最強彼女

弱い僕と強い彼女。

僕は、西山和也(にしやま かずや)

中2。 

7月7日生まれ。

蟹座。

A型。

見た目は、何処にでもいる中学生を思い浮かべてくれれば、84%の確率で僕(多分ね)。

性格は、ちょっと消極的。

学力は、中の下。

帰宅部。

好きなものは、ハンバーグで、

嫌いなものは、特に無し。

みんなには、カズって呼ばれてる。

(僕の紹介はココで終わろう。)

そんな僕には、彼女がいる。

ほら、あそこで男子と話してる女の子。

あれが、軽山田美夏(かるやまだ みか)

同じ中2

8月15日生まれ。

獅子座。

B型。

見た目は、めっちゃ可愛い。多分、学校一。アイドル顔負け。

性格を語るには、多分、一時間は要する。

まぁ、はしょって言うと二重人格。

学校では、温厚篤実、傾国美女、才色兼備とでも言いましょうか。とにかく可憐。

でも、僕の前では『最強彼女』。 

蹴る、殴る、そして十字固めまで使ってくる。

でも、周りの人に言っても信じてくれない。

だって、いつもはすっごいブリッコしてるから。

それに気づかないのは、男子ばかりでなく女子もだ。

みんな、彼女が二重人格なんて夢にもみてないみたいだ。

その上、賢いから先生からも信用されてる。

成績は、上の上(オール5)。

これも多分、学校一。

華道部、書道部、調理部の三又。

そして、クラス委員をしている上に、生徒会長。

本人曰く、すべて信用されるためだそうだ(そこまでやるか・・・?フツー)。

趣味は、表向きは、読書に華道に書道にお菓子作り。

裏は、柔道に空手にラグビー、そしてボクシング&プロレス観戦(これは誰にも内緒)。

家は、お母さんがどっかの会社の秘書。お父さんは、某大手会社の社長さんだ。

(家に行ったときマジビビった。)

僕が知っているのは、これくらい。

ついでに言っとくけど、僕と彼女が付き合ってるのも内緒だ。

だって、そんなこと知られたら、彼女のファンクラブの部員に殺されるからね。

雨の日の出逢い。

出逢ったのは、今から4ヶ月前の6月だ。

その日は学校帰りに突然、大雨が降って、僕は仕方なく近くの建物に、雨やどりしていた。

だが、厚い雲は去る気配もなく、果てしなくどこまでも、広がっている。

雨は、いつまでたっても降り止まない。

雨の日は嫌いなんだ。

良い事なんてあったことがない。

天気予報は外れるし・・・傘を持っていくのは忘れるし。

僕は、憂鬱と苛立ちを胸に抱えて、雨が降り止むのを、ただ待つ。

「あれ?西山・・・君?」

女の子のきれいで澄んだ声がした。

顔をあげる。

そこには、軽山田美夏の顔があった。

あいも変わらず、今日もきれいだ。

「雨やどり?」

「う、うん」

僕は、一度も話したことがないので、戸惑いながら頷く。

軽山田さんは、いつも友だちに囲まれている。

その点、僕は一人、はやく休み時間が終われと願いながら、机に顔を伏せるているだけだ。

こんなカタチで、喋ることになるとは・・・。

「傘、いる?」

軽山田さんは、少し微笑みながら、鞄から水色の傘出した。

僕は、コクンとぎこちなく頷く。

胸がドキンドキンと高鳴り、今にも破裂しそうだ。

「どうぞ」

「あ、あり・・・が・・と・・・」

僕は、必死に言葉を紡ぎながら、傘を受け取った。

「そんなに、緊張しなくっていいよ?」

彼女は、あははっと可愛らしく笑った。

「あれ?やんだ?」

彼女は、瞬きして、空を見上げる。

空は、いつの間にか、 青く澄み渡っていて、虹が架かっていた。

「うわ!見て見て!きれ??」

彼女が、虹色の橋を指す。

このあと、衝撃的な事実を知ることになるとは、思いもしなかった。

暴力的な彼女と可憐な彼女。

出逢ったのは、今から4ヶ月前の6月だ。

その日は学校帰りに突然、大雨が降って、僕は仕方なく近くの建物に、雨やどりしていた。

だが、厚い雲は去る気配もなく、果てしなくどこまでも、広がっている。

雨は、いつまでたっても降り止まない。

雨の日は嫌いなんだ。

良い事なんてあったことがない。

天気予報は外れるし・・・傘を持っていくのは忘れるし。

僕は、憂鬱と苛立ちを胸に抱えて、雨が降り止むのを、ただ待つ。

「あれ?西山・・・君?」

女の子のきれいで澄んだ声がした。

顔をあげる。

そこには、軽山田美夏の顔があった。

あいも変わらず、今日もきれいだ。

「雨やどり?」

「う、うん」

僕は、一度も話したことがないので、戸惑いながら頷く。

軽山田さんは、いつも友だちに囲まれている。

その点、僕は一人、はやく休み時間が終われと願いながら、机に顔を伏せるているだけだ。

こんなカタチで、喋ることになるとは・・・。

「傘、いる?」

軽山田さんは、少し微笑みながら、鞄から水色の傘出した。

僕は、コクンとぎこちなく頷く。

胸がドキンドキンと高鳴り、今にも破裂しそうだ。

「どうぞ」

「あ、あり・・・が・・と・・・」

僕は、必死に言葉を紡ぎながら、傘を受け取った。

「そんなに、緊張しなくっていいよ?」

彼女は、あははっと可愛らしく笑った。

「あれ?やんだ?」

彼女は、瞬きして、空を見上げる。

空は、いつの間にか、 青く澄み渡っていて、虹が架かっていた。

「うわ!見て見て!きれ??」

彼女が、虹色の橋を指す。

このあと、衝撃的な事実を知ることになるとは、思いもしなかった。

僕と彼女の関係。

「最近、お前美夏ちゃんと仲良くね?」

小学生の頃、友だちだった(しかも高校に入るまでずっと一緒のクラスだった)甕山慶太郎が  
数年ぶりに話しかけてきた。 

慶太郎は、一言でいえば人懐っこくて可愛い。

例えると、そう・・・まるで、犬みたいだ。

誰にでも、愛想を振りまく。

だが、高校に入るとクラスが違ったせいか、友達が多くなったせいか、、

もっとほかの理由があったせいか、

分からないけど、一言も言葉を交わしていない。

あ、でも一回あった。

中二の時の給食時間。



「コロッケ、俺にくれ」

「い、いいよ、あげる・・・」



本当は食べたかったのに、あげたことを、そのあとすごい後悔した。

ついでに、言っとくが、慶太郎は『彼女』のファンクラブの部長である。

彼女の素顔が、ああだと知ったら失神するくらい驚くのだろうか?

僕は、少し思った。

「い、いやそんなことないよ」

「そんなこと、あるだろ。俺、知ってんだからな。昼休み、美夏ちゃんと話してること」

「いや、話してたっていうか・・・脅され・・・」

そう、毎日毎日『あのこと』を言ってないか確かめられるのだ(拷問に近いやり方で)。

「?」

僕は、あわてて手で口をふさいだ。

彼女が、こっちを睨んでいるのが、わかったからだ(地獄耳か?)。

「どーした」

慶太郎が、訝しげに僕を見る。

「ううん、なんでも」

「とにかく!!」

慶太郎が、僕の机をバンッと叩いた。

その音で、周りの視線が集まる。

「今後もそういう、行動がみられるなら学年中でお前をハブることだって、俺には簡単にできるんだからな!」

僕は、いつもと違う慶太郎にビクつきながらうなずく。

「よしっ」

慶太郎は満足したらしく、いつもの笑みで自分の組へ帰って行った。

っていうか、今日の件について昼休みに、こってりと彼女にしぼられることだろう。

それは、みんなにハブられるより、僕にとっては怖いことだった(いつも、ひとりぼっちだし)。

彼女の嘘泣き。

「痛いぃいぃ!!」

僕は今、屋上にいる。

そして、こともあろうか十字固めまでされてる。

だんだん、ひどくなってる気がする。

一日目(あの事件から数えて)は、けられながら質問されて、

二日目は、雑巾しぼり(手を雑巾みたいに絞られること)

三日目は、雨が降ってる中、盆踊りで

四日目は、(三日目で『踊り』にハマったのか)ドジョウすくい

そして今日に至る。

思い返してみれば、ホント理不尽だな、僕。

でも十字固めって・・・。

そのうち、背負い投げされたり、関節外されたりするんじゃないか心配になってきたよ・・・。

ガチャッ

扉があく音がした。

「な、なにしてんだよっ!」

聞いたことのある声。

た、たすけてくれ・・・。

そして、暴行罪で訴えてくれ・・・!!

ホント死ぬってば!

「カズ!お前、美夏ちゃんに・・・!!」

え?!僕かよ?!

訴えられるの僕?!

でも、はたからみれば技をかけているのがこいつだってわかるはず・・・なんだが、

慶太郎は、違うとり方をしたみたいだった。

「お、おまえ、美夏ちゃんに変なことしただろっ!」

してねぇよ!!!

っていうか、するか!!

そんなことしたら殺されるっつの!

慶太郎が、わなわなと唇を震わせる。

「ち、ちが」

僕が反論するが、慶太郎は聞く耳をもたない。

「よ・・・かった」

彼女は、あたかも僕に変なことをされて怖かったかのように肩を震わせて泣いた。

慶太郎は、彼女の小さな肩をさりげなく抱いた。

おい、慶太郎。

鼻の下、のびてんぞ。

「こんなことされて・・・髪の毛もぼさぼさじゃないか・・・かわいそうに」

それは、僕に十字固めをしたからです。

「おまえな!こんなことして許されると思うな!!!暴行罪で訴えてやる!!

僕への疑い、慶太郎との絶交。

慶太郎は、僕が彼女を押し倒して、彼女が嫌がって十字固めをしたと思っているらしい。

押し倒されたんなら、突きはなしたり、もがいたりはしても、十字固めはせんだろ・・・。

「ち、ちがうんだよ」

「なにがっ」

「僕はなんにもしてないってばっ」

「嘘つけ!」

慶太郎・・・お前ホント僕のこと信用してないな・・・。

「けいたろ・・・くん」

彼女が弱々しく口を開いた。

今度は何を言うつもりだ・・・?

「西山くんは悪くないの・・・訴えないであげて」

僕は内心びっくりした。

彼女が、僕をかばってくれるなんて思いもしなかったんだ。

まぁ、彼女がまねいた事なんだけれども・・・。

不覚なことに、胸が熱くなった。

「私が・・・」

彼女の目からまたほろりと雫が落ちた。

それは、とても嘘泣きと思えないくらい・・・。

「美夏ちゃん・・・こんな男のことで泣いてやるな!」

こんな男って・・・。

僕なんにもしてねぇのに・・・。

「カズ・・・・・」

僕は、慶太郎の目を何故か真っ直ぐに見れずうつむいた。

これじゃ、僕が本当にやったみたいじゃん・・・。

「今日から、もう絶交だ!!!」

「・・・・・」

僕がやったんじゃねえのに・・・・・・・・・・・・。

彼女の看病。

おそるおそる、教室に入った僕は、思わず胸を撫で下ろした。

そこには、いつも通りの風景がひろがっていた。

だが、どこか、わびしい感じがする。

なにか、物足りない気がするのだ。

クラスメイトの声がした。

「美夏ちゃん、どうしたんだろ」

「風邪だってきいたけど」

「マジで?大丈夫かなぁ」

風邪?!

あいつが?!

昨日まで元気だったのに。

看病に行こうかな・・・。

いや、いや。

僕は慌てて首をふった。

何で僕がっ!!

ってか、僕そんな答えに至るんだ?!

あいつなんか・・・。

僕は、あいつの悪行を思い出してみた。

それは数えきれないほどあった。

「カズ!」

僕は慌てて、前を見た。

そこには、廉太郎が仁王立ちしていた。

「なに?」

「お前、美夏ちゃんの看病に行くなよ!!」

「い、いかねえよ!!んなの」

「いや、しんじらんねぇな。だってお前美夏ちゃんの事好きだろう?」

「なっ!!?」

「やっぱりなぁ、そうだと思ったよ」

廉太郎が鼻をフフンと鳴らした。

「ちがっ!!」

「ま、覚悟しとけ」

違うってば、何で僕がアイツのこと・・・。

彼女に貸したDVD。

今、僕は自分の部屋にこもってる。

そして、あることに気づいた。

「あ、あいつにレンタルDVD返してもらわなきゃ」

そう、彼女に貸したのだ、DVDを。

え?DVDの内容?

めっちゃ、どろどろしたサスペンスドラマのDVD。(彼女いわく、なんかどろどろ感が好きらしい)

いや、いや。僕がTSUTAYAに借りたんじゃないよっ?!

母さんのだからっ!!!

実は、こっそり見てるとかはないからねっ???!!!

今日締め切りなんだから、返してもらわなきゃ母さんに殺される。

彼女の家に行かなきゃっ!!!

僕は、立ち上がった。

あ、そうだ。

僕、彼女の家しらないじゃん。

ってか、彼女風邪引いてるじゃん。

・・・・・殺されるじゃん。

やばくね?

僕、死ぬんじゃね?

彼女の家は白亜の豪邸。

「なんじゃこりゃぁあああ」

僕は、彼女の家の前に立っている。

目の前に広がるのは、視界に入りきれない程の豪邸。

僕は、開いた口が塞がらない。

これがあいつの家?!!

ありえねぇ!!

僕は、彼女の家を知ってる人に書いてもらった紙に目を落とす。

間違いない、この家だ。

でも納得いく気もする。

あの、(皆でいるときの)品の良さ、立ち居振る舞い。

あれだけ強いのも、自分を護るために,誰かから習ったのだろう。

「あの・・・」

振り向くと、白いヒゲを生やした初老の男が立っていた。

「どちら様で?」

「あ、えっと、西山和也です」

「あぁ、和也君だね!美夏お嬢様から、お聞きしておりますよ」

「はぁ・・・」

「お嬢様の、初めて出来た友だちだって、いつも・・・」

初めて出来た友だち・・・?

彼女には、たくさん友だちがいるのに・・・?

「じい!!」

声がした方を見る。

そこには、ネグリジェを着た彼女が居た。

「何してらっしゃいますか!!寝て居なさいとあれほど・・・」
 
「暇だから散歩しようと思ったの!いいでしょ、そんくらい」

「いけませんよ!まだ寝てて下さい!」

「やだよ〜」

僕はある事に気づいた。

『じい』の前では、ブリッコしてない。

家では、しないのかな。

まぁ、そうだよな。

したら疲れるもんな。

「それと、じい」

「はい、なんでございましょうか」

「余計な事いわなくていいから!」

「・・・かしこまりました」

彼女が、僕の方に向いた。

「カズ、お見舞いに来たの?心配してくれたんだ?」

彼女が、にんまり笑う。

「ちげぇええよ!!」

TSUTAYAでの出逢い。

「はぁ・・・・・・・」

帰り道、僕はうつむいた。

つかれた・・・。

精神的にも肉体的にも・・・。

あれから、なんとかDVDを返してもらって、(まだ、見ていたらしい)彼女のためにストレス発散機

(サンドバック)になって・・・。

思い出しただけで疲れる・・・。

僕は、TSUTAYAへDVDを返しに行った。

返し終わって、帰ろうとする。

あ、またお母さんに借りてこいっていわれたんだった。

僕は、思い出してずらりとDVDが並んでいる棚を見上げた。

確か、次は恋愛ものの映画だったはず。

あった。

棚に手を伸ばしてとる。

恋愛もののDVDを借りるのは少し恥ずかしいが・・・。

借りようとカウンターまでいってDVDを置いた。

「いらっしゃ・・・あれ?」

「?」

早くしてくれよ、レジ(のお姉さん)・・・。

おなか空いたんだよ。

あいつのせいで!

「もしかして、あなた・・・西山くん?」

アルバイト禁止。

「山ノ内・・・さん?」

「そーだよー!」

山ノ内さんは、嬉しそうに笑った。

レジの人は クラスメイトの山ノ内翔子だったのだ。

山ノ内は、あいつの二番目にモテてる・・・らしい。

放課後の教室で誰かが(男子)話しているのを聞いたことがある。

でも・・・・

「うちの学校、アルバイト禁止じゃなかったっけ?」

「・・・・・まぁ」

山ノ内さんは、気まずそうに目をそらした。

「内緒にして?お願い!!」

「いいけど・・・」

後ろを振り向く。

「後ろ並んでるから早くしてくれるかな」

「あ、ごめんごめん」

誰かプリーズヘルプミー。

「おっはよ〜」

教室に入って、まず声をかけて来たのが、彼女だった。

変わらない日常。

「あぁ、おはよ」

「西山く〜ん」

ゲッ。

甘い声とともに、あいつが僕の体に後ろから飛びつく。

そう、山ノ内翔子。

「昨日は楽しかったね。またきてね」

山ノ内さんが、満面の笑みで(後ろにいるからみえないけど)笑ったような気がした。

彼女の頬がぴくっと引きつるのが分かった。

彼女が切れたときのサインだ。

ヤバい!!

そう思った瞬間、彼女は鬼の形相になっていた。

「西山ぁあああああっぁぁぁぁぁぁ」

僕かよっ!!

山ノ内さんじゃねぇのかよっ!!

山ノ内さんは、身の危険を感じたのか、すっと僕からはなれた。

僕を見捨てるなぁああ!!

逃げようとしたが、彼女に二の腕をつかまれる。

「てめぇええええ、昨日あいつと何したんだぁあああああ」

「何にもしてないってばぁっ」

「嘘つけぇえ」

辺りは、しんとなって彼女と僕だけを凝視していた。

「嘘じゃねぇええええってば」

「しらじらしいっ、こうしてやるわっ」

しらじらしいも何もあるかっ!

何もしてねぇんだから!

僕は、後ろから首を絞められる。

く、くるしい!

必死にもがくが、彼女の手は決して離れる事はない。

僕は目を白黒させた。

っていうか、これ殺人じゃねぇ?

