窓
日岩千歳ーひじりちとせ
叶アキラーかのうあきら
永嶺智秋ーながみねちあき
櫛田百利ーくしだもり
比奈本万城ーひなもとましろ
短編でポツポツと更新していきます。
好きな人と上手くいく可能性はない、皆妥協して今の人と一緒になってる。でもそれでいいのかな
ー日岩 千歳ーひじりちとせ
ああ、暑い
なかなか締まらないネジに悪戦苦闘しながら空を睨む。
七月に入ったばかりだというのにどういうことなのだろうか....
作業着の中に入ってくる汗を拭おうと腕をまくろうとすると、
「日岩!なにしてんだ!。」
後ろから強い声が飛んできて思わず肩をびくつかせる。
あー、この声は櫛田さんだろうな。
斜め前で作業していた同期叶がニヤニヤしながら私を見る。
その叶の顔を思いっきり睨み「はい!。」と返事して声をした方向を向く、すると
私の直属の先輩にあたる櫛田百利が作業箱片手に仁王立ちをしていた。
「何ですか。」
返事をしたあとに怒鳴るように言わなくてよかったと胸を撫で下ろす、
もし言ってしまったら後が面倒くさい。
「今何しようとした。」強い声とは変わり冷たい声が聞こえる、
色々な機械が動いて音が凄いのにこの冷たい声でよく通るから
全くなんなのだろうと思う。
「少し汗をかいたので涼しくなろうと腕をまくろうとしてました。」
櫛田の唇を見ながら言う。その唇にどんな言葉が出てくるか
さっさとしろと言う意味を込めて睨む。
「作業中ちゃんときてろ、皆我慢してんだ。」
その唇から言葉が言葉が出てきたら自然と目ぬを見ないとと思ってしますから嫌だ。
すみませんでした、今後気をつけます、頭を下げ作業に戻ろうと後ろを向くと、
私がさっきまで悪戦苦闘していたネジを、締める後ろ姿があった。
男性にしては細い背中、がっしりタイプの体型ではないが
この背中を見ただけで誰だかわかるから、自分がこの人をどれだけ好きか実感する。
声がうわずらないようにと念じながら声を掛ける。
「比奈本さん。」
ネジを締めていた手を止め、ひじり?と言われ見上げられた。
今年で19歳になるのに152センチと小さい私は、いつもこの人に見下ろされているから、
その見上げられた顔、普段見ない上目遣いにドキドキしてしまう。
「ヒジリこのネジ締めにくかったでしょ?オレでもちょっと苦戦した。」
男性にしては低い方ではないが、かと言って高いと言うわけでもない声で
柔らかい笑顔を浮かべて言う。
あああああ、この笑顔、声、姿、今日は朝から姿があることを確認していたけど、
声をかけてもらえるなんて超ラッキーだ!
櫛田に叱咤されたことなど忘れ、幸せな気持ちが溢れてくる。
叶がまた、ニヤニヤしてくるが今度は一瞥しただけで、終わらしてやる。
折角比奈本さんが近くにいるのに、アホな同期を見るなど勿体無さすぎる。
「締める事できると思ったんですけど、時間かかっちゃいました。」
目を逸らして、さっきの櫛田と話す声とはうって変わり
女の子らしい声で言ってしまう。
こんな事で声が変わってしまうから、自分が単純過ぎて嫌になる。
「無理、しないで、自分で無理だなって思ったら頼みなよ?
それと暑いから熱中症にも気をつけながら作業しなよー?。」
心配そうな顔で見つめられ、ドキマギしてしまう。
折角話せたのに、見つめられたのに、小声でボソボソとはいと言ってしまう。
それにも関わらず、比奈本は顔をニコッとさせ、工場内に戻っていった。
あーもったいな、もっと話したかったのに....
「おい色ボケ最終確認するぞ、また櫛田さんに言われっぞ。」
叶に声をかけられ、仕事モードに切り替える。
「誰が色ボケだ、アホ。」
かかんで製品の最終確認を行う。
これが最終オーダーの番号確認、点検して2人でダブルチェックをして終了だ。
よし!と2人で指差呼称を行い、一段落つく。
「今日ってこれで終わりだっけ?。」
「たーぶーんー?俺に聞くより櫛田さんに聞けよー。」
だるそうに叶が言う、すると突然顔をにやりとさせ
それより、今日は飲もうぜ!と言い出す。
こいつは全く.....
「またー?先週行ったばっかやん、あんた飽きんなぁ。」
いつも突然の思いつきで叶が言い出し、日岩は毎回呑むのに付き合っているが
流石に先週先々週と行き、今週で3度目だ。
懐がそろそろ厳しい。
するとそれを察したのか、叶は意味ありげに笑い
「今日は比奈本さん達のおごりだからいいだろ? 。」
まぁ断るんならそれでもええけど、
くそ、反則だ比奈本さんがいるなら私が行かない訳がない。
「行くから、残りも頑張ろうかぁ。」
どうでも良さそうにつぶやき、軽く屈伸をして立ち上がる。
お前って分かり易い。叶の声がするが、だったらなんだと無視をする。
終業まであと1時間、呑みまであと4時間
どんな格好をすればいいか、考えながら歩いていく。
これが今の私の日常、千歳19歳、
恋を舐めていた汗まみれの可愛い私だ。
窓