三題噺「神」「大阪」「甘噛み」
「隣の星に囲いが出来たんやと!」
「……そうか、それは立派な囲いなのだろうな」
「そうなんよー、って! そこはへぇ~って言わなアカンとこやろ!」
途端に頭をはたかれる。
「……痛いぞ」
「当たり前や! 漫才コンビがボケとツッコミせんで何するねん!」
「……何をするんだ?」
「ま・ん・ざ・い・じゃボケー!」
私がヒロアキと出会ったのは今から一年前のことだ。
行くあてのない私を住まわせてくれたばかりか、一緒に漫才師になろうと誘ってくれた。
だから、私はヒロアキの言う宇宙一の漫才師になることに決めた。
……とは言うものの漫才師が何なのか未だ私にはよくわからないのだが、ヒロアキには言えないでいる。
「それにしても、お前よくそんなんで今まで生きてこれたなぁ。ひょっとしてほんまに宇宙人なんとちゃうか?」
出会った頃からずっと、ヒロアキは私のことを宇宙人と呼んでいる。
「なぜわかった? ヒロアキはこの星で言う神なのか?」
「ま、まさかお前……本当に宇宙人なんか……?」
「ああ、そのまさかだ」
「そうやったんかぁ、って! 安直すぎやろそのネタ!」
「……ネタとは、なんだ?」
「宇宙大好きっ子の俺にとってそれはネタっちゅうんじゃ!」
「そうなのか。では、ネタだ!」
「そんなん言われんでも知っとるわい!」
そんなこんなでなぜか盛り上がり、一緒に漫才師を目指すことになった日のことが懐かしい。
ある日、私が物を宙に浮かばせてしまったことがあった。
「お、お前……ほんまは宇宙人やったんか?」
「ああ、宇宙人だ」
「そうやったんかぁ、って! お前なぁ、そんな芸があるならはよ言えや!」
「……芸とは、なんだ?」
「大阪の方ではそれを芸っちゅうんじゃ!」
「そうなのか。では、芸だ!」
「わかっとるわい!」
ヒロアキのそばにいると楽しい。それは初めて会った時から変わらない。
「なあ、ヒロアキ」
今日も私はヒロアキにツッコミを受けた。
「なんじゃ、宇宙人」
「やはり痛いぞ」
「当たり前や! 噛みつくようにしばいたるのが俺の愛っちゅうもんじゃ!」
「……これは愛だったのか」
「ああ、そうや。甘噛みみたいなやわっこいツッコミじゃ愛は伝わらん」
「すまない、私には男に対して恋愛感情は、」
「ア、アホぬかすなボケェ! それとはちゃう! これは別もんや!」
「……そうなのか」
「そうじゃ、ボケェ……」
その顔は怒っているようで笑っているようだった。
「愛とは難しいな」
「そうや、だから宇宙の奴らにもわかる笑いで俺らは天下を取るんや」
「大丈夫だ。ヒロアキは宇宙人から見てとても面白い」
「なんや、その上から目線。俺らで取らな意味ないやんか」
「……そうだな」
「なあ、ヒロアキ」
「今度はなんじゃ?」
「本当は気付いてるんじゃないのか?」
その時、ヒロアキはいつものヒロアキだった。
「……何のことかさっぱりわからんな、宇宙人。俺はただお前となら天下取れるて思うだけや」
「……そうか」
「そうや」
今日も私はヒロアキのツッコミを受ける。
二人で宇宙一の漫才師になるために。
ただ、いつも不思議に思うことがある。
ヒロアキはとても面白いのに、他の人間は誰も笑わないのだ。
何故かと聞けば、またヒロアキに叩かれてしまうだろうか。
私にはわからない。
三題噺「神」「大阪」「甘噛み」