どんどん強くなって行く首を絞める力。

がららと、扉の開く音がした。

先生が入ってくる。

先生は僕たちを見て、目を見開く。

そして、すっと青ざめた。

h,help me…….(た、助けて・・・)

僕は、目の前が真っ暗になった。

これ死んだんじゃね?

この物語もう終わりなのか・・・?

僕・・・死ぬのか・・・?

ここは冥土?!先生は天使?!

ゆっくり目を開ける。

僕はベッドに寝かされていた。

消毒液のキツいにおいが、鼻を霞める。

白い天井・・・

ーーーーここは・・・?

起き上がってみる。

首がじんじん痛んだ。

その痛みで、記憶がよみがえる。

ー彼女に首を絞められたんだった・・・。

どうやら、ここは保健室のようだ。

よかった・・・と思わせてもしかして、ここ冥土だったりして・・・なんてね。

「おきた〜?」

今まで何かを書いていた保健の宮部智美先生が振り向く。

「おきまし・・・って先生!?そのカッコ・・・」

なんと、先生は天使の格好をしていたのだ、白衣じゃなくて。

「これ?これねー」

「もしかして先生天使なんですか?!!」

「は?」

先生がぽかんと口を開ける。

先生の頭の上で揺れる輪っか(?)。

「僕死んだんすか?!」

「えっとね・・・」

先生(天使)は、言いにくそうに目を伏せてこぶしを額に当てた。

やっぱり!

僕殺されたんだ?!!

「ここ、どこなんすか?!天国?地獄?」

僕が先生にすがりつく。

「えっと、ちがうのよ」

「へ?」

今度は、僕がぽかんと口を開けた。

「これコスプレなのよね〜」

「コスプレ!?」

「潤ちゃ・・・田山先生にもらって・・・ね、試着してたとこなのよ。そこに西山君が起きたってこと」

田山先生とは、うちのクラスの担任ー田山潤一である。

あの真面目で硬派な田山先生が!?

そう、田山先生の授業中、しゃべったら実験のモルモットにされるっていうくらいの噂が流れているくらい。(オーバーすぎだろ)

笑顔なんか見た事がない。

だが、そんな先生のファンは多い。

そして、宮部先生も結構モテる。

先生目当てに休み時間、保健室に来る男子がいるっていうくらい。

女子にもトモちゃんって呼ばれて親しまれている。

そんな先生がコスプレ?!

ってか、田山先生が一番ありえねぇ!!

そんな事を思っていると、扉が音を立てて開いた。

「トッモちゃん〜♪」

「潤ちゃん♪」

二人は、僕の前で抱き合いやがった。

バカップルか?

僕は、心の中で毒づいていると、田山先生が僕に気づいた。(今頃?!僕ってそんなに存在薄い?!)

「に、に,に,に,に、西山?!」

『に』が五つ多いよ・・・先生・・・・・・はぁ。

僕の両親は・・・。

「えぇーっと、これはだな・・・深い理由があってだな・・・」

深い理由ってなんだよ。

「先生・・・いいです。説明は」

「いや、でも誤解なんだぞ?!」

「大丈夫ですから、誤解してませんって」

先生は空咳して、メガネをかけ直した。

「とりあえず、保護者に連絡して・・・」

「先生」

宮部先生が、田山先生の声を遮る。

「なんですか、宮部先生」

「何度電話しても、つながらないんですよ」

それもそのはず、うちの親は二人揃って秋葉原に行っているのだから・・・。

そう、秋葉原っていったら、オタクの聖地。

うちの親も、オタクなのだ。(二次元の方の)

家中には、フィギュアで埋め尽くされている。

そんな中でこんな平凡な僕が育ったのは奇跡だと思う。

余談だが、めっちゃラブラブなのだ。

さっきまでの田山先生と宮部先生みたいに。

二人がつながっているのは、赤い糸じゃなくて、オタクの絆(いと)

じゃないかっておもうほど。

日が暮れたら早く帰りましょう。

「えっと、今日は両親帰ってこないので一人で帰ります」

「大丈夫なの?」

「はい」

「それなら仕方ないな、ほら」

先生が、僕の鞄を渡した。

「早く帰りなさい、日が暮れたら危ないからね」

はい、絶対そんなこと思ってない?。

だって、僕八時まで居残りさせられたことあるもんね!

宮部先生と、イチャイチャしたいだけなくせに?。

まぁ、お邪魔虫は退散するとしよう。

「じゃあ、さよならっす」

お幸せに?♪

「あぁ」

「バイバイ?♪」

宮部先生の手とともに、頭の上の輪っかが揺れた。

治療費の代わりに?!!

昇降口で靴を履いた。

空は、もう日が沈みかけていた。

校門へ向かう。

校門を通った時、

「カ・・・・・ズ」

と、鬱々とした声が聞こえた。

全身の毛が逆立ってしまうような。

辺りを見回す。

なんと校門の陰に彼女が隠れていた。(かろうじて彼女と分かった)

いや・・・彼女って言ってもいいのか・・・?

貞子の様に、黒くて長い髪を前に垂らして。

あ・・・もしかして。

「お前、僕を驚かそうとしてんだろ?そうはいくか!!」

そういって僕は、彼女にパンチする真似をしてみる。

あぁ、重症だ。こりゃ。

いつも通りのあいつが僕に「お前」っていわれて黙っているわけがない。

「お〜い、いきてるか〜?」

僕は、顔の前に(髪の毛で隠れているが)ひらひらと手を振ってみせた。

「あんたこそ・・・・・」

弱々しい声が返ってくる。

「僕はこの通りぴんぴんだぞ?」

「びっくりしたじゃ・・・んか・・・」

彼女が、僕の腹にパンチした。(いつもより弱々しいが)

それより・・・

「もしかして・・・心配してくれてたの・・・?」

それはありえねぇよなぁ。

僕が彼女の顔を覗き込む。

「違うもん!自意識過剰過ぎ!」

ハイ、スミマセン。

「・・・でも死んじゃうかと思った・・・気絶するから・・・」

そりゃあ、普通の人は、あれだけされたら気絶せざるを得ないと思いますけど?

