちらはもういい、この女でいけるから、後は交渉だな」
美優は笑い転げていた、係の人が困る程に、
「新田様、マッサージはこの辺で終わりにしまして、
髪の方に行きましょうか?」
「はい、そうします、何故かくすぐったくて絶えられません」
美優は元々感度が良いのに,二杯も薬を飲んだので効果が過激に成って、
美顔は静かだったが、リンパの脇腹、腰辺りから笑い転げ出して、
アロマに変更しても同じだったので係が困ってしまったのだ、
剃刀を使う作業が出来る状態では無かった。
「確かに効果が出すぎる人も時々居ますね」
「今後は考えないと」
悠木と緑川が話していた、美優はシャンプーで眠ってしまった、
「あら?お客様」起きない
「誰か頭を支えて貰えませんか?カットが出来ない」
二人がかりでカットをして、メイクをしていった、もう熟睡だった。
漸く由佳里が美容室の方にやって来て
「お肌が弱い様で危険なので、レーザーは中止しました」
「そうですか」もう由佳里は殆ど普通に戻っていた。
由佳里の髪型が綺麗に成って、メイクも終わった頃、
漸く「お客様」と言う言葉に美優が反応して目覚めた
「お疲れ様でした、あちらに飲み物を用意しています」
そう言われて立ち上がるとバスローブの上に
お人形が乗っている様な姿の自分が鏡に写った
「可愛い」と口走った美優だった。
緑川が美優に
「敏感な方でしたので、脱毛は出来ませんでした、危険でしたから」
「すみません、くすぐったくて絶えられませんでした」と会釈をした、
飲み物を飲みながら話していると陣内が入って来て、
緑川が出て行った
「初めまして、静内順子さんの紹介で働きたいとおっしゃる方ですね」
美優は来たと心で思った「はい」
「静内さんはデートクラブ若奥様に所属されていたのですよ」
「最近、会いませんが?」
「そうですか、最近店に連絡されませんね」
とお互いが嘘を言うのだった、
陣内は店のシステムを説明して、名刺を差し出して、
「決まりましたら是非、ご連絡を」
「はい、一度考えます」と美優が言うと
「主人が明日帰って来ますので,しばらくは」
と調子を合わせたのだった、陣内は残念と云う顔に成る
「前向きに考えます、その時は宜しくお願いします」
と美優が言ったので陣内は笑顔に成った、
美優は可愛かったのだ、
髪型もメイクも陣内のお気に入りに成っていたから、
二人は着替えて笑顔で帰って行った。
暫く歩いてから、「由佳里さんは脱毛したの?」
「綺麗に整えられていたわ」
「私はくすぐったくて何もしなかったわ」
「そうなの、残念だったわね」
「他に何か無かった?」
「私、気持良くて眠って居たわ」
「私はシャンプーで眠ってしまったみたい、だった、
あのハーブティに何か入っていたね」
「そうなの?私は気持良かったけれど、何も無かったと思うわ」
「何か目的が有ったと思うわ、でもこれで懐に入り込めたから、
携帯を用意して乗り込むかな?」
「これ以上は危ないでしょう」
「充分注意してね」と笑ったが、
美優も充分危険は判っていた。
一平と佐山は二人目と三人目の偽の岡田と奥野が
新幹線に乗った時刻を特定していた、そして切符から、
指紋を特定出来ないか?誰か前科の有る者が居ないかの捜査をしていた。
顔では中々名前を特定出来ないが指紋なら、
データとして残っているので、微かな期待が有ったのだ。
陣内が店に戻ると「羽田さんから電話が有りました」と従業員が言った、
陣内は嫌な予感がしていた羽田とはDIDグループの専務で、
マゾで時々新しい女性が入ったら紹介をするのだった、
今回も催促に違いなかった。
羽田が橋間と二人で沢山の組織を動かしているのだ、
一握りの人間だけがその事実を知っている、
陣内は本来なら知らないのだが、
この羽田の趣味の為に知る事に成ってしまっていた、
この羽田はSEXが出来ないのだが若い女性が好きで特に、
虐められたい人種だった。
会長の橋間はもう高齢でこちらは逆にサド趣味で、
女が女を虐めるのを見るのが趣味なのだ。
専務はまだ六十代だから、この様に時々要求があるのだった。
漸く佐山と一平が二人の男の名前を指紋から割り出して、
一平の「この男が飯田の偽物です」と叫んでいた、
元暴力団員の来島猛で前科が有った、
しかし何処に居るのか判らない、
同じく岡田の偽物も元暴力団員の前田政志だった。
二人共指名手配がされるだろう、しかし中々判らないだろうと思う、
佐山と一平だった。
静岡県警に戻って持田課長に報告すると、
予想通り指名手配の手続きに入ったのだった。
その夜、久々に一平が自宅に帰ると
「お帰り、ご苦労様」
と美優がいつもと異なる髪型とメイクで出迎えた
「おおー可愛いじゃないの、美優」と早速抱き抱えるのだった。
「お風呂入ろう、つるつる、お肌を見て見よう」
といやらしい目で言うと
「残念でした、何も変わってないわよ、髪と顔だけよ」
「何故?」
「由佳里姉さんも、綺麗に成っただけよ」
「どうして?」
「多分デートクラブで働くからじゃないかな?」
「えー、デートクラブで働く?二人が?」
「そのつもりよ、携帯も新しく買った」と見せた
「二台も?」
「これはクラブ用、これは自分の」
「本気で働くの?」
「此処まで飛び込んだのに、これからよ」
「危ないのじゃあないの?」
「優秀な警察には任せておけない」と笑うのだった。
3-14
「佐山さんと僕で、飯田と岡田の偽物は掴んだよ」
「そうなの?」
「元暴力団員だったけれどね」
「すると、手がかり無しね」
「そう、指名手配に成るけれど、中々だろうな」
「でしょう、そうなったら、静内の線が一番の近道なのでは?」
「お姉さんをこれ以上巻き込むのは危険過ぎるよ」
「私、一人だと網に掛かるかな?」
そう言って二人はお風呂に入った
「でも可愛いな、美優」
そう言いながら乳房を触る一平
「感じる-、マッサージの具合かな?」
と美優が言うと、尚更触る一平だった
「あれ?イチは?」
「お婿さんが決まったのよ」
「来週まで坂田獣医さんの処よ」
「じゃあ、今夜は鳴き声が無いな」
「一平ちゃん、種馬みたいね」
「そうなの?」
「だって。。。。」と言う美優の口を一平の唇が塞いだのだった。
翌日佐山が飯田の偽物の来島猛と岡田の偽物、
前田政志の資料を調べていて有る事に気が付いた、
何処かで聞いた名前だな?DIローン?そうだ!美優ちゃんが聞いたのだ、
我々より先に情報を掴んでいたのか?凄いな、とびっくりしたのだ、
そうだ、大きな事件?が無いか?
捜査課でない事件かも知れないと佐山は思った。
事件の資料を佐山は熱心に調べていった、夕方に成って
「これだ!」と叫んだ、DIローンが闇金として市民団体に告発されて、
倒産、社長の河野洋祐がその後に自殺で決着していた。
美優ちゃんが探していたのはこれ?何故?
佐山は美優に電話でその事件の内容を話した、
「叔父様、それだわ、今回の事件は」
「何故?」
「旅行の参加者の殺された三人は取引していたのよ、
他の四人も同じく取引が有ったのよ」
「じゃあ、何故?三人が殺されたのだ?」
「今、叔父様が話した、市民団体のリーダー的人がその三人ではないかな?」
「それで、河野の部下が復讐をした」
「多分、他の四人は単なる客で,資料が有ったので名前を使った」
「美優ちゃん、それ正しいかも、知れない、
早速殺された三人を調べて見よう」
「待って、そのサラ金と青空信金の関係も何か有ると思うわ」
「青空信用金庫か?」
「全員青空信金と取引が有るのよ」
「判った、調べて見よう」
佐山は明るく開けたと考えていたが、
美優はまだ裏に何か有る、もっと大物が居るのではないのか?と考えていた。
美優の推理の事件は静岡で約四年前に町の中小の商店に資金を融通していた、
青空信用金庫が途中で貸し金の取り立てをするか、金利を上げて、
サラ金DIローンに客が流れる様に画策していたのだ、
仕方無く借りたDIローンは高金利で困った借り主達が
飯田、岡田、奥野の呼びかけで一致団結をして、
マスコミを利用してサラ金DIローンを吊し上げたのだ
、一斉に報道されたDIローンは窮地に追い込まれて、
借り主が居なくなる、連日マスコミに叩かれて倒産、
社長の河野祐介は自殺で幕引きと成っていたのだった。
美優が考えたのはこの青空信金とDIローンを結びつけた存在が有って、
今回の事件を起こしたのではと考えていたのだ。
唯、先程の佐山の話で美優が納得出来なかったのは
前田と来島が同じDIローンの元社員だと云う事が理解出来なかった、
それなら二人は知り合いで、共同で殺人をしているからだ、
あの旅行の中の殺人は統べて単独犯だったから、
知り合いならもっと簡単に協力して、殺せたと思った。
それは夜一平が答えを持って帰った
「美優名探偵、佐山さんが感心していたよ」
「そうなの?唯、判らない事が有るのよ」
「前田と来島が同じ元暴力団でDIローンの社員だと云う事よ」
「それは、彼らは面識が無い筈、
前田も来島も暴力団が関西と関東だったし、
来島がDIローンを辞めてから、前田が入社しているから、判らないと思うよ」「じゃあ、計算されているのね」
「多分、鵜だからね」
「佐山の叔父様に聞いたのね」と微笑んだ。
「二人の職歴判るの?」
「来島はBT企画に一年程勤めて居たみたいだ」
美優の顔色が変わった
「どうしたの?」
「それって、多分由佳里さんと行った、サロンの会社だと思うわ」
そう言ってパンフレットを探しに行った
「一平ちゃん、これ見て」とパンフレットを差し出す
「本当だ」
「でしょう、だから、私がデートクラブに潜入するの、判るでしょう」
「この来島居たら、命無いよ」
「大丈夫よ、居ないわ、鵜だから」
「そうかな?」
「一平ちゃん、明日からね、BT企画とデートクラブを徹底的に調べて、
判ってないと,危ないでしょう」
「判った」
「明日、イチを引き取りに行くね」
そう言って、お風呂に入る二人だった。
翌日美優に由佳里から電話が有って
「催促が来たわよ、例のデートクラブから」
「私が取り敢えず電話してみるわ、
姉さんは今旦那さんが帰国中でと言って置くわ」
「大丈夫?一人で?」
「今の処は大丈夫だと思うわ」
その後美優は坂田獣医にもう暫くイチを預かって貰える様に頼んだのだった。
陣内は困っていた、専務の羽田の希望の女性が居ないから、
あの新田の妹ならサドを演じてくれるかも知れないと
考える様に成っていたから、催促の電話を由佳里にしていたのだ、
由佳里にはその方の客が待っているのだが、
兎に角今は羽田が問題だったのだ。
午後に成って美優が由佳里に聞いた番号に電話をかけた、
「新田の妹ですが?」
「待っていました、考えが決まりましたか?」
「いきなり、SEXは抵抗が有りまして、まだ思案中です」
「実はお願いが有りまして」
「SEXも無いし、多分身体も触らないと思うのですが、
上客が特別の人でして、お願いしたいのですが?」
「変態はもっと嫌ですよ、SMでしょう」
「明日にでも,この前のサロンに来て話しを聞いて、
駄目なら帰って貰って結構です、
もし、OKなら二時間程お仕事をお願いしたいのです、
お礼は破格の金額をお支払いします」
切羽詰まった話し方に美優がこれは大物に違いない、
話しを聞いても損はなさそうだと、思って
「何時に行けば良いですか?」
「来て貰えますか?助かります、用意と移動に二時間、
二時頃にお願い出来ますか?」
「判りました」大きなチャンスだと考えた、危険も考えていた。
羽田は日頃からグループの運営を任されて,
鬼の様な存在だったが、
女性のそれも可愛い女の子に虐められたいと云う願望が貯まってくるのだ、
一種のストレスの発散なのだ、
一度発散すると当分の間願望は無くなるらしい、
それが、今ピークに達していたのだ、
殺人事件を画策した疲れとその後の処理で、
だから陣内に何度も要求が有るのだ。
可愛くなければ陣内の命が無くなる程怖いのだ、
もし気に入れば,陣内の評価は大きく上昇して出世が有る可能性が有った。
佐山は青空信金を調査していた、
当時の理事長は槇恒夫六十五歳、現在は金融業の相談役の様な事をしている。
昔の仕事の延長で働いて居るのだろうか?
