パーソナルエリア

パーソナルエリア

踏み込むのは、苦手だ。

ソファで縮こまる私に背を向けて座る背中を、抱きしめたくなる気持ちを飲み込む。
背中に額をつけ、擦り寄る。

「起きた?」

振り返りながら読んでいた本を閉じる。

「うん、お腹すいた。」

掛けられたタオルケットに身を包み、ゆっくりと体を起こし目をこする。
立ち上がり、スープ買ってきたからと電子レンジに向かって歩いていく。

人の前でこんなに無防備に眠れたのはいつ頃だろうか。
自宅にいても眠りが浅く3時間おきくらいに起きる私が、いつ寝たかもわからない。

そして何より帰ってきた家主の気配にすら気付かない。
パーソナルエリアに入って来られていても気付かなかった。


私はパーソナルエリアに入られるのが嫌いだ。
それが例え物理的距離であろうが、言語的距離であろうが、突然近くに来る人はいつだって苦手だ。
誰だってそうかもしれないが、そういう人に対して話すのも嫌になってしまうのだから、重症だ。

温め過ぎたスープを耐熱の器に移し替えて私に聞く。

「ごめん、あっためすぎた。そっちで食べる?こっち来る?」

本来ソファで食べられることなんか嫌いなくせに、そう聞いてくる。

「そっち行くけど、熱いと食べられない。」

我儘を言って、甘える自分にももう慣れた。
テーブルに器を起き、ソファでうだる私を起こしにくる。

「ほら。」

手を差し出され、小指と薬指をつかむ。

パーソナルエリアに必然的に入る恋人としての行動はどうしても苦手だ。
でも、この人といると傍に居たくなって、傍にいると触りたくなってしまう。


温まり過ぎたスープを冷ましながら口に運ぶ私を向かいで何処か挑発的に私を眺める彼を一瞥し、目を伏せると同時に彼はクスクスと笑い出す。

「本当、猫みたい。」

「どこがよ。」

拗ねて椅子に座り直してそっぽを向く。

「そういうところ。すぐそっぽ向くくせに、すり寄ってきて。すぐ眠たくなって、俺をみてお腹すいた、って。」

寝起きの頭をくしゃくしゃにしながらまた私のパーソナルエリアに入ってくる。



私のパーソナルエリアは、きっともうこの人の中なんだろうなーとか、そんな突拍子もないことを考えながらまた今日もこの人の腕に包まれながら眠りにつく。

パーソナルエリア

ちょっと書きたいこと書いたら着地点よくわかんなくなっちゃった一作です。

パーソナルエリア

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-07-14

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