「まぁな、僕も思ったよ、っていうか治療費ちょうだい」

冗談半分で言ってみる。

「バーーカ」

バカってなんだよ?!

「まじいてぇんだぞ?、この首の傷」

「じゃあ・・・」

彼女が、僕の制服の袖を引っ張る。

ーーー?!!

バランスが崩れて,よろめく僕。

そこに、彼女の唇が頬にあたった。(あたったよりかすったの方が正しいかな)

「なにすんだ・・・?!!!!」

「治療費!!」

はぁ?!!

っていうか僕のファーストキスがぁああぁああああ(泣)

彼女は、少し顔を赤くして,走って家へ帰ってしまった。

僕は、赤くなるどころか青くなっていた。

ぼ、僕のファーストキス・・・もっとロマンティックなのを想像してた・・・のに。

イシャリョウヲヨコセ・・・。

彼女の本当の性格。

まだ、彼女の唇の感触が残っているーー。

僕は、頬を触ってみた。

そして、ある疑問が浮びあがった。

ーー彼女は僕の事が好きなのかーー

・・・いや、ありえねぇ、これだけは・・・!

ーーでも、好きじゃないならなんで?なんでキスしたんだ?ーー

考えても考えても、答えにたどり着けない。

むしろ、もっと分からなくなって来ている気が・・・。

ーーでも、もし!!もしだよ?・・・彼女が僕を好きとして・・・僕は・・・彼女の事が好きか・・・?ーー

いや、嫌いじゃない。

何か憎めない。

彼女が美人だからっていう問題じゃなくって・・・もっと違う問題で・・・。

それと、僕といるときだけに一瞬見せる哀しい顔を見ると、無理してるのかなって思う。

そりゃ、暴力的な所も彼女の一面なのかもしれないが、彼女は僕の思っているより、

ずっとずっと弱くて儚い人なのかなって思う。

そんな顔を見ると護ってあげなきゃなって思うのは思うんだけど・・・。

山ノ内翔子のファンクラブ。

教室に入ると、「おはよ〜!」と、とびきり甘い山ノ内さんの声が聞こえてくる。

それはいつもと変わらない。

でも・・・

「軽山田は?」

「あいつぅ〜?知らない。登校拒否なんじゃなぁい??」

「登校拒否?なんで?」

「ほら〜ダーリンが首締められたんじゃん??そのあと、皆にひかれて先生にも怒られて、教室でてっちゃったよ〜」

そうか・・・そうだったな・・・。

皆にばれたのか・・・。

前までは、早くばれろって思ってたのに・・・。

「って、なにげにダーリンってよぶなぁああああああ」

「だって、ダーリンでしょ?」

「いつ、お前の彼氏になった!!!?」

「なってないけどぉ、ダーリン私の事好きでしょ??私の事もハニーて呼んでいいよぉ」

絶対呼ぶもんか!!

山ノ内は、髪の毛をいじりながら言う。

その発言に周りは、どよめいた。

「お前!翔子様の事を好きなのか?!」

僕の元へすがりついて来たのは、山ノ内のファンクラブの部員である。

「やめぇええい」

教室中に響き渡る声を放ったのは、山ノ内のファンクラブ部長・南藤好男(みなどう よしお)

である。

彼は、ナルシストな事で有名だ。

「でも!本当の事を確かめ・・・いて」

南藤はハリセンで部員達を叩いた。

「翔子様がたとえ彼氏ができたとしても!!愛すと誓ったのを忘れたのかぁあああ!!」

「忘れてません!」

「よし!それでこそ僕たんの部下だ!!」

一人称僕たんって・・・。

っていうか熱ぃーな。

面倒くさそうだから、なるべく関わらない様にしておこう・・・。

僕はそっと離れようと後ろを向いた。

「西山和也!!!この僕たんが何度アピールしても振り向かなかった翔子様が振り向いたって

いうことはお前に何かあるってことだ!!翔子様を大事にしたまえよぉぉぉおぉぉぉっぉぉお」

声が震えている。

最終的には、号泣しやがった。

部員達もそれにつられて泣き出す。

あぁ、なんでこんなのが同じクラスなんだ。

彼女の冷酷(?)な噂。

彼女は、昼休みに遅れて学校に来た。

いつもどおりの彼女。

髪の毛も、手入れされていて、さらさらだ。

目も腫れてはいなかった。

だが、泣いているように、寂しがっているように見えるのは、僕だけだろうか?

彼女は、席につき文庫本の表紙を開いた。

そんな彼女に、冷酷な噂がのしかかる。

半分本当のことだけれども、半分嘘が混じっていた。

噂っていうものは尾ひれがつくものだから。

例えば・・・・・そうだ。

こんなのがあったな。

ー彼女は、サイボーグである。

ありえねぇよ!!!(っていうか、これ冷酷な噂じゃねぇじゃん!)

っていうかバカなやつらは、その噂を信じている。

でも、もしあいつに『私ってサイボーグなんだ』って言われたら信じてしまうかもしれない。

だって、めっちゃ強いから。

僕、死にかけたし。

って、話がどんどん変な方へ行ってる気がする。

とりあえず、話を戻そう。

・・・で、なに話してたっけ?

・・・忘れたな。

ま、いっか。

とりあえず彼女と話してみよう。

うん、そうしよう。

またチャラ男登場。

僕は、下校時間になってもまだ話しかけられないまま、彼女を追いかけていた。

なんかストーカーみたいだけど・・・。

だが、彼女は気付かない。

ずっと、うつむいたまま歩いている。

通りすがったチャラ男が彼女に声をかけた。(またチャラ男かよ!!)

でも、今度はあの雨の日のチャラ男じゃない。

っていうか、なんであいつはチャラ男によく話しかけられるのだろう?

僕が、他の人に話しかけられるのを見てないだけかな?

まぁ、そんなことはどうでもいいや。

ここから(電信柱の陰)では聞こえないので、代弁してみた。

『ねぇねぇ、彼女。どっかあそびにいこーよ』

彼女が、顔を上げて笑う。

『いいよ』

手を絡めあう二人。

・・・っておい!!