一度自宅を調べて見るのも良いかもと考えていた、
住所を調べると浜松に成っている、
美優ちゃんが云うDIローンとの繋がりが有るなら、
この理事長と亡くなった河野そしてもう一人誰かが居るのでは?
と考えていた、今回の事件と同じなら、
このサラ金も鵜飼いの鵜として問題が大きく成って
処理された可能性が高くなる。
一平が「美優が乗り込むと云うのです」
「何処に?」
「課長が森本さんと早乙女さんに行かせたサロンのバックに
デートクラブが有るのですよ、そこに」
「大丈夫か?美優ちゃん、命が危なくないか?」
しかし、警察の動きを敵が知っているなら、
ガードは逆効果だと佐山は思ったのだった。
3-15
翌朝「一平ちゃん、私が夜八時に成っても連絡の無い場合はデートクラブに乗り込んでね」
「判った,佐山さんと連携をして、準備をして置くから、危ないと思ったら逃げてね」
「判ったわ」そう言って一平は美優を心配そうにして出掛けて行った。
美優は約束の時間より少し早くサロンに到着した。
緑川が「陣内から聞いております、どうぞ」と応接に招き入れた。
今度はコーヒーが出された。
今回は以前の様な事は有るまい、と安心してのんだ。
「折角ですから、髪を整えましょう」
「陣内さんまだでしょうか?」
「車が渋滞しているので、出来る準備をと聞いております」
「顔と髪をお願いするわ」
「判りました」
美優は美顔マッサージを受けて,シャンプーをして、セットが終わった頃に陣内がやって来た,計算してきたのはよく判った。
応接で「報酬は三十万、新田さんが女王様に成って、客を虐めて、相手が云う通りにすれば良いのです、服装はシースルーでお願いしたいのですが」
「えー、見るの?」
「多少は見えるでしょうが,触りません,触りに来たら鞭で叩くのです、すると喜びますから、触らせてはいけませんよ」
「気味悪いですね」
「大丈夫です、日頃叱られる事の無い立場の人はそれが快感らしいのです」
「仕方が無いわ」
「そうですか、有り難い」
緑川に着替えを手伝う様に指示をして、「これを、着るの?殆ど見えるじゃないですか?」
「我慢して下さい,お願いします」
素肌に赤の編み目のシースルーのタイツに着替えて「凄い、格好ね」
赤いピンヒールを履いて,その上に直ぐに脱げるトレーナーの上にコートを羽織って完成、
「さて、行きましょうか、絶対に休めてはいけませんよ、触りに来ますからね」
「はい」都内のSMホテルに向かった。
部屋に入ると鞭と手枷、足枷を渡されて
「相手はマスクをしていますので、絶対に外さないで下さい、危ないですから、地位の有る人は見られると自分を守る為に何をするか判りませんから」
「はい」
「もうすぐ来ます、頑張って下さい」そう言って陣内は出て行った。美優の心臓は破裂しそうに成っていた。
もうすぐどの様な男が来るのだろう?
取り敢えず指紋だけは採取しなければ、そう考えていると,ドアが開いてマスクをした男が入って来た。
タイツの上のコートを脱ぎ捨てた。
「おおー、可愛い!」いきなり襲いかかってきた。
手がタイツに触る瞬間に,身体をかわして鞭で手を叩いた「わー、痛い」と喜んだ。
「嫌らしい手で触らないで」そう言ってお尻に鞭を二発叩くと「感じる-、女王様、ヒールを舐めさせて-」
「もっと丁寧に言わないか」
また腕に二発鞭を「ビシー、ビシー」と叩くと「ヒールを舐めさせて下さい」美優が赤のヒールを前に出すと、舐めるのだった。
「下手くそ」と背中に「ビシー、ビシー」
「お許しを」
このヒールを持たせて,指紋をと思った美優は「もっと丁寧に手で持って舐めるのだ」
「ビシー、ビシー」
「判りました」
油断をすると直ぐに胸とか、尻を触りに来る。
休む間がない時間が経過してゆく、流石に男は疲れてベッドに倒れてしまった。
「もう、終わりか」
「お許しを」
美優がベッドに疲れて座ると、一気に襲いかかってきて,乳房をわしづかみにしてきて、そしてベッドに倒されてしまった。
美優がとっさにヒールを脱いでお腹を蹴って「馬鹿者!」と大声で言った。
それが良かったのか「お許しを」と四つん這いに成る。
馬乗りに成って尻を叩くと嬉しそうに美優を乗せて動き廻って,疲れて今度は本当にベッドに寝てしまった。
「時間終了前です」のアナウンスに、男は目覚めて「また、虐めて下さい、女王様」とお辞儀をしたのでもう一発叩いたら,喜んで部屋から出て行った。
疲れたとベッドに倒れ込んだ。
眠りかけた時に数人が入って来て美優を立たせて数枚の写真を写して出て行った。
羽田が命じたのだ美優が気に入ったのだった。
トレーナーにコートを着てホテルのフロントに行くと「ご苦労さん」と陣内がお金の包みをくれた。
「この服装のまま、帰っても良いですか?着替えるのも疲れて」と言うとそれで良いならと美優の服の入った紙袋をくれたのだ。
駅迄送ってくれたので、そのまま電車に乗って帰って行った。
途中で座って眠って居た、完全に疲れたのだ、気持と体力の限界だった。
静岡の自宅にタクシーで戻ったのは九時に成っていた。
自宅に転がるように入った。
「美優、大丈夫」そう言って一平が駆け寄って起こした。
「大丈夫、ハイヒールを明日、鑑識に持って行って何か判るかも」
「判った」そう言ってコートを脱がして、トレーナーを脱がして「これって何?」
「そうよ、これが女王様の姿なのよ」
「殆ど見えるよ」
「ごめんね、こんなの着るとは思わなかったの」
一平はタイツを脱がして全裸に成った美優を抱き抱えてお風呂に連れて行った。
「ゆっくり、入って休んで」お風呂からあがったら直ぐに眠ってしまった。
翌朝美優は起きると「昨日はありがとう」
「疲れて居たね」
「そうよ、変態の世界は疲れるわ、二時間鞭を使うのだから、鞄にお金有ったでしょう?」
「見てない、そのまま」
「このお金も調べて見て」
「指紋か?」
『出るかも?』
「判った」
「持って行くよ」一平が出掛けると美優はまた眠ったのだった。
夕方の電話で目が覚め。
「美優、でかしたぞ、靴からの指紋の該当は無かったが、札の方から,奥野の偽者で木村剛が見つかった。
顔も確認したよ、もうすぐ、逮捕されると思う東京のサラ金アートの社長なのだよ」
「そうなの良かった」美優はこれで少しは本丸に近づくと喜んだ。
警視庁から木村剛を逮捕したと連絡が有ったのは暫くしてからだった、
明日身柄が静岡県警に送られて来る。
奥野大造、加藤美弥子、茜の三人の殺害容疑だと言っても、何処に証拠が有るのだと、開き直ったのだった。
翌日、静岡県警で野平一平に会ったら「あっ、お前は」
「旅行で会ってから久々だな、奥野さん」
「お前は刑事だったのか」
「さあ、色々教えて貰おうか?」
「俺は、何も言わないぞ」
「まあ、根比べだな」
「。。。。。」
佐山と一平が交代で聞くが中々喋らない木村だった。
警視庁はデートクラブの家宅捜査を実施したのだ。
それは売春容疑の名目で調べたのだった。
「しかし、美優ちゃんの勇気には驚きだな」
「はい、自分もびっくりしました、殆ど全裸の様なタイツにて鞭で叩かれて喜ぶのが,ボスらしいですよ」
「気に入られたのでは?」
「だってお金五十枚も有ったじゃないか?」
「そうですね、そうするとまた、お呼びが?」
「可能性が有るな」
「取り敢えず、そのSMホテルの調査を警視庁に依頼したよ」
「マスクの下の顔が見られれば、またまた、美優ちゃんの大手柄だな」
「煽てると、もっと怖い事しますよ」そう言って笑ったが、二人共美優の行動力と推理に感心していたのだ。
翌日、陣内が佐山の予想通り「新田さんをあの客が大層気に入りまして,喜んでいました」
「はい、沢山頂きまして」
「多分次回もお願いすると思います、お姉様はどうですか?」
「兄が身体を壊して入院したので、少し時間が掛かるかと、思いますが」と誤魔化した。
美優は由佳里に話しを会わせる様に直ぐに連絡したのだった。
3-16
木村はぽつり、ぽつりと話し出した。
「頼まれて、奥野大造を殺した」
「誰に?」
「それは、河野洋祐と名乗る男からだ」
「河野は自殺してもう居ない」
「旅行に行って、この様にして殺せと筋書きが来たのだ」
「お前は知らない人間に言われたら人を殺すのか?三人も」
「仕事をしなければ、俺が殺されるから、同じだ!」と叫いた。
木村は奥野と加藤と茜を殺した経緯を話したが、それは自分が誰かに殺し屋として雇われたとしか話さなかった。
当初の予想通りの結果だと佐山は思った。
これ以上木村は何も知らないだろう、だが翌日の取り調べで重大な事が判ったのだ。
それはこのサラ金アートの顧問に槇恒夫が居たのだ。
「任意同行で来て貰おう、繋がってきたな」
「鵜匠が登場するか?」希望が広がった。
槇は体調が悪い、を理由に入院をしてしまい、静岡から東京の病院に行く事になった。
佐山と一平が出かけたその日に槇は本当に発作を起こして亡くなってしまったのだった。
「消されましたね」
「その様だ」
「一応病院も調べて置いた方が良いかも?」
「平成病院、内科の入院、糖尿と心臓病の持病が有り」
「青空信用の病気の記録を明日調べよう」二人はそう言って帰らなければ成らなかった。
その夜美優が「マスコミで一度、東北旅行の四組を公開したら?」
「写真有るから、名乗り出るか?知り合いの問い合わせが有るのでは?」
「それは良いかも、明日話してみる」
「明日イチ引き取ってくるわ」と美優が言った。
「今日はショックだから寝るよ」
「一平、あの日から私を避けている?」
「別に」
網タイツの日から、キスも無かったから美優は一平の心に残ったのかと心配していた。
翌日、家を出ようとした時、デートクラブ用の電話が鳴って
「新田さん、困っています、先日の上客が近日中に貴女とのセッティングを希望してきたのですよ、時間作れませんか?」
「えー、一度終わると二ヶ月程は無いと」
「それが、最近はストレスが貯まるらしく、急遽なのです」
「困ったわ、旅行に行く予定で準備しているので」
「そこを、何とかお願い出来ませんか?」
陣内の困った声に「考えて置きます」
「是非、良い答えを」で電話は切れた。
「青空信金の元理事長に木村の逮捕で、ストレスか?」美優は独り言を言いながら車に乗って熱海に向かった。
「そうだ、マスコミに発表されて、このマゾ男が会えないと言ってきたら,この男で決まりだな」とまた独り言を言うのだった。
静岡県警の捜査会議で一平が美優の意見を言うと持田課長が「それは奥さんの意見か?」
一平が照れくさそうに「まあ、そうです」
それを聞いた課長が「発表しよう、人権の問題よりこれ以上死人は出せない」と言った。
会議が終わると佐山と一平は青空信用金庫の本店に向かった。
「今日は脅してみるか?」
「そうですね、理事長色々知っているかも知れませんからね」
「今夜のニュースから出ると、忙しいだろう」
「電話回線、増強するそうですよ」
「問い合わせ先、静岡県警だからな」
「悪戯も多いから大変だ」
一平はこの時まだ美優がまたマゾ男に誘われている事を知らない。
理事長室で暫く待つと、新垣がやって来て
「前任の槇さんの事は知らないよ」と先手を打った。
「個人の情報なので,理事長にお願いしているのですが?」
「何を?」
「その槇さんが此処に居られた時の健康診断書を見せて頂きたい」
「多分、理事さんなので、人間ドックとか詳細な記録が残っていると思いますが?」
「それなら、有ると思う、暫く待ってくれ」内線で資料を持って来るように指示をした。
「槇さんはどの様な方でしたか?」
『正直に申しますと、少し黒い部分が多かったと,私は思いましたが』
サラ金の顧問で二次就職をしたから、その様に言うしか無いと考えていたのだろう。
「DIローンの河野洋祐さんとのご関係は?」
その言葉に顔色が変わったが「それは、今のサラ金アートとは関係が有るのですか?」
「いえ、有りませんが、DIローンは静岡に有ったからご存じかと思いまして」
「私は知りません」と言葉が慌てていた。
そこに資料を持って行員が現れて「これが理事長の健康診断書です」
「これお借りしても?」
「コピーですから差し上げます」早く解放されたいが見え隠れしていた。
河野と槇の関係を少なくとも知っていると二人は思ったが「それでは、これで失礼します」
外に出た二人は「理事長をマークしますか?」
「そうだな、手配してくれ」と早速署員を張り込ませたのだった。
美優はイチを乗せて帰る途中にまた電話で陣内が
「何とか成りませんか?」と言ってきたので、今回は要領が判っている安心感も有ったし、何か面白い状況に成るのではと思って
「仕方が無いですね、行きましょう」と返事をした。
「有難うございます、助かります」
「エステもお願いしますわ、もう少し髪も伸びましたから」
「勿論です、早めに来て頂ければ、最高のお持てなしをさせて頂きます」
「先方の都合を聞いて下さい、明日以降でしたらいつでも宜しいです」
無料のエステだけで,終わったらラッキーね、美優はその可能性も無いとは言えないと思った。
暫くして陣内が「明日でも大丈夫でしょうか?急ですみません」
「はい、もう決めましたから」
「助かります、では昼に来て頂けますか?」
「先日の服で?」
「いいえ、同じスタイルはお嫌いなのです、こちらで用意致します」
「はー」今度はどの様なスタイルであの変態と戦うの?
