シラノ・ド・ベルジュラック
2006/11/3・4 『シラノ・ド・ベルジュラック』兵庫県立芸術文化ホール
文学座創立70周年公演
作=エドモン・ロスタン
演出=鵜山 仁
出演
シラノ・ド・ベルジュラック=江守徹
クリスチャン・ド・ヌーヴィレット=浅野雅博
ロクサアヌ=高橋礼恵
伯爵ド・ギッシュ=菅生隆之
ラグノオ=三木敏彦
ル・ブレ=早坂直家
他 文学座の方々
出来て間もない兵庫県立芸術文化センターは阪急西宮北駅から直結の新しいホールで広くてとても綺麗だ。駅前という条件の良い場所にこんな広い土地が確保できたのは阪神大震災で、ここにあった建物がなくなったからだという。
大・中・小と3つのホールが有るが大ホールは主にオーケストラの演奏会がおこなわれるのだろうか?音楽会のポスターが沢山目についた。
階段に囲まれたホールの中央には「そら豆」の形をした大きな石のモニュメントがでーんと置かれていた。しかしだ、これだけの人が集まる場所なのに、中には小ぶりのレストランが一箇所あるだけで他にはお茶を飲む所さえない。ホールの周りにも喫茶店らしき店が見当たらないし、観劇前にチョット何か食べたいと思っても座る所さえない有様では観客から不満は出ないのだろうか? 場所は充分にあるのだからテナントでも入れて欲しいものだと思う。
それと新幹線で新神戸を降りて地下鉄で阪急へ乗り換える為、三宮へ降りたが、なんと阪急乗り場への案内がない(笑) 帰りも阪急で三宮へ降りた所へ市営地下鉄の案内がない。お互いライバルかもしれないが、三ノ宮駅は乗り換えの拠点になる駅なのだから全国から集まる観光客の事を思えば、もう少し親切に判りやすい案内板を設置して欲しいものだ。
神戸での観劇と言えば駅直結の新神戸オリエンタル劇場の便利さがとても有り難かったので、つい色々と不満が出てしまった(笑)
さて不足ばかり言ってないで「シラノ・ド・ベルジュラック」の粗筋を(^^♪ とても有名な話だけど・・・。
パリの芝居小屋でガスコンの青年隊に入隊する為にはじめてパリに出てきたクリスチャンは美貌のロクサアヌに一目ぼれをする。ロクサアヌもそんなクリスチャンに恋をしてしまいガスコン隊の上官である従兄弟のシラノへ彼の事を気にかけて欲しいと頼む。シラノは文武両道に秀でた心優しい優秀な男なのだが鼻がとてつもなく大きくて、それが人々の笑いものの種になっている、という人物。シラノもロクサアヌに恋をしていたのだが自分の大きな鼻に劣等感を抱いていたので、その想いを口する事が出来なかった。クリスチャンはシラノと初対面の時、鼻にかこつけた嫌味を散々言った挙句にシラノからロクサアヌの事を知らされると途端に自分は女性に対してとても口下手なのでシラノによろしくと頼る。シラノはクリスチャンの美しい容貌に自分の才能を併せてロクサアヌの心を射止めようと提案する。
ロクサアヌの館、クリスチャンはシラノの力を借りずに自分の言葉でロクサアヌの心を掴むのだと意気込んで語り始めるが、ストレートな言葉しか出なくてお話が下手だとロクサアヌは不機嫌になり家の中に入ってしまう。そこでバルコニーの上と下でシラノの言葉を口移しに話し出すとロクサアヌは忽ち反応するが上手くいかず、ついにシラノが自分の口で自分の心を語り始めてしまう。そしてついにロクサアヌとクリスチャンはキスにまでこぎ着けるが下で嫉妬に身を焼くシラノが哀れ!
