トーチソングトリロジイ
2006/12/12 『トーチソング・トリロジー』 アステールプラザ
作=ハーヴェイ・ファイアスティン
演出=鈴木勝秀
キャスト
アーノルド=篠井英介
エド=橋本さとし
アラン=長谷川博巳
ローレル=奥貫 薫
ディビッド=黒田勇樹
ベッコフ夫人=木内みどり
ボーカル&ピアノ=エミ・エレオノーラ
DJの声=池田成志
・・・、と此処まで書いたが、実は帰ってプログラムを詳しく見るまで池田さんがDJやっているなんて気が付かなくて・・・ 聞き逃したーーー(涙)
これは同性愛者の愛の物語、題名のトーチソングは失恋の歌、そしてトリロジーは3部作と言う意味だそうだ。専門用語が出てくるので帰ってから辞書を引きましたよ?! 例えばホモ=ホモセクシュアルとは男性の同性愛者、バイ=バイセクシュアルは男女どちらでもOKの人、ストレートとは普通の男女間の愛・・・、と言った具合(笑)
さて予備知識はこのくらいにしてこの物語はホモのアーノルドのトーチソング・トリロジー・・・。
一幕はアーノルドとディビットのお話、舞台は一段高い所に置かれているピアノを弾きながらハスキーな声で歌っている女性の歌声で始まった。
この生のピアノと歌声が舞台の退廃的な雰囲気を盛り上げるのに、とても効果的に使われていた。
そしてアーノルドが登場してくる。夜会巻きの様に高く結い上げた髪にキラキラと光る身体にピッタリのロングドレスの篠井さん、とても綺麗?!そして同性愛の愛に付いて語り始める。右手の中指と薬指を折り曲げるのが愛していると言うサインらしい。あの『メタ・マク』の最後の狐のような形に良く似ている(^^)
「本当に愛している、でも充分じゃなかった」
入れ替わってお相手のエドが登場してくる。アーノルドを愛しているけど世間体が気になっていて、ローレルと言う女性との結婚を考えている。エドはバイなのだ。
電話がかかってくるのが待ちきれなくて自分から電話をかけ、今の電話は貴方だったの・・・? こんな見え透いた言い訳をするアーノルドの女心(?)がいじらしい。だがアーノルドも失いたくないと言う、そんなエドに腹を立て思わず電話を切ってしまい・・・エドとは終わった。
暫くたってエドが店を変わっているアーノルドを訪ねてくる。君と居ると安心できる、もう一度付き合いたいと・・・、だがローレルとも続いているのだ。まことに身勝手なエドの言い分。
橋本さとしさんは優柔不断で、自分勝手なエドを嫌味なく自然体で演じていて、ふと『ベガーズ』のトム&フィルチを思い出してしまった(^^ゞ。
ミュージカルもこなせるし、『噂の男』ではぞっとするような冷酷な人間にもなれるし、役の幅の大きさに感心した。
2幕は舞台半分を占めるくらいの大きなベッドが八百屋舞台のように斜めにデーーンと座っている。
ここはエドの農場でローレルは二人の関係を確かめたいと週末にアーノルドを誘った。アーノルドは友人を連れて来るという。
大きなベッドの上手側にエドとローレル下手側にはアーノルドとアラン、アーノルドの今の若い恋人だ。長谷川さんは『モンテ』以来だけど、全然雰囲気が違っているのにまず驚いた! アーノルドの心を惹き付ける若い恋人、という微妙な人物をとっても素敵に演じていたが、すごくスリムでジーンズを穿いた足の細さに驚いた?! しかし出番は2幕だけで終わっちゃったのがとても残念、もう少し見たかったなぁ?! この長谷川さん、今年の暮れに文学座を辞められたのだそうだ。
エドはアーノルドがアランを連れてきたのがとても不愉快だ。アランもアーノルドの前の恋人の事が知りたくて此処へ来た。
此処でのシーンはベッドの上のカップルにそれぞれスポットライトが当たり、疑心暗鬼に陥った微妙な立場の4人が入り乱れての会話で進む。そんな中でアランとエドはキスを交わし・・・、 一体この二人はどうなってんの?(笑)
しかしこの農場でお互いの存在を確かめ合った2組のカップルはそれぞれが結婚・婚約へと進んでいく。
2幕が終わるとこの大きなベッドは上半分は下手に、下半分は上手に分解されて人力で袖に引っ込んだのがなんとも可笑しかった(笑)
3幕はアーノルドの部屋、舞台中央奥に窓がありビルの景色が見えている。下手のドアはバスルーム、上手にはキッチンがあり中央にテーブル。アーノルドはここでデイビッドと暮らしている。保護観察中のデイビッドを引き取り母親のように面倒を見ているのだが、勿論彼もゲイである。その部屋に数日前からエドが泊まりに来ている。ローレルとうまく行かないと感じているエドはアーノルドともう一度やり直したいというがアーノルドは取り合わない。そこへアーノルドの母親ベッコフ夫人が尋ねてくる。勿論彼女はアーノルドがゲイだという事は知っているしアランのことも知っているが納得している訳では無い。母親にとってアーノルドはやはり息子なのだ。アーノルドはデイビッドと養子縁組をしたいと話すが勿論母親は大反対、デイビッドはその母親をおばあちゃんと呼ぶ。 アーノルドが母親だからその母はお婆ちゃん、という訳だ(笑) だがデイビッドもアーノルドの心の隙間を埋める事は出来ないようだ。アーノルドと母は出口の見えない言い争いを繰り返す。そんな母親に苛立ちを覚えるアーノルドは自分が欲しいのは愛と尊敬だけ、それを与えてくれない者は自分の人生から出て行ってもらうと言い放つ。だがアランの事が忘れられないアーノルドは母に心の寂しさを打ち明ける、「アランに逢いたい・・・」 アランとの愛が本当の愛、この言葉がこの作品が言いたかったことかと思った。アーノルドの頬を涙が伝う。
この3幕でアーノルドはゲイという存在の不安定さや疎外感を何度も語る。アランもその為に少年に殴り殺されたのだと。
篠井さんは本当に当たり役!髪型などは男性の姿なのだが、白いウサギのスリッパの大きな耳をヒラヒラさせながら穿いて歩く姿はとても可愛らしく、女性を感じさせる雰囲気なのだ。 この作品はゲイであっても愛する心は普通の男女と変わらないのだが、ゲイであるゆえの辛さとか愛する人を失った寂しさを切々と訴えているんだな、と思った。
だがしかし・・・、私にとってはなんとも不思議な世界を見せてもらった作品だったなぁ?(^^ゞ
それにしても3時間を越える上演時間は長かった・・・。
トーチソングトリロジイ