指先で紡ぐぼくらの・・・ 【スピンオフ2】
~ もうイッコと、もうイッコの大切なこと ~
『アイザワ君~ このあと、どこ行く~?』
ナナがほんのり日焼けした健康的な笑顔を向ける、日曜の午後3時。
今日も形のいい薄い唇の口角はキュっと上がり、いつも通り機嫌良さそうだ。
タケルとナナ。
ふたり、はじめて日曜に待ち合わせをした。
昼時だった為、マックに入ってまずはランチとする。
ただ食べるだけなら15分で済むはずが、相も変わらずイチイチじゃんけんをし
あいこの手にバカみたいに笑い、気が付いたら混雑する休日のマックに3時間もいた。
まだ陽は高い。
次はどこに行こうかと考え、タケルが近所の公園に誘った。
その公園にはバスケットのゴールが一基あり、ゴール脇のカゴにはボールも準備されている。
日曜ということもあり公園の遊具では子供が遊んでいる姿が見えるが、バスケットは
誰もやってはいなかった。
少し色褪せてくすんだゴールリングネットが、どこか寂しげに垂れ下がっている。
ナナが嬉しそうに駆けだした。
カゴからバスケットボールを取り出すと、ご機嫌にスキップしながらドリブルをはじめた。
そのボールは少し空気が抜けかけているのか、いまいちベストな弾みではないようで
ナナは少しだけ首をひねりつつ、右手・左手と試しドリブルをする。
その姿がなんだか、やたらと可愛らしくて頬を緩めるタケル。
『3点先取でショーブしようぜ~!』
バスケには少し自信があった。
中学の時、2年までだがバスケ部に入っていたのだ。
おまけに今日のナナは、フレアなAラインのミニスカートを履いている。
ニーハイブーツと呼ぶらしいやたらと長いブーツも、走りやすいとは思えない。
若干姑息ではあるが、ミニスカートで激しいスポーツはさすがに女子なら躊躇うはず。
勝ちたい勝負、なのだ。
勝たなければいけない勝負、なのだ。
『勝ったらなんにする? アクエリ??』 左手でぎこちなくドリブルしているナナ。
タケルが、ゴクリ。ノドを鳴らし息を飲み込んだ。
『・・・俺が、勝ったら・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・付き合って。』
ナナが一瞬驚いて固まり、笑いながら言う。
『なんでそんなの、運にまかせるかなー』
『なら、言い方変える。
・・・・・・・ゼッタイ勝つから、付き合って・・・。』
少し肩をすくめて微笑みながら、タケルを見るナナ。
『もし、負けたら?』
その問いに、タケルは自信満々に言い放った。
『負けたら、ヨシムラさんのゆう事イッコ。なんでもきく。
・・・つーか、負けないけどねっ!!』
ケラケラ可笑しそうに笑った、ナナ。 『おっけー。』
地面に四つん這いに崩れ落ちた、タケル。
完璧なまでの、ストレート負け。
『なんでー・・・ ひどいよ、なんでー・・・
中学でバスケとかやってないか・・・ 確認したじゃーん・・・。』
『中学ではやってないよ。
小学生のとき、地元のジュニアチーム入ってただけ。』
涼しい顔してボールを小脇に抱え、片足に体重を掛けて斜めに立つナナ。
『ずりぃー・・・
おまけに、ソレ・・・
・・・・・・・スカートじゃないじゃーん・・・。』
『え? あぁ・・・
ショートパンツだよ? ・・・プリーツで見えづらいけど。』
いつまでも『ダマされた。』 と呟きガックリうな垂れるタケル。
『こんなはずじゃなかったのに。』 と。 そんなタケルを横目に、
『じゃあ・・・ お願いイッコ。 ナンにしよっかなー?』
人差し指の先でボールを慣れた感じでクルクル廻しながら。
その顔は更にご機嫌に、にこやかに綻ばせて。
『俺。小遣い日まだ先だから、あんま高いモンおごれないっス・・・。』
地べたに胡坐をかき、情けなく背中を丸めるタケル。
不満そうに口を尖らせ、目線を落とし指先で爪を弾く。
可笑しくて可笑しくて、ナナの口角は上がりっぱなしだった。
『じゃあさ。 付き合って。』
聞こえたその一言に、うな垂れていたタケルの頭が急にグンと持ち上がる。
『・・・・・・・・・・・え?』
『あたしと。 付き合って・・・。』
『それ・・・・・・・ どーゆう意味で??』
『アイザワ君が言った意味と、同じ意味で。』
慌てて立ち上がったタケル。
立ち上がる際に地べたで支えにした手の平に、膝に、砂の粒。
『・・・・・・・・・・まじ??』
『まじ。』
まるで4歳児のように、真夏の太陽みたいに、タケルが白い歯を見せて笑った。
喜び勇んでナナの小脇からボールを奪うと、ドリブルしながらゴール下へ進みステップを
踏んで上に飛び上がり、ボールをバックボードに預けアンダーハンドでレイアップ
シュートを打ったが、残念ながらゴールリングネットにかすりもせず、ポトリと落ちた。
ムキになってそれを3回繰り返し、まるでギャグのように全てはずすと途中から
笑ってしまって手が震えているタケルと、それをしゃがみ込み腹を抱えて笑って見ているナナ。
気が付くと、空はやわらかく橙色に染まりはじめ清々しい風がそよいでいた。
帰り支度をはじめた、ふたり。
少し名残惜しそうに公園を出て歩きだす。
『でもさー・・・ 実際、付き合うって何したらいい?』
『ん~・・・ まずは。 ケーバンとメアド交換じゃない?』
ナナの言葉に、タケルが呆れて小さく笑う。
『そうだった! まだ知らないんだった・・・。』
『だってあたし達、じゃんけんとダッシュしてばっかだもん。』
すると、タケルが一拍おいて大きめの声を張り上げた。
『あと、もうイッコあるっ!!』
『ん??』 小首を傾げナナが見つめると、タケルがまっすぐ腕を伸ばした。
そしてナナの前で手の平を広げる。
顔を綻ばせてナナが笑った。
そっと、その手をつかむと、ふたり。
照れくさそうに、でも嬉しそうに。 手をつないで歩き出した。
『もうイッコあったっ!!!』 再び張り上げた声に、目を向けたナナ。
タケルの ”言いたいこと ”は、すぐ分かった。
『おっけー!』 聞く前にそう返して、笑う。
『えー、なに? 言いたいこと分かったの? なんで分かった??』
『わかるよー。・・・顔に書いてあるもん。』
『え? すっげえエロいこと考えてたのに!!』
タケルのお尻へ軽くキックした、ナナ。
そして、呆れたようにチラっと目線を遣る。その顔は、目を細め微笑んで。
『もう、ほんっと ”タケル ”はバカでしょーがない・・・。』
『 ”ナナ ”にはナンでもバレちゃうのかー・・・ 気をつけねば。』
手をしっかりつないだまま、『ドンッ!』 の掛け声でふたりで走った。
つないだままだと走りづらくて、ケラケラとふたり笑いながら。
いつまでもいつまでも、ふたりの笑い声が秋の夕空に響いていた。
【おわり】
指先で紡ぐぼくらの・・・ 【スピンオフ2】