危ない人には、ついていかないってお母さんに習わなかったのかぁあぁあ?!!

そんな僕の問いを知るはずもなく彼女とチャラ男は楽しそうに話している。

・・・なんかムカつく。

最終的には、二人で歩いてどこかへ行ってしまった。

僕は、呆然と立ち尽くすしかなかった。

彼女の『友だち』。

彼女はまた学校に来なかった。

どこで何をしているのか。

わからない・・・。

周りのクラスメイトは、いつもと変わらない。

あいつって、もしかして友だちいなかったのか?

クラスメイトとは、『友だち』ではなかったのか?

あんなに楽しそうに見えたのに?

あんなに笑っていて皆に頼りにされていたのに?

あいつが、あんな性格だって分かった瞬間、怖がり恐れ避けるのかよ?!

皆にとってあいつはどうでもいい存在なのかよ?!

沸々とわき上がる怒りという感情。

その感情は自分自身にも向けられていた。

言いたいことを、問いかけたいことを皆にぶっちゃけられない自分の事に腹が立つし情けない。

僕ってこんなに非力だったのか。

僕は机に突っ伏して歯ぎしりをした。

あぁ!!むかつく!!

なんなんだよ・・・。

あいつは、チャラ男とどっかへ行ってしまうし・・・!!

・・・っていうかあの二人はいったいどこへいったんだ?!

もしかして、ホテ・・・・いや、ない!これはないよ・・・な?

彼女が許すはずがない・・・。

でも・・・でも!!彼女が望んでそれをするとしたら・・・?

いや、それはないよな・・・。

じゃあ、二人で心中?!

二人とも人生に疲れてて『じゃあ、自殺しよっか?』って流れになったとしたら?!

いやいやいや・・・そんな『北海道に行こうか』みたいなノリはないよな!!

ない・・・よな?

安堵の息とこれからの不安。

教室がざわめいている。

なぜなら、僕たちのクラスに転校生が来たからだ。

僕は、それより彼女の事を考えていたので、三月の今頃に転校生が来るなんて珍しいなくらいしか思ってなかった。

でも転校生の顔を見たとたん、自分の目を疑った。

だって、そのチャラ男はこの前の彼女と一緒にいたチャラ男だったのだから、

「北山雅(きたやま みやび)や!よろしゅうな」

雅というチャラ男は、名前にふさわしくない程、チャラ男だった。
 
名は体を表すというけれどあれは嘘なのか?

まぁ、そんな事はどうでもいいや

とにかく、心中はしてないみたいだし。

僕は、密かに安堵の息を漏らす。

「よろしゅうな!和也」

「うわぁぇああぁああ?!!」

僕はいきなり話しかけられて飛び上がった。

周りの視線が僕へと集まる。

ぁああ・・・もう。

「どうかしましたか?西山くん」

田山先生が訝しげに僕を見る。

「い、いえ、なんでもありません。すみません」

「そうですか。では、授業を始めましょう」

先生は黒板に向き直り、また文字を書き始めた。

・・・ったく、チャラ男が隣の席だとは・・・。

早くクラス替えしねぇかなぁ。

新しい季節。

待ちに待ったクラス替え。

えっと・・・僕のクラスは・・・

・・・あった。

3の3だ。

担任は、変わらず田山先生だ。

あいつは・・・

3の5。

はなれたのか。

嬉しいような哀しいような・・・。

まだ、彼女は学校に姿を見せない。

今日だって。

また行ってみようか、あの豪邸に。

「だぁりん♪」

また翔子か。

もう・・・。

翔子は相も変わらず後ろから抱きつく。

「和也、おはよーさん」

声をかけて来たのは、雅だった。

この頃、雅といる事が多い。 

席が隣だったのもあるし、こいつといたら面白い。

そして意外に話が合うからだ。

チャラ男だけど。

でも、彼女の事は聞き出せずにいる。

「はよー」

「きいてきいて!」

「なんだよ」

「あのね!わたしたち同じクラスなんだよ〜」

まじでか。

勘弁してくれ。

暴力地獄の次は抱きつき地獄かよ。

「もちろん、わいもな!」

「僕もさ!!」

きやがった。

さっき、隊員といたはずだが。

いつも、ボウフラみたいにわいて出やがって・・・。

っていうかこいつも同じクラスかよ・・・。

先が思いやられるぜ・・・。

彼女のお父さん。

また、僕は彼女の家の前に立っている。

やっぱり、いつ見てもすごい豪邸だ。

「どうしたね?」

後ろから、男の声がした。

また執事さんか?

振り向くと、立派なひげを生やした執事ではない人が立っていた。

周りにはサングラスをかけた、ゴツいおじさんたちがいる。

僕は少しひるみながら尋ねた。

「えっと、美夏さんは・・・」

「美夏かね?」

呼び捨て?

もしかしてお父さんとか?!

「はい」

「美夏は・・・今ちょっとここには、いないんじゃ。すまないのぅ」

「いえ、あの・・・じゃ今どこに?」

「私の伯父のうちだ。いってみるかね?」

「え?今・・・ですか?」

「いや、今じゃなくてもよいが・・・都合のつく時で」

彼女のお父さん(?)が名刺を僕に差し出す。

【軽山田武郎    株式会社 軽山田 社長 ×××ー××××ー×××× 東京都○○区×××ー×××】

社長さん?!

っていうかやっぱりお父さんなのか。

伯父さんの家。

僕は今、彼女のお父さんの伯父さんの家にいる。

ややこしいけど。

っていうかなんだ!これ。

もっと、豪華だと思っていた彼女のお父さんの伯父さんの家は、庶民の僕さえも見た事ないボロい家だった。

こんなこといったら、怒られるけど。

っていうか本当に東京なのか!!??これ!

なんと、伯父さん(*うざったいのでもう省略します)の家は、木で囲まれていた。

簡単にいうと山だ。

「うぇええ」

吐きそう・・・。

そう、ここまでベンツで送ってもらったのは良いんだけど、山をのぼったから

揺れが激しすぎて、酔ってしまったのだ。

って、説明してる場合じゃない!!

