絆創膏
「小説家になろう」時代。
お付き合い期間が七ヵ月、籍を入れてから二年と少し。
中小企業で日々営業に回る、少し潔癖な以外にほとんど欠点の見当たらない旦那は、私には優しすぎるほどの旦那で、日々得体の知れない不安が腹からせり上がった。
「うん、今日もおいしい」
もともと寡黙なタイプのツレが、食事の時は頷きながら口を動かす。
少し汚い箸の持ち方は、何度指摘しても直らない。
「これとかさ、しょっぱくておいしいよ」
「……そう」
「俺、こういうのが好みだ」
「――……」
彼の向かいで頬杖をつきながら、また新しいおかずを口に運ぶ様子を眺めていた。彼の口に合わせて少し大ぶりに切ったジャガイモが、ぱっくりと消える。
それが何ともグロテスクに映って、思わず訊いた。
「……本当においしいの?」
「? ずっとそう言ってるじゃない」
彼がどうして、と逆に問いたげに首を傾げたので、なんでもない、と目を逸らした。
彼の軽い言葉が、やんわりと追いかけてきた。
「変なの。初めて作ってくれたサンドイッチからずっと、俺の奥さんは変わらず、料理上手な女の人なのにね」
ふっ、と片頬で笑ってから、今度は牛肉が消えた。
「でも、相変わらずちょっと間抜けなところもあるんだね」
「? どうして」
予想外の言葉に反応すると、彼は「ほら、」と私の左手を撫でた。
親指には、真新しい絆創膏が巻かれている。
「未だに指切っちゃうんだね。注意するように」
「……うん」
彼の手に重ねるように、右手を添える。
――幸せだ、と思った。
何も心配はいらない、私の望む幸せのかたちそのものだと。
だからもうやめようと思うのに、明日の夜にはまた不安に苛まれるのだろう。
私の親指から溢れた深紅の愛情を一滴、彼の食事に忍ばせずにはいられなくなるのだろう。
潔癖な彼に気付かれないように、一滴だけ。
「ねえ」
「ん?」
「好きよ、あなた」
指先で彼の手をなぞる。
彼の身体で巡る私の愛を追いかけるように。
血で縛られたまま、私から離れられなくなるように願いながら。
「大好き」
僕もだよ、という返事を待った。
絆創膏