ゆうたち
「小説家になろう」時代。
すん、と鼻を鳴らす。
人よりよく利くそれは鋭敏に、雨と、そこに混ざる血の臭いを嗅ぎ取った。雨が上がれば、加えて腐臭が、辺りに立ち込めるだろう。
きっとその臭いは、誰にも拭い取ることができないし、拭い取ってはいけない。この土が、木々が、茂みが吸った血を、忘れてはいけない。
これは自分が直接被りきれなかった血だ。敵も味方も、数えることが面倒になって悼みきれなくなるほど死んだ、そのせいで流れた血なのだと、叩きつけるような雨粒が喚き叫ぶ。
「こんなものが」
雨で凍えた身体が吐き出すのは白い息だった。
それでも自分は生きている、と実感するには充分すぎる。
「こんな戦いが、未来のためになどなるものか」
美しい未来のために今を犠牲にして何になる。
そんな足し算と引き算でしか世界は回らないのか。
「そんな世界を、救いたかったわけじゃない」
頬が熱いものが伝う。
それもすぐに雨に冷やされて、ああ酷い臭いだ、と目を閉じる。
救えたところで、救うには力足らずな己の手を見下ろすことも諦めた。
ゆうたち