周りが遠い道でも

やさしく読んでいただければ、幸いです。

桜色

汗はいくらでも出てくる。
緊張のあまりと言うわけでもなく、走ったと言うわけでもなく。
驚嘆しているのだ。

新しくなった学校、クラス、クラスメイト。
その中に僕の知り合いはいない。
なにせ、僕は進級と一緒にこの町に引っ越してきたのだから。
全てが新しい。

学校に来て、友達づくりは大変そうだなと思っていた矢先、その驚嘆がやってきた。
僕より少し小さな女子生徒が話しかけてきた。

「あなた、緊張している?」

「そ、そう見える?」

「かちんこちんの煎餅みたい」

煎餅とは、また随分な例えにされたもんである。

「緊張はしてないよ。ただ、いきなり話しかけられたから」

「あら、それはごめんなさい。教室についても誰とも話をしていないようだったから声をかけたの」

「ありがとう。なにせ、僕は引っ越してきた身だから、知り合いがいなくてさ」

「あなたも?」

「あなたもって、君のも?」

「はい。今年からこの町に引っ越してきたんです」

まさか、僕以外にも引っ越してくる人がいたなんて。
新たな驚嘆だった。

「これもなんかの縁ですし、よろしくお願いします」

「こ、こちらこそ、よろしく」

僕のリズムの悪い返しに、彼女は微笑んだ。

なんだか少し恥ずかしい。

「そういえば、名前を伺っていませんでした」

「あ、うん。神乃 小有(かんの こう)だよ。よろしく」

「崎楽 飛花(さきがく ひか)です。これからよろしくお願いします」

こうして、僕にとっての初めての友達は、飛花という名前の女の子となった。

周りが遠い道でも

周りが遠い道でも

遠い問いを求めて歩く私たちは、ただ否応なく歩いているわけではない。 ”見えないことを今”

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-07-20

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