一平に離婚されるわ!あれ以上の姿ならと想像する美優だった。
夜のニュースに出る予定が編集の都合で延びてしまった。
「イチ、明日も大変に成りそうよ」と語りかける美優だった。
一平が帰って来ると、愛嬌をふるイチに「お帰り、良い旦那さんだったか?」と聞くと「ワンワン」と鳴くのだった。
「一平ちゃん、大変なのよ」
『何が?』
「明日先日の変態野郎と会わなければ成らなくなったの」
「えー、二ヶ月に一度じゃあ?」
「私が気に入られたのと、多分ストレスだと思うわ」
「何の?」
「小林が逮捕されたのと、槇の死亡よ」
「すると、美優はその変態野郎が主犯だと」
「少なくとも鵜匠だと思うわ」
「危なく無いか?」
「今夜ニュースが流れると、中止に成れば確定だったのだけれど、遅れるのでしょう」
「少しだね」
「だから、取り敢えず行かなければ成らないのよ」
「また、あのスタイルで?」
「毎回変わるらしいわ、あの様な服装貰っても仕方が無いわ」
「えー、先日より凄いのか?」
「判らないわ」機嫌が悪くなる一平だった。
翌日一平が出掛けると美優も直ぐに東京に向かった,
簡単な食事をしてサロンに正午に到着した。
「お待ちしていました」緑川が招き入れた。
「早速美顔から始めますのでお着替えとシャワーを」そう言って案内した。
「この前の様なスタイル?」
「今日のスタイルは、この前以上をご希望らしいです、」
「えー、もっと凄いの?裸じゃない?」
「まあ、近いかと、」
「えー、困るな」
「新田様の陰部が見えないと、処理をして欲しいとの要望で」
「先日以上でパイパン?」
「いいえ、違いますよ、整えるだけです」
「そうなの」少し安心顔に成る美優だった。
3-17
美優の美顔が終わり、オイルマッサージが始まると、気持が良く成って、眠ってしまうのだった。
二度目での安心感だった。
暫くして「新田様、終わりました、シャワールームで洗って髪とメイクに」
美優がシャワーで洗っていて、「あら?いつの間に」
綺麗に整えられていた股間を触って「気持良く寝ていたから」と独り言を言った。
髪とメイクが終わって「可愛いけれど,この前とは印象が違うわね」
「はい、服装に合わせました」
着替えの部屋に行くと「えー、これだけ?」紐の様なブラとガーターベルトに編み目のストッキングを見ていた。
「はい」
「これって、裸だよ」
「触らせないのが、基本ですから」
バスローブの中でも充分に着られると云うか、着けられる。
乗りかかった船だと美優の気持ちは行くしかないと思っていた。
でも剛毛じゃないから、陰部の丸見えが、何とも気に成った。
いつもの様にトレーナーの上下にコートを羽織って用意が出来た。
今夜も八時迄疲れるだろうなと,気が重い美優だった。
車に乗ってSMホテルに向かう、もうすぐ到着の時、ラジオがニュースを伝えていた。
警察が十月十日出発の東北旅行の八名を探しています。
お気づきの方は静岡県警まで連絡下さいの内容だった。
ようやく出たかと美優は苦笑いをした。
「もう着きます、この前の要領でおね。。。」その時陣内の携帯が鳴った。
「はい、はい、判りました、はい」
「判りました、はい」判りましたと、はいしか言わない陣内が携帯にお辞儀をしながら話している。
相当偉い相手だと判る、電話を切ると「新田さん、今夜はこのまま帰って貰えませんか?上客が急病で今病院に向かったそうで」
「えー、重病?」
「判りませんが、此処までご足労させたので、今回の代金はお支払い致しますので、また次回と云う事で、このまま品川駅迄、丁重にお送りしますので」
「お爺ちゃんに、お大事にと」
「その様にお伝え致します」
陣内は羽田に言われたのだろう、
機嫌を損なって二度と美優が来なかったらお前はこの世と、
おさらばする、とでも言って脅かしたのだろう、
品川に到着するまでに何度も「次回も宜しく」と言うのだった。
美優は確信したあの変態が鵜匠だと、あのニュースがもう一時間遅れていたら今頃は、疲れていただろうな、マッサージに美顔に髪型、メイクが決まっている。
美優をすれ違う人が振り返る。
先程まで考え事をしていたので気が付かなかったが、凄い視線を感じていた。
コートに紙袋、コートを脱ぐとトレーナーか、この顔とコートの下の服装のアンバランスに苦笑するのだった。
今日の新幹線の車内は暑くて、コートの前を開いていなければ汗が出る。
本当は脱ぎたいが、流石にこのスタイルは?
我慢出来ないで障害者用のトイレでコートとトレーナーを下着はそのままだが、脱いで着てきた服に着替えて,トイレを出た。
乗客が振り返る女優に成った気分だった。
自宅に戻るのと一平が帰るのが同時だった。
「美優なの?」普段のメイクと髪型が異なって一瞬ポカンとする一平の頬にキスをする。
「キレカワ!」
「何それ?」
「綺麗で可愛いと言う意味」
扉を開けて入るとイチが「ワンワン」と出迎えたが直ぐに鳴き声が変わった。
二人がキスをしたから、「やはり、あの叔父さんがニュースに反応して、来なかったわ」今夜の美優は元気だった。
エステで昼寝もしていたから、一平はいつもと異なる美優にもう我慢が出来なかった。
先日の姿から、キスもしていなかったから、服を脱がして、一平が紐の様なブラとパンティの無い、綺麗な陰部に興奮は最高潮に成ってしまった。
「ワーヲー」と鳴き声が変わるイチ、久々のSEXに燃えすぎる二人だった。
暫くして、お風呂で「一平また、ゴムしてないじゃん、まだ子供は作らないのよ」と甘えた声で言うと「凄いスタイルに我を忘れてしまった」と謝る一平に「出来ちゃったら、産むけれどね、」
「うん」
「もう少しの間、二人を楽しみたいのよ」
「本当にキレカワだったよ」
「明日から、事件が進展すれば良いわね」
「期待している」その夜の二人にまたイチの鳴き声が変わったのだった。
翌日朝から静岡県警の電話は鳴りっぱなしに成っていた。
殆どが意味のない電話だったが、午前中に「私、参加した大竹の妻役で雅美と云う役をしたのですが、これって逮捕されるのですか?」
ニュースでは日時と旅行社しか放送していないから、これは本物だと、佐山が住所を聞いて一平が顔を確かめる為に向かった。
羽田もツアーに参加した人探しに総力をあげて探していた。
鵜作戦の弱点だった。
個別には情報が漏れないが、逆に情報が集まらなかったのだ。
「橋間さんに頼むか」と独り言を言った。
橋間の顔の広さと人脈で警察内部の情報を聞き出そうとしたのだ。
佐山と一平が電話の女性、野田彩花に会って「あの時の?」
「大竹雅美さん!、野田さんでしたね」野田は経緯を話した。
丁度失業中で友達と二人で職安に仕事を探しに行った時、声をかけられて、AJ旅行社の人がツアーの人数集めの為にサクラを探して居るのだと言われて、静岡駅で同じくサクラの男性が待っているから、夫婦役を演じて貰えないかと言われた。
困ったのが部屋での会話と、男女が同じ部屋だったので困りましたと教えてくれた。
野田は学生時代演劇部に所属していて、友達は自信が無いと断ったと、そして自分の住所、名前は相手に教えない様にと言われましたと話したが、「実は、その時一緒だった人とお付き合いをしているのです」と明かしたのだ。
殺人事件に成って怖いので秘密だったのですが、とニュースで聞くまで殺人旅行だとは思わなかったと言った。
本部に大竹役の男は浜松在住の小宮信次,至急身柄の確保を、と連絡した。
当然野田彩花はその日から警察が監視をしたのだった。
佐山の予想した筋書きで集められた犯罪計画だったのが実証された形になったのだ。
浜松の小宮信次は留守で、警察は一斉検問で捜すのだった。
小宮は怖くなったのだ。
野田が警察に話すと言ったので自分の身の安全の為に友達の居る関西に逃げていた。
野田にはその日の夜、友達の処に隠れる。
事件が解決したらまた会おうと連絡が来ていた。
そのメールには警察内部に怪しい奴が居るのでは?と書かれて有った。
静岡県警の人間だが今から浜松駅に来てくれと電話が有った。
咄嗟にこれはおかしいと思い逃げていたのだ。
野田さんには簡単に説明をしたのだ。
彩花は怖くなったが、今日会った二人は信用出来ると思って、二人を夕方再び呼んだのだった。
「何か思い出した事でも有りましたか?」佐山が尋ねた。
「いいえ、今、警察では小宮さんを探しているでしょう」
「はい」
「実は、私がお二人にお話して、暫くして小宮さんに電話が有って、静岡県警だが、浜松駅前に来て欲しいと言われたらしいのです」
「何だって」
「此処から,捜査本部に連絡した後直ぐだな」
「そうなのです、小宮さんは変に思い、そのまま逃げたらしいのです」
「そうか、自宅に行けば本当の警察と鉢合わせするから、呼び出したのだな」
「小宮さん危機一髪でしたね」
「だから、事件が解決するまで逃げていると」
「一平内部の情報を直ぐに流せる程の人物が敵と通じている」二人の顔色が変わったのだ。
3-18
「一平これは困ったな、誰が敵か判らない」と佐山が言った言葉を家に帰った美優に言うと「一平ちゃん、敵とは限らないわよ」
「だって、直ぐに情報が漏れたのだよ」
「例えば、もの凄く権力の有る人間が、捜査の進展を強い調子で聞いたら?」
「今、此処まで進んで捜査していますか?」
「でしょう」
「美優ちゃん、顔も,身体も、頭も良いね、惚れ直してしまいそう」と言うと「貴方が普通より少し悪いだけよ、頑張ってね」と言った。
「こら!」とまた家の中を走り回る。
そしてイチの鳴き声が変わるのだった。
一平は翌日佐山に美優の意見を話した。
「成る程、そう言う事か、警察の中にスパイが居ると思っていたよ」
「美優の考え凄いでしょう」
「そうだな、来月から,お前が炊事洗濯をして交代は?」
「佐山さんまで僕を馬鹿扱いに」と笑った。
「情報を一番知っているのは、捜査課長だ」
「誰に聞かれたか聞いて見ようか?」
「聞き方が難しいが」
佐山が持田課長に「少しお話が」
佐山の様子に異常を感じた持田は別の部屋に行った。
「何だ?」
「実は野平君の奥さんの助言で判ったのですが」
「何、あの可愛くて頭の良い彼女の話か」
「はい、先日野田彩花さんの処で聞いて、本部に連絡をしましたよね、小宮の事を」
「聞いて直ぐに手配したが、居なかった」
「それは小宮が犯人に警察よりも早く呼び出されていたのですよ」
「それは、聞いた」
「私は、県警内部に犯人と通じている者が居るのかと疑いました」
「私も最近は怖いよ、署内で話すのが」
「そうでは無く、美優ちゃんの嫌、野平君の奥さんが言うには」
『何と』
「もの凄く権力の有る人に、今の捜査状況を聞かれて、話したのでは?と言っていました」それを聞いた持田の顔が青ざめていった。
「じゃあ、じゃあ、私が教えたのか?」
「誰かに聞かれたのですか?」
「警視庁の刑事局長だよ」と益々青ざめていったのだった。
野平に小声で「警視庁の刑事局長だった」
「えー!」
「声がデカイ」
「持田課長青く成っていたよ」困り顔の二人だった。
夜、一平は帰って「美優の推理は正解だったけれど、」
「やはりね」と鼻高々になった。
「そりゃそうだよな、刑事局長にニュースの事件進展しているのか?持田課長と聞かれたら喋るわ」
「それって,偉い人」