マジ、吐きそう・・・。

僕は、右手で口を押さえて左手で(インターホンがないので)扉っぽいものをノックした。

「はぁい♪」

出て来たのは、なんと元気そうな美夏だった。

全然、しんどそうじゃない。

「なにしてんだよっ」

「わっ!カズ!!」

彼女は、丸い目を更に丸くして驚いた。

「わっ!じゃない!学校こいよっ!」

「やだ」

彼女が口を尖らす。

「クラスどうなった」

「おま・・・じゃなくて美夏さんだけ違う組」

「えぇえ?!尚更やだ。ひとりとか」

なんか前よりわがままになった気がする・・・。

懲りない彼女。

「とりあえず、授業は受けろよ。受験生なんだよ?僕ら」 

「それは大丈夫。勉強してるから」 

さ、さすが優等生!!

「だから・・・ほっといてよ・・・」

だんだん小さくなっていく彼女の声。

「まだ引きずってんの?あのこと・・・」

あのこと・・・それは彼女の本性が皆にバレた事である。

「・・・どうでも良いじゃん」

口を尖らせる彼女。

「美夏ちゃぁん!ビールまだぁ?」

家の中から聞こえる男性の声。

「はぁい♪」

彼女の声が変わる。

出た、ブリッコ。

まだやってんのかよ。

いい加減、本性バラしたらいいのに。

「あれ?美夏ちゃん、どちら様?・・・もしかして彼氏かしら?」

「いや、あの・・・えっと・・・ちが・・・」

僕が彼女の顔色をうかがいながら答える。

「違いますよ!ありえない。こんな奴」

彼女と僕。

こんな奴ぅ?!!!!

そりゃ彼女と僕は釣り合わないけど!・・・いろんな意味で。

なんか傷つくなぁ・・・。

「じゃぁ・・・?」

「クラスメイトです」

「そう。お名前は?」

「西山和也です」

「和也くんね」

にっこり笑う女の人。

「和也くんも食べない?いま、昼ご飯なの」

「え・・・でも、僕は・・・」

「若い子が遠慮しないの!ほら、あがって」

僕の手を引く女の人。

強引だなぁ、このひと・・・。


「どうも・・・」

部屋には、顔を赤くした伯父さんらしき人がいた。

っていうことは、この女の人は伯母さんかな?

「はい、伯父さん」

彼女が、昼ご飯が乗ったちゃぶ台にビール瓶を置く。

そして、コップにビールを注いだ。

「すまないねぇ」

女の人が、おひつに入った玄米を茶碗に盛りながら言った。

「いえ、そんな。無料で居候させてもらってるんだからこれくらいしないと」

「助かるわ。和也くん、たべてね」

「はい」と僕の前に茶碗を置く伯母さん。

「はぁ・・・」

彼女の問い。

今、僕は彼女と山の中を散策をしている。

薄桃色だっただろう桜の木は、すっかり変わって、あちらこちらに緑色の葉が顔を出していた。

「あんたさ・・・」

彼女が口を開く。

「んー・・・?」

「翔子の事好き?」

「翔子?嫌いじゃねぇけど?おもしれぇし」

「そっか・・・」

彼女が目を伏せる。

「・・・じゃあ、わた・・・・」

「美夏ちゃぁあん!!」

遠くから聞こえるおばさんの声が、彼女の声を遮った。

「晩ご飯手伝ってくれなぁい?」

「はぁい!!」

彼女は、応えると僕に「ごめん」といって走って行ってしまった。

あいつはいったいなにを言おうとしてたんだろ・・・?

っていうか何で翔子?

僕はぽつんと立っていた。

証明。

結局、僕は何もできずに帰ることになった。

無念・・・。

どうやったら学校に来てくれるのだろう?

どうやったら・・・。

どうしたらいいんだ?僕は。

何もできない・・・。

自分の無力さを知った夜だった。


「どうしたらいいと思う?」

僕一人では、到底思いつかなかったので翔子に問いかけてみた。

「さぁ?」

「さぁって・・・」

「ほっといたらいいんじゃない?」

「ほっとけねーよ、受験もあるのに」

「そんなにあいつが好きなワケ?」

「す、好き?!!」

思いがけない翔子の言葉に戸惑う僕。

「いや、そんなに感情じゃなくって・・・っ!!」

「そんな感情でしょ?明らかに」

「ど、どこが?!」

「ダーリン、あいつのことばっか心配してるんだもん」

翔子が、ぷくぅっと頬を膨らませる。

「そんなことっ」

・・・ないよ。

「じゃあさ、証明してよ」

「証明?」

翔子がにまぁっと笑う。

うっ!

嫌な予感・・・。

「私と付き合って?」

「あ、ありえねぇっつーの!!」

「じゃあ、ダーリンがアイツを好きな事、皆にバラしちゃお! お?い、みなど・・・」

「あわわわ!ちょっ」

思わず翔子の口を塞ぐ。

ってか、これじゃ僕がアイツのこと好きみたいじゃん。

「じゃ、いい?」

「わかったよ!!」

やや、自暴自棄になりながら承諾した僕だった

わがまま姫。

あの日から、僕に不幸が次々と襲いかかった。

例えば、翔子が抱きついて来て失神しかけるし、皆には僕が彼女の事を好きだと誤解するし・・・。

やっぱ、つきあうとか軽々しく言うんじゃなかったな。


「ダーリンッ!」

来た・・・。

「やっぱ、わかれようよ・・・」

「やーだ!私の初めての彼氏なんだからこんなに早く別れるなんて、ずぇえったいやだ!!!」

どうにかしてくれ・・・。

このわがまま姫を。

「ダーリンは私の事好き?嫌い?」

「嫌いじゃないけどさ・・・」

「じゃあ、いいよねっ」

翔子がにこっと笑う。

しまった・・・。

丸め込まれてしまった・・・。

「ほら。次、移動教室でしょ、早く行こ!」

茜色の教室。

放課後、日が西に傾きかけた頃。

僕は、国語の文法ワークを教室に忘れたのでとりにきていた。

遠くから、吹奏楽部の練習と野球部の掛け声が聞こえる。

僕は何気なく教室の扉を開ける。

ーガララ

よかった。

開いてたみたい。

日直、鍵を閉め忘れたのかな?