ロクサアヌに思いを寄せているド・ギッシュが遣わした神父を欺き、立会い人にして結婚式を挙げてしまう。だが連隊長になったド・ギッシュは戦争に行かせるように仕向けてしまう。
2幕は戦場の場面から始まる。
兵隊達は皆飢えている。そんな戦場へロクサアヌは馬車一杯に食べ物を積んでクリスチャンに逢いに来た。実はシラノはクリスチャンから手紙を出すように頼まれていたのだが、実際はそれ以上、クリスチャンには内緒で毎日2回づつ手紙を送っていた。クリスチャンはロクサアヌがその手紙に惹かれて戦場に現われた事、そしてシラノもロクサアヌを愛している事を知り、シラノに心を打ち明けろと言いい2人きりにするが、その直後クリスチャンが撃たれて死んでしまう。シラノはもう自分の心を打ち明ける事は出来ないと嘆く。
14年経ちロクサアヌは喪に服して修道院に入っている。ロクサアヌにとってクリスチャンから送られてきた血と涙の滲んだ最後の手紙が唯一の支えになっているが、そんなロクサアヌを慰める為毎週土曜日にシラノが修道院を訪れている。
或る日シラノは襲われて重症を負うがそれでも修道院に現れた。クリスチャンの最後の手紙を声を出して読むが周りが暗くなって手紙が見えなくなっているのに滔々と手紙を読み上げるシラノを見て、ロクサアヌはシラノが実際の手紙の主だったのだ、と気付く。だがシラノは違いますと白を切りつづける。
母でさえ醜いと思った自分にもロクサアヌという女友達が出来て幸せだった!というシラノ・・・、だがこの後の語りが長かったなぁ?! 瀕死の重傷を負っているにしては長すぎたと思う。
文学座創立70周年記念公演に御大江守さんの登場だ?!(^^♪
この有名な『シラノ・ド・ベルジュラック』の舞台を観るのは初めてだが、文学座ではもう何度も公演が行われていたらしい。
江守さんも今回が2度目だそうだ。
江守さんの大きな鼻のメイクはスゴイ!全く江守さんとは判らない。
そして江守さんの台詞の量の多さに本当に驚いた! しかも普通に話す言葉ではなく候文(そうろうぶん)の堅苦しい言葉遣いで滔々とロクサアヌを賛美する言葉を並べていくのだが、声高らかに朗々と語るのはエネルギッシュな江守さんのお得意とする所だと思うけど、それにしてもよくもまぁ?あの膨大な台詞を覚えられたものだとほんとうに感心した。3時間を越える上演時間の間、殆ど出ずっぱり、喋りっぱなしのこの舞台は60歳を越えた江守さんにしてはとてもハードだっただろうと思う。ベージュの衣装はぐっしょりと汗に濡れ、兵庫の千秋楽の4日には声が少しかすれて聞こえた。でも可笑しくて切なくて哀しいシラノは江守さんの当たり役だなぁと思う。
クリスチャン役の浅野さん、田舎から出てきて口下手というコンプレックスは有るが、容姿端麗な美男子という設定だ(^^♪ 茶色く染め少しカールした髪が良く似合いとても素敵に見えた!肩から掛けたマントを翻す手つきも様になっていたし、カッコよかったよ!文学座の大先輩の江守さんの相手役として遜色のない出来栄えだったと思う。この舞台には文学座の男優さんが大勢出ているが、有能な俳優人の集まりの集団の中で江守さんの相手役に抜擢されるのは、やはり優秀なのだろうと思うし、それに応えられた浅野さんに拍手?!!
ロクサアヌの高橋礼恵さん、とっても綺麗で可愛らしかったが、このロクサアヌという女性は自分を賛美する言葉に酔っていただけじゃないの??クリスチャンでもシラノでも、美しい言葉で自分を讃えてくれれば誰でも良かったのではないかしら? ついそんな気がした(笑)
この舞台の背景の使い方で、シラノが扉を開けろーと命令すると黒い影で作られた扉が左右にサーーーッと開くとそこには市街地の様子が広がって居た、あの場面がとても印象的だった!
シラノ・ド・ベルジュラック