「刑事のトップだよ」
「そうなの?大物ね」
「刑事局長の罪を暴くのは大変だよ、美優」
「一平君、あのね、何回言えば判るの」
「何が?」
「刑事局長が犯人じゃあ無いわよ」
「どうして?」
「頭は帽子を被るだけなの?」
「散髪も行く、痒い時も有る」
「もー馬鹿!」イライラする美優。
「刑事局長に聞ける人も居るでしょう」
「そりゃあ、居るだろうな」
「それが犯人の本物よ」
「総理大臣、国家公安局長とか?」
「何処まで、馬鹿!」
「例えば、プライベートでゴルフに行く仲間とか飲み友達とか?」
「そんな人に秘密を漏らすかな?」
「聞き方にも寄るでしょう」
「それがたまたま、野田さんの事にぶつかったかも」
『静岡県警も優秀でね、もうすぐ事件解決らしいよ、男女は判らんものだよ、演技の夫婦が,本当に成るとはね、と話せば判るでしょう』
「はっきり、言わなくても犯人には判る訳か」
「大竹さん以外は若くないでしょう」
「若いのはあの二人だけだ」
「鵜匠には直ぐに判るのよ、他の人は全く判らなくてもね」
「変態叔父さん?」
「そう、私の身体を見た変態野郎よ」
「何か良い方法無いかな?変態野郎を捕まえる方法」
「私はまだ後ろに誰か居ると思うわ」
「何故?」
「だって、変態野郎が、刑事局長のお友達か知り合いの訳ないからよ」
「大物がいるのか」
「刑事局長の人脈で昔の上司とか、お世話に成った人だと、思うわ」
「流石、美優だね」一平は美優の推理に感心していた。
翌日佐山に話すと持田課長に相談に行った。
「私は,心配で昨夜は眠れなかったよ、その話を聞いて安心したよ」
「何か、聞き出す方法は有りませんか?」
持田は考えて、「相手は相当の大物だった?今もかもしれないけれど、大臣クラスの人なら聞き易いかも」そう言って考え込んでしまった。
佐山は美優の推理通りなら、度々は情報も漏れないだろう、安心して捜査は出来そうだと,持田に告げるのだった。
青空信用金庫、DIローン、BT企画、サラ金アート、デートクラブ若奥様、これらは統べて繋がっている。
もう少し各会社を詳しく調べる必要を考えていた。
野田彩花が誘われて,旅行の事を事前に聞いた人が居るのでは?
漸く店舗を再開したAJ旅行社に筒井を訪ねた。
「良かったですね,再開出来て」
「有難うございます、あの旅行がこんな事件に使われるとは思いもしませんでした」
「いつ頃から,決めるのですか?」
「半年位前ですかね」
「最初一組だけで、中止になるかも知れないと」
「はい、そう言いました、普通あの時期に集まってない場合は中止の確率が高いのですよ」
「じゃあ、最初に申し込まれた岡田さんの事、ご存じでしょうか?」
「あの方はこの席で、と言いましても正しくはこの辺りですが、私が対応しました、一人で来られて、募集が始まって直ぐだったと」
「警察にこの、旅行で事件が起こると手紙を出した人が誰か?」
「佐山さん、警察に挑戦状をと考えていましたが、違うかも知れませんね」それだけ言って二人は店を後にした。
何日経過しても他の旅行者の名乗りでが無かった。
似ているとかの電話は沢山有ったのだが、決め手に欠けていた。
その夜一平は美優に「あの警察に来た手紙が挑戦状で無かったら、何だろう?」
「事件が起こるのでは?と云う知らせ?」
「新幹線の座席の紙は?」
「注意をして欲しい?」
「今回の事件を知る可能性の高いのは?」
「旅行社の筒井?」
「何か関連が有るかも?」
「そうね、彼は私達が警察だと知っていたから」
美優が一連の事件を整理してみようと机に紙を置いて書き始めた。
警察に警告文が届く、ツアーの客が集まってない、名刺を渡して、私達が参加する、元々この事件はDIローンが関係している。
サラ金被害の会でリーダーに復讐の為の旅行を計画、それぞれは各人を知らない、鵜匠がバックに、その後ろに大物が存在、
DIローンの社長は自殺、青空信金の前理事長とは親しい、信金の客をDIローンに流していた。
前理事長の槇がアートローンの顧問に成って、今の理事長の新垣も何か有る。
「一平ちゃん、筒井さんを調べたら、状況教えてね」
「今回は美優も身体を張って,捜査の手伝いしているから、情報は共有しなければね」
「大物だからね、こちらが先に消される可能性も有るからね」
二人の意見は筒井以外に旅行の事を知る人物がいないで、一致したのだった。
翌日、槇の診断書から、糖尿と心臓病は有ったと決定された。
槇の殺害は霧の中に成ったのだった。
一平は朝から、筒井の家庭環境から調べだしたのだ。
佐山は槇の死亡に納得していなかったのか、若い刑事を同行させて病院に向かうのだった。
羽田は残りの三組の偽夫婦の所在を突き止めて、口封じに取りかかっていたのだ、警察には連絡が無かったが、アルバイトの斡旋先には連絡をしたから、所在を突き止められてしまったのだった。
この三組の偽夫婦は永遠に十和田湖に消えたままに成っていた。
3-19
一平の顔色が変わったのは、夕方だった、
筒井の兄、悠が元DIローンの社員だったのだ、
「これだ!」一平が思わず叫んでいた、
急いでAJ旅行社を尋ねたが,筒井は留守だった、
今日は戻らないと、
大口の旅行の契約に向かったと女子社員が教えてくれたのだったが、
翌日から筒井の出社が無かったのだ、翌日午後から旅行社を尋ねて
「先程、筒井さんが無断欠勤と聞きましたが、
昨日の大口の顧客はどの様な処なのですか?」
「判りません、百人以上のツアーが決まりそうだと言って、
出掛けて行きましたけれど」
筒井が消された?兄の悠が今、何処に勤めているのか?
賢は市内のマンションを借りて一人で住んで居る、
兄は東京で仕事をしていたが、DIローンを退社後の実態は掴めて無かった。
一平は持田課長に相談後、筒井の自宅に若い刑事と向かった、
一応連絡を待ったが、会社にも連絡が無かったので、
管理会社に伝えて室内を見せて貰う事に成った。
筒井のマンションの部屋は比較的綺麗に成っていた、
別段何も失踪の手がかりがない、
一平は机のノートパソコンが気に掛かり、電源を立ち上げたのだった。
ゲーム、仕事の資料、写真が有った、
「あっ」と口走った、それは警告文の下書きだった、
「この文章は警察に送られた物と同じだ、誰も知らないのに、
此処に有るのは、筒井がこの文章を書いたのが確定したよ」
「課長と管理人の承諾を得てこれ、持ち帰りましょうか?」
「そうだな」一平は直ぐに美優にも連絡をした、
若い刑事が「奥さんに報告ですか?」
「家内も捜査に協力しているから、教えないと」と言った
「奥様の推理力は課長も大いに褒めて居ましたからね」
二人は捜査の進展気配を感じならマンションを後にした。
夜一平は自宅で「美優、何故?筒井は警察に教えたのだろう?」
「多分お兄さんが、手先に成っていたのでは?」
「失踪は?」
「大口の旅行の案件は犯人との接点ね」
「消される確率は?」
「五割?今、お兄さんに説得されている?兄弟殺される?のどちらか?」
「賢は前から兄がサラ金に勤めていた事、
会社が市民運動で潰れた事は知っていたのだよね」
「兄の犯罪を知って警察に止めて貰おうと手紙を送った、
丁寧に新幹線の座席に迄」
「兄の悠は事件を知っている?」
「私はね、変態野郎の下で働いて居る可能性が高いと思うわ」
「賢、は危ない?」
「変態野郎は殺したいが、
もし兄の悠が自分にとってとても大事な子分の場合は説得でしょうね」
「佐山さん、元信金の理事長の死に疑問を持っているみたいだよ、
今日も一日中、平成病院に行っていたよ」
「それも怪しい病院だわ、病院と繋がっているか?内科だけか?だね」
「佐山さん、良いとこ見ているのか」と感心した顔に成った。
「もう、そろそろ、本丸が見えそうね」と美優が言った
「そうなのかな?俺には見えませんが」
「兄の筒井悠の現住所か職場が見つかれば早いけどね」
「何処かにないのかな?」
「もしもよ、DIローンが突然の倒産なら、
お金を貰う為に職安に行くとか、しているかも?
生活費の為にね、逆に倒産が本当を装う為に職安に失業届けを出すとか?」
「それは、有るかもですね、美優素敵な考え」と抱きつくのだった、
イチが、じーと、二人を見つめている、光景が面白いのだ。
翌日一平は職安に若い刑事と向かった、
美優の話が当たっている事を願って、
それは美優の予想通り何名かの社員が同時に失業の申請をしていたのだ、
次の就職口が決まって、
祝い金のお金の申請をしている人も数人いたのだ、
悠は次の就職先も申請もしていなかったが
八名の中で二名が同じ職場で悠優チェーン、
ひとりがアートローン、MDクレジットがひとり、
BT企画がひとりで三人が次の就職先の申請がなかった。
夜美優に教えたら
「一平ちゃん、この悠優チェーンってどんな会社?
出会い系のデリヘルを沢山持って居たよ」
「その中に若奥様って無かった?」
「そこよ、私がお金貰って働いたデートクラブは」
「そうなの?」
「これみんなグループ会社よ、
登記簿とか株主に共通の人が居ないか調べて見て」
「判った,明日早速調べるよ」
「病院のバックにも同じ人が居たら完璧ね」
今日の一平の話で美優は確信していた、
大きなグループの総帥が犯行の主で有る事を、
でもそこまでたどり着けるかは不明だった。
DIDグループは橋間会長が君臨する表と裏のある組織だった、
表の顔はホテルチェーン、ゴルフ場チェーン、銀行、
裏の顔でサラ金、デリヘル、サロンの経営、をしていた、
東京の目黒に自社ビルを持ち、
橋間は通常はそのビルの最上階の会長室に居たのだ。
昔は酒と女で遊んで居たが最近は歳と共にその遊びも減少していった、
社長は長男、橋間一典に譲り表の顔は一典に変わっていた。
橋間の裏の顔を統べて引き受けているのが羽田なのだ、
羽田の部下に筒井悠が所属していたのだ、
全国に数社のサラ金チェーン、デリヘル数十店舗、サロンも数十店舗、
その中でも大きいのがBT企画で全国に数十店舗のサロンを持って居た。
財界、政界ともパイプが太い、裏の顔のトップが羽田武雄なのだ、
羽田に苦言を言える人物はこのグループの中には居ないのだ、
社長の一典で同等、その為に膨大なストレスが貯まる、
その為に異常なSEXにはしるのかも知れなかった。
筒井悠はそんな羽田の信頼を得ていた、
その為秘密を知った、弟賢の処遇に頭を痛めていた、悠に
「何とか弟を説得して、君の仕事を手伝わせられないか?」
悠は賢の性格を知っていたし、弟の賢も兄の性格を知っていた、
その弟が悠に「仕事変わっても良いよ」と意外な事を言ったのだった。
「賢、お前にこんな仕事が出来るのか?」
正義感の強い弟に疑念を抱いていたのだが、本人がそう言うので、
羽田に「賢は一緒に仕事をしても良いと言っています」
「そうか、それは良かった、私も助かる」と喜ぶのだった。
肩の荷が下りた羽田は早速陣内に電話で
「先日の新田って女の子は呼べるか?」
「はい、聞いて見ます」と連絡をするのだった。
早速美優の携帯が鳴った、久しぶりにこの携帯が,
若しかしてまた例の要求かな?と携帯を聞かなかった、
十数回鳴って切れた、着信は予想通り陣内だった、
筒井の問題が解決したな、殺したか?手下にしたか?
