ベイクドベイクドベイクドチーズケーキ

「ここ空いてますか?」
と女は聞きながら隣の席に着いた。席に着いた後に
「はい」
と答えたもんだから、何に答えたのかわからない状態である。
肌は浅黒いが、短い袖の中と、露出した部分でだいぶ色が違うのでおそらく夏に海に入る時シャツを着ながら海にはいるけしからん輩なのだろう。そのくせズボンはごくごく短く、そこからにゅうと細い足が出ている。はてはて、どうしたものかこの女、と考えていると教授が僕にマイクを向けた。
きょとん、と顔で言うと教授の方もきょとんと顔で言うものだからはてさて困ったものだ。
こいつはいっちょう黒板の文字を解読してやろうかと黒板を見ると、絵なのか字なのか区別のつかないものが所狭しと書かれているものだから、僕はたっぷりとした時間
「あー、えー、あー、えー、んー、まー、あー、えー、あー、えー、うん、まー」
と発声練習しているときょとん教授は眉間に器用に皺を寄せて一言二言ボソボソ言ったので、とりあえず僕の方も
「すみません」
と置いておいた。

授業終了のチャイムの後そそくさと出席票を出し、廊下に出ると、中との温度差に存分に絶望した。この暑さのせいですっかりと意欲をそがれてしまったので今日の所は図書館に行って家に帰るとした。
午前の図書館は人もまばらで、まだ寝起きの空気がぼんやりとしているようだった。
とりあえず、適当に数年前になんやかやの文学賞をとった小説を1冊もち、自動貸出機で手続きをした後図書館をでた。10分程で気温なんぞが変わるわけもなく、太陽はあちこちから日陰を奪い去って、満遍なく世界を夏に染め上げていた。
くぐっとたじろいでいると、前方から現れた女こちらに向けて笑顔で近づいてくる。はて。誰であったか。
と思うやいなや、僕の横を通り過ぎうしろの男に楽しげに話しかけた。見た所、その男は今年の文学賞を誰がとったかなど生まれてこの方気にしたことなどなく、この目の前の女の乳房をどうしたらまさぐれるかにしか興味のないような顔立ちをしていた。
どっと疲れた。一目散に家に帰ることにした。
校門の近くで、臀部の豊かな女が団扇を配っていたので受け取った。
パタパタと扇ぎながら歩くも、送られて来る風は粘り気を含んでいるため余計に暑い。扇げば扇ぐほど汗が吹き出た。これもまさにあの女の策略に違いなかった。
この世界は膨大な陰謀に満ちていて、その多くは僕に向けられているらしかった。

ベイクドベイクドベイクドチーズケーキ

ベイクドベイクドベイクドチーズケーキ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-07-13

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted