gemini・fantasia

「小説家になろう」時代。

ドッペル

 ぼくと同じ、うつくしい顔。
 ここ十何年か付き合ってきたけれど。

「そろそろ飽きたな」

 ぼくがそう言うと、君も頷いた。

「どこに言っても同じことを言われる」
「女の子のようにかわいくて」
「男の子のようにりりしくて」
「もう、うんざりだ」

 みんな同じことを考えているんだろうね。
 こんなにうつくしい顔が並ぶことを、
 そんな顔を並べて見ることができることを、
 幸せだなんていうふうに。

「並べられるほうの気持ちになってほしいものだよ」
「愉快なわけないだろう」

 ぼくはぼくで。

「わたしはわたしなのに」

 まるで同一のように扱われるのは不服だった。

「……まあ、良いけれどね。」

 うつくしい顔が、そっと吐き出したのは。

「実際はとても簡単な話だからさ」
「君がいなくなれば、わたし一人だから」

 こふ、と最期の息を吐き出したぼくは。
 ぼくには到底できない笑顔を浮かべた『ぼく』に、ばいばいを告げた。

ゲンガァ

 私の醜い片割れ。
 私そっくりの醜い片割れ。

 そっとその白くて柔らかい首筋に指先を埋没させながら思考する。

 これがいなくなれば、私は私として見られるだろう。
 そう、至極簡単な話。

 私たちの共通の望みは、『一個人』を得ることだから。

 指先は埋没させても、
 個性は埋没させたくない。

 こふ、という吐息の後に、君はばいばいを言った。
 そして私がばいばいを返すより先にいなくなってしまった。

 さあさあ私一人だ。
 私ただ一人の個人が完成したぞ。
 笑おうか、泣こうか叫ぼうか。

 衝動に任せて駆け出そうとしたところで、やっぱりやめてしまった。

「意味が、無いじゃないか。」

 双子という個性が無くては、私はただの凡人に過ぎなかった。
 醜い醜い顔しか持ちえない、ただの私だった。

 やっぱり返っておいで、と足元に寝転がる君を揺さぶっても、無視を決め込むのか。
 そんなのあんまりだ。
 個性は埋没させたくないと、言ったじゃないか。

 なのに、誰も聞いてくれはしなかった。

 君がいなければ、私は一人ぼっちだった。

gemini・fantasia

gemini・fantasia

鏡合わせであること。それだけで充分だとは思えなかった。それしか無かったのに。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-07-10

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. ドッペル
  2. ゲンガァ