この数日間からなら多分手下だと美優は思った、
もしトラブルならこんなに早くお呼びは無いだろう、
兄の悠を失っていたら心に余裕がないから、
お声は掛からないだろうと思ったから、
暫くしてまた電話が、今度は美優が電話に出た
「ご無沙汰しています、例の上客さんからお呼びなのですが、
お願い出来ますか?」
「来週一杯は体調が悪くて、とてもあの様な事は出来ません」
「あー、女の子の日ですね」
「はい」
「それでは再来週で調整させて下さい」
「はい」
羽田は残念だったが、
仕方が無いと他の女性を選ばずに美優を待ったのだった。
「新田さん、それでは再来週の週末でお願いします」
「判りました」
その時が勝負の時ね、後十六日間で追い詰められなければ、
またあの変態野郎とプレーをしなければならない、
頑張れ、一平、佐山の叔父様と祈るのだった。
3-20
「一平ちゃん、今日また例の変態野郎からお呼びが有ったわよ」
「えー、余裕が出来たのだな」
「そうよ、多分筒井の弟の賢が仲間に成ったのよ」
『警察に通報したのに?』
「そうじゃなくて、多分手下に成ったのを、装ったと思うわ、兄と自分の為に」「そういう事か」
「時間稼ぎをしたのよ、私も同じよ、二週間体調が悪いと言って伸ばした、
だからこの二週間で決着を、頼むわよ、
私そうでないと、またあのスタイルで変態野郎の生け贄よ」
「よし、判った、今日少し判ったのは
橋間と云う人がチラチラと登場するのとDIDと云う企業も
何度か登場しているな」
「待って」そう言ってパソコンで調べだした。
暫くして、DIDグループの規模と存在を調べて
「大きいグループね、ホテル、ゴルフ場とか一杯ね」
「会長は橋間一彦、社長が長男一典で、もう長男が統べて運営しているよ」
「これが組織だって」とパソコンの画面に出した、
「会長、社長の横に企画運営会議部って有るわね、
この組織図だと社長と同列の部所ね」
「サラ金にもDIDの名前が有ったよ」
「一平ちゃん、明日ね、この企画運営部のトップか、二番の人の名前調べて」
「会議に長なんているのかな?」
「判らないわよ」
時間との勝負に成りそうな予感が二人にはしていた、
「美優ちゃん、今夜頑張ろう」と一平が言うと
「残念ね、今体調不良なのよ」
「えー」
「また、あのサロンで綺麗に成ってからね」と笑うのだった。
翌日夜、一平が「今日も一日中DIDを調べていたよ、疲れた」
「あれは?どうだった」
「経営の戦略室でトップは会長で専務が二番手だって」
「社長は?」
「入ってないって」
「変な組織ね、少なくとも代表権が有るのに、専務って誰?」
「羽田武雄って人だって」
「私も今日調べていたのだけれど、
羽田って専務はこの株式の本には載ってないわね」
「この羽田武雄が意外と変態野郎かも?」
「多分ね」
「えー、冗談で言ったのに」
と大袈裟にびっくりする一平だった。
「平成病院も橋間一彦の名前が有ったよ」
「やはりね」
「私が思うには、表と裏の仕事が有って裏の部分は
この羽田専務がトップでしているのよ、変態野郎もこの人よ、
多分DIDのナンバー2よ」
「凄いね、そんな人を美優は鞭で叩けるのだ、有る意味会長以上だね」
「恐れ入ったか」
と威張る美優に土下座をする、一平、
イチもマネをして大きく前足を出して、頭を下げるのだった
「イチが一平のものまねしているよ」と大笑いをする美優だった。
家では特定出来ても捜査会議では言い出せない一平だった、
事実何も証拠はなかった、
変態野郎が羽田専務で一連の殺人の犯人とはとても言えない状況だった。
そんな時会議で佐山が「DIDの内部組織を調べてみたいのですが?」
と言ったのだった、
「理由は?」
「事件に関連する処に必ずDIDの名前か
会長橋間一彦の名前が出ているのです」
「例えば?」
「平成病院、サラ金、サロン、青空信金も、です」
「判った、調べてみよう」
捜査員が調べだしたのはDIDグループが大きな存在で有る事、
内部の組織図、権力者、取引先、会長、社長の交友関係、
その他趣味まで、その中に若い時の刑事局長と知り合いだったと判るのだ、
持田もDIDを怪しい存在だと考え始めていたが、
これ以上捜査を進められない、証拠も無ければ、何も無かった、
一平は羽田の部下を調べたが、若い女性が数名居るだけで、
筒井の姿は無かったのだった。
筒井賢は兄を心配して部下に入った、時間が必要だと考えたのだ、
もし自分が部下の誘いを拒否すれば、兄も自分も危ないと考えたのだった、
でもそんなに時間の余裕は無いと思った、
筒井兄弟での最初の仕事はアートローンの解体だった、
DIローンと同じ様に、解体をする必要が有ると羽田は考えていた、
木村の逮捕に槇の死亡と、もう会社としては駄目だから、
客の移動スタッフの移動が不可欠だった、
DIローンは市民運動と云う社会現象を引き起こされて、
仕方無く支店長の河野の自殺で決着を付けた、
本当は殺人だったのだ、その時に筒井悠は羽田の目にとまったのだ、
この男は将来使えると、東北殺人旅行の計画もこの悠が持参したのだ、
弟の旅行社を使った、羽田の計画にぴったり合ったお膳立てを作成して、
元暴力団に殺人をさせる、益々羽田は悠を信頼したのだった、
唯、弟の賢はその計画に気が付いて、警察に警告文を送り注意を促し、
座席に紙を置いて激励したのだが、
正確には兄の事が有って伝えられないもどかしさが
殺人を産んだ事を後悔していた、悠は弟にお礼で羽田の力で、
ツアーの大口契約を貰おうと呼んだのだったが、
羽田は弟賢に警戒を感じて、部下に成って欲しいと頼んだのだ、
羽田には喜ばれたが兄は賢を疑心の目で見ていたのだ。
このアートローンの解体の仕事を上手にするか心配だった、
業績不振が大きな理由に成るがアートの社長は解雇に成る、
それをどの様に解雇にするかが問題なのだ、
警察の目が光っているから、殺人も容易ではない、
森田修三六十歳の処分の方法だ、
変な待遇にすると森田が騒ぎ出すこの森田の処分が課題なのだ、
「兄貴、僕に処分任せて貰えませんか?」と賢が悠に話した
「良い方法が有るのか?」
「はい、海外に行かせて帰らせません」
「流石だな、旅行業の知恵だな」
賢は森田に電話をして、秘密で会う事にした。
森田には恐怖の話しだった、
「私に任せて貰えませんか?」
「お任せします」
森田にDIローンの社長の様に自殺されますか?本当は殺人なのですよ、
貴方には家族も沢山いらっしゃいますね、全員殺されますよ、
私の云う通りに海外に少し逃げていて下さい、
必ず帰れる様に致します、一年待って下さいと説得したのだ、
この話が誰かに漏れると永遠に帰れませんし
家族の命も保証は有りませんのでと説明していた。
森田は恐怖に驚きながら、誰にも話さず、
家族には海外に転勤に成ると伝えたのだった。
森田の処分で賢は
「森田社長はもう東南アジアから、二度と帰れませんので安心を」
と伝えたのだった、
羽田はアートローンの解体を来月から始めると安心した顔で言ったのだった。
そんな、経緯も有って心に余裕が出来たのだ、
美優に指名が出来たのも余裕の表れだった。
翌週アートローンの廃業が発表された、
佐山が「手際が良いですね」と課長に言った
「何か方法は無いのか?犯人は誰なのだ?」イライラするのだった。
一平が佐山に「もう犯人は判っているのですがね、」
「そうなのだよ、美優ちゃんも同じ事を言っていたか?」
「来週、変態野郎に呼び出されていますよ」
「それまでに、何か出来なければ美優ちゃんに頼むしかないのか」
「嫌ですよ、美優が可愛そうですよ」
「一応、小型のネックレス型のマイクを用意して最悪の準備もして置くか」
「二段構えで、他の物も用意して下さいよ」
「例えば?」
「指輪のマイクとか、身に着けられる何かを」
「そうだな、外せと言われたら聞こえ無いから、」
「日にちが決まったら横のビルに機材と警官と我々が入れる場所も
用意しておこう」
「早くすると、感づかれませんか?」
「羽田の趣味を知っている者は少ないだろう、内緒の行動だからな」
「数人しか、知らないでしょうね」
「そんな、趣味が社内に判ると示しが出来ないだろう」
そう言って笑ったが顔は笑えなかった、
若い女性に総てを任せなければ成らない事に
佐山も一平も情けなかった。
3-21
翌朝持田課長が佐山と一平に「君たちは、犯人の目星が付いているのだろう?」
「はい、でも何も証拠が有りません」
「一度私に説明してくれないか?指を咥えて見ている様な気分で、歯がゆいのだよ」
先日の刑事局長の話とかが有って持田は自分が何か出来ないかと思っていたのだ。
実際捜査は暗唱に乗り上げていた。
佐山も持田の協力無しでは美優の囮作戦も成功しない事は充分承知していた。
今判っている事を統べて話す時だと考えた佐山は「課長、これから話す事は私の推測ですが多分正解だと思います、」
「判った、話してみたまえ」
「この事件は数年前のDIローンの闇金撲滅運動から始まっています、そしてこの事件の裏にはDIDグループの存在が有るのです、」
「うん、うんん」
「事件に関係の有る処に統べてDIDグループの影が存在します、まず今回の投書はAJ旅行社の筒井賢が警察に警告文を送りました。
それは兄悠がDIローンに努めて居たが辞めてDIDグループに入ったからです、DIローンを崩壊させた市民グループの代表達三人を殺害する為の旅行でした。
旅行に参加した人はアルバイトの様な人が大半で三人は元暴力団とかサラ金の男です。
妻役はそれぞれが知り合いとかを同伴させて、殺しています。
それぞれは全く知らないで旅行に参加していますので,自分の事だけを実行したのです。
一組だけ警察の公開捜査に反応して、野田彩花と小宮信次は旅行中に恋愛に発展してしまった。
今、小宮は逃走中で野田は警察が保護しています、その他の三組はもう犯人に殺されていると思われます。」
「犯人はDIDの大物だな」
「はい、会長直属の羽田専務が主犯、若しくは共犯ですね」
「主犯は会長の一彦かもだな」
「おそらく、刑事局長から漏れた情報は一彦ですね」
「一彦の逮捕は出来ないだろう?」持田が困り顔に成る。
「筒井賢も多分DIDに誘われたか?と思いますが,彼は一時的に避難の可能性が高いと思われます」
「警察に投書する男だからな」
「彼は彼なりに事件を掴んでいると思われます」
「捜査は八方塞がりなのだな」
「野平君の奥さんの美優さんが唯一の突破口なのです」
「それは?」
「課長が早乙女君とか、森本君を使って調べ様としたサロンに奥さんも潜入したのですよ」
「それで」
「奥さんは、デートクラブにも誘われて潜入したのです、」
「デートクラブ?」
「サロンのバックにデートクラブの存在が有りまして、羽田専務らしき男の指名を受けて一度相手をしているのです」
「えー」持田の声が変わった。
「羽田と思われる人物はマゾなのです、SEXの相手ではなく鞭で叩かれるとか、虐められる事が好きな様です」
「変わった趣味だな、安全なのだ」
「それが、気を抜くと襲われて終わりに成るらしいので、大変らしいですよ」と一平が口を挟んだ。