ま、いいや。

そんなこと。

僕が顔を上げる。

その向こうには、茜色に染まった机といすに座っている

彼女がいた。

こんな所にいるはずが・・・。

僕はごしごしと目をこすった。

「美夏・・・?」

呟くような声音だった。

そのせいか、彼女は気づいていない。

ただ、虚空を見つめていた。

事実。

「美夏?」

今度は聞こえるように言うと、やっと彼女は我にかえった様だ。

「カズ・・・?」

彼女は、僕を見てゆっくり首を傾げる。

「うん。っていうかこんな時間になんでいんの?」

「まぁ・・・」

彼女は、言葉を濁した。

「それよりさ、あれほんと?」

「あれって?」

彼女は、まっすぐ前を見たまま言った。

「翔子とつきあってる事」

「な、なんでっ、それっ!!」

情報いくの、はやすぎだろっ!

「まぁ・・・ね?」

今度は僕が言葉を濁した。

彼女の彼氏。

「やっぱ、翔子の事好きなんじゃん・・・」

「や、でも・・・」

「私も彼氏作るしっ!じゃあね、お幸せに」

「へ・・・?」

彼女は、立ち上がってそそくさと教室に出た。



彼女に『彼氏』が出来たのは、その次の日だった。

「美夏ちゃん、来てるよ。めずらしいね」

ふと耳に入ったクラスメイトの談話。

「そういえば、アノ子彼氏で来たらしいよ?」

えぇえ?!!

「よく、あんな子とつきあおうと思ったね、美夏ちゃんの彼氏。で、誰なの?」

僕は耳を澄まして次の言葉を待った。

「慶太郎くんだってさ」

け、慶太郎?!!!

「あの、ファンクラブの子?」

「そうらしいよ」

「なるほどね、ゾッコンだったもんね」

テスト。

えぇ?!

ってか早過ぎね?

顔に冷水をぶっかけられたような気分だった。

「ダーリン!」

翔子が抱きついて来たが、僕はそれも気づかず立ちつくしていた。

「ダーリン?」

「っ、あぁ!翔子?なに?」

「ダーリン、今朝からずっとぼーっとしてる!そんなにショックだったわけ?」

「だ、だれがっ」

翔子も彼女と慶太郎がつきあった事知ってるんだ。

「中間テスト」

「へ?テスト?」

「うん、英語のテストさっき返されたでしょ」

うぁっ、そのことかっ!

恥ずかしっ、彼女と慶太郎の話かと思った!

僕、意識しすぎだ・・・。

「そんなに悪かったわけ?」

「えっ!どうだっけ」

いつの間にか、机の中に入れてたテストを見てみると・・・

「げっ!!24点?!!」

「うわ、ヤバくない?3年の成績は内申に入るんだよ?受験に響くよ、それ」

「ヤベェ・・・、どーしよ。っていうか、翔子はどうだったんだよ?」

「私?私はもちろん、36点!」

「うわ、頭悪ぃー」

「ダーリンは人の事言えないでしょ!」

「皆の衆!テストはどうだったかな?」

南藤が入り込んで来た。

皆の衆って二人しかいねぇのに。

「僕、24点」

「私は36〜、南藤は?」

「僕は1点さ!!」

「「は??」」

そんなに威張って言える点数かっ!!

「皆の衆、僕ちんを目指し頑張りたまえ!!」

頑張れってどういう風に?

っていうか、もしかして・・・

「南藤、お前テストで一番いい点数は何だと思う?」

「そりゃあ、1点に決まっているさ!!」

やっぱり!!

こいつ、何でも「1」がいいと思ってるんだ。

重症だな。

「ちなみに、成績もオール1だぞ!!」

「あ、そー」

「南藤、高校どうすんのよ?」

「この点数ならどこでもいけるが・・・」

今のままじゃ、どこにもいけねぇよっ!

一位の座。

「ダーリン、順位発表見に行こ!」

順位発表とは、今回のテストの結果を中3の全員中1?50番まで総合点で順位がつけられて

掲示板にそれを書いた紙を貼られることである。

ちなみに、1年の時からそこに僕と翔子はランクインしたことがない。

いわずもがな、彼女は、毎回1位だ。

翔子と廊下を歩いていると、掲示板に数十名、人が集まっているのが見えた。

なぜかその集まりは、どよめいていて皆同様に、驚いていた。

かすかに、声が聞こえた。

「軽山田、一位じゃないのかよ?!」

えぇえ?!

心の中で、驚きの声をあげる。

ありえない、彼女が一位じゃないなんて。

「めっずらしーっ!なんかあったのかな??」

横からきこえる翔子ののんきな声。

で、誰が一位なんだろう?

僕の疑問はすぐに解けた。

「一位は、先間京華らしいぜ!」

最強彼女

最強彼女

  • 小説
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  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-01-06

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 弱い僕と強い彼女。
  2. 雨の日の出逢い。
  3. 暴力的な彼女と可憐な彼女。
  4. 僕と彼女の関係。
  5. 彼女の嘘泣き。
  6. 僕への疑い、慶太郎との絶交。
  7. 彼女の看病。
  8. 彼女に貸したDVD。
  9. 彼女の家は白亜の豪邸。
  10. TSUTAYAでの出逢い。
  11. アルバイト禁止。
  12. 誰かプリーズヘルプミー。
  13. ここは冥土?!先生は天使?!
  14. 僕の両親は・・・。
  15. 日が暮れたら早く帰りましょう。
  16. 治療費の代わりに?!!
  17. 彼女の本当の性格。
  18. 山ノ内翔子のファンクラブ。
  19. 彼女の冷酷(?)な噂。
  20. またチャラ男登場。
  21. 彼女の『友だち』。
  22. 安堵の息とこれからの不安。
  23. 新しい季節。
  24. 彼女のお父さん。
  25. 伯父さんの家。
  26. 懲りない彼女。
  27. 彼女と僕。
  28. 彼女の問い。
  29. 証明。
  30. わがまま姫。
  31. 茜色の教室。
  32. 事実。
  33. 彼女の彼氏。
  34. テスト。
  35. 一位の座。