字融落下 ―蝙蝠試験―
蝙蝠の羽を生やしている少女は鍵を探していた。
広い空間。ショッピングモールのような商品棚には本や古着、玩具などが並べられていた。
体育館くらいの空間に、鍵を探す男たちは30人はいるだろう。僕も探してはいるが、きっと鍵を見つけるのは僕以外の男だろうと思っていた。
しかし、この空間の隅に鍵はあった。どうやら男たち29人は鍵を見つけることができないのではなく、見えていないのだ。どれだけ望んでも目に映らないなら見つけられないだろう。
僕は螺旋を描く金属の塊を、直感で鍵だと感じた。大きさも形状も松ぼっくりによく似ていて、どう見たって鍵らしくはないが、螺旋を描く金属をよく観察するとつまみがあり、そのつまみを中へ押し込むと、中の細工が外れる仕組みだったようで、螺旋の噛み合わせが緩み、林檎の皮のようにするするとほどけた。
あっけにとられている僕の後ろに少女はいつの間にか近より、僕が鍵を見つけたことを知った。
いつの間にか29人の男たちはいなくなり、部屋は白い空間になる。
蝙蝠の羽を生やしている少女は、左手首を飾る金色の手枷を僕に繋ぎ、笑った。
次には僕の右手首に痛みが走る。手枷から針が伸びて僕の血管を刺したのだと知る。
吸血。
それだけではない。なにやら心臓が急に暴れだし、体が火照る。
痛み、興奮、高揚、ほんのすこしの快楽。
少女は吸血鬼だった。
字融落下 ―蝙蝠試験―
私が書き遺して、私が読み解く。
――溶け出した行間。空想の中に落ちてゆく――。
そして私に伝える。きっと、もうすぐ。