「来週の土曜日に、羽田と思われる人物に呼び出されているのです、このまま捜査が進展しなければ野平君の奥様に頼るしかないのです、それで若しもの場合を考えて隣のビルに捜査員を始め、機材を設置して、奥さんには発信マイクを持って貰おうかと考えています」
「何故?警官が用意した女性にはお声が掛からず、野平君の奥様なのだ?」
「それは最初から見破られていたからだと思いますが」
「えー、それでは、あのエステの代金は無駄?」持田の悔しがる顔に二人は苦笑した。
「その人物が羽田で無かったら、終わりだな」
「十中八九は間違い無いかと」
「奥様を守る準備は最善を尽くそう」
佐山はそれ以外の細かい事も持田に話した。
「完璧な殺人計画だったのだな」
「野平君夫婦が参加していなければ、最初から進展していなかった訳だ」
「私は鵜匠の殺人計画だったと思いますね」
「確かに、各人は自分が何をしているのか、判らないから、十和田湖で別れて終わりだった、証拠は火災と爆弾で消されて何も残っていない」
「筒井賢からの投書がなかったら、完全犯罪に成っていますね」
「何も無かった、東北旅行で、唯、参加者は居なくなった」
「もし、参加者がバイト以上に増えていても、爆弾で終わりでしたね」
「いや、筒井が知っていて断っていたのかも知れませんよ」
「そういう事か、私達が警察だから入れた」
「そうだろう」
三人の話しは長く続いたが、美優の囮作戦以上の方針は出なかった。
この作戦は三人のみの秘密に成った。
その夜一平が「何も打つ手が無くなった様だ」
「やはりね」
「万全の警護はするとは課長は言ったが心配だ」
「一平ちゃん、私あのスタイルよ、無防備なのよ、警察の人にも見られるのよ」
「静岡県警は無能なのだ、許して」と手を合わせる一平に「刑事の妻は身体を張って、夫を助けるのね」と笑った。
「若しも、羽田で無かったら?」
「そうね、私が坊主に成って謝るわ」
「それは僕が困るなあ、下半身だけ坊主で良いよ、世間には見えないから」そう言って笑うのだったが心から笑えない二人だった。
翌日アートローンは倒産して、社長は行方不明に筒井賢の手引きで海外に発表と同時に脱出していた。
羽田は筒井悠に「弟も中々出来るじゃないか」
「はい、海外で始末するらしいです」
「流石に旅行業だったから、よく知っているのだな」と喜びを大きく表したのだった。
羽田はもう安心だと、漸く東北旅行の始末が終わったと安堵して、週末の美優とのプレーを楽しみにしていた。
一平達は、アートの社長が海外に脱出したのを知らされたが、もうどうする事も出来なかった。
東南アジア、ベトナムのハノイの空港に到着した迄で消息は消えた。
「美優さんに期待するのと、羽田を暴けるかが焦点だな」
佐山が一平に言う「本当に羽田なのでしょうか?変態野郎」
「美優さんが,そう言っているなら、間違いは無いだろう、一度羽田の写真を手に入れて見せて、確認が必要だな」
しかし、中々手に入らなかった。
表だって警察風で写真を要求すると、悟られて遊びを中止する可能性が有ったからだ。
結局ゴルフ場での写真と慰安旅行の集合写真の数枚を集めるのが限界だった。
「一平これを、美優さんに見せて確認して貰って」と手渡した。
「判りました、見せてみます」そう言って一平は帰って行った。
自宅で「この写真、変態野郎か?」と美優に手渡した。
「どれどれ、見ましょう」と一生懸命に見ていた。
やがて写真にマスクの絵を描いて「間違い無い、変態野郎だ」と叫んだ。
「おお、正解!」と一平が言う。
「マスクを描いて、判ったわ、マスク一枚で人相変わるわね」
「これで、確定だけれど、危険だよ、注意をしてね」
「エステサロンでどの様な衣装を着せられるかも問題ね、この前は全裸だったけれど、多分前とは異なる衣装に成ると思うわよ」
「そうなの?」
「変態野郎の好みで変わるから判らないのよね、多分金曜日にあの陣内に連絡して用意するのだと思うわ」
「世話も大変だ」
「今頃、安心感で、私を着せ替え人形にして妄想していると思うわよ」
「何も着せないかも?」
「それは無いわ、コスチュームで喜ぶのよ、今は心に余裕が出来たから、セーラー服でも着せられるかも知れないわ」
「高齢の女学生?」
「失礼な!」
「まだまだ、若い」と笑うのだった。
その夜の二人にイチの鳴き声が変わったのだった。
この二人も怖かったのだ、何が有るか判らないからが、後三日に迫っていた。
3-22
「美優が写真を見て、間違い無いと言いました」
「よし、今日中に隣のビルに機材を運び入れて準備を終わろう」
「今日から東京に待機だな、皆さんは」
「一平は美優さんと一緒に行く予定?」
「はい」一平の不安な気持ちは充分に判った。
命の危険が今回は有るからだ。
前回の様な感じで終わったら何も証拠も掴めないし美優の裸を見せるだけで終わってしまうから、危険なのだ。
一平は美優がどの様に羽田を炙り出そうとしているのかを敢えて聞かなかった。
聞いてしまうと自分が冷静に対処出来ないだろうから
「これ今日持って帰って美優さんに渡して」
「これが発信器ですか?」
「そうだ、ネックレスに成っていて音声が送られる、これは指輪型だ」
「二つですか?」
「もう一つ耳に入れる物を部屋に入る時に装着して欲しい、多分エステで外されるから」
小型の補聴器よりも小さい、これなら耳に着けていても判らない
「聞こえるのですか?」
「大丈夫だ、聞こえるし音も拾う」
「ハイテク器具ですね」と一平は笑ったが顔は笑ってなかった。
「この器具は一度はめ込むと取れないから、使うなよ」
「どうして取るのですか?」
「警察の特殊装備専門の人が終わったら行くそうだ」
「大事ですね、この器具」
「美優さんが危険に成っても絶えず送られるから、水の中も大丈夫だから、五百メートル以内なら聞き取れる」
佐山はそれだけ言うと他の刑事達と車で東京に出掛けた。
「いよいよ、だな、野平君、この度はもう奥様に感謝、感謝だよ」持田課長が一平の手を持って感謝の表現を繰り返したのだった。
「課長、今日は早く帰らせて貰います、美優にいや、家内に明日の打ち合わせを、この器具の説明とかをしなければ成りませんので」
「いつでも、帰って良いよ、充分に説明して、間違いが無い様に万全を」
一平の肩を叩いて持田課長は自分の部屋に戻って行ったが、背中が泣いている様に見えたのだった。
持田は泣いていた、自分の部下の奥さんに大事を託さなければ成らない無念と感謝で一杯だったのだ。
若しも野平君の奥さんに何か起こったら自分は辞表を出さなければ成らない。
そして、野平君にどの様に謝れば良いのだろうか?頭が混乱していた。
美優に陣内から電話が「明日は申し訳ないが、十一時に来て頂けないでしょうか?」
「えー、早いですね」
「準備とかが有りまして」
「判りました」
「食事は用意致しますので」
「はい」
準備に時間が?髪?着る衣装で?化粧?エステ?
少なくとも裸では無いわね、と考えていたら「只今-」と一平の声
「早いわね、具合が悪い?」
「具合も悪くなるよ、愛妻が悪魔の生け贄に成るのに」
「心配しているのだ」
そう言いながらキスをする美優にイチが「ワンワン」と鳴いたのだった。
持ち帰った機材をテーブルに置いた。
「わー、中々おしゃれ」
箱からネックレスを取り出した、首に着けて「どう?似合う?」とくるりと廻った。
「似合うよ」
「これは?」と小さな箱を開けて
「これも良いじゃない」そう言って早速指に填めた。
「ぴったりだわ!」と指に着けて見るのだった。
「これ両方ともマイク?」
「そうだよ」もう一つの箱を開けて「何これ?」
「耳に着ける物だよ」
美優が取り出して耳に着けようとしたのを「待って,着けたら駄目」
「今、耳に着けるって言わなかった?」
「それは、一度入れると特殊な方法でしか取れないらしい」
「えー、そうなの?」
「エステの後、部屋に入る前に着けるらしい、先に着けているとエステで発見される」
「もう少しで着ける寸前だったわ」
「五百メートルで音声を聞き取れるらしい」
「凄い、ハイテク機器ね」
「指輪とネックレスは着けても大丈夫だけれどね」
「あのね、今日陣内から連絡が有ったのだけれど、明日朝十一時に来て欲しいと言われたわ」
「何故?」
「準備に時間が必要らしいわ」
「何に?先日の服装なら、時間は掛からないよね」
「だから、変わった、髪型か服装だと思うのね、少なくとも裸では無いわ」
「時間が掛かる服装なら、着物?」
「一平そうだよ、着物だわ、それに髪を合わせると時間が必要ね」
「裸じゃあ、無いわね」
「そうだね、それは良いね」
「でも、そんな簡単じゃあ無いと思うわ、それに着物だと、動きが遅いから、変態野郎に捕まる危険が有るわ」
「捕まったらどうなるの?」
「女王様では無くなるのかな?」
「それは?どうなるのかな?」
「もう、二度と相手をしない、」
「それだけでは終わらないだろう」
「身体を逆に傷つけられるかも」
「それだな」
「だから、身動きが難しい衣装にしたのかも」
「命がけだな」
「頑張るわ、逮捕してよ、頼むわよ」
その夜の二人にまたイチの鳴き声が変わるのだった。
いよいよ、当日の朝、美優は指輪とネックレスを着けて、耳の器具はバッグに入れて「一平ちゃん、遅れるよ」
「今、行きます」二人は揃って静岡の自宅を出た。
どんよりと曇った空は二人の今の心境そのものだった。
タクシーで静岡駅に到着し「食事しましょうか?」
「俺は時間有るけれど美優は丁度位だね」
「東京に九時半頃だから、充分時間有るわ」そう言って駅ビルの喫茶店に入ってモーニングを注文した。
二人は緊張から話しも少なかった。
品川で美優が下車する時「頑張れよ」
「ええ!」そう言って別れた。
美優は五反田の駅前のコヒー店で時間が来るまで待った。
この場所からなら十分でサロンに到着するから、何を話して羽田を追い詰めようか、と考えるのだった。
サロンに到着したのは五分前だった。
悠木店長が「新田様、お待ちしていました」と丁重に出迎えた。
「応接で緑川が待っています」そう言って案内をした。
「ご苦労様です」と深々とお辞儀をして応接に美優を座らせて「早くからすみませんでした」
「いえ、かまわないですよ」
「お姉様の最近は?」
「兄が漸く病気が治りまして、来月から海外に」
「そうですか?また次回はお姉様とご一緒に」店員がハーブティを運んで来た。
それを見た美優が眠らせるの?と躊躇していると、「この香りは以前の物とは異なりまして、また変わった風味が楽しめます」と勧めた。
美優は此処で怪しまれたら危険だと思いハーブティを飲んだ。
「実は今日は着物を着て頂きます、その為に早く着て頂いたのです」
「着物でそんなに時間掛かるのですか?」
「いや、髪も着物に合った物にしませんと」
「はい、でも」
「日本髪ですから、舞子スタイルです」
「えー、重そうですね」
「そうですね、それで今身に着けていらっしゃるネックレスとか、指輪は外してバッグにお願いします」美優の顔色が変わった。
「はい」とは返事をしたが、折角の発信器が役に立たない。
早速のアクシデントだ、困惑の美優だった。
「それでは、エステから始めますので、いつもの様にシャワールームでお着替えを」今日のハーブティは美味かった。
美優は飲み干していた。
媚薬が入っていて、マッサージを気持良く受けて心が休まる、効果を期待していつも使う物だった。
「今日は全身マッサージと綺麗に整えろとの、指示が着ていますのでその様にさせて頂きます」
「はい、判りました」
羽田は美優とは今夜が最後だと思っていた。
良い女でも何度も相手をさせないのがこの男の主義なのだ。
その為捕まえた後の処理の方法を考えていた。
自分がSEX出来ないから、道具を使って女性をいたぶろうと考えていたのだ。
その為、動きの悪い着物を着せて、準備をさせていたのだ。
陣内は判っていて、着物と言う言葉で羽田のこれまでの行動から、多分この新田美優は今夜で呼ばないだろう。
しかし,何が起こるか判らないのが羽田専務だから,うかつに決めてしまって失敗をしては今までの苦労も水泡だから、陣内は慎重なのだ。
3-23
美優はシャワーを浴びながら、ネックレスと指輪が駄目になったショックを感じていた。
サロンの近くに一平と若い刑事が車で待機して、発信器の受信器の調子を調べていた。
「おかしいですね」
「何がだ?」
「音が聞こえません」
「イヤリング型以外はもう身体に着けていると思うが」
「ですよね、お風呂かも?」
「指輪も外すか?」
「マイクが濡れると思われたのでは?」
「此処では、踏み込めないし、待つしかない」と言いながらも不安に成る一平だった。
この二人だけが、サロンから尾行をする事に成っていた。
大勢は危険だから、早速佐山に「発信器に何も聞こえないのですが?」
「大丈夫だ、昨日三回テストした」
その時若い刑事が「何か音が聞こえます、扉を開ける様な」
「何!」と耳を澄ます一平、しかしそれからは何も聞こえなかった。
「あの音はロッカーの扉の音の様でした」
「二つともロッカーに置いた訳か」
「水濡れを避けたのですね」
「防水は知っていると思うが」一平は何かアクシデントを感じていた。
美優の美顔が始まって、気持が良かった。
いつもの様に眠ってしまいそうに成るのを必死で耐えたが、媚薬の効果と顔が終わって背中のマッサージで完全に眠ってしまった。
足腕、脇腹と二人のマッサージ師に揉まれ夢心地、胸のアップマッサージ、ヒップアップマッサージと完璧なマッサージを施された。
陣内の指示で、多分今夜が最後だから、羽田専務が喜ぶ様にが、基本にあった。
嫌がると困るから軽く眠りを誘う媚薬を飲まされたのだ。
マッサージが終わると脱毛処理もされたのだった。
バスローブを着せられて、「新田さん、終わりましたよ」の声で目覚めた。
「気持良くて寝ていたのね」
「はい、スヤスヤとお休みでしたよ」
「ああー気持良かった」と背伸びをした。
「髪とメイクに行きましょうか?」と案内した。
美優の髪に髪を付けて舞子の様な髪型に仕上げてゆくのだ。
これは時間が掛かるわ、帰りは元に戻して貰わないと電車に乗れないよね、頭が少し重くなってきた美優だった。
「何も聞こえなくなってもう随分経過していますよ、佐山さん、美優は大丈夫でしょうか?」
「羽田もDIDのビルから出ていない」
羽田の監視、SMビルの監視、隣のビルに佐山達が待機、一平がサロンの側で待機と三カ所で待機をしていたが、肝心の発信器からは何も聞こえなく成って不安が時間の経過の度に増大する一平だった。
髪が終わって「重いわ!」と美優が言う。
「髪飾りも有りますし、普段の倍の髪の量になっていますからね」係が笑いながら言った。
メイクが終わって
「着物に着替えましょうか?」と別の部屋に案内された。
着物架けに飾って有る着物を見て「アレなの?」と美優が指をさした。
「はい」舞子の様な姿を想像していた美優は思わず叫んでしまった。
江戸時代の湯女か?シースルーの着物だった。
態々日本髪にしなくても良いだろう、こんなの着るのなら、
「この着物はプレー用に下に着て頂きまして、上に隣の着物を着て頂きます」と隣の戸を開いて、そこには豪華な着物が架けて有った。
「綺麗!」
「でしょう」と緑川が嬉しそうに言う。
「着物の前にトイレに行かせて」
「そうですね、着物はトイレが大変だから」
美優はロッカールームの自分の荷物から耳用の発信器を手に持って,トイレに入った。
「あっ」
その時初めて自分の陰部が綺麗に無くなっているのに気が付いた。
眠って居た時に処理されたのだ。
あの着物なら,丸見えだ。
しかし、今更中止に出来ない、羽田を逮捕するまで頑張るしか道は無いと気合いを入れる美優だった。
シースルーの着物を着て、豪華な着物を羽織った処に陣内が入って来て
「おおー、今日は素晴らしいですね」
「結婚式の様ですね」と緑川が言うと美優が「悪魔の花嫁ね」と言ったので二人は笑えなかった。
羽田の怒った顔が目に浮かんだからだった。
着付けが終わって『苦しい』と美優が叫ぶと、「そろそろ、行きましょうか?」陣内が言った。
「早くないの?」美優が言うと「場所が遠いから、今からで丁度ですよ」
「えー、いつもと違うの?」
「はい、その姿にお似合いの場所が有るのですよ」
美優は警察の予定が尽く壊れるのに不安を隠せなかった。
「それでは、荷物を」と美優が言うと「終わったら此処に戻りますからそのままで」
困ったと思った美優は「薬だけ飲んできます、車に酔いそうなので」
そう言ってロッカールームの自分荷物から発信器だけを取り出して、帯の間に挟んだのだった。
「今、一瞬音がしました」
「何!」
「ロッカーに発信器は放置されている様です」
「ネックレスも指輪も音は無いですね」
「耳は?」
「まだ装着されていません」
「装着しないと稼働しないからな」益々不安な一平だった。
その時佐山が「羽田がビルを出たらしい、まだ時間が随分早いのだが」
「何か別の用事なのでは?」
「そちらは?」
「発信器はロッカールームの中みたいです」
「何かアクシデントか?」
「どうやら、その様です」
と話している時にワゴン車が出て来た、黒のシールで全く中が見えない、
その時「出発ね!」と美優の声が発信器のONと同時に聞こえた
「美優だ!」一平の声が変わった、
「あのワゴン車を尾行して行こう」再び
「この前の場所よりも遠いの?」
「はい」と二人の会話が聞こえる。
一平は佐山に「佐山さん、そこのビルには行きませんよ」
「何!」
「今、美優が発信器で教えてくれました」
「羽田も随分前から本社を出たのだよ、それでか」
佐山は羽田を尾行している刑事達に「そちらが本命だ、見失うな!」と大声で言った。
佐山達も直ぐさま、機材を片づけて、移動の準備に取りかかった。
予定外の行動に振り回される佐山達だった。
「持田課長、場所を変えられて,今から移動です」
「大丈夫か?」
「羽田専務に二人、奥さんに一平達二人が尾行していますが、裏をかかれてしまいました」
「兎に角急げ、逮捕出来なく成る、会話が重要だから」
「はい」
持田も心配で自分の部屋の中を動物園の熊の如くウロウロしていた。
車は直ぐに高速に乗って西に向かった。
「何処に行くのでしょうね?」
「見つからない様に尾行を」
「はい」二人の車を勢いよく追い抜く車に「違反だ!」と叫ぶ一平の苛立ちが判るのだった。
佐山が機材を漸く積み込んで「一平、何処に向かっている?」
「高速を西に」
「今は?」
「東名を走るみたいですね」
「見失うな」
「はい」二人の緊張が声に現れていたのだ。
「何処まで行くの?」美優の声が久々に聞こえた。
「箱根ですよ」
「まさか、温泉に行かないわよね」
「別荘が有るのですよ」
「こんな遊びが出来るの?」
「江戸時代からの旧家を改造してあると聞いています、」
「陣内さんは行った事、無いの?」
「はい、今日が初めてです」で会話が終わった。
一平は佐山に「箱根の旧家に行くらしいです、別荘って話していました」
「判った、調べてみる」
佐山は持田課長に「場所が判りました,箱根の旧家で別荘だそうです」
「よし、DIDの関係の別荘を探してみよう」
「お願いします」
佐山達も高速に向かうが道路が大渋滞で前に進めなかった。
「回転灯を廻すか?」
「仕方無いですね、此処なら誰も居ないでしょう」
緊急灯が屋根に出て三台の乗用車に二台のトラックが続いたのだ。
急に出現した緊急車に混んでいた車が道を譲り始めた。
まだ東名までは時間が掛かりそうだった。
3-24
DIDが別荘として買っていた。
旧家を改造して、漸く羽田のプレイルームが完成していたのだ。
橋間会長が十年以上前に購入した。
江戸時代からの旧家の別荘を長年の褒美に羽田が譲り受けて、改造をしていたのだ。
今夜が初めてその場所での初プレーなのだ。
自分の家だから、自由に設備が出来たし、廻りに何も無い山の中、羽田はその地形が気に入ったのだ。
車は海老名のSAを過ぎた。
「暑いわ、着物着ているから、飲み物欲しいな」
「次のパーキングで買って来ます」
美優は多分誰かが聞いていると思って何分かに一度話しをして、大丈夫を伝えていた。
佐山に持田課長が「判った、箱根の旧家を十数年前に会長が買っている、そこだと思う」
「はい、有難うございます」
地図がメールで届いた。
「山の中の一軒家だ」
佐山が言ってメールを一平に転送して「一平、今から行く場所は、そのメールの場所だと思う」
「はい、見失っても大丈夫です」一平は場所が判って一安心には成った。
「パーキングに入ります,我々も入りますか?」
「ゆっくり走って追い抜いて貰おう、美優が我々を見るかも知れない」一平は美優にも安心をさせたかったのだ。
制限速度以下で走ると次々と追い抜いて行く、中々美優の車が来ない。
横を走り抜ける車に注意しながら、すると「見えたわ!」と美優の声に右前方をワゴン車が走り去っていった。
一平は思わず嬉しく成った。
「追いかけろ」
「はい」
陣内の車が高速を箱根口で一般道に出た。
「もうすぐ到着です」
「何処かで待っているの?」
「少し離れた場所で時間迄待機しています」
「そうよね、同じ建物には入りにくいわよね」
「その通りです」そして暫くして旧家に到着した。
中から老夫婦が出て来て美優だけを置いて、陣内は立ち去った。
羽田も部下の筒井悠の運転で高速を下りて一般道を走っていた。
「今夜の女性は中々の女だ、俺は女としては接するのは今夜が初めてに成るだろう、悠一目見てから行け、」
「はい」
「欲しかったらやる」
「私はサドですから、タイプが合うか,心配です」
「女の基本はマゾだよ」二人はプライベートが話せる中に成っていた。
羽田は筒井悠を信頼していたのだ。
美優は老夫婦の案内で旧家に入った。
「綺麗な方ね」
「有難うございます」
「この建物にはよく似合う衣装ですね」
中の作りは昔の殿様の屋敷の様に成って中庭に池が有り、とてもこれから淫乱なプレーが行われるとは思われない雰囲気だった。
屋敷の近くの見えにくい場所に一平は車を駐車して,美優の会話を聞いていた「まだ。羽田は着てない様だ」
「静かですね」
「山の中だからな」
その時一平の携帯が鳴って「野平さん、私達ももうすぐ到着します」
「駐車場所を探して突撃準備をして待っていて下さい」
「判りました」警察の車二台は近くに待機した。
マスクを着けた二人が旧家に入って行く、車は駐車場に止めて、今夜中に帰るのだろうか?
一平が二人を遠くから見ていたのだ。
今日は二人を相手に?美優が危険だよ、心臓の鼓動が耳で聞き取れる程だった。
「佐山さん、助けて下さい、僕どうしたらいいのですか?」
「どうしたのだ?」
「今夜の美優の相手は二人ですよ」
「えー、ふたり?」
「美優が幾ら賢い女性でも二人はかわせませんよ」
「声は聞こえるのか?」
「はい」
「もう、危なくなったら突入して良いから、お前も我慢の限界が有るだろう」
「有難うございます」一平は半泣き状態に成っていた。
一緒に居る若い刑事も一平の姿に涙するのだった。
「新田さん、いや、女王様、今夜はお美しい」
「可愛い方ですね」
「飲み物を持って来なさい」羽田が老夫婦に指示した。
「頭が重いです」美優が微笑みながら言うと「艶やかな着物姿ですね」悠が褒めた。
三人の声が発信器から聞こえる。
「気に入ったかい、T君」
「はい!気に入りました」
「それじゃあ、此処で暫く呼ぶまで待っていてくれ」
「判りました」
「ビールでも飲もう」
「私も飲みたいです」
「そうか」
三人がビールを飲んで世間話をしている。
一平がT君は筒井悠だと決めていて、美優も同じ事を考えていたのだった。
筒井賢なら美優はこの時見つかって,羽田は逃げてしまっただろうが、悠は美優を初めて見たから、旅行の名簿には野平美優に成っていたから、気が付かなかった。
老夫婦に羽田が何やら指示をして、美優を別の部屋に案内した。
地下に部屋が作られていた。
「此処は?」
「地下に穀物を入れていたらしいです」
「今は?」
「ご主人の趣味の部屋に変わりました」
その言葉で此処が変態羽田の為のプレイルームに改造されたと知ったのだった。
「二部屋有るわね」
「S部屋とM部屋に別れています」
「何なの?」
「ご存じでいらっしゃったのでは?」
「知らないわよ、派遣だもの?」
老婆は話して良いのか戸惑いながら「サドとマゾですよ、」
「あの叔父さん、マゾよ、叩かれるの好きだもの」
「お友達に逆の方もいらっしゃるから、作られたのでは?私にはよく判りませんが」
「上の若い人の事かな?」
「此処は今夜が初めて使うのですから」
「そうなの?」
「おやすみのお部屋も用意していますので」
「えー、帰る予定よ」
「お疲れで、おやすみに。。。。」
スピーカーから流れる話しに、一平が「此処は、変態の巣か!」
「奥様、大丈夫でしょうか?」
「訳ないだろう」と怒る一平「すみません」若い刑事が謝るのだった。
佐山は高速を全速力で高速を走っていたが、
事故に巻き込まれて、渋滞に遭遇していた
「一平高速事故で走れなく成った、一般道に降りる」
「間に合わなければ突入して良いぞ、課長にも許可は貰った、
美優さんが一番だと言っていたから、安心してくれ」
「有難うございます」
「有り難いのはこちらの方だ、美優さんに怖い思いをさせているから」
そう話していると
「野平さん、変ですよ」
「何がだ!」
「車が三台来ました、私、様子を見てきましょうか?」
「見つかると終わりだ、気を付けろ」
「はい」若い刑事伊藤は車を降りて行った。
一平は美優の会話を聞いている。
「この部屋は、虐める方の部屋ね、器具が少ないわ、隣は逆に器具が沢山有るのよ、若しかして此処の後隣に連れて行かれるのでは?」
美優は多分警察が聞いていると思って独り言を言ったのだった。
それはまるで宛のない会話だった。
暫くして伊藤刑事が戻って来て「野平さん、駐車場に,暴力団が一杯来ましたよ」
「何人だ?」
「十人は居ますよ」
「何故?」
「我々四人では戦えませんよ」
「そうだな、銃を持っているかもしれないからな」
「しかし、何故?」
一平が美優はこの現実を知らない。
変な事を羽田に言ってこの暴力団が乱入したら、我々も美優も命が無くなって、一平の額に汗が滲んだ。
「佐山さん、大変ですよ」
「どうした!」
「旧家に暴力団が大勢来ました、とても、四人では突入出来ません」
「一般道を走っているが中々、速度が出せない、美優さんは?」
「部屋に一人で居るようです、まだ何も始まっていません」
「暴力団が何かを頼まれて来ているのは、間違い無いが、何だ?」
「判りません」
「若しかして、美優さん何かいつもと変わった事言ってなかったか?」
「旧家の地下室には二つ部屋が有ると、
マゾの部屋とサドの部屋で羽田が遊んだら次は自分が隣の部屋に連れて行かれるのかも、と話していました」
「一平、それだ、冷静になれよ、美優さんと遊んだ後、始末する為に呼んだのだ」
「えー!」一平の顔が青ざめたのだった。
迷犬イチ
3-25
「どうしたら?」
「我々が到着するまで、美優さんが耐えてくれる事を祈るだけだ」
「。。。」もう一平には話す力が残っていなかった。
「着物を脱いで、準備をして下さい、もうすぐ来られます」老婆が入って来て美優に告げ.。
「始まる様ですよ」
「録音は大丈夫か?」
「はい」一平と伊藤はスピーカーに耳を傾けた。
美優は帯を解き、シースルーの着物姿に成って、片手に鞭を持って準備をした時、扉が開いて羽田が入って来た。
「姫様、姫様」と言いながら近づいてくる。
「下がれ、下郎」羽田の右腕に鞭が飛んだ。
「ビシー、ビシー」後ずさる羽田に「近寄るな!」
「姫様、姫様」と叫んで近づく羽田に今度は横腹から背中に「ビシー、ビシー」と鞭が当たった。
「お許しを、姫様」。
車で聞いている一平は「危なくなったら行くぞ、そこの二人にも連絡を」
「はい」緊張の二人だった。
辺りはもう暗闇の世界に成っていた。
佐山さん早く来て下さいと一平は心で祈っていた。
その時スピーカーから「武雄、姫に近づくではない!」と美優の叫び声、一平は早い何が起こるのだ?と聞き耳を立てた。
「大丈夫ですかね」伊藤刑事が不安な声を出した。
美優は羽田の反応を見ようとした。
羽田は急に自分の名前を呼ばれて、陣内が喋ったのか、馬鹿な奴、今夜で始末するから、刺激が有るかと思った。
美優は名前を呼ばれて喜ぶ感じに見えて??あれ?と思った。
再び近づく羽田に今度は「羽田!武雄!、姫の側に来るではない」
近づく羽田に再び鞭を放った「ビシー、ビシー」
「ビシー、ビシー」本当に羽田か?と美優は自分の推理に疑問を持った。
それならこれならと「DID専務、羽田武雄君、君の悪事は露見している」と美優が言い放った。
一瞬の静寂に後、態度が豹変して「お前は何者だ!」
「お前に殺された姉の敵だ!」
「何!」
「茜姉さんの敵討ちに来たのよ」
「茜?誰だ!」羽田は美優が此処から逃げられないから、対峙して話した。
「始めから,私の正体を知っていて近づいたのか?」
「その通りよ、東北旅行殺人計画で殺された,姉の無念を晴らす為よ」
「一人で何が出来るのだ、死に来ただけじゃあないか」
「一緒に来たのは、筒井悠でしょう、旅行社の賢の兄の」
「何故、そこまで、知っているのだ、お前は何者だ?」羽田は旅行のメンバーの妹に知られる事では無いと感じた。
そして何処まで知っているのか聞きたくなった。
「闇金撲滅運動のリーダー達を殺す為に仕組んだ、殺人旅行でしょう」
「お前は,何者で何処まで知っているのだ」
「もうバレてるから、マスクを外したら?」羽田はゆっくりとマスクを外したのだった。
「凄いですね、奥様」伊藤刑事が言うと「静かに聞け、突入時期が近い」と怖い顔に成ったのだった。
「一平、もう少しで着くぞ、早まるな」佐山が言ったが一平は聞いていなかったかも知れないほど危機を感じていた。
「もう、貴方の悪事は統べて知っているのよ、何が聞きたいの?」
「ふざけているのか?」
「DIDの橋間一彦の闇の部分、サラ金を始めとして、デリヘルとかを全国で展開の長でしょう、羽田さんが」
「。。。。。」
「今回の旅行で生き残ったのは四人よね、その人達を逃がしたのが失敗よね」
「。。。。」羽田は何も喋らなく成った。
「筒井さんの弟さんを甘く見たわね、彼は事件を警察に届けたのよ」
「何!お前は警察?そんな訳がない、警察の女はサロンで遊んでやったのだから」
「まだ、判らないの、私も旅行に参加していたのよ」
「そう云えば、一組行方不明が居たな」
「それが、私」と自分を指さした。
「私達が参加していなかったら、貴方の完全犯罪は成立していたかも、残念ね」「お前は誰だ!」
「名刑事野平一平の妻、美優よ」
「刑事の妻!」
「羽田さんの犯罪はもう統べて明らかに成っているわ」
「どの様にして、此処から帰るのだ、身体を張った捜査は判るがな」
「上に居る筒井悠に依頼して、弟の旅行社を使った犯罪は失敗だったわね」
羽田は外に出て行って、筒井に「下に降りて来い」
筒井はあの女と遊べるのだと喜んで着いて行った。
部屋に入ると「いらっしゃい、筒井悠さん」と美優が声を掛けた。
「誰です?」悠が羽田に尋ねた。
「刑事の奥さんだ、弟の賢に我々は騙されたのだよ」
「えー」
「東北旅行にこの女も参加していたのだよ、賢の計らいで」
「そんな、賢が裏切るなんて」
「馬鹿な兄を助けたかったのよ」美優が言うと
「一人で来ても仕方が無いだろう」
「馬鹿じゃないの?此処はもう警察に包囲されているのよ、
諦めるのは貴方達よ」
「何!」驚く二人だったが、一平は焦った「包囲してないし、美優」と頭を叩くのだった。
「外に仲間が来ている筈だ、見てきてくれ」
「はい」悠は急いで上に上がっていった。
暫くして「仲間は居ましたが、警察の姿は見えません」
「奥さん、残念な知らせだった様だな」
「えー!そんな」と慌てる美優に「此処で死んで貰うしか無い様だな、二、三人呼んで来い」
「どうなっているの?話しが違う!」と美優が叫んだ。
笑う羽田。
暴力団員三人を連れて悠が戻って来た。
「連れて来ました」
「この奥さんを、始末してくれ」と指示した。
「助けて!」美優の叫び声と同時に、「ズドーン」と拳銃の発砲音が鳴り響いた。
三人は慌てて上に走っていって、続いて羽田と筒井も上がって行った。
「ズドーン」
「ズドーン」と続けて二発の発砲音、
美優はシースルーの着物の上に適当に羽織って部屋を出た。
隣の異様な器具の部屋に入って隠れる場所を探して、電気を消した、
最後に自分を人質にされるのを避ける為に。
「警察です」
「何人だ」
「四人程です」
「始末してしまえ」
「はい」
拳銃による、打ち合いに成って、組員二人が怪我をしていた。
「何丁持って居るのだ?」
「少なくとも、五丁は有る様です」
「近づけないな」
「聞こえませんか?」
「何が?」
「緊急車両の音ですよ」
「佐山さん達だ」
「連絡します」
伊藤刑事が移動した時「ズドーン」と発砲音と共に伊藤が倒れた。
「大丈夫か?」
「はい、足を」右足を玉がかすった様だ。
「警察が来た、人質を連れて逃げるぞ」
羽田と筒井が元の部屋に戻った
「居ません」
「何処に行った、探せ」
「はい」
隣の部屋に筒井が入って明かりを点けた。
不気味な責める器具に「何だ、この部屋わ」そう言って電気を消したので、美優は安堵の表情に成った。
「逃げたみたいです」悠が言うと「仕方が無い、逃げよう」羽田は戦闘の間ににげようとした。
しかし、佐山達の到着で一気に暴力団員達は検挙に成った。
「羽田さん、もう逃げられませんよ」佐山が出て来た羽田に言った。
直ぐさま二人は取り押さえられて、一平は一目散に屋敷の中に入っていった。
「美優! 美優!無事か」と探し回った。
老夫婦が出て来て「あのお嬢さんなら、地下ですよ」と言った。
急いで降りる一平、部屋の扉を開いて「美優!美優!」と叫んだ。
「此処よ、一平ちゃん」と責め具の中から着物を着て現れた。
「美優、大丈夫か?」
「大丈夫よ」そう言って二人は抱き合った。
「怖かったわ」
「そうだろう、」そう言いながらキスをしていた。
「終わったわね」
「美優の命がけの活躍のお陰だ」
「この姿では帰れないよね」
「そうだな」初めて二人は笑った。
羽田は自分の趣味と刑事の妻に負けたと自供はしたが、橋間一彦の事件への関与は否定した。
その為橋間は逮捕されなかった。
野田彩花と小宮信次は晴れて対面になり、筒井賢は海外から森田を呼び戻して、兄の減刑を申し出ていた。
美優は県警から表彰状を貰った。
「こんな、表彰いらないわ、私が頑張らないでも事件を解決して欲しいわ」
「まあ、折角だから、額に入れよう」
「馬鹿ね、この家の壁が額で埋まるわよ」と大笑いする二人だった。
漸く二人は本当に笑い会えた、
その夜イチの異様な鳴き声が部屋に聞こえたのは云うまでもなかった。
完
2014.09、03
十